スリル13・針地獄
2013/06/13 Thu 00:02
ドン……ドン……
シャワーを終えた恵美は、洗面所の鏡に向かいながらアイラインを引いていた。
あの誰もが恐れる大磯が、あんなに小さなお爺ちゃんだったとは意外だった。それまで恵美が描いていた大磯は、三国志に出て来る暴君・董卓だった。あの弱々しいお爺ちゃんからは全く想像ができなかった。
それでもあのペニスは凄かった。あの獰猛な肉棒を思い出しながら恵美はポーチの中から口紅を摘んだ。そしてあの目。あの冷酷な目は只者ではない、と思いながら真っ赤な口紅を唇に滑らせたのだった。
ドン……ドン……
先ほどから聞こえて来る音が気になった。それは、上階で子供が飛び跳ねているような音だった。マンションではよく聞く音だったが、しかしこの客が誰もいない古びたラブホテルでは、その音は明らかに違和音だった。
胸にバスタオルを巻いた。しかし、思い直してバスタオルを剥ぎ取った。
獣のように犯されたい。
そう思った恵美は、全裸のままドアを開けた。
ドン……ドン……と鳴っていたその音が、いきなり鮮明に聞こえた。
見ると、全裸の老人がベッドの上でゴーゴーを踊っていた。
その痩せこけた老いた背中を見つめながら、何が何だかわからないまま後手でドアを閉めると、背後でドアがガチャっと鳴った。
その音に気付いた大磯がサッと振り返った。
大磯の顔は血まみれだった。そして、振り上げたままの拳も血で真っ赤に染まっていた。
その老人はゴーゴーを踊っていたのではなかった。
その老人は仰向けの沙織に馬乗りになりながら殴っていたのだった。
「この子は困った子です。どれだけ言ってもこの下手糞な演技をやめようとしないんです」
大磯は血飛沫が飛び散った頬を歪め、そう笑った。
沙織の顔は、既に原型がわからないほどに腫れ上がり、まるで『らんちゅう』と呼ばれる金魚のようになっていた。
潰れた鼻からは止めどなく鼻血が流れ、ズタズタに切れた唇からはドス黒い血がドクドクと溢れていた。
しかし、それでも沙織は、呻き声一つあげないまま天井の鏡をジッと見つめていた。あれだけ大きかった目は、腫れてほとんど塞がっていたが、それでもその奥に、身動き一つしない黒目がポツンとあるのが見えた。
「手伝って頂けますか?」
大磯はそう言いながら、突然ベッドの下から荒縄をズルズルと引きずり出した。
いつの間に隠していたのか、そのベッドの下には、おどろおどろしい拷問グッズが沢山押し込まれていたのだった。
命じられるまま、恵美は沙織の両手首に縄を巻いた。
大磯は、ブツブツと独り言を呟きながら、イルカのように美しい沙織の裸体に荒縄を巻き付け、その真っ白な肌に殺伐とした荒縄をギシギシと食い込ませた。
身動きできなくなった沙織を見て満足そうな笑みを浮かべると、突然大磯は黒皮のポーチの中から布団針を一本取り出した。
それは、一般家庭で普通に使われている縫い針よりも、長さも太さも倍ほどある物騒な針だった。
大磯はその針の先で沙織の太ももをチクチクと刺した。そしてパンパンに腫れ上がった沙織の顔を覗き込みながら「痛いですか?」と聞いた。
無反応の沙織にニヤリと微笑んだ大磯は、「それではここはどうですか?」と言いながら沙織の右足を持ち上げ、膝の真裏の柔らかい部分に針先をプスっ刺した。
それでも沙織は眉一つ動かさなかった。
「おかしいですね……ここは刺青でも最も痛い場所だと聞いたんですがね……」
大磯はそう首を傾げながらも、しかしどこか嬉しそうだった。
針をそこに突き刺したまま、再び大磯は黒革のポーチを弄ると、中から手の平サイズのスタンガンを取り出した。
ジジジジッ!
その音だけで恵美は震え上がった。それは小さいながらも、凄まじい勢いで青い電流を弾かせていた。
大磯はニヤニヤと笑いながら、膝の裏に突き刺した針にスタンガンの先をソッとあてた。そしてカサカサの唇をペロリと舌でなぞると、迷う事無く、そこにバチバチバチと音を立てたのだった。
沙織の足はビクンっと飛び跳ね、そのままベッドにドテッと落ちた。
それで沙織が悲鳴でも上げていれば、この状況は変わったかも知れないが、しかし沙織は鼻息一つ漏らさなかった。
「キミはどこまで頑固なんだ!」
いきなりそう叫ぶと、膝の裏に刺さったままの針の頭めがけ、まるで蚊を叩き殺すかのように、パン! と手の平で叩いた。
沙織の膝の裏には、あの太くて長い布団針が、根元まですっぽりと突き刺さっていた。それでも沙織は身動き一つしなかったのだった。
「これは、私に対する挑戦だね」
大磯は、まるで子供のように笑いながら、その巨大な肉棒を沙織の膣に押し付けた。
濡れていない膣にそれが入るわけがなかった。しかし、それでも大磯は強引にそれを突き刺し、そこをメリメリと無惨に引き裂いた。
そこから溢れるドス黒い血を潤滑油にしながら腰を振っていた大磯は、新たな布団針を摘まみ上げると、それをクリトリスに貫通させた。
それでも物足りないのか、沙織の真っ白な腹に五本もの布団針を突き刺し、それを一本一本順番に手の平で叩いていった。
それはまるで豆腐に針を突き刺しているようだった。針は、いとも簡単に沙織の腹の中にスポスポと消えていった。
このままでは沙織は死んでしまう。そう思った瞬間、恵美は失禁してしまった。
するとそれに気付いた大磯は大いに喜び、そのまま沙織の顔を跨ぎなさいと命令した。
逆らえば自分の腹にも針を埋め込まれると恐れた恵美は、水死体のようにブクブクに腫れた沙織の顔を恐る恐る跨ぐと、沙織の顔面にびしゃびしゃと尿を飛び散らせた。
顔面を覆っていた血が流れ落ち、その生々しい顔がみるみる現れて来た。
すると、不意に大磯の腰の動きがぴたりと止まった。
「ちっ」
大磯は、沙織の顔を見ながらそう舌打ちした。
そして再び腰を動かし始めると、沙織を跨いでいる恵美にニヤニヤと笑いかけながら、「もう死んじゃってますよこの子」と、残念そうに呟いた。
それでも大磯は、冷たくなった沙織の股で激しく腰を振っていた。そして「はっ! はっ!」とスタッカートな呼吸を始めると、突然奇怪な奇声をあげ、死体となった沙織の中に果てた。
大磯は「ふーっ……」と息を吐きながらヌポッと肉棒を抜いた。精液と血にまみれたそれをピクピクさせながら、「死ぬ寸前の膣は素晴らしいシマリなんですけどね……残念です、見逃してしまいました」と笑った。
大磯はゆっくりと立ち上がると、肉の塊となった沙織をドスドスと蹴り転がし、そのままベッドの下に落した。そしてしゃがんだままの恵美を突き飛ばし、ベッドに尻餅をついたままの恵美の股間に血まみれの肉棒を突き立てた。
亀頭まではヌルっと滑り込んだが、しかし、あまりにも太い肉棒は真ん中辺りで止まってしまった。
「痛いですか?」
そう耳元で囁く大磯の声に、激しいスリルを感じた恵美は、「奥まで入れて下さい!」と泣き叫んでいた。
それはまさに獣のセックスだった。恵美は何発も何発も顔面を殴打されながら、「もっと! もっと!」と喘いだ。
大磯はそんな恵美の太ももに布団針の先をチクチクと刺し、「コレも奥まで入れてあげましょうか?」と笑った。
その狂気の目に、失神しそうなほどのスリルに襲われた恵美は、無意識のうちに「殺して下さい! 私も殺して下さい!」と叫び、自ら腰を振っていいたのだった。
(つづく)
《←目次》《14話へ→》
シャワーを終えた恵美は、洗面所の鏡に向かいながらアイラインを引いていた。
あの誰もが恐れる大磯が、あんなに小さなお爺ちゃんだったとは意外だった。それまで恵美が描いていた大磯は、三国志に出て来る暴君・董卓だった。あの弱々しいお爺ちゃんからは全く想像ができなかった。
それでもあのペニスは凄かった。あの獰猛な肉棒を思い出しながら恵美はポーチの中から口紅を摘んだ。そしてあの目。あの冷酷な目は只者ではない、と思いながら真っ赤な口紅を唇に滑らせたのだった。
ドン……ドン……
先ほどから聞こえて来る音が気になった。それは、上階で子供が飛び跳ねているような音だった。マンションではよく聞く音だったが、しかしこの客が誰もいない古びたラブホテルでは、その音は明らかに違和音だった。
胸にバスタオルを巻いた。しかし、思い直してバスタオルを剥ぎ取った。
獣のように犯されたい。
そう思った恵美は、全裸のままドアを開けた。
ドン……ドン……と鳴っていたその音が、いきなり鮮明に聞こえた。
見ると、全裸の老人がベッドの上でゴーゴーを踊っていた。
その痩せこけた老いた背中を見つめながら、何が何だかわからないまま後手でドアを閉めると、背後でドアがガチャっと鳴った。
その音に気付いた大磯がサッと振り返った。
大磯の顔は血まみれだった。そして、振り上げたままの拳も血で真っ赤に染まっていた。
その老人はゴーゴーを踊っていたのではなかった。
その老人は仰向けの沙織に馬乗りになりながら殴っていたのだった。
「この子は困った子です。どれだけ言ってもこの下手糞な演技をやめようとしないんです」
大磯は血飛沫が飛び散った頬を歪め、そう笑った。
沙織の顔は、既に原型がわからないほどに腫れ上がり、まるで『らんちゅう』と呼ばれる金魚のようになっていた。
潰れた鼻からは止めどなく鼻血が流れ、ズタズタに切れた唇からはドス黒い血がドクドクと溢れていた。
しかし、それでも沙織は、呻き声一つあげないまま天井の鏡をジッと見つめていた。あれだけ大きかった目は、腫れてほとんど塞がっていたが、それでもその奥に、身動き一つしない黒目がポツンとあるのが見えた。
「手伝って頂けますか?」
大磯はそう言いながら、突然ベッドの下から荒縄をズルズルと引きずり出した。
いつの間に隠していたのか、そのベッドの下には、おどろおどろしい拷問グッズが沢山押し込まれていたのだった。
命じられるまま、恵美は沙織の両手首に縄を巻いた。
大磯は、ブツブツと独り言を呟きながら、イルカのように美しい沙織の裸体に荒縄を巻き付け、その真っ白な肌に殺伐とした荒縄をギシギシと食い込ませた。
身動きできなくなった沙織を見て満足そうな笑みを浮かべると、突然大磯は黒皮のポーチの中から布団針を一本取り出した。
それは、一般家庭で普通に使われている縫い針よりも、長さも太さも倍ほどある物騒な針だった。
大磯はその針の先で沙織の太ももをチクチクと刺した。そしてパンパンに腫れ上がった沙織の顔を覗き込みながら「痛いですか?」と聞いた。
無反応の沙織にニヤリと微笑んだ大磯は、「それではここはどうですか?」と言いながら沙織の右足を持ち上げ、膝の真裏の柔らかい部分に針先をプスっ刺した。
それでも沙織は眉一つ動かさなかった。
「おかしいですね……ここは刺青でも最も痛い場所だと聞いたんですがね……」
大磯はそう首を傾げながらも、しかしどこか嬉しそうだった。
針をそこに突き刺したまま、再び大磯は黒革のポーチを弄ると、中から手の平サイズのスタンガンを取り出した。
ジジジジッ!
その音だけで恵美は震え上がった。それは小さいながらも、凄まじい勢いで青い電流を弾かせていた。
大磯はニヤニヤと笑いながら、膝の裏に突き刺した針にスタンガンの先をソッとあてた。そしてカサカサの唇をペロリと舌でなぞると、迷う事無く、そこにバチバチバチと音を立てたのだった。
沙織の足はビクンっと飛び跳ね、そのままベッドにドテッと落ちた。
それで沙織が悲鳴でも上げていれば、この状況は変わったかも知れないが、しかし沙織は鼻息一つ漏らさなかった。
「キミはどこまで頑固なんだ!」
いきなりそう叫ぶと、膝の裏に刺さったままの針の頭めがけ、まるで蚊を叩き殺すかのように、パン! と手の平で叩いた。
沙織の膝の裏には、あの太くて長い布団針が、根元まですっぽりと突き刺さっていた。それでも沙織は身動き一つしなかったのだった。
「これは、私に対する挑戦だね」
大磯は、まるで子供のように笑いながら、その巨大な肉棒を沙織の膣に押し付けた。
濡れていない膣にそれが入るわけがなかった。しかし、それでも大磯は強引にそれを突き刺し、そこをメリメリと無惨に引き裂いた。
そこから溢れるドス黒い血を潤滑油にしながら腰を振っていた大磯は、新たな布団針を摘まみ上げると、それをクリトリスに貫通させた。
それでも物足りないのか、沙織の真っ白な腹に五本もの布団針を突き刺し、それを一本一本順番に手の平で叩いていった。
それはまるで豆腐に針を突き刺しているようだった。針は、いとも簡単に沙織の腹の中にスポスポと消えていった。
このままでは沙織は死んでしまう。そう思った瞬間、恵美は失禁してしまった。
するとそれに気付いた大磯は大いに喜び、そのまま沙織の顔を跨ぎなさいと命令した。
逆らえば自分の腹にも針を埋め込まれると恐れた恵美は、水死体のようにブクブクに腫れた沙織の顔を恐る恐る跨ぐと、沙織の顔面にびしゃびしゃと尿を飛び散らせた。
顔面を覆っていた血が流れ落ち、その生々しい顔がみるみる現れて来た。
すると、不意に大磯の腰の動きがぴたりと止まった。
「ちっ」
大磯は、沙織の顔を見ながらそう舌打ちした。
そして再び腰を動かし始めると、沙織を跨いでいる恵美にニヤニヤと笑いかけながら、「もう死んじゃってますよこの子」と、残念そうに呟いた。
それでも大磯は、冷たくなった沙織の股で激しく腰を振っていた。そして「はっ! はっ!」とスタッカートな呼吸を始めると、突然奇怪な奇声をあげ、死体となった沙織の中に果てた。
大磯は「ふーっ……」と息を吐きながらヌポッと肉棒を抜いた。精液と血にまみれたそれをピクピクさせながら、「死ぬ寸前の膣は素晴らしいシマリなんですけどね……残念です、見逃してしまいました」と笑った。
大磯はゆっくりと立ち上がると、肉の塊となった沙織をドスドスと蹴り転がし、そのままベッドの下に落した。そしてしゃがんだままの恵美を突き飛ばし、ベッドに尻餅をついたままの恵美の股間に血まみれの肉棒を突き立てた。
亀頭まではヌルっと滑り込んだが、しかし、あまりにも太い肉棒は真ん中辺りで止まってしまった。
「痛いですか?」
そう耳元で囁く大磯の声に、激しいスリルを感じた恵美は、「奥まで入れて下さい!」と泣き叫んでいた。
それはまさに獣のセックスだった。恵美は何発も何発も顔面を殴打されながら、「もっと! もっと!」と喘いだ。
大磯はそんな恵美の太ももに布団針の先をチクチクと刺し、「コレも奥まで入れてあげましょうか?」と笑った。
その狂気の目に、失神しそうなほどのスリルに襲われた恵美は、無意識のうちに「殺して下さい! 私も殺して下さい!」と叫び、自ら腰を振っていいたのだった。
(つづく)
《←目次》《14話へ→》
スリル14・回る切腹
2013/06/13 Thu 00:02
大磯は悪魔のように目を輝かせながら、広げた手の平を恵美の太ももに叩き付けた。パン! と乾いた音が鳴ると同時に六センチほどの布団針が根元まで叩き込まれ、まるで電流を流されたかのように右足がビンっと跳ね上がった。
こむら返りのような激痛が脳を貫いた。
大磯は正常位で激しく腰を振りながら、「ひぃーっ!」と全身を引き攣らせる恵美の中に三度目の射精をした。
さすがに六十五歳の老人には連続三回の射精は堪えたらしく、大磯はベッドにゴロリと倒れると胸をゼェゼェと鳴らしながら「少し休憩しましょう……」と呟いた。
大磯はゆっくりと起き上がると、ドロドロの肉棒をブラブラさせながらドアへと向かった。そして、「三十分ほど待ってて下さい。パワーを注入してきますから」と笑い、そのまま部屋を出て行ってしまった。
恵美は起き上がろうとするが、しかし、少しでも体を動かそうとすると全身の筋肉が引き攣り、太ももから脳にかけて激痛が走った。
その針を抜かなければ動けないと思い、恐る恐る太ももに指を伸ばした。
針の刺さった場所を指探りしていると、乾いた血がパサパサと剥がれた。親指大にポコンっと腫れた部分に針の頭を見つけ、そこに爪先を引っ掻けた。針が動く度に激痛が走ったが、それをゆっくりと引き抜くと、それまでの激痛が嘘のように消えた。
しかし、右足は痺れていた。ベッドから立とうとすると、太股が雑巾のように搾られるような鈍い痛みが走り、足の力が抜けた。
恵美は昭和の回転ベッドに腰掛けたまま、(逃げるなら今だ)と、下唇を噛んでいた。
しかし、もう一度あのスリルを感じたかった。ここで逃げなければ殺されてしまうとわかっていながらも、それでもあの巨大な肉棒で激しく膣をほじくられ、全身に針を叩き込まれたいと思っていた。
焦燥感に駆られながらゆっくりと立ち上がると、右足を引きずりながらドアに向かった。
逃げるなら今だ……と、何度も呟きながらドアを開け、静まり返った廊下を恐る恐る覗いた。
廊下に顔を出した瞬間、いきなり目が合った。
すぐ目の前に立っていた。
ハァハァと肩で息をしながら、血走った目で恵美を睨み、「この部屋だったのか」と低い声で呟いた。
そこに立っていたのは大磯ではなかった。狐のように引き攣った顔で恵美を睨んでいたのは、殺された沙織の父であり、サラマンドラの店長でもある原山だった。
原山は恵美を突き飛ばすと、「沙織はどこだ!」と怒鳴りながら部屋に入って来た。原山の左手にはポリタンクが握られ、右手には鋭く光る出刃包丁が握られていた。
誰もいない部屋を必死に見回しながら、「先生はどこだ!」と恵美に出刃包丁を突き付けた。顎をガクガクと震わせながら「さっき出て行きました」と答えると、原山は、今にも泣き出しそうな感情のこもった声で「沙織は!」と叫んだ。
恵美は血まみれの回転ベッドに振り返った。
すかさず原山は回転ベッドに駆け寄った。そしてベッドと壁の隙間に蹴り落されていた沙織の死体を発見すると、両手で顔を塞ぎながら「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」と断末魔のような悲鳴を上げたのだった。
原山は、目玉が飛び出そうなほどに目を開きながら沙織を見ていた。両手に持っていたポリタンクと包丁をボトっと床に落すと、震える両手を広げ、「あぁぁ! あぁぁ!」と甲高い声を漏らしながら崩れ落ちた。
愛する我が子の無惨な拷問死体を目の当たりにした原山は、もはや尋常ではなかった。この世のものとは思えぬ形相で下唇を噛み千切り、大量の血を顎から喉へとダラダラ垂らしながら狂犬のように唸っていた。
異常な原山を見て咄嗟に危険を察した恵美は、全裸のままそこから逃げ出そうとしドアノブを握った。すると、突然背後で原山が歌い出した。
「そーだ、恐れないでみーんなの為に、愛と勇気だけがとーもだちさー」
そんな歌声と共に、ビシャ、ビシャ、という音が聞こえてきた。恵美はドアノブを握ったまま振り返った、
原山は両手に持ったポリタンクを上下に振り、沙織の死体にガソリンらしき液体をかけていた。同じ歌詞ばかりを繰り返しながら、回転ベッドやカーテンにもそれを撒き散らし、挙げ句の果てには、まるでシャワーのようにして、自分の頭にそれをぶっかけていた。
部屋中に危ない匂いがメラメラと漂い始めた。
原山は、空になったポリタンクを放り投げると、出刃包丁を片手にガソリンで湿ったベッドの上に飛び乗った。そして枕元にあるスイッチ盤を出刃包丁の柄でガンガンと叩き始めた。
ガタンっという振動と共に回転ベッドが回り始め、天井の豆電球がチカチカと点滅し始めた。それと同時に有線のスイッチが入ったのか、天井に吊り下げられていた古びたスピーカーから大音量の曲が鳴り響いた。
その曲は、ちあきなおみの『喝采』という、かなり古い歌謡曲だった。曲に合わせてベッドで正座する原山が回っていた。
原山はワイシャツのボタンを引き千切ると、タプタプに弛んだ腹を曝け出し、そこに出刃包丁の先を突き付けた。
とたんに原山の喉から「ひぃーひぃー」と猛禽類のような情けない声が漏れた。が、しかし、原山はいきなりギョッと目を見開くと、刃先を左の脇腹に突き刺した。
音も無いまま包丁は腹の中に滑り込んだ。原山は唇を真一文字に結びながら「うぐぅぅぅ」と唸り、そのまま一気に右の脇腹までかっ捌いた。
まるで水風船を踏み潰したかのように大量の血がブッと噴き出した。それが無数の点となって、辺り一面に赤い水玉模様を作った。
腹は見事にパックリと開いていた。赤黒い腹の中からゴボゴボと内臓が零れ、それが正座する原山の太ももに溢れた。
一瞬、正気に戻ったのか、原山は「あぁぁ……」と唸りながら恵美の顔を見上げた。その情けない表情には、やらなきゃ良かった、という後悔がはっきりと浮かんでいた。
恵美の顔を見つめたまま、無言で涙をポロポロと流している原山に、恵美は「火!」と叫び、正座する原山の足下に転がっている百円ライターを指差した。
それはいわゆる『介錯』の意味が込められていた。恵美は、一刻も早く原山を楽にしてやりたいと思ったのだ。
原山は二度頷くと、震える手で百円ライターを握った。しかし、それを何度か擦るが、血で滑っているのかなかなか火はつかなかった。
そうしながらも原山は、いきなりゴボッとゲロを吐いた。血が混じったそのゲロの中には、お昼に待機所で食べた『サッポロ一番塩ラーメン』の麺が、消化されずに混じっていた。
それを見ながら恵美は、あのとき原山は、まさかそれが最後の食事になるとは思ってもいなかっただろうと思った。
そう思うと、恵美は急に悲しくなった。わんわんと泣きながら、ソファーテーブルの灰皿の中にポツンと置いてあったラブホテルのマッチを手に取り、その一本をシュッと擦った。
回転ベッドはクルクルと回っていた。
内臓を飛び出した原山もクルクルと回っていた。
火のついたマッチを回転ベッドに向かって投げると、同時に、ドン! という音が響き、重たい熱風が恵美を包み込んだ。
真っ黒な煙が竜巻のような渦を作り、みるみる天井を真っ暗にしていった。
真っ赤に燃え盛る炎の中、クルクルと回る回転ベッドの上で原山が悲しそうに踊っていた。
そんな壮絶なシーンとは不釣り合いに、ちあきなおみが熱唱していた。
あれは三年前、止める、あなた、駅に残し。
その悲しい歌声は、黒煙に包まれながら天井の隅で響いていたのだった。
(つづく)
《←目次》《15話へ→》
こむら返りのような激痛が脳を貫いた。
大磯は正常位で激しく腰を振りながら、「ひぃーっ!」と全身を引き攣らせる恵美の中に三度目の射精をした。
さすがに六十五歳の老人には連続三回の射精は堪えたらしく、大磯はベッドにゴロリと倒れると胸をゼェゼェと鳴らしながら「少し休憩しましょう……」と呟いた。
大磯はゆっくりと起き上がると、ドロドロの肉棒をブラブラさせながらドアへと向かった。そして、「三十分ほど待ってて下さい。パワーを注入してきますから」と笑い、そのまま部屋を出て行ってしまった。
恵美は起き上がろうとするが、しかし、少しでも体を動かそうとすると全身の筋肉が引き攣り、太ももから脳にかけて激痛が走った。
その針を抜かなければ動けないと思い、恐る恐る太ももに指を伸ばした。
針の刺さった場所を指探りしていると、乾いた血がパサパサと剥がれた。親指大にポコンっと腫れた部分に針の頭を見つけ、そこに爪先を引っ掻けた。針が動く度に激痛が走ったが、それをゆっくりと引き抜くと、それまでの激痛が嘘のように消えた。
しかし、右足は痺れていた。ベッドから立とうとすると、太股が雑巾のように搾られるような鈍い痛みが走り、足の力が抜けた。
恵美は昭和の回転ベッドに腰掛けたまま、(逃げるなら今だ)と、下唇を噛んでいた。
しかし、もう一度あのスリルを感じたかった。ここで逃げなければ殺されてしまうとわかっていながらも、それでもあの巨大な肉棒で激しく膣をほじくられ、全身に針を叩き込まれたいと思っていた。
焦燥感に駆られながらゆっくりと立ち上がると、右足を引きずりながらドアに向かった。
逃げるなら今だ……と、何度も呟きながらドアを開け、静まり返った廊下を恐る恐る覗いた。
廊下に顔を出した瞬間、いきなり目が合った。
すぐ目の前に立っていた。
ハァハァと肩で息をしながら、血走った目で恵美を睨み、「この部屋だったのか」と低い声で呟いた。
そこに立っていたのは大磯ではなかった。狐のように引き攣った顔で恵美を睨んでいたのは、殺された沙織の父であり、サラマンドラの店長でもある原山だった。
原山は恵美を突き飛ばすと、「沙織はどこだ!」と怒鳴りながら部屋に入って来た。原山の左手にはポリタンクが握られ、右手には鋭く光る出刃包丁が握られていた。
誰もいない部屋を必死に見回しながら、「先生はどこだ!」と恵美に出刃包丁を突き付けた。顎をガクガクと震わせながら「さっき出て行きました」と答えると、原山は、今にも泣き出しそうな感情のこもった声で「沙織は!」と叫んだ。
恵美は血まみれの回転ベッドに振り返った。
すかさず原山は回転ベッドに駆け寄った。そしてベッドと壁の隙間に蹴り落されていた沙織の死体を発見すると、両手で顔を塞ぎながら「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」と断末魔のような悲鳴を上げたのだった。
原山は、目玉が飛び出そうなほどに目を開きながら沙織を見ていた。両手に持っていたポリタンクと包丁をボトっと床に落すと、震える両手を広げ、「あぁぁ! あぁぁ!」と甲高い声を漏らしながら崩れ落ちた。
愛する我が子の無惨な拷問死体を目の当たりにした原山は、もはや尋常ではなかった。この世のものとは思えぬ形相で下唇を噛み千切り、大量の血を顎から喉へとダラダラ垂らしながら狂犬のように唸っていた。
異常な原山を見て咄嗟に危険を察した恵美は、全裸のままそこから逃げ出そうとしドアノブを握った。すると、突然背後で原山が歌い出した。
「そーだ、恐れないでみーんなの為に、愛と勇気だけがとーもだちさー」
そんな歌声と共に、ビシャ、ビシャ、という音が聞こえてきた。恵美はドアノブを握ったまま振り返った、
原山は両手に持ったポリタンクを上下に振り、沙織の死体にガソリンらしき液体をかけていた。同じ歌詞ばかりを繰り返しながら、回転ベッドやカーテンにもそれを撒き散らし、挙げ句の果てには、まるでシャワーのようにして、自分の頭にそれをぶっかけていた。
部屋中に危ない匂いがメラメラと漂い始めた。
原山は、空になったポリタンクを放り投げると、出刃包丁を片手にガソリンで湿ったベッドの上に飛び乗った。そして枕元にあるスイッチ盤を出刃包丁の柄でガンガンと叩き始めた。
ガタンっという振動と共に回転ベッドが回り始め、天井の豆電球がチカチカと点滅し始めた。それと同時に有線のスイッチが入ったのか、天井に吊り下げられていた古びたスピーカーから大音量の曲が鳴り響いた。
その曲は、ちあきなおみの『喝采』という、かなり古い歌謡曲だった。曲に合わせてベッドで正座する原山が回っていた。
原山はワイシャツのボタンを引き千切ると、タプタプに弛んだ腹を曝け出し、そこに出刃包丁の先を突き付けた。
とたんに原山の喉から「ひぃーひぃー」と猛禽類のような情けない声が漏れた。が、しかし、原山はいきなりギョッと目を見開くと、刃先を左の脇腹に突き刺した。
音も無いまま包丁は腹の中に滑り込んだ。原山は唇を真一文字に結びながら「うぐぅぅぅ」と唸り、そのまま一気に右の脇腹までかっ捌いた。
まるで水風船を踏み潰したかのように大量の血がブッと噴き出した。それが無数の点となって、辺り一面に赤い水玉模様を作った。
腹は見事にパックリと開いていた。赤黒い腹の中からゴボゴボと内臓が零れ、それが正座する原山の太ももに溢れた。
一瞬、正気に戻ったのか、原山は「あぁぁ……」と唸りながら恵美の顔を見上げた。その情けない表情には、やらなきゃ良かった、という後悔がはっきりと浮かんでいた。
恵美の顔を見つめたまま、無言で涙をポロポロと流している原山に、恵美は「火!」と叫び、正座する原山の足下に転がっている百円ライターを指差した。
それはいわゆる『介錯』の意味が込められていた。恵美は、一刻も早く原山を楽にしてやりたいと思ったのだ。
原山は二度頷くと、震える手で百円ライターを握った。しかし、それを何度か擦るが、血で滑っているのかなかなか火はつかなかった。
そうしながらも原山は、いきなりゴボッとゲロを吐いた。血が混じったそのゲロの中には、お昼に待機所で食べた『サッポロ一番塩ラーメン』の麺が、消化されずに混じっていた。
それを見ながら恵美は、あのとき原山は、まさかそれが最後の食事になるとは思ってもいなかっただろうと思った。
そう思うと、恵美は急に悲しくなった。わんわんと泣きながら、ソファーテーブルの灰皿の中にポツンと置いてあったラブホテルのマッチを手に取り、その一本をシュッと擦った。
回転ベッドはクルクルと回っていた。
内臓を飛び出した原山もクルクルと回っていた。
火のついたマッチを回転ベッドに向かって投げると、同時に、ドン! という音が響き、重たい熱風が恵美を包み込んだ。
真っ黒な煙が竜巻のような渦を作り、みるみる天井を真っ暗にしていった。
真っ赤に燃え盛る炎の中、クルクルと回る回転ベッドの上で原山が悲しそうに踊っていた。
そんな壮絶なシーンとは不釣り合いに、ちあきなおみが熱唱していた。
あれは三年前、止める、あなた、駅に残し。
その悲しい歌声は、黒煙に包まれながら天井の隅で響いていたのだった。
(つづく)
《←目次》《15話へ→》
スリル15・取調室
2013/06/13 Thu 00:02
「どうせ死刑なんだからさ、もうどうなってもいいじゃないか……ほら、もっと足開いて……」
煙草臭い息が恵美の頬を掠めた。それは貪よりと生温かく、まるで蛇が這っているかのように薄気味悪かった。
「あららら、もうこんなに濡れてるじゃん。ほら、ちょっと触っただけでも指がヌルヌルと吸い込まれていくよ……」
ヌメった壷の中に潜り込んだ男の指は、まるで捕獲されたウナギのようにうねうねと動き始めた。
恵美は小さく唇を開いた。そこからほんの少しだけ息を漏らしながら、目の前に広げられた三日前の朝刊を何度も何度も読み返していたのだった。
—————————————————————————————————
8日午後4時30分頃、浦川町にあるラブホテル『エリザベス浦川』が全焼し、焼け跡から二人の男女の惨殺死体が発見された事件で、三ツ和警察署は、現場にいた女を現住建造物放火と殺人の疑いで逮捕した。
逮捕されたのは、八隅町に住む無店舗型風俗店『サラマンドラ』従業員、加藤恵美容疑者(25)で、三ツ和警察署によると、加藤容疑者は現場近くの路上で全裸で踞っており、保護しようとした消防署員に対し、「私が火をつけました、私が二人を殺しました」と容疑を認めたため、駆けつけた警察官に逮捕された。
焼死体で発見された二人の男女には、それぞれ拷問をされたような痕が残っており、損傷が激しい事からまだ身元はわかっていないが、調べに対し加藤容疑者は、殺害した二人は全く知らない人などと答えており、動機についても「今は何も話したくない」と黙秘していると言う。
このラブホテルは、昭和62年にも風俗嬢が変質者に殺害されるという猟奇事件が起きており、犯人が特定されないまま平成24年に捜査が打ち切られていた。
—————————————————————————————————
恵美は、今までとは全く違う新たなスリルに脳を痺れさせていた。
放火殺人。しかも二名を拷問の上、殺害。
昨夜遅くに面会にやって来た当番弁護士は、眠そうな目を擦りながら「罪を認めたら確実に死刑ですね」と呟き、大型犬のような大きなあくびをした。
死刑。
そのシーンを想像しただけで恵美のクリトリスがジンジンと疼いた。
法廷で死刑を宣告される自分。拘置所で刑務官の足音に脅えながら執行を待つ自分。そして、目隠しされ首に真っ白なロープを巻いたまま、いつ足下の床がバッタンと開くかと震えている自分。その、どの自分を想像してみても凄まじいスリルに襲われ、恵美は今までにない異常な興奮に包まれた。
そんな恵美の異常興奮をいち早く見破ったのは、五十半ばのベテラン刑事だった。
逮捕直後から完全黙秘している恵美は、薄暗い取調室で、一日中ジッと項垂れたままだった。そんな恵美を取り調べていた刑事は、最初のうちは自供させようと必死になっていたが、しかし、二日目の検事調べが終わり、十日間の勾留が決まると急に態度をがらりと変えた。
「あんたが働いてたデリヘル、変態専門らしいね」
そう苦笑いを浮かべる刑事の表情には、それまでの必死さは消え去り、どこか余裕の太々しさが浮かんでいた。
「あんたほどの美人だったら、普通のデリでも雇ってくれるでしょ」
刑事はそう笑いながら事務椅子をゆっくりと立ち上がると、その事務椅子を、恵美が座るパイプ椅子の真横に並べた。
恵美が座るパイプ椅子は床にビス止めされていた。椅子のパイプ部分には、恵美の腰にぶら下がっている手錠の青い紐がぐるぐると巻き付けられ、恵美は立ち上がる事すらできなくなっていた。
そんな拘束状態の中、刑事は、「やっぱ、あんたも変態かね……」と囁き、恵美の太ももを摩り始めた。
恵美が黙ったままでいると、刑事の手はジャージのゴムの中に潜り込み、下着の上から股間をスリスリと撫で始めた。
そのジャージは留置場から借りた『官物』だった。逮捕当時、恵美は全裸だったため、下着もジャージもタオルも歯ブラシも、全て官物を借りていた。
刑事は、横目で恵美の表情をジッと確認しながら、もう片方の手でペニスを摘まみ出し、その真っ赤に腫れ上がった亀頭を恵美の右腕にスリスリと擦り付けて来た。
「あんた、二人も殺しちゃってるんだから、もう二度とコレに触れなくなるかも知れないよ……」
そう話す刑事の股間を、恵美は乾いた喉にゴクリと唾を押し込みながらソッと横目で見た。
その真っ赤な亀頭から見て、明らかに仮性包茎だった。パンパンにエラを張ったカリ首の裏には、できそこないの素麺のような白い恥垢がグルリと巻き付き、ベロリと剥かれた皮の裏側は、汗と小便の残り汁が混ざった汁でギトギトに濡れ輝いていた。
恵美は無意識のうちに上半身を右側に傾けた。すると刑事は、嬉しそうにニヤリと笑いながら、そんな恵美の後頭部にそっと手をあて、そのまま恵美の顔を自分の股間に押し付けたのだった。
そのヌルヌルとする臭汁が唇に触れた瞬間、おもわず恵美は「うっ」と眉間を顰めてしまった。
しかし、それでも恵美はそこに舌を絡ませ、恥垢が溜まったカリ首に舌を回転させながらそれを優しく銜え込んだ。
そのまま、二、三度、顔を上下させると、早くも刑事は「ダメダメ」と呟いた。そして、股間から恵美の顔をゆっくりと離しながら、「さすが変態専門のプロだけあるね、もう出ちゃいそうだよ」と笑うと、恵美の肩を優しく抱きながら、「どうせ死刑なんだからさ……」と囁いたのだった。
刑事の煙草臭い息が頬を掠めた。
言われるがままに股を開くと、刑事の指はすぐさまクロッチを掻き分け、既にヌルヌルになっている恵美の陰部を捕らえた。
刑事は、目をギラギラさせながら「もうこんなに濡れてるじゃん……」と喜んだ。刑事の手が潜り込んだジャージの股間は歪に膨らみ、まるで小動物が潜んでいるかのようにモゾモゾと蠢いていた。
刑事は、穴の中を指で滅茶苦茶に掻き回しながら、「こんな綺麗な女を、死刑にしてしまうのは勿体ないねぇ」と呟き、静まり返った取調室に、くっちゃ、くっちゃ、と卑猥な音を立てた。
恵美は、そんな野蛮な愛撫に膣筋をキュンキュンとさせながらも、机の上に広げられていた三日前の朝刊を見つめていた。その記事に書かれている、『昭和62年にも風俗嬢が変質者に殺害されるという猟奇事件が起きており、犯人が特定されないまま——』という部分を、何度も読み返しながら、ふと、あの悪魔のような大磯の笑顔を思い出していた。
恵美は横目でソッと刑事を見た。
「昭和62年にあのホテルで起きた事件の犯人は……わかっていないんですか……」
そう聞くと、刑事は初めて喋った恵美に驚きながらも、「ふっ」っと鼻で笑った。
「犯人は、最初からわかってたさ……わざと二十五年間寝かせて時効にしたんだよ……」
「どうして?」
恵美が振り返ると、刑事は恵美の顔を真正面から見つめながら、「綺麗な目だな」と優しく笑った。
刑事は穴からヌルっと指を抜くと、そのドロドロに濡れた指でパイプ椅子に巻き付けられた手錠の紐を緩め始めた。そして、そこに恵美を立たせ、「取りあえず、中出しさせてよ」と、ジャージを足首まで下ろすと、既にダラリと口を開いている穴に亀頭を突き付けた。
コリコリと硬い肉棒が、ヌルヌルの筒の中にツルンっと滑り込んで来た。
机に両手を付いたまま「あんっ」と腰を撓らせると、刑事はハァハァと呻きながら耳元に囁いた。
「あの化け物をパクれない事くらい、あんたが一番よく知ってるだろ」
その瞬間、恵美の頭に、大磯のあの狂気に満ちた目が、鮮明に浮かんだのだった。
(つづく)
《←目次》《16話へ→》
煙草臭い息が恵美の頬を掠めた。それは貪よりと生温かく、まるで蛇が這っているかのように薄気味悪かった。
「あららら、もうこんなに濡れてるじゃん。ほら、ちょっと触っただけでも指がヌルヌルと吸い込まれていくよ……」
ヌメった壷の中に潜り込んだ男の指は、まるで捕獲されたウナギのようにうねうねと動き始めた。
恵美は小さく唇を開いた。そこからほんの少しだけ息を漏らしながら、目の前に広げられた三日前の朝刊を何度も何度も読み返していたのだった。
—————————————————————————————————
8日午後4時30分頃、浦川町にあるラブホテル『エリザベス浦川』が全焼し、焼け跡から二人の男女の惨殺死体が発見された事件で、三ツ和警察署は、現場にいた女を現住建造物放火と殺人の疑いで逮捕した。
逮捕されたのは、八隅町に住む無店舗型風俗店『サラマンドラ』従業員、加藤恵美容疑者(25)で、三ツ和警察署によると、加藤容疑者は現場近くの路上で全裸で踞っており、保護しようとした消防署員に対し、「私が火をつけました、私が二人を殺しました」と容疑を認めたため、駆けつけた警察官に逮捕された。
焼死体で発見された二人の男女には、それぞれ拷問をされたような痕が残っており、損傷が激しい事からまだ身元はわかっていないが、調べに対し加藤容疑者は、殺害した二人は全く知らない人などと答えており、動機についても「今は何も話したくない」と黙秘していると言う。
このラブホテルは、昭和62年にも風俗嬢が変質者に殺害されるという猟奇事件が起きており、犯人が特定されないまま平成24年に捜査が打ち切られていた。
—————————————————————————————————
恵美は、今までとは全く違う新たなスリルに脳を痺れさせていた。
放火殺人。しかも二名を拷問の上、殺害。
昨夜遅くに面会にやって来た当番弁護士は、眠そうな目を擦りながら「罪を認めたら確実に死刑ですね」と呟き、大型犬のような大きなあくびをした。
死刑。
そのシーンを想像しただけで恵美のクリトリスがジンジンと疼いた。
法廷で死刑を宣告される自分。拘置所で刑務官の足音に脅えながら執行を待つ自分。そして、目隠しされ首に真っ白なロープを巻いたまま、いつ足下の床がバッタンと開くかと震えている自分。その、どの自分を想像してみても凄まじいスリルに襲われ、恵美は今までにない異常な興奮に包まれた。
そんな恵美の異常興奮をいち早く見破ったのは、五十半ばのベテラン刑事だった。
逮捕直後から完全黙秘している恵美は、薄暗い取調室で、一日中ジッと項垂れたままだった。そんな恵美を取り調べていた刑事は、最初のうちは自供させようと必死になっていたが、しかし、二日目の検事調べが終わり、十日間の勾留が決まると急に態度をがらりと変えた。
「あんたが働いてたデリヘル、変態専門らしいね」
そう苦笑いを浮かべる刑事の表情には、それまでの必死さは消え去り、どこか余裕の太々しさが浮かんでいた。
「あんたほどの美人だったら、普通のデリでも雇ってくれるでしょ」
刑事はそう笑いながら事務椅子をゆっくりと立ち上がると、その事務椅子を、恵美が座るパイプ椅子の真横に並べた。
恵美が座るパイプ椅子は床にビス止めされていた。椅子のパイプ部分には、恵美の腰にぶら下がっている手錠の青い紐がぐるぐると巻き付けられ、恵美は立ち上がる事すらできなくなっていた。
そんな拘束状態の中、刑事は、「やっぱ、あんたも変態かね……」と囁き、恵美の太ももを摩り始めた。
恵美が黙ったままでいると、刑事の手はジャージのゴムの中に潜り込み、下着の上から股間をスリスリと撫で始めた。
そのジャージは留置場から借りた『官物』だった。逮捕当時、恵美は全裸だったため、下着もジャージもタオルも歯ブラシも、全て官物を借りていた。
刑事は、横目で恵美の表情をジッと確認しながら、もう片方の手でペニスを摘まみ出し、その真っ赤に腫れ上がった亀頭を恵美の右腕にスリスリと擦り付けて来た。
「あんた、二人も殺しちゃってるんだから、もう二度とコレに触れなくなるかも知れないよ……」
そう話す刑事の股間を、恵美は乾いた喉にゴクリと唾を押し込みながらソッと横目で見た。
その真っ赤な亀頭から見て、明らかに仮性包茎だった。パンパンにエラを張ったカリ首の裏には、できそこないの素麺のような白い恥垢がグルリと巻き付き、ベロリと剥かれた皮の裏側は、汗と小便の残り汁が混ざった汁でギトギトに濡れ輝いていた。
恵美は無意識のうちに上半身を右側に傾けた。すると刑事は、嬉しそうにニヤリと笑いながら、そんな恵美の後頭部にそっと手をあて、そのまま恵美の顔を自分の股間に押し付けたのだった。
そのヌルヌルとする臭汁が唇に触れた瞬間、おもわず恵美は「うっ」と眉間を顰めてしまった。
しかし、それでも恵美はそこに舌を絡ませ、恥垢が溜まったカリ首に舌を回転させながらそれを優しく銜え込んだ。
そのまま、二、三度、顔を上下させると、早くも刑事は「ダメダメ」と呟いた。そして、股間から恵美の顔をゆっくりと離しながら、「さすが変態専門のプロだけあるね、もう出ちゃいそうだよ」と笑うと、恵美の肩を優しく抱きながら、「どうせ死刑なんだからさ……」と囁いたのだった。
刑事の煙草臭い息が頬を掠めた。
言われるがままに股を開くと、刑事の指はすぐさまクロッチを掻き分け、既にヌルヌルになっている恵美の陰部を捕らえた。
刑事は、目をギラギラさせながら「もうこんなに濡れてるじゃん……」と喜んだ。刑事の手が潜り込んだジャージの股間は歪に膨らみ、まるで小動物が潜んでいるかのようにモゾモゾと蠢いていた。
刑事は、穴の中を指で滅茶苦茶に掻き回しながら、「こんな綺麗な女を、死刑にしてしまうのは勿体ないねぇ」と呟き、静まり返った取調室に、くっちゃ、くっちゃ、と卑猥な音を立てた。
恵美は、そんな野蛮な愛撫に膣筋をキュンキュンとさせながらも、机の上に広げられていた三日前の朝刊を見つめていた。その記事に書かれている、『昭和62年にも風俗嬢が変質者に殺害されるという猟奇事件が起きており、犯人が特定されないまま——』という部分を、何度も読み返しながら、ふと、あの悪魔のような大磯の笑顔を思い出していた。
恵美は横目でソッと刑事を見た。
「昭和62年にあのホテルで起きた事件の犯人は……わかっていないんですか……」
そう聞くと、刑事は初めて喋った恵美に驚きながらも、「ふっ」っと鼻で笑った。
「犯人は、最初からわかってたさ……わざと二十五年間寝かせて時効にしたんだよ……」
「どうして?」
恵美が振り返ると、刑事は恵美の顔を真正面から見つめながら、「綺麗な目だな」と優しく笑った。
刑事は穴からヌルっと指を抜くと、そのドロドロに濡れた指でパイプ椅子に巻き付けられた手錠の紐を緩め始めた。そして、そこに恵美を立たせ、「取りあえず、中出しさせてよ」と、ジャージを足首まで下ろすと、既にダラリと口を開いている穴に亀頭を突き付けた。
コリコリと硬い肉棒が、ヌルヌルの筒の中にツルンっと滑り込んで来た。
机に両手を付いたまま「あんっ」と腰を撓らせると、刑事はハァハァと呻きながら耳元に囁いた。
「あの化け物をパクれない事くらい、あんたが一番よく知ってるだろ」
その瞬間、恵美の頭に、大磯のあの狂気に満ちた目が、鮮明に浮かんだのだった。
(つづく)
《←目次》《16話へ→》
スリル16・猥褻監獄
2013/06/13 Thu 00:02
留置場の真っ黒な鉄格子のドアには、頑丈な菱形の鉄網が張られ、ドアの下部には被疑者のプライバシーを守るための乳白半透明のアクリル板が張られていた。
しかし、恵美が入れられている部屋には、その乳白半透明のアクリル板が付いていなかった。しかもトイレには囲いが無く、床に和式便器が埋め込まれ、剥き出しにされていた。
そこは保護房と呼ばれる特別室だった。俗に『トラ箱』と呼ばれており、主に泥酔者や暴れる者たちを隔離する為の部屋だった。
なぜ恵美がそんな部屋に入れられたのかというと、この老朽化した小さな警察署には、女区と呼ばれる女性専用の留置場が設備されていなかったからだった。
この警察署では、女性や少年が逮捕された場合、成人男性被疑者と隔離する為にひとまずこのトラ箱に入れられると決まっていた。そして、送検後すぐに拘置所の女区に移監されるのだが、しかし恵美の場合は違っていた。
それは、恵美の事件が、二名を殺害した放火殺人という重罪であり、まして、完全黙秘をして取り調べには一切応じようとしていないからであり、だから送検後も、恵美はこの劣悪なトラ箱に入れられたまま、取り調べを続けられていたのだ。
しかし、そんな酷い扱いを受けても、恵美は全く堪えていなかった。むしろ、この家畜のような生活に異様なスリルを覚え、愉しんでいるようでもあった。
そんな恵美を監視するのは婦人警官だった。しかし五時を過ぎると婦人警官はさっさと帰ってしまい、それ以降の恵美の監視は当直の男性看守に引き継がれた。
この警察署は、留置場の規模が小さいという事から、当直勤務の看守は二人だった。一人は常に監視台にいたが、一人は当直室で仮眠を取っており、九時の消灯時間から六時間後に交代していた。
そんな当直勤務の看守の中に、常に顔色の悪い二十代の弱々しい青年がいた。彼はいつも先輩看守のパシリに使われ、時には、先輩達から叩かれたり蹴飛ばされたりするといったイジメを受けていた。
いかにもメンタル面の弱そうな彼は、先輩看守達に何をされても我慢していたが、しかしその裏では、その捌け口を留置場の中の被疑者に向けていた。
と言っても、気の弱い彼は、強面な粗暴犯や暴力団員は避け、ホームレスや老人や知的障害者といった被疑者ばかりを狙った。そんな弱者にだけ陰湿な意地悪を繰り返していたのだった。
そんな彼にとって、隔離部屋に閉じ込められている恵美は最高の捌け口だった。恵美は、重罪事件を起こしていながらも完全黙秘しているという、いわゆる警察の敵なのである。
だから彼は、そんな恵美を虐める事は『正義』であると信じ込んでいた。害鳥駆除という大義名分のもとに鳩を虐待する異常者のように、彼は恵美を虐待する事を勝手に正当化していたのだった。
恵美は、これまでに何度も彼にお茶をかけられていた。お茶や弁当は、鉄格子の隅の食器孔と呼ばれる小さな扉から出し入れされるのだが、彼は、いつもそこからお茶を手渡す際、わざと紙コップを傾けては、恵美の手に熱いお茶をかけていた。
しかもそのお茶は、異様なアンモニア臭が漂っていた。紙コップの縁にはいつもビールの泡のようなものが溜まっており、明らかに小便が混入されているとわかった。
しかし、それでも恵美は、毎回お茶をかけられる事に文句一つ言わず、その小便入りのお茶も黙って全部飲み干した。
そんな恵美をロッカーの影からソッと覗き見するのが、唯一彼の、先輩看守達から受けるストレスの捌け口となっていたのだった。
しかしそれは、ある事が切っ掛けで角度を変えた。ある時を境に彼は、恵美をストレスの捌け口とするのではなく、性欲の捌け口へと変えるようになったのだ。
それは、恵美がこのトラ箱で生活するようになって四日目の夜だった。
その晩、恵美は、いつも二十分おきに巡視する彼の足音に耳を傾けていた。その足音が聞こえたらすぐに実行できるよう、既に布団の中でジャージのズボンと下着を脱いでいた。
饐えた臭いのする布団に包まりながら恵美は震えていた。その瞬間を想像すると激しい恐怖に襲われたが、その一方で膣の奥からいやらしい汁がジワジワと溢れて来た。
暫くすると、スニーカーのゴムがキュッキュッと擦れる足音が聞こえて来た。それはみるみる恵美の部屋へと近付き、そのまま何事も無く普通に通り過ぎて行ってしまった。
恵美はまだ実行に移さなかった。実行するのは、彼が正面通路ではなく裏通路を通過する時だと決めていた。
その裏通路というのは、部屋の奥の格子窓の向こう側にある通路だった。
つまり、部屋が縦長である事から、正面と裏から監視できるようになっていたのだ。
彼のスニーカーが、正面通路の突き当たりをキュッと回る音が聞こえた。それと同時に恵美は布団から抜け出し、下半身を剥き出したまま、奥の鉄格子の窓へと向かった。
その窓にはガラスは無く、鉄格子が嵌め込まれているだけだった。部屋の通気を考えてか、その鉄格子は縦スリット窓のように床まで伸びていた。
そんな鉄格子のすぐ前には和式便器があった。一般の房では便器は壁で囲まれ、何の変哲も無い普通のトイレだったが、しかしこのトラ箱だけは、和式便器が剥き出しにされていた。恵美の場合、女性という事で、便器の横に一メートルほどの仕切り板が置かれていたが、しかし、それはあくまでも正面通路から目隠しされているだけであり、裏通路からは、便器の底の汚物までもが丸見えになってしまうのだった。
そんな人権を無視した和式便器に、下半身裸の恵美は素早くしゃがんだ。おもいきり足を開き、黒々とした股間を突き出し、息を潜めた。
薄暗い裏通路の奥からキュッキュッと響くゴム音が近付いて来た。そしてそれは、恵美の目論み通り、便器にしゃがむ恵美の真横でピタっと止まった。
鉄格子の向こう側に安物のスニーカーが見えた。それを確認するなり恵美は一気に放尿した。
黄ばんだ便器にビシャビシャと尿が飛び散った。それと同時に、項垂れていた恵美の視界からスニーカーがソッと消えた。
格子の向こうを横目で見ると、通路の床に伏せながら恵美の股間を覗いている彼の姿が見え、背筋にゾゾっと寒気が走った。
放尿が終わると、尿がポタポタと垂れる陰部に指を這わせた。指で割れ目を開き、膣筋に力を入れてその内部を剥き出しにすると、中に溜まっていた透明の液体が、ニトッ……と糸を引いて便器の底に垂れた。
鉄格子の向こう側からギラギラする視線を感じながら、恵美はその赤く輝く毒々しい穴の中に指を滑り込ませた。そしてそこにグチャグチャと卑猥な音を響かせた。
脳を突き抜けるような快感が走った。思わず「はんっ」と天井に顔を向けると、廊下に這った彼の体がユッサユッサと蠢いているのがわかった。
恵美は視線を彼に向けた。堂々と彼を見つめながらオナニーをした。
彼も、どうせこの女は死刑になるキチガイだ、とでも思ったのか、上下に動くペニスを堂々と見せつけてきた。
恵美は、しゃがんだまま鉄格子に右足を掛けた。まるで雄犬が小便をするようなポーズになると、クパッと開いた膣を三本の指でドロドロと掻き回し、強烈なスリルに心臓を鷲掴みにされながら絶頂に達したのだった。
それとほぼ同時に、廊下の冷たい床に彼の精液がパタパタと飛び散った。
その晩からだった。
彼は恵美をストレスの捌け口としてではなく、性欲の捌け口として見るようになったのだった。
(つづく)
《←目次》《17話へ→》
しかし、恵美が入れられている部屋には、その乳白半透明のアクリル板が付いていなかった。しかもトイレには囲いが無く、床に和式便器が埋め込まれ、剥き出しにされていた。
そこは保護房と呼ばれる特別室だった。俗に『トラ箱』と呼ばれており、主に泥酔者や暴れる者たちを隔離する為の部屋だった。
なぜ恵美がそんな部屋に入れられたのかというと、この老朽化した小さな警察署には、女区と呼ばれる女性専用の留置場が設備されていなかったからだった。
この警察署では、女性や少年が逮捕された場合、成人男性被疑者と隔離する為にひとまずこのトラ箱に入れられると決まっていた。そして、送検後すぐに拘置所の女区に移監されるのだが、しかし恵美の場合は違っていた。
それは、恵美の事件が、二名を殺害した放火殺人という重罪であり、まして、完全黙秘をして取り調べには一切応じようとしていないからであり、だから送検後も、恵美はこの劣悪なトラ箱に入れられたまま、取り調べを続けられていたのだ。
しかし、そんな酷い扱いを受けても、恵美は全く堪えていなかった。むしろ、この家畜のような生活に異様なスリルを覚え、愉しんでいるようでもあった。
そんな恵美を監視するのは婦人警官だった。しかし五時を過ぎると婦人警官はさっさと帰ってしまい、それ以降の恵美の監視は当直の男性看守に引き継がれた。
この警察署は、留置場の規模が小さいという事から、当直勤務の看守は二人だった。一人は常に監視台にいたが、一人は当直室で仮眠を取っており、九時の消灯時間から六時間後に交代していた。
そんな当直勤務の看守の中に、常に顔色の悪い二十代の弱々しい青年がいた。彼はいつも先輩看守のパシリに使われ、時には、先輩達から叩かれたり蹴飛ばされたりするといったイジメを受けていた。
いかにもメンタル面の弱そうな彼は、先輩看守達に何をされても我慢していたが、しかしその裏では、その捌け口を留置場の中の被疑者に向けていた。
と言っても、気の弱い彼は、強面な粗暴犯や暴力団員は避け、ホームレスや老人や知的障害者といった被疑者ばかりを狙った。そんな弱者にだけ陰湿な意地悪を繰り返していたのだった。
そんな彼にとって、隔離部屋に閉じ込められている恵美は最高の捌け口だった。恵美は、重罪事件を起こしていながらも完全黙秘しているという、いわゆる警察の敵なのである。
だから彼は、そんな恵美を虐める事は『正義』であると信じ込んでいた。害鳥駆除という大義名分のもとに鳩を虐待する異常者のように、彼は恵美を虐待する事を勝手に正当化していたのだった。
恵美は、これまでに何度も彼にお茶をかけられていた。お茶や弁当は、鉄格子の隅の食器孔と呼ばれる小さな扉から出し入れされるのだが、彼は、いつもそこからお茶を手渡す際、わざと紙コップを傾けては、恵美の手に熱いお茶をかけていた。
しかもそのお茶は、異様なアンモニア臭が漂っていた。紙コップの縁にはいつもビールの泡のようなものが溜まっており、明らかに小便が混入されているとわかった。
しかし、それでも恵美は、毎回お茶をかけられる事に文句一つ言わず、その小便入りのお茶も黙って全部飲み干した。
そんな恵美をロッカーの影からソッと覗き見するのが、唯一彼の、先輩看守達から受けるストレスの捌け口となっていたのだった。
しかしそれは、ある事が切っ掛けで角度を変えた。ある時を境に彼は、恵美をストレスの捌け口とするのではなく、性欲の捌け口へと変えるようになったのだ。
それは、恵美がこのトラ箱で生活するようになって四日目の夜だった。
その晩、恵美は、いつも二十分おきに巡視する彼の足音に耳を傾けていた。その足音が聞こえたらすぐに実行できるよう、既に布団の中でジャージのズボンと下着を脱いでいた。
饐えた臭いのする布団に包まりながら恵美は震えていた。その瞬間を想像すると激しい恐怖に襲われたが、その一方で膣の奥からいやらしい汁がジワジワと溢れて来た。
暫くすると、スニーカーのゴムがキュッキュッと擦れる足音が聞こえて来た。それはみるみる恵美の部屋へと近付き、そのまま何事も無く普通に通り過ぎて行ってしまった。
恵美はまだ実行に移さなかった。実行するのは、彼が正面通路ではなく裏通路を通過する時だと決めていた。
その裏通路というのは、部屋の奥の格子窓の向こう側にある通路だった。
つまり、部屋が縦長である事から、正面と裏から監視できるようになっていたのだ。
彼のスニーカーが、正面通路の突き当たりをキュッと回る音が聞こえた。それと同時に恵美は布団から抜け出し、下半身を剥き出したまま、奥の鉄格子の窓へと向かった。
その窓にはガラスは無く、鉄格子が嵌め込まれているだけだった。部屋の通気を考えてか、その鉄格子は縦スリット窓のように床まで伸びていた。
そんな鉄格子のすぐ前には和式便器があった。一般の房では便器は壁で囲まれ、何の変哲も無い普通のトイレだったが、しかしこのトラ箱だけは、和式便器が剥き出しにされていた。恵美の場合、女性という事で、便器の横に一メートルほどの仕切り板が置かれていたが、しかし、それはあくまでも正面通路から目隠しされているだけであり、裏通路からは、便器の底の汚物までもが丸見えになってしまうのだった。
そんな人権を無視した和式便器に、下半身裸の恵美は素早くしゃがんだ。おもいきり足を開き、黒々とした股間を突き出し、息を潜めた。
薄暗い裏通路の奥からキュッキュッと響くゴム音が近付いて来た。そしてそれは、恵美の目論み通り、便器にしゃがむ恵美の真横でピタっと止まった。
鉄格子の向こう側に安物のスニーカーが見えた。それを確認するなり恵美は一気に放尿した。
黄ばんだ便器にビシャビシャと尿が飛び散った。それと同時に、項垂れていた恵美の視界からスニーカーがソッと消えた。
格子の向こうを横目で見ると、通路の床に伏せながら恵美の股間を覗いている彼の姿が見え、背筋にゾゾっと寒気が走った。
放尿が終わると、尿がポタポタと垂れる陰部に指を這わせた。指で割れ目を開き、膣筋に力を入れてその内部を剥き出しにすると、中に溜まっていた透明の液体が、ニトッ……と糸を引いて便器の底に垂れた。
鉄格子の向こう側からギラギラする視線を感じながら、恵美はその赤く輝く毒々しい穴の中に指を滑り込ませた。そしてそこにグチャグチャと卑猥な音を響かせた。
脳を突き抜けるような快感が走った。思わず「はんっ」と天井に顔を向けると、廊下に這った彼の体がユッサユッサと蠢いているのがわかった。
恵美は視線を彼に向けた。堂々と彼を見つめながらオナニーをした。
彼も、どうせこの女は死刑になるキチガイだ、とでも思ったのか、上下に動くペニスを堂々と見せつけてきた。
恵美は、しゃがんだまま鉄格子に右足を掛けた。まるで雄犬が小便をするようなポーズになると、クパッと開いた膣を三本の指でドロドロと掻き回し、強烈なスリルに心臓を鷲掴みにされながら絶頂に達したのだった。
それとほぼ同時に、廊下の冷たい床に彼の精液がパタパタと飛び散った。
その晩からだった。
彼は恵美をストレスの捌け口としてではなく、性欲の捌け口として見るようになったのだった。
(つづく)
《←目次》《17話へ→》
スリル17・新たなるスリル
2013/06/13 Thu 00:02
その日も彼は、先輩看守に虐められていた。
被疑者たちに貸し出される官本の整理がされていないと何癖をつけられ、留置場の隅でスクワットを一〇〇回やらされていた。
その晩、当直の彼はいつものように恵美の房にやって来た。
最初のうちは、鉄格子越しにオナニーを見せ合う程度だったが、しかしそのうちエスカレートし、彼は鉄格子の隙間からペニスを突き出すようになっていた。
恵美は、冷たい鉄格子に額と顎を押し付けながら、彼のペニスをしゃぶった。口内で弾ける生温かい精液を一滴残らず飲み干したりしていた。
しかし、セックスは無理だった。何度か、鉄格子にお尻を押し付けては彼のペニスを受け入れようとしたが、しかし、彼のペニスがあまりにも小さ過ぎる事から、かろうじて先っぽだけがヌルヌルとピストンするだけだった。
それでも彼はちゃっかりと射精した。亀頭しか挿入されていなかったが、彼は大量の精液を恵美の穴の中に注入していたのだった。
そんな彼との不完全なセックスを繰り返していた中、恵美は現住建造物放火と殺人で起訴された。
被疑者から被告となった恵美は、着々と死刑台に近付いていた。
恵美は、沙織を惨殺した大磯の罪を被り、放火して自殺した原山の罪まで被って死刑になる事に後悔していなかった。恐怖も怒りも感じていなかったし、むしろ、死刑という究極のSM行為にスリルを感じ、その瞬間を今か今かと待ちわびているほどだった。
しかし、そんな恵美の感情は、その日の取調室で刑事から聞かされた話しによって大きく急変した。
「恐らく判決は死刑だろう。でも心配するな。お前は死刑台には行かないよ。お前を犯人だとする物的証拠は何も無いんだ。お前があの親子を殺す理由も動機も不明だし、それに何といっても、お前のような華奢な女が、一人であれだけの殺人ができるかという点が非常に疑わしい。だから心配するな。お前は、死刑判決が出たとしても死刑台には行かないよ。法務大臣は、こういった怪しい事件にはなかなか印を押さないんだ……」
そう言いながら刑事は、机にうつ伏せになっている恵美の尻肉を両手で押さえ、『の』の字を描くように腰を回した。
「……って事はどうなるんですか」
恵美は机に右頬をグイグイと押し付けられながら聞いた。
「放置だよ。獄死するまで拘置所の中で放ったらかしだよ」
恵美はゾッとした。
何十年も狭い箱の中で放置され、そのまま老いて獄死する。
そんな地味で退屈な人生の結末には、どこにもスリルが見当たらないのだ。
房に戻った恵美は、床に埋め込まれただけの和式便器にしゃがみ、下腹部に力を入れた。ベロリと開いた割れ目から刑事の精液がドロドロと溢れ出し、それが便器にボタボタと音を立てて落ちた。
「おい」と呼ばれ、項垂れていた顔を慌てて上げると、格子の向こうに彼が立っていた。恐らく、また先輩看守に蹴飛ばされたのだろう、濃紺の制服ズボンの太ももにはスニーカーの跡がくっきりと浮かんでいた。
「明日、拘置所に移監される事が決定した」
彼はそう淋しそうに呟くと、「今夜でキミとはお別れだ」と、今にも泣き出しそうな表情でゆっくりと俯いた。
そんな彼の目に、便器の底に溜まった刑事の精液が飛び込んで来た。
「なんだそれは?」
彼は慌てて恵美の顔を見た。
恵美は、いきなり肛門に指を突き刺されたような焦燥感に襲われ、咄嗟に「子供です」と答えてしまった。
「子供?」と、そう首を傾げる彼を見て、恵美はふと思った。
(こいつは馬鹿だ)
恵美は、そう何度も自分に言い聞かせながら、「そう。あなたの子供ができたの」と、深刻そうに出鱈目を言った。
彼とセックスをするようになってからまだ十日しか経っておらず、そんなに早く子供などできるわけがなかった。
しかし彼は気付かなかった。普通の人ならすぐに気付く事なのに、しかしやっぱり彼は馬鹿だった。
愕然とした彼は、「僕の子供……」と呟いた。体を震わせながら、何度も何度もそう呟いていたのだった。
深夜二時。
最後の巡視に来た彼は、「爆睡してたよ」と小さく笑うと、ポケットの中から大きな鍵を取り出した。
爆睡していたのは先輩看守だった。夕食後、彼に睡眠薬入りの缶コーヒーを飲まされた先輩看守は、仮眠室の布団に包まりながら、まるで四トンダンプが走り去るような大鼾をかいていたのだった。
ガタン、ガタガタン。
鈍い鉄の音が、静まり返った廊下に響いた。重い鉄格子の扉が開くなり、彼は二つ折りにした一万円札を恵美に渡した。
「三万円ある。タクシーをいくつも乗り継いで、できるだけ遠くに逃げてくれ」
「あなたは大丈夫なの?」
急いでゴム草履を履きながら恵美がそう聞くと、彼は「僕の事は心配するな」と頷いた。
「当直の時はね、この鍵は巡査部長しか持てない決まりになってるんだ。だからこの責任は全てあいつが取らされるよ」
そう笑いながら彼は、いきなり恵美の体を抱きしめた。骨が折れそうなくらい強く強く恵美を抱きしめた。
「キミとは何度もセックスしてきたけど、こうやってキミを抱くのは初めてだね」
彼は恥ずかしそうにそう囁くと、更に恵美を強く抱きしめながら「絶対に捕まるなよ。元気な子供を産んでくれよ」と泣いた。
泣きながら彼は、ゆっくりと恵美の体を解放した。そして恵美の顔を真正面から見つめながら、「最後に……キスしてもいい?」と呟いた。
恵美は笑った。この留置場に来て初めて笑った。いや、サラマンドラという黒い渦に巻かれてから初めて笑ったかも知れない。
「またすぐに会えるんだから最後じゃないよ。これは最初よ」
恵美はそう笑いながら彼の背中に手を回した。彼は大粒の涙をボロボロと流しながら「ありがとう」と呟いたのだった。
警察署からは、いとも簡単に出る事ができた。
一階の交通課には眠そうな顔をした警察官が二、三人いたが、まさかこうして堂々と脱走されるとは夢にも思っていないらしく、平然とそこを横切って行く恵美には見向きもしなかった。
外に出ると、ほんのりと冷たい夜風が髪を靡かせた。
ゴム草履をスタスタと鳴らしながら大通りに出ると、走り去る車のライトが妙に眩しく、そこで初めて自由になった実感を感じた。
夜の闇は二十二日ぶりだった。
夜の匂いを嗅ぐのも二十二日ぶりだった。
一つ目の交差点で立ち止まり、信号機に寄り掛かりながら、ゴム草履の中に紛れ込んだ小石をパラパラと払った。
すると、信号で止まっていた白い車の助手席の窓がジーッと開いた。
薄汚い中年男が、運転席からジッと恵美を見ていた。
助手席には、食べ残したコンビニ弁当や雑誌が散乱し、いかにも不審者の匂いがムンムンと漂っていた。
そんな中年男の右肩が不自然に動いていた。はぁ、はぁ、と小刻みに息を吐く度に、青い無精髭がブツブツと広がる二重顎がタプタプと揺れていた。
恵美は黙って車に近付くと、助手席の窓からその上下に動いている肉棒を見下ろし、そしてジャージのズボンの前をゆっくりと下ろした。
真っ白な肌にとぐろを巻いた陰毛が夜風に晒された。
男は、恍惚とした表情で「ああ……」と呻きながら、上下にシゴく手をいきなり速めた。
「乗ってもいい?」
恵美がそう聞くと、男は一瞬戸惑いながらも慌ててドアのロックを開けた。
ドアを開くなり、ペットショップのような饐えたニオイが溢れ出した。
恵美の新たなるスリルが、今、始まろうとしていた。
(スリル・完)
《←目次》
被疑者たちに貸し出される官本の整理がされていないと何癖をつけられ、留置場の隅でスクワットを一〇〇回やらされていた。
その晩、当直の彼はいつものように恵美の房にやって来た。
最初のうちは、鉄格子越しにオナニーを見せ合う程度だったが、しかしそのうちエスカレートし、彼は鉄格子の隙間からペニスを突き出すようになっていた。
恵美は、冷たい鉄格子に額と顎を押し付けながら、彼のペニスをしゃぶった。口内で弾ける生温かい精液を一滴残らず飲み干したりしていた。
しかし、セックスは無理だった。何度か、鉄格子にお尻を押し付けては彼のペニスを受け入れようとしたが、しかし、彼のペニスがあまりにも小さ過ぎる事から、かろうじて先っぽだけがヌルヌルとピストンするだけだった。
それでも彼はちゃっかりと射精した。亀頭しか挿入されていなかったが、彼は大量の精液を恵美の穴の中に注入していたのだった。
そんな彼との不完全なセックスを繰り返していた中、恵美は現住建造物放火と殺人で起訴された。
被疑者から被告となった恵美は、着々と死刑台に近付いていた。
恵美は、沙織を惨殺した大磯の罪を被り、放火して自殺した原山の罪まで被って死刑になる事に後悔していなかった。恐怖も怒りも感じていなかったし、むしろ、死刑という究極のSM行為にスリルを感じ、その瞬間を今か今かと待ちわびているほどだった。
しかし、そんな恵美の感情は、その日の取調室で刑事から聞かされた話しによって大きく急変した。
「恐らく判決は死刑だろう。でも心配するな。お前は死刑台には行かないよ。お前を犯人だとする物的証拠は何も無いんだ。お前があの親子を殺す理由も動機も不明だし、それに何といっても、お前のような華奢な女が、一人であれだけの殺人ができるかという点が非常に疑わしい。だから心配するな。お前は、死刑判決が出たとしても死刑台には行かないよ。法務大臣は、こういった怪しい事件にはなかなか印を押さないんだ……」
そう言いながら刑事は、机にうつ伏せになっている恵美の尻肉を両手で押さえ、『の』の字を描くように腰を回した。
「……って事はどうなるんですか」
恵美は机に右頬をグイグイと押し付けられながら聞いた。
「放置だよ。獄死するまで拘置所の中で放ったらかしだよ」
恵美はゾッとした。
何十年も狭い箱の中で放置され、そのまま老いて獄死する。
そんな地味で退屈な人生の結末には、どこにもスリルが見当たらないのだ。
房に戻った恵美は、床に埋め込まれただけの和式便器にしゃがみ、下腹部に力を入れた。ベロリと開いた割れ目から刑事の精液がドロドロと溢れ出し、それが便器にボタボタと音を立てて落ちた。
「おい」と呼ばれ、項垂れていた顔を慌てて上げると、格子の向こうに彼が立っていた。恐らく、また先輩看守に蹴飛ばされたのだろう、濃紺の制服ズボンの太ももにはスニーカーの跡がくっきりと浮かんでいた。
「明日、拘置所に移監される事が決定した」
彼はそう淋しそうに呟くと、「今夜でキミとはお別れだ」と、今にも泣き出しそうな表情でゆっくりと俯いた。
そんな彼の目に、便器の底に溜まった刑事の精液が飛び込んで来た。
「なんだそれは?」
彼は慌てて恵美の顔を見た。
恵美は、いきなり肛門に指を突き刺されたような焦燥感に襲われ、咄嗟に「子供です」と答えてしまった。
「子供?」と、そう首を傾げる彼を見て、恵美はふと思った。
(こいつは馬鹿だ)
恵美は、そう何度も自分に言い聞かせながら、「そう。あなたの子供ができたの」と、深刻そうに出鱈目を言った。
彼とセックスをするようになってからまだ十日しか経っておらず、そんなに早く子供などできるわけがなかった。
しかし彼は気付かなかった。普通の人ならすぐに気付く事なのに、しかしやっぱり彼は馬鹿だった。
愕然とした彼は、「僕の子供……」と呟いた。体を震わせながら、何度も何度もそう呟いていたのだった。
深夜二時。
最後の巡視に来た彼は、「爆睡してたよ」と小さく笑うと、ポケットの中から大きな鍵を取り出した。
爆睡していたのは先輩看守だった。夕食後、彼に睡眠薬入りの缶コーヒーを飲まされた先輩看守は、仮眠室の布団に包まりながら、まるで四トンダンプが走り去るような大鼾をかいていたのだった。
ガタン、ガタガタン。
鈍い鉄の音が、静まり返った廊下に響いた。重い鉄格子の扉が開くなり、彼は二つ折りにした一万円札を恵美に渡した。
「三万円ある。タクシーをいくつも乗り継いで、できるだけ遠くに逃げてくれ」
「あなたは大丈夫なの?」
急いでゴム草履を履きながら恵美がそう聞くと、彼は「僕の事は心配するな」と頷いた。
「当直の時はね、この鍵は巡査部長しか持てない決まりになってるんだ。だからこの責任は全てあいつが取らされるよ」
そう笑いながら彼は、いきなり恵美の体を抱きしめた。骨が折れそうなくらい強く強く恵美を抱きしめた。
「キミとは何度もセックスしてきたけど、こうやってキミを抱くのは初めてだね」
彼は恥ずかしそうにそう囁くと、更に恵美を強く抱きしめながら「絶対に捕まるなよ。元気な子供を産んでくれよ」と泣いた。
泣きながら彼は、ゆっくりと恵美の体を解放した。そして恵美の顔を真正面から見つめながら、「最後に……キスしてもいい?」と呟いた。
恵美は笑った。この留置場に来て初めて笑った。いや、サラマンドラという黒い渦に巻かれてから初めて笑ったかも知れない。
「またすぐに会えるんだから最後じゃないよ。これは最初よ」
恵美はそう笑いながら彼の背中に手を回した。彼は大粒の涙をボロボロと流しながら「ありがとう」と呟いたのだった。
警察署からは、いとも簡単に出る事ができた。
一階の交通課には眠そうな顔をした警察官が二、三人いたが、まさかこうして堂々と脱走されるとは夢にも思っていないらしく、平然とそこを横切って行く恵美には見向きもしなかった。
外に出ると、ほんのりと冷たい夜風が髪を靡かせた。
ゴム草履をスタスタと鳴らしながら大通りに出ると、走り去る車のライトが妙に眩しく、そこで初めて自由になった実感を感じた。
夜の闇は二十二日ぶりだった。
夜の匂いを嗅ぐのも二十二日ぶりだった。
一つ目の交差点で立ち止まり、信号機に寄り掛かりながら、ゴム草履の中に紛れ込んだ小石をパラパラと払った。
すると、信号で止まっていた白い車の助手席の窓がジーッと開いた。
薄汚い中年男が、運転席からジッと恵美を見ていた。
助手席には、食べ残したコンビニ弁当や雑誌が散乱し、いかにも不審者の匂いがムンムンと漂っていた。
そんな中年男の右肩が不自然に動いていた。はぁ、はぁ、と小刻みに息を吐く度に、青い無精髭がブツブツと広がる二重顎がタプタプと揺れていた。
恵美は黙って車に近付くと、助手席の窓からその上下に動いている肉棒を見下ろし、そしてジャージのズボンの前をゆっくりと下ろした。
真っ白な肌にとぐろを巻いた陰毛が夜風に晒された。
男は、恍惚とした表情で「ああ……」と呻きながら、上下にシゴく手をいきなり速めた。
「乗ってもいい?」
恵美がそう聞くと、男は一瞬戸惑いながらも慌ててドアのロックを開けた。
ドアを開くなり、ペットショップのような饐えたニオイが溢れ出した。
恵美の新たなるスリルが、今、始まろうとしていた。
(スリル・完)
《←目次》
オタクの穴1
2013/06/13 Thu 00:02
湿気を含んだ生温い六月の風が頬を撫でた。
柳森神社の角から歩道橋を上って行くと、頭上を通る高架橋がドゴンドゴンっと唸った。その音は階段を登るにつれ激しくなり、神田川の真上に差し掛かる頃には凄まじい轟音となって襲い掛かってきた。
歩道橋を歩く人々が一斉に肩を竦めた。新幹線の威力は、乗客には全く感じられないだろうが、しかしその真下を歩く者たちにとっては震度六強に値した。
下に神田川、上に新幹線。そんな特殊な歩道橋を出ると、そこには更に特殊な光景が広がっていた。メイド服を着た女の子たちが、くたびれたサラリーマン達に怪しげなチラシを配っている。
雑踏を潜り抜けながらルノアール前の横断歩道を渡った。自販機の角を曲がると、そこは、人、人、人、で溢れかえっていた。そんな通りの突き当たりには、『秋葉原駅』という文字がぼんやりと浮かんでいたのだった。
三杉彩乃は、いつもこの通りを抜けてお店に出勤していた。
くだらない店だった。客もスタッフもバカばっかりのコスチュームカフェだった。
それでも彩乃はお金のために頑張った。気違いじみた挨拶や幼稚なポーズなど死ぬほど恥ずかしかったが、それでも彩乃は必死にバカのフリをして働いていた。
そんな店の常連に、益岡と名乗るアニメオタクがいた。
彩乃が、大好きなアニメのヒロインに似ているからと言い、時給二万円でコスチューム撮影をさせて欲しいと必死に口説いてきた。
金が必要だった彩乃は、二つ返事でその話に乗った。
そして、さっそくその日のうちに、指定された益岡のマンションへと向かったのだった。
そこは、マンションというよりもアパートと呼ぶに相応しい、古くて汚い二階建ての建物だった。
益岡は、本当に彩乃が来るとは思っていなかったらしく、ドアを開けるなり、「ウッソォー、マジですかー」とオカマのように叫びながら嬉しそうに何度も飛び跳ねていた。
その部屋は、四畳半ほどの玄関兼用台所と、奥に八畳程度の古びた和室があるだけだった。
畳の上にベッドとPCデスクが置かれ、その壁一面にはアニメキャラクターのポスターがびっしりと張り巡らされていた。
彩乃は、とりあえずそのカビ臭い畳の上に座った。すると、陽の当たらない台所で、ペットボトルの『午後の紅茶』をグラスに注いでいた益岡が、「あっ、座布団ありませんから、ベッドに座ってください」と言った。その『午後の紅茶』は明らかに飲みかけだった。
それは、いかにも通販で売っていそうな安物のベッドだった。カバーが付いていない枕は、涎や顔の油で所々が黄ばんでおり、そこからは中年男特有の頭皮の匂いがムンムンと漂っていた。
その男は三四歳だった。この間まで引越し会社で働いていたらしいが、つい先日、突然理由もなく解雇され、現在は無職らしい。
ひょろひょろに痩せた貧乏くさい男だったが、目だけはギラギラと輝き、まるで獲物を狙うカマキリのように鋭かった。笑っているのか怒っているのかわからない表情をしており、話をしている最中も常に彩乃から目を逸らしていた。
当然、独身だった。今まで女性とは一人も付き合ったことがないらしく、「三次元の女は面倒臭いですから……」などと深刻そうに言いながら、残った午後の紅茶をゴクリとラッパ飲みした。
そして、そのボサボサの髪をガリガリと搔き毟りながら、「だから僕の恋人はミルクンピューラなんです」と、そのアニメキャラが映るPCの画面を恥ずかしそうに見つめると、強烈な出っ歯をロバのように剥き出し、ウヒウヒと笑い出したのだった。
そのミクルンピューラというアニメのキャラクターは、ピンクの髪にピンクのドレスを着たお姫様のような女の子だった。やたらと胸が大きく、ミニスカートからはみ出した白いパンツの股間には一本の縦線が食い込んでいるという、明らかに危ない人のためのアニメだった。
彩乃は、そんなミクルンピューラをソッと横目で見ながら、これのどこが自分に似ているのかさっぱりわからなかった。強いて言うならその大きなオッパイだけであり、顔も髪型も全然似ていないと思った。
ウヒウヒという不気味な笑いを部屋に響かせながら、益岡は飲み干した午後の紅茶のペットボトルを屑篭の中に投げ捨てた。そして押入れの襖をザザッと開けると、そこからダンボールを一つ取り出し、「さてさて、それではまずはこれに着替えてもらいましょうかね」とそれを彩乃の足元に置いた。
その中には、テラテラとしたサテン生地のドレスやピンクのハイヒール、そして大きなメイクセットが綺麗に並べられていた。益岡は表情を高揚させながら、それら一つ一つを取り出すと、その中から白いパンティーを摘みあげ、突然「今日の下着は何色ですか?」と聞いてきた。
彩乃は首を小さく傾けながら、「確か……ピンクだったと思いますけど……」と答えた。すると益岡は「チッ」と舌打ちした。「それNGです。ミクルンは白い下着しか穿きませんから。これジョーシキですから」と、何やら彩乃を責めるかのように強い口調で言うと、「下着もこれに履き替えてください」と、その摘み上げた白い下着を彩乃に渡したのだった。
唖然としながらそれを見つめていると、益岡は素早くベッドを降り、ミクルンのフィギアが大量に並べてあるカラーボックスの前にしゃがんだ。そして何やらそこをゴソゴソと漁りながら、カラーボックスの裏から等身大の鏡を引きずり出すと、「鏡はここにありますから」と背後の彩乃に振り返った。
そのまま益岡は台所へと向かった。「着替えてる間、僕は外の廊下で待ってますので、もしメイクの事とかでわからないことがありましたら遠慮なく呼んでください」と言いながら、玄関の靴を履き始めた。
玄関ドアが開かれると、午後の日差しがパッと注ぎ込み、薄暗い部屋に浮遊している埃をキラキラと輝かせた。スマホを弄りながら外に出ようとした益岡だったが、急に何かを思い出したかのように「あっ、それから……」と足を止めた。
「ミクルンは基本的にブラジャーは付けませんから、ブラジャーはNGでお願いしますね」
益岡はスマホの画面を見つめたままそうボソリと呟いた。そしてそのままスマホに指を走らせながら、ヨロヨロと外に出て行ったのだった。
玄関のドアが閉まるなり、一瞬にして光と音が遮断された。
シーンと静まり返った部屋にポツンと一人取り残された彩乃は、改めてこの三十男の部屋とは思えない幼稚な部屋を見回しながら静かに息を吐いた。
壁だけでなく天井一面にまで張り巡らされたアニメのポスターは、この日当たりの悪い老朽化した和室を、より一層不気味にさせていた。
そんなミクルンピューラは、ポスターやフィギアだけでなく、部屋の至る所に潜んでいた。スリッパ、マウスパッド、マグカップ、時計。そして何よりも薄気味悪かったのがベッドと壁の隙間に押し込められていた抱き枕で、そこにプリントされたミクルンの口と股間には、明らかにそれとわかる黄色いシミが点々と付着していた。
しかし、それよりも更に驚かされたのは、その抱き枕の裏面を見た時だった。裏面にプリントされているミクルンピューラは全裸だった。幼い顔には似つかなぬ豊満なおっぱいをタプンっと突き出し、ノーパンで体育座りをしながら顔を横に向けて喘いでいた。
そのプリントも薄気味悪かったが、しかしそれよりも彩乃を驚愕させたのは、そんなミクルンピューラの股間に突き刺さっていたオナホールだった。
それは、アダルトグッズのサイトでよく目にする肌色のシリコン筒で、断面は女性器がリアルに型取られ、奥深い穴の表面は歪にデコボコしていた。
それを目にした彩乃は、夜な夜なこの穴の中にペニスをピストンさせている男の姿を想像した。そしてその筒に生臭い精液をドクドクと中出ししながら薄気味悪く身悶えているシーンを思い浮かべ、深い息を胸底から吐き出した。
これが普通の女なら、この時点で逃げ出している事だろう。しかし彩乃は違った。彩乃はもはや普通の女ではなかった。
好奇心に駆られた彩乃は、そのリアルな断面に恐る恐る指を伸ばし、型取られたクリトリスをソッと指先で撫でた。そして穴の中に指を入れると、そのデコボコの表面に指をムニムニと押し付けながら、そこにペニスが擦り付けられるシーンを頭に描いた。

いきなり激しい興奮がムラッと湧き上がった。気がつくと彩乃はその穴の中を犬のようにクンクンと嗅いでいた。
そこにはゴム臭とローションの匂いと、そして仄かなイカ臭が漂っていた。そんな卑猥な匂いにクラクラと目眩を感じた彩乃は、迷うことなくその穴の中に舌を挿入していた。
あの男は今までに体験した事のない部類の変態だった。あんな変態男に、もうすぐ自分のアソコもこうやって舐められるのだろうかと、そんな事を考えながら穴の中をピチャピチャと舐めていると、堪らなく陰部がジクジクと疼いてきた。
ムラムラ感を募らせたまま再びベッドに座り直した。案の定、デニムのミニスカートから覗くピンクのパンティーには、じっとりと濡れた卑猥なシミが浮き出ていたのだった。

早く着替えて、あの変態男にズボズボされたい。
敢えてそんな下品な表現をしながらその変態性欲を昂ぶらせた。
急いでデニムのミニスカートのボタンを外した。そしてスカートを下ろそうとふと顔を上げると、真正面に置いてあるカラーボックスの中で一瞬何かが動いた気がした。
デニムのミニスカートに指をかけたまま動きを止めた彩乃は、そのままそこにジッと目を凝らした。
すると、無数に並んだフィギアの端に、なぜか一台のスマホが不自然に立てかけてある事に気付いた。
しかもそのスマホは電源が入ったままだった。そしてその画面には、今、ベッドに腰掛けているリアルタイムの自分の姿が映し出されていたのだった。
それは意図的に仕掛けられたものだった。あの男がもう一台のスマホを使い、テレビ電話によってこの部屋を盗撮しているのだ。
確かにあの男は、部屋を出て行く前、カラーボックスの前でゴソゴソしていた。きっとあれは、あそこにスマホをセットしていたのだ。
そう気づくなり、彩乃の背中に冷たいものがゾクっと走った。あの抱き枕のオナホールを舐めているシーンを見られていたのかと思うと、凄まじい羞恥に襲われ、ベッドに腰掛けていた膝がガクガクと震えてきた。
しかし、そんな羞恥心は一瞬にして快楽へと変わった。あの変態行為が覗かれていたというのは、マゾヒストな彩乃にとって性的興奮の何物でもなかったのだ。
ムラムラと湧き上がる興奮にクラクラと目眩を感じながら、彩乃はそのスマホからソッと目を逸らした。覗かれているという行為に欲情を覚えた彩乃は、それに気づかないふりをしたまま着替えをしようと思ったのだ。
スマホのカメラに向かってパーカーのジッパーを下ろした。今にも溢れ出しそうなその豊満な乳肉は、薄ピンクのブラジャーに吊り下げられていた。ドキドキしながらブラジャーに手をかけると、その二つの巨大な乳肉がフルルンっと揺れた。
この揺れる乳肉をあの男も見ているのだろうかと思うと、異様な興奮が次から次へと湧き上がってきた。恥ずかしいと思えば思うほどに、見られたいという気持ちが高ぶり、半開きの唇から自然に熱い息が漏れた。
(見てください……私を見て勃起してください……)
そう頭の中で呟きながら震える指でブラジャーをずらした。そこから溢れた柔らかい乳肉が、まるで巨大な水風船がバウンドするかのようにタプンっと跳ね、その全てをそこに晒した。

踊る乳肉に合わせ彩乃の呼吸も荒くなった。今頃あの男は、うまくいったぞと細く微笑みながらスマホを見ているのかと思うと、彩乃の被虐心はジクジクと刺激され、すぐにでも肉棒を挿入されたい気分に陥らされた。
今まで彩乃は、自分は人よりもスケベだということを自覚していた。しかし、今こうしてこの状況で欲情している自分を客観的に見て、やっと気づいた。自分はスケベなどという幼稚なレベルではなく、もはや異常者並みの変態レベルに達しているという事を。
そのボテッと垂れた巨大な乳肉を両手に乗せ、まるでパン生地のようにポテンポテンっと捏ねた。右手で右乳の乳首を転がし、左手で左乳を持ち上げながらその乳首をチロチロと舐めた。この変態行為が男に見られていると思うと、乳首を転がしていた指は自然に股間へと滑り降りて行った。
もはやクロッチはハチミツに浸したかのようにヌルヌルに湿っていた。そこに指を滑らせながら腰の位置を微妙に移動させ、股間をスマホに向けた。
真っ白な太ももに挟まれた薄ピンクのパンティーが画面に映っていた。今これを見ている男は、きっと競走馬のように鼻息を荒くしながら歓喜しているはずだと思うと、もっと男を興奮させてやりたいという欲望に駆られた。
小指と薬指でクロッチをずらすと、テラテラと濡れ輝くワレメが姿を現した。そこに指を這わすと、まるで牛の涎のような濃厚な汁が無数の糸を引き、ピチャっといやらしい音を立てたのだった。

このいやらしい音さえも男は聞いているのだと思うと、そこに這わせた指を動かさずにはいられなかった。
(見ないで……恥ずかしいから見ないで……)と、矛盾した被虐願望を抱きながら、グロテスクなワレメにヌルヌルと指を滑らせ、もう片方の手でミカンの粒のようなクリトリスをキュンキュンと摘んだ。
熱い息がハァハァと漏れた。腰が自然にカクカクと動き、太ももがヒクヒクと痙攣し始めた。
(このままイッてしまいたい……)
そう気が遠くなった瞬間、いきなり玄関ドアがコンコンっとノックされ、一瞬にして彩乃は現実へと引き戻された。
「あのぅ……まだでしょうか……」
男のその声に、彩乃はサッと股を閉じた。そして慌ててパーカーのジッパーを締めながら「まだです」と答えると、男は、「その衣装、結構複雑でしょ……僕、手伝いますよ……」と呟き、彩乃の返事を聞かないまま、いきなりそのドアを開けた。
午後の日差しが薄暗い部屋にパッと注ぎ込んだ。逆光に照らされた男のシルエットが玄関に浮かび、バタンッとドアが閉まる音が響いた。
彩乃は呆然としていた。半分しか閉まっていないジッパーから真っ白な乳肉をはみ出したまま、身動きひとつせず固まっていた。
「ミンクルはね、衣装もメイクも複雑なんですよ……だからミンクルのコスプレする人って少ないんです……」
そう言いながら男は部屋に入ってきた。カマキリのような鋭い目を光らせ、薄い唇を不敵に半分歪ませながら、固まる彩乃に向かってやって来た。
そんな男の手にはスマホが握られていた。そして男のその股間には、ヘソに向かって伸びる細長い膨らみがくっきりと浮かび上がっていたのだった。
(つづく)
《←目次》《2話へ→》
柳森神社の角から歩道橋を上って行くと、頭上を通る高架橋がドゴンドゴンっと唸った。その音は階段を登るにつれ激しくなり、神田川の真上に差し掛かる頃には凄まじい轟音となって襲い掛かってきた。
歩道橋を歩く人々が一斉に肩を竦めた。新幹線の威力は、乗客には全く感じられないだろうが、しかしその真下を歩く者たちにとっては震度六強に値した。
下に神田川、上に新幹線。そんな特殊な歩道橋を出ると、そこには更に特殊な光景が広がっていた。メイド服を着た女の子たちが、くたびれたサラリーマン達に怪しげなチラシを配っている。
雑踏を潜り抜けながらルノアール前の横断歩道を渡った。自販機の角を曲がると、そこは、人、人、人、で溢れかえっていた。そんな通りの突き当たりには、『秋葉原駅』という文字がぼんやりと浮かんでいたのだった。
三杉彩乃は、いつもこの通りを抜けてお店に出勤していた。
くだらない店だった。客もスタッフもバカばっかりのコスチュームカフェだった。
それでも彩乃はお金のために頑張った。気違いじみた挨拶や幼稚なポーズなど死ぬほど恥ずかしかったが、それでも彩乃は必死にバカのフリをして働いていた。
そんな店の常連に、益岡と名乗るアニメオタクがいた。
彩乃が、大好きなアニメのヒロインに似ているからと言い、時給二万円でコスチューム撮影をさせて欲しいと必死に口説いてきた。
金が必要だった彩乃は、二つ返事でその話に乗った。
そして、さっそくその日のうちに、指定された益岡のマンションへと向かったのだった。
そこは、マンションというよりもアパートと呼ぶに相応しい、古くて汚い二階建ての建物だった。
益岡は、本当に彩乃が来るとは思っていなかったらしく、ドアを開けるなり、「ウッソォー、マジですかー」とオカマのように叫びながら嬉しそうに何度も飛び跳ねていた。
その部屋は、四畳半ほどの玄関兼用台所と、奥に八畳程度の古びた和室があるだけだった。
畳の上にベッドとPCデスクが置かれ、その壁一面にはアニメキャラクターのポスターがびっしりと張り巡らされていた。
彩乃は、とりあえずそのカビ臭い畳の上に座った。すると、陽の当たらない台所で、ペットボトルの『午後の紅茶』をグラスに注いでいた益岡が、「あっ、座布団ありませんから、ベッドに座ってください」と言った。その『午後の紅茶』は明らかに飲みかけだった。
それは、いかにも通販で売っていそうな安物のベッドだった。カバーが付いていない枕は、涎や顔の油で所々が黄ばんでおり、そこからは中年男特有の頭皮の匂いがムンムンと漂っていた。
その男は三四歳だった。この間まで引越し会社で働いていたらしいが、つい先日、突然理由もなく解雇され、現在は無職らしい。
ひょろひょろに痩せた貧乏くさい男だったが、目だけはギラギラと輝き、まるで獲物を狙うカマキリのように鋭かった。笑っているのか怒っているのかわからない表情をしており、話をしている最中も常に彩乃から目を逸らしていた。
当然、独身だった。今まで女性とは一人も付き合ったことがないらしく、「三次元の女は面倒臭いですから……」などと深刻そうに言いながら、残った午後の紅茶をゴクリとラッパ飲みした。
そして、そのボサボサの髪をガリガリと搔き毟りながら、「だから僕の恋人はミルクンピューラなんです」と、そのアニメキャラが映るPCの画面を恥ずかしそうに見つめると、強烈な出っ歯をロバのように剥き出し、ウヒウヒと笑い出したのだった。
そのミクルンピューラというアニメのキャラクターは、ピンクの髪にピンクのドレスを着たお姫様のような女の子だった。やたらと胸が大きく、ミニスカートからはみ出した白いパンツの股間には一本の縦線が食い込んでいるという、明らかに危ない人のためのアニメだった。
彩乃は、そんなミクルンピューラをソッと横目で見ながら、これのどこが自分に似ているのかさっぱりわからなかった。強いて言うならその大きなオッパイだけであり、顔も髪型も全然似ていないと思った。
ウヒウヒという不気味な笑いを部屋に響かせながら、益岡は飲み干した午後の紅茶のペットボトルを屑篭の中に投げ捨てた。そして押入れの襖をザザッと開けると、そこからダンボールを一つ取り出し、「さてさて、それではまずはこれに着替えてもらいましょうかね」とそれを彩乃の足元に置いた。
その中には、テラテラとしたサテン生地のドレスやピンクのハイヒール、そして大きなメイクセットが綺麗に並べられていた。益岡は表情を高揚させながら、それら一つ一つを取り出すと、その中から白いパンティーを摘みあげ、突然「今日の下着は何色ですか?」と聞いてきた。
彩乃は首を小さく傾けながら、「確か……ピンクだったと思いますけど……」と答えた。すると益岡は「チッ」と舌打ちした。「それNGです。ミクルンは白い下着しか穿きませんから。これジョーシキですから」と、何やら彩乃を責めるかのように強い口調で言うと、「下着もこれに履き替えてください」と、その摘み上げた白い下着を彩乃に渡したのだった。
唖然としながらそれを見つめていると、益岡は素早くベッドを降り、ミクルンのフィギアが大量に並べてあるカラーボックスの前にしゃがんだ。そして何やらそこをゴソゴソと漁りながら、カラーボックスの裏から等身大の鏡を引きずり出すと、「鏡はここにありますから」と背後の彩乃に振り返った。
そのまま益岡は台所へと向かった。「着替えてる間、僕は外の廊下で待ってますので、もしメイクの事とかでわからないことがありましたら遠慮なく呼んでください」と言いながら、玄関の靴を履き始めた。
玄関ドアが開かれると、午後の日差しがパッと注ぎ込み、薄暗い部屋に浮遊している埃をキラキラと輝かせた。スマホを弄りながら外に出ようとした益岡だったが、急に何かを思い出したかのように「あっ、それから……」と足を止めた。
「ミクルンは基本的にブラジャーは付けませんから、ブラジャーはNGでお願いしますね」
益岡はスマホの画面を見つめたままそうボソリと呟いた。そしてそのままスマホに指を走らせながら、ヨロヨロと外に出て行ったのだった。
玄関のドアが閉まるなり、一瞬にして光と音が遮断された。
シーンと静まり返った部屋にポツンと一人取り残された彩乃は、改めてこの三十男の部屋とは思えない幼稚な部屋を見回しながら静かに息を吐いた。
壁だけでなく天井一面にまで張り巡らされたアニメのポスターは、この日当たりの悪い老朽化した和室を、より一層不気味にさせていた。
そんなミクルンピューラは、ポスターやフィギアだけでなく、部屋の至る所に潜んでいた。スリッパ、マウスパッド、マグカップ、時計。そして何よりも薄気味悪かったのがベッドと壁の隙間に押し込められていた抱き枕で、そこにプリントされたミクルンの口と股間には、明らかにそれとわかる黄色いシミが点々と付着していた。
しかし、それよりも更に驚かされたのは、その抱き枕の裏面を見た時だった。裏面にプリントされているミクルンピューラは全裸だった。幼い顔には似つかなぬ豊満なおっぱいをタプンっと突き出し、ノーパンで体育座りをしながら顔を横に向けて喘いでいた。
そのプリントも薄気味悪かったが、しかしそれよりも彩乃を驚愕させたのは、そんなミクルンピューラの股間に突き刺さっていたオナホールだった。
それは、アダルトグッズのサイトでよく目にする肌色のシリコン筒で、断面は女性器がリアルに型取られ、奥深い穴の表面は歪にデコボコしていた。
それを目にした彩乃は、夜な夜なこの穴の中にペニスをピストンさせている男の姿を想像した。そしてその筒に生臭い精液をドクドクと中出ししながら薄気味悪く身悶えているシーンを思い浮かべ、深い息を胸底から吐き出した。
これが普通の女なら、この時点で逃げ出している事だろう。しかし彩乃は違った。彩乃はもはや普通の女ではなかった。
好奇心に駆られた彩乃は、そのリアルな断面に恐る恐る指を伸ばし、型取られたクリトリスをソッと指先で撫でた。そして穴の中に指を入れると、そのデコボコの表面に指をムニムニと押し付けながら、そこにペニスが擦り付けられるシーンを頭に描いた。

いきなり激しい興奮がムラッと湧き上がった。気がつくと彩乃はその穴の中を犬のようにクンクンと嗅いでいた。
そこにはゴム臭とローションの匂いと、そして仄かなイカ臭が漂っていた。そんな卑猥な匂いにクラクラと目眩を感じた彩乃は、迷うことなくその穴の中に舌を挿入していた。
あの男は今までに体験した事のない部類の変態だった。あんな変態男に、もうすぐ自分のアソコもこうやって舐められるのだろうかと、そんな事を考えながら穴の中をピチャピチャと舐めていると、堪らなく陰部がジクジクと疼いてきた。
ムラムラ感を募らせたまま再びベッドに座り直した。案の定、デニムのミニスカートから覗くピンクのパンティーには、じっとりと濡れた卑猥なシミが浮き出ていたのだった。

早く着替えて、あの変態男にズボズボされたい。
敢えてそんな下品な表現をしながらその変態性欲を昂ぶらせた。
急いでデニムのミニスカートのボタンを外した。そしてスカートを下ろそうとふと顔を上げると、真正面に置いてあるカラーボックスの中で一瞬何かが動いた気がした。
デニムのミニスカートに指をかけたまま動きを止めた彩乃は、そのままそこにジッと目を凝らした。
すると、無数に並んだフィギアの端に、なぜか一台のスマホが不自然に立てかけてある事に気付いた。
しかもそのスマホは電源が入ったままだった。そしてその画面には、今、ベッドに腰掛けているリアルタイムの自分の姿が映し出されていたのだった。
それは意図的に仕掛けられたものだった。あの男がもう一台のスマホを使い、テレビ電話によってこの部屋を盗撮しているのだ。
確かにあの男は、部屋を出て行く前、カラーボックスの前でゴソゴソしていた。きっとあれは、あそこにスマホをセットしていたのだ。
そう気づくなり、彩乃の背中に冷たいものがゾクっと走った。あの抱き枕のオナホールを舐めているシーンを見られていたのかと思うと、凄まじい羞恥に襲われ、ベッドに腰掛けていた膝がガクガクと震えてきた。
しかし、そんな羞恥心は一瞬にして快楽へと変わった。あの変態行為が覗かれていたというのは、マゾヒストな彩乃にとって性的興奮の何物でもなかったのだ。
ムラムラと湧き上がる興奮にクラクラと目眩を感じながら、彩乃はそのスマホからソッと目を逸らした。覗かれているという行為に欲情を覚えた彩乃は、それに気づかないふりをしたまま着替えをしようと思ったのだ。
スマホのカメラに向かってパーカーのジッパーを下ろした。今にも溢れ出しそうなその豊満な乳肉は、薄ピンクのブラジャーに吊り下げられていた。ドキドキしながらブラジャーに手をかけると、その二つの巨大な乳肉がフルルンっと揺れた。
この揺れる乳肉をあの男も見ているのだろうかと思うと、異様な興奮が次から次へと湧き上がってきた。恥ずかしいと思えば思うほどに、見られたいという気持ちが高ぶり、半開きの唇から自然に熱い息が漏れた。
(見てください……私を見て勃起してください……)
そう頭の中で呟きながら震える指でブラジャーをずらした。そこから溢れた柔らかい乳肉が、まるで巨大な水風船がバウンドするかのようにタプンっと跳ね、その全てをそこに晒した。

踊る乳肉に合わせ彩乃の呼吸も荒くなった。今頃あの男は、うまくいったぞと細く微笑みながらスマホを見ているのかと思うと、彩乃の被虐心はジクジクと刺激され、すぐにでも肉棒を挿入されたい気分に陥らされた。
今まで彩乃は、自分は人よりもスケベだということを自覚していた。しかし、今こうしてこの状況で欲情している自分を客観的に見て、やっと気づいた。自分はスケベなどという幼稚なレベルではなく、もはや異常者並みの変態レベルに達しているという事を。
そのボテッと垂れた巨大な乳肉を両手に乗せ、まるでパン生地のようにポテンポテンっと捏ねた。右手で右乳の乳首を転がし、左手で左乳を持ち上げながらその乳首をチロチロと舐めた。この変態行為が男に見られていると思うと、乳首を転がしていた指は自然に股間へと滑り降りて行った。
もはやクロッチはハチミツに浸したかのようにヌルヌルに湿っていた。そこに指を滑らせながら腰の位置を微妙に移動させ、股間をスマホに向けた。
真っ白な太ももに挟まれた薄ピンクのパンティーが画面に映っていた。今これを見ている男は、きっと競走馬のように鼻息を荒くしながら歓喜しているはずだと思うと、もっと男を興奮させてやりたいという欲望に駆られた。
小指と薬指でクロッチをずらすと、テラテラと濡れ輝くワレメが姿を現した。そこに指を這わすと、まるで牛の涎のような濃厚な汁が無数の糸を引き、ピチャっといやらしい音を立てたのだった。

このいやらしい音さえも男は聞いているのだと思うと、そこに這わせた指を動かさずにはいられなかった。
(見ないで……恥ずかしいから見ないで……)と、矛盾した被虐願望を抱きながら、グロテスクなワレメにヌルヌルと指を滑らせ、もう片方の手でミカンの粒のようなクリトリスをキュンキュンと摘んだ。
熱い息がハァハァと漏れた。腰が自然にカクカクと動き、太ももがヒクヒクと痙攣し始めた。
(このままイッてしまいたい……)
そう気が遠くなった瞬間、いきなり玄関ドアがコンコンっとノックされ、一瞬にして彩乃は現実へと引き戻された。
「あのぅ……まだでしょうか……」
男のその声に、彩乃はサッと股を閉じた。そして慌ててパーカーのジッパーを締めながら「まだです」と答えると、男は、「その衣装、結構複雑でしょ……僕、手伝いますよ……」と呟き、彩乃の返事を聞かないまま、いきなりそのドアを開けた。
午後の日差しが薄暗い部屋にパッと注ぎ込んだ。逆光に照らされた男のシルエットが玄関に浮かび、バタンッとドアが閉まる音が響いた。
彩乃は呆然としていた。半分しか閉まっていないジッパーから真っ白な乳肉をはみ出したまま、身動きひとつせず固まっていた。
「ミンクルはね、衣装もメイクも複雑なんですよ……だからミンクルのコスプレする人って少ないんです……」
そう言いながら男は部屋に入ってきた。カマキリのような鋭い目を光らせ、薄い唇を不敵に半分歪ませながら、固まる彩乃に向かってやって来た。
そんな男の手にはスマホが握られていた。そして男のその股間には、ヘソに向かって伸びる細長い膨らみがくっきりと浮かび上がっていたのだった。
(つづく)
《←目次》《2話へ→》
オタクの穴2
2013/06/13 Thu 00:02
益岡はドスンッとベッドに腰掛けると、床に置いてあるダンボールの中を覗き込みながら「チッ」と舌打ちした。益岡は不機嫌そうに「まだ何にも着替えてないじゃないですか……」とため息をつくと、そのダンボールの中から、衣装やハイヒールなどを乱暴に取り出し始めた。
彩乃はソッとベッドから降りた。そしてそのダンボールの前で静かに正座しながら、「すみません……」と小さく呟いた。
「……あのねぇ、キミは知らないかもしれないけど、撮影会ってのは基本的に時給なんですよ。それは女の子の着替えの時間もトイレの時間も含まれてるんですよ」
「…………」
「だから早く着替えてよ。時間がもったいないだろ。ほら、早くこのパンツに履き替えて」
そう言いながらダンボールの中から白いパンティーを摘まみ出し、それを正座する彩乃の太ももに投げつけた。
戸惑う彩乃を、益岡はベッドの上からカマキリのような目で睨んでいた。そして右足をカクカクと貧乏揺すりさせると、「もしかして恥ずかしいの?」と笑った。
それは、全てを知り尽くした不敵な笑みだった。オナホールをこっそり舐めていた事や、濡れた陰部を弄っていた事など、それらをスマホで覗き見していたからこそできる自信に満ちた笑みだった。
そんな益岡の冷たい笑みに背筋をゾクッとさせた彩乃は、恐る恐るその命令に従った。見ず知らずの男の目前で着替えさせられるというのは、屈辱以外の何物でもなかったが、しかしそんな無慈悲な命令はたちまち彩乃の陰部をジクジクと疼かせ、異様な興奮に襲われた彩乃は、デニムのミニスカートの中からパンティーを摘み下ろしたのだった。

いつの間にか立場は逆転していた。この場合、本来ならスマホで盗撮されていた彩乃の方が怒っていいはずなのに、なぜか彩乃が怒られていた。
そもそも、床に正座したのが悪かった。床に正座しているのとベッドに座っているのとでは、明らかにベッドから見下ろしている者の方が立場は優勢になり、その時点で既に彩乃は益岡に逆らえなくなってしまっていたのだった。
しかし彩乃はこの状況に満足していた。彩乃という女は、虐げられる事で快楽を得るという真のマゾヒストなため、理不尽な上下関係による強要等は即ちエロスなのだ。だからそんな命令に対しても、正常者が感じるような屈辱や怒りといった感情は生まれず、異常者的な快楽がムラムラと湧き上がってくるのだった。
ジッと項垂れたまま、くるくるに丸まったパンティーを足首から抜き取った。それを背後にソッと隠そうとすると、いきなり益岡は「あっ」と言いながらベッドの下から円形状のカゴを取り出し、「脱いだ服はここに入れて」とそれを彩乃に突きつけたのだった。
彩乃の胸底から新たな興奮が湧き上がってきた。そのパンティーのクロッチは激しく濡れており、それをそのままそのカゴの中に入れてしまえば、恥ずかしい部分が益岡に見られてしまうのだ。
その新たな興奮は羞恥心だった。汚れた下着を見られるというのは、直接陰部を見られることよりも恥ずかしい事であり、まして、隠れてこっそり見られるならまだしも、目の前でそれを見られるというのは強烈な羞恥なのだ。
そんな羞恥心に彩乃の胸はギュンギュンと締め付けられた。今にも声が漏れてきそうな唇をワナワナと震わせながら、その汚れたパンティーをカゴの中にパサっと落とした。
チラっとそのパンティーを横目で見ながらも、益岡はそのカゴを床に投げた。そして両膝に両肘をつきながら前屈みになると、「ほら、早く全部脱いで」と彩乃の顔を覗き込んだ。
彩乃はパーカーのジッパーを恐る恐る下ろした。すぐ目の前には益岡の顔が迫っており、次から次へと溢れてくる興奮の鼻息がバレてしまわないかとヒヤヒヤしていた。
パーカーの前がパラリとはだけた。ブラジャーは、さっきずり下げた状態のままであり、ロケット型の巨乳がフルフルと揺れていた。
項垂れたままデニムのミニスカートのボタンを外した。そして、ゆっくりと膝立ちになりながらスカートを下ろそうとすると、不意にベッドの益岡が「うわぁ……」と唸った。
項垂れたままソッと益岡を見ると、いつの間にそれをカゴから取り出したのか、益岡は両手で彩乃のパンティーを広げながらそこを凝視していた。
カッと顔が熱くなり、慌てて「やめてください」とそれを奪い取ろうとすると、益岡は、パンティーを握る手をサッと高く掲げた。そしてそれを頭上でヒラヒラさせると、「どうしてこんなに濡れてるんですか」と、まるで男子が女子に意地悪しているような幼稚な口調でニヤニヤと笑った。
「返してください」と顔を真っ赤にさせながら、彩乃はそれを奪い取ろうと益岡の頭上に手を伸ばした。その勢いで大きな柔肉がタプンッと揺れ、それが益岡の顔にペタンっと当たった。彩乃は慌てて手を引っ込めた。その柔肉を両手で抱きしめながらそれを隠すと、今にも泣き出しそうな表情で「もうやめて下さい……」と、その場にへたり込んだ。
益岡は、そんな彩乃を幼稚な表情で見下ろした。そして汚れたクロッチを大きく広げ、それを彩乃に見せつけながら、「見てよ。こんなに濡れてますよ」とニヤニヤと笑った。

「凄いねこれ……」と呟きながら、益岡は恐る恐るクロッチに鼻を近づけた。「やめてください……」と声を震わせる彩乃を上目遣いでジッと見つめながら、まるでソムリエのように鼻をスッスッと小刻みに鳴らすと、「ヤリマンの匂いがしますよ」とニヤリと笑った。
羞恥で唇が震えた。陰部を直接嗅がれるのは何でもないのに、不思議とそれが汚れたクロッチだと、目眩を感じるほどの羞恥に襲われた。
そんなクロッチに益岡は人差し指を突き立てた。そしてそのテラテラと輝く汁に指腹をヌルヌルと滑らせながら、「キミのアソコもこんな風にヌルヌルしてるのかな?」と呟くと、あたかも彩乃の陰部を弄っているかのように、指をいやらしく動かした。
ヌルヌルと滑る指を彩乃は見ていた。そんなに恥ずかしいのなら見なければいいのに、それでも彩乃は、胸溜まった興奮のマグマを必死に堪えながら、敢えてそこから目を逸らさなかった。
すると益岡は、そんな彩乃を更に挑発するかのように、ゆっくりとそこに舌を伸ばした。まるでヨーグルトの蓋を舐めるかのように、そのドロドロとした汁をベロベロと舐めまくり、声をネバネバさせながら、「スカートも脱いで……」と呟いた。
舌が動く度に、納豆のような糸が何本も引いていた。それをジッと見つめていると、本当に自分のアソコが舐められているような感覚にとらわれ、そこに感情移入してしまった彩乃は、胸底から溢れる息を、「んふっ……」と鼻から漏らした。
滅茶苦茶にしてほしい。お尻の穴まで犯してほしい。
そんな自虐的な興奮に襲われながら彩乃はスカートを脱いだ。
そして、全裸でそこに正座したまま、ぺちゃぺちゃとクロッチを舐めまくる益岡を黙って見ていた。

益岡は、全裸の彩乃を横目で見ていた。汚れたクロッチを舐め、自分で自分の股間をスリスリと擦りながら、全裸で正座している彩乃を視姦していた。
(二万円で撮影させてください)
そんなオファーは、思わぬ方向へと向かおうとしていた。もちろん彩乃は撮影だけで終わるわけがないと思っていた。逆にそっちのハプニングを期待していたほどだった。
しかし、現実は予想を遥かに超えていた。まさかここまでフェティシズムな変態男だとは思ってもいなかった。
今まで、暴力的なフェチ男には何度か凌辱されたことはあったが、こんなオタク系のフェチ男は初めてだった。
益岡は繊細な男だった。マニアックでフェティシズムなサディストだった。だから今までの男たちのようにガツガツと彩乃の体を貪っては来なかった。彩乃のマゾ心を見透かしているかのようにジワリジワリと屈辱を与え、下品な言葉と残酷な行動で逃げ場のない羞恥を与え、そしてそれに翻弄された彩乃を性人形のように自由自在に操った。
それは、今までに感じたことのない不思議な興奮だった。羞恥心と屈辱感が、これほどストレートに快楽へと変えられたのは初めてだった。
ベッドの前に立たされた彩乃は、まるで着せ替え人形のように、益岡に衣装を着せられていた。ピンクのドレスを着せられると、再び床に座らされ、慣れた手つきでメイクを施された。
彩乃は黙ったまま正座していた。時折、鏡を見せられ、「ミクルンの場合はね、ツケマツゲを二枚重ねにするんですよ。こうしてほんの少しだけ微妙にずらしてやるとね、ほら、よりミクルンっぽくなるでしょ」などと、そんなどうでもいい説明を聞かされながら、口紅さえも益岡に塗られていた。
ピンクのウィッグを頭に被せられ、それ専用の櫛で髪をガサガサととかれた。そこに銀のティアラを乗せると、益岡は「よく似合いますよ」と彩乃に鏡を見せ、満足そうにニヤニヤと笑った。
そして再びそこに立たされた。益岡はベッドに座ったまま、「あとはこれを穿いたら完成ですよ」と嬉しそうに言うと、床のダンボールに手を伸ばし、そこから白い木綿のパンティーを摘み上げた。
言われるがままに右足を持ち上げた。ミニのドレスが捲れ、真っ白な股間に渦巻く陰毛がジリッと擦れた。ベッドに座る益岡は、真正面でそれをチラチラと見ながら右足にパンティーを通した。それはまるで子供にパンツを履かせているようだった。
パンティーはスルスルと滑りながらヘソに向かって上ってきた。益岡はパンティーの両端を摘みながら、それを尻の半分まで持ち上げた。そしてわざとフロント部分をキュッキュッと食い込ませると、ポスターのミクルンピューラと同じ一本の縦線をそこにくっきりと作った。
それは完璧なコスプレだった。過去相当数の女の子にこうしてコスプレさせてきたのであろう、益岡の着せ替えは随分と手慣れていたのだった。
「やっぱり僕の睨んだとおりだ。キミはミクルンに瓜二つだ……」
そう身震いしながらカメラを手に取ると、益岡は彩乃に様々なポーズを取らせた。
興奮した益岡は、まるでプロのカメラマンのように、「いいよ〜最高だよ〜」などと呟きながらシャッターの音を連続して響かせていた。
しかし、床に寝転がりながらローアングルでスカートの中を撮ろうとした時、突然益岡が「ダメだなぁ……」と首を傾げながら立ち上がった。
「食い込みが弱いんですよ。すぐに元に戻ってしまうんですよね……」
そう舌打ちしながら、益岡は彩乃をベッドに座らせた。そして自分もその隣りに腰掛けると、いきなりスカートをペロリと捲った。
一瞬、股を強く閉じた彩乃だったが、しかし、益岡の手が太ももを優しく摩り始めると、まるで催眠術のように股が弛んだ。
益岡の手が太ももの隙間に潜り込んできた。タランチュラのように指を蠢かせながら太ももの内側をくすぐった。
じわりじわりと陰部に迫ってくる指を、彩乃は目で追っていた。するとその五本の指は、突然クロッチのすぐ前でピタリと動きを止め、人差し指だけがそこにヌッと伸びた。
人差し指の先は、湿ったクロッチに突き刺さった。そのまま縦のワレメに沿ってゆっくりと動き出し、何度も何度も上下に往復した。彩乃は下唇をギュッと噛みしめながら、そのいやらしい指の動きを黙って見ていた。
「ミクルンはね、ここが武器なんですよ。トリプルアクセルで食い込んだパンツを敵に見せ、敵がそこに見とれている隙を狙って必殺のミクルンキックを喰らわすんですよ。だからミクルンのコスプレする時は、この食い込みが一番重要なんですよね……」
益岡が彩乃の耳元にそう囁いた。それと同時に、上下に動いていた指先が硬くなったクリトリスでピタリと止まり、いきなりそれをグリグリと転がしてきた。
「あっ」と声を漏らした彩乃は、思わず益岡の腕に顔を押し付けていた。
すると益岡は、そんな彩乃の肩にそっと腕を伸ばし、悶える彩乃を腕に抱いた。そしてそのまま彩乃の体を後ろに倒すと、クリトリスを弄る指を更に早めながら、「大きなクリちゃんですね」と不気味に笑った。

「恐らくこれは、濡れすぎなんですよ。これだけ濡れてると生地が肌にピタリと張り付いてしまって、裂け目に食い込むだけの弛みがなくなってしまうんですよ……きっと……」
益岡はそう言いながらも、その言葉に反して更にそこが濡れるような行為を執拗に繰り返した。
クロッチの隙間に指を入れ、濡れた陰唇を掻き分けながらクリトリスを捕らえた。それを二本の指でヌルヌルと滑らせながら、もう片方の手で上着を捲り、ポテッと零れ出た柔肉をムニュムニュと揉み始めた。
彩乃の頭の中では、あのオナホールを舐めた時から溜まりに溜まっていた欲望が、わんわんと渦を巻いていた。益岡の指の動きが速くなるにつれ、その渦の回転も速くなり、いつの間にか彩乃は益岡の痩せこけた体にしがみつきながら、その腕の中で激しく悶えていた。
益岡は、そんな彩乃を満足そうに見つめながら、ソッとベッドに寝かせた。そして、「このヌルヌルしたものを全て取り除いてしまわなければ、いつまで経っても綺麗な食い込みはできませんからね……」と囁きながら彩乃のパンティーを下ろした。
濡れたクロッチが恥骨から剥がれ、そこに無数の糸を引いた。グショグショのパンティーが骨盤をすり抜けていく感覚に、彩乃は身を捩って悶えた。
そんな彩乃の股を益岡は強引に広げた。そして「僕がこのヌルヌルを綺麗に舐め取ってあげますよ……」と、いやらしく微笑みながら、そこに顔を埋めたのだった。

益岡の舌が陰毛をジャリジャリと這い回った。飛び出したクリトリスをベロリと一舐めすると、そのままワレメに沿って舌を下らせ、汁が溜まった肛門をチロチロと舐めた。
びらびらの陰唇を唇で挟み、ピチャピチャと下品な音を鳴らしてしゃぶった。飛び出したクリトリスを指で転がしながらワレメに吸い付き、舌先で膣穴をこじ開けると、固めた舌を膣の中に入れてきた。
その長い舌は、まるでウナギのようにヌルヌルと泳ぎながら穴の中を往復した。それをされながらクリトリスを指で転がされ、そしてもう片方の手の指で乳首をキュッと摘まれると、堪らなくなった彩乃は、顔をイヤイヤと振りながら大きな声で喘いでしまった。
「ヤリたかったんでしょ……最初からここにはヤリに来たんでしょ……わかってますよ……」
そう意味ありげに笑いながら体を起こした益岡は、ハァハァと肩で息をしている彩乃を見下ろしながらズボンを脱ぎ始めた。
ブルーのトランクスをずらすと、カチカチに硬くなったペニスがヌッと現れ、彩乃の腹の上でビンっと跳ねた。仮性包茎なのか、その亀頭はあんず色とサーモンピンクのツートンに分かれていたが、しかしその根元は木の根のようにがっしりとし、天狗の鼻のように逞しかった。
そんな真っ黒な肉棒をヒコヒコと揺らしながら、益岡は素早くシャツを脱いだ。そして全裸になるなり彩乃の体にしがみつき、ハフハフと臭い息を吐きながら、ポテポテと揺れる乳房に顔を埋めた。
「セックスのためだけに作られたような体してるよね……」
そうニヤニヤと笑いながら肉棒の根元を握り、それをぐるぐると回転させながらワレメに亀頭を滑らせた。

クリトリスも小陰唇も同時に掻き回され、ピチャ、ピチャ、といやらしい音が響いた。その音にクラクラと目眩を感じた彩乃が、思わず「早く入れてください……」と益岡の耳元に囁くと、その声に興奮した益岡は、「変態……」と呟きながら彩乃の顔を覗き込み、悶える彩乃の唇に乱暴に舌を入れてきた。
益岡の獰猛な舌が彩乃の口内を激しく掻き回した。彩乃はウグウグと唸りながら益岡の首にしがみつくと、腰を突き出しうねうねとくねらせた。
すると、そこに押し付けられていた亀頭がツルンっと穴の中に滑り込み、二人が同時に「うっ」と唸った。
益岡は鼻息を荒くさせながら猛然と腰を振ってきた。
彩乃はそんな益岡の舌に自分の舌をヌルヌルと絡めながら股を大きく開いた。
肉棒は根元まで突きささりながら穴の中をズプズプとピストンした。互いの敏感な部分を擦り合わせながら悶える二人は、そのまま明け方までベッドをギシギシと鳴らしていたのだった。

(つづく)
《←目次》《3話へ→》
彩乃はソッとベッドから降りた。そしてそのダンボールの前で静かに正座しながら、「すみません……」と小さく呟いた。
「……あのねぇ、キミは知らないかもしれないけど、撮影会ってのは基本的に時給なんですよ。それは女の子の着替えの時間もトイレの時間も含まれてるんですよ」
「…………」
「だから早く着替えてよ。時間がもったいないだろ。ほら、早くこのパンツに履き替えて」
そう言いながらダンボールの中から白いパンティーを摘まみ出し、それを正座する彩乃の太ももに投げつけた。
戸惑う彩乃を、益岡はベッドの上からカマキリのような目で睨んでいた。そして右足をカクカクと貧乏揺すりさせると、「もしかして恥ずかしいの?」と笑った。
それは、全てを知り尽くした不敵な笑みだった。オナホールをこっそり舐めていた事や、濡れた陰部を弄っていた事など、それらをスマホで覗き見していたからこそできる自信に満ちた笑みだった。
そんな益岡の冷たい笑みに背筋をゾクッとさせた彩乃は、恐る恐るその命令に従った。見ず知らずの男の目前で着替えさせられるというのは、屈辱以外の何物でもなかったが、しかしそんな無慈悲な命令はたちまち彩乃の陰部をジクジクと疼かせ、異様な興奮に襲われた彩乃は、デニムのミニスカートの中からパンティーを摘み下ろしたのだった。

いつの間にか立場は逆転していた。この場合、本来ならスマホで盗撮されていた彩乃の方が怒っていいはずなのに、なぜか彩乃が怒られていた。
そもそも、床に正座したのが悪かった。床に正座しているのとベッドに座っているのとでは、明らかにベッドから見下ろしている者の方が立場は優勢になり、その時点で既に彩乃は益岡に逆らえなくなってしまっていたのだった。
しかし彩乃はこの状況に満足していた。彩乃という女は、虐げられる事で快楽を得るという真のマゾヒストなため、理不尽な上下関係による強要等は即ちエロスなのだ。だからそんな命令に対しても、正常者が感じるような屈辱や怒りといった感情は生まれず、異常者的な快楽がムラムラと湧き上がってくるのだった。
ジッと項垂れたまま、くるくるに丸まったパンティーを足首から抜き取った。それを背後にソッと隠そうとすると、いきなり益岡は「あっ」と言いながらベッドの下から円形状のカゴを取り出し、「脱いだ服はここに入れて」とそれを彩乃に突きつけたのだった。
彩乃の胸底から新たな興奮が湧き上がってきた。そのパンティーのクロッチは激しく濡れており、それをそのままそのカゴの中に入れてしまえば、恥ずかしい部分が益岡に見られてしまうのだ。
その新たな興奮は羞恥心だった。汚れた下着を見られるというのは、直接陰部を見られることよりも恥ずかしい事であり、まして、隠れてこっそり見られるならまだしも、目の前でそれを見られるというのは強烈な羞恥なのだ。
そんな羞恥心に彩乃の胸はギュンギュンと締め付けられた。今にも声が漏れてきそうな唇をワナワナと震わせながら、その汚れたパンティーをカゴの中にパサっと落とした。
チラっとそのパンティーを横目で見ながらも、益岡はそのカゴを床に投げた。そして両膝に両肘をつきながら前屈みになると、「ほら、早く全部脱いで」と彩乃の顔を覗き込んだ。
彩乃はパーカーのジッパーを恐る恐る下ろした。すぐ目の前には益岡の顔が迫っており、次から次へと溢れてくる興奮の鼻息がバレてしまわないかとヒヤヒヤしていた。
パーカーの前がパラリとはだけた。ブラジャーは、さっきずり下げた状態のままであり、ロケット型の巨乳がフルフルと揺れていた。
項垂れたままデニムのミニスカートのボタンを外した。そして、ゆっくりと膝立ちになりながらスカートを下ろそうとすると、不意にベッドの益岡が「うわぁ……」と唸った。
項垂れたままソッと益岡を見ると、いつの間にそれをカゴから取り出したのか、益岡は両手で彩乃のパンティーを広げながらそこを凝視していた。
カッと顔が熱くなり、慌てて「やめてください」とそれを奪い取ろうとすると、益岡は、パンティーを握る手をサッと高く掲げた。そしてそれを頭上でヒラヒラさせると、「どうしてこんなに濡れてるんですか」と、まるで男子が女子に意地悪しているような幼稚な口調でニヤニヤと笑った。
「返してください」と顔を真っ赤にさせながら、彩乃はそれを奪い取ろうと益岡の頭上に手を伸ばした。その勢いで大きな柔肉がタプンッと揺れ、それが益岡の顔にペタンっと当たった。彩乃は慌てて手を引っ込めた。その柔肉を両手で抱きしめながらそれを隠すと、今にも泣き出しそうな表情で「もうやめて下さい……」と、その場にへたり込んだ。
益岡は、そんな彩乃を幼稚な表情で見下ろした。そして汚れたクロッチを大きく広げ、それを彩乃に見せつけながら、「見てよ。こんなに濡れてますよ」とニヤニヤと笑った。

「凄いねこれ……」と呟きながら、益岡は恐る恐るクロッチに鼻を近づけた。「やめてください……」と声を震わせる彩乃を上目遣いでジッと見つめながら、まるでソムリエのように鼻をスッスッと小刻みに鳴らすと、「ヤリマンの匂いがしますよ」とニヤリと笑った。
羞恥で唇が震えた。陰部を直接嗅がれるのは何でもないのに、不思議とそれが汚れたクロッチだと、目眩を感じるほどの羞恥に襲われた。
そんなクロッチに益岡は人差し指を突き立てた。そしてそのテラテラと輝く汁に指腹をヌルヌルと滑らせながら、「キミのアソコもこんな風にヌルヌルしてるのかな?」と呟くと、あたかも彩乃の陰部を弄っているかのように、指をいやらしく動かした。
ヌルヌルと滑る指を彩乃は見ていた。そんなに恥ずかしいのなら見なければいいのに、それでも彩乃は、胸溜まった興奮のマグマを必死に堪えながら、敢えてそこから目を逸らさなかった。
すると益岡は、そんな彩乃を更に挑発するかのように、ゆっくりとそこに舌を伸ばした。まるでヨーグルトの蓋を舐めるかのように、そのドロドロとした汁をベロベロと舐めまくり、声をネバネバさせながら、「スカートも脱いで……」と呟いた。
舌が動く度に、納豆のような糸が何本も引いていた。それをジッと見つめていると、本当に自分のアソコが舐められているような感覚にとらわれ、そこに感情移入してしまった彩乃は、胸底から溢れる息を、「んふっ……」と鼻から漏らした。
滅茶苦茶にしてほしい。お尻の穴まで犯してほしい。
そんな自虐的な興奮に襲われながら彩乃はスカートを脱いだ。
そして、全裸でそこに正座したまま、ぺちゃぺちゃとクロッチを舐めまくる益岡を黙って見ていた。

益岡は、全裸の彩乃を横目で見ていた。汚れたクロッチを舐め、自分で自分の股間をスリスリと擦りながら、全裸で正座している彩乃を視姦していた。
(二万円で撮影させてください)
そんなオファーは、思わぬ方向へと向かおうとしていた。もちろん彩乃は撮影だけで終わるわけがないと思っていた。逆にそっちのハプニングを期待していたほどだった。
しかし、現実は予想を遥かに超えていた。まさかここまでフェティシズムな変態男だとは思ってもいなかった。
今まで、暴力的なフェチ男には何度か凌辱されたことはあったが、こんなオタク系のフェチ男は初めてだった。
益岡は繊細な男だった。マニアックでフェティシズムなサディストだった。だから今までの男たちのようにガツガツと彩乃の体を貪っては来なかった。彩乃のマゾ心を見透かしているかのようにジワリジワリと屈辱を与え、下品な言葉と残酷な行動で逃げ場のない羞恥を与え、そしてそれに翻弄された彩乃を性人形のように自由自在に操った。
それは、今までに感じたことのない不思議な興奮だった。羞恥心と屈辱感が、これほどストレートに快楽へと変えられたのは初めてだった。
ベッドの前に立たされた彩乃は、まるで着せ替え人形のように、益岡に衣装を着せられていた。ピンクのドレスを着せられると、再び床に座らされ、慣れた手つきでメイクを施された。
彩乃は黙ったまま正座していた。時折、鏡を見せられ、「ミクルンの場合はね、ツケマツゲを二枚重ねにするんですよ。こうしてほんの少しだけ微妙にずらしてやるとね、ほら、よりミクルンっぽくなるでしょ」などと、そんなどうでもいい説明を聞かされながら、口紅さえも益岡に塗られていた。
ピンクのウィッグを頭に被せられ、それ専用の櫛で髪をガサガサととかれた。そこに銀のティアラを乗せると、益岡は「よく似合いますよ」と彩乃に鏡を見せ、満足そうにニヤニヤと笑った。
そして再びそこに立たされた。益岡はベッドに座ったまま、「あとはこれを穿いたら完成ですよ」と嬉しそうに言うと、床のダンボールに手を伸ばし、そこから白い木綿のパンティーを摘み上げた。
言われるがままに右足を持ち上げた。ミニのドレスが捲れ、真っ白な股間に渦巻く陰毛がジリッと擦れた。ベッドに座る益岡は、真正面でそれをチラチラと見ながら右足にパンティーを通した。それはまるで子供にパンツを履かせているようだった。
パンティーはスルスルと滑りながらヘソに向かって上ってきた。益岡はパンティーの両端を摘みながら、それを尻の半分まで持ち上げた。そしてわざとフロント部分をキュッキュッと食い込ませると、ポスターのミクルンピューラと同じ一本の縦線をそこにくっきりと作った。
それは完璧なコスプレだった。過去相当数の女の子にこうしてコスプレさせてきたのであろう、益岡の着せ替えは随分と手慣れていたのだった。
「やっぱり僕の睨んだとおりだ。キミはミクルンに瓜二つだ……」
そう身震いしながらカメラを手に取ると、益岡は彩乃に様々なポーズを取らせた。
興奮した益岡は、まるでプロのカメラマンのように、「いいよ〜最高だよ〜」などと呟きながらシャッターの音を連続して響かせていた。
しかし、床に寝転がりながらローアングルでスカートの中を撮ろうとした時、突然益岡が「ダメだなぁ……」と首を傾げながら立ち上がった。
「食い込みが弱いんですよ。すぐに元に戻ってしまうんですよね……」
そう舌打ちしながら、益岡は彩乃をベッドに座らせた。そして自分もその隣りに腰掛けると、いきなりスカートをペロリと捲った。
一瞬、股を強く閉じた彩乃だったが、しかし、益岡の手が太ももを優しく摩り始めると、まるで催眠術のように股が弛んだ。
益岡の手が太ももの隙間に潜り込んできた。タランチュラのように指を蠢かせながら太ももの内側をくすぐった。
じわりじわりと陰部に迫ってくる指を、彩乃は目で追っていた。するとその五本の指は、突然クロッチのすぐ前でピタリと動きを止め、人差し指だけがそこにヌッと伸びた。
人差し指の先は、湿ったクロッチに突き刺さった。そのまま縦のワレメに沿ってゆっくりと動き出し、何度も何度も上下に往復した。彩乃は下唇をギュッと噛みしめながら、そのいやらしい指の動きを黙って見ていた。
「ミクルンはね、ここが武器なんですよ。トリプルアクセルで食い込んだパンツを敵に見せ、敵がそこに見とれている隙を狙って必殺のミクルンキックを喰らわすんですよ。だからミクルンのコスプレする時は、この食い込みが一番重要なんですよね……」
益岡が彩乃の耳元にそう囁いた。それと同時に、上下に動いていた指先が硬くなったクリトリスでピタリと止まり、いきなりそれをグリグリと転がしてきた。
「あっ」と声を漏らした彩乃は、思わず益岡の腕に顔を押し付けていた。
すると益岡は、そんな彩乃の肩にそっと腕を伸ばし、悶える彩乃を腕に抱いた。そしてそのまま彩乃の体を後ろに倒すと、クリトリスを弄る指を更に早めながら、「大きなクリちゃんですね」と不気味に笑った。

「恐らくこれは、濡れすぎなんですよ。これだけ濡れてると生地が肌にピタリと張り付いてしまって、裂け目に食い込むだけの弛みがなくなってしまうんですよ……きっと……」
益岡はそう言いながらも、その言葉に反して更にそこが濡れるような行為を執拗に繰り返した。
クロッチの隙間に指を入れ、濡れた陰唇を掻き分けながらクリトリスを捕らえた。それを二本の指でヌルヌルと滑らせながら、もう片方の手で上着を捲り、ポテッと零れ出た柔肉をムニュムニュと揉み始めた。
彩乃の頭の中では、あのオナホールを舐めた時から溜まりに溜まっていた欲望が、わんわんと渦を巻いていた。益岡の指の動きが速くなるにつれ、その渦の回転も速くなり、いつの間にか彩乃は益岡の痩せこけた体にしがみつきながら、その腕の中で激しく悶えていた。
益岡は、そんな彩乃を満足そうに見つめながら、ソッとベッドに寝かせた。そして、「このヌルヌルしたものを全て取り除いてしまわなければ、いつまで経っても綺麗な食い込みはできませんからね……」と囁きながら彩乃のパンティーを下ろした。
濡れたクロッチが恥骨から剥がれ、そこに無数の糸を引いた。グショグショのパンティーが骨盤をすり抜けていく感覚に、彩乃は身を捩って悶えた。
そんな彩乃の股を益岡は強引に広げた。そして「僕がこのヌルヌルを綺麗に舐め取ってあげますよ……」と、いやらしく微笑みながら、そこに顔を埋めたのだった。

益岡の舌が陰毛をジャリジャリと這い回った。飛び出したクリトリスをベロリと一舐めすると、そのままワレメに沿って舌を下らせ、汁が溜まった肛門をチロチロと舐めた。
びらびらの陰唇を唇で挟み、ピチャピチャと下品な音を鳴らしてしゃぶった。飛び出したクリトリスを指で転がしながらワレメに吸い付き、舌先で膣穴をこじ開けると、固めた舌を膣の中に入れてきた。
その長い舌は、まるでウナギのようにヌルヌルと泳ぎながら穴の中を往復した。それをされながらクリトリスを指で転がされ、そしてもう片方の手の指で乳首をキュッと摘まれると、堪らなくなった彩乃は、顔をイヤイヤと振りながら大きな声で喘いでしまった。
「ヤリたかったんでしょ……最初からここにはヤリに来たんでしょ……わかってますよ……」
そう意味ありげに笑いながら体を起こした益岡は、ハァハァと肩で息をしている彩乃を見下ろしながらズボンを脱ぎ始めた。
ブルーのトランクスをずらすと、カチカチに硬くなったペニスがヌッと現れ、彩乃の腹の上でビンっと跳ねた。仮性包茎なのか、その亀頭はあんず色とサーモンピンクのツートンに分かれていたが、しかしその根元は木の根のようにがっしりとし、天狗の鼻のように逞しかった。
そんな真っ黒な肉棒をヒコヒコと揺らしながら、益岡は素早くシャツを脱いだ。そして全裸になるなり彩乃の体にしがみつき、ハフハフと臭い息を吐きながら、ポテポテと揺れる乳房に顔を埋めた。
「セックスのためだけに作られたような体してるよね……」
そうニヤニヤと笑いながら肉棒の根元を握り、それをぐるぐると回転させながらワレメに亀頭を滑らせた。

クリトリスも小陰唇も同時に掻き回され、ピチャ、ピチャ、といやらしい音が響いた。その音にクラクラと目眩を感じた彩乃が、思わず「早く入れてください……」と益岡の耳元に囁くと、その声に興奮した益岡は、「変態……」と呟きながら彩乃の顔を覗き込み、悶える彩乃の唇に乱暴に舌を入れてきた。
益岡の獰猛な舌が彩乃の口内を激しく掻き回した。彩乃はウグウグと唸りながら益岡の首にしがみつくと、腰を突き出しうねうねとくねらせた。
すると、そこに押し付けられていた亀頭がツルンっと穴の中に滑り込み、二人が同時に「うっ」と唸った。
益岡は鼻息を荒くさせながら猛然と腰を振ってきた。
彩乃はそんな益岡の舌に自分の舌をヌルヌルと絡めながら股を大きく開いた。
肉棒は根元まで突きささりながら穴の中をズプズプとピストンした。互いの敏感な部分を擦り合わせながら悶える二人は、そのまま明け方までベッドをギシギシと鳴らしていたのだった。

(つづく)
《←目次》《3話へ→》