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スリル16・猥褻監獄

2013/06/13 Thu 00:02

 留置場の真っ黒な鉄格子のドアには、頑丈な菱形の鉄網が張られ、ドアの下部には被疑者のプライバシーを守るための乳白半透明のアクリル板が張られていた。
 しかし、恵美が入れられている部屋には、その乳白半透明のアクリル板が付いていなかった。しかもトイレには囲いが無く、床に和式便器が埋め込まれ、剥き出しにされていた。
 そこは保護房と呼ばれる特別室だった。俗に『トラ箱』と呼ばれており、主に泥酔者や暴れる者たちを隔離する為の部屋だった。
 なぜ恵美がそんな部屋に入れられたのかというと、この老朽化した小さな警察署には、女区と呼ばれる女性専用の留置場が設備されていなかったからだった。
 この警察署では、女性や少年が逮捕された場合、成人男性被疑者と隔離する為にひとまずこのトラ箱に入れられると決まっていた。そして、送検後すぐに拘置所の女区に移監されるのだが、しかし恵美の場合は違っていた。
 それは、恵美の事件が、二名を殺害した放火殺人という重罪であり、まして、完全黙秘をして取り調べには一切応じようとしていないからであり、だから送検後も、恵美はこの劣悪なトラ箱に入れられたまま、取り調べを続けられていたのだ。
 しかし、そんな酷い扱いを受けても、恵美は全く堪えていなかった。むしろ、この家畜のような生活に異様なスリルを覚え、愉しんでいるようでもあった。
 そんな恵美を監視するのは婦人警官だった。しかし五時を過ぎると婦人警官はさっさと帰ってしまい、それ以降の恵美の監視は当直の男性看守に引き継がれた。
 この警察署は、留置場の規模が小さいという事から、当直勤務の看守は二人だった。一人は常に監視台にいたが、一人は当直室で仮眠を取っており、九時の消灯時間から六時間後に交代していた。
 そんな当直勤務の看守の中に、常に顔色の悪い二十代の弱々しい青年がいた。彼はいつも先輩看守のパシリに使われ、時には、先輩達から叩かれたり蹴飛ばされたりするといったイジメを受けていた。
 いかにもメンタル面の弱そうな彼は、先輩看守達に何をされても我慢していたが、しかしその裏では、その捌け口を留置場の中の被疑者に向けていた。
 と言っても、気の弱い彼は、強面な粗暴犯や暴力団員は避け、ホームレスや老人や知的障害者といった被疑者ばかりを狙った。そんな弱者にだけ陰湿な意地悪を繰り返していたのだった。
 そんな彼にとって、隔離部屋に閉じ込められている恵美は最高の捌け口だった。恵美は、重罪事件を起こしていながらも完全黙秘しているという、いわゆる警察の敵なのである。
 だから彼は、そんな恵美を虐める事は『正義』であると信じ込んでいた。害鳥駆除という大義名分のもとに鳩を虐待する異常者のように、彼は恵美を虐待する事を勝手に正当化していたのだった。
 恵美は、これまでに何度も彼にお茶をかけられていた。お茶や弁当は、鉄格子の隅の食器孔と呼ばれる小さな扉から出し入れされるのだが、彼は、いつもそこからお茶を手渡す際、わざと紙コップを傾けては、恵美の手に熱いお茶をかけていた。
 しかもそのお茶は、異様なアンモニア臭が漂っていた。紙コップの縁にはいつもビールの泡のようなものが溜まっており、明らかに小便が混入されているとわかった。
 しかし、それでも恵美は、毎回お茶をかけられる事に文句一つ言わず、その小便入りのお茶も黙って全部飲み干した。
 そんな恵美をロッカーの影からソッと覗き見するのが、唯一彼の、先輩看守達から受けるストレスの捌け口となっていたのだった。
 しかしそれは、ある事が切っ掛けで角度を変えた。ある時を境に彼は、恵美をストレスの捌け口とするのではなく、性欲の捌け口へと変えるようになったのだ。
 それは、恵美がこのトラ箱で生活するようになって四日目の夜だった。
 その晩、恵美は、いつも二十分おきに巡視する彼の足音に耳を傾けていた。その足音が聞こえたらすぐに実行できるよう、既に布団の中でジャージのズボンと下着を脱いでいた。
 饐えた臭いのする布団に包まりながら恵美は震えていた。その瞬間を想像すると激しい恐怖に襲われたが、その一方で膣の奥からいやらしい汁がジワジワと溢れて来た。
 暫くすると、スニーカーのゴムがキュッキュッと擦れる足音が聞こえて来た。それはみるみる恵美の部屋へと近付き、そのまま何事も無く普通に通り過ぎて行ってしまった。
 恵美はまだ実行に移さなかった。実行するのは、彼が正面通路ではなく裏通路を通過する時だと決めていた。
 その裏通路というのは、部屋の奥の格子窓の向こう側にある通路だった。
 つまり、部屋が縦長である事から、正面と裏から監視できるようになっていたのだ。
 彼のスニーカーが、正面通路の突き当たりをキュッと回る音が聞こえた。それと同時に恵美は布団から抜け出し、下半身を剥き出したまま、奥の鉄格子の窓へと向かった。
 その窓にはガラスは無く、鉄格子が嵌め込まれているだけだった。部屋の通気を考えてか、その鉄格子は縦スリット窓のように床まで伸びていた。
 そんな鉄格子のすぐ前には和式便器があった。一般の房では便器は壁で囲まれ、何の変哲も無い普通のトイレだったが、しかしこのトラ箱だけは、和式便器が剥き出しにされていた。恵美の場合、女性という事で、便器の横に一メートルほどの仕切り板が置かれていたが、しかし、それはあくまでも正面通路から目隠しされているだけであり、裏通路からは、便器の底の汚物までもが丸見えになってしまうのだった。
 そんな人権を無視した和式便器に、下半身裸の恵美は素早くしゃがんだ。おもいきり足を開き、黒々とした股間を突き出し、息を潜めた。
 薄暗い裏通路の奥からキュッキュッと響くゴム音が近付いて来た。そしてそれは、恵美の目論み通り、便器にしゃがむ恵美の真横でピタっと止まった。
 鉄格子の向こう側に安物のスニーカーが見えた。それを確認するなり恵美は一気に放尿した。
 黄ばんだ便器にビシャビシャと尿が飛び散った。それと同時に、項垂れていた恵美の視界からスニーカーがソッと消えた。
 格子の向こうを横目で見ると、通路の床に伏せながら恵美の股間を覗いている彼の姿が見え、背筋にゾゾっと寒気が走った。
 放尿が終わると、尿がポタポタと垂れる陰部に指を這わせた。指で割れ目を開き、膣筋に力を入れてその内部を剥き出しにすると、中に溜まっていた透明の液体が、ニトッ……と糸を引いて便器の底に垂れた。
 鉄格子の向こう側からギラギラする視線を感じながら、恵美はその赤く輝く毒々しい穴の中に指を滑り込ませた。そしてそこにグチャグチャと卑猥な音を響かせた。
 脳を突き抜けるような快感が走った。思わず「はんっ」と天井に顔を向けると、廊下に這った彼の体がユッサユッサと蠢いているのがわかった。
 恵美は視線を彼に向けた。堂々と彼を見つめながらオナニーをした。
 彼も、どうせこの女は死刑になるキチガイだ、とでも思ったのか、上下に動くペニスを堂々と見せつけてきた。
 恵美は、しゃがんだまま鉄格子に右足を掛けた。まるで雄犬が小便をするようなポーズになると、クパッと開いた膣を三本の指でドロドロと掻き回し、強烈なスリルに心臓を鷲掴みにされながら絶頂に達したのだった。
 それとほぼ同時に、廊下の冷たい床に彼の精液がパタパタと飛び散った。
 その晩からだった。
 彼は恵美をストレスの捌け口としてではなく、性欲の捌け口として見るようになったのだった。

(つづく)

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変態

スリル17・新たなるスリル

2013/06/13 Thu 00:02

 その日も彼は、先輩看守に虐められていた。
 被疑者たちに貸し出される官本の整理がされていないと何癖をつけられ、留置場の隅でスクワットを一〇〇回やらされていた。
 その晩、当直の彼はいつものように恵美の房にやって来た。
 最初のうちは、鉄格子越しにオナニーを見せ合う程度だったが、しかしそのうちエスカレートし、彼は鉄格子の隙間からペニスを突き出すようになっていた。
 恵美は、冷たい鉄格子に額と顎を押し付けながら、彼のペニスをしゃぶった。口内で弾ける生温かい精液を一滴残らず飲み干したりしていた。
 しかし、セックスは無理だった。何度か、鉄格子にお尻を押し付けては彼のペニスを受け入れようとしたが、しかし、彼のペニスがあまりにも小さ過ぎる事から、かろうじて先っぽだけがヌルヌルとピストンするだけだった。
 それでも彼はちゃっかりと射精した。亀頭しか挿入されていなかったが、彼は大量の精液を恵美の穴の中に注入していたのだった。

 そんな彼との不完全なセックスを繰り返していた中、恵美は現住建造物放火と殺人で起訴された。
 被疑者から被告となった恵美は、着々と死刑台に近付いていた。
 恵美は、沙織を惨殺した大磯の罪を被り、放火して自殺した原山の罪まで被って死刑になる事に後悔していなかった。恐怖も怒りも感じていなかったし、むしろ、死刑という究極のSM行為にスリルを感じ、その瞬間を今か今かと待ちわびているほどだった。
 しかし、そんな恵美の感情は、その日の取調室で刑事から聞かされた話しによって大きく急変した。
「恐らく判決は死刑だろう。でも心配するな。お前は死刑台には行かないよ。お前を犯人だとする物的証拠は何も無いんだ。お前があの親子を殺す理由も動機も不明だし、それに何といっても、お前のような華奢な女が、一人であれだけの殺人ができるかという点が非常に疑わしい。だから心配するな。お前は、死刑判決が出たとしても死刑台には行かないよ。法務大臣は、こういった怪しい事件にはなかなか印を押さないんだ……」
 そう言いながら刑事は、机にうつ伏せになっている恵美の尻肉を両手で押さえ、『の』の字を描くように腰を回した。
「……って事はどうなるんですか」
 恵美は机に右頬をグイグイと押し付けられながら聞いた。
「放置だよ。獄死するまで拘置所の中で放ったらかしだよ」
 恵美はゾッとした。
 何十年も狭い箱の中で放置され、そのまま老いて獄死する。
 そんな地味で退屈な人生の結末には、どこにもスリルが見当たらないのだ。

 房に戻った恵美は、床に埋め込まれただけの和式便器にしゃがみ、下腹部に力を入れた。ベロリと開いた割れ目から刑事の精液がドロドロと溢れ出し、それが便器にボタボタと音を立てて落ちた。
「おい」と呼ばれ、項垂れていた顔を慌てて上げると、格子の向こうに彼が立っていた。恐らく、また先輩看守に蹴飛ばされたのだろう、濃紺の制服ズボンの太ももにはスニーカーの跡がくっきりと浮かんでいた。
「明日、拘置所に移監される事が決定した」
 彼はそう淋しそうに呟くと、「今夜でキミとはお別れだ」と、今にも泣き出しそうな表情でゆっくりと俯いた。
 そんな彼の目に、便器の底に溜まった刑事の精液が飛び込んで来た。
 「なんだそれは?」
 彼は慌てて恵美の顔を見た。
 恵美は、いきなり肛門に指を突き刺されたような焦燥感に襲われ、咄嗟に「子供です」と答えてしまった。
「子供?」と、そう首を傾げる彼を見て、恵美はふと思った。
(こいつは馬鹿だ)
 恵美は、そう何度も自分に言い聞かせながら、「そう。あなたの子供ができたの」と、深刻そうに出鱈目を言った。
 彼とセックスをするようになってからまだ十日しか経っておらず、そんなに早く子供などできるわけがなかった。
 しかし彼は気付かなかった。普通の人ならすぐに気付く事なのに、しかしやっぱり彼は馬鹿だった。
 愕然とした彼は、「僕の子供……」と呟いた。体を震わせながら、何度も何度もそう呟いていたのだった。

 深夜二時。
 最後の巡視に来た彼は、「爆睡してたよ」と小さく笑うと、ポケットの中から大きな鍵を取り出した。
 爆睡していたのは先輩看守だった。夕食後、彼に睡眠薬入りの缶コーヒーを飲まされた先輩看守は、仮眠室の布団に包まりながら、まるで四トンダンプが走り去るような大鼾をかいていたのだった。
 ガタン、ガタガタン。
 鈍い鉄の音が、静まり返った廊下に響いた。重い鉄格子の扉が開くなり、彼は二つ折りにした一万円札を恵美に渡した。
「三万円ある。タクシーをいくつも乗り継いで、できるだけ遠くに逃げてくれ」
「あなたは大丈夫なの?」
 急いでゴム草履を履きながら恵美がそう聞くと、彼は「僕の事は心配するな」と頷いた。
「当直の時はね、この鍵は巡査部長しか持てない決まりになってるんだ。だからこの責任は全てあいつが取らされるよ」
 そう笑いながら彼は、いきなり恵美の体を抱きしめた。骨が折れそうなくらい強く強く恵美を抱きしめた。
「キミとは何度もセックスしてきたけど、こうやってキミを抱くのは初めてだね」
 彼は恥ずかしそうにそう囁くと、更に恵美を強く抱きしめながら「絶対に捕まるなよ。元気な子供を産んでくれよ」と泣いた。
 泣きながら彼は、ゆっくりと恵美の体を解放した。そして恵美の顔を真正面から見つめながら、「最後に……キスしてもいい?」と呟いた。
 恵美は笑った。この留置場に来て初めて笑った。いや、サラマンドラという黒い渦に巻かれてから初めて笑ったかも知れない。
「またすぐに会えるんだから最後じゃないよ。これは最初よ」
 恵美はそう笑いながら彼の背中に手を回した。彼は大粒の涙をボロボロと流しながら「ありがとう」と呟いたのだった。

 警察署からは、いとも簡単に出る事ができた。
 一階の交通課には眠そうな顔をした警察官が二、三人いたが、まさかこうして堂々と脱走されるとは夢にも思っていないらしく、平然とそこを横切って行く恵美には見向きもしなかった。
 外に出ると、ほんのりと冷たい夜風が髪を靡かせた。
 ゴム草履をスタスタと鳴らしながら大通りに出ると、走り去る車のライトが妙に眩しく、そこで初めて自由になった実感を感じた。
 夜の闇は二十二日ぶりだった。
 夜の匂いを嗅ぐのも二十二日ぶりだった。
 一つ目の交差点で立ち止まり、信号機に寄り掛かりながら、ゴム草履の中に紛れ込んだ小石をパラパラと払った。
 すると、信号で止まっていた白い車の助手席の窓がジーッと開いた。
 薄汚い中年男が、運転席からジッと恵美を見ていた。
 助手席には、食べ残したコンビニ弁当や雑誌が散乱し、いかにも不審者の匂いがムンムンと漂っていた。
 そんな中年男の右肩が不自然に動いていた。はぁ、はぁ、と小刻みに息を吐く度に、青い無精髭がブツブツと広がる二重顎がタプタプと揺れていた。
 恵美は黙って車に近付くと、助手席の窓からその上下に動いている肉棒を見下ろし、そしてジャージのズボンの前をゆっくりと下ろした。
 真っ白な肌にとぐろを巻いた陰毛が夜風に晒された。
 男は、恍惚とした表情で「ああ……」と呻きながら、上下にシゴく手をいきなり速めた。
「乗ってもいい?」
 恵美がそう聞くと、男は一瞬戸惑いながらも慌ててドアのロックを開けた。
 ドアを開くなり、ペットショップのような饐えたニオイが溢れ出した。

 恵美の新たなるスリルが、今、始まろうとしていた。

(スリル・完)

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変態

オタクの穴1

2013/06/13 Thu 00:02

 湿気を含んだ生温い六月の風が頬を撫でた。
 柳森神社の角から歩道橋を上って行くと、頭上を通る高架橋がドゴンドゴンっと唸った。その音は階段を登るにつれ激しくなり、神田川の真上に差し掛かる頃には凄まじい轟音となって襲い掛かってきた。
 歩道橋を歩く人々が一斉に肩を竦めた。新幹線の威力は、乗客には全く感じられないだろうが、しかしその真下を歩く者たちにとっては震度六強に値した。
 下に神田川、上に新幹線。そんな特殊な歩道橋を出ると、そこには更に特殊な光景が広がっていた。メイド服を着た女の子たちが、くたびれたサラリーマン達に怪しげなチラシを配っている。
 雑踏を潜り抜けながらルノアール前の横断歩道を渡った。自販機の角を曲がると、そこは、人、人、人、で溢れかえっていた。そんな通りの突き当たりには、『秋葉原駅』という文字がぼんやりと浮かんでいたのだった。

 三杉彩乃は、いつもこの通りを抜けてお店に出勤していた。
 くだらない店だった。客もスタッフもバカばっかりのコスチュームカフェだった。
 それでも彩乃はお金のために頑張った。気違いじみた挨拶や幼稚なポーズなど死ぬほど恥ずかしかったが、それでも彩乃は必死にバカのフリをして働いていた。
 そんな店の常連に、益岡と名乗るアニメオタクがいた。
 彩乃が、大好きなアニメのヒロインに似ているからと言い、時給二万円でコスチューム撮影をさせて欲しいと必死に口説いてきた。
 金が必要だった彩乃は、二つ返事でその話に乗った。
 そして、さっそくその日のうちに、指定された益岡のマンションへと向かったのだった。

 そこは、マンションというよりもアパートと呼ぶに相応しい、古くて汚い二階建ての建物だった。
 益岡は、本当に彩乃が来るとは思っていなかったらしく、ドアを開けるなり、「ウッソォー、マジですかー」とオカマのように叫びながら嬉しそうに何度も飛び跳ねていた。

 その部屋は、四畳半ほどの玄関兼用台所と、奥に八畳程度の古びた和室があるだけだった。
 畳の上にベッドとPCデスクが置かれ、その壁一面にはアニメキャラクターのポスターがびっしりと張り巡らされていた。
 彩乃は、とりあえずそのカビ臭い畳の上に座った。すると、陽の当たらない台所で、ペットボトルの『午後の紅茶』をグラスに注いでいた益岡が、「あっ、座布団ありませんから、ベッドに座ってください」と言った。その『午後の紅茶』は明らかに飲みかけだった。

 それは、いかにも通販で売っていそうな安物のベッドだった。カバーが付いていない枕は、涎や顔の油で所々が黄ばんでおり、そこからは中年男特有の頭皮の匂いがムンムンと漂っていた。
 その男は三四歳だった。この間まで引越し会社で働いていたらしいが、つい先日、突然理由もなく解雇され、現在は無職らしい。
 ひょろひょろに痩せた貧乏くさい男だったが、目だけはギラギラと輝き、まるで獲物を狙うカマキリのように鋭かった。笑っているのか怒っているのかわからない表情をしており、話をしている最中も常に彩乃から目を逸らしていた。
 当然、独身だった。今まで女性とは一人も付き合ったことがないらしく、「三次元の女は面倒臭いですから……」などと深刻そうに言いながら、残った午後の紅茶をゴクリとラッパ飲みした。
 そして、そのボサボサの髪をガリガリと搔き毟りながら、「だから僕の恋人はミルクンピューラなんです」と、そのアニメキャラが映るPCの画面を恥ずかしそうに見つめると、強烈な出っ歯をロバのように剥き出し、ウヒウヒと笑い出したのだった。

 そのミクルンピューラというアニメのキャラクターは、ピンクの髪にピンクのドレスを着たお姫様のような女の子だった。やたらと胸が大きく、ミニスカートからはみ出した白いパンツの股間には一本の縦線が食い込んでいるという、明らかに危ない人のためのアニメだった。
 彩乃は、そんなミクルンピューラをソッと横目で見ながら、これのどこが自分に似ているのかさっぱりわからなかった。強いて言うならその大きなオッパイだけであり、顔も髪型も全然似ていないと思った。
 ウヒウヒという不気味な笑いを部屋に響かせながら、益岡は飲み干した午後の紅茶のペットボトルを屑篭の中に投げ捨てた。そして押入れの襖をザザッと開けると、そこからダンボールを一つ取り出し、「さてさて、それではまずはこれに着替えてもらいましょうかね」とそれを彩乃の足元に置いた。
 その中には、テラテラとしたサテン生地のドレスやピンクのハイヒール、そして大きなメイクセットが綺麗に並べられていた。益岡は表情を高揚させながら、それら一つ一つを取り出すと、その中から白いパンティーを摘みあげ、突然「今日の下着は何色ですか?」と聞いてきた。
 彩乃は首を小さく傾けながら、「確か……ピンクだったと思いますけど……」と答えた。すると益岡は「チッ」と舌打ちした。「それNGです。ミクルンは白い下着しか穿きませんから。これジョーシキですから」と、何やら彩乃を責めるかのように強い口調で言うと、「下着もこれに履き替えてください」と、その摘み上げた白い下着を彩乃に渡したのだった。

 唖然としながらそれを見つめていると、益岡は素早くベッドを降り、ミクルンのフィギアが大量に並べてあるカラーボックスの前にしゃがんだ。そして何やらそこをゴソゴソと漁りながら、カラーボックスの裏から等身大の鏡を引きずり出すと、「鏡はここにありますから」と背後の彩乃に振り返った。
 そのまま益岡は台所へと向かった。「着替えてる間、僕は外の廊下で待ってますので、もしメイクの事とかでわからないことがありましたら遠慮なく呼んでください」と言いながら、玄関の靴を履き始めた。
 玄関ドアが開かれると、午後の日差しがパッと注ぎ込み、薄暗い部屋に浮遊している埃をキラキラと輝かせた。スマホを弄りながら外に出ようとした益岡だったが、急に何かを思い出したかのように「あっ、それから……」と足を止めた。
「ミクルンは基本的にブラジャーは付けませんから、ブラジャーはNGでお願いしますね」
 益岡はスマホの画面を見つめたままそうボソリと呟いた。そしてそのままスマホに指を走らせながら、ヨロヨロと外に出て行ったのだった。

 玄関のドアが閉まるなり、一瞬にして光と音が遮断された。
 シーンと静まり返った部屋にポツンと一人取り残された彩乃は、改めてこの三十男の部屋とは思えない幼稚な部屋を見回しながら静かに息を吐いた。
 壁だけでなく天井一面にまで張り巡らされたアニメのポスターは、この日当たりの悪い老朽化した和室を、より一層不気味にさせていた。
 そんなミクルンピューラは、ポスターやフィギアだけでなく、部屋の至る所に潜んでいた。スリッパ、マウスパッド、マグカップ、時計。そして何よりも薄気味悪かったのがベッドと壁の隙間に押し込められていた抱き枕で、そこにプリントされたミクルンの口と股間には、明らかにそれとわかる黄色いシミが点々と付着していた。
 しかし、それよりも更に驚かされたのは、その抱き枕の裏面を見た時だった。裏面にプリントされているミクルンピューラは全裸だった。幼い顔には似つかなぬ豊満なおっぱいをタプンっと突き出し、ノーパンで体育座りをしながら顔を横に向けて喘いでいた。
 そのプリントも薄気味悪かったが、しかしそれよりも彩乃を驚愕させたのは、そんなミクルンピューラの股間に突き刺さっていたオナホールだった。
 それは、アダルトグッズのサイトでよく目にする肌色のシリコン筒で、断面は女性器がリアルに型取られ、奥深い穴の表面は歪にデコボコしていた。
 それを目にした彩乃は、夜な夜なこの穴の中にペニスをピストンさせている男の姿を想像した。そしてその筒に生臭い精液をドクドクと中出ししながら薄気味悪く身悶えているシーンを思い浮かべ、深い息を胸底から吐き出した。
 これが普通の女なら、この時点で逃げ出している事だろう。しかし彩乃は違った。彩乃はもはや普通の女ではなかった。
 好奇心に駆られた彩乃は、そのリアルな断面に恐る恐る指を伸ばし、型取られたクリトリスをソッと指先で撫でた。そして穴の中に指を入れると、そのデコボコの表面に指をムニムニと押し付けながら、そこにペニスが擦り付けられるシーンを頭に描いた。

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 いきなり激しい興奮がムラッと湧き上がった。気がつくと彩乃はその穴の中を犬のようにクンクンと嗅いでいた。
 そこにはゴム臭とローションの匂いと、そして仄かなイカ臭が漂っていた。そんな卑猥な匂いにクラクラと目眩を感じた彩乃は、迷うことなくその穴の中に舌を挿入していた。
 あの男は今までに体験した事のない部類の変態だった。あんな変態男に、もうすぐ自分のアソコもこうやって舐められるのだろうかと、そんな事を考えながら穴の中をピチャピチャと舐めていると、堪らなく陰部がジクジクと疼いてきた。
 ムラムラ感を募らせたまま再びベッドに座り直した。案の定、デニムのミニスカートから覗くピンクのパンティーには、じっとりと濡れた卑猥なシミが浮き出ていたのだった。

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 早く着替えて、あの変態男にズボズボされたい。
 敢えてそんな下品な表現をしながらその変態性欲を昂ぶらせた。
 急いでデニムのミニスカートのボタンを外した。そしてスカートを下ろそうとふと顔を上げると、真正面に置いてあるカラーボックスの中で一瞬何かが動いた気がした。
 デニムのミニスカートに指をかけたまま動きを止めた彩乃は、そのままそこにジッと目を凝らした。
 すると、無数に並んだフィギアの端に、なぜか一台のスマホが不自然に立てかけてある事に気付いた。
 しかもそのスマホは電源が入ったままだった。そしてその画面には、今、ベッドに腰掛けているリアルタイムの自分の姿が映し出されていたのだった。

 それは意図的に仕掛けられたものだった。あの男がもう一台のスマホを使い、テレビ電話によってこの部屋を盗撮しているのだ。
 確かにあの男は、部屋を出て行く前、カラーボックスの前でゴソゴソしていた。きっとあれは、あそこにスマホをセットしていたのだ。
 そう気づくなり、彩乃の背中に冷たいものがゾクっと走った。あの抱き枕のオナホールを舐めているシーンを見られていたのかと思うと、凄まじい羞恥に襲われ、ベッドに腰掛けていた膝がガクガクと震えてきた。
 しかし、そんな羞恥心は一瞬にして快楽へと変わった。あの変態行為が覗かれていたというのは、マゾヒストな彩乃にとって性的興奮の何物でもなかったのだ。
 ムラムラと湧き上がる興奮にクラクラと目眩を感じながら、彩乃はそのスマホからソッと目を逸らした。覗かれているという行為に欲情を覚えた彩乃は、それに気づかないふりをしたまま着替えをしようと思ったのだ。
 スマホのカメラに向かってパーカーのジッパーを下ろした。今にも溢れ出しそうなその豊満な乳肉は、薄ピンクのブラジャーに吊り下げられていた。ドキドキしながらブラジャーに手をかけると、その二つの巨大な乳肉がフルルンっと揺れた。
 この揺れる乳肉をあの男も見ているのだろうかと思うと、異様な興奮が次から次へと湧き上がってきた。恥ずかしいと思えば思うほどに、見られたいという気持ちが高ぶり、半開きの唇から自然に熱い息が漏れた。

(見てください……私を見て勃起してください……)

 そう頭の中で呟きながら震える指でブラジャーをずらした。そこから溢れた柔らかい乳肉が、まるで巨大な水風船がバウンドするかのようにタプンっと跳ね、その全てをそこに晒した。

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 踊る乳肉に合わせ彩乃の呼吸も荒くなった。今頃あの男は、うまくいったぞと細く微笑みながらスマホを見ているのかと思うと、彩乃の被虐心はジクジクと刺激され、すぐにでも肉棒を挿入されたい気分に陥らされた。

 今まで彩乃は、自分は人よりもスケベだということを自覚していた。しかし、今こうしてこの状況で欲情している自分を客観的に見て、やっと気づいた。自分はスケベなどという幼稚なレベルではなく、もはや異常者並みの変態レベルに達しているという事を。

 そのボテッと垂れた巨大な乳肉を両手に乗せ、まるでパン生地のようにポテンポテンっと捏ねた。右手で右乳の乳首を転がし、左手で左乳を持ち上げながらその乳首をチロチロと舐めた。この変態行為が男に見られていると思うと、乳首を転がしていた指は自然に股間へと滑り降りて行った。
 もはやクロッチはハチミツに浸したかのようにヌルヌルに湿っていた。そこに指を滑らせながら腰の位置を微妙に移動させ、股間をスマホに向けた。
 真っ白な太ももに挟まれた薄ピンクのパンティーが画面に映っていた。今これを見ている男は、きっと競走馬のように鼻息を荒くしながら歓喜しているはずだと思うと、もっと男を興奮させてやりたいという欲望に駆られた。
 小指と薬指でクロッチをずらすと、テラテラと濡れ輝くワレメが姿を現した。そこに指を這わすと、まるで牛の涎のような濃厚な汁が無数の糸を引き、ピチャっといやらしい音を立てたのだった。

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 このいやらしい音さえも男は聞いているのだと思うと、そこに這わせた指を動かさずにはいられなかった。
(見ないで……恥ずかしいから見ないで……)と、矛盾した被虐願望を抱きながら、グロテスクなワレメにヌルヌルと指を滑らせ、もう片方の手でミカンの粒のようなクリトリスをキュンキュンと摘んだ。
 熱い息がハァハァと漏れた。腰が自然にカクカクと動き、太ももがヒクヒクと痙攣し始めた。
(このままイッてしまいたい……)
 そう気が遠くなった瞬間、いきなり玄関ドアがコンコンっとノックされ、一瞬にして彩乃は現実へと引き戻された。

「あのぅ……まだでしょうか……」

 男のその声に、彩乃はサッと股を閉じた。そして慌ててパーカーのジッパーを締めながら「まだです」と答えると、男は、「その衣装、結構複雑でしょ……僕、手伝いますよ……」と呟き、彩乃の返事を聞かないまま、いきなりそのドアを開けた。

 午後の日差しが薄暗い部屋にパッと注ぎ込んだ。逆光に照らされた男のシルエットが玄関に浮かび、バタンッとドアが閉まる音が響いた。
 彩乃は呆然としていた。半分しか閉まっていないジッパーから真っ白な乳肉をはみ出したまま、身動きひとつせず固まっていた。

「ミンクルはね、衣装もメイクも複雑なんですよ……だからミンクルのコスプレする人って少ないんです……」

 そう言いながら男は部屋に入ってきた。カマキリのような鋭い目を光らせ、薄い唇を不敵に半分歪ませながら、固まる彩乃に向かってやって来た。
 そんな男の手にはスマホが握られていた。そして男のその股間には、ヘソに向かって伸びる細長い膨らみがくっきりと浮かび上がっていたのだった。

(つづく)

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変態

オタクの穴2

2013/06/13 Thu 00:02

 益岡はドスンッとベッドに腰掛けると、床に置いてあるダンボールの中を覗き込みながら「チッ」と舌打ちした。益岡は不機嫌そうに「まだ何にも着替えてないじゃないですか……」とため息をつくと、そのダンボールの中から、衣装やハイヒールなどを乱暴に取り出し始めた。
 彩乃はソッとベッドから降りた。そしてそのダンボールの前で静かに正座しながら、「すみません……」と小さく呟いた。

「……あのねぇ、キミは知らないかもしれないけど、撮影会ってのは基本的に時給なんですよ。それは女の子の着替えの時間もトイレの時間も含まれてるんですよ」

「…………」

「だから早く着替えてよ。時間がもったいないだろ。ほら、早くこのパンツに履き替えて」

 そう言いながらダンボールの中から白いパンティーを摘まみ出し、それを正座する彩乃の太ももに投げつけた。 
 戸惑う彩乃を、益岡はベッドの上からカマキリのような目で睨んでいた。そして右足をカクカクと貧乏揺すりさせると、「もしかして恥ずかしいの?」と笑った。
 それは、全てを知り尽くした不敵な笑みだった。オナホールをこっそり舐めていた事や、濡れた陰部を弄っていた事など、それらをスマホで覗き見していたからこそできる自信に満ちた笑みだった。
 そんな益岡の冷たい笑みに背筋をゾクッとさせた彩乃は、恐る恐るその命令に従った。見ず知らずの男の目前で着替えさせられるというのは、屈辱以外の何物でもなかったが、しかしそんな無慈悲な命令はたちまち彩乃の陰部をジクジクと疼かせ、異様な興奮に襲われた彩乃は、デニムのミニスカートの中からパンティーを摘み下ろしたのだった。

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 いつの間にか立場は逆転していた。この場合、本来ならスマホで盗撮されていた彩乃の方が怒っていいはずなのに、なぜか彩乃が怒られていた。
 そもそも、床に正座したのが悪かった。床に正座しているのとベッドに座っているのとでは、明らかにベッドから見下ろしている者の方が立場は優勢になり、その時点で既に彩乃は益岡に逆らえなくなってしまっていたのだった。
 しかし彩乃はこの状況に満足していた。彩乃という女は、虐げられる事で快楽を得るという真のマゾヒストなため、理不尽な上下関係による強要等は即ちエロスなのだ。だからそんな命令に対しても、正常者が感じるような屈辱や怒りといった感情は生まれず、異常者的な快楽がムラムラと湧き上がってくるのだった。

 ジッと項垂れたまま、くるくるに丸まったパンティーを足首から抜き取った。それを背後にソッと隠そうとすると、いきなり益岡は「あっ」と言いながらベッドの下から円形状のカゴを取り出し、「脱いだ服はここに入れて」とそれを彩乃に突きつけたのだった。
 彩乃の胸底から新たな興奮が湧き上がってきた。そのパンティーのクロッチは激しく濡れており、それをそのままそのカゴの中に入れてしまえば、恥ずかしい部分が益岡に見られてしまうのだ。
 その新たな興奮は羞恥心だった。汚れた下着を見られるというのは、直接陰部を見られることよりも恥ずかしい事であり、まして、隠れてこっそり見られるならまだしも、目の前でそれを見られるというのは強烈な羞恥なのだ。
 そんな羞恥心に彩乃の胸はギュンギュンと締め付けられた。今にも声が漏れてきそうな唇をワナワナと震わせながら、その汚れたパンティーをカゴの中にパサっと落とした。
 チラっとそのパンティーを横目で見ながらも、益岡はそのカゴを床に投げた。そして両膝に両肘をつきながら前屈みになると、「ほら、早く全部脱いで」と彩乃の顔を覗き込んだ。
 彩乃はパーカーのジッパーを恐る恐る下ろした。すぐ目の前には益岡の顔が迫っており、次から次へと溢れてくる興奮の鼻息がバレてしまわないかとヒヤヒヤしていた。
 パーカーの前がパラリとはだけた。ブラジャーは、さっきずり下げた状態のままであり、ロケット型の巨乳がフルフルと揺れていた。
 項垂れたままデニムのミニスカートのボタンを外した。そして、ゆっくりと膝立ちになりながらスカートを下ろそうとすると、不意にベッドの益岡が「うわぁ……」と唸った。
 項垂れたままソッと益岡を見ると、いつの間にそれをカゴから取り出したのか、益岡は両手で彩乃のパンティーを広げながらそこを凝視していた。
 カッと顔が熱くなり、慌てて「やめてください」とそれを奪い取ろうとすると、益岡は、パンティーを握る手をサッと高く掲げた。そしてそれを頭上でヒラヒラさせると、「どうしてこんなに濡れてるんですか」と、まるで男子が女子に意地悪しているような幼稚な口調でニヤニヤと笑った。
「返してください」と顔を真っ赤にさせながら、彩乃はそれを奪い取ろうと益岡の頭上に手を伸ばした。その勢いで大きな柔肉がタプンッと揺れ、それが益岡の顔にペタンっと当たった。彩乃は慌てて手を引っ込めた。その柔肉を両手で抱きしめながらそれを隠すと、今にも泣き出しそうな表情で「もうやめて下さい……」と、その場にへたり込んだ。
 益岡は、そんな彩乃を幼稚な表情で見下ろした。そして汚れたクロッチを大きく広げ、それを彩乃に見せつけながら、「見てよ。こんなに濡れてますよ」とニヤニヤと笑った。

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「凄いねこれ……」と呟きながら、益岡は恐る恐るクロッチに鼻を近づけた。「やめてください……」と声を震わせる彩乃を上目遣いでジッと見つめながら、まるでソムリエのように鼻をスッスッと小刻みに鳴らすと、「ヤリマンの匂いがしますよ」とニヤリと笑った。
 羞恥で唇が震えた。陰部を直接嗅がれるのは何でもないのに、不思議とそれが汚れたクロッチだと、目眩を感じるほどの羞恥に襲われた。
 そんなクロッチに益岡は人差し指を突き立てた。そしてそのテラテラと輝く汁に指腹をヌルヌルと滑らせながら、「キミのアソコもこんな風にヌルヌルしてるのかな?」と呟くと、あたかも彩乃の陰部を弄っているかのように、指をいやらしく動かした。
 ヌルヌルと滑る指を彩乃は見ていた。そんなに恥ずかしいのなら見なければいいのに、それでも彩乃は、胸溜まった興奮のマグマを必死に堪えながら、敢えてそこから目を逸らさなかった。
 すると益岡は、そんな彩乃を更に挑発するかのように、ゆっくりとそこに舌を伸ばした。まるでヨーグルトの蓋を舐めるかのように、そのドロドロとした汁をベロベロと舐めまくり、声をネバネバさせながら、「スカートも脱いで……」と呟いた。
 舌が動く度に、納豆のような糸が何本も引いていた。それをジッと見つめていると、本当に自分のアソコが舐められているような感覚にとらわれ、そこに感情移入してしまった彩乃は、胸底から溢れる息を、「んふっ……」と鼻から漏らした。
 滅茶苦茶にしてほしい。お尻の穴まで犯してほしい。
 そんな自虐的な興奮に襲われながら彩乃はスカートを脱いだ。
 そして、全裸でそこに正座したまま、ぺちゃぺちゃとクロッチを舐めまくる益岡を黙って見ていた。

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 益岡は、全裸の彩乃を横目で見ていた。汚れたクロッチを舐め、自分で自分の股間をスリスリと擦りながら、全裸で正座している彩乃を視姦していた。
(二万円で撮影させてください)
 そんなオファーは、思わぬ方向へと向かおうとしていた。もちろん彩乃は撮影だけで終わるわけがないと思っていた。逆にそっちのハプニングを期待していたほどだった。
 しかし、現実は予想を遥かに超えていた。まさかここまでフェティシズムな変態男だとは思ってもいなかった。
 今まで、暴力的なフェチ男には何度か凌辱されたことはあったが、こんなオタク系のフェチ男は初めてだった。
 益岡は繊細な男だった。マニアックでフェティシズムなサディストだった。だから今までの男たちのようにガツガツと彩乃の体を貪っては来なかった。彩乃のマゾ心を見透かしているかのようにジワリジワリと屈辱を与え、下品な言葉と残酷な行動で逃げ場のない羞恥を与え、そしてそれに翻弄された彩乃を性人形のように自由自在に操った。
 それは、今までに感じたことのない不思議な興奮だった。羞恥心と屈辱感が、これほどストレートに快楽へと変えられたのは初めてだった。

 ベッドの前に立たされた彩乃は、まるで着せ替え人形のように、益岡に衣装を着せられていた。ピンクのドレスを着せられると、再び床に座らされ、慣れた手つきでメイクを施された。
 彩乃は黙ったまま正座していた。時折、鏡を見せられ、「ミクルンの場合はね、ツケマツゲを二枚重ねにするんですよ。こうしてほんの少しだけ微妙にずらしてやるとね、ほら、よりミクルンっぽくなるでしょ」などと、そんなどうでもいい説明を聞かされながら、口紅さえも益岡に塗られていた。
 ピンクのウィッグを頭に被せられ、それ専用の櫛で髪をガサガサととかれた。そこに銀のティアラを乗せると、益岡は「よく似合いますよ」と彩乃に鏡を見せ、満足そうにニヤニヤと笑った。
 そして再びそこに立たされた。益岡はベッドに座ったまま、「あとはこれを穿いたら完成ですよ」と嬉しそうに言うと、床のダンボールに手を伸ばし、そこから白い木綿のパンティーを摘み上げた。
 言われるがままに右足を持ち上げた。ミニのドレスが捲れ、真っ白な股間に渦巻く陰毛がジリッと擦れた。ベッドに座る益岡は、真正面でそれをチラチラと見ながら右足にパンティーを通した。それはまるで子供にパンツを履かせているようだった。
 パンティーはスルスルと滑りながらヘソに向かって上ってきた。益岡はパンティーの両端を摘みながら、それを尻の半分まで持ち上げた。そしてわざとフロント部分をキュッキュッと食い込ませると、ポスターのミクルンピューラと同じ一本の縦線をそこにくっきりと作った。
 それは完璧なコスプレだった。過去相当数の女の子にこうしてコスプレさせてきたのであろう、益岡の着せ替えは随分と手慣れていたのだった。

「やっぱり僕の睨んだとおりだ。キミはミクルンに瓜二つだ……」
 そう身震いしながらカメラを手に取ると、益岡は彩乃に様々なポーズを取らせた。
 興奮した益岡は、まるでプロのカメラマンのように、「いいよ〜最高だよ〜」などと呟きながらシャッターの音を連続して響かせていた。
 しかし、床に寝転がりながらローアングルでスカートの中を撮ろうとした時、突然益岡が「ダメだなぁ……」と首を傾げながら立ち上がった。

「食い込みが弱いんですよ。すぐに元に戻ってしまうんですよね……」

 そう舌打ちしながら、益岡は彩乃をベッドに座らせた。そして自分もその隣りに腰掛けると、いきなりスカートをペロリと捲った。
 一瞬、股を強く閉じた彩乃だったが、しかし、益岡の手が太ももを優しく摩り始めると、まるで催眠術のように股が弛んだ。
 益岡の手が太ももの隙間に潜り込んできた。タランチュラのように指を蠢かせながら太ももの内側をくすぐった。
 じわりじわりと陰部に迫ってくる指を、彩乃は目で追っていた。するとその五本の指は、突然クロッチのすぐ前でピタリと動きを止め、人差し指だけがそこにヌッと伸びた。
 人差し指の先は、湿ったクロッチに突き刺さった。そのまま縦のワレメに沿ってゆっくりと動き出し、何度も何度も上下に往復した。彩乃は下唇をギュッと噛みしめながら、そのいやらしい指の動きを黙って見ていた。

「ミクルンはね、ここが武器なんですよ。トリプルアクセルで食い込んだパンツを敵に見せ、敵がそこに見とれている隙を狙って必殺のミクルンキックを喰らわすんですよ。だからミクルンのコスプレする時は、この食い込みが一番重要なんですよね……」

 益岡が彩乃の耳元にそう囁いた。それと同時に、上下に動いていた指先が硬くなったクリトリスでピタリと止まり、いきなりそれをグリグリと転がしてきた。
「あっ」と声を漏らした彩乃は、思わず益岡の腕に顔を押し付けていた。
 すると益岡は、そんな彩乃の肩にそっと腕を伸ばし、悶える彩乃を腕に抱いた。そしてそのまま彩乃の体を後ろに倒すと、クリトリスを弄る指を更に早めながら、「大きなクリちゃんですね」と不気味に笑った。

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「恐らくこれは、濡れすぎなんですよ。これだけ濡れてると生地が肌にピタリと張り付いてしまって、裂け目に食い込むだけの弛みがなくなってしまうんですよ……きっと……」

 益岡はそう言いながらも、その言葉に反して更にそこが濡れるような行為を執拗に繰り返した。
 クロッチの隙間に指を入れ、濡れた陰唇を掻き分けながらクリトリスを捕らえた。それを二本の指でヌルヌルと滑らせながら、もう片方の手で上着を捲り、ポテッと零れ出た柔肉をムニュムニュと揉み始めた。
 彩乃の頭の中では、あのオナホールを舐めた時から溜まりに溜まっていた欲望が、わんわんと渦を巻いていた。益岡の指の動きが速くなるにつれ、その渦の回転も速くなり、いつの間にか彩乃は益岡の痩せこけた体にしがみつきながら、その腕の中で激しく悶えていた。
 益岡は、そんな彩乃を満足そうに見つめながら、ソッとベッドに寝かせた。そして、「このヌルヌルしたものを全て取り除いてしまわなければ、いつまで経っても綺麗な食い込みはできませんからね……」と囁きながら彩乃のパンティーを下ろした。
 濡れたクロッチが恥骨から剥がれ、そこに無数の糸を引いた。グショグショのパンティーが骨盤をすり抜けていく感覚に、彩乃は身を捩って悶えた。
 そんな彩乃の股を益岡は強引に広げた。そして「僕がこのヌルヌルを綺麗に舐め取ってあげますよ……」と、いやらしく微笑みながら、そこに顔を埋めたのだった。

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 益岡の舌が陰毛をジャリジャリと這い回った。飛び出したクリトリスをベロリと一舐めすると、そのままワレメに沿って舌を下らせ、汁が溜まった肛門をチロチロと舐めた。
 びらびらの陰唇を唇で挟み、ピチャピチャと下品な音を鳴らしてしゃぶった。飛び出したクリトリスを指で転がしながらワレメに吸い付き、舌先で膣穴をこじ開けると、固めた舌を膣の中に入れてきた。
 その長い舌は、まるでウナギのようにヌルヌルと泳ぎながら穴の中を往復した。それをされながらクリトリスを指で転がされ、そしてもう片方の手の指で乳首をキュッと摘まれると、堪らなくなった彩乃は、顔をイヤイヤと振りながら大きな声で喘いでしまった。

「ヤリたかったんでしょ……最初からここにはヤリに来たんでしょ……わかってますよ……」

 そう意味ありげに笑いながら体を起こした益岡は、ハァハァと肩で息をしている彩乃を見下ろしながらズボンを脱ぎ始めた。
 ブルーのトランクスをずらすと、カチカチに硬くなったペニスがヌッと現れ、彩乃の腹の上でビンっと跳ねた。仮性包茎なのか、その亀頭はあんず色とサーモンピンクのツートンに分かれていたが、しかしその根元は木の根のようにがっしりとし、天狗の鼻のように逞しかった。
 そんな真っ黒な肉棒をヒコヒコと揺らしながら、益岡は素早くシャツを脱いだ。そして全裸になるなり彩乃の体にしがみつき、ハフハフと臭い息を吐きながら、ポテポテと揺れる乳房に顔を埋めた。

「セックスのためだけに作られたような体してるよね……」

 そうニヤニヤと笑いながら肉棒の根元を握り、それをぐるぐると回転させながらワレメに亀頭を滑らせた。

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 クリトリスも小陰唇も同時に掻き回され、ピチャ、ピチャ、といやらしい音が響いた。その音にクラクラと目眩を感じた彩乃が、思わず「早く入れてください……」と益岡の耳元に囁くと、その声に興奮した益岡は、「変態……」と呟きながら彩乃の顔を覗き込み、悶える彩乃の唇に乱暴に舌を入れてきた。
 益岡の獰猛な舌が彩乃の口内を激しく掻き回した。彩乃はウグウグと唸りながら益岡の首にしがみつくと、腰を突き出しうねうねとくねらせた。
 すると、そこに押し付けられていた亀頭がツルンっと穴の中に滑り込み、二人が同時に「うっ」と唸った。
 益岡は鼻息を荒くさせながら猛然と腰を振ってきた。
 彩乃はそんな益岡の舌に自分の舌をヌルヌルと絡めながら股を大きく開いた。
 肉棒は根元まで突きささりながら穴の中をズプズプとピストンした。互いの敏感な部分を擦り合わせながら悶える二人は、そのまま明け方までベッドをギシギシと鳴らしていたのだった。

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(つづく)

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変態

オタクの穴3

2013/06/13 Thu 00:02

 朝から鳴りっぱなしのゲーム音がピタリと止まると、不意に窓の外から、「バックします、バックします」という宅配便らしきトラックのアナウンスが聞こえてきた。
 ベッドでゲームのコントローラーを握っていた益岡が、「早くしてよ、十五分の遅刻だよ」と言いながら、床でキャリーバッグに衣装を詰め込んでいる彩乃の背中を足の爪先でツンッと突いた。
 よろめく彩乃は、「ちょっと待ってよ」と言いながら、パンパンのバッグの中に白いブーツを押し込むと、「だって、急にマラッシュの衣装に変更だなんって言うんだもん……」と、その蓋を無理やり閉めた。
 ふふふ、っと笑う益岡は、「青木君は異端児だからね、ヒロインよりもヒールが好きなんですよ」と薄気味悪く呟いた。
 再び益岡がゲームのスイッチを入れると、部屋中に電子音が響き、いつもと同じ空気が部屋に流れた。
 台所の安っぽいフローリングにキャリーバッグをゴロゴロと鳴らしながら玄関のドアを開けようとすると、背後で益岡が、コントローラーをピコピコさせながら「ねぇ」と呼び止めた。

「青木君ってのはね、彼女いない歴三十五年の素人童貞なんですよ。常にすっごく溜まってる人だから、きっとキミの胸とかお尻とか色々触ってくると思うけど、絶対にエッチだけはさせないでよね……」

 益岡は、テレビ画面をジッと見つめたまま言った。「わかってる」と呟きながらドアを開けた。午前十時の強烈な直射日光が、埃にまみれた廊下を爛々と照らしていた。「信じてるから」と呟く益岡の言葉を背後にドアを閉めた。

 クラックが無数に走るコンクリートの廊下にキャリーバッグを滑らせ、赤サビだらけの縞鋼板の階段を、バッグを担ぎながら一歩一歩慎重に下りた。アパートの前の細い路地の角で、さっきの宅配トラックが立ち往生していた。「右に曲がります、右に曲がります」と執拗に警告を促しながらも、完全にその細い角で身動きできなくなっていた。
 子安駅から電車に乗った。鶴見駅で降りて東口に出た。待ち合わせの横浜銀行へとキャリーバッグをガラガラ引っ張っていくと、銀行横の高架橋の下で、ハザードを点滅させている白いワンボックスカーが見えた。
 きっとこの車だと思いながら、恐る恐る助手席の窓を覗いた。いかにもオタクっぽい薄汚い男が、運転席でスマホを弄りながらマックシェイクを啜っていた。
 コンコンと窓をノックすると、一瞬ビクンっと跳ね起きた男は、慌てて助手席の窓を開けた。
「青木さんですか?」と聞くと、男は「うん」と小さく頷きながら助手席のドアを開けた。そしてその助手席に置いてあったマックの袋を乱暴に後部座席へと放り投げながら、「荷物は後ろに積んで」と、唇の端を歪めて笑ったのだった。


 一ヶ月前のあの日、彩乃は初めて会った益岡と翌朝の九時までセックスをした。
 ミンクルの衣装は、初期、中期、後期の三パターンに分かれており、おまけに必殺技によって変身する衣装が異なっていたため、ネタは尽きることがなく、各衣装に着替える度に彩乃はセックスを求められていたのだった。
 その翌日も益岡に呼び出された。そして同じように何度も衣装を着替えさせられながら明け方までセックスした。そしてその日の帰り際、突然益岡からバイトの話を持ちかけられた。

「簡単なバイトです。コスチュームを着て撮影されるだけでいいんです。それだけで一時間三千円です。しかも、お客はみんな僕の知り合いばかりですから安心です。どうです、いい話でしょ、やってみませんか?」
 
 そう言いながら益岡は、「ミンクルにそっくりなキミなら、軽く二百万くらいは稼げますよ」と自信ありげに笑った。
 二百万円。その数字が彩乃の頭に刷り込まれた。
 その時の彩乃は、今すぐにでも家を出たかった。二百万あればこの町を出れると思った。自分の過去を誰も知らない町で、小さなマンションを借りてひっそりと暮らすことができると思った。
 だから彩乃は益岡のその話に飛びついた。すると益岡は、『ミンクル彩(18)・個人撮影会・一時間五千円・お申し込みは益岡まで』と書いたメールを作成し、コスプレした彩乃の画像と共に次々と知り合いに送り始めた。
 いつの間にか彩乃の芸名は、『ミンクル彩』と決められていた。そしてその差額の二千円についても、「マネージメントとして僕が貰うから」と勝手に決められていたのだった。
 そんなメールを送って一時間も経たないうちに、益岡の携帯に六件のメールが届いた。それら全て『ミンクル彩』の撮影会の申し込みであり、さっそく益岡はそのスケジュールを立て始めた。
 最初の客は三十代の男だった。呼び出された長者町のマンションに一人で行くと、青い王子服に白いタイツを履いた肥満男が待っていた。
 それは、ミンクルに出てくるスパルト王子のコスプレだった。まるでグリム童話に出てくる悪いガマガエル王子のように醜かったが、しかし本人は至って真面目にそれを着ていた。
 部屋には、ミンクルのフィギアがショップのように並べられていた。そこには全裸のミンクルが亀甲縛りをされている物や、しゃがんで小便をしている物まであり、見るからに危険な匂いが漂っていた。
 そんなオタク親父だったが、しかし撮影中は意外にも紳士だった。その視線は常に彩乃の胸や太ももをいやらしく凝視していたが、それでもそこに触れたりすることは一度もなかった。
 しかし彩乃は知っていた。紳士面したこの男が、着替え室にカメラを仕掛けている事を。
 着替え室と言っても、それはリビングの隅の一角をピンクのカーテンで仕切っただけのお粗末な空間だった。そこでミンクルの衣装に着替えている時、ふと足元に置いてあったクズカゴの裏に、赤いランプが光っているのを発見した。最初は、携帯電話か何かを充電しているのだろうと思っていたが、しかし、ソックスを脱ごうと前屈みになった時、それがハンディカメラの録画ランプだということに気づいた。
 しかし彩乃は知らんぷりした。それに気づかないふりをして着替えを続けた。今更着替えを盗撮されたくらいで、ここまで汚れてしまった自分の過去が変わるわけでもないのだ。

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 そんなオタクばかりを毎日三人、コンスタントにこなしていた。このオタクたちは、常に一触即発の危険を漂わせていたが、しかし、絶対に乱暴はしてこなかった。
 内気なオタクたちは、トイレや着替え室にカメラを仕掛けたり、撮影中にこっそりパンチラを撮るのが関の山だった。堂々とセクハラしてくる者は一人もいなかったため、仕事としては随分と楽だった。
 一回の撮影会で最低二時間くらいかかっていた。一日二万円ほどの収入となり、一ヶ月もすると貯金通帳には五十万円ほどのお金が貯まっていた。
 当初の二百万円には程遠い数字だったが、しかし、今までそんな大金を目にしたこともなかった彩乃は、それで十分に満足していた。
 この調子で行けば、来月にはこの町から出られると思った彩乃は、その計画を益岡に話した。そして、残りの一ヶ月はできるだけ多くの客を紹介して欲しいと頼むと、益岡は、ミンクルの天敵であるパラノア大魔王の真似をしながら「了解した」と戯けて笑ったのだった。


 青木のマンションは、日陰の住宅街の中に埋もれるように建っていた。
 いかにもバブル期に建てられた豪華なマンションだったが、しかしその白い外壁タイルは水垢で黒ずみ、そこに掲げてある『入居者募集』の看板の文字も無残に禿げていた。
 ワンボックスカーは一階の駐車場に滑り込んだ。キュキュとタイヤを鳴らしながら何度かハンドルを切り、やっと301と書かれた狭いスペースに車を駐めた。
 助手席のドアを開けると、静まり返った駐車場にコポコポと奇妙な音が響いていた。見ると駐車場のすぐ脇には用水路が流れており、その奇妙な音はそこから聞こえてくる水音だった。

「その用水路にはね、春になるとボラが大量発生するんだ」

 そう呟きながら、青木は後部座席から彩乃のキャリーバッグを下ろした。そしてそれをそのままゴロゴロと引きずりながら歩き出したため、慌てて彩乃が「自分で持ちます」とキャリーバッグに手を伸ばそうとすると、青木は「それなら、先に行ってエレベーターのボタンを押しててよ」と笑いながら駐車場の奥を指差した。
「はい」と小さく返事をしながら彩乃は先に進んだ。静まり返った駐車場にヒールの踵がカツコツと響いた。ふと、あの細い用水路に大量発生したボラの大群が頭を過ぎり、歩きながら背筋がブルっと震えた。
 しかしそれは、決してボラの大群を想像したからではなかった。それは、背後からゴロゴロと迫ってくる青木が、ミニスカートから伸びる太ももの裏や尻や腰を視姦している気配を感じたため震えたものだった。

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 青木の部屋は普通の部屋だった。フィギアもポスターも何もなく、比較的すっきりしていた。
 着替えはここでして下さいと言われ脱衣場に案内された。甘いボディーソープの香りが漂い、棚のタオルは一枚一枚几帳面に畳まれていた。
 そこにカメラは見当たらなかった。今までのオタクたちは、最低でも着替え室とトイレにはカメラを仕掛けていた。この業界はそれが当たり前だった。暗黙の了解で、盗撮も料金に含まれているのだ。
 が、しかし、ここにはカメラが仕掛けられていなかった。
 彩乃は、今までのオタクとは何かが違うと違和感を感じながらも、マラッシュの衣装に着替えた。いつもと違うメイクをし、ゴールドのウィッグを付け、緑のリボンでサイドテールに縛った。
 最後はパンティーだった。ミクルンのライバルであるマラッシュは、性器も肛門もないミューテーションだったため、マラッシュのコスプレをする時はノーパンと決まっているのだ。
 ミニスカートの中に手を入れ、そのままパンティーを太ももまでスルッと下ろした。うぐいす色のパンティーの裏は、一部だけがテラテラと輝き、そこに透明の糸を引いていた。
 それは、青木の執拗なる視姦によって滲み出た恥汁だった。その粘りっけのある汁を目にした瞬間、今まで草食系のオタク達に生殺しにされていた陰部がズキンっと疼いたのだった。

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 部屋へ行くと、青木はソファーにポツンと座りながらスマホを弄っていた。そこにはカメラも照明も何も準備されておらず、今から撮影する気配は全く感じられなかった。
 彩乃に気づいた青木は、「あっ、どうぞ」と言いながら尻をずらしてソファーを空けた。恐る恐るそこに腰掛けると、「何か飲む?」と言いながらスマホをシャキンっと閉じた。
「いえ……」と首を振る彩乃の顔を青木は真正面から覗き込んだ。「かわいいね……だけど、やっぱりキミはマラッシュよりもミンクルに似てるね」などと呟きながら、右頭に縛ったサイドテールの髪を指で解き始めた。
 今までの空気ではなかった。状況が全く違っていた。今までのオタクはお世辞など口にする間もなくカメラのシャッターを切りまくっていたのだ。
 項垂れたまま黙っていた彩乃が、「あのぅ……」と言いながらソッと顔を上げた。真正面に迫る青木のギラギラした目に一瞬怯えながらも、「撮影は……」と聞いた。
「撮影?」と小首を傾げながら、青木は「僕にそんな趣味はないよ」と笑った。そして更に彩乃の顔に顔を近づけながら、「キミは撮影して欲しいの?」と囁き、彩乃の細い肩に腕を回してきたのだった。

 やっぱりいつもと違う。
 そう確信するなり、青木のカサカサの唇が彩乃の唇を塞いだ。そしてそのまま顔を斜めに向け、閉じていた彩乃の唇を舌でこじ開けてきた。
 生温い青木の舌が、口内でゆっくりと回転した。頭の中で(どういうこと?)と問いながらも、その滑らかに動き回る青木の舌に彩乃は舌を絡めてしまっていた。
 久しぶりの優しいキスは、瞬時に彩乃の脳を蕩けさせた。この一ヶ月、撮影が忙しくてセックスする暇がなかった。オタク達に着替えやトイレを盗撮され、性欲ばかりがムンムンと溜まっていたが、しかし、忙しさに駆られてそれを発散できずにいた。
 そんな溜まりに溜まっていた性欲は、艶かしい舌で唇をこじ開けられた事によって一気に溢れ出した。
 脳が乱れた彩乃は、舌で口内を掻き回されながら、「んんん……んんん……」と唸っていた。そしてここを触ってと言わんばかりに、自らノーパンの股を大きく開くと、衣装の上から胸を摩っていた青木の指が、まるでそこに吸い寄せられるようにスルスルと音を立てて下って行った。
 すると、静かに舌を抜いた青木が、割れ目に四本の指を滑らせながら「もうヌルヌルだね……」っと囁いた。

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 気がつくと彩乃は悲鳴をあげていた。四本の指が、プチャプチャと卑猥な音を立てて這い回る度に彩乃が悲鳴をあげるため、それはまるでギターを弾いているようだった。
 その指が、ヌルヌルと滑りながら穴をこじ開けてきた。縦に並んだ四本の指は、明らかに割れ目よりも大きかったが、それでもその指は縦に整列したまま前に進み、強引に穴の中に潜り込んできた。
 四本に並んだ指は、歪に窄められながらも、狭い穴の中をグニョグニョと蠢いた。それらが根元まで沈んでしまうと、二軍の親指が陰毛を掻き分け、そこに飛び出しているクリトリスに攻撃を仕掛けてきた。
 穴の中を搔き回す四本の指と、クリトリスを乱暴に転がし回る親指に、彩乃は、「はぁぁぁぁん」と大きな悲鳴をあげ、思わず腰を引いてしまった。
 すると指は、いとも簡単にヌルっと抜けた。青木は無数の糸を引く指を彩乃に見せつけた。そして「噂通りの変態だね」と微笑むと、そのままソファーを滑り降り、彩乃の真正面にしゃがみながらその両足をソファーの上にゆっくりと持ち上げた。
 M字に広げられた股の中を、青木はニヤニヤしながら見ていた。「尻の穴にまで垂れてるよ」などと羞恥を与えながら、そのヌルヌルに濡れた指先を割れ目に沿って上下させ、そこに卑猥な音をピチャピチャと立てた。

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 そうしながらも青木は、悶える彩乃に「おっぱい出してごらん」と囁いた。
 その青木の声が脳をぐるぐると回転させた。彩乃は目眩を感じながらもその命令に従い、そこに巨大な柔肉を波打たせた。

「おっきなおっぱい……乳首もビンビンに勃ってんじゃん」

 青木はニヤニヤ笑いながら、痛々しいまでに勃起した乳首を指でポロポロと転がした。すかさず彩乃が「あああん」と身を捩らせると、そんな彩乃を満足そうに見つめながら、「さすが超人気のミクルン彩だけあって感度いいね」と意味ありげに笑った。
 再び青木は両足を持ち上げた。ソファーの上でまんぐり返しのような体勢にしながら、改めて彩乃の目を見つめた。

「どうして欲しい? もうチンチン入れちゃう? それとも先に舐めて欲しい?」

 まるで子供に話しかけるような幼稚な口調でそう言いながら、青木は首を小さく傾げた。
 彩乃は、ハァハァと荒い息を吐きながらそんな青木を見下ろしていた。そして、「……舐めて……ください……」と途切れ途切れに答えると、剥き出しにした膣をヒクヒクさせながら腰を持ち上げた。
 ニヤリと笑った青木は、真っ赤な舌をゆっくりと突き出した。わざとそのシーンを彩乃に見せつけようと両手で尻を持ち上げると、そのドロドロにふやけた割れ目に舌をペタッと這わせた。
 ぺちゃ、ぺちゃ、ぺちゃ、と、まるで猫がミルクを飲んでいるような音が部屋に響いた。その舌は、膣、クリトリス、小陰唇の隙間など、あらゆる部分を滑りまくり、キュッと窄んだ肛門までも丁寧に舐めていた。
 そうしながらも青木は上目遣いで彩乃を見つめ、時折、「これで四万なら安いもんだね」などと呟いた。
 そんな青木の呟く言葉を朦朧とする意識の中で聞きながら、彩乃はやっとこの状況を理解した。

(これは最初から……撮影会ではなく売春だったんだ……)

 益岡に売られたんだと思った。マンションを出る前、「絶対にエッチだけはさせないでよね」などと念を押していた益岡のわざとらしさに怒りを覚えた。
 しかし、だからと言って、今のこの状況から逃れたいというわけではなかった。
 陰部を舐められながら悶えている彩乃は、益岡に対する不信感を激しく募らせながらも、早く肉棒を入れて欲しいと思っていたのだった。

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(つづく)

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変態
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