スリル6・デリヘル待機所
2013/06/13 Thu 00:02
原っぱのような駐車場に車が滑り込むと、藤田は運転席からフロントガラスに身を乗り出した。真正面に建つ薄汚れたマンションを見上げながら「ここの三階が待機所だ」と言った。それはマンションというより、高度成長期に建てられたマンモス団地のようだった。
駐車場は舗装されていないため、タイヤが小石をパチパチと弾いていた。その音を聞きつけたのか、三階のバルコニーから坊主頭の中年男がヌッと顔を出し、藤田の車に向かってへコッと頭を下げた。
入口の壁に、『さとうのうんこ』と赤いスプレーで落書きされていた。それが佐藤なのか砂糖なのか考えながら藤田の後について行くと、駐輪場にサドルの無い自転車が二台並んでいるが見えた。
エレベーターの壁には、公衆便所のような卑猥な落書きがそこらじゅうに書かれ、その天井には、なぜか数十枚の大長森神社のお札がびっしりと貼られていた。
ガタン! と激しい揺れと共にエレベーターの扉がゆっくりと開いた。
扉の向こうには日陰の廊下が貪よりと続き、コンクリートがカラカラに乾いた埃っぽい風が泳いでいた。ペンキが剥がれた鉄の扉がズラリと並び、その光景は、まるで軍艦島のように不気味だった。
『三ノ六号』とプレートが貼られた扉を開くと、中から異様な臭いが漂って来た。
玄関にはさっきの坊主頭の中年男が待ち構えていた。
「さっき電話で話した久美子ちゃんだ」
藤田は、ついさっき車の中で考えたばかりの恵美の源氏名を坊主頭の男に告げると、なぜか口に手をあてたまま、そそくさと廊下を進んで行った。
玄関先で「久美子です……」と恐る恐る頭を下げると、坊主頭の男は、まるでお地蔵様のような人懐っこい笑顔を浮かべながら、「ここの責任者を任されてます原山ですぅ」と、どこか違和感のある関西弁でお辞儀をした。
原山は埃だらけの下駄箱から真っ黒に汚れたスリッパを出した。そして恵美に向かって「さっ、どうぞ」とそれを廊下の先に並べた。
その異様な匂いの元は原山だった。原山が前屈みになると強烈なワキガ臭がモワッと漂い、スリッパを履く恵美は、おもわず息を止めてしまった。
トイレと浴室が並ぶ廊下を抜けると、六畳のダイニングキッチンに出た。その横には八畳ほどの居間があり、それぞれにバルコニーが付いているため、部屋の中には、あの軍艦島のような暗さは全く感じられなかった。
キッチンでは、ダイニングテーブルに気怠く座った藤田が、ジョージアの缶コーヒーをジュジュジュと啜っていた。
そっと八畳の居間を覗くと、女が二人いた。
腰まで黒髪を伸ばした一人の女は、テレビの前で胡座をかきながらゲームをしていた。それは、襲って来るゾンビを撃ち殺すというシューティングゲームで、十五年ほど前に流行ったものだった。
もう一人の女は、押し入れの襖にぐったりと凭れ掛かりながら、無言で畳の一点をジッと見つめていた。その姿はどう見ても十代の少女であり、そんな彼女の両腕の裏側には、無数のリストカットの傷跡が、まるで線路のように続いていた。
「出勤日とか給料とか何でも原山さんに聞けばいいから」
藤田はそう言いながら立ち上がった。カップ麺の空箱が大量に積み重ねられた流し台に飲みかけの缶コーヒーをコンっと置くと、原山から顔を背けながら「それじゃ、あとはヨロシク」と告げ、早々と部屋を出て行ってしまったのだった。
鉄扉が閉まる音が背後で響くと、原山は、「こっちへどうぞ」と言いながら、キッチンで突っ立ったままの恵美を居間に案内した。
居間の真ん中にある卓袱台の上には、懐かしいプッシュ回線の電話機が置いてあった。その受話器には、『変態倶楽部・サラマンドラ』とプリントされたテプラが貼られ、本機から飛び出した電話帳には、系列店と思われる店の電話番号がズラリと書き込まれていた。
原山は、テレビの横に置いてあったミニ冷蔵庫を開けた。四つん這いで中を覗きながら、「コーヒー、コーラ、ミルクティー。何飲みます?」と恵美に聞いて来た。
冷蔵庫の中にはプリンやヨーグルトが大量に押し込められ、それらの蓋には女の名前がマジックで殴り書きされていた。
恵美が「いえ、結構です……」と答えると、原山の横でゲームをしていた黒髪の女が「くさい!」と、いきなり叫んだ。そして画面に現れるゾンビに向かって「くさい! くさい! くさい!」、と連続して叫びながら次々にゾンビを撃ち殺していった。
そんな黒髪の女は、左手を口元にあて、右手だけで器用にコントローラーを操っていた。しかも女の右手の指は四本しか無く、小指が不気味に第二関節から欠損していた。
原山は冷蔵庫の中からミルクティーを取り出すと、それを恵美の前にソッと置き、黒髪の女を横目でそっと見た。
「この人は静香さん。宿無しですからここに住んでます」
そう言いながら卓袱台にゆっくりと身を乗り出すと、「シャブで狂うてますから相手にせんほうがええですわ」と、恵美の耳元に向かって囁いたのだった。
そんな静香の「くさい! くさい!」と叫ぶ声を背後にしながら、原山はバッグの中から一枚の書類を取り出し、それを卓袱台に広げた。
それは『同意書』と書かれた書類だった。
「藤田さんから聞いてはると思いますけど、ウチは普通のデリと違いますから、一応、これにサインしておいて下さい」
そこには、『営業中にいかなるトラブルが発生しようとも店には一切の責任を問いません』、といった内容の文章が十項目ほど並んでいた。
そのひとつひとつに目を通していると、原山はそれを詳しく読まれたくないのか、読んでいる最中の恵美に話し掛けて来た。
「そっちの子は沙織ちゃん言いますねん。この子もね、精神病院を逃げてきてますから今はここで暮らしてますわ。病院の薬で脳をやられてしもうてますから、意思の疎通はなかなか難しい思いますけど、まぁ、仲ようしてやって下さい」
「はい……」と頷きながら恵美が沙織に振り返ると、原山は素早く朱肉の蓋を開け、「まぁ、ここには色んな子がいますわ」と呟きながら恵美の右手首を掴んだ。そして、恵美の人差し指を卑猥に伸ばしながら、「精神病、身体障害者、覚醒剤中毒、自殺願望者。中には、車椅子の子もいますから……」と説明を始め、恵美がそのショッキングな話に気を取られているうちに、素早くその同意書に恵美の指印を押してしまったのだった。
その同意書を、原山はそそくさとバッグの中にしまいながら、「で、久美子さんはどんな病をお持ちですのん?」と聞いて来た。
恵美が言葉に詰まっていると、ふと、バーガーショップで藤田に言われた言葉が蘇ってきた。
(キミは、自分では気付いていないかも知れないけど破滅願望があるね。キミは変態共に嬲り殺しにされたいと思っている究極のマゾヒストだよ)
そんな言葉を思い出したとたん、恵美の脳にメラメラと轟く黒い渦が立ち込めた。
下唇を噛みながら黙っていると、原山は「雰囲気からして、マゾちゃいますか?」と笑った。
恵美が小さくコクンっと頷くと、原山はニヤニヤと笑いながら、「ほなら、こんなブッサイクなチ○ポでイジメられたいちゃいますのん」と、ヨレヨレのパジャマのズボンの前をズルッと下げた。
そこに飛び出したペニスは、七割皮を被った真性包茎だった。
皮からほんの少しだけ頭を出す真っ赤な亀頭の先には、消しゴムの滓のような恥垢が、惨めにポロポロと付着していたのだった。
(つづく)
《←目次》《7話へ→》
駐車場は舗装されていないため、タイヤが小石をパチパチと弾いていた。その音を聞きつけたのか、三階のバルコニーから坊主頭の中年男がヌッと顔を出し、藤田の車に向かってへコッと頭を下げた。
入口の壁に、『さとうのうんこ』と赤いスプレーで落書きされていた。それが佐藤なのか砂糖なのか考えながら藤田の後について行くと、駐輪場にサドルの無い自転車が二台並んでいるが見えた。
エレベーターの壁には、公衆便所のような卑猥な落書きがそこらじゅうに書かれ、その天井には、なぜか数十枚の大長森神社のお札がびっしりと貼られていた。
ガタン! と激しい揺れと共にエレベーターの扉がゆっくりと開いた。
扉の向こうには日陰の廊下が貪よりと続き、コンクリートがカラカラに乾いた埃っぽい風が泳いでいた。ペンキが剥がれた鉄の扉がズラリと並び、その光景は、まるで軍艦島のように不気味だった。
『三ノ六号』とプレートが貼られた扉を開くと、中から異様な臭いが漂って来た。
玄関にはさっきの坊主頭の中年男が待ち構えていた。
「さっき電話で話した久美子ちゃんだ」
藤田は、ついさっき車の中で考えたばかりの恵美の源氏名を坊主頭の男に告げると、なぜか口に手をあてたまま、そそくさと廊下を進んで行った。
玄関先で「久美子です……」と恐る恐る頭を下げると、坊主頭の男は、まるでお地蔵様のような人懐っこい笑顔を浮かべながら、「ここの責任者を任されてます原山ですぅ」と、どこか違和感のある関西弁でお辞儀をした。
原山は埃だらけの下駄箱から真っ黒に汚れたスリッパを出した。そして恵美に向かって「さっ、どうぞ」とそれを廊下の先に並べた。
その異様な匂いの元は原山だった。原山が前屈みになると強烈なワキガ臭がモワッと漂い、スリッパを履く恵美は、おもわず息を止めてしまった。
トイレと浴室が並ぶ廊下を抜けると、六畳のダイニングキッチンに出た。その横には八畳ほどの居間があり、それぞれにバルコニーが付いているため、部屋の中には、あの軍艦島のような暗さは全く感じられなかった。
キッチンでは、ダイニングテーブルに気怠く座った藤田が、ジョージアの缶コーヒーをジュジュジュと啜っていた。
そっと八畳の居間を覗くと、女が二人いた。
腰まで黒髪を伸ばした一人の女は、テレビの前で胡座をかきながらゲームをしていた。それは、襲って来るゾンビを撃ち殺すというシューティングゲームで、十五年ほど前に流行ったものだった。
もう一人の女は、押し入れの襖にぐったりと凭れ掛かりながら、無言で畳の一点をジッと見つめていた。その姿はどう見ても十代の少女であり、そんな彼女の両腕の裏側には、無数のリストカットの傷跡が、まるで線路のように続いていた。
「出勤日とか給料とか何でも原山さんに聞けばいいから」
藤田はそう言いながら立ち上がった。カップ麺の空箱が大量に積み重ねられた流し台に飲みかけの缶コーヒーをコンっと置くと、原山から顔を背けながら「それじゃ、あとはヨロシク」と告げ、早々と部屋を出て行ってしまったのだった。
鉄扉が閉まる音が背後で響くと、原山は、「こっちへどうぞ」と言いながら、キッチンで突っ立ったままの恵美を居間に案内した。
居間の真ん中にある卓袱台の上には、懐かしいプッシュ回線の電話機が置いてあった。その受話器には、『変態倶楽部・サラマンドラ』とプリントされたテプラが貼られ、本機から飛び出した電話帳には、系列店と思われる店の電話番号がズラリと書き込まれていた。
原山は、テレビの横に置いてあったミニ冷蔵庫を開けた。四つん這いで中を覗きながら、「コーヒー、コーラ、ミルクティー。何飲みます?」と恵美に聞いて来た。
冷蔵庫の中にはプリンやヨーグルトが大量に押し込められ、それらの蓋には女の名前がマジックで殴り書きされていた。
恵美が「いえ、結構です……」と答えると、原山の横でゲームをしていた黒髪の女が「くさい!」と、いきなり叫んだ。そして画面に現れるゾンビに向かって「くさい! くさい! くさい!」、と連続して叫びながら次々にゾンビを撃ち殺していった。
そんな黒髪の女は、左手を口元にあて、右手だけで器用にコントローラーを操っていた。しかも女の右手の指は四本しか無く、小指が不気味に第二関節から欠損していた。
原山は冷蔵庫の中からミルクティーを取り出すと、それを恵美の前にソッと置き、黒髪の女を横目でそっと見た。
「この人は静香さん。宿無しですからここに住んでます」
そう言いながら卓袱台にゆっくりと身を乗り出すと、「シャブで狂うてますから相手にせんほうがええですわ」と、恵美の耳元に向かって囁いたのだった。
そんな静香の「くさい! くさい!」と叫ぶ声を背後にしながら、原山はバッグの中から一枚の書類を取り出し、それを卓袱台に広げた。
それは『同意書』と書かれた書類だった。
「藤田さんから聞いてはると思いますけど、ウチは普通のデリと違いますから、一応、これにサインしておいて下さい」
そこには、『営業中にいかなるトラブルが発生しようとも店には一切の責任を問いません』、といった内容の文章が十項目ほど並んでいた。
そのひとつひとつに目を通していると、原山はそれを詳しく読まれたくないのか、読んでいる最中の恵美に話し掛けて来た。
「そっちの子は沙織ちゃん言いますねん。この子もね、精神病院を逃げてきてますから今はここで暮らしてますわ。病院の薬で脳をやられてしもうてますから、意思の疎通はなかなか難しい思いますけど、まぁ、仲ようしてやって下さい」
「はい……」と頷きながら恵美が沙織に振り返ると、原山は素早く朱肉の蓋を開け、「まぁ、ここには色んな子がいますわ」と呟きながら恵美の右手首を掴んだ。そして、恵美の人差し指を卑猥に伸ばしながら、「精神病、身体障害者、覚醒剤中毒、自殺願望者。中には、車椅子の子もいますから……」と説明を始め、恵美がそのショッキングな話に気を取られているうちに、素早くその同意書に恵美の指印を押してしまったのだった。
その同意書を、原山はそそくさとバッグの中にしまいながら、「で、久美子さんはどんな病をお持ちですのん?」と聞いて来た。
恵美が言葉に詰まっていると、ふと、バーガーショップで藤田に言われた言葉が蘇ってきた。
(キミは、自分では気付いていないかも知れないけど破滅願望があるね。キミは変態共に嬲り殺しにされたいと思っている究極のマゾヒストだよ)
そんな言葉を思い出したとたん、恵美の脳にメラメラと轟く黒い渦が立ち込めた。
下唇を噛みながら黙っていると、原山は「雰囲気からして、マゾちゃいますか?」と笑った。
恵美が小さくコクンっと頷くと、原山はニヤニヤと笑いながら、「ほなら、こんなブッサイクなチ○ポでイジメられたいちゃいますのん」と、ヨレヨレのパジャマのズボンの前をズルッと下げた。
そこに飛び出したペニスは、七割皮を被った真性包茎だった。
皮からほんの少しだけ頭を出す真っ赤な亀頭の先には、消しゴムの滓のような恥垢が、惨めにポロポロと付着していたのだった。
(つづく)
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スリル7・変態専門店
2013/06/13 Thu 00:02
変態専用デリヘル。その待機所には二人の女がいた。一人はゲームに狂い、一人は廃人のように瞬きすらしないままぼんやりしていた。
そんな二人の女がいる部屋で、恵美は今、細い足首からパンティーを抜き取ろうとしていた。
それを見ていた原山が、そのパンティーを素早く奪い取った。そして恵美が見ている前でそれを広げ、クロッチに染み付いた黄色いオリモノをチロチロと舐め始めた。
それはまるで、汲み取り便所の穴に潜むカマドウマが汚物を吸っているように気色悪かった。おもわず目を背けてしまった恵美だったが、しかしそんな恐怖と羞恥が恵美にスリルを与え、胸の奥で燻っていた変態性欲を激しく燃え上がらせた。
「しゃぶって」
そう言いながら原山は、胡座をかいた股の中心から真性包茎のペニスを突き出した。
全裸の恵美は、丸い尻を突き出しながら四つん這いになった。五十を過ぎた男の薄汚い股間に顔を埋め、その生ゴミのような臭いが漂う肉の塊を口に含んだ。
恵美の顔が上下する度に、ぷちゃ、くちゃ、と湿った音が部屋に響いた。
ゲームをしていた黒髪の女がソッと後ろを振り向き、それを咥える恵美を見ながら、「金も貰わないで、よくそんな奴のチ○ポしゃぶるわ」と、呆れるように笑った。
皮から三割しか顔を出していない亀頭を舌先でチロチロと舐めた。皮の隙間からジワジワと滲み出てくる臭汁は、醤油のような味がした。
その時、卓袱台の上の電話が鳴り出した。
恵美の髪を優しく撫でていた原山の手が、素早く受話器に伸びた。
「お電話ありがとうございますサラマンドラです」
原山の野太い声が頭上で響いた。「はい、はい」と対応する原山の口臭を感じながら、恵美はその醜い肉棒を激しくしゃぶり続けた。
「アナルでっか? ええ、もちろんイケますよ。ウチは変態専門の女の子ばかりを用意してますから、基本的に殺す以外でしたら何をしてもらってもかまいません」
そう卑しく笑う原山が、ふと奴隷商人に思えた。私は商品なんだ、と思った。そう思う恵美は、今から変態男に買われるというスリルに胸を締め付けられ、背筋をゾクゾクと痺れさせていた。
「繰り返しまっせ、東円町の『ホテル・グリーンヒル』302号室、佐々木さんですね」
原山は、それを素早く信用金庫のメモ帳に控えると、「では、三十分以内にお伺いしますんで」と、まるでピザ屋のように電話を切ったのだった。
受話器を置くと同時に、原山はリダイヤルのボタンを押した。本機のスピーカーから、ピポパポピピパポ、と高速プッシュ音が響くと、原山はペニスを咥えていた恵美の体をゆっくりと起き上がらせ、「さっそく初仕事ですわ」と笑った。
スピーカーから鳴り響く呼び出し音を背景に、卓袱台の下に置いてあった『おしぼりウェッティー』で唇の唾液を拭き取った。そして原山の唾液で湿ったパンティーを履こうとしていると、スピーカーから「はい、矢部です」という若い男の声が飛び出した。
原山は慌てて受話器を取ると、「もしもしベーやんか、悪いけど東円まで一人頼んますわ」と早口で言った。
電話を切るなり原山は、下卑た表情を浮かべながら「久美子ちゃんは今から商売やし、諦めなしゃあないな」と独り言のように呟くと、勃起したままのペニスをピコピコ跳ねさせながら部屋の隅へと移動した。そして、廃人のように床の一点をジッと見つめている沙織の前にゆっくりとしゃがむと、「ちゃっ、ちゃっ、と終わらせるさかい」と囁き、そのまま沙織を床に寝転がせたのだった。
原山は沙織の細い足首を両手で掴むと、それを左右に広げた。フレアなミニスカートが捲れると、少女の真っ白な股間で、淫売婦ならではの真っ黒な小陰唇がベロリと捲れた。
なぜか沙織は下着を履いていなかった。そして沙織の性器は何故か濡れていた。
原山の包茎ペニスは何の障害もなくヌルっと滑り込んだ。
カサカサと畳が擦れる音に合わせ、原山の貧弱な尻がヘコヘコと凹凸していた。原山は「いくで、いくで」と唸りながらもなかなかイかなかった。さっそくゲームをしていた黒髪の女が「くっさい! くっさい!」と叫び出したが、しかし沙織は全くの無表情だった。その大きな目で斜め下の床をジッと見つめたまま、瞬き一つしなかったのだった。
マンションを出ると、黒いワンボックスカーの中から恵美に向かって「こっち、こっち」と手を振っている男がいた。
『ドライバーさん』と呼ばれる矢部は、二十歳の現役大学生だった。黙って後部座席で項垂れている恵美に向かって、「まぁ、オヤジがうるさいから一応大学には籍だけ置いてるんっすけどね」と、終始にしゃべりまくっていた。
そんな矢部が、松橋観光株式会社のデリヘル部について、勝手に説明を始めた。
「ウチはね、全部で六店に分かれてるんっすよ。高級、大衆、ロリ専、熟専、人妻アルバイトに、そして久美子さんとこの変態。それぞれジャンルで分かれてるんっすよ」
矢部は自慢げにそう指折り数えながらも、「まぁ、そうは言っても、今は女の子が少ないっすからね……」と、急に深刻な表情を浮かべた。
「だから今は、どの店も女の子の回し合いっすよ。この間なんてね、ロリ専の店に電話かけて来た客んとこに熟専の婆様を回したんですからね、もう大笑いっすよ。ランドセルの似合う可愛い子をお願いしますって要望したのに、やって来たのがデヴィ夫人みたいな婆さんなんですから」
ひひひひひ、と苦笑いしながら煙草を銜えようとしている矢部を、何気に恵美はチラッと見た。
すると、不意にバックミラーの中で矢部と目が合った。
矢部はピタリと笑い声を止めると、まだ幼さが残る目をギラリと輝かせながら恵美の目を見返した。
「サラマンドラは別ですよ。客が特殊ですから、普通の女の子達は嫌がるんっすよ。普通の女の子はね……」
矢部は、そう『普通の女の子』を何度も強調しながら、バックミラー越しに恵美を睨んだ。そして、ゆっくりと煙草に火をつけながら「ふん」っと鼻で笑うと、「自分、変態って嫌いなんっすよね、気持ち悪りぃから」と、胸糞悪そうに煙草の煙を吐き出し、いきなり豹変したのだった。
閑静な住宅街から小さな橋を一本渡ると、そこはもうネオンが煌めくラブホ街だった。
古いお城のようなホテルの駐車場に車を滑り込ませると、矢部と一緒にホテルの中に入った。
矢部は、慣れた手つきで無人のフロントのインターホンを押すと、「毎度、松橋観光っす、302号室お願いします」と告げた。
暫くすると、緑のフィルムが貼られたフロントの窓が少しだけ開き、中からおばさんが「どうぞ」と言った。
二人用の狭いエレベーターに二人で乗った。矢部は三階のボタンを押したその指を、そのまま恵美の尻にグッと食い込ませた。
恵美が「うっ」と身を縮めると、矢部は「アナルセックスってそんなに気持ちいいんっすか?」と笑いながら恵美の顔を覗き込んだ。
「ほーっ……サラマンドラにしては結構綺麗じゃん」
そう驚きながらも矢部は恵美のスカートの中に手を入れた。そして、原山に弄られた余韻が残る恵美の股間に指を這わせた。
「すげぇ、さすがはサラマンドラだ、何もしてないのにもう濡れてるよ!」
そう矢部が笑い出した瞬間、エレベーターは三階に到着した。
扉が開くと同時に、恵美の脳にアドレナリンが広がった。
不釣り合いなクラッシックが流れるそのケバケバしい廊下には、恵美が求めていたスリルがメラメラと満ち溢れていたのだった。
(つづく)
《←目次》《8話へ→》
そんな二人の女がいる部屋で、恵美は今、細い足首からパンティーを抜き取ろうとしていた。
それを見ていた原山が、そのパンティーを素早く奪い取った。そして恵美が見ている前でそれを広げ、クロッチに染み付いた黄色いオリモノをチロチロと舐め始めた。
それはまるで、汲み取り便所の穴に潜むカマドウマが汚物を吸っているように気色悪かった。おもわず目を背けてしまった恵美だったが、しかしそんな恐怖と羞恥が恵美にスリルを与え、胸の奥で燻っていた変態性欲を激しく燃え上がらせた。
「しゃぶって」
そう言いながら原山は、胡座をかいた股の中心から真性包茎のペニスを突き出した。
全裸の恵美は、丸い尻を突き出しながら四つん這いになった。五十を過ぎた男の薄汚い股間に顔を埋め、その生ゴミのような臭いが漂う肉の塊を口に含んだ。
恵美の顔が上下する度に、ぷちゃ、くちゃ、と湿った音が部屋に響いた。
ゲームをしていた黒髪の女がソッと後ろを振り向き、それを咥える恵美を見ながら、「金も貰わないで、よくそんな奴のチ○ポしゃぶるわ」と、呆れるように笑った。
皮から三割しか顔を出していない亀頭を舌先でチロチロと舐めた。皮の隙間からジワジワと滲み出てくる臭汁は、醤油のような味がした。
その時、卓袱台の上の電話が鳴り出した。
恵美の髪を優しく撫でていた原山の手が、素早く受話器に伸びた。
「お電話ありがとうございますサラマンドラです」
原山の野太い声が頭上で響いた。「はい、はい」と対応する原山の口臭を感じながら、恵美はその醜い肉棒を激しくしゃぶり続けた。
「アナルでっか? ええ、もちろんイケますよ。ウチは変態専門の女の子ばかりを用意してますから、基本的に殺す以外でしたら何をしてもらってもかまいません」
そう卑しく笑う原山が、ふと奴隷商人に思えた。私は商品なんだ、と思った。そう思う恵美は、今から変態男に買われるというスリルに胸を締め付けられ、背筋をゾクゾクと痺れさせていた。
「繰り返しまっせ、東円町の『ホテル・グリーンヒル』302号室、佐々木さんですね」
原山は、それを素早く信用金庫のメモ帳に控えると、「では、三十分以内にお伺いしますんで」と、まるでピザ屋のように電話を切ったのだった。
受話器を置くと同時に、原山はリダイヤルのボタンを押した。本機のスピーカーから、ピポパポピピパポ、と高速プッシュ音が響くと、原山はペニスを咥えていた恵美の体をゆっくりと起き上がらせ、「さっそく初仕事ですわ」と笑った。
スピーカーから鳴り響く呼び出し音を背景に、卓袱台の下に置いてあった『おしぼりウェッティー』で唇の唾液を拭き取った。そして原山の唾液で湿ったパンティーを履こうとしていると、スピーカーから「はい、矢部です」という若い男の声が飛び出した。
原山は慌てて受話器を取ると、「もしもしベーやんか、悪いけど東円まで一人頼んますわ」と早口で言った。
電話を切るなり原山は、下卑た表情を浮かべながら「久美子ちゃんは今から商売やし、諦めなしゃあないな」と独り言のように呟くと、勃起したままのペニスをピコピコ跳ねさせながら部屋の隅へと移動した。そして、廃人のように床の一点をジッと見つめている沙織の前にゆっくりとしゃがむと、「ちゃっ、ちゃっ、と終わらせるさかい」と囁き、そのまま沙織を床に寝転がせたのだった。
原山は沙織の細い足首を両手で掴むと、それを左右に広げた。フレアなミニスカートが捲れると、少女の真っ白な股間で、淫売婦ならではの真っ黒な小陰唇がベロリと捲れた。
なぜか沙織は下着を履いていなかった。そして沙織の性器は何故か濡れていた。
原山の包茎ペニスは何の障害もなくヌルっと滑り込んだ。
カサカサと畳が擦れる音に合わせ、原山の貧弱な尻がヘコヘコと凹凸していた。原山は「いくで、いくで」と唸りながらもなかなかイかなかった。さっそくゲームをしていた黒髪の女が「くっさい! くっさい!」と叫び出したが、しかし沙織は全くの無表情だった。その大きな目で斜め下の床をジッと見つめたまま、瞬き一つしなかったのだった。
マンションを出ると、黒いワンボックスカーの中から恵美に向かって「こっち、こっち」と手を振っている男がいた。
『ドライバーさん』と呼ばれる矢部は、二十歳の現役大学生だった。黙って後部座席で項垂れている恵美に向かって、「まぁ、オヤジがうるさいから一応大学には籍だけ置いてるんっすけどね」と、終始にしゃべりまくっていた。
そんな矢部が、松橋観光株式会社のデリヘル部について、勝手に説明を始めた。
「ウチはね、全部で六店に分かれてるんっすよ。高級、大衆、ロリ専、熟専、人妻アルバイトに、そして久美子さんとこの変態。それぞれジャンルで分かれてるんっすよ」
矢部は自慢げにそう指折り数えながらも、「まぁ、そうは言っても、今は女の子が少ないっすからね……」と、急に深刻な表情を浮かべた。
「だから今は、どの店も女の子の回し合いっすよ。この間なんてね、ロリ専の店に電話かけて来た客んとこに熟専の婆様を回したんですからね、もう大笑いっすよ。ランドセルの似合う可愛い子をお願いしますって要望したのに、やって来たのがデヴィ夫人みたいな婆さんなんですから」
ひひひひひ、と苦笑いしながら煙草を銜えようとしている矢部を、何気に恵美はチラッと見た。
すると、不意にバックミラーの中で矢部と目が合った。
矢部はピタリと笑い声を止めると、まだ幼さが残る目をギラリと輝かせながら恵美の目を見返した。
「サラマンドラは別ですよ。客が特殊ですから、普通の女の子達は嫌がるんっすよ。普通の女の子はね……」
矢部は、そう『普通の女の子』を何度も強調しながら、バックミラー越しに恵美を睨んだ。そして、ゆっくりと煙草に火をつけながら「ふん」っと鼻で笑うと、「自分、変態って嫌いなんっすよね、気持ち悪りぃから」と、胸糞悪そうに煙草の煙を吐き出し、いきなり豹変したのだった。
閑静な住宅街から小さな橋を一本渡ると、そこはもうネオンが煌めくラブホ街だった。
古いお城のようなホテルの駐車場に車を滑り込ませると、矢部と一緒にホテルの中に入った。
矢部は、慣れた手つきで無人のフロントのインターホンを押すと、「毎度、松橋観光っす、302号室お願いします」と告げた。
暫くすると、緑のフィルムが貼られたフロントの窓が少しだけ開き、中からおばさんが「どうぞ」と言った。
二人用の狭いエレベーターに二人で乗った。矢部は三階のボタンを押したその指を、そのまま恵美の尻にグッと食い込ませた。
恵美が「うっ」と身を縮めると、矢部は「アナルセックスってそんなに気持ちいいんっすか?」と笑いながら恵美の顔を覗き込んだ。
「ほーっ……サラマンドラにしては結構綺麗じゃん」
そう驚きながらも矢部は恵美のスカートの中に手を入れた。そして、原山に弄られた余韻が残る恵美の股間に指を這わせた。
「すげぇ、さすがはサラマンドラだ、何もしてないのにもう濡れてるよ!」
そう矢部が笑い出した瞬間、エレベーターは三階に到着した。
扉が開くと同時に、恵美の脳にアドレナリンが広がった。
不釣り合いなクラッシックが流れるそのケバケバしい廊下には、恵美が求めていたスリルがメラメラと満ち溢れていたのだった。
(つづく)
《←目次》《8話へ→》
スリル8・初めての客
2013/06/13 Thu 00:02
その部屋は、だだ広い洋室の隅に、八畳の小上がりの座敷がある和洋室だった。
初めての客は、四十代のスーツを着た背の高い男だった。
ほどよく白髪が交じった髪と、高そうなスーツ、そして映画俳優のように整った顔には変態とは思えぬ上品さが漂っていた。
ベッドの端に腰掛けながら薔薇の香りのする煙草を燻らせていた男は、入口に突っ立ったままの恵美を優しく見つめながら、「貴女のような美しい方が来てくれるとは思わなかった」と微笑んだ。
男は、まるでテレビドラマに出て来る一流企業の重役のようだったが、しかし恵美は、そんな男の姿にどこか違和感を感じていた。この部屋に入った時から何か変だと感じていた。
それは、「おいくつですか?」と、恵美に尋ねながら、男が座敷に上がった時にふと気付いた。
なんと男は靴を履いたままだった。ピカピカに輝く革靴を履いたまま、男は畳の上に立っていたのだった。
「二十五歳です」
そう答える恵美を、男は小上がりの座敷から見下ろしていた。口元はニヤニヤと笑っていたが、しかしその目はカミソリのように尖り、異様な輝きを放っていた。
そんな視線に唯ならぬスリルを感じながらも、恵美はマニュアル通りにシステムの説明を始めた。
六〇分四万円、九〇分五万円、一二〇分六万円。
サラマンドラの料金は、一般的なデリヘルの相場に比べて遥かに高額だった。それは、女の質が良いからではなく、特別なサービスをしてくれるからでもなかった。
サラマンドラは、基本的に女に何をしても良かった。本番はもちろんの事、中出し、アナルセックス、SMプレイ等々、女を性奴隷のように好きなように扱う事ができた。だから高額なのである。
但し、殺人はNGだった。自殺させてもいけなかった。縄の跡や鞭の跡といった『消える傷』は無料だったが、しかし、刃物で斬ったり煙草の焼きを入れるような『消えない傷』を付けたい場合は、それなりの別料金を払わなければならなかった。
そんな説明を終えると、男はスーツの内ポケットから黒い財布を取り出し、「とりあえずこれだけ渡しておきます」と、十万円を差し出して来た。
それが安いのか高いのか恵美にはわからなかった。しかし今の恵美にとってお金などどうでもよかった。お金よりもスリルを求めていた恵美は、ただただ疼くこの気持ちを和らげてさえくれればそれで良かったのだった。
さっそく恵美は畳の上に引きずり倒された。
今までジェントルマンだった男の顔は醜く歪み、まるでバットマンに出て来る悪役のような顔になっていた。
革靴の先で蹴られ、畳の上をゴロゴロと転がされ、スカートから零れた太ももに革靴の踵を食い込まされた。
男は、痛みに顔を歪める恵美を満足そうに見下ろしながら、意味不明な言葉を呟いていた。
「それは真理の御霊です。あなたに新たな戒めを与えましょう」
そう呟きながらズボンのジッパーを開けると、黒光りする肉棒が勢い良く飛び出した。そのサイズは五百ミリリットルのペットボトルほどもあり、更にそのドス黒い皮には、パチンコ玉ほどのタマが無数に埋め込まれていた。
男は、目をギラギラと輝かせながらゆっくりとしゃがむと、下着の上から恵美の股間を弄った。
「濡れてます」
そう囁く男の赤黒い亀頭が、恵美のすぐ目の前に迫っていた。みかんのように腫れ上がった大きな亀頭の先では、テラテラに輝く尿道がぽっかりと口を開き、それはまるで水木しげるが描く一つ目の妖怪のように見えた。
それを咥えさせられたまま下着を剥ぎ取られた。乱暴に足を開かされると、濡れた性器に四本の指を入れられ、一本だけ飛び出した親指でクリトリスを押し潰された。
四本の指は狂ったように暴れ回り、そこにグチャグチャと下品な音を立てた。
ウォータースライダーを滑り降りるような快感と、内臓を引きずり出されるような恐怖に同時に襲われた恵美は、肉棒を咥えたままヒィーヒィーと情けない声を出してしまった。
男は、そんな恵美を見下ろしながら、「求めなさい。そうすれば与えられる」と呟いた。そして、しゃがんだ腰を動かし始め、恵子の口の中に肉棒を激しくピストンさせると、「探しなさい。そうすれば必ず見つかる」と笑顔で囁き、いきなり恵美の口内に放尿したのだった。
恵美は咽せながらも必死にそれを飲み込んだ。しかし男は途中で肉棒を抜き、残りの小便を恵美の顔にかけた。
髪を掴まれ畳の上を引きずられた。そしてそのままベッドに放り投げられ、乱暴に衣類を脱がされた。
全裸の恵美を見下ろしながら、男は満足そうに口笛を吹き始めた。その表情はまるで蝋人形のように無表情であり、口笛の曲は『トルコ行進曲』だった。
男は、黒いバッグの中から殺伐とした荒縄を取り出した。それを、軽快な『トルコ行進曲』の口笛と共に恵美の上半身に巻き付け始めた。
引っ張られる度に縄が真っ白な肌に食い込み、ギシギシと不気味な音を立てた。縄と縄の隙間から真っ白な乳房が飛び出し、パンパンに腫れたそこに青い血管が透き通って見えた。
上半身が緊縛されると、そのまま股をM字に開かされた。両膝を曲げた状態で臑と太ももに荒縄をグルグルと巻かれると、M字に股を開かされた状態のまま、がっちりと固定された。
「五万円払います。だから乳首をハサミで切らせて下さい」
男はそう言いながら、ピーンっと突き出た硬い乳首を指先でコロコロと転がした。
たちまち恵美の背筋が凍った。飛び出した乳首が鋭利なハサミでパツンっと切り取られるシーンが脳裏に浮かび、激しい恐怖を掻き立てられた。
その表情と低い声、細くカットされた眉と妙に長いまつげ。男のその全てが怖かった。
男は未だに黒いスーツを着たままで、黒光りする革靴も履いたままだった。そこから巨大なペニスだけを突き出すその異様な姿にも、改めて恐怖を感じさせられた。
そんな男が、黒いバッグの中から刃渡り十センチほどの洋裁鋏を取り出すと恐怖は最高潮に達し、恵美は「やめて!」と、狂ったように叫びまくっていた。
「殺人以外なら何をしてもいいと聞きましたが……」
男はそう笑いながら恵美の目をタオルで塞ぐと、もう一本のタオルで猿ぐつわをかました。
目隠しされた闇の中でトルコ行進曲の口笛が響いていた。その背後では鋏が動くシャカシャカとした音が微かに聞こえ、その見えない恐怖に脅える恵美の股間からは、生温かい尿がタラタラと溢れていた。
包丁のように研がれた刃がコリコリの乳首をゆっくり挟んだ。男が指を動かせば、恵美の乳首は、たちまちギロチンの首のようにサクッと切断される状況下に置かれた。
「おしっこが漏れてます。蓋をしてあげましょう」
男は真面目にそう言いながら巨大なペニスを膣の中に滑り込ませて来た。
太い肉棒は恵美の膣道をこれでもかというくらいに広げた。それが上下に動く度にペニスに埋め込まれた無数のタマが膣壁にグリグリと蠢き、異様な痛みと絶妙な快感を与えた。
「乳首、切りますね」
そう言いながら乳首を挟んだ刃を小刻みに動かしては脅し、そのままドロドロに汚れたペニスを肛門に這わせた。
男は鋏の刃を乳首に食い込ませ、「そろそろ切りますよ」などと執拗に脅しながら、二つの穴を交互に犯しまくった。
男は、脅される度に恐怖で呻く恵美を恍惚とした表情で見下ろしていた。そして突然、「イエスはここにいます!」と叫ぶと、その無惨に裂けた血まみれの肛門の中に大量の精液を放出したのだった。
(つづく)
《←目次》《9話へ→》
初めての客は、四十代のスーツを着た背の高い男だった。
ほどよく白髪が交じった髪と、高そうなスーツ、そして映画俳優のように整った顔には変態とは思えぬ上品さが漂っていた。
ベッドの端に腰掛けながら薔薇の香りのする煙草を燻らせていた男は、入口に突っ立ったままの恵美を優しく見つめながら、「貴女のような美しい方が来てくれるとは思わなかった」と微笑んだ。
男は、まるでテレビドラマに出て来る一流企業の重役のようだったが、しかし恵美は、そんな男の姿にどこか違和感を感じていた。この部屋に入った時から何か変だと感じていた。
それは、「おいくつですか?」と、恵美に尋ねながら、男が座敷に上がった時にふと気付いた。
なんと男は靴を履いたままだった。ピカピカに輝く革靴を履いたまま、男は畳の上に立っていたのだった。
「二十五歳です」
そう答える恵美を、男は小上がりの座敷から見下ろしていた。口元はニヤニヤと笑っていたが、しかしその目はカミソリのように尖り、異様な輝きを放っていた。
そんな視線に唯ならぬスリルを感じながらも、恵美はマニュアル通りにシステムの説明を始めた。
六〇分四万円、九〇分五万円、一二〇分六万円。
サラマンドラの料金は、一般的なデリヘルの相場に比べて遥かに高額だった。それは、女の質が良いからではなく、特別なサービスをしてくれるからでもなかった。
サラマンドラは、基本的に女に何をしても良かった。本番はもちろんの事、中出し、アナルセックス、SMプレイ等々、女を性奴隷のように好きなように扱う事ができた。だから高額なのである。
但し、殺人はNGだった。自殺させてもいけなかった。縄の跡や鞭の跡といった『消える傷』は無料だったが、しかし、刃物で斬ったり煙草の焼きを入れるような『消えない傷』を付けたい場合は、それなりの別料金を払わなければならなかった。
そんな説明を終えると、男はスーツの内ポケットから黒い財布を取り出し、「とりあえずこれだけ渡しておきます」と、十万円を差し出して来た。
それが安いのか高いのか恵美にはわからなかった。しかし今の恵美にとってお金などどうでもよかった。お金よりもスリルを求めていた恵美は、ただただ疼くこの気持ちを和らげてさえくれればそれで良かったのだった。
さっそく恵美は畳の上に引きずり倒された。
今までジェントルマンだった男の顔は醜く歪み、まるでバットマンに出て来る悪役のような顔になっていた。
革靴の先で蹴られ、畳の上をゴロゴロと転がされ、スカートから零れた太ももに革靴の踵を食い込まされた。
男は、痛みに顔を歪める恵美を満足そうに見下ろしながら、意味不明な言葉を呟いていた。
「それは真理の御霊です。あなたに新たな戒めを与えましょう」
そう呟きながらズボンのジッパーを開けると、黒光りする肉棒が勢い良く飛び出した。そのサイズは五百ミリリットルのペットボトルほどもあり、更にそのドス黒い皮には、パチンコ玉ほどのタマが無数に埋め込まれていた。
男は、目をギラギラと輝かせながらゆっくりとしゃがむと、下着の上から恵美の股間を弄った。
「濡れてます」
そう囁く男の赤黒い亀頭が、恵美のすぐ目の前に迫っていた。みかんのように腫れ上がった大きな亀頭の先では、テラテラに輝く尿道がぽっかりと口を開き、それはまるで水木しげるが描く一つ目の妖怪のように見えた。
それを咥えさせられたまま下着を剥ぎ取られた。乱暴に足を開かされると、濡れた性器に四本の指を入れられ、一本だけ飛び出した親指でクリトリスを押し潰された。
四本の指は狂ったように暴れ回り、そこにグチャグチャと下品な音を立てた。
ウォータースライダーを滑り降りるような快感と、内臓を引きずり出されるような恐怖に同時に襲われた恵美は、肉棒を咥えたままヒィーヒィーと情けない声を出してしまった。
男は、そんな恵美を見下ろしながら、「求めなさい。そうすれば与えられる」と呟いた。そして、しゃがんだ腰を動かし始め、恵子の口の中に肉棒を激しくピストンさせると、「探しなさい。そうすれば必ず見つかる」と笑顔で囁き、いきなり恵美の口内に放尿したのだった。
恵美は咽せながらも必死にそれを飲み込んだ。しかし男は途中で肉棒を抜き、残りの小便を恵美の顔にかけた。
髪を掴まれ畳の上を引きずられた。そしてそのままベッドに放り投げられ、乱暴に衣類を脱がされた。
全裸の恵美を見下ろしながら、男は満足そうに口笛を吹き始めた。その表情はまるで蝋人形のように無表情であり、口笛の曲は『トルコ行進曲』だった。
男は、黒いバッグの中から殺伐とした荒縄を取り出した。それを、軽快な『トルコ行進曲』の口笛と共に恵美の上半身に巻き付け始めた。
引っ張られる度に縄が真っ白な肌に食い込み、ギシギシと不気味な音を立てた。縄と縄の隙間から真っ白な乳房が飛び出し、パンパンに腫れたそこに青い血管が透き通って見えた。
上半身が緊縛されると、そのまま股をM字に開かされた。両膝を曲げた状態で臑と太ももに荒縄をグルグルと巻かれると、M字に股を開かされた状態のまま、がっちりと固定された。
「五万円払います。だから乳首をハサミで切らせて下さい」
男はそう言いながら、ピーンっと突き出た硬い乳首を指先でコロコロと転がした。
たちまち恵美の背筋が凍った。飛び出した乳首が鋭利なハサミでパツンっと切り取られるシーンが脳裏に浮かび、激しい恐怖を掻き立てられた。
その表情と低い声、細くカットされた眉と妙に長いまつげ。男のその全てが怖かった。
男は未だに黒いスーツを着たままで、黒光りする革靴も履いたままだった。そこから巨大なペニスだけを突き出すその異様な姿にも、改めて恐怖を感じさせられた。
そんな男が、黒いバッグの中から刃渡り十センチほどの洋裁鋏を取り出すと恐怖は最高潮に達し、恵美は「やめて!」と、狂ったように叫びまくっていた。
「殺人以外なら何をしてもいいと聞きましたが……」
男はそう笑いながら恵美の目をタオルで塞ぐと、もう一本のタオルで猿ぐつわをかました。
目隠しされた闇の中でトルコ行進曲の口笛が響いていた。その背後では鋏が動くシャカシャカとした音が微かに聞こえ、その見えない恐怖に脅える恵美の股間からは、生温かい尿がタラタラと溢れていた。
包丁のように研がれた刃がコリコリの乳首をゆっくり挟んだ。男が指を動かせば、恵美の乳首は、たちまちギロチンの首のようにサクッと切断される状況下に置かれた。
「おしっこが漏れてます。蓋をしてあげましょう」
男は真面目にそう言いながら巨大なペニスを膣の中に滑り込ませて来た。
太い肉棒は恵美の膣道をこれでもかというくらいに広げた。それが上下に動く度にペニスに埋め込まれた無数のタマが膣壁にグリグリと蠢き、異様な痛みと絶妙な快感を与えた。
「乳首、切りますね」
そう言いながら乳首を挟んだ刃を小刻みに動かしては脅し、そのままドロドロに汚れたペニスを肛門に這わせた。
男は鋏の刃を乳首に食い込ませ、「そろそろ切りますよ」などと執拗に脅しながら、二つの穴を交互に犯しまくった。
男は、脅される度に恐怖で呻く恵美を恍惚とした表情で見下ろしていた。そして突然、「イエスはここにいます!」と叫ぶと、その無惨に裂けた血まみれの肛門の中に大量の精液を放出したのだった。
(つづく)
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スリル9・嬢たちの過去
2013/06/13 Thu 00:02
ある日の土曜の深夜、恵美はその男から「全身を隅々まで舐めて下さい」と言われた。
足の指から耳の穴まで、二時間かけて丁寧に舐めさせられた。
男はサラマンドラの常連で、三十八歳の中学校教員だった。
カバのような顔をした彼は、性格もカバのように穏和だった。サラマンドラの常連にしては比較的に扱いやすい客だったが、しかしそのブヨブヨに太った体からは常にドリアンのようなデブ臭が漂い、その体を二時間舐めさせ続けられるのは、かなりの苦痛を伴った。
特に足の裏は最悪だった。強烈な匂いを放っている足の裏は、目を背けたくなるほどに酷い水虫で、そこに舌を這わす度にカサカサと皮が剥がれては、中から黄色い汁が滲み出て来た。
そんな彼は、いつもこうして体中を舐めさせるだけで性交は一切しなかった。全身を舐め回され、「あぁぁ、うぅぅ」と気色の悪い声で呻く彼は、そのカバの尻尾のような小さなペニスを自分で手淫しながら、いつも勝手に果ててしまうのであった。
変態専用デリヘル・サラマンドラ。
ここには、そんな『おかしな客』ばかりが集まって来た。
この中学教師のような草食系変態もいれば、女の顔がパンパンに腫れ上がるまで叩きながら性交する、そんな凶暴な肉食系変態も大勢いた。
そんな客達を、一日に二、三人相手にしていた恵美は、たったの一週間で五十万も稼いでいた。この調子で行けば、ひと月に二百万近くの稼ぎとなった。OL時代、手取り十四万の給料で細々と暮らしていた恵美には信じられない金額だった。
しかし恵美は、お金には執着していなかった。お金などどうでもよく、ただただスリルだけが欲しいだけだった。
だから恵美は、より危険な客を求めていたのだが、しかし店長の原山は、そんな恵美の欲望とは裏腹に、危険な客は恵美には回さないようにしていた。
それは、恵美が稀に見る上玉だからであった。
恵美ほどの女なら高級店でも十分にやっていけた。それが、サラマンドラのような劣悪変態店に回って来たのは奇跡であり、原山に取って恵美は大儲けのチャンスなのであった。
だから原山は、恵美の客を厳選した。危険な肉食系は他の女達に回し、恵美にはリスクの少ない草食系ばかりを回した。
原山にしてみたら、他の女達など殺されようが壊されようが一向にかまわなかった。寧ろ、この狂った女達など、とっとと殺してしまって欲しいとさえ思っていた。そう、あの廃人少女、沙織以外は……。
現在サラマンドラには、待機所に住み着いている静香と沙織以外に七人の女が在籍していた。
ほとんどの女は外待機だったため恵美とは面識が無かった。トモ子と愛美だけはいつも待機所を利用していたため、かろうじて面識はあったが、しかし、二人ともお喋りし合うほどの仲ではなかった。
愛美という中年女は、サラマンドラで働き始めてまだ一年目だった。三人の子供と旦那を持つ現役の主婦であり、見た目は三十代だったが、しかし、実年齢はとうに四十を過ぎていた。
愛美は、他の女達と違って唯一まともな人間だった。挨拶もできるし、普通に会話もできるし、それに、肉体的にも精神的にも汚れてないように見えた。
最初はそう思っていた恵美だったが、しかしサラマンドラで働く女は、そんなに甘くはなかった。
愛美がサラマンドラで働くようになったのは旦那が原因だった。旦那が愛美をサラマンドラという奈落の底に突き落としたのだ。
但しそれは、ギャンブル狂の旦那が作った借金を返済する為だとか、旦那が怠け者のヒモ男だからといったありきたりな事情からではなかった。それどころか旦那は、一部上場企業に勤めるエンジニアで、年収は八百万近くもあった。借金と言えば、四年前に建てた豪邸の住宅ローンくらいで、酒もギャンブルも浮気も一切しないという理想の旦那様だった。
そんな旦那が、何故に愛する妻を奈落の底に突き落としたのか。
それは、旦那が『寝取られマニア』という変態だからだった。
旦那は、愛する妻が他人に陵辱される事に喜びを感じるという特殊な性癖を持っていた。
最初のうちは、ハプニングバーで知り合った夫婦とスワッピングする程度だったのが、次第にそれでは物足りなくなり、遂にはネットで募集した『顔も見えない男』に妻を提供するようになっていた。
しかし、それでも旦那はまだ物足りなかった。そう、この男もまた、恵美と同じようにスリルという魔物に取り憑かれた男であり、安全圏での寝取られでは満足できなかったのだ。
そんな時、旦那はふとした事からサラマンドラの存在を知った。
『殺す以外なら何をしてもかまいません』
そんなキャッチフレーズを目にした旦那は身震いした。こんな危険な客達の中に、全裸の妻を野放しにしてみたいと思うと震えが止まらなくなったのだった。
旦那はさっそくサラマンドラに電話をかけ、愛美に何の相談をする事も無く勝手にバイトを決めてしまった。そしてその時、電話対応した原山に事情を説明し、できるだけ危ない客を回してくれるよう頼んでおいた。
いきなりサラマンドラで働かされるようになった愛美だったが、しかし元々マゾの愛美は文句一つ言わず、旦那の期待に応えようと頑張った。
毎晩、バイトから帰って来るなり、その日の客のペニスのサイズ、色、形、匂いなど報告させられた。そして、その客からどんな風に陵辱されたのかを、痣や傷跡を見せながら事細かく説明させられた。
それを聞きながら旦那は激しい嫉妬の念に駆られ、まるで日本脳炎に侵されたように震えた。
そんな旦那が最も嫉妬に狂う瞬間が、愛美の膣に溜まった客の精液を目にする瞬間だった。
それは旦那の要望だった。プレイ後にはシャワーを浴びず、中出しされた精液を一滴残らず持ち帰って来いというのが、旦那の一番の目論みなのであった。
汚れたパンティーを脱がせた旦那は、迷う事無く愛美の膣に舌を這わせ、そこから溢れる他人の精液を舐めた。そして、愛する妻が見ず知らずの変態男に滅茶苦茶に犯されているシーンを想像しながら狂ったように興奮した。
遂には、他人の精液が溜まったヌルヌルの穴の中に、自身の肉塊を滑り込ませ、「こうやってヤられたのか! こうヤられて感じていたんだろ!」と、激しい絶望に駆られながら、自身の精液そこにを継ぎ足すのであった。
そんな愛美と旦那の異常性を恵美に教えてくれたのは、ドライバーの矢部だった。矢部は、病的な程のお喋りで、送迎中は、嬢の事情や、客の悪口、会社の不満などを、勝手に一人でべらべらと喋りまくっていた。
それを毎日聞かされていた恵美は、この店に来てまだ一週間足らずだというのに、サラマンドラで働く女達の事情をほとんど知っていた。
ドライバー達から『家畜』と呼ばれている現役女子大生のトモ子は、食費の為に働いていた。給料のほとんどをコンビニ弁当に使ってしまう程の過食症らしく、食欲と性欲のコントロールができない彼女は、スカトロプレイ時に客の糞を食べる癖があった。
小指が欠損した静香には殺人の前科があった。
盲目のマリアはアル中の父親に身売りされた女だった。
そして、車椅子の華子はオリンピックにまで出場した元水泳選手のアスリートだった。
そんな嬢たちの過去を聞かされて衝撃を受けていた恵美だったが、しかし、その中でも一番衝撃的だったのが沙織だった。
原山にいつも待機所で犯されているあの廃人のような少女は、なんと原山の実の娘なのであった。
(つづく)
《←目次》《10話へ→》
足の指から耳の穴まで、二時間かけて丁寧に舐めさせられた。
男はサラマンドラの常連で、三十八歳の中学校教員だった。
カバのような顔をした彼は、性格もカバのように穏和だった。サラマンドラの常連にしては比較的に扱いやすい客だったが、しかしそのブヨブヨに太った体からは常にドリアンのようなデブ臭が漂い、その体を二時間舐めさせ続けられるのは、かなりの苦痛を伴った。
特に足の裏は最悪だった。強烈な匂いを放っている足の裏は、目を背けたくなるほどに酷い水虫で、そこに舌を這わす度にカサカサと皮が剥がれては、中から黄色い汁が滲み出て来た。
そんな彼は、いつもこうして体中を舐めさせるだけで性交は一切しなかった。全身を舐め回され、「あぁぁ、うぅぅ」と気色の悪い声で呻く彼は、そのカバの尻尾のような小さなペニスを自分で手淫しながら、いつも勝手に果ててしまうのであった。
変態専用デリヘル・サラマンドラ。
ここには、そんな『おかしな客』ばかりが集まって来た。
この中学教師のような草食系変態もいれば、女の顔がパンパンに腫れ上がるまで叩きながら性交する、そんな凶暴な肉食系変態も大勢いた。
そんな客達を、一日に二、三人相手にしていた恵美は、たったの一週間で五十万も稼いでいた。この調子で行けば、ひと月に二百万近くの稼ぎとなった。OL時代、手取り十四万の給料で細々と暮らしていた恵美には信じられない金額だった。
しかし恵美は、お金には執着していなかった。お金などどうでもよく、ただただスリルだけが欲しいだけだった。
だから恵美は、より危険な客を求めていたのだが、しかし店長の原山は、そんな恵美の欲望とは裏腹に、危険な客は恵美には回さないようにしていた。
それは、恵美が稀に見る上玉だからであった。
恵美ほどの女なら高級店でも十分にやっていけた。それが、サラマンドラのような劣悪変態店に回って来たのは奇跡であり、原山に取って恵美は大儲けのチャンスなのであった。
だから原山は、恵美の客を厳選した。危険な肉食系は他の女達に回し、恵美にはリスクの少ない草食系ばかりを回した。
原山にしてみたら、他の女達など殺されようが壊されようが一向にかまわなかった。寧ろ、この狂った女達など、とっとと殺してしまって欲しいとさえ思っていた。そう、あの廃人少女、沙織以外は……。
現在サラマンドラには、待機所に住み着いている静香と沙織以外に七人の女が在籍していた。
ほとんどの女は外待機だったため恵美とは面識が無かった。トモ子と愛美だけはいつも待機所を利用していたため、かろうじて面識はあったが、しかし、二人ともお喋りし合うほどの仲ではなかった。
愛美という中年女は、サラマンドラで働き始めてまだ一年目だった。三人の子供と旦那を持つ現役の主婦であり、見た目は三十代だったが、しかし、実年齢はとうに四十を過ぎていた。
愛美は、他の女達と違って唯一まともな人間だった。挨拶もできるし、普通に会話もできるし、それに、肉体的にも精神的にも汚れてないように見えた。
最初はそう思っていた恵美だったが、しかしサラマンドラで働く女は、そんなに甘くはなかった。
愛美がサラマンドラで働くようになったのは旦那が原因だった。旦那が愛美をサラマンドラという奈落の底に突き落としたのだ。
但しそれは、ギャンブル狂の旦那が作った借金を返済する為だとか、旦那が怠け者のヒモ男だからといったありきたりな事情からではなかった。それどころか旦那は、一部上場企業に勤めるエンジニアで、年収は八百万近くもあった。借金と言えば、四年前に建てた豪邸の住宅ローンくらいで、酒もギャンブルも浮気も一切しないという理想の旦那様だった。
そんな旦那が、何故に愛する妻を奈落の底に突き落としたのか。
それは、旦那が『寝取られマニア』という変態だからだった。
旦那は、愛する妻が他人に陵辱される事に喜びを感じるという特殊な性癖を持っていた。
最初のうちは、ハプニングバーで知り合った夫婦とスワッピングする程度だったのが、次第にそれでは物足りなくなり、遂にはネットで募集した『顔も見えない男』に妻を提供するようになっていた。
しかし、それでも旦那はまだ物足りなかった。そう、この男もまた、恵美と同じようにスリルという魔物に取り憑かれた男であり、安全圏での寝取られでは満足できなかったのだ。
そんな時、旦那はふとした事からサラマンドラの存在を知った。
『殺す以外なら何をしてもかまいません』
そんなキャッチフレーズを目にした旦那は身震いした。こんな危険な客達の中に、全裸の妻を野放しにしてみたいと思うと震えが止まらなくなったのだった。
旦那はさっそくサラマンドラに電話をかけ、愛美に何の相談をする事も無く勝手にバイトを決めてしまった。そしてその時、電話対応した原山に事情を説明し、できるだけ危ない客を回してくれるよう頼んでおいた。
いきなりサラマンドラで働かされるようになった愛美だったが、しかし元々マゾの愛美は文句一つ言わず、旦那の期待に応えようと頑張った。
毎晩、バイトから帰って来るなり、その日の客のペニスのサイズ、色、形、匂いなど報告させられた。そして、その客からどんな風に陵辱されたのかを、痣や傷跡を見せながら事細かく説明させられた。
それを聞きながら旦那は激しい嫉妬の念に駆られ、まるで日本脳炎に侵されたように震えた。
そんな旦那が最も嫉妬に狂う瞬間が、愛美の膣に溜まった客の精液を目にする瞬間だった。
それは旦那の要望だった。プレイ後にはシャワーを浴びず、中出しされた精液を一滴残らず持ち帰って来いというのが、旦那の一番の目論みなのであった。
汚れたパンティーを脱がせた旦那は、迷う事無く愛美の膣に舌を這わせ、そこから溢れる他人の精液を舐めた。そして、愛する妻が見ず知らずの変態男に滅茶苦茶に犯されているシーンを想像しながら狂ったように興奮した。
遂には、他人の精液が溜まったヌルヌルの穴の中に、自身の肉塊を滑り込ませ、「こうやってヤられたのか! こうヤられて感じていたんだろ!」と、激しい絶望に駆られながら、自身の精液そこにを継ぎ足すのであった。
そんな愛美と旦那の異常性を恵美に教えてくれたのは、ドライバーの矢部だった。矢部は、病的な程のお喋りで、送迎中は、嬢の事情や、客の悪口、会社の不満などを、勝手に一人でべらべらと喋りまくっていた。
それを毎日聞かされていた恵美は、この店に来てまだ一週間足らずだというのに、サラマンドラで働く女達の事情をほとんど知っていた。
ドライバー達から『家畜』と呼ばれている現役女子大生のトモ子は、食費の為に働いていた。給料のほとんどをコンビニ弁当に使ってしまう程の過食症らしく、食欲と性欲のコントロールができない彼女は、スカトロプレイ時に客の糞を食べる癖があった。
小指が欠損した静香には殺人の前科があった。
盲目のマリアはアル中の父親に身売りされた女だった。
そして、車椅子の華子はオリンピックにまで出場した元水泳選手のアスリートだった。
そんな嬢たちの過去を聞かされて衝撃を受けていた恵美だったが、しかし、その中でも一番衝撃的だったのが沙織だった。
原山にいつも待機所で犯されているあの廃人のような少女は、なんと原山の実の娘なのであった。
(つづく)
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スリル10・大磯先生
2013/06/13 Thu 00:02
原山は、自分が店長を務める変態専用デリヘルで実の娘を働かせていた。
しかも待機所では娘を犯しまくり、平気で中出しまでしていた。
彼女は重度の精神障害を患っていた。年齢は定かではないが、恐らく義務教育をまだ終えていない少女だった。
鬼畜。
原山は、まさに鬼畜そのものだった。
そんな鬼畜が、ある時、父親の顔を見せた。
しかしそれは最初で最後の顔となった。
幸いにも原山は、父親の顔のまま、この世を去る事ができたのだった。
それは、日曜日のお昼、『NHKのど自慢』のエンディングが流れた直後の事だった。
いきなり待機所に藤田がやって来た。
藤田は何やら慌てた様子でドカドカと居間にやって来ると、そこで嬢たちとリンゴを齧っていた原山に「二時から大磯先生が入ったぞ」とだけ短く告げた。
恵美は、大磯という名前に聞き覚えがあった。確か以前、ドライバーの矢部が、「サラマンドラのような店がやっていけるのは大磯先生に『生け贄』を提供しているからだ」と言っていた。そして、「爺さんの機嫌をひとつ損ねれば、サラマンドラどころか松橋観光の系列店全店が一瞬で潰されるからな」とまで言っていた。
確かに大磯というのは、この町では相当な権力者だった。数年前まで副知事を務めていた六十五歳のこの老人は、警察でも役人でも思いのままに操る事ができ、サラマンドラのケツ持ちをしている佐川会の会長さえも、子分のように動かす事ができた。
そんな大物から予約が入った。だから本社の藤田は、わざわざサラマンドラの待機所にまで慌ててやってきたのだった。
「二人用意して欲しい」
藤田は深刻そうな表情でそう言うと、今まさにリンゴを齧ろうと口をぽかんっと開けている恵美をチラッと見ながら、「一人は彼女でいいだろう」と呟いた。
そんな藤田に「はい」と頷いた原山だったが、しかし、その表情は死人のように青ざめていた。
大磯に差し出す『生け贄』というのは、まだ大磯が食べた事のない初顔の嬢でなければならないとされていた。
しかし、既にサラマンドラで働いている嬢は全て大磯に出し尽くしていた。たまたま一週間ほど前に働き始めた恵美がいたため一人は確保できたが、しかし今回はもう一人必要だった。
原山は、青ざめた顔のままジッと黙って畳を見つめていた。
そんな原山の前に藤田はゆっくりとしゃがんだ。
「なぁ原ちゃん……」
藤田はそう言いながら原山の肩にソッと手を置いた。
その藤田の言い方に、恵美は(何かあるな)と思った。
恵美の直感は当たった。なんと、いきなり原山が「わっ」と泣き出したのだ。
「沙織だけは勘弁して下さい!」
原山は、喉を掻きむしるような声でそう叫びながら、畳に額を擦り付けた。
実は沙織は、原山の実の娘という事から、今まで大磯の生け贄を免除されていたのだった。大磯のプレイがあまりにも残酷だという事を知っている原山は、なんとか沙織だけはと藤田に頼み込んでいたのだった。
しかし、今回ばかりはどうしょうもなかった。初顔が恵美しか残っていない以上、もはや沙織を差し出すしかなかった。そうしなければ大磯の機嫌を損ね、サラマンドラは会社もろとも潰されてしまうのである。
「なんとか、系列店から女の子を回せませんか!」
原山は藤田に縋り付いた。
「無理だよ。あの子たちではとても大磯先生の相手なんてできないよ。それは、あなたが一番わかってる事じゃないか」
「じゃあ、先生に正直に言うて下さい、ウチにはもう新人はいないって」
「…………」
「ええです、会社が言うてくれんのやったら自分で詫び入れに行ってきます、指の一本や二本詰めてもかましまへん!」
そう熱くなる原山に、藤田は大きく息を吐きながら「原ちゃん……今まで会社は、何も働いていないあんたの娘に毎月九万円もの最低保証を出して来たんだぞ……」と呟き、両手で原山の肩をパンっと叩いた。そして原山の顔を覗き込みながら、「わかってくれよ原ちゃん」と言った。
すると、それと同時に廊下で床がギシッと軋み、襖の隅からドライバーの矢部がヌッと顔を出した。
「藤田部長、そろそろ出ないと間に合いませんけど……」
矢部は、そこに漂う重たい空気にモゾモゾしながらも、恐る恐る藤田にそう告げた。
「わかった。キミは久美子を連れて車で待っててくれ」
藤田がそう言うと、矢部は未だリンゴを手にしたまま呆然としていた恵美に「行こっ」と小さく囁いた。
煙草臭いワンボックスカーに乗り込むなり、矢部は独り言のように「原山さん、相当ヤバいなぁ……」と呟いた。
今まで、自分からは矢部に一度も話し掛けた事がなかった恵美だったが、しかし、このあまりにも不穏な空気に居た堪れなくなり、おもわず「あのぅ……」と運転席を覗き込んだ。
矢部は火の付いていない煙草を唇でピコピコさせながら、「ん?」とバックミラーを見た。
「その……大磯さんという人のソレは……そんなに酷いんですか……」
ひと呼吸置いて、矢部が「んふふふふ」と笑った。
「酷いとか凄いとかのレベルじゃないね。あれはもう殺人レベルだよ」
矢部は深く頷きながらシートを座り直した。そしてポケットから百円ライターを取り出すと、それを、ジュっ、ジュ、と何度も擦りながら恵美を見た。
「あんた、この世に思い残す事はない?」
「え?……」
「あるなら今のうちだよ。彼氏に電話するとか、親の声を聞くとか、辞世を書くとかね」
矢部はひひひっと下品に笑いながら煙草に火を付けた。そんな矢部をバックミラーで見ながら、恵美は、どうせいつものようにからかってるだけだろうと思った。
すると、フロントガラスにフーッと煙を吐きかけた矢部がジロっと恵美を睨んだ。
「あんた、今、俺が冗談言ったと思っただろ? 見ただろ、あの原山さんがトチ狂ってる姿……あんなの演技じゃできねぇぜ……」
「…………」
「ココだけの話しだけどよ、俺、大磯先生に殺された女の死体を見た事あるんだ……あん時も確か、浦川のラブホだったな……いきなり夜中に藤田さんに呼び出されてその部屋に行ったんだけどさぁ、そしたら、さっき送ったばかりの女がぐちゃぐちゃの肉の塊になってるじゃねぇか……マジ、ビビったよ。死体なんて見るの初めてだしさ、それにその死体には目とか鼻とかねぇんだぜ、ボコボコに殴られて深海魚みてぇな顔になってんだぜ……正直、ここまでヤッても捕まらねぇんだから、やっぱ大磯ってのはスゲぇんだなぁって思ったよ……あいつに逆らったらマジヤベェって、そん時、心底思い知らされたね……」
矢部はその時の光景を思い出したのか、急に暗い顔をして黙りこくった。その深刻そうな表情は演技でもなさそうだった。
そんな緊迫した沈黙に、恵美の背筋はゾクゾクしていた。
(ぐちゃぐちゃの肉の塊……)
そう何度も繰り返していると、下着のクロッチがみるみる湿っていくのがわかった。
暫くすると、矢部が、「おっ、来た」と慌てて煙草を揉み消し、車のエンジンをかけた。
窓の外を見ると、藤田に肩を抱かれながら歩く沙織がいた。
ワンボックスカーの後部ドアがガラガラガラっと開くなり、三階のベランダから原山の絶叫が聞こえて来た。
藤田は沙織の背中を押しながら「早くしろ」言った。ヨタヨタと乗り込む沙織のその姿は、まるでデイサービスのバスに押し込まれる痴呆老人のようだった。
(つづく)
《←目次》《11話へ→》
しかも待機所では娘を犯しまくり、平気で中出しまでしていた。
彼女は重度の精神障害を患っていた。年齢は定かではないが、恐らく義務教育をまだ終えていない少女だった。
鬼畜。
原山は、まさに鬼畜そのものだった。
そんな鬼畜が、ある時、父親の顔を見せた。
しかしそれは最初で最後の顔となった。
幸いにも原山は、父親の顔のまま、この世を去る事ができたのだった。
それは、日曜日のお昼、『NHKのど自慢』のエンディングが流れた直後の事だった。
いきなり待機所に藤田がやって来た。
藤田は何やら慌てた様子でドカドカと居間にやって来ると、そこで嬢たちとリンゴを齧っていた原山に「二時から大磯先生が入ったぞ」とだけ短く告げた。
恵美は、大磯という名前に聞き覚えがあった。確か以前、ドライバーの矢部が、「サラマンドラのような店がやっていけるのは大磯先生に『生け贄』を提供しているからだ」と言っていた。そして、「爺さんの機嫌をひとつ損ねれば、サラマンドラどころか松橋観光の系列店全店が一瞬で潰されるからな」とまで言っていた。
確かに大磯というのは、この町では相当な権力者だった。数年前まで副知事を務めていた六十五歳のこの老人は、警察でも役人でも思いのままに操る事ができ、サラマンドラのケツ持ちをしている佐川会の会長さえも、子分のように動かす事ができた。
そんな大物から予約が入った。だから本社の藤田は、わざわざサラマンドラの待機所にまで慌ててやってきたのだった。
「二人用意して欲しい」
藤田は深刻そうな表情でそう言うと、今まさにリンゴを齧ろうと口をぽかんっと開けている恵美をチラッと見ながら、「一人は彼女でいいだろう」と呟いた。
そんな藤田に「はい」と頷いた原山だったが、しかし、その表情は死人のように青ざめていた。
大磯に差し出す『生け贄』というのは、まだ大磯が食べた事のない初顔の嬢でなければならないとされていた。
しかし、既にサラマンドラで働いている嬢は全て大磯に出し尽くしていた。たまたま一週間ほど前に働き始めた恵美がいたため一人は確保できたが、しかし今回はもう一人必要だった。
原山は、青ざめた顔のままジッと黙って畳を見つめていた。
そんな原山の前に藤田はゆっくりとしゃがんだ。
「なぁ原ちゃん……」
藤田はそう言いながら原山の肩にソッと手を置いた。
その藤田の言い方に、恵美は(何かあるな)と思った。
恵美の直感は当たった。なんと、いきなり原山が「わっ」と泣き出したのだ。
「沙織だけは勘弁して下さい!」
原山は、喉を掻きむしるような声でそう叫びながら、畳に額を擦り付けた。
実は沙織は、原山の実の娘という事から、今まで大磯の生け贄を免除されていたのだった。大磯のプレイがあまりにも残酷だという事を知っている原山は、なんとか沙織だけはと藤田に頼み込んでいたのだった。
しかし、今回ばかりはどうしょうもなかった。初顔が恵美しか残っていない以上、もはや沙織を差し出すしかなかった。そうしなければ大磯の機嫌を損ね、サラマンドラは会社もろとも潰されてしまうのである。
「なんとか、系列店から女の子を回せませんか!」
原山は藤田に縋り付いた。
「無理だよ。あの子たちではとても大磯先生の相手なんてできないよ。それは、あなたが一番わかってる事じゃないか」
「じゃあ、先生に正直に言うて下さい、ウチにはもう新人はいないって」
「…………」
「ええです、会社が言うてくれんのやったら自分で詫び入れに行ってきます、指の一本や二本詰めてもかましまへん!」
そう熱くなる原山に、藤田は大きく息を吐きながら「原ちゃん……今まで会社は、何も働いていないあんたの娘に毎月九万円もの最低保証を出して来たんだぞ……」と呟き、両手で原山の肩をパンっと叩いた。そして原山の顔を覗き込みながら、「わかってくれよ原ちゃん」と言った。
すると、それと同時に廊下で床がギシッと軋み、襖の隅からドライバーの矢部がヌッと顔を出した。
「藤田部長、そろそろ出ないと間に合いませんけど……」
矢部は、そこに漂う重たい空気にモゾモゾしながらも、恐る恐る藤田にそう告げた。
「わかった。キミは久美子を連れて車で待っててくれ」
藤田がそう言うと、矢部は未だリンゴを手にしたまま呆然としていた恵美に「行こっ」と小さく囁いた。
煙草臭いワンボックスカーに乗り込むなり、矢部は独り言のように「原山さん、相当ヤバいなぁ……」と呟いた。
今まで、自分からは矢部に一度も話し掛けた事がなかった恵美だったが、しかし、このあまりにも不穏な空気に居た堪れなくなり、おもわず「あのぅ……」と運転席を覗き込んだ。
矢部は火の付いていない煙草を唇でピコピコさせながら、「ん?」とバックミラーを見た。
「その……大磯さんという人のソレは……そんなに酷いんですか……」
ひと呼吸置いて、矢部が「んふふふふ」と笑った。
「酷いとか凄いとかのレベルじゃないね。あれはもう殺人レベルだよ」
矢部は深く頷きながらシートを座り直した。そしてポケットから百円ライターを取り出すと、それを、ジュっ、ジュ、と何度も擦りながら恵美を見た。
「あんた、この世に思い残す事はない?」
「え?……」
「あるなら今のうちだよ。彼氏に電話するとか、親の声を聞くとか、辞世を書くとかね」
矢部はひひひっと下品に笑いながら煙草に火を付けた。そんな矢部をバックミラーで見ながら、恵美は、どうせいつものようにからかってるだけだろうと思った。
すると、フロントガラスにフーッと煙を吐きかけた矢部がジロっと恵美を睨んだ。
「あんた、今、俺が冗談言ったと思っただろ? 見ただろ、あの原山さんがトチ狂ってる姿……あんなの演技じゃできねぇぜ……」
「…………」
「ココだけの話しだけどよ、俺、大磯先生に殺された女の死体を見た事あるんだ……あん時も確か、浦川のラブホだったな……いきなり夜中に藤田さんに呼び出されてその部屋に行ったんだけどさぁ、そしたら、さっき送ったばかりの女がぐちゃぐちゃの肉の塊になってるじゃねぇか……マジ、ビビったよ。死体なんて見るの初めてだしさ、それにその死体には目とか鼻とかねぇんだぜ、ボコボコに殴られて深海魚みてぇな顔になってんだぜ……正直、ここまでヤッても捕まらねぇんだから、やっぱ大磯ってのはスゲぇんだなぁって思ったよ……あいつに逆らったらマジヤベェって、そん時、心底思い知らされたね……」
矢部はその時の光景を思い出したのか、急に暗い顔をして黙りこくった。その深刻そうな表情は演技でもなさそうだった。
そんな緊迫した沈黙に、恵美の背筋はゾクゾクしていた。
(ぐちゃぐちゃの肉の塊……)
そう何度も繰り返していると、下着のクロッチがみるみる湿っていくのがわかった。
暫くすると、矢部が、「おっ、来た」と慌てて煙草を揉み消し、車のエンジンをかけた。
窓の外を見ると、藤田に肩を抱かれながら歩く沙織がいた。
ワンボックスカーの後部ドアがガラガラガラっと開くなり、三階のベランダから原山の絶叫が聞こえて来た。
藤田は沙織の背中を押しながら「早くしろ」言った。ヨタヨタと乗り込む沙織のその姿は、まるでデイサービスのバスに押し込まれる痴呆老人のようだった。
(つづく)
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