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水のない噴水12

2012/11/17 Sat 04:26

水のない噴水12



 静まり返った不忍池の細道に、凉子はひたすらヒールの音を響かせていた。
 真夜中の不忍池は漆黒の闇に包まれていた。無数の蓮が夜風に揺れ独特な不気味さを醸し出していた。
 見慣れた柳の木がずらりと並ぶ通路の端には、ホームレス達が蠢く気配が漂っていた。
「数十年前、ここのゴミ箱の中から若い女の手首が発見されたんだ」と彼に教えられたゴミ箱の角を曲がり大通りに出た。
 車が一台も走っていない真夜中の大通りは、まるで真っ黒な大蛇がドベンっと寝そべっているようだった。
 そんな大通りを渡り、そのまま上野公園の闇の中に潜り込むと、凉子は持っていた紙袋の中から履き古した健康サンダルを取り出した。それは、二日前、わざわざ横浜の総合病院まで行って、外来患者の下駄箱から盗んできた物だった。
 その健康サンダルに履き替えると、凉子は後ろも振り向かないまま獣道のような山道を進んだのだった。
 
しばらく山道を登っていくと、突然二メートルほどある高いフェンスが現れた。
『ここは東京都の管理地です。無断で立ち入る事を禁じます』
 そう書かれた看板には、東京都のマークと類似した卑猥なマークが十円玉か何かで傷つけられていた。
 しかし、雑草に囲まれたその高いフェンスは、見た目は厳重で威圧的ではあったが、フェンスの所々にはいくつもの穴が開けられ、子供でも簡単に出入りできるようになっていた。
 凉子はフェンスの前にゆっくりとしゃがむと、その穴に潜り込んだ。背丈ほどの雑草の中を進んでいくと、バッタのような虫が顔をめがけてびゅんびゅんと体当たりしてきた。
 そんな虫達を必死に躱しながら雑草の中を進んでいくと、いきなり雑草が途切れ、円形上にぽっかりと開いた場所に辿り着いた。
 そこが虹色噴水場跡地だった。

 元噴水場は丸い床がコンクリートで固められている為、その円空間だけは雑草が生えていなかった。
 朽ち果てたコンクリートは噴水の原型を微かに残しているだけであり、知らない人が見たらそこが噴水場だったとは誰も気づかないだろう。
 虹色噴水場というのは、1960年に作られた噴水場だった。
 噴水の中には、ギリシャ神話に出てくる水の神々の像が何体も配置され、夜になると七色のネオンでライトアップされた噴水には、その神々が幻想的に浮かび上がるという凝った仕掛けが施されていた。
 当時、若いカップルに人気のデートスポットだった。夏は子供達が噴水で水遊びを楽しみ、冬には凍った噴水をライトアップしては、また違った幻想的な世界を作っていた。その為、季節を問わずその噴水には人が集まってきたのだった。
 しかし、ある日を境にその噴水から水が消えた。
 それは、紫の服を着たカルト教団が、そこで凄惨な集団自殺をしたからだった。
 真夜中、そこにぞろぞろと集まってきた紫の服を着た信者達は、まるで何かに取り憑かれたように無言で噴水の中に入って行くと、刃渡り20センチもある刺身包丁で互いの胸を刺し合った。
 七色の噴水はたちまち信者達の血で真っ赤に染まり、その水が循環しては、早朝ゲートボールの老人達に発見される翌日の朝まで、血の噴水は不気味に噴き続けていたのだった。
 六人が死んで八人が一命を取りとめた。自殺の理由は不明だった。
 その事件があってから噴水は水を失い、閉鎖されたのだった。

 公園を管理していた東京都は、何度かこの噴水を取り壊そうとしたのだが、しかし、その度に紫の服を着たカルト教団が都庁に押し掛け、噴水取り壊しに対する激しい抗議デモを起こすため手が出せなかった。
 そのうち、臭い物には蓋をしろという事で、虹色噴水場はそのまま放置されるようになり、たちまち辺りは雑草に覆われ、蛇とトカゲとムカデの住処となった。
 そうなると、若者の間で様々な都市伝説が飛び交うようになった。
 さっそくそれに便乗した低俗なテレビ局がインチキ臭い霊能者をそこに招いては不謹慎な番組を放映した。そのうち稲川淳二までも現れ、そこで真夜中のトークライブをする始末だった。
 そんな無責任な企画に煽られた若者たちは、いつしかそこを肝試しの聖地とした。
 日本中から馬鹿な若者達が集まってきた。噴水の中に配置されていた数々の石像は、若者達の手によってスプレーで落書きされ破壊された。真っ赤に塗られたヴィーナスの石像などは、その股間に女性器を真似た穴が開けられ、そこに木の枝が何本も突き刺されている有り様だった。
 しかし、そんなブームもいつしか去り、再びそこは人々から忘れ去られた場所となった。一時、湾岸戦争時には怪しげなイラン人達がそこを溜まり場にしていたが、しかしバブルの崩壊と同時にイラン人の姿もどこかに消えてしまった。
 今では、そこを訪れる者は誰もいなかった。
 森の真ん中に放置された噴水場は、緑色の雨水が所々に澱んでいるだけの、水のない噴水と化した。
 水のない噴水は、まるで崩壊したローマ帝国の地下宮殿のように、薄気味悪くそして寂しかったのだった。

 そんな朽ち果てた噴水跡地の脇に立ちすくんでいた凉子は、月の明かりに照らされるラオコーン像を見つめていた。それは、トロイアの神宮ラオコーンとその二人の息子が海蛇に巻き付かれているという古代ギリシャの彫像で、見るからに気味の悪い石像だった。

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 そんな石像を見ていると、過去にこの場所で虐げられてきた変態行為の数々がドロドロと蘇ってきた。
 あの頃、まだこの雑草は膝までしか伸びていなかった。全裸にされた凉子は荒縄で縛られ、あのラオコーン像の前に吊るされた。円形状の噴水を大勢のホームレス達がぐるりと取り囲み、皆が見ている前で彼に陵辱された。ホームレス達は下品な笑顔を浮かべ、酒を飲み、そしてオナニーに耽っていた。
 そんな忌々しい記憶に心臓を鷲掴みにされた。あの男達の貪よりと濁った目の輝きが凉子の脳を締め付け、一刻も早くこの場所から逃げ出さなければという焦燥感に駆られていたのだった。

 その時、青い月の光に照らされたラオコーンの裏で、靴底がジリッと鳴る音が聞こえた。
「一人か?……」
 漆黒の闇の中から彼の顔がヌッと現れた。彼は、まるで路地の突き当たりに追いつめられた野良猫のように凶暴な目をギラギラさせながら辺りを見回した。二年ぶりに見る彼の顔は、まさにあの時この噴水を囲んでニヤニヤと笑っていたホームレスのように薄汚く荒んでいたのだった。

「一人よ」と凉子が答えると、彼は「だろうな」と意味ありげに鼻で笑いながら石像の裏から出て来た。
「こんな事、武田には話せないよな……それを聞いた武田は俺を殺すか、それともお前を捨てるかのどちらかしかないんだもん……今のお前にとっちゃ、どちらも地獄だよな」
 彼はニヤニヤと笑いながら凉子に歩み寄ると、「金、持ってきただろうな」と、鋭い眼光で凉子を睨んだ。
 凉子が黙ってバッグの中から百万円の束を取り出すと、彼はすかさずそれを奪い取り、恍惚とした表情で福沢諭吉を見つめながら「すまんな」と頬を緩めた。
 彼はそれをジャンパーの内ポケットの中に押し込むと、再び凶暴な目をギラギラと輝かせながら凉子の手首を掴んだ、
「まさか、お前がこの場所を指定して来るとは思わなかったよ……ふふふふふ、あの頃は楽しかったよな……今じゃおまえも世界のトップモデルだけど、やっぱりあの時の快感が忘れられないんだろ……だからわざわざこの場所を選んだんだろ……」
 彼は醜い笑顔でそう呟くと凉子の手を引いた。そして靴底にジリジリと小石を鳴らしながらラオコーン像の裏へと向かった。
「あれだけ大金持ちに成り上がった矢沢永吉でも、今でも子供の頃に広島のばあちゃんが作ってくれた卵焼きが忘れられないんだってさ。どんなに凄い料理人がどんなに豪華な料理を食っても、やっぱりあの時の卵焼きには勝てないって、なんかの雑誌にそう書いてあったよ……」
 そう言いながら彼は、凉子の足下に静かにしゃがんだのだった。

「綺麗になったな……」と呟きながらミニスカートを捲り上げる彼の頭を、凉子はジッと見おろしていた。
 彼は、凉子が履いている薄汚れた健康サンダルを見て「なんだこりゃ?」と首を傾げた。
「ヒールだと山道が登れないから……」
 そう凉子が誤摩化すと、彼は「世界のHIMIKOが親父サンダルとはね」と鼻で笑いながら、白い下着を足首までスルスルっと下ろしたのだった。
 真っ白な下腹部が、青い月の光にぼんやりと浮かび上がった。彼はウヨウヨと生える陰毛に鼻を押し付け、すーっと深く息を吸い込みながら凉子の右足を持ち上げた。
「あの時と同じ匂いだ……俺の大切な凉子の匂いだよ……」
 そう呟きながら、彼は凉子の開いた股間に舌を伸ばした。
 ぺぷ……ぱぷ……
 彼の舌が動く度に、既に濡れている裂け目から粘着力のある音が聞こえてきた。彼はハァハァと荒い息を吐きながら、凉子の陰部の隅から隅まで舌を走らせた。そして「アナルも舐めてやるから尻を突き出してみろ」といやらしく笑いながら凉子の体を反転させたのだった。

 凉子の目の前には海蛇が絡み付くラオコーンの白い尻が迫っていた。その像にしがみつきながら尻を突き出すと、彼はべちゃべちゃと下品な音を立てながら凉子の肛門を舐めまくり、そして膣の中に束ねた指の塊を強引に押し込んできた。
「なんでこんなに濡れてんだよ……武田は満足させてくれてねぇのか」
 そう笑う彼の声を聞きながら、凉子はラオコーン像の息子の足下に置いていたバッグにソッと指を伸ばし、タオルに包まれた出刃包丁の柄を指先で確認していたのだった。

 散々凉子の尻を舐め回した彼は、口の周りに付着した唾液と女汁を腕で拭いながらヌッと立ち上がった。
 いつの間にか彼はズボンのチャックから勃起したペニスを突き出していた。肉付きの良い凉子の尻を愛おしそうに撫で、「この尻は俺のものだ……」と深く呟きながら自分でペニスをしごいた。
 我慢汁の音を鳴らしながら悶える荒い息を吐いていた彼は、凉子の尻をソっと両手で支えながら囁いた。
「カルト教団の信者は、なぜこの噴水で自殺したと思う……」
 凉子が黙っていると、彼はペニスを尻肉の谷間に押し付けながら言葉を続けた。
「ほら、噴水の全体をよく見てみろよ……何かに似てると思わないか……」
 彼の亀頭が濡れた小陰唇を掻き分けてきた。うなぎのように蠢く彼のペニスは、凉子の小さな穴の中に潜り込もうとしていた。
「この丸い噴水は、ローマの闘技場をイメージして作られたんだ……」
 彼がそう耳元で囁いた瞬間、こりこりと固い肉棒が凉子の中にヌルっと滑り込んだ。「ああっ」と小さな声をあげながら凉子が腰を撓らせると、彼も「おおっ」と低く唸りながら、その狭い肉穴の感触に目を閉じた。
 彼はゆっさゆっさと凉子の尻肉を揺らしながら腰を振った。そして凉子の耳元に唇を押し付けながら、「ローマのコロッセオだよ、ほら、昔、グラディエーターって映画で見た事があるじゃないか、あの奴隷同士を殺し合いさせていた残酷な闘技場だよ」と囁き、腰の動きを早めた。

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「コロッセオってのは、当時迫害されていたキリスト教徒が虐殺された場所でも有名なんだ……紫の服を着たあのカルト教団ってのは実にデタラメな宗教でさ、二百人近くいた信者達はキリスト教徒と仏教徒の二つに分かれてたんだな……ここで死んだのはキリスト教徒の信者達さ。ローマのコロッセオで虐殺されたキリスト信者たちと同じように、奴らは上野の偽物のコロッセオで殺されたんだ……だからあれは集団自殺なんかじゃない、あれは集団虐殺だったんだよ……」
 彼は激しく腰を動かしながらそう囁くと、生暖かい舌で凉子のうなじをべろりと舐めた。
「つまりコロッセオってのは処刑場だったんだな……キリスト教徒を虐殺し、猛獣や奴隷達に殺し合いさせ、そして皇帝に逆らう者を次々と処刑していった公開殺人の場所だったんだ……そんな場所を、わざわざお前が選んで来るとはね……実は俺もいつかはお前をここに連れてこなくちゃ行けないと思っていたんだ……ふふふふふ、あまりにも偶然すぎて驚いたよ……」
 そう囁きながら、彼は凉子の尻に彫られていた『HIMIKO』のタトゥーを指でなぞった。
 そして、今までにない低い声で、「おまえは……俺を裏切って武田の奴隷になっちゃったんだもんな……」と呟くと、いきなり背後から凉子の首を両手で絞めたのだった。

 カッと頭に血が上った。耳の奥で筋肉が絞まるミシミシミシという音が鳴った。顔がみるみると赤くなり、奥歯がギシギシと歯軋りし、ラオコーンの尻にしがみついていた指がピクピクと痙攣した。
「死ねよ奴隷女」
 そんな彼の唸り声が耳鳴りの奥で微かに聞こえた。彼は両手の力をみるみると強め、彼の人差し指が凉子の喉仏に深く食い込んでいった。
 まるで深い水の中に沈められたような感覚だった。強烈な水圧に顔を締め付けられ、キーンッという耳鳴りがいつまでも続いている。
 意識を朦朧とさせながらも、凉子は無我夢中でバッグの中に手を入れた。しかし、指がタオルに絡まってしまい包丁の柄を握る事ができない。
 彼は凉子の首を絞めたまま腰を振っていた。「凄い、絞まるぞ、ぎゅんぎゅん締付けて来るぞ……」と唸りながら、もがき苦しむ凉子の尻にパンパンと乾いた音を立てている。
 凉子はそんな彼の声を遠くに聞きながら、ジンジンと痺れてきた脳に奇妙な快楽を感じた。
(あああ……このままイきたい……)
 そう思った瞬間、自然に舌がべろりと飛び出し、絞められた喉の奥からガガガガ……と、この世のものではないような声が漏れた。  
 凉子の意識がスーっと飛びかけた。その時、ふと凉子の指に固い包丁の柄が触れた。苦し紛れにそれをギュッと握りしめた瞬間、腹の底から凄まじい力が湧いて出てきた。
 まだ生きたい。
 まだ死にたくない。
 凉子の目玉がギョッと見開いた。おもいきり振り向くと、いとも簡単に体ごと後ろに向いた。
 彼と目が合った。彼は驚くのも忘れ、そのままの状態で固まっていた。
 出刃包丁を握り直しながら彼の腹を見た。ぽっこりと下腹部を出したままの彼の股間には、膣から抜けたばかりのペニスが、ドロドロに濡れ輝きながらピンっと屹立していた。
「お」と彼が何か言おうとした瞬間、凉子は渾身の力を込めて、剥き出しになった彼の腹に出刃包丁を突き刺した。
 彼は「ぶっ」と唇を尖らせた。まるでトラフグがプクっと膨らんだような顔をしたまま息を止めている。
 そんな彼の顔を見つめながら、刺して刺して刺して刺して刺しまくった。
 彼の下腹部はまるで豆腐のように柔らかく、包丁は面白いようにスポスポと刺さった。生暖かい血が大量に溢れ、柄を握る凉子の指を不安定にさせたが、しかし、いつ彼が反撃して来るかもしれないという恐怖から、凉子は、まるでそれ専用のロボットのように同じ箇所ばかりを刺して刺して刺しまくった。
 彼は、声もなくそのままガクンっと崩れ落ちた。彼の両膝がコンクリートの床にガッと音を立てた。しかし、それでも凉子の手は止まらなかった。真っ黒に染められた出刃包丁の先が、彼の顔面めがけて飛び出した。
 ガッという不気味な音とともに、凉子は今までにはない手応えを感じた。それは、まな板の上の大きな鯛の首を、骨ごと一気にガガッと切り落としたときの感触によく似ていた。
 その手応えで「はっ」と我に返った。
 出刃包丁は彼の顔面右半分に突き刺さっていた。右目と鼻の間に、根元まですっぽりと突き刺さっていた。
 凉子は、まるで熱いお鍋の蓋を摘んでしまった時のように、「わあっ」と慌てて柄から手を離した。
 手を離した瞬間、両膝をついたままの彼の体がゆっくりと後方へ倒れていき、コンクリートの床にドサッと鈍い音を立てたのだった。

(つづく)

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