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群がる蟻

2013/06/15 Sat 22:31

群がる蟻

【あらすじ】
夜の公衆便所の個室の壁に、ヌルヌルに濡れたパンティーがぶら下がっていた。
隣りの個室には、そのパンティーの持ち主らしき女が隠れていた。
女の陰部は濡れていた。女は明らかに狂っていた。




 深夜の公園の奥にポツンとある、まるで廃墟のような公衆便所にふと立ち寄った俺は、黄ばんだ便器に酒臭い小便をビチャビチャと飛ばしながらも、目の前の壁に書かれた卑猥な落書きに思わずムラッと欲情した。

『誰でもいいから精液を飲ませて下さい』

『僕の二十六才の彼女をイカせてくれる方、連絡下さい』

『二千円でカリ首の裏までペロペロしてあげる』

 そこに書き連ねられた落書きは、そこらのエロ動画なんかよりもずっと卑猥だった。場所が場所なだけに妙な臨場感があり、饐えた匂いがプンっと漂う生々しいエロスを感じさせてくれた。

 小便中におもわず勃起してしまった俺は、その圧迫された尿道から激しく噴射する小便に苦心しながらも、やっとの事で小便を出し尽くした。
 ズボンのチャックを閉めながら、ふと背後の個室に振り返ると、そこにも卑猥な落書きがウヨウヨと書きまくられていた。
 嬉しくなった俺は、まずは三つあるうちの一番奥の個室から見て行こうと、ワクワクしながら冷えたタイル床に靴音を鳴らしたのだった。

 そこは、まさに闇の図書館だった。小便器の方は短文が多かったが、個室はがっちりと長文が書き綴られていた。
 そんな卑猥な落書きの中には、かなり読み応えのある文書もあった。
 特におもしろかったのは、この個室でホームレスにレ○プされたというOLの告白文だった。一年前、この個室でレ○プされたという女は、あの時の快感が忘れられず今でもこの個室にこっそり忍び込んではあの時を思い出してオナニーをしている、と書かれており、それが誰かの創作落書きだとわかっていても、それなりに興奮させてくれた。

 俺はズボンの上から膨らんだ股間を揉みながら、それらの落書きを隅々まで読み漁った。
 そして、隣りの個室へと移動した時、俺は、落書きだらけの壁にぶら下がっているモノを見て、おもわず息を飲んだ。

 それは、明らかに使用済みのパンティーだった。
 随分と履き古されたと思われるパンティーには、これみよがしに黄色いシミがべっとりと付着していた。

 乾いた喉をひゅーひゅーと鳴らしながら立ちすくむ俺は、そこにぶら下がるパンティーをしばらく見つめていた。
 いったい、誰が何の為にこんな事をしたんだろう?
 そう思いながら、タイル床の砂利をジャリッと鳴らしながら個室に入った。
 もしかしたら誰かがコレをココに忘れて行き、それを見つけた誰かが、「忘れ物だよ」と、コレをこうしてココにぶら下げたのだろうか?
 そんな想定をしながらも、そんな馬鹿な事はない、こんなモノをわざわざココに忘れて行く馬鹿がどこにいると、フッと鼻で笑った。
 ではいったい、コレは何の為にココにこうしてぶら下げられているのだろう、と首を傾げながら、ソッとパンティーに顔を近づけて見ると、なんとその黄ばんだシミの部分は薄らと湿っていた。

 カッと頭に血が上った。これをついさっきまで誰かが履いていたんだと思うと、半開きの唇からハァハァと熱い息が洩れた。そして、その誰かが、その濡れた部分を誰かに見せようと、わざとコレをココにこうしてぶら下げて行ったんだと考えると、クラクラした強烈な目眩に襲われた。

 俺は、迷う事無くその濡れた部分に人差し指を伸ばした。
 そして、ヌルヌルとした生温かい感触を指先に感じながらズボンのボタンを外し、中からビンビンに勃起したペニスを引きずり出した。

「あぁぁぁぁぁぁぁ……」と唸りながらペニスをシゴいた。
 心地良い快感が下半身に広がり、直ぐにでも射精できそうだった。
 ムラムラと欲情する俺は、その濡れた部分にペニスを擦り付けたいと思った。
 が、しかし、いくら興奮しているとはいえ、それがいかに危険な事ぐらいかは判断できた。
 取りあえず、そこを弄っていた指の匂いを嗅いでみた。
 いかにも陰部らしい饐えた匂いが漂って来たが、しかし、性病のような異臭は感じられなかった。
 俺は、ぶら下がるパンティーに顔を近づけながら、直接そこを嗅いでみる事にした。もし大丈夫そうだったら、そのままそこをペロペロと舐めながら射精するのも悪くないと思った。

 黄色いシミは近くで見ると、ヌルヌルとした液状だった。
 これがいわゆるオリモノってヤツなんだな、と思いながら、そこをソッと嗅いでみると、不意に隣りの個室から「いや……」という声が聞こえた。
 ビクッと背筋を飛び上げた俺は、慌ててペニスをズボンに押し込んだ。
 幽霊か? それとも変質者か?
 俺は、そこに潜む百九十センチの巨大なオカマを想像しながら、震える指でズボンのボタンを慌てて閉めた。
 そして、個室から飛び出そうとした瞬間、壁に開いていた小さな穴から、こちらをジッと見ている目と、目が合ったのだった。

              


「あのパンツは……あんたのか?……」

 公園の真っ暗な遊歩道を二人並んで歩きながら、俺はポツリと女にそう聞いた。
 女は黙ったままコクリと頷いた。頷きながら遊歩道のレンガタイルをジッと見つめている女の黒目は、常にブルブルと左右に震えていた。

 女は明らかにおかしかった。
 見た目は、どこにでもいる普通の二十代のOLといった感じの女だったが、しかし、その仕草や言動は、明らかに健常者ではなかった。
 特に異常だと思ったのは、初対面の俺の事を『秋彦君』と呼んでくる事だった。
 最初はジョークだと思っていたが、しかし、突然、「お母さんがね、秋彦君は本当はA型じゃないのかって聞くのよ」と言いながら、狂ったフクロウのように、ほほほほほほほほほほっと笑い出したり、又は、「新婚旅行、やっぱり秋彦君はハワイがいいんでしょ?」と言いながら、突然トートバックの中から『るるぶ』のハワイ編を取り出し、暗闇で見えない記事を俺に示しながら「予算的にも、このホテルがいいと思うんだけどなぁ」と笑う仕草はとても演技には見えず、どう考えても本気で俺を秋彦だと思っているとしか思えなかったのだった。

 俺は、そんな異常女をトイレから連れ出した。というのは、俺がこの女と話している最中、ボロ雑巾のような真っ黒なホームレスがノソノソとトイレに入って来たからだ。
 俺は、そんなホームレスの異臭から逃げるようにして、女をトイレから連れ出した。
 女を連れ出した目的は、もちろん、この狂った女を犯してやろうと思ったからだった。

 女の意味不明な話しを聞きながら遊歩道を進んで行くと、フェンスの横に小さなベンチがポツンとあるのが見えた。そこは鬱蒼とした樹木に覆われている為、通りからは死角になっていた。この女を犯すにはおあつらえ向きの場所だった。

 女の手を強引に引きながらその薮の中に連れ込もうとすると、女は突然俺の手を振り払い、「どうしてですか?」と俺の顔を見た。
 女の表情はいたって普通だった。あの『秋彦君』と話しをする時の異常な様子は完全に消えていた。

(こいつはウツ病か?……)

 そう思いながら俺は、疲れたからちょっと休んで行こうぜ、とベンチを指差すと、女は、いきなり攻撃的な光を目に宿しながら、「あなたは秋彦君ではありません!」と叫び、そのままスタスタと遊歩道を歩き出したのだった。

 俺は女を追い掛けた。暗い遊歩道の中、スタスタと歩く女の尻が左右に揺れていた。黒いタイトスカートに包まれた女の尻は妙にエロく、あんなキチガイでもいいからヤリまくりたいと俺は本気で思っていた。

 女は、何かブツブツと呟きながら公園の出口まで進むと、そのまま公園の横にある巨大駐車場への細道に入って行った。
 細道を進みながら女の横に並ぶと、女は俺をギッと睨みつけ、「いくら姑とはいえ、私がそこまで面倒を見なきゃいけない義務があるのか!」と叫んだ。
 女は再び狂っていた。何を思ったのか、いきなり右手を俺の顔に向けると、突然、グー、チョキ,パー、と連続して繰り返し、そして「グラタンパパイヤチョコレート」などと意味不明な事を呟いていた。

 そうしながら細い路地を進んで行くと、広い駐車場に出た。一番端に止めてあった車へと女は駆け寄ると、駐車している車と隣りの建物の塀の隙間にスタスタと入り込んで行き、素早くポケットから鍵を取り出した。

 その車は女の車だった。
 女が助手席のドアをおもいきり開けると、ドアの角が塀に当たり、ガガッと嫌な音を響かせた。
 しかし女は車に乗込もうとはせず、俺に向かって、突然「六百万円の貯金があるってのは嘘だったのね!」と叫びながら車の横にしゃがみ込むと、いきなりノーパンの股間をガバッと開き、凄まじい勢いの小便を始めたのだった。

 俺は慌てて女の正面にしゃがむと、女の股の中を覗いた。女の小便を見るのは初めてだった。五年前、鶯谷のラブホテルで、十六才のデリヘル女に小便している所を見せてくれと頼んだら、十万払ったら見せてやるよこの変態野郎と罵られたため、女のバリバリに痛んだその茶色い髪をライターで燃やしてやった事があった。
 それ以来、俺は女の小便に異常に興味を持ち、何度かスーパーの女子トイレやゲームセンターのトイレなどに忍び込んだのだが、結局、一度もそれを目撃する事はできなかった。

 女は、股間を覗かれながらも普通にしていた。
 小便が噴き出す女の性器はベロリと捲れていた。生々しい内部は異様に赤黒く、まるでレバ刺しのような不衛生な色をしていた。
 女には陰毛が無かった。ぽっこりと膨らんだ恥骨の上にはポツポツとした剃り残しが青く広がっていた。
 初めて目にする女の小便にムラムラと欲情する俺は、自分の股間をモソモソと揉みながら「毛、剃ってるのか?」と聞いた。女はギロリと目を剥きながら俺を睨むと、突然「バーカ」と吐き捨て、そしてキキキキキッとネズミのような顔で笑いながら俺の靴に向けて小便を飛ばして来たのだった。

 女が車に乗込むのと同時に、俺も助手席に乗込んだ。俺の靴の中は女の小便でぐじょぐじょしていた。
 見知らぬ男が助手席に乗込んで来たというのに、女は何も動じる事無く、普通に車のエンジンを掛けた。
 エンジン音がブルルンっとシートの尻に響くと同時に、カーステレオからは、カルチャー・クラブの『カーマは気まぐれ』が流れ出した。
 随分と古い曲だと思っていると、なんとそれはCDではなくカセットテープだった。『80年洋楽ヒットチャート』と書かれたそのカセットのパッケージらしきモノが、くしゃくしゃに潰れながら座席の下に転がっていた。

 女はいきなりボリュームを上げると、シートに座りながら縦揺れにリズムを取り始め、ニヤニヤと微笑みながら歌い出した。しかし、まともに歌えているのは「カマカマカマカマ」というサビの部分だけで、あとはデタラメだった。

 しばらく俺は、そんな女の奇怪なショータイムを見ていた。そのデタラメな歌と踊りからして、この女の精神状態はかなり危険だと思った。
 再びサビの部分に差し掛かると、女は突然激しく首を振り出し、その勢いでドアの窓にゴンっと頭を打つけ、子供のように「痛てっ、痛てっ」と笑いながら、いきなり俺の太ももに倒れ込んだ。
 女はそのまま動かなくなった。俺の股間に顔を埋めたまま小さな声で「カマカマカマカマ」とサビを呟いていた。

 すかさず俺は女の胸に手を伸ばした。ブラジャーをしていないらしく、女の胸はムニュムニュと柔らかかった。
 女が抵抗しないのを確認すると、俺はそのままズボンのボタンを外した。
 ソッと腰を上げながらズルズルとパンツを下ろすと、ビンっと硬くなったペニスが女の顔の真横に突き立った。

 夜勤帰りだった俺のペニスは、試合直後の高校球児のペニスのように汚れていた。一晩中、甲州街道の工事現場で旗を振り続けていた俺のペニスは、汗と小便のカスと恥垢にまみれ、仮性包茎の皮がペロリと剥けた亀頭には濃厚なイカ臭がムンムンと漂っていた。
 そんな亀頭を女の頬に押し付けると、女は黙ったままそれをパクッと銜え込んだのだった。

 女のフェラは異様に上手かった。ブジュブジュと音を立てながらしゃぶりまくり、肉棒から金玉へと垂れ落ちる唾液を素早く舌で掬い取るその仕草は、まるで商売女のように馴れていた。
 そんなテクニックに悶えながら、俺は女のスカートの中に手を忍ばせた。
 妙に太ももの冷たい女だった。指で陰毛の剃り残しをザラザラしていると、女はモゾモゾと腰を動かしながら、俺が性器を触りやすいように股を大きく開いた。
 そこに指を伸ばすと、指はたちまちヌルリと飲み込まれた。
 穴の中は熱く、ドロドロの液体が指に絡み付いて来た。
 随分と濡れてるなと、そのドロドロの液に違和感を感じながらも、そのまま三本の指を押し込み、乱暴にぐちゅぐちゅと音を立てた。

 女はペニスを銜えたまま「うーうー」と唸っていた。
 不意にカーステの曲が止まり、カチャンっと乾いた音が車内に響くと、そのまま自動で巻き戻しを始めた。どうやらこの女は、『カーマは気まぐれ』をリピートにしているらしい。
 一時静まり返っていた車内に、再び『カーマは気まぐれ』の軽快なイントロが流れ始めた。
 俺は、それを機に女をシートに押し倒した。女は抵抗する事無く、股をM字に開いたまま天井を見つめ、俺がズボンを脱ぎ捨てるのをジッと待っていた。
 ズボンを足首から抜き取りながら、一応、女の性器を弄っていた指の匂いをソッと嗅いでみた。ここにはゴムなど無いから、生でやるにはそれなりの検査をしておいた方がいいと思ったからだ。

 女の性器を掻き回していた俺の指には、なにやら消毒液のような匂いが漂っていた。どこかで嗅いだ事のある匂いだと思いながらも、危険性のある匂いではないと判断した俺は、急いで女の体の上に乗っかると、猛烈に勃起した肉棒を赤黒いオマンコの中にヌルッと入れたのだった。

 シートの上で激しく髪を振り乱す女の髪から、生ゴミのようなニオイが漂ってきた。随分と洗っていないらしく、乱れる黒髪はゴキブリの羽のようにテラテラと輝いていた。
 しかも、近くでみると女の鼻の穴から数本の鼻毛が顔を出しており、そして「あーあー」とトドのように喘ぐ口からは、強烈な虫歯臭が漂って来た。
 そんな女に顔を背けながら、俺はひたすら腰を振った。一刻も早く中出しして、とっとと逃げようと思いながら、女の乳を乱暴に鷲掴みにし、結合部分にぐじよぐじょと音を響かせた。
 そうしながらスコスコと腰を振りまくっていると、いつしか絶頂の兆しが訪れて来た。
 これほどの醜い女と、『カーマは気まぐれ』の曲が鳴り続く車内でセックスしている自分を客観的に思い浮かべ、おもわず噴き出しそうになった。

 女の両脚を両腕で抱え込み、まんぐり返しのような体勢になった。
 このまま女の膣の中に大量に中出ししてやろうと、「おら、おら、おら」と意味もなく唸りながら激しく腰を振り始めると、いきなり女が「秋彦君はどこよ!」と叫び、カエルのようにひっくり返っていた両脚をおもいきり伸ばした。
 俺の痩せた体は、いとも簡単に吹っ飛ばされた。
 フロントガラスにおもいきり後頭部をぶつけ、ゴンっという嫌な音が脳に響いた。一瞬目の前が真っ暗になり、フワフワとした状態で女にしがみついた。
 女は寝転がったままドアを開けた。そして再び俺を突き飛ばすと、素早く車内から脱出し、カツコツとヒールの音を響かせながら公園の闇の中へと走り去って行ったのだった。

 俺は、しばらく頭をボーッとさせながら『カーマは気まぐれ』を聞いていた。
 ドロドロした白濁の液が滴るペニスを突き出したまま、のそりと車内から這い出ると、闇に消えて行った靴音に一瞬殺意を覚えた。

 このままでは帰れないと奥歯をギリギリと噛みながら、俺は消えて行った足音を求め闇を彷徨った。
 あの女が、薮の中から俺を見てはニヤニヤと笑っている気がして、俺はそこらじゅうの薮の中に石を投げながら、「出て来いキチガイ女!」と怒鳴り散らした。
 しかし、女の姿は一向に見当たらなかった。俺がこうしている隙に、こっそり車に戻ったのではないかと、何度も駐車場に戻ってみたが、しかし、そこには『カーマは気まぐれ』が響いているだけで、女の姿は見当たらなかった。

 再び薮の中に目を凝らしながら公園の奥へと進んで行くと、暗い遊歩道の先で、女と出会った公衆便所がぼんやりと明かりを灯していた。
 もしかしたら、またココに戻って来たのかも知れないと思い足を速めると、何やら、公衆便所の中から女の啜り泣くような不気味な声が響いて来た。
「あの女だ!」と思った時、公衆便所の入口に数人の人影が見えた。ゾッとしながら足を止めた俺は、その中で繰り広げられているだろうと思われる悲惨な光景を想像しながら、慌てて公衆便所の横の薮の中に身を隠したのだった。

 便所の中から聞こえて来る声は、明らかに女の喘ぎ声だった。
 あのキチガイ女に違いないと思った俺は、ホームレス男達に無惨にレ○プされている女の姿を思い浮かべながら、だからあのまま俺とセックスしておけばよかったんだよ、と顔を顰め、「自業自得だ」と小さく吐き捨てた。

 そのうち、女に対して「ざまぁみろ」と思うようになって来た俺は、そんな女の悲惨な姿を見てやろうと、足音を忍ばせながら薮を潜り、公衆便所の裏へと回った。
 公衆便所の裏の壁には、『スペクター参上』という、時代を感じされる古いスプレーの落書きが残っていた。
 夜露に湿った雑草を踏みしめながら、男子トイレの裏窓へと進むと、窓から投げ捨てられたのか、窓の下の雑草の中に精液が溜った使用済みコンドームがベタリと萎れており、そこに無数の蟻が群がっていた。

 そんな雑草の中に爪先立ちながらソッと窓の中を覗いてみた。
 全裸の女が、汚れたタイル床にベタリと座りながら、落書きだらけの壁にもたれていた。そして、その女の上にグレーのTシャツを着た中年の男が覆い被さり、リズミカルに腰を動かしていたのだった。

 やっぱりあの女だった。
 数人の男達は、犯される女をグルリと囲みながら、不敵にニヤニヤと笑っている。

「秋彦君がそうしろと言うなら私は黙って従うわ、でもね、これだけは覚えておいて、勝浦さんの息子さんはまだ三歳よ、そろばん塾なんて早過ぎるわ、でもね、秋彦君がそうしろというのならそうします、私は黙って従うわ」

 犯される女は、相変わらず意味不明な言葉を、腰を振りまくるグレーのTシャツの男の耳元に呟いていた。
 そんな女の黒髪には、飛び散った精液の形跡が見られ、既にかなりの人数に犯されている様子が伺えた。

 それを窓から見ていた俺は、急に怖くなった。
 知的障害の女を輪姦。確かに俺は変態だが、しかし、そのレベルにはついていけないと思った。
 爪先立てていた踵を元に戻した。そしてそのままソッとその場を立ち去ろうとした時、いきなり薮の中から真っ黒なホームレスがヌッと現れた。

「煙草くれよ」

 そう言いながら淀んだ目で笑うホームレスは、さっき俺と女がこの公衆便所で出会った時に、のそのそと便所に入って来た、あの時のホームレスだった。

 俺はポケットから煙草を取り出すと、「ほら」と言いながら煙草を一本ホームレスに恵んでやった。
 ホームレスは煙草を愛おしそうに指で撫でながら、「サラの煙草を吸うのは何年ぶりだろう」と嬉しそうに笑った。
 そして俺が差し出すライターの火に銜えた煙草の先を向けながら、異様に淀んだ目でジロリと俺の目を見た。

「あんた新顔だな……あの女とは、もうヤっちゃったのか?」

 ホームレスはそう言いながら、スパスパと白い煙を口から吐いた。
 俺は、頭をガリガリと掻きながら、「いや……ヤってる最中に逃げられちゃったよ……」と苦笑いした。
 するとホームレスはそんな俺を見つめながら一瞬止まり、そしてすぐにムホムホと笑いながら煙草をもう一息吸うと、「ありゃあ、可哀想な女なんだよな……」と、鼻から微かな煙を洩らした。

「可哀想?」

 俺が首を傾げると、ホームレスは「うん……」と頷きながら、一服吸っただけの煙草を丁寧に壁に擦り付けて火を消した。そして、その煙草を大切そうにポケットの中に仕舞うと、「あれはもう二年前になるかなぁ、このトイレで集団レ○プをされてね。それからだよ、あの女の人生が狂っちまったのは……」と呟きながら壁に凭れかかり、スモッグに汚れた東京の夜空をそっと見上げた。

「元々、堅気の娘だったんだよ、あの子は。二年前までは、丸の内でOLをやってたんだ。真面目な子だったんだよ。だから何も知らねぇで、婚約者とこんな所でデートしてたんだよ……」

 俺は「こんな所?」と首を傾げた。
 するとホームレスは「うむ」と頷きながら再びポケットの中を漁った。そして中からさっきのシケモクを摘み出すと、それをさも切なさそうに指で擦りながら、再び夜空を見上げて話しを続けた。

「この便所はよ、昔っから変態の溜まり場なのさ。俺が上野からこっちの公園に移って来る前からだから、かれこれ三十年以上は変態共の遊び場だよ。町の奴らも、区の職員も、そこの交番のおまわりさえも、この便所にゃ呆れててさぁ、もう好きなようにやってくれって感じよ。治外法権みてぇになっちまってんだ。だから、変態共がよ、インターネットとか見て全国からウヨウヨと集まってきやがるんだよ……」

 ホームレスはそう話すと、何かを思い出したかのように突然ヒヒヒヒっと笑いだし、真っ黒に汚れた手で股間をボリボリと掻きながら俺の耳に声を顰めた。

「この間もよ、九州から来た変態夫婦がいてよ、その旦那、みんなが見ている前で女房に『公開ウ○コ』させてたよ。わざわざ九州からこんなトコまでやって来てさ、こんな太っといウ○コを女房にさせてんだから、バカだよねぇ〜」

 ガハハハハっと笑い出すホームレスの口から吐き出る下水道のような口臭におもわず顔を顰めながら、俺は、「で、あの女はどうなったんだよ」と話しの先を急がせた。

「うんうん。でな、あの女とその婚約者は、ここがそんな場所とも知らずに、夜の夜中にここでデートしてたんだな。あん時、俺ぁ、二人がそこのベンチでイチャイチャしてんのを芝生に寝っ転びながら見てたんだよ。どう見ても変態にゃ見えねぇしよ、いやに綺麗なカップルだなぁと不思議に思ったから、あん時の事はよ〜く覚えてるよ。しばらくすると、そこでイチャイチャしてる二人をさ、便所から出て来た野郎共が取り囲んだんだ。野郎共はよ、二人をてっきりそれ系の変態だと勘違いしてたんだな。そりゃあそうだろう、そんな時間にここで乳くりあってりゃ誰だってそう思うさ。女は野郎共に抱えられて便所ん中に連れて行かれたよ。で、必死に助けようとしている婚約者の目の前でよ、十人以上の変態共に犯されちまったってわけさ……」

 おもわず俺は顔を顰めながら、「婚約者の前で……」と呟いた。
 ホームレスも俺に合わせて顔を顰めながら、「婚約者の前でだ……」と頷いた。

「それからだよ、あの女が夜中にこの便所にやって来るようになったのは。あまりのショックで気が狂っちまったんだろうな、俺達みてぇな乞食にまでただでヤらせてくれたよ……だからあの子は、この公園ではマリアって呼ばれてんだ。ネットなんかでもちょっとした有名人らしいぜ……」

 ホームレスは、そう言いながら、遂に指に摘んでいた煙草をそっと口に銜え、ポケットから取り出した百円ライターで、煙草の先に火を付けた。
 目をゆっくりと閉じながら実に旨そうに一口吸った。しかし、すぐに煙草の先を壁に擦って火を消すと、またポケットの中に大切そうに仕舞った。そんなホームレスの使い古した百円ライターには、今にも消えそうな字で『スナックあけぼの』と印刷されていた。

 俺は、そんな話しに胸を締め付けられながら、もう一度窓の中を覗いた。
 女は小便器にしがみつきながら、立ったまま背後から犯されていた。女の尻に腰を振っていたグレーのTシャツを着た男が、「ほら、ほら、また小便洩らしたよ」と、回りを取り囲むギャラリーに自慢げに笑い、女は、太ももからびしゃびしゃと小便を噴射しながら、「秋彦君にとって西新宿は鬼門なのよ!」と叫んでいた。

 俺はそんな悲惨な光景に、下唇をギュッと噛み締めた。

(このトイレでレ○プされなければ、今頃あの女も、その秋彦君とかいう婚約者と幸せに暮らしていたんだろうに……)

 そう思いながら、さっき読んでいた個室の落書きはあの女が書いたものなのかも知れない、と、深い溜め息をつくと、またしても煙草に火を付けたらしいホームレスが、無精髭に囲まれた唇から煙を吐きながら俺の横で窓を覗いた。

「ほら、あいつだよ。今、女とヤってるあのグレーの服を着た男。あれが、あの女の婚約者だよ」

 俺は絶句しながらも「はぁ?」とホームレスに振り返った。

「あいつも可哀想な男さ。あん時、婚約者が目の前で輪姦されるのを見ちゃってから、おかしくなっちまったんだ。あん時、婚約者がヤられるのを見ながら、あれだけ泣き叫んでたっつうのによ、今じゃ、ほら、見てみなよ、ああしてみんなの前で婚約者をヤるのが癖になっちまってんだよ……」

 ホームレスはそう言いながら、指に挟んでいた煙草の先を壁に擦り付けた。薄暗い便所の裏に、煙草の火の粉が花火のように舞った。

「あん、あん、秋彦君、また出ちゃう、またオシッ○が出ちゃう!」

 ガンガンと腰を振られながら、汚れた小便器にしがみつく女が叫んだ。
 そんな女の股間からペニスを抜いた秋彦君が、ペニスの先からダラダラと精液を垂らしながら、後のギャラリー達に向かって「どうぞ」と微笑んだ。

 それを合図に、一斉に男達が女の体に群がった。
 それはまるで、餌に群がる蟻のようだった。

 小便を噴き出しながら悶える女の体に何本もの腕が伸び、たちまち女の口と膣と肛門は変態共に蓋をされた。
 それを愕然としながら見ていた俺は、さっきの車の中でヤっている時、女のアソコが異様にヌルヌルしていたのは、もしかしたら変態達の精液だったのではないかと思い、背筋をゾッとさせた。

 そんな俺の頭の中で、不意に聞き覚えのある曲が流れ出した。
 それが何の歌だったか全く思い出せなかったが、単調なリズムがずっと頭から離れなかった。

 その曲名を思い出したのは公園を出てからだった。
 西新宿の裏路地を一人トボトボと歩きながら、それがカルチャー・クラブの『カーマは気まぐれ』だった事に気付いた。
 俺は、声に出して「カマカマカマカマ」と呟くと、ふと、また明日あの公衆便所に行ってみようかなと思いながら、スモッグに汚れた東京の夜空をそっと見上げたのだった。

(群がる蟻・完)



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