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せんずり電話1

2013/06/15 Sat 00:02


 斜め前のテーブルで、カレーライスを平らげたサラリーマンが席を立った。
 昔ながらのカレー皿は底が深くて和式便器のようだ。そこにやたらと黄色いカレールーの残汁がこびりつき、ましてや口を拭いたナプキンが、その皿の横にくしゃくしゃになって置いてあると、それはもう便器以外の何物でもなかった。
 さっそくウェイトレスがそのテーブルにやって来た。
 その下品な皿の中に卑猥に汚れたナプキンを投げ入れ、それを銀色のお盆の上に乗せると、その横に空のグラスと吸殻二本の灰皿を素早く置いた。
 ウェイトレスは黒いミニスカートを履いていた。歳は三十手前で、なかなか色気の漂う足をしていた。
 そんなウェイトレスの足や尻をいやらしく眺めていると、ふと、カウンターにいたマスターらしき男が私を睨んでいる事に気づいた。

 ウェイトレスはテーブルの上をせっせと拭き始めた。
 ウェイトレスの尻が、私の目の前でユッサユッサと揺れていた。
 私はそれを見ながら、その黒いミニスカートをペロリと捲り、そこに顔を埋める妄想をした。
 暫くすると、ウェイトレスはその丸いテーブルの反対側に移動した。今まで背中を向けていたウェイトレスが正面を向いたため、今度はそのたわわとしたおっぱいを拝む事が出来るようになった。

写真1

 テーブルを拭く度に、その豊かな柔肉はフルフルと揺れていた。
 それをドキドキしながらチラチラと見ていると、不意にその柔肉の先に小さな突起物が薄っすらと浮かんでいる事に気付いた。

(もしかしてノーブラか……)

 私はゴクリと唾を飲み込みながら、もう一度それを確かめた。
 確かにその突起物は乳首だった。時々、ブラジャーのシワが乳首のように浮かんでいる女を見かけたりする事があるが、しかし、今、目の前にいるこの女のそれは、明らかに乳首以外のなにものでもなかった。
 その証拠に、女のTシャツにはブラジャーのラインが浮かんでいなかった。しかも、その柔肉のフルフルとした揺れ方は、まるで水風船をぶらぶらとぶら下げてさせているような動きをしており、どう見てもノーブラとしか思えなかった。

 私はそれを確かめるべく、女に「すみません」と声をかけた。
 女は、「はい」と言いながらテーブルを拭く手を止めた。

「ここも拭いてもらえますか」

 私は、自分のテーブルを指差して言った。そこにはアイスコーヒーから垂れた水滴が岐阜県のような形を作っていた。
 女は「あっ、はい」と返事をしながら私の席に向かってきた。チラッと横目でカウンターを見てみると、マスターの表情は酷く焦っていた。

 通路側に座っていた私の真横で女は足を止めた。寝起きのような小声で「失礼します」と呟きながらテーブルに台拭きをソッと置き、微かに前屈みになった。
 女の胸がすぐ目の前にあった。台拭きを持つ女の右腕が動くなり、ボテっと垂れた乳肉がフルッと揺れた。
 やはりその突起物は乳首だった。その形、その位置からして、乳首以外には考えられなかった。

写真2

 女がテーブルを拭く度に、たわわな乳房が私の目の前でフルフルと揺れた。それが揺れる度に、その突起物もTシャツにスリスリと擦れているのではないかという妄想が膨らみ、思わず亀頭がビクンと疼いた。

 残念な事に、岐阜県のような水溜りは一瞬にして台拭きに吸い込まれてしまった。女は小声で「失礼します」と呟くと、そそくさとカウンターに向かって歩き出した。
 私は亀頭をジクジクと疼かせながら、去って行く女の尻を目で追っていた。すると再び突き刺さるような視線を感じ、慌てて視線を上げてみると、やっぱりマスターがカウンターから私を睨んでいた。
 そんな二人の関係は恐らく夫婦だった。詳しいことはわからないが、しかし、二人の会話やその仕草から見て、二人が夫婦以外の関係であるとは考えにくかった。


 私がこの店に来たのは偶然だった。
 この日、出張で福井に来ていた私は、取引先との商談を終えた帰り道、たまたまホテルの裏にあったこの喫茶店に一人で立ち寄った。
 そこは初めて入った店だった。福井には何度も出張で来ており、その度にこのホテルを利用していたが、今までこの喫茶店の存在は知らなかった。
 どこの町にでもある普通の喫茶店だった。カフェのように小洒落てなく、ホテルのティーラウンジのように気取っていないその雰囲気は、四十を目前にした安サラリーマンの私でも気軽に入ることができた。
 ドアを開けると、ドアにぶら下がっていた銅のカウベルがカランコロンと牧歌的な音を鳴らした。
 店内にはナポリタンスパゲティーの香りがモワモワと漂い、カウンターでコーヒーカップを磨いていたマスターが小さく会釈をした。そんなマスターの頭上には小さなテレビがぶら下がり、夕方のニュースが垂れ流しにされていた。
 その昭和的な雰囲気に安堵を覚えながら、私は窓際のテーブルに腰を下ろした。
 座るなり手書きのメニューを手にした。そこには、オムライス、海老ピラフ、サンドイッチ、カレーライスと、コレ系の店の定番軽食が並んでいた。裏を見ても、コーヒー、ココア、クリームソーダ、と、親父の私にでもわかりやすいメニューばかりだった。
 とかく最近の喫茶店というのは、カフェラテ、エスプレッソ、カプチーノと、意味不明なメニューが多かった。先日も、若い部下達に昼食を誘われ、会社の近くのカフェに連れて行かれたのだが、案の定、何がなんだかわからないメニューばかりだった。
 しかしそこで「わからない」というのはあまりにも恥ずかしく、だから私は、別段食べたくもなかったが、その中でも唯一理解できるタコライスを注文した。
 料理が出てくるまでの間、緊張を誤魔化すために私は、必死に部下達に能書きを垂らしていた。タコライスは本場兵庫の明石が一番うまい、や、関西に出張に行くと必ず私は『ひっぱりだこ』の駅弁を買うなど、散々言いまくっていた。
 が、しかし、出てきたそのタコライスに蛸の姿は微塵もなかった。てっきりタコライスを『たこめし』だと思っていた私は思い切り恥を掻き、まさに茹で蛸の如く真っ赤な顔をしながらそれを急いで平らげたのだった。

 そんな私だったため、この喫茶店の雰囲気やメニューに、たちまち私は癒された。これで綺麗なウェイトレスでもいてくれたら申し分ないなどと思いながら窓の外をぼんやり眺めていると、そこに例の女がお冷を持ってやってきた。
 決して若くはないが、妙に色気のある女だった。ミニスカートがそう思わせたのか、真っ赤な口紅がそう思わせたのかわからないが、とにかく私はその中年女に性的な魅力を感じた。
 まさかその時、この女がノーブラである事など、夢にも思っていなかった。


 わざと乳首を見せつけているのか、それともブラジャーを着け忘れたのか。
 そんなことを考えながら、丸みを帯びた柔肉のラインや、コリコリとした突起物を思い出していた。
 もう一度見たいと思いながらアイスコーヒーを手にし、ストローを唇に挟みつつカウンターにソッと視線を向けた。
 一瞬にしてマスターと目が合った。マスターは、人の女房をいやらしい目で見るなと言わんばかりの攻撃的な目つきで私を睨んでいた。
 しかし、いくら睨まれても仕方なかった。突然目の前にたわわな乳をフルフルとさせたノーブラ女が現れ、しかもその先には乳首のような突起物が浮かんでいるとなると、これは「見るな」という方がおかしいのだ。
 この状況は、それを凝視していた私が悪いのではなく、そうしている女が悪いのであって、私は何も非難される筋合いはないのだ。
 だから私はマスターを睨み返してやった。そして堂々と、カウンターの中でグラスを拭いている女の胸を見つめてやった。
 すると、何故か突然、それまで鋭かったマスターの目が急に弱々しくなった。その表情は、まるでウ○コをしている柴犬のようであり、見ないで下さいと必死に乞うているようだった。
 そんなマスターの突然の変化に違和感を感じた。ノーブラの妻の胸を客に見られたくないのなら、何故マスターは妻にブラジャーを着けさせないのか、そんな疑問が湧いた。
 私は思った。もしかしたらあの女は露出狂のサディストなのかも知れないと。だからマスターがブラを着けてくれと悲願しても、あの女はそんなマスターの惨めな姿にサド心がくすぐられ、更に客に恥部を見せては快楽を得ているのではないのかと。
 しかし、そんな考えはすぐに消えた。それは、その女の表情に陰りがあったからだ。
 女は何かに怯えていた。マスターの隣で黙ってグラスを拭きながらも、その表情には、万引きをした直後の少女のような焦りと怯えが浮かんでいたのだ。
 その怯えた表情からして、女は明らかにマゾだった。あの気弱そうな女が、自ら率先して露出しているとは思えなかった。
 となると、マスターが妻に露出させているとしか考えられなかった。サディストなマスターは妻に露出を強要し、羞恥に駆られる妻を見て喜んでいるとしか思えなかった。
 が、しかし、それも違った。なぜならマスターは、私が女を凝視している時、凄まじい形相で怒りを露わにしていたからだ。
 もしマスターが妻に露出を強要するようなサディストなら、そこで怒りを感じるはずがなかった。むしろ、もっと見てくれと言わんばかりに不敵に微笑むはずだった。
 しかしマスターは、そんな私に怒りを露わにさせながらも、今度は一転して「もう見ないで下さい」と言わんばかりの情けない表情を見せたりしていた。これはどう考えてもサディストではなく、どちらかといえばマゾヒストなのだ。

(一体これはどういう事なんだ……)

 変態の世界を知らない私は、何が何だか分からなくなった。
 マゾの夫とマゾの妻。そんな夫婦が、何を目的にしてこんな露出をしているのだろう。
 そんな事をぼんやり考えていると、不意にスーツの内ポケットでスマホがヴィィィン、ヴィィィンと震え出した。
 電話は部長からだった。
「はい、村山です」と慌てて電話に出ると、部長はいきなり「どこにいる」と不機嫌そうな声で聞いてきた。
 喫茶店にいますと言えない小心者の私は、「あっ、はい、その」と焦りながらも、「ホテルに向かっている途中です」と嘘をついた。

「今、先方から連絡があって、お前が出した発注書の数が間違っていると指摘された。すぐに書き直せ」

「す、すみません。大至急書き直して送るようにします」

 慌ててそう言うと、部長は「アホが」と捨て台詞を残し、そのままプツっと電話を切ったのだった。

 伝票を鷲掴みにし、慌ててレジへと向かった。
 レジには、例のノーブラ女が待ち構えていた。
 そこに進みながらカウンターをチラッと見ると、マスターは今にも泣き出しそうな表情でレジの女を心配そうに見ていた。
 Tシャツから浮き出た乳首を見つめながら、レジカウンターに伝票を置いた。
 女はレジを打ちながら「四百円です……」と呟いた。
 そんな女の顔には明らかなる羞恥が浮かんでいた。その表情からして、この女の露出は確信犯であることが窺い知れた。
 私はポケットから小銭を出しながらも、敢えて堂々とその乳首が浮かんだ胸をジッと見つめてやった。
 女は見られている事に気付いているのか、恥ずかしそうに俯きながら尻をモジモジさせた。マスターもエプロンの端をギュッと握りしめながら、必死な形相でこちらを見ていた。

(こいつら……一体何なんだ……)

 そう思いながら五百円玉をキャッシュトレイに置いた。
 女は「五百円お預かりします」と言いながら、レジの中からお釣りの百円玉を取り出した。
 しかし女は、摘んだその百円玉をレジカウンターの裏に落としてしまった。
 チャリン、という音と共に女が「すみません」と肩を竦めた。そしてそのままスッとレジカウンターの下にしゃがんでしまった。
 女はなかなか出てこなかった。私はそのままそこに足止めを食らっていた。
 小さな溜息を吐きながらチラッとマスターを見ると、なぜかマスターの顔は真っ赤に火照っていた。ハァハァと荒い息を吐きながら、マスターはギョッと開いた目でレジカウンターの裏を見つめていた。
 んっ? と不思議に思いながら、私もそのレジカウンターの中をソッと覗いてみた。
 その瞬間、私の顔もカッと火照り、半開きの唇がわなわなと震えた。
 なんとレジカウンターの裏では、女が股を大きく開きながらしゃがんでいた。しかも女はパンティーを履いておらず、赤く爛れたワレメが私に向かってベロリと捲れていたのだった。

写真3

(つづく)

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