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蛞蝓 —なめくじ—3

2012/11/17 Sat 04:25

なめくじ3




 鬱蒼とした森は、貪よりとした闇の世界を作り上げ、玉砂利を踏みしめる音が闇全体に響いているような気がした。
 石段を上りきると、漆黒の闇の中にポツンと青く輝く灯籠が見えた。そこに漂う薄気味悪さは、まるで横溝正史の古い映画を見ているようだった。

 恐らくあの女はいないだろう。
 そう思いながら遠くで輝いている灯籠に向かって進んだ。
 例え女がいなくても、あの場所で、あの時あの女がしていたようにオナニーをしようと考えていた。
 家族が寝静まった家で、妻の小便臭いパンティーを嗅ぎながらコソコソとオナるよりは、ここであの女の体を思い出しておもいきりオナったほうがずっとマシだと思っていた。

 しかし、灯籠に近付くにつれ、私の足は重くなった。それは、灯籠の裏に人影が見えたからである。
 私は足音を立てずに静かに止まった。
 ヤルか? ヤってしまうか?
 そう自分に自問自答しながら拳を強く握りしめていると、灯籠の裏の人影は私に気付いたらしく、慌てて灯籠の影に身を隠した。
 その慌てぶりからして、もしかしたら、あの人影はあの女ではないのではないかという恐怖に襲われた。こんどこそ本物の幽霊かも知れないのだ。
 しかし、幽霊なら隠れるはずはない。そう自分に言い聞かせた私は、その人影があの女でありますようにと祈りながら再び歩き出したのだった。

 灯籠の前でゆっくり足を止めた私は、息を殺したままナメクジ灯籠の裏を覗き込んだ。
 顔を隠すようにして踞っている女が、青い月の灯りにぼんやりと照らされていた。
 その女は、あの女に間違いなかった。ぽってりとした体つきも、長い髪も、私の記憶に焼き付いているあの女と一致するのだ。

 女は、ここに来たばかりらしく、まだオナニーをしていないようだった。
 そんな女を黙って見下ろしていた私の心臓は、激しい鼓動を打ち鳴らしながら転がり回っていた。この先、どうやって女を誘えばいいのかわからなくなり、頭の中が真っ白になっていた。

 しばらく無言のまま女を見下ろしていると、ふいに女は恐る恐る顔を上げ、目の前に立ちすくんでいる私を慌てて二度見した。
 女と目が合った瞬間、自然に「おい」という言葉が溢れた。
 それはまるで、門限を破った娘がそそくさと部屋に逃げ込もうとするのを呼び止める、そんな厳しい父親のような口調だった。
 女は視線を静かに下ろすと、蚊の鳴くような小さな声で「はい」と返事をした。
 女のその従順な仕草が私に火を付けた。
 恐らく、ここで女に「なんか用ですか」とでも強く言われようなら、私はそそくさと退散していたであろう。が、しかし、女のその口調や仕草には、私を酷く怖れる姿勢が見えたため、私の小心はたちまち大心へと変わったのであった。

「こんな時間に、こんな所で何をしてるんだ」

 私は横柄に腕を組みながら女を睨んだ。
 女は黙ったまま俯いていた。
 サンダルの先で、女のスカートからはみ出る太ももをツンっと突くと、「何をしているのか答えろ!」と、まるで戦後の特高警察のように怒鳴った。
 女は「ひっ」と肩を竦めた。その時、女が右手に摘んでいた黒い物体が玉砂利の上にポトッと落ちた。
 黒い物体は、女の足下でうねうねと身をくねらせながら玉砂利をカチカチと鳴らした。黒い物体が触れた玉砂利は、その部分だけが黒く湿っていた。

 それが巨大ナメクジだと言う事は一目瞭然だった。女は、これからオナニーに使用するナメクジを捕獲していたのだ。
 私は女の脛をサンダルの先で突きながら、「何をしていたのか答えられないのか」と尋問した。そうしながらも、私はしゃがんでいた女の股を、サンダルの先でじわりじわりと広げた。
 女は、股をこじ開けられようとする事に抵抗する気配も見せず、ただただ小さな声で「ごめんなさい……」と呟きながら俯いていた。
 その『ごめんなさい』が、何を指して言っている言葉なのかわからなかったが、私はその女の言葉を服従だと勝手に理解した。

「ナメクジなんか捕まえてどうするつもりだったんだ」

 そう聞きながら女の股に足を押し込んだ。女は一瞬仰け反りそうになったが、しかし、なんとかしゃがんだままの姿勢で耐えた。
 そんな女のスカートの中が見えた。案の定、女は下着を付けていなかった。

「おまえ、いつもここで気持ち悪いオナニーしてるだろ」

「…………」

「今日もソレをやりに来たんだろ」

「…………」

「やって見ろよ。いつもみたいにやれよ、見ててやるから」

 私はそう言いながら、灯籠に張り付いているナメクジを一匹摘み、それを女の太ももの上にポタッと落とした。
 女は真っ白な太ももをピクンッと震わせた。ナメクジは太ももにぴたりと張り付くと、触覚をぴこぴこと動かしながらズルズルと動き出した。
 ナメクジの移動スピードは想像していたよりもずっと早く、瞬く間にスカートの中へと隠れてしまったのには驚いた。ナメクジというと、どうしてもあのカタツムリのようなノロノロした動きをイメージしてしまうが、この巨大ナメクジの動きはムカデのように早かった。
 私は、ナメクジが逃げ込んだスカートをサンダルの先で捲り上げた。女は露になった下半身を隠そうともせず、陰毛がツルツルに剃られた自分の股間を黙って見つめた。
 ナメクジは太ももの内側へとズルズル下りていくと、迷う事無く陰部に潜り込もうとした。
 それを見た瞬間、まさかこの女は、この灯籠に張り付いている無数のナメクジ達を全て飼い馴らしているのではないだろうか、とおもわず背筋に寒気が走った。

 私は灯籠から次々にナメクジを摘まみ上げ、それを女の太ももに落としていった。
 不思議な事に、どのナメクジも目的は同じで、迷う事無く陰部に向かって突進した。
 うなぎが穴の中に潜りたがる習性があるのは聞いた事があるが、ナメクジは聞いた事がなかった。というよりも、そもそもナメクジ達はそこに穴がある事を知らないはずなのだ。

 私は項垂れる女の髪を鷲掴みにし、女の顔を夜空に向けた。

「これはどういう事だ……なぜナメクジはそこに集中するんだ」

 私は、数匹のナメクジがぐにょぐにょと張り付いている陰部を指差しながら女に聞いた。
 女は細い目で私を見つめながら、ふいにニヤリと頬を緩ませた。それは、以前見た、白痴の笑顔と同じだ。

「きゅうりの汁です……きゅうりの絞り汁と酢を混ぜた物を塗り込んでいるからです……」

 女はハァハァと荒い息を吐きながらそう呟いた。
 既に数匹のナメクジは膣の中に潜り込んでいるらしく、女はしゃがんだ股の裏からぴしゃぴしゃと小便のようなものを垂らしながら、私の顔をジッと見つめていた。

「見せてみろ……」

 女の前にしゃがんだ私は、両手で女の膝を掴み、それを左右に押し広げながら股間の裏を覗き込んだ。
 小便がタラタラと滴る膣に、真っ黒なナメクジ達が競い合うようにして潜り込もうとしていた。確かにそこからは、酸っぱい匂いときゅうりの青臭さがプ〜ンっと漂っていた。
 ナメクジは大きなもので六センチほどあった。そんな巨大なナメクジ達が、猛然と膣に潜り込もうとしているその光景に身の毛もよだった。
 しかし私は、異様な興奮からか、そんな女の股間に恐る恐る手を伸ばし、ナメクジ達が潜り込もうとしている膣を左右に広げた。
 膣の中には無数のナメクジが蠢いていた。
 それはまるで、釣り上げられた大量のウナギが、竹籠の中でもがき苦しんでいるような、そんな地獄絵図だった。

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「入れて下さい……」

 女がそう呟いた瞬間、ベビーカーで笑っていた幼児の顔が浮かんだ。
 心がギュッと痛んだ。が、しかし、その痛みが不思議な欲情に変化し、一刻も早く、この敏感に腫れた亀頭をどこかに擦り付けたい衝動に駆られた。

 玉砂利の上で正常位をすれば、膝が痛いと思った私は、女の腕を掴み、乱暴に立ち上がらせると、そのまま灯籠の奥にあるベンチへと引きずった。
 木製のベンチの上に女を仰向けに寝かせると、女は自ら大きく股を開き、「早くおちんちんを入れて下さい」と、湿った声で囁いた。

 開いた股の中心では数匹のナメクジが蠢いていた。膣の中からもナメクジの尻尾がにょろにょろと飛び出し、その中にペニスを入れるのにはかなりの勇気が必要だった。
 私が躊躇していると、突然、女は指にべちゃりと唾を付け、それをクリトリスに塗り込んだ。陰毛が剃られているせいか、そこに突起しているクリトリスはやたら巨大に見えた。
 女はクリトリスに唾を塗り込む作業を何度か繰り返すと、太ももの上に這っていたナメクジを一匹摘まみ上げ、そいつをクリトリスの上にペタリと張付けた。
 泡状の唾液にまみれるナメクジは、まるで水を得た魚のように喜び、そのぐにょぐにょの黒い身をくねらせた。それと同時に女も身悶え始め、「ひぃ、ひぃ」と奇妙な奇声をあげた挙げ句、開いた足の爪先をピーンッと伸ばしながら「いくっ!」と短く叫んだのだった。

 それは、わずか一分弱の出来事だった。
 数秒でナメクジにイカされるなどいささか信じ難いが、しかし、確かに痙攣する女の膣からは水鉄砲のような潮がぴゅっぴゅっと噴き出していたし、全身をぴくぴくと痙攣させながら白目を剥いていた表情も、とても演技には見えなかった。

 一瞬、身体をぐったりとさせた女だったが、すぐに回復し、再び私に向かって「早く入れて下さい」と声を震わせた。
 そんな女の顔は不細工だったが、しかし、眉間にシワを寄せながら、細い目を八の字に下げて悲願するその表情は、S嗜好の私には堪らない表情だった。
 その顔に目眩がするほどの興奮を覚えた私は、反り起った肉棒を大きく突き出しながら、ベンチの上で仰向けになる女の両脚を両腕に抱えた。
 開いた股にペニスを突き立て、ナメクジ共が蠢く穴を真っ赤に腫れ上がった亀頭の先でツンツンと突くと、そこからはみ出していた数本のナメクジの尻尾が一斉にぐにゃぐにゃと動き出した。
 とたんに背筋がゾッとした。こいつらが肉棒に絡み付くのかと思うと気色悪かったが、しかし、ナメクジの表面はプニプニとして柔らかいため、案外気持ちいいかも知れないとも思った。

 亀頭をナメクジの蠢く膣に押し付けたまま、両腕で女の太ももを抱え込んだ。
 女の顔が真下に迫った。女は爪楊枝のように細い目で私をジッと見つめながらハアハァと肩を揺らしていた。
 そんな女を残虐な目で見下ろしながら、ベビーカーの幼児の笑顔を思い出していた私は、女の顔に「変態女が……」と小さく吐き捨てるとそのまま肉棒を突き刺したのだった。

 ぐじゅぐじゅぐじゅっと肉棒が穴の中にめり込んでいった。
 女の穴は狭く、膣筋でギュッと締め付けられた肉棒にナメクジ達がぬるぬると絡み付いて来た。
 それは想像を遥かに超えた快感だった。女がたった一分弱でイカされてしまうのも無理はないと思った。

 腰をゆっくりと動かしながら女の乳房を撫でた。ドス黒い乳首が異様に突起し、乳飲み子を持つ母親の独特なエロスがそこにあった。
 そんな乳首にしゃぶりつきながら腰の動きを徐々に速めた。女は私の身体にしがみつき、私の耳元で「もっと早くもっと早く」と必死に囁き続けている。
 その女の声はまさに病的で、商店街の肉屋の前で子供に話し掛けていたあの優しそうなお母さんの面影はどこにもなかった。

 女は、早く動かしてくれとそう催促するが、しかし、もはや私はイキそうだった。これ以上、早く腰を動かせば、ものの三十秒と持たないであろう。
 私は下唇を噛みながら、ここでイッてしまっては勿体ないと、腰の動きを調節しながら必死に堪えていたが、しかし、女はそれに満足できないらしく、突然、奇妙な物をポケットの中から取り出した。

 赤い蓋の付いたそれは、まさに『食卓塩』だった。
 私がそれを呆然と見つめていると、女は素早く赤い蓋をくるくると開け、二人の結合部分に向けてさっさっさっさっと塩を撒き散らした。
 ナメクジが塩に弱い事は知っていた。ナメクジに塩を掛けると溶けてしまうと、確か小学生の理科の授業で習った覚えがある。
 が、しかし、実際にナメクジに塩を掛けた事が無く、塩を掛けられたナメクジがどうなるのかわからなかった。
 このまま膣の中で溶けてしまうのだろうか、と思いながら、そっと結合部分に目をやると、半分露出している私の肉棒に白い塩がづぶつぶと無数にくっ付いていた。それはまるで、大量の砂糖が振りかけられた安っぽいドーナツのようだった。

 再び女が私の身体にしがみつき、耳元で「動かして下さい」と囁いた。このまま肉棒を差し込めば、膣の中で蠢いているナメクジ達は塩の洗礼を受ける事になる。
 私は膣の中で悶え苦しみながら溶けていく巨大ナメクジの姿を想像しながら、激しい興奮に包まれた。いっそのこと、私の肉棒も一緒に溶けてしまえとばかりに自虐な感情がメラっと芽生えた私は、そのまま一気に肉棒を押し込んだのだった。


              
               



「早く食べちゃってよ、私、八時からマタニティーヨガに行かなきゃなんないんだから」

 妻にそう急かされる私は、横目で巨人阪神戦を見ながらサンマを突く箸の動きを速めた。
 巨大な腹を両手で支えながらキッチンとリビングを行ったり来たりしている妻は、予定日を来月に控えていた。
 当然、そんな身体ではセックスの相手などして貰えるはずが無く、その後も私は深夜のナメクジ灯籠にこそこそと通い詰めていた。

 ナメクジ女とのセックスは益々エスカレートしていた。
 女は口の中に数匹のナメクジを含み、口の中に食卓塩を振りかけて、素早く私の肉棒にしゃぶりついた。
 女の口の中でバタバタと暴れ回る巨大ナメクジは、私の肉棒に激しく絡み付きながら黒い身をドロドロに溶かせ、実に奇妙な快感を与えてくれた。
 もちろん肛門にもナメクジを入れた。
 口に含んだ食塩水をナメクジ入りの肛門に注入し、肛門の中でナメクジ達がもがき苦しみ始めるなり、すかさずそこに肉棒を挿入した。
 かなりの快感を得られるプレイだったが、しかし、ある時、行為後に女が噴き出した下痢グソの中に、ドロドロに溶けたナメクジの死骸を見てしまってからというもの、この肛門ナメクジプレイはやめた。
 あれは、神社の境内でプレイするには、あまりにも神を冒涜し過ぎていると思い、今ではすっかり自粛している。

 そんな変態プレイを夜な夜な続けていた私とナメクジ女だったが、しかし、私は未だこの女とは一度もまともな会話をした事がない。
 私は女のプライベートは詮索しなかった。女も私の私生活には興味がないのか、セックスでの変態的な会話以外は一度も口を開かなかった。
 もはや私達には言葉は必要なかった。私達はナメクジさえあればそれで満足出来たのだった。

 そんなある時、私はとんでもないものを見てしまった。
 いや、これはナメクジ女とは関係ない事なのだが、なんと私は妻のオナニーを目撃してしまったのだ。
 あれは、私が営業の帰りにふと自宅に立ち寄った時の事だった。
 身重の妻に負担をかけさせまいと、玄関の呼び鈴を鳴らすのをやめた私は、そのまま玄関脇を通り、リビングのある中庭へと進んだ。
 洗濯物がひらひらと靡く中庭に出ると、レースのカーテン越しにリビングの中が見えた。ソファーに座っている妻に声を掛けようとした瞬間、サッシを叩こうとしていた私の手が止まった。
 妻はソファーに凭れながらマタニティーを腰まで捲り上げ、股を大きく開いていた。左手で赤いパンティーを横にズラし、右手で陰部を弄っていた。
 ふと、出産のための準備をしているのかと思ったが、しかし、陰部を弄る妻は、ハァハァと天井を見上げながら、実にいやらしい喘ぎ声を洩らしており、それはオナニーのなにものでもなかった。

 そんな妻のオナニーを目撃してしまった私は、激しいショックを受けながらも、妻に対する愛情が更に高まった。
 ガラステーブルに乗せた足の指を、ぴくぴくと引き攣らせながら絶頂に達した妻を見た瞬間、私の中で何かが大きく弾けたのだった。


「あなた、まだ食べ終わってないの? 私、もう行くからね」

 妻はヒステリックにそう呟くと、後片付けは自分でしてよ、と言い残したまま玄関へと消えて行った。
 私はボロボロになったサンマを箸で突きながら、「いってらっしゃい」と、独り言のように呟くと、玄関の閉まる音を背中で受け止めた。

 その日、妻が帰って来たのは十時を過ぎていた。中村さんの奥さんとラマーズ法の話しで盛上がっちゃって遅くなっちゃった、と悪びれる事無くキッチンに向かおうとする妻を私は呼び止めた。

「いつものタンポポ茶だろ、そろそろキミが帰って来る頃かと思って作っておいてあげたよ」

 私はそう言いながら、タンポポ茶の入ったポットとマグカップをテーブルの上に置いた。

「どうしたのよあなた、気が利くじゃない」

 満面の笑みを浮かべながらダイニングテーブルに腰を下ろした妻は、そのタンポポ茶を嬉しそうにマグカップに注いだ。
 癖のあるタンポポ茶の香りがリビングに広がった。
 妻は、中島さんの奥さんの話しや、飯島さんの旦那さんの話しや、三ツ川さんちの犬の話しなどを私に聞かせながら、私が煎れたタンポポ茶を一滴残らず飲み干した。

 それが効いて来たのは妻が風呂から上がった頃だった。
 浴室から出てくるなり、「なんだかすごく眠いの……お風呂の中で二回も寝ちゃったわ……」、と呟いた妻は、素足をフローリングにペタペタ鳴らながら寝室へと直行した。

 妊婦に睡眠薬がどれだけ危険かくらい、さすがの私でも知っていた。
 しかし、私には時間がなかった。子供が産まれる前に、どうしてもあのムチムチの妊娠腹と戯れてみたかったのだ。

 寝室をソッと覗き、妻の寝息を確認した私は、そのまま玄関を出た。
 裏の月極駐車場へとサンダルを鳴らしていくと、粗大ゴミ置場の影にひっそりとしゃがんでいる女に「出ておいで」と声を掛けた。
 朽ち果てた洋服箪笥の隅からヌッと現れた女は、まさしくナメクジ女だった。

 私は女を寝室へと連れ込んだ。
 かなり睡眠薬が効いているのか、妻の鼾は凄まじく、まるで鉄工所から聞こえて来る騒音のような響きだった。

 女はそんな妻をジッと見下ろしながら騒然としていた。さすがの変態女も、妻を目の当りにしては少々怯んでいるようだった。
 しかし、私が女の股間を弄り始めると、そんな怯みも一気に消え失せ、女はいつものように腰を怪しく振りながら私の指の動きに身悶え始めた。

 妻の頭から柔らかいマタニティーをすっぽりと抜き取った。
 大きなブラジャーを素早く外し、ヘソまで隠れる巨大な下着をスルスルと下ろすと、妊婦の醜い裸体が現れた。
 巨大な腹ははち切れんばかりに膨らんでいた。タヌキのようにぽっこりと突き出した腹に無数の妊娠線が走り、今にもその亀裂がギシギシと破れて、中から赤ちゃんが飛び出してきそうな感じがした。
 そんな妻の大きな腹に頬擦りをした。久々に嗅ぐ妻の匂いは安心感をもたらしてくれた。

 ふと気付くと、ナメクジ女も妻の腹に頬擦りしていた。
 女は真っ赤な舌で妻の腹をチロチロと舐め始めると、その舌をじわりじわりと股間へと移動させた。
 女が妻の股間に顔を埋めるのを見た私は、目眩を感じるほどに興奮し、威きり立った肉棒をしごかずにはいられなかった。

 女と二人で妻の陰部を舐めた。
 ビロビロの小陰唇と、女の舌と、私の舌が、びちゃびちゃと音を立てて絡み合った。
 女が妻の肛門を舐め始めると、私は女の背中へと舌を移動させた。
 そのまま女の尻へと舌を滑らせていくと、ベッドに前屈みになっていた女はゆっくりと股を開いた。
 女の尻肉をチロチロと舐めながら股間を覗き込むと、無数のナメクジが女の陰部で蠢いているのが見えた。
 私は女の陰部に尖った唇を押しあてると、そこで蠢くナメクジを一匹ずつ吸い取り、彼らを妻の陰部へと移動させた。

 女は膣からナメクジが取られていく度に切ない表情で私を見た。
 急に女が可哀想になった私は、ナメクジが全て抜き取られた膣に肉棒を差し込んでやった。
 女は、妻が眠るベッドに前屈みになりながら尻を振り始めた。ベッドが激しく軋み始め、女の尻に腰を振っていた私は妻が目を覚ますのではないかとびくびくしていた。

 ナメクジのいない女の膣は実に味気のないものだった。まるで筒の中にローションを垂らし、その中に肉棒をスコスコと出し入れしているようだった。
 女も同じらしく、ナメクジ無しで攻められる女は、いつものように燃え上がらなかった。

 そんなナメクジは、新たな新天地で勢い良く蠢いていた。
 妊娠しているせいか、妻の陰毛は今までよりも激しい剛毛で、そんな剛毛の中で蠢いている巨大ナメクジの群れは、実にグロテスクな光景を醸し出していた。
 ナメクジ達は、妻が妊娠してようとなんだろうとおかまいなしに膣の中へと潜り込んでいった。
 そのまま子宮の中まで潜り込み、赤ちゃんを食い荒らすのではないかという恐怖に襲われたが、しかし、今の私にはそんな残虐性さえも性的興奮の材料となっていた。

 女の膣から肉棒を抜いた私は、そのまま妻の膣に、女の汁でドロドロに濡れた亀頭を突き付けた。
 そこに蠢くナメクジ達は、私の亀頭が現れた事により、御主人様のおでましだとばかりに更に蠢き始めた。
 膣に亀頭を突き付けたまま、肉棒に食卓塩を振りかけた。
 飛び散った塩が、膣からびろびろとはみ出しているナメクジの尻尾に降り掛かり、そのナメクジは尻尾をねちゃねちゃに蕩けさせながらビタビタと暴れ回っていた。
 女がハァハァと荒い息を吐きながら、亀頭が突き刺さる妻の股間を覗き込んでいた。女の息が私の金玉に吹き掛かり、そこで始めて、今、私は二人の女と三人プレイをしているのだという実感に包まれた。
 妻の大きな太ももを担いだまま、腰をゆっくりと突き出した。
 ドス黒い肉棒が、ナメクジが蠢く穴の中にブツブツと沈んでいくと、塩の洗礼を受けたナメクジ達が暴れ出し、とたんに膣内は大騒ぎとなった。
 凄まじい快楽が私を包み込んだ。これだ、これなんだよ、妻をこうやって犯したかったんだよ、と、心の中で呟きながら肉棒を根元まで押し込むと、妻は眠ったまま「はあぁぁ……」と深い息を吐き出したのだった。

 そんな妻と女と私とナメクジのプレイは、その後も度々続けられた。
 その度に睡眠薬を飲まされ続けていた妻は、「最近、凄く体調が悪いのよ……」と口癖のように呟いた。
 予定日を間近に控えた妊婦には、それは危険過ぎるとわかってはいたが、しかし、あの快楽を知ってしまった私は、それをやめようとはしなかった。

 しかし、そんな夢のような快楽も、遂に終止符を迎える時が来た。
 予定日よりも早く陣痛が来たのだ。
 事前に用意していたボストンバッグを抱えた私は、妻の身体を支えながらタクシーに乗込んだ。
 深夜の産婦人科には、妻以外にも産気づいた人が大勢いるらしく、何やら朝の魚河岸のように活気溢れていた。

「満月の夜は産まれやすいのよ」

 そう笑う看護婦さんに連行された妻は、弱々しい笑顔で私に振り返りながら、そのまま分娩室へと消えて行った。

 分娩室に立ち会う勇気のない私は、待合室の片隅で麻雀ゲームに耽っていた。
 四度目の役満を振り込んでしまった私が大きな溜息をつきながら顔を上げると、いつしか窓の外は白みを帯びていた。
 病院の前に聳え立つビルの屋上に、異様な数のカラスが集まっていた。今から朝メシを漁りにいくのだろうかとぼんやりカラスを見ていると、静まり返った廊下に赤ちゃんの泣き声が響いた。
 その泣き声は、いかにもドラマで使用される効果音のようであり、もしかしたら病院のサプライズでそんな効果音を流しているんじゃないかと思うと、おもわず笑顔が溢れた。

 産まれて来たのは女の子だった。あれだけ睡眠薬を乱用していたため、目が潰れているのではないかと心配していたが、大きなマスクを外した先生は、優しい笑顔を浮かべながら「健康な女の子ですよ」と言ってくれた。

 先生のその言葉にひとまず安心した私だったが、しかし、先生の次の言葉で私の背筋は一瞬にして凍りついた。

「ただ、気になる事がひとつありましてね……」

 先生はそう言いながらゆっくりと席を立つと、デスクの上に置いてあった銀色のトレイを私に見せた。

「こんな物が赤ちゃんの身体に付いていたんですよ……」

 それはぐじゃぐじゃに溶けたナメクジの死骸だった。
 もはや原型はなくなっていたが、しかし、その茶色い表面は、紛れもなく私とあの女が愛したナメクジに間違いなかった。

「恐らく、血液の塊かなんかだと思うんですがね、気になりますから一応検査に出してみます」

 私はカラカラに乾いた喉にゴクリと唾を押し込んだ。
 検査の結果、それがナメクジだったと知った時の妻の顔を想像すると、四回も役満を振り込んだ時よりも落ち込んだ。

 大きな溜息をつきながらソッと窓の外を見た。
 明け方の空にカラスの大軍が飛んで行くのが見えた。
 何故か無性にナメクジ女に会いたくなった。

(なめくじ・完)



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