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蛞蝓 —なめくじ—1

2012/11/17 Sat 04:25

なめくじ1



 深夜三時。女の太ももの上を数匹のなめくじが這っていた。
 平均して七センチ弱のものが多く、大きなものになると十センチ以上のものもいた。
 それらは皆、背が茶色く、横腹に黒い斑点柄を持ち、そして腹部がねずみ色をしていた。
 その色と形からして路地裏の隅に転がっている猫の硬糞を連想させたが、しかしよく見ると、腹部はぶにょぶにょと柔らかそうで、握り潰せばいとも簡単に内臓が飛び出しそうな、そんな軟体だった。

 本殿に灯っている明かりが、暗闇でしゃがんでいる女をぼんやりと映し出していた。
 女は、太ももを這い回る無数のなめくじを見ながら継続的に白痴的な笑みを浮かべていた。
 私が奉納絵馬の隙間から覗いている事を女は知っているはずだった。
 その証拠に、時折、私の方をジッと見つめながら薄気味悪い笑みを浮かべたりしている。

 そんな奇妙な女が、真っ赤な舌をねろねろと動かしながら、厚い唇を湿らせた。
 官能的な息を夜空に向かってはぁはぁと吐きながら、なにやら息苦しそうに満月を見つめている。
 あっ、と女が小さく呻いた。膝を震わせながら太ももを開き、月の灯りに陰部を照らした。女は下着を履いていなかった。

 奉納絵馬が無数にぶら下がる壁の影から目を凝らしてみると、薄い陰毛が腹部に向かってさわさわと生えているのがわかった。
 もっと間近でそこを覗き込みたいと思った私は、思いきって壁の影から一歩踏み出した。
 静まり返った深夜の神社に、乾いた玉砂利がジリッと音を立てた。
 女は横目で私を見たが、しかしすぐにまたその視線はなめくじが這い回る股間へと向けられた。

 乾いた喉にごくりと唾を飲み込むと、親指の爪で人差し指を掻きむしりながら女に近付いた。
 女のすぐ目の前で足を止めると、私は無言のまま女を見下ろした。
 薄暗い闇の中では、女の白い肌が灰色に見えた。まるでモノクロ映画を観ているようだ。
 しかし、股の中心だけはじっくりと黒かった。しゃがんでいるせいか女性器のひだはべろりと捲れ、その奥には生肉がテラテラと光っているのが見えた。

 女は私には目もくれず、夜空を見上げたり、股間を覗き込んだりと繰り返しながら、苦悩の表情と微笑みを繰り返した。
 そんな女の太ももの裏には、無数のなめくじがくっ付いていた。
 触覚をうにうにと動かすなめくじ達は、皆それぞれが同じ方向を向き、同じ目的に向かって進んでいた。
 彼らが目指す目的地がどこなのかは一目瞭然だった。無数の軟体は、ぷにょぷにょの皮膚を気味悪く蠢かせながら、濃厚な蜜がとろとろと溢れる裂け目に向かって進んでいるのだ。
 それはまるで、卵から孵ったばかりのウミガメ達が一斉に海を目指して進んでいるような、そんな神秘的な光景だった。


 私がこの奇妙な女を初めて見たのは、今から一週間前の事だった。


 小さな印刷会社で営業の仕事をしている私は、絵に描いたような平凡なサラリーマンだった。
 二年前、念願の一戸建てを手に入れ、この町に越して来た。
 ポーラ化粧品のセールスをしている妻は、私よりも二つ年下の三十六才。AKB48に憧れる小学四年生の娘と、トランスフォーマーに狂っている二年生の息子。そして今年の二月には、もうひとり産まれる予定だった。
 そんな家族と新築一戸建てを手に入れた私は、いかにも平凡なサラリーマンらしい幸せな生活を送っていたが、ただひとつだけ幸せじゃない部分があった。

 それは、妻とのセックスレスだった。
 セックスレスというと何やら現代病のようで聞きはいいが、詰まるところ、私が妻に拒否をされているに過ぎなかった。
 妊娠してからというもの、安定期に入ってからという理由で断り続けて来た妻だったが、しかし、妊娠六ヶ月を過ぎた今でも妻は身体を許そうとはしなかった。
 それどころか、妻のベッドに裸で入ろうとする私に、「あなたは自分の欲望で赤ちゃんを殺す気なの」と、まるで私を鬼畜扱いする始末だった。
 しかし、妊娠した妻の体は異様なエロスを漂わせ、溜っていた私は我慢できなくなっていた。
 もちろん、妻が手や口で慰めてくれる事もなく、まして風俗に行ったら離婚すると脅され、もはや私は四面楚歌の様相を呈していた。

 そんな私に残された道は自慰行為だけだった。
 毎晩、妻と子供達が寝静まった頃、洗濯機の中から妻の使用済み下着をこっそり持ち出し、暗いリビングの隅で、その黄色く汚れた部分の匂いを嗅いだり舐めたりしては、悲しい精液を放出させていた。

 しかし、そんな刺激がいつまでも持続するわけがなかった。
 いよいよ妻の下着に飽きて来た私は、他人の下着で快楽を得たいという欲望に駆られた。
 私という人間は、ネットのアダルト動画や成人雑誌などで満足できるような、そんな平凡な感性は持ち合わせていなかった。
 生活は平凡すぎるほど平凡だったが、しかしその脳内には、身の毛もよだつような異常な変態性欲がいつも蠢いていたのだ。

 だから私は妻に拒否されているのかも知れなかった。
 私のセックスは、はっきり言って異常だ。セックス時には、必ず妻の両足首をガムテープで縛り、ベッドの足にそれを固定しながら、妻を身動きできない状態にして犯した。
 ある時など、そうやって妻を身動きできない状態にしておきながら、こっそり妻の携帯で、妻の会社の男性上司に電話をかけた事もあった。
 その男性上司が、「こんな時間にどうしたんだね」と、不審そうに電話に出ると、そこで初めて電話を掛けられていた事に気付いた妻は、慌てて携帯を手に取ると、「すみません部長、子供が携帯をイタズラしてまして……」などと出鱈目な言い訳を始めた。
 そんな妻を見て、私は妻とこの男性上司が浮気している姿を妄想しながら激しく腰を振った。
 そして妻の耳元に「その男にいやらしい声を聞かせてやれよ」と囁きながら大量の精液を膣内に射精した。
 こんな異様なセックスばかり続けていれば、拒否されて当然であろう。

 さて、妻の下着に飽きてしまった私は、深夜にこっそり家を抜け出し、静まり返った住宅街を他人の下着を求めて彷徨うようになった。
 しかし、そう簡単に干した下着など見つからなかった。
 深夜でも洗濯物が干してある家庭は多かったが、しかし、下着泥棒を警戒しているせいか、その中に女性用の下着は一切見当たらなかった。

 性欲は治まらなかった。
 下着が手に入らないと知ると、よけい性欲は激しく燃え滾った。

 雨上がりの小さな商店街を抜け出ると、いつも妻が買い物をしているスーパー満点屋の駐車場が見えた。
 車は一台も止まっておらず、交差点で点滅している夜間点滅信号の赤い光だけが、駐車場の水溜まりにカチカチと反射していた。
 先日、この駐車場に止めてあった軽トラの荷台にこっそり潜り込み自慰をした。
 それはスーパー満点屋の配達用の軽トラで、荷台には白菜の切れ端や萎れたホウレン草などが散乱していた。
 荷台に寝転がった私は、曇った夜空を見つめながら、この荷台で配達員の青年に強姦される妻を想像した。
 時には妻になりきり「いや、やめて」などと口走りながらペニスを激しくしごき、そして時には配達員になりすましては、「奥さん、オマンコがもうグショグショですよ」などと感情的に呟きながら、夜空に向かって勢い良く精液を飛ばしたものだった。

 しかし、今夜はその軽トラもなく、雨上がりの駐車場は水の抜かれたプールのように閑散としていた。

 しばらく行くと、五光神社の鬱蒼とした森が夜空に黙々と聳えているのが見えた。
 森の中へと進んで行くと、ひんやりとした冷気が頬を撫で、雨に濡れた緑の独特な香りに包まれた。
 立派な注連縄が張られた鳥居を潜り、真っ暗闇の境内を進んだ。
 玉砂利が敷き詰められた通路の奥には本殿の巨大な鳥居が聳え立ち、神々しい不気味さと威圧感を醸し出していた。

 その本殿の奥に、市の重要文化財に指定された『蛞蝓(ナメクジ)灯籠』があった。
 その石灯籠は室町時代に建てられたものらしく、古くからその石灯籠にはナメクジが異常発生する事から、この石灯籠はナメクジ灯籠と呼ばれていた。
 なぜそこだけにナメクジが集まるのかは科学的にも解明されていなかったが、古くからの言い伝えでは、その石灯籠にはこの森の精霊が宿っているらしく、そこに這う無数のナメクジはその森の精霊を守る守護神だといわれているらしい。

 先日、そんなナメクジ灯籠の近くで使用済みコンドームを発見した。
 丸めたティシュッと一緒に玉砂利の上に捨てられていたそれはまだ生温かく、ほかほかと湯気が立っているような新鮮な物だった。
 私は、その使用者がまだ近くにいると思い、慌てて辺りを見回すと、本堂の裏手にある石段を二人並んで下りて行く人影を発見した。
 二人はまだ学生だった。高校生だろうか、男は学生服で女はブレザーにミニスカートを履いていた。
 石段を一歩一歩下りて行く女子高生の華奢な背中と黒いニーソックスを見た瞬間、私はそこに放置されているブツの価値の凄さに身震いした。
 あの使用済みコンドームの表面に付着するヌルヌルの液体は、あの綺麗な女子高生の膣から滲み出たいやらしい汁なのである。
 そう思うと、その不衛生なゴミが、たちまち私の中でお宝と化し、凄まじい欲情に駆られた私は、迷う事無くコンドームの表面を舐めしゃぶりながら射精したのだった。

 あの時のコンドームに漂っていた強烈なチーズ臭を思い出しながら、私は二匹目のドジョウを目指してナメクジ灯籠へと向かった。
 本殿の裏へと回ると、鬱蒼とした森の中に、ぽつんっと月灯りに照らされたナメクジ灯籠が見えた。
 漆黒の闇に包まれながらも、なぜかそこだけポツンと妖艶な青い光を放っている灯籠は、いかにもナメクジが好みそうな妖気を漂わせていた。

 そんなナメクジ灯籠の裏で何かが動いた気がした。
 はっと足を止めた私は、一瞬、誰かいるっと期待に胸が膨らんだ。
 が、しかし、時刻は深夜二時だ。しかも、真っ暗闇の中に青い月の光にぽつんと照らされるナメクジ灯籠は、不気味すぎるほどに不気味だ。冷静に考えれば、ここは怖すぎるのだ。

(もしかしたら幽霊かも知れない……いや、野犬かも知れないし、狂人が潜んでいるかも知れない……)

 寒気が背筋をゾクッと走った。ふと、額に懐中電灯を巻き付けながら散弾銃と斧を手にした『八墓村』の山崎努が頭を過った。

 しばらく身動きしないまま暗闇に目を凝らしていた。
 その影は玉砂利の上に横たわっており、何やら同じ動作を繰り返しながらモゾモゾと蠢いてはハァハァと獣のような息を洩らしていた。

 それは人だった。
 目が暗闇に馴れて来るに従い、真っ白な肌が漆黒の闇の中で蠢いているのが見えた。
 私はゴクリと唾を飲み込んだ。
 そこに蠢く白い人影は、まさに女だった。

(女だ。しかも一人だ。オナニーをしている……)

 そう確信した私は、慌てて辺りを見回した。もしかしたら、その女の相手がどこかに潜み、私をジッと見ているかも知れないのだ。
 しかし、この闇に包まれた森の中でそれを確かめるのは、赤外線スコープでも無い限り不可能だった。
 闇に誰が潜んでいるのかわからない状態で、その女に近付くのは非常に危険だと思った。灯籠の裏を覗いた瞬間、強面の男が闇の中からヌッと現れ「何見とんのやワレ」と強請られる可能性も考えられるのだ。

 いきなり女の淫らな喘ぎ声が、静まり返った森に谺した。
 私の上半身が自然にハァハァと上下に揺れ始めた。
 もはや私は自分を止められなかった。例え岸部一徳のようなおっさんに、「何見とんのやワレ」と凄まれようが殴られようが、もうどうでもよくなっていた。
 見たい。深夜の神社でオナニーをする女の姿を見て自慰をしたい。
 そんな欲望に背中を押されながら、私はナメクジ灯籠に向かってじわりじわりと足を忍ばせたのだった。

 灯籠の裏から、ハァハァと喘ぐ生々しい呼吸が聞こえて来た。
 無数にぶら下がる奉納絵馬の隙間から恐る恐る裏を覗くと、白いワイシャツを着た女が玉砂利の上に寝転がっているのが見えた。女のワイシャツは激しく乱れ、大きな乳房と真っ白な太ももが露になっていた。
 一瞬、レイプされたのだろうかと背筋が凍ったが、しかし、女のスカートやストッキングが灯籠の下で綺麗に畳まれている事や、又、女の指が白い太ももの隙間でぐにょぐにょと蠢いている事からして、やはりこれはオナニーしているとしか考えられなかった。

 薄暗がりの中に目を凝らしていた私は、女はまだ若いと思った。若いといっても女子高生とかではなく、恐らく二十代後半か三十代前半といった所だろう。
 雰囲気からしてOLっぽかった。その髪型や服装からして、駅裏にある問屋町辺りの小さな商社でお茶汲みをしていそうな、そんなどこにでもいる普通のOLっぽかった。
 私は、そんな女の、たぷたぷと揺れる白い乳房を見つめながら、どうしてこの女はわざわざこんな所でオナニーしているのだろうと理解に苦しんだ。
 もしかしたらアダルトブログなどによくある変態露出狂女なのだろうかと思ったりもしたが、しかしそれにしてはこんな人気のない場所では、いささかリスクが大き過ぎる。
 やはり、この女にこんな事をさせている男がどこかに潜んでいるのではなかろうかと、再び岸部一徳の恐怖に襲われるが、しかし、女が大きく股を開きながら穴の中に指を入れているシーンを見ていると、またしても岸部一徳の恐怖はどうでもよくなってしまった。

 女はそこに私が潜んでいる事を知っているかのように、私に向かって股を開いていた。女は全く脅える風もなく、逆に他人に見てほしいかのように、陰部を淫らに弄っていた。

 女は陰毛を全て剃り落していた。そこに飛び出す黒い小陰唇と大きなクリトリスは、かなり使い込まれているようだ。
 女はハァハァと荒い息を吐きながら腰をくねらせ、ワイシャツから溢れた乳房の先をギシギシと乱暴に摘んでいた。
 妙にホクロの多い女だと思った。真っ白な肌に大きなホクロが無数に点在し、特に下半身には異常なほどに集中していた。

 ふと私は、そのホクロが彼女をこのような陰湿な変質者にさせた原因なのではなかろうかと思った。
 身体中に大きなホクロが点在するため、それがコンプレックスとなり、彼女は、普通の恋愛、即ち、普通のセックスができなくなってしまっているのではないだろうかと、勝手に想像した。
 というのも、同じようなOLが私の会社にもいるからだ。
 松田瑛子というそのOLは、見た目は普通のOLなのだが、しかし肩まで伸ばした髪の両サイドを掻き分けると巨大なエラが飛び出した。
 それは昆虫の妖怪を彷彿とさせるほどの凄まじいエラで、あるとき、仕事納めの大掃除中、ポニーテールにしている彼女を見た時など、『蟹』のお面をかぶっているのではないかと驚いたほどだった。
 やはり松田瑛子もそれがコンプレックスで、男性に対しては酷く内向的になっているようだった。だから三十近くになっても、未だ恋人の一人もできず、いつも暗い顔をしていた。

 きっとこの女も、松田瑛子と同じなんだろうと、私は、彼女の身体に無数に点在するホクロを見て勝手にそう思った。
 そんな彼女を見下ろしながら、私はホクロなんて気にしないよ、キミのそのホクロだらけの肛門やオマンコを優しく舌で愛撫してあげるよ、などと勝手な事を心で呟き、硬くなった下半身にそっと手をあてた。

 私の右手がズボンの上を弄り始めると、女がそこをジッと見ている事に気付いた。
 ふと、女と目が合った。女は爪楊枝のような細い目をした、いわゆるブスだった。しかし、顔は不細工でも身体は良かった。ムチムチの肌とぷよぷよの乳房は男好きする身体だ。

 女はハァハァと荒い息を吐きながら、一重瞼で私をジッと見つめていた。そしてその視線がゆっくりと下がり、私の股間でぴたりと止まると、真っ赤な口紅を塗った唇を、官能的にペロリと舐めた。
 私はそんな女の目をヌラヌラと見つめながら、御期待に応えようとズボンのファスナーをゆっくり下ろした。
 血管がゴツゴツと浮き出た肉棒が夜空に向かって反り起った。それはまるで夜の砂漠をゆくラクダの首のようだ。
 女は黒々とした肉棒のシルエットを見つめながら更に激しく声を上げ、膣の中に根元まで挿入した指を激しく掻き回した。
 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、というグロテスクな音が響いていた。
 不意に私は、学生時代、あの駅裏にあった薄汚い映画館で、初めて寺山修司の映画を観た時の薄気味悪さに包まれた。
 が、しかし、その一方で、不思議な感情にも襲われていた。
 それは、子供の頃、学校帰りの田園で、百姓のおばさんが野糞をしている所を目撃してしまった時と同じ感情だった。
 あの時、しゃがんだおばさんの丸い尻からモクモクと捻り出される糞を見てしまった私は、同時に、剛毛な陰毛の奥に潜んでいた真っ黒な女性器も見てしまった。
 それは、生まれて始めて目にした女性器だった。ビロリと垂れ下がった大きなヒダは、まるでライターで焦がされたかのように黒く、その奥で蠢いていた膣は、死んだ魚の口のようにポッカリと開きながら赤黒い内臓を剥き出していた。
 バナナのような大きな糞と、そのグロテスクな女性器に恐怖を覚えた私だったが、しかしその夜、布団の中でその光景を思い出しては三回も自慰をしてしまった。

 寺山修司の映画を観た時の薄気味悪さと、おばさんの野糞を目撃した時のあの興奮が、今の私の胸の中で複雑に混じりながら黒い渦を巻いていた。
 その何ともいえない異様な感情は、素直にこの変質者とセックスをしてみたいという感情へと向かって行った。

 私は女に向けて肉棒を激しくシゴいた。そして玉砂利をジリッと鳴らしながら女に近付くと、大きく開いた股の前にゆっくりと腰を下ろした。
 女は表情ひとつ変えないまま私をジッと見つめ、ゆっくりと両手を股間に這わせた。そして十本の指で膣のシワを押し広げ、その内部を私に見せつけた。
 月灯りに照らされた膣奥がモノクロに輝いていた。肉棒をしごきながら穴の中に目を凝らす。
 そこはまるで深い井戸の底を覗いているように真っ黒だった。

 そんな女の内部が不自然に黒い事に気付いた私は、もう少し陰部に顔を近づけてみた。
 まさか膣の中にまでホクロがあるのだろうかと不思議に思いながら、その黒い穴に目を凝らしてみると、膣の中で真っ黒な何かがぐにゃぐにゃりと蠢いているのが見えた。

(うわっ)と心の中で叫ぶと、一瞬にして全身が凍りついた。
 膣の中で蠢いていたのは、まさにナメクジだった。
 それは百円ライターほどもある大きなナメクジで、しかも一匹だけでなく数匹の巨大ナメクジが膣の中で絡み合いながらテラテラと輝いていた。
(こいつは……狂ってる……)
 そう愕然としながら、改めて女の全体を見てみると、女の身体中に無数のナメクジが這い回っていた。なんと、今までホクロだと思っていた黒い斑点は全てナメクジで、よく見ればそれらはぐにょぐにょと動いているのである。

 全身の毛穴という毛穴から汗が噴き出した。噛み締めていた奥歯が震えだし、同時にアゴがガクガクと震えては、おもわず情けない声を洩らしそうになった。
 突然、女が「あぁぁぁ」と腰を捩らせた。その膣圧でナメクジの頭部が膣からツルンっと押し出され、気色の悪い触覚がうにうにと動いた。

「早く入れて……」

 そう女が囁いた瞬間、それを合図に立ち上がった私は無我夢中で駆け出した。
 静まり返った森の中に玉砂利を踏みしめるガシュガシュガシュという音が谺した。
 背後から女が追い掛けて来ているような恐怖に駆られ、「ひゃあ、ひゃあ」と情けない声が洩れた。
 石段を二段ずつ飛び越えながら逃げる私は、ぶらぶらとペニスを出したままだった。

(つづく)

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