ストックホルムな恋をして3
2012/11/17 Sat 04:25
チクチクする荒縄で両手両脚を拘束された私は、ソファーに横たえながら体をガッチリと縛り付けられ、ピクリとも身動きできなかった。鼻の下が異様に痒くて堪らなかったが、そこを掻けない私は、まるでチンパンジーがバナナを食う時のように鼻の下をモゾモゾと動かしていた。
ソファーの下では両手を後手に縛られた奥さんがぐったりと横たわっていた。
後から前からと散々犯された挙げ句、大量に中出しされた奥さんは、そのままボロ雑巾のように床に放り出されていた。
テレビの横にポツンと置いてあるアンティーク調のリクライニングチェアーの上では、男がグーグーと鼾をかいていた。
男は、私をソファーに拘束した後、他に酒はないのかと暴れ回れだし、キッチンの床下収納から『日の出』と書かれた緑色の料理酒を見つけ出すと、それを一気に飲み干してはそのままリクライニングチェアーに崩れ落ちて寝てしまった。
男の鼾が聞こえ始めると、床の奥さんがアザラシのようにエビぞりしながらソファーの上の私を覗き込んだ。
「本当に……本当にごめんなさい……」
奥さんのその声があまりにも大きかったため、慌てた私は声を潜めながら「気にしないで下さい」と小声で言った。
奥さんはそんな私を申し訳なさそうに見つめると、「今、縄を解きますので」と言いながら、縛られていない足を器用にモゾモゾと動かしながらもがき始めた。
「無理しないで下さい」
私はちょこんっと首だけ起こしながら、床でもがいている奥さんをコッソリ見た。
奥さんは、膝を立てては体勢を崩し、膝を立てては体勢を崩し、と何度も繰り返していた。
それはまるで新体操をしているようであり、剥き出しの下半身にチラチラと見える黒い陰毛と赤い性器が実にエロティックだった。
そうしながらも、顔を床に押し付け、右肩で体を固定しながら、やっと床に両膝を立てた奥さんは、ヨガの『猫のポーズ』のような体勢で停止した。
奥さんの丸い尻は私に向いていた。
一瞬、グロテスクな性器がクニャっと口を開いた。
その瞬間、男の白い精液がニトーッ……と垂れ落ちるのを私は見逃さなかった。
奥さんは、両膝を立てたままソファーで縛られている私の顔を覗き込み、今にも泣き出しそうな表情で、ごめんなさい、を何度も呟いた。
奥さんが頭を下げる度にノーブラの乳肉がTシャツの中でタプンっと揺れた。
私は目のやり場に困りながらも、どうせならTシャツも脱がしちゃえよ、と、リクライニングチェアーで鼾をかく男を恨んだ。
「どうやって縄を解こう……」
両手を後手に縛られた奥さんは、縄でグルグル巻きにされた私を見下ろしながら愕然と呟いた。
「とりあえず、腰に巻いてある縄を解いて下さい。この腰縄さえ解ければ、なんとかソファーから抜け出せそうです」
私はそう言いながら、縄でソファーに括り付けられた腰をモゾモゾとさせた。
奥さんがそんな私の腰を見た。
私の下半身は剥き出しのままだった。グルグル巻きにされた縄のすぐ下に、昭和天皇が申し訳なさそうに横たわっていた。
それを目にした奥さんが、一瞬恥ずかしそうに顔を背けた。そんな奥さんは少女のように可愛かったが、しかし、私の頭には、縛られたまま公衆便所でセックスする淫らな奥さんのイメージが未だ離れなかった。
奥さんは立てた膝をゆっくりと動かしながら、私に背中を向けた。
後手に縛られた手を私の腰縄に近づけ、細い指で縄の結び目を探した。
縄の結び目を捕らえた奥さんは必死に解き始めた。
その間、私は奥さんの尻をマジマジと見ていた。美しくも大きな尻だった。ウェストがキュッとくびれている分、余計大きく見えた。
そんな尻の谷間をソッと覗き込もうとした時、「これじゃあ無理だわ……」と悲しそうに呟いた奥さんが再び前を向いた。
私のペニスは、奥さんの生尻に刺激され、ほんのりと固くなっていた。奥さんはそんなペニスの変化を知ってか知らずか、私を見下ろしたまま「どうしよう……」と途方にくれていた。
私は、ペニスの変化に焦りながら、奥さんに提案した。
「奥さんの手首の結び目を私の口に噛ませて下さい。歯で結び目を緩めてみます」
奥さんは「大丈夫ですか……」と心配そうに私の口元を見つめながら呟いた。
「やってみます。私の歯はタラバガニの甲羅を噛み砕いた事がありますから丈夫です」
そう言うと、そこで初めて奥さんが「くすっ」と笑った。
やっぱりこの奥さんは、悲しそうな顔よりも笑顔のほうが素敵だと素直にそう思った。
が、しかし、私の頭の中には、薄暗い倉庫で荒縄に縛られながら陵辱されている妖艶な奥さんの姿が、未だ離れず残ったままだった。
両膝を立てたまま私に背を向けた奥さんは、複雑に縛られた手首を私の口に近づけた。
白魚のような細く長い指には、薄い桜色のマニキュアがテラテラと輝いていた。
そんな美しい五本の指が手探りしながら私の顔を這い回った。
「そこです。そこが口です」
そう言いながら口を大きく開けると、ふいに奥さんの指が私の舌に触れた。奥さんの指先は汗で塩っぱかった。
固く縛られた結び目を前歯に挟んだ。結び目は石のように固くびくともしなかった。
映画やドラマでよくこんなシーンを見るが、実際には歯で縄を解くなんて絶対に不可能だと思った。
別の方法を考えようと口から結び目を吐き出すと、ふと、縛られた両手の真下でプルンっと揺れる尻肉が目に飛び込んで来た。
奥さんに気付かれぬようソッと顔を傾けると、尻肉の谷間の奥に陰部の黒ずみが微かに見えた。
私は、尻の谷間の奥にあるその黒ずみを隅々までじっくり観察したいという衝動に駆られた。
凶暴なアル中男がいつ目を覚ますかわからないという危険な状態であるにもかかわらず、奥さんの美しい尻に興奮を覚えた私は、もう我慢できなくなっていた。
「結び目が手の裏側にあるので、できるだけ腕をピーンッと突き出してもらえますか……」
そう嘘をつくと、奥さんは上半身を前屈みにさせながら、「これでいいでしょうか……」と自信なさげにそう呟き、縛られた腕だけを伸ばした。
上半身だけが屈めば、必然的に尻肉は開いた。私のすぐ目の前で、肉食植物のようなグロテスクな物体がぐにゃっと身を捩らせた。
私は結び目を無意味に噛みながら、綺麗な奥さんの卑猥な陰部を覗き込んだ。
外部の黒ずみに比例して内部は綺麗なピンク色だった。中出しされて間もない膣は若干緩み、奥には白濁の汁がタラタラと付着していた。
(なんてエロいんだ………)
私は目眩を感じる程に興奮しながら、更に顔を陰部に近づけた。
奥さんの甘い体臭に混じり、中出しされた陰部の饐えた匂いが漂って来た。
間近で観察すると、ダラリと垂れた小陰唇は使い込まれており、その肉厚も舌のように太かった。
あんなビラビラにペニスを優しく包み込まれたらどれだけ気持ちいい事だろう。
そう思いながら鼻息を荒くしていると、突然、頭上から「あのぅ……」という奥さんの声が聞こえて来た。
「あ、はい」と慌てて尻の谷間から目を反らした。
すると奥さんは、ゆっくりと体勢を元に戻しながら言った。
「私が山崎さんの縄を噛み解いてみます」
「しかし……かなり頑丈ですよ……」
私はソファーに首を下ろしながら心配そうに呟いた。
「大丈夫です。なんとかやってみます……」
奥さんはそう言いながら、ソファーに横たわる私を見下ろしたのだった。
床に両膝を付いた奥さんは、両手を後手に縛られたまま上半身だけを屈ませ、私の手首に顔を近づけた。
奥さんがガリガリと縄を噛む振動が手首に伝わって来た。
両手をバンザイの体勢にしていた私は、縄を噛む奥さんの姿が見えなかったが、かなり難航している気配は伝わって来た。
「無理をしないで下さい」
私がそう言うと、急に手首に伝わる振動が止まり、奥さんの生温かい溜め息が親指に触れた。
「手首は無理そうです……今度は腰の縄をやってみます……」
奥さんはそう言いながら膝で移動し、私の腰の前で止まった。
まともにペニスを見下ろされた私は、恥ずかしさのあまりおもわず目を閉じてしまった。
前屈みになった奥さんは、私の腹に巻き付けられた縄を真っ白な前歯で噛んだ。
顔を斜めに傾け、犬歯を使いながら、カリカリと結び目を噛み始めた。
奥さんの長い髪が私の腹をくすぐった。
まるでフェラをされているような体勢だった。
髪から高級そうなリンスの香りが漂い、私はその生々しい香りに、たちまち理性を失った。
血液がグングンとペニスに集中しているのがわかった。
奥さんの頭部が邪魔をしてペニスの状態を確認する事が出来なかったが、恐らく、今の私のペニスははち切れんばかりに勃起しているはずだ。
しかし、それを目の前で見ているはずの奥さんは、それをわかっていながらも何も言わなかった。
奥さんは、必死になってカリカリと縄を噛んでいた。
しかし、縄はびくともせず、私はそんな奥さんが気の毒になり、「もう無理ですよ、諦めましょう」と呟いた。
「いえ……たとえ前歯が欠けても諦めません。ここで諦めたら、山崎さんにも、山崎の奥さんにも申し訳ありません……」
「そんな事、気にしないで下さい。これは事故なんですから……。旦那さんが目を覚ますのを待ちましょう。そして旦那さんが目を覚ましたら、もう一度事情を説明して誤解を解きましょう。だからもう無理をしないで下さい」
「無理です。あの人に何を言っても無理です。あの人は被害妄想に駆られて完全におかしくなっていますから、本当にあなたを殺しかねません……そうなってしまったら、私は剛志君や由佳里ちゃんに何とお詫びすればいいのか……」
奥さんはそう言いながら再び縄をカリカリと噛み始めた。
しかし、どれだけ奥さんが頑張っても、頑丈に縛られた縄はびくともしなかった。
そのうち奥さんは肩を震わせながら泣き出した。
そして、何を血迷ったのか、「ごめんなさい、ごめんなさい」と唸りながら、いきなり私のペニスをジュルっと口の中に飲み込んだ。
「お、奥さん!」
驚いた私は、声を潜めながらそう叫んだ。
ベロッとペニスを口から吐き出した奥さんは、涙に濡れた長いマツゲを光らせながら私を見た。
「勝手な事をしてごめんなさい……でも、ずっと起っていましたから……これがせめてものお詫びです……」
奥さんはそう囁くと、再び私のペニスを喉の奥まで飲み込んだのだった。
まさかこんな形で奥さんと絡むとは思ってもいなかった。
もちろん、こうなる事を密かに望んでいた私だったが、しかし、すぐ目の前で凶暴な夫がグーグーと鼾をかいているこの状況では、恐怖が先立って素直に喜ぶ事が出来なかった。
奥さんは、じゅぶ、じゅぶ、といやらしい音を立てながら、顔を上下に動かしていた。
時折、私をチラッと見つめては、あたかも『口の中で出してもいいんですよ』といった目で私を見ていた。
それにしても、濃厚なフェラだった。
旦那を目の前にして、しかも、見つかれば即死につながるという究極なこの状況にして、本来ならば快楽を得る余裕など生まれて来ないはずだ。
しかし、これほどまでの美女に、亀頭を柔らかい舌で包み込まれながら、窄めた唇で竿をピストンされていると、たちまち私の感情はムラムラと沸き上がってきた。
脱衣場で見た奥さんの下着の匂いや、旦那に激しく犯されていた奥さんの姿、そして、旦那がポツリと呟いた、「おまえは縛られたままヤられるのが好きだった」という言葉が甦り、もはや私は一触即発の危機に追いやられた。
「あぁぁ……奥さん……出そうです……」
そう唸りながら体を捩らせると、奥さんは腫れ物に触れるかのように、恐る恐る口からペニスを吐き出した。
あと一歩という瞬間に作業を中止されたペニスは、まるで釣り上げられた小魚のようにピクピクと痙攣しながら、我慢汁をダラリと垂らした。
奥さんは、唾液で唇を光らせながら、私の顔をソッと覗き込んだ。
「こんな事で許して貰おうなどとは思ってません……もし、私の体でよろしければ……」
奥さんは「よろしければ」で言葉を止めたまま、その言葉の意味を仕草で表現するかのように、恥ずかしそうに視線を落とした。
そんな奥さんを私は呆然としながら見つめていた。頭の中が真っ白になり、何も言葉が浮かんで来なかったのだ。
すると奥さんは、そのキラキラと輝く大きな瞳でゆっくりと私を見上げながら、「御迷惑ですか?」と、恐る恐る首を斜めに傾けた。
私は慌てて「いえ……」と首を横に振り、そしてすぐに「しかし……」と不安な表情を浮かべた。
「……奥さんのお気持ちは非常に嬉しいのですが……もし、途中で旦那さんが目を覚まされたらと思うと……」
私はそう呟きながら、男の右手に握られたままの出刃包丁を横目で見た。
すると奥さんが黙ったままスッと立ち上がった。
下半身を剥き出しにした奥さんの体が逆光に映し出され、実に官能的な影を作った。
「今の私は……体で償う事しかできないんです……」
そう呟いた奥さんは、右足をゆっくりと上げると、ソファーに縛られた私の太ももに跨がった。
ギラリと輝く出刃包丁が、私の腹にブスリブスリと何度も刺される光景が脳裏に浮かび、背筋がゾゾッと寒くなった。
しかし、後手に縛られた奥さんが私の太ももの上に静かに腰を下ろし、奥さんのその柔らかい尻肉の感触が太ももに伝わって来ると、いつしかそんな恐怖もどこかに消えてしまった。
両手を使えない奥さんは、膝で体を支えながらゆっくりと腰を上げた。
浮かんだ腰の下にテラテラと輝く赤黒い性器が歪に口を開いているのが見えた。
奥さんは恥ずかしそうに私の顔を見下ろしながら、「恥ずかしいから見ないで下さい……」と柔らかく微笑むと、ゆっくりと腰を下ろした。
しかし、一瞬は亀頭の先に奥さんの熱を感じたが、ペニスを固定していない為に、すぐにペニスはツルンっと滑ってしまい、奥さんの肛門方面へと逃げてしまった。
そんな事を数回繰り返していた。
その間、奥さんも私も一言も言葉を交わす事なく、必死に合体しようとしているその部分を黙って覗き込んでいた。
まともに真上から突き刺そうとしても無理だと思ったのか、奥さんは腰の角度を変え始めた。
上半身を後に仰け反らせるようにして下半身を前に突き出した。
ソファーに寝転ぶ僕からは、パックリと口を開いたグロテスクな穴が丸見えだった。
股関節辺りに亀頭を押し付けながらペニスを斜めに傾け、竿の部分を尻肉の谷間にスポッと挟み込んだ。
そして、腰を器用に動かしながら膣口の先に亀頭を引っかけると、そのままゆっくりと腰を元に戻した。
奥さんの体が垂直に戻ったと同時に、ペニスが穴の中に滑り込んだ。
まるでウォータースライダーを滑る瞬間のように、穴の中にテュルンっと滑り込んだペニスは、とたんに熱い生肉に包み込まれた。
穴の中はヌルヌルと滑りが良かったが、しかしそれを拒むかのように膣壁が行く手を塞いだ。
そんな膣筋がペニスをキュンキュンと締め付け、私は凄まじい快楽に溺れた。
奥さんが腰を振る度に、ソファーの合皮が、ググッ、ググッ、と小刻みに軋んだ。
私を恥ずかしそうに見下ろしている奥さんは、餌を欲しがる子犬のように、「ふん、ふん」と鼻を鳴らしては、頬を赤く火照らせていた。
潤んだ瞳はダラリと垂れ下がり、時折、瞼を半開きにさせながら天井を見上げた。
そんな奥さんの表情は、明らかに感じていると私は確信した。
この状況で感じるというのは、やはり奥さんはマゾなのだろうか?
それとも、私へのお詫びのつもりで、感じたフリをしているのだろうか?
私はそんな事を考えながら、奥さんの腰の動きに合わせて腰を突き上げていた。
しばらくの間、二人の呼吸がひっそりと重なり合っていた。
目の前では、Tシャツの中でタプタプと揺れる巨乳が私を挑発していた。
これほどの美女と交わり合いながらも、その美しい肉体に触れられないのが残念でならなかった。
このまま奥さんをソファーに押し倒し、あの大きな乳をダイナミックに鷲掴みしながらズボズボと腰を振りたい……。
そう思いながら、手首を縛られた両手に「くそっ!」と力を入れると、いきなり手首に開放感を感じた。
「えっ?」と思いながら、もう一度手首に力を入れてみた。
キツく縛られていた縄がスルスルッと緩み、締め付けられていた手首の血管に血が流れ始めた。
「奥さん!」
そう叫んだ私は、慌てて手首から縄を解いた。
自由になった両手を奥さんに見せると、「早く逃げましょう」と言いながら、後手に縛られている奥さんの縄を解こうとした。
すると、不思議な事に、奥さんは体を捻りながらそんな私を拒否した。
「ど、どうしたんですか……」
そう顔を覗き込む私に、奥さんは小さく顔を横に振った。
「私は……このままの状態であの人が目を覚ますのを待ちます……山崎さんだけ逃げて下さい……」
「し、しかし……」
困惑する私を、奥さんは優しい目で見つめた。
「ただ……最後までやらせて下さい……そうじゃないと、私の気が治まりません……」
奥さんは「ごめんなさい……」と小さく囁くと、恥ずかしそうに顔を俯かせながら、再び腰を動かし始めた。
そんな奥さんをおもいきり抱きしめたい心境に駆られながらも、私は黙って元の状態に戻ったのだった。
奥さんは先程よりも腰を激しく動かしながら、自由になった私の右手をソッと握った。
そしてその手を、Tシャツの中でタプタプと揺れる胸に引き寄せながら、「触って下さい……」と、優しく囁いた。
私はTシャツの上からその大きな乳を掌の中に包み込んだ。
存分にその柔らかさを堪能した私は、掌をそのまま腰へと移動させ、そのキュッとくびれた腰を両手で支えた。
「奥さん……もう我慢できません……」
そう呟くと、奥さんはハァハァと荒い息を吐きながら、「イッて下さい……」と、半開きの目で私を見た。
「しかし、どこで……」
私が困惑すると、奥さんは恍惚とした表情を浮かべながら、「中で……どうぞ……」と囁き、更に腰の動きを速めたのだった。
ふと、ストックホルム症候群という言葉が私の頭に浮かんだ。
しかし、ストックホルム症候群というのは犯人と人質の間に生まれる感情であり、この場合のような人質と人質の感情ではない。
では、捕われた人質と人質とが極限状態の中で同情や連帯感を抱くようになることを何と呼ぶのだろう。
ソファーの下に投げ捨てられていたズボンをそそくさと履きながら、帰ったらさっそくネットで調べてみようと私は思った。
大鼾をかいて眠る男に警戒しながら、恐る恐るズボンのファスナーをあげた。
背後からドアがカチャッと開く音が聞こえ、同時にトイレを流す水洗の音が微かに聞こえて来た。
トイレのドアから出て来た奥さんは、すっかり着替えていた。
旦那が目を覚ますまでその状態でいると言っていた奥さんだったが、しかし、やはり、中出しされた精液の処理をしたいからと、手首の縄を解いて欲しいと言った。
トイレの洗浄機で私の精液を洗い流した奥さんは、まるで何も無かったかのような笑顔で私を見つめ、「何かお飲みになりますか」と小さく首を傾げた。
「いえ、私は……」
そう私が首を振った直後、いきなり玄関のチャイムが鳴り響いた。
私は、その音で旦那が目を覚まさないかと慌てた。
しかし奥さんは、平然としながら、「きっと病院の人です」と柔らかく微笑むと、そのままスリッパを鳴らしながら廊下へと消えて行った。
屈強な男が三人、異様に警戒しながらリビングに入って来た。
ソファーの上でガーガーと鼾をかいている男を見つけた男たちは、「包丁を持っているから気を付けろよ」と、互いに言い合いながら、ソファーで眠る男にジワリジワリと歩み寄った。
すると、その緊張の糸を切り裂くように、奥さんはスタスタと男に近付きながら、
「大丈夫ですよ。この人、お酒を飲んで寝てしまうと、何があっても絶対に目を覚ましませんから……」
と、いとも簡単にその出刃包丁を奪い取ってしまった。
一瞬にして空気が和らぎ、緊張していた男たちがホっと胸を撫で下ろした。
「多分、起こしても起きないでしょうから、いつもみたいにストレッチャーを持って来た方が早いと思います……」
奥さんがそう微笑むと、三人の男たちも、「そうですね」と言いながら全員が笑った。
しかし、私だけは素直に笑えなかった。
何かが腑に落ちなかった。
男は眠ったままストレッチャーに括り付けられた。
運ばれていく男を見送りながら、私は奥さんの耳元に「では、そろそろ私も」と囁いた。
奥さんは、「えっ?」と振り向きながら、「今、紅茶を入れようかと思ってたんですけど」と大きな目を丸くさせた。
そんな奥さんは背筋がゾクゾクするほどにイイ女だった。
しかし私はそれを断った。何故か無性に、一刻も早くこの家から脱出したいと思った。
平凡なサラリーマンらしい日産のサニーに乗込むと、私は二ヶ月間やめていた煙草に火を付けた。
懐かしい香りが口内に広がり、とたんに喉をイガイガとさせた。
軽い目眩を感じながらイグニッションキーを回した。
平凡なエンジン音と共に奥さんが玄関から出て来た。
屈強な職員達と、ストレッチャーに縛り付けられたまま寝ている旦那も一緒に出て来た。
奥さんは私に気付くと、何も無かったかのように深々とお辞儀をした。
なぜか私は慌てて煙草を消した。
閑静な住宅街を過ぎると、埃っぽい大通りに出た。
大島運輸と書かれた巨大なトラックが平凡な日産サニーを威圧しながら追い越していった。
真っ黒な排気ガスをフロントガラスに受けながら、ふと、私の手首の縄は、既に奥さんが歯で解いていたのではないだろうかと思った。
大島運輸の巨大なトラックが、吉牛とスタバとプロミスのATMが並ぶ大きな駐車場に左折していった。
信号で止まった私は、再び煙草に火を付けた。
(そうか……あの状況を奥さんはきっと楽しんでいたんだな……)
苦い煙をゆっくりと吐き出しながら、奥さんの身体中の毛穴からムンムンと滲み出ていたあの甘い香りを思い出した。
とたんに胸がズキンッとした。
そこで初めて、奥さんに恋をしている、と、確信した私は、明日、もう一度改めて御自宅へ伺って見ようと思ったのだった。
(ストックホルムな恋をして・完)
《←目次へ》