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天の邪鬼1

2012/05/19 Sat 01:00

    天の邪鬼1


【天の邪鬼】あまのじゃく
人にわざと逆らうひねくれ者。つむじまがり。ヘソ曲り。
(三省堂・国語辞典より)




この女は少し頭がおかしいのではないかとふと思った。
名前は不明。年齢二十四才。印刷会社の事務をしているらしく、出会うなり「うちの社長の息が凄く臭いの」と突然ボヤいた。

出会い系で知り合い、待ち合わせ場所からそのまま古いラブホテルに直行した。
先に金を渡しておこうと思い、昭和の喫茶店のようなソファーに腰掛けながら僕は財布を出した。

「いくらかな……」

そう言いながら財布から一万円札をチラつかせると、女はテレビのチャンネルを滅茶苦茶に替えまくりながら「いらな~い」と馬鹿にしたように呟き、かと思えば唐突に「一億円!」と叫んだ。
後でいちゃもんを付けられるのも面倒だと思い、「ここに置いとくから」と告げながらテーブルの上に二万円を置いたが、しかし女はそんな金には目もくれず、相変わらずテレビのチャンネル替えに夢中になっていた。

女は一向にその気配を見せなかった。
部屋に入ってから既に一時間近くを経過しているというのに、女は服も脱がないまま、同じ場所に座ったまま僕に背中を向けている。

「お風呂、一緒に入ろうよ」

僕はトランクス一枚の姿で女の背中にそう呟いた。
女はいきなり体育座りの体勢のままくるりと後ろを向き、奇妙な笑顔でニヤニヤしながら僕を見た。
そんな女のスカートの中が見えた。白い脚に張り付く網タイツの奥に、青白い下着が貧乏臭く浮かんでいた。

「もしかしてエッチしたいの?」

「……………」

 返答に困った。正直、面倒臭い女だと思った。

「おじさんいくつ?」

「……まだおじさんじゃないよ」

「じゃあお兄さんいくつ?」

「……さっきメールで教えたじゃないか、三十だよ」

「三十っていったらオヤジじゃん」

女はなぜか得意気にそう言うと、再びニヤニヤと笑いながら「お仕事は何してんの?」と言葉を続けた。

心の中で(ちっ)と舌打ちした。せっかくの給料日あとの最初の土曜日だというのに、とんだバカ女を拾ってしまったと無性に後悔した。
こんな事なら素直にいつものデリヘルを呼ぶべきだった。久々に素人娘とヌルヌルなセックスをしたいなどと思った僕が馬鹿だったのだ。
僕は激しく落胆しながら「普通のサラリーマンだってメールに書いただろ」と答えると、そのまま大きな溜息と共に安物のソファーに腰を下ろしたのだった。

そのまま三十分程、嫌な沈黙が続いた。
女は相変わらずベッドの上に体育座りしたまま、黙って自分の爪先をジッと見つめている。
このままベッドへ行き、あの網タイツをビリビリに破って犯してしまおうかと何度も思ったが、しかしレイプは面倒臭そうであまり気が進まなかった。

僕は女の下着をチラチラ見つめながら、素直に帰りたいと思った。
大して可愛いわけでもなく、それほどスタイルがいいわけでもない。まして、究極に馬鹿っぽくて、なによりも憎たらしい。
こんなアホ女といつまでこうして無駄な時を過ごすのかと思うと、一刻も早く帰りたくて堪らなくなった。
が、しかし既に金は払っている。
今更、ヤらせないなら帰るわ、と、そのテーブルの上の二万円を財布にしまうのも恥ずかしすぎる。かといって、このアホ女に二万円くれてやるのは死んでも嫌だった。

そんな事をアレコレ考えながらも、不意に、もうどうでもいいや、と思った瞬間、僕の中で何かが吹っ切れた。

僕はソファーに座ったままいきなりトランクスをスルスルと下ろした。
まるで海岸線に打ち上げられたナマコのような太いペニスが、太ももの間でゴロリと転がった。
そんな僕をチラッと上目遣いで見た女は、「何してんの」と、呆れたように呟いた。

「オナニーだよ」

そう呟きながら、僕は女に向けて萎んだペニスをシコシコとシゴき始めた。

「やだぁ、馬鹿じゃない。っていうか馬鹿だよソレ」

女はクスクスと笑いながら僕を馬鹿にした。
しかしそんな女の頬は、ペニスをチラッと見ただけで一瞬にして真っ赤に火照っていた。真っ赤に火照った顔を伏せ、表情を不自然に引き攣らせながら網タイツからはみ出ている足の小指をひたすらクリクリと弄っている。

(もしかして、こいつ、恥ずかしがりやなのか?……)

そう思った瞬間、突然ペニスがグングンと力を帯びて来た。

どちらかというと、僕はマゾ女が好きだった。
但し、僕自身は気が小さい為、今までにサドをやった事は一度もなかった。
が、しかしその願望はいつでも抱いていた。
それは、ロープで縛ったりムチで叩いたりといった本格的な願望ではなく、ただたんに自分が主導権を握ったセックスをしたいという単純なもので、要するに、気が強い女よりも、気の小さな女を自分勝手に滅茶苦茶にヤリまくりたいという、実に幼稚で実にケチ臭いサド願望なのであった。

そんな願望を持つ僕は、目の前にいるこの恥ずかしがりやのバカ女に異様な欲情を覚えた。
この恥ずかしがりやの女にとことん羞恥心を与え、徹底的に卑猥に淫らに弄びたいという異常性欲がムラムラと湧いて出て来たのだ。

僕は胡座をかいていた股を大きく開くと、ビンビンに勃起したペニスをベッドの女に向けて突き出し、それをダイナミックにシコシコとシゴいた。

「見てみろよ……結構大きいだろ……」

そんな僕の声に、女は僕の股間を上目遣いでチラッと見ると、慌てて目を伏せながら「バッカじゃないの、死ね」と吐き捨てた。
相変わらず口は悪いが、しかしそんな悪態も彼女なりの照れ隠しなんだろうと思うと、更に彼女を羞恥の底に追い込んでやりたくなった。

「こんなに大きなチンポ、入れられた事ある?……入れて欲しいでしょ、キミのワレメにズボズボと……」

僕は小声でズボズボズボズボズボズボズボズボ……と唱えながら、その声に合わせてペニスを上下させた。

「三十のおっさんがいい歳して何やってんだよ、キモイんだよ変態オヤジ」

女は俯きながらボソボソと悪態をつく。しかしその表情は明らかに動揺しており、足の小指を弄る速度も異様に早くなっていた。

「ほら、見てみなよ、亀頭がヒクヒクしてるよ、もうすぐ精液がピュッと飛び出すよ、ほら、ほら」

女がソッと目を上げた。頬を真っ赤に染め、下唇をキュッと強く噛んでいる。
僕はペニスの先を我慢汁でクチュクチュ音立てながら女を見つめた。
女も黙ったままジッと僕を見ていた。そんな女の視線は、僕が目を反らす度に素早くペニスを捕らえていた。

「舐めてやるよ……キミのアソコをペロペロしてあげるよ……ほら、舐めて欲しいんだろ、パンツを脱いで大きく股を開いてごらん……」

そう呟きながら舌を突き出し、女に向かってレロレロと動かした。

すると突然、女はスクッと立ち上がった。そして僕からプイッと顔を背けると、「馬鹿みたいだからお風呂入って来よっと」と呟きながら浴室に向かってスリッパをスタスタと鳴らした。

「洗わなくてもいいよ。恥ずかしい垢がたっぷり付いたその汚いオマンコをペチャペチャしてあげるから、ほら、こっちに来てパンツを脱ぎなさい……」

女はクスクスと笑いながら走り出した。そして浴室のドアの取っ手を握りながら、僕に振り向き、ひとこと「狂ってる」と捨てゼリフを残したのだった。



女が風呂から出たのはそれから十五分も経った頃だった。
恐らく、簡単にシャワーで洗い流しただけであろう、そのストレートの髪も全く濡れていなかった。

女は湿った体に白いバスタオルを巻いたままベッドに潜り込んだ。
勃起したままベッドに近付くと、いきなり布団の中からガバッ!と顔を出し叫んだ。

「ベッドに入るんだったらシャワー浴びて来てよバカ!」

真っ赤な顔をして叫ぶ女。その声は、まるでヒキコモリの娘が突然ヒステリーを起こしたような、そんな狂気に満ちた声だった。

(やっぱりこいつ、頭おかしいのか?……)

背筋に妙な寒気を感じた。やはり、出会い系で男を漁っているような女にまともな奴はいないのだ。
僕はそんな女の狂気に脅えながら、埃っぽいカーペットの上を素足でサカサカと音立てては、そそくさと浴室のドアを開けたのだった。

モワッとした生温かい湿気と安物のボディーソープの香りが狭い脱衣場から溢れて来た。
洗面所の鏡は湯気でびっしりと曇り、堪えきれなくなった水滴がタラタラと垂れていた。
そんな洗面所の下に、ふと衣類が押し込まれたままの脱衣カゴがあるのを発見した。
僕は慌てて脱衣場のドアを閉めた。そして音を立てないように脱衣カゴを洗面所の下から引きずり出した。

女の服は湯気で湿っていた。
服に染み付いた安物の香水が湿気と共に異様な臭いを発していた。
そんな湿っぽい服の下で、しわくちゃに丸められていたパンティーを取り出す。
しっかりと履き古した、妙に庶民的なパンティーだった。

(出会い系で知り合った男と会う時くらい、もうちょっとマシなパンツ履いて来いよバカ女……)

そう薄ら笑いを浮かべながらパンティーを広げる。
広げた瞬間、僕はニヤリと笑った。
あれだけ興味なさそうな態度を取っていたくせに、その女のパンティーは、ハチミツを垂らしたようにヌルヌルに濡れていたのだった。

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