天使と悪魔3
2011/04/15 Fri 09:58
6
「じゃあね」とスーパーの角でマサミと別れた優は、カバンに付けた小さな鈴をチャリンチャリンと鳴らしながらそのまま真っすぐ歩道を歩いた。
郵便局の三叉路を左に曲がり小さな坂道を越えると、比較的新しい家が並ぶ閑静な住宅街が広がっていた。
幼稚園の子供を連れた近所のおばさんと、すれ違い様に「こんにちは」と挨拶した優は、そのままその顔をソッと後ろに向けた。
すれ違ったおばさんの向こうで、誰かが顔を隠すようにしてスッと横道に入ったのが見えた。それは明らかに優から身を隠すといったそんな感じだった。
優は足を速めた。カバンの鈴がチャリチャリと激しく揺れる。
そのまま自宅の横の細い路地に入ると一気に駆け出した優は、裏庭の勝手口にサッと身を潜め、レンガの塀からソッと通りを伺った。
しばらく通りを見ていたが誰もやって来ない。
やっぱり気のせいなのかしら・・・と、まだ少し不安ながらもとりあえず安心した優は、勝手口から家の中に入っていったのだった。
その日の夕方、夕食を終えた優が二階の自室に戻ると、机の上の携帯が点滅しているのが見えた。
それは新しいメールが届いたという知らせだった。
優は机の上の携帯を手にするとベッドに腰を下ろし、直ぐに携帯を開いた。
《今夜12時。10万円持って学校の第二体育倉庫に1人で来い。もし来なかったらおまえの秘密を学校や親にバラす。おまえの写真もネットにバラ捲く》
誰だろう・・・
優は然程驚く風もなく、その脅迫メールを淡々と読み直した。
学校の第二体育倉庫などという場所を指定するという事は、同じ学校の生徒だと直感した。
優は溜息をつきながら立ち上がると、クローゼットの下の引き出しの奥に仕舞っておいたDVDラックを取り出した。
ラックには10枚の音楽DVDが押し込められていた。その中からパッケージが色褪せた安室奈美恵のDVDを取り出す。
部屋の鍵が閉められているかをもう一度確認しながら、DVDのプラスチックの蓋をパカッ!と開ける。中に入っていた一万円札の束がバサッと揺れた。
1枚のDVDに10万円入っていた。
それが10枚で100万。
それは、これまでに優が出会い系で知り合った男達から貢がせた金だった。
優は安室奈美恵のDVDの中から10万円を取り出すと、机の引き出しから封筒を取り出し、その中に10万円を入れた。
そしてその封筒を見つめながら、もう一度「いったい誰だろう・・・」と呟き、その小さな顔を傾けたのだった。
風呂からあがった優は、リビングでテレビを見ていた両親に「今日はなんだか体調が悪いからもう寝るね」と告げると、そのままワザとらしくフラフラしながら二階の自室へと向かった。
時刻は10時。
優は部屋の窓からソッと外を見た。
いつものように電信柱の裏に人影があった。
優はベッドに座ると、窓の端から電信柱の影を見つめながら携帯を開いた。
電話帳のグループ検索で『X』と書かれたフォルダーを開くと、出会い系で知り合った男達の名前と電話番号がズラリと表示された。
その中から、何度も会った事のある男、優の素性を知っている男、など怪しい男をピックアップし、1人ずつ電話を掛けてみる事にした。
まずは、宮沢保。40過ぎた中年サラリーマン。彼とはこれまでに3回会い、そのうちの1回はラブホに行った。しかし、次回必ず本番をヤらせるという約束で、その日は尺八だけに留まり4万円貰った。それっきり、このオヤジから何度電話が掛かって来てもカチ無視している。
わずかツーコールで「もしもし!」と慌てて宮沢保は電話に出た。
優は電信柱の男に目を凝らす。電信柱の男に電話をしている様子は見られない。
「良かったぁ、キミの電話ずっとずっと待ってたんだぜぇ」
そう馴れ馴れしく話し始めた宮沢保の電話をピッと切ってやった。
次は、兼末健次郎。健康食品のセールスマンをやっている三十代。
この男とは数回会った。何度かラブホへ連れて行かれ、アダルトグッズなどを使われては変態的なセックスを強要されたが、しかし金払いが良く、会う度に5万円もくれた為、優は我慢していたのだが、しかし、ある時「キミ、桜高校の生徒だよね」と、いきなり聞かれ、それっきりこの男と会うのをやめていた。
この男も優からの電話を出るのは早かった。そして電話に出るなり「もう我慢できないんだ、今すぐ会おう」と声を震わせた為、優は気持ちが悪くなってそのまま電話を切った。
その時も、電信柱の男に電話を掛けている様子は見られなかった。
優は、そんな電信柱の男をソッと見つめながら携帯のアドレスをピピピッと走らせる。
そんなアドレスに表示されている男はほとんどが1回こっきりの男達ばかりだった。
そのほとんどの男達は、「初めてだから今日はこれで我慢して」っと手コキか尺八でさっさと終わらされ、本番まではヤらせてもらっていない。
しかし男達は、それでも優に文句ひとつ言わず約束の3万円を払った。あまりの優の可愛さに逆上せてしまっていた男達は、次回を期待しながらも喜んで金を払っていたのだ。
が、しかし、優はそんな男達とは二度と会わない。二度目に会えば本番をやらざる得ないとわかっていた優は、そんな男達からの電話を二度と出る事はなかった。
しかし、そんなクールな優でも、時には体を開く事があった。
それは、10万円以上の金を積まれた時か、若しくはその男が優のタイプだった時だ。
丸山しゅうと表示された番号で指を止めた。
優の脳裏に、丸山のジャニーズ顔がフッと浮かんだ。
丸山しゅうは大学生だった。丸山の車でドライブし、夜景の綺麗な山の上の駐車場でシートを倒した。
丸山はジーンズのポケットからしわくちゃの5千円札を優に渡し、「ごめん・・・俺、これだけしかないから・・・」と申し訳なさそうに言うと、倒したシートの上でオナニーを始めた。
「見ててくれるだけでいいから・・・」
そう言いながら丸山は、シートに寝転がる優をジッと見つめた。
ハァハァと小さな息を吐きながら両足をモゾモゾとさせる丸山。優はシートの上にゆっくりと体を起こすと、そんな丸山に向かってミニスカートを静かに捲った。
薄暗い車内に、優の真っ白な太ももと淡いピンクの下着がぼんやりと光った。
シートから顔を上げる丸山は、そんな優の下半身を「ギロッ!」と見つめながらハァハァとペニスをシゴく。
そのペニスはゴツゴツとした血管を浮き上がらせ、今にも爆発しそうなくらいにパンパンに腫れていた。
優は、そんな丸山の少年のような目を見つめているうちに急に下半身がウズウズして来た。
激しく上下に動く丸山の手をソッと握った優は、「えっ?」と驚く丸山に優しく微笑みながら、丸山の股間に顔を埋めた。
「で、でも・・・あっ・・・」
そう呻く丸山のペニスが、まるで釣り上げたばかりの鮎のように、優の口の中でピクピクと激しく痙攣する。そんな丸山のペニスを喉深くまで飲み込む優は、亀頭に舌を絡ませながら顔を上下に揺らした。
ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぷ・・・・
優の唇からリズミカルな音が洩れ、静まり返った車内に響いた。
「あぁぁ・・・・」
丸山はピーンと足を伸ばしながら呻き、早くも「イキそうだ・・・」と囁く。
優はペニスに絡む自分の唾液を「ジュルっ」と吸い取りながら、ペニスを口から静かに抜いた。
そしてそのまま助手席のシートに寝転がると、ギラギラする丸山の視線を感じながらもゆっくりとパンティーを脱いだ。
優のワレメはじっとりと濡れていた。パンティーのジトッと濡れたシミを見られないよう、素早くパンティーをシートの横に押し込むと、優はそのまま丸山に微笑みかけた。
「いいよ・・・」
優がそう囁きながら丸山に両手を向けると、丸山はハァハァと荒い息を吐きながら、優の体に貪りついて来た。
勃起したペニスをピーンと突き立てたままミニスカートの股の間に潜り込んで来た丸山は、「ごめんね、ごめんね」と何度もそう言いながら、ぐっしょりと濡れた優のワレメを指で押し開き、そこにペニスをヌルヌルと押し込んで来た。
パンパンに勃起した丸山のペニスが優の膣にギッシリと嵌め込まれた。そのペニスの逞しさに、おもわず優が「すごいよぅ・・・」っと声を洩らすと、丸山は狭いシートの上で優の細い両足を抱え上げ、激しいピストンを繰り返して来た。
あっと言う間に優は絶頂に登り詰めた。こんな事は今までで初めてだった。
全く衰える事なく、まるでケモノのように激しく襲いかかって来る丸山の腰。
ぶちゅぶちゅと卑猥な音を立てる結合部分から優の汁が溢れ、次第にシートに黒いシミを作っていく。
こんなセックス初めて!っと叫びながら、優が三度目の絶頂に登り詰めようとした瞬間、ふと丸山の顔が優の目に飛び込んで来た。
車外の街灯にボンヤリと照らされる丸山のその顔は、ニヤリと不敵に微笑んでいた。
優を見下ろすその表情は、さっきまでの丸山とはまったくの別人で、そのギラギラと不気味に輝く目は、まるで悪魔のようだった。
そんな目に見つめられながら三度目の絶頂を終えると、丸山は腰をゆっくりとグラインドさせながら、ダッシュボードの中から何かを取り出した。
それはオレンジ色の錠剤だった。
「飲むと楽しくなるから・・・・」
丸山はそう言いながらソレを優の唇の中に押し込み、そして自分も飲んだ。
優は、それがMDMAだという事を知っていた。以前にも土建屋のオヤジから無理矢理飲まされ、朦朧とした意識の中で犯された事があったからだ。
怖くなった優は、それを唇に挟んだままソッと横を向き、ガンガンと腰を振って来る丸山を横目で見ながら、隙を見てソレを後部座席の足下に吐き捨てたのだった。
そんな丸山の優しいジャニーズ顔を思い出しながら、優は携帯のディスプレイに表示される「丸山しゅう」という字を見つめていた。
それから何度も丸山から電話が掛かって来たが、優が丸山の電話を出る事は1度もなかった。
優は丸山の優しい顔と悪魔の顔を交互に思い出しながら、複雑な気分のまま携帯のボタンを押した。
受話器から聞こえるプップップップッ・・・・という音を聞きながら唾を飲む。。
『プルルルルル・・・・プルルルルルル・・・・プルルルルルル・・・・・』
何度コールしても出なかった。そのコールを20回まで数えてピッと電話を切った。
ソッと窓の外を見る。
いつの間にか男の影はそこにはなかった。
もしかしたらあの電信柱の男も・・・そして脅迫メールの男も、丸山かも知れない・・・
優はふいにその小さな肩をブルっと震わせたのであった。
7
第二体育倉庫の跳び箱の裏に潜む松浦は、ついさっき国道沿いの『大人のおもちゃ』で買って来たペンシル型のピンクローターに電池を入れていた。
(あの純粋ぶりっ子の浅岡がどこまで乱れるか楽しみだぜ・・・・)
ふふふふふっと微笑みながら、電池の入れたピンクローターのスイッチをONにしてみる。
ヴィィィィィィィィィ・・・・・・・
強烈なバイブ振動が松浦の手の平の中に響いた。
(こんなスゲェのをアソコに押し付けたら堪んねぇぞ・・・・)
そうニヤニヤ笑いながら、自分の股間にソレを押しあててみた。
皮かむりのチンポにジンジンとした振動が走り、その振動が引き裂かれた肛門にまで伝わる。
とたんに松浦は尻をキュッと萎めながら「うっ」と唸った。
その痛みと同時に池袋の公衆便所で中年ホモ親父に掘られた屈辱が甦り、突然カッ!と頭に血が上った松浦は握り拳を床のマットに叩き付けながら「くそっ!」と吐き捨てた。
「全部、あのぶりっ子女のせいだ・・・・」
そう呟く松浦は、優の顔を思い出しながら拳をマットにグリグリと押し付け、「めちゃくちゃにしてやる・・・」と唸りながら奥歯をギリギリと噛み締めたのだった。
勝手口からソッと抜け出した優は、静まり返った住宅街の闇に紛れ込んだ。
黒ジャージの上下に黒のキャップを深く被った優は、まるで女忍者のようだ。
大通りを避け、細い路地をコソコソと進む優は、(丸山だったらどうしよう・・・)という不安の中で、あの丸山の人間業とは思えぬ激しい腰の動きを思い出しながら、怖いけど抱かれたい、という複雑な気分に襲われていた。
深夜の学校は周囲の街灯にボンヤリと照らされ、昼とは全く違う顔で聳え立っていた。
そんな深夜の学校の不気味な迫力に、不意に富士急ハイランドのお化け屋敷を思い出しながら、優は体育館へと忍び込んだのだった。
『第二体育倉庫』とプレートが掲げられた鉄の防火扉をゆっくりと開けると、体育倉庫独特のなんともいえない埃っぽい空気が優の小さな体を包み込んだ。
(この中に丸山が潜んでいるかも知れない・・・・)
そう考えると、恐怖と同時にスリリングな性的興奮が優の胸でムラッと沸き上がった。
そんな優は、もしもの事を考えて、その鉄扉を半開きのままにしておいた。相手が誰だかわからないうちはまだ油断できない。もし、そいつが気が狂ったストーカー男だったら一目散に逃げ出さなければならないのだ。
その為に、走りやすいスニーカーを履き、ジャージの上下を着て来た優は、いつでもダッシュで逃げ出せるように中腰になりながらジリジリと体育倉庫の奥へと進んでいったのだった。
「あのぅ・・・・」
体育倉庫の真ん中まで来た優は、磨りガラスの窓から街灯がぼんやりと差し込んだだけの薄暗い倉庫を見回しながら呟いた。
「金は持って来たか・・・・」
優のすぐ目の前にある跳び箱の裏からボソっと男の声が聞こえて来た。
「・・・はい・・・」
「じゃあ金を跳び箱の上に置け・・・・」
優は、その男の声が妙に若いと気付き、その男がデブ臭ブヨブヨオタク豚ではない事にひとまず安心した。
ポケットから10万円入りの封筒を取り出し、それを跳び箱の白いクッションの上にソッと置く。
一呼吸置いて、跳び箱の裏からヌッと青白い手が現れた。その手は跳び箱の白いクッションの上をバタバタと這い回り、指先に封筒を感じると、まるで蛇がカエルに喰らい付くかのように封筒をガブッ!と鷲掴みにし、そのままスーッと消えて行った。
それは、中学校の修学旅行で京都に行った時、新京極のアメリカンジョークグッズのお店で見た、棺桶からスーッと手を出してはお金を取って行くドラキュラの貯金箱のようだと、優は思った。
すると直ぐにまた、その青白い手が跳び箱の上に現れた。
その青白い手の指には、なにやらショッキングピンクに輝く棒が摘まれている。
「これを使って・・・しろ・・・」
若い男はなにやら照れくさそうにモゾモゾとそう言った。
「えっ?・・・なにをしろって?・・・聞こえない・・・」
優は跳び箱に耳を傾けながら聞いた。
「だからぁ、これを使って、オアイイ・・・をしろって言ってんだよ・・・」
「?・・・オアイイ?・・・なにそれ?」
「オアイイじゃねぇよ!・・・だから、その・・・オ・・・ナニーだよ・・・」
その時始めて優はそれがローターだという事に気付き、そのピンク色に輝く丸い部分を見た優は背筋をゾッとさせた。
「は、早くしろよ・・・ソレをやったらおまえの秘密は誰にも内緒にしといてやっから・・・」
松浦は、跳び箱と跳び箱の隙間から優を見つめながらそう言った。黒いキャップを被った優はストリートダンサーのように可愛く、こんな可愛い女の子が今からここでヒーヒーと悶えるのかと想像すると、松浦はいてもたってもいられないくらいにムラムラ興奮して来た。
「・・・でも・・・」
優が肉付きの良い唇をクチュっとアヒル口に尖らせながらそう言った。
その顔がこれまた堪らず可愛く、松浦はなんとしてでも今ここでこの激カワ少女にオナニーさせなければ一生後悔する事になるだろうと思いながら、「でももへちまもない!」などと、おもわず時代劇のようなセリフを叫んでいた。
と、その時だった。
静まり返った体育倉庫に、ピリピリピリピリピリ・・・・という携帯の着信音が鳴り響いた。
跳び箱の隙間から覗く松浦に緊張が走った。
優が慌ててジャージのポケットに手を入れ携帯電話を取り出した。
そしてパカッとそれを開いた瞬間、「出るな!」とそう叫びながら、跳び箱の裏から松浦が飛び出した。
「えっ!」と一瞬驚いた優の手をバシっ!と叩くと、優の手から携帯電話がヒュッ!と飛んでいき、バスケットボールが入れられているカゴの中にカツッ!と落ちた。
「ま、松浦君・・・・」
優は、突然目の前に現れた松浦を見て目を丸々とさせた。
いきなり冷凍庫を開けた時のような冷たい沈黙がスーッと続く。
「・・・ど、どうして・・・」
優が声を震わせるのと同時に、松浦は「うるせぇ!」と、なぜか唐突に跳び箱を蹴った。
積み重なった跳び箱がガタッとズレた。不意に斜めになった跳び箱の上から、ピンクローターがコロコロコロッと転がり、床のマットの上にポトッと落ちた。
「・・・どうしてもへちまもねぇ・・・」
松浦はまたしても「へちま」を使った。
そしてモゾモゾしながら優をチラチラと見つめ、「お、俺はただ・・・桜高校のアイドル生徒の・・・浅岡優の・・・その、オナイーが見てみたかっただけだよ・・・」と呟くと、右手に持っていた10万円入りの封筒をポイッと優の足下に投げた。
「桜高校?・・・・・」
車の助手席で、携帯電話を耳に押しあてながら、丸山しゅうがそう声をあげた。
「桜高校なら、自分の地元っすよ」
ハンドルを握るスキンヘッドの男が、助手席の丸山に呟いた。
「誰なんっすか丸山さん?」
両腕にタトゥーを剥き出しにした男が、後部座席から助手席の丸山に身を乗り出した。
「しっ!黙ってろ!」
丸山は、携帯を耳にギュッと押し付けながら怒鳴った。
バスケットボールの中に埋もれる、優の携帯は繋がったままだったのだ。
「だから、俺は別に金なんて欲しかったわけじゃねぇし・・・それ、返すよ・・・」
優は、そう呟く松浦を優しく見つめた。
今までに、何度か松浦の事をカッコいいと思った事のある優にしてみれば、犯人が松浦だった事は不幸中の幸いだった。
しかし、松浦がどこまで秘密を知っているのかが問題だった。
今まで犯して来た秘密の援交を、この男がどこまで知っているかにより、この後の松浦に対する対応は変わって来ると優は思った。
「ねぇ・・・どうして私を呼び出した場所を、この第二体育倉庫にしたの?・・・・」
優は松浦の顔をソッと覗き込みながら聞いた。
「おい・・・桜高校の第二体育館ってわかるか?」
携帯を耳に押しあてていた丸山は、いきなり運転手の男にそう聞いた。
「体育倉庫ってのはわかんねぇっすけど、あの高校の体育館なら、自分、何度か言った事ありますよ」
「なんでだよ、高校の体育館なんかに何しにいったんだよテツオ~」
後部座席の男が戯けながら運転手の首を背後から絞める。
「えへへへ、自分、ロリコンっすから、あの学校でガキナンパして、体育館でレイプしてやった事あるんっすよ」
「うひゃひゃひゃひゃ、相変わらず外道だなぁおめぇは!」
後部座席の男が運転手の金髪頭を拳でグリグリと押し付けながら笑う。
「うるせぇ!」
丸山が叫ぶと、2人はコショコショしながら小さくなった。
丸山は、ふいにダッシュボードの中からメガネケースのような箱を取り出した。
それを後部座席の男にポンッと投げると、「準備しろ」と言った。
後部座席のタトゥー男は、「うひゃ」と奇妙な声で笑うと、その箱の中からビニール袋に包まれた注射器を取り出した。
「大至急、その桜高校の第二体育倉庫とやらに行け」
丸山が運転手にそう言うと、運転手は「了解っす!」と言いながら、いきなりハンドルを切り、タイヤを軋ませながら強引なUターンをすると、逆走にも関わらず猛スピードで車を走らせた。
後部座席で体を揺らしながら、注射器の針の先からピュッとシャブを飛ばしたタトゥー男は、助手席に身を乗り出しながら「桜高校になんかイイ事あるんっすか?」と聞いた。
そんな男に丸山は、袖を捲り上げた右手をヌッと突き出しながら言った。
「おめぇらなんかが見た事もねえくらいの極上の美少女をよ・・・喰わせてやるよ」
丸山がそう細く微笑むと、下品な笑いが一斉に車内に響き渡ったのだった。
(つづく)
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