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500円の手コキ娘

2010/08/14 Sat 08:58

海水浴場5

《解説》
海の家「マリン」で働く激カワ女子高生は、海の家の裏で手コキ商売をしていた。
その料金、なんと1発500円。
こんなに可愛い少女がナゼ?と、信じられない少年は、次第に彼女を好きになっていった。
そんな少年と少女を描く、夏の甘く切ない糞馬鹿恋愛エロストーリー。






その少女を初めて見たのは、海の家のバイトもそろそろ終わりかけの八月の暑い夕方だった。

僕は高校最後の夏休みを海の家で住み込みバイトしていた。
夕方6時も過ぎて、海辺の海水浴客もまばらになってきた頃、その子は一番端っこにある海の家「マリン」からいきなり飛び出して来た。
カキ氷の空きカップが大量に詰まったゴミ袋を抱えた僕は、海に向かって嬉しそうに走って行く天使のような彼女を見た時、そのあまりの可愛らしさに足下にゴミ袋を落として大量のカキ氷のカップを散乱させてしまうくらい、そのくらい強い衝撃を受けた。

彼女の姿に見とれる僕を見て、背後で誰かが笑った。
振り向くと海パン姿のヤス爺が抜けた前歯から舌をニョキニョキと不気味に出しながら突っ立っていた。
ヤス爺は、僕がバイトしている「ツナミ」の親父だ。
因みに、僕のバイトする海の家の名は「ツナミ」ではなく、正式名を「ハツナミ」と言う。しかし、海の家の店前にデカデカと掲げてある古臭いトタン看板の、「ハツナミ」の「ハ」という字のペンキが消え掛かっているため「ツナミ」になっていた。だから皆はこの海の家の事を「ハツナミ」ではなく「ツナミ」と、縁起の悪い名でそう呼んでいたのだった。

「あのコ、可愛いだろ・・・マリンでバイトしてる女子高生だっぺ」
そう言うヤス爺は、両手を胸にあて「ボヨヨン!ボヨヨン!」とエアーオッパイを作ってはケラケラ笑った。
僕はそんな下品なヤス爺を横目で見ながら、こんな奴に使われている僕は・・・とバカバカしく思いながら急いでカキ氷の空きカップを拾った。
「ありゃマリンの看板娘だからよ、おめぇいくら一目惚れしたからってぇ強姦なんかすんじゃネェゾ」
「そんな事しませんよ・・・」
僕はそのヤス爺の言い方に、おもわずアホらしくなってフッと笑ってしまった。
「ま、だけんど、おめぇがどーしてもっつーなら、俺が1回くらいならおごってやってもいいけどな」
ヤス爺はなにやら意味ありげにニヤニヤ笑いながら足下の僕を見つめている。
「・・・どーいう意味ですか?・・・」
僕は足下に転がっているカップを拾いながら、ヤス爺に聞いた。

「おめぇ、絶対に誰にも言うんじゃネェゾ・・・いいか、約束できっか?」
「・・・はぁ・・・」
「そし。なら教えてやろう。あのな、あの娘はよ、マリンの奥の座敷でコレしてんだ・・・」
ヤス爺は握り拳を上下に振ってはニヤニヤ笑った。

「・・・なんですかそれ?・・・」
「なんですかって、コレだよコレ・・・シコシコピュッピュッに決まってるじゃねぇか・・・」
ヤス爺は上下に振っていた拳を僕の股間の前に持って来てはシコシコと手を振った。
「手コキ?・・・ですか?」
「あぁ、それそれ。そのテコーキっつーヤツ、ソレソレ」
ヤス爺は手コキの事を、まるで飛行機のようにそう呼んだ。

「ど、どうして、そんな事してるんですか?」
僕は素直に驚いた。まさか海の家でそんなピンサロまがいの事が行なわれているなんて信じられなかった。
「どうしてって、そりゃあ商売だからさ。当たりめぇだ。マリンさんもよ、今年はあの娘が来てくれたおかげで、さぞかし儲かったはずだぜ・・・」
そういいながらヤス爺は僕の股間をパンパンと叩き「なんだったら前借りさせてやってもいいぜ」とニヤリと笑った。さっきはおごってやると言っておきながら、今度は前借りに変わっていた。

「いえ、それは結構ですけど・・・因みに・・・いくらなんですか?」
僕はなぜかヒソヒソ声で聞いた。
「聞いて驚くなよ山の手坊や・・・なんと、こんだけだ!」
ヤス爺は、そう言ってパァ!と僕の目の前に五本の指を立てた。
「・・・五千円ですか・・・」
「違う違う。五百円だよ」
「!・・・・・・」
信じられなかった。今時、ワンコインなんてラーメンの一杯も食べれないこの御時世に、あんな可愛い子が500円で手コキしてくれるなんて・・・・

「まぁ、そのテコーキってヤツだけが500円らしいけどな。あとはほら、客がコーフンしてアレしてくれコレやらせてくれっていい出すだろ、そしたら結局は最後までヤると2万円くらいにはなるらしいけどな」
「最後ってのは・・・・」
「最後ってのは当たり前じゃねぇかセックスだよセックス」

僕はなぜかもの凄くショックだった。
あんなに可愛い女の子が、あの薄汚れたマリンの奥座敷で売春をしているなんて、信じたくもなかった。
「どうする?なんなら今晩、予約入れといてやろうか?」
ヤス爺は僕の顔を覗き込み、ニヤリと笑った。
どうせこの守銭奴親父の事だ、僕をマリンに連れて行って、マリンから紹介料とか頂こうと考えているに違いない。
「いえ、僕はいいですよ・・・」
僕は、その手に乗るか・・・と、すかさず断ると、そそくさと足下の砂浜に散乱するカキ氷の空きカップをまた拾い始めた。
「ま、もしその気になったらいつでも俺に言ってきな。悪いようにはしねぇから・・・」
ヤス爺はちょっと残念そうにそう言うと、ビーチサンダルをペシャペシャ言わせながら消えて行ったのだった。

僕はヤス爺が完全に消えると、カップを拾いながら、そっと海の少女を見た。
少女の大きな大きな胸が、波に合わせてポタンポタンと揺れていた。
不意に僕が持っていた空きカップの底から、残っていたイチゴシロップがトロッと僕の指に垂れた。
僕は少女を見つめながら、おもわずその指をペロッと舐めた。僕の舌の上でジャリッと砂が踊った。

その日の晩、僕は眠れなかった。
海の家の座敷で泊まり込みしている僕は、暑苦しい四畳半で何度も寝返りをうっていた。

ついさっきまで地元の暴走族が浜辺にやってきて打ち上げ花火で大騒ぎしていた。そんなヤツラのお祭りがやっと終わったばかりだというのに、今度は波の音が気になって眠れなくなった。

しかし、眠れないのは暴走族の騒音や波の音のせいではない事を僕は知っていた。
そう、マリンの少女の事を考えると、心のどこかがイライラとし、そして股間がムズムズときて、尻の谷間にビッシリと汗をかいてしまうのだ。

僕は「くそうっ!」と布団を飛び起きた。携帯の時計を見ると時刻は深夜1時。
僕は砂まみれのビーチサンダルを履くとフラリと浜辺に出た。
浜辺にはチラホラと人影が見えた。深夜の砂浜は若いカップル達のベッド代わりになる。毎朝、海の家の前に散乱するコンドームを僕はイヤと言うほど掃除させられているのだ。

そんな忌々しいカップルを横目に、そのままぼんやりと浜辺を歩いた。いつしか僕の足は「マリン」に向かっている。
蒸し暑い浜辺を歩く僕は、短パンのポケットの中の500円玉を握りしめたままマリンの裏口に繋がる細い路地に入って行ったのだった。

(こんな時間でもやってるのかなぁ・・・)
僕はそう思いながらマリンの裏手に回ると、マリンの奥座敷と呼ばれる別棟の小屋の裸電気がボンヤリと灯っており、ペラペラの磨りガラスの窓が夜の海の潮風でカタカタと揺れていた。
僕はその窓ガラスにソッと耳を傾けた。中に人の気配は感じられない。
僕は小屋の裏に回った。裏手に回ると真っ暗で、何も見えない僕は砂の水たまりに足を突っ込んでしまった。その水たまりは妙に生暖かく、まるで小便の中に足を突っ込んだような感触がして気持ち悪かった。

小屋の真裏に行く。そこには小さな物置小屋があり、そこの扉を開けると、小屋から明かりが漏れていた。
僕は物置小屋の中に侵入し、その明かりが漏れる隙間をソッと覗いてみた。
マリンの奥座敷が丸見えだった。
豆電球がぶら下がる六畳ほどの部屋の真ん中に、まっ白なシーツが掛けられた布団が敷きっぱなしになっていた。
布団の枕元には、「マリン」とマジックで殴り書きされたアルミの灰皿とクリネックス・ティッシュの箱、そしてギャル系の雑誌が数冊、無造作に転がっていた。
(ここで・・・500円の手コキをしているのか・・・)
僕はなぜか勃起していた。豆電球に照らされた、煎餅布団とティッシュの箱とギャル系雑誌しかない殺風景な部屋なのに、なぜか僕はその風景に無性に欲情した。

(帰って投稿写真でセンズリしよ・・・)
僕はそう思い、そのカビ臭い物置小屋を出た。真っ暗闇の中、手探りで進むと再び小便のような水たまりに足を踏み入れた。こんちくしょうと足をグチャグチャにさせながらマリンの路地を進み、再び浜辺に出た。

「ねぇ」
浜辺に出たとたん、いきなり誰かに呼び止められ、驚いた僕はおもわず走り出しそうになった。
「ちょっと!」
そう呼び止める声があまりにも若かったので僕はさりげなく振り向いた。

浜辺に面したカキ氷売場の豆電球が、風に煽られブラブラと揺れていた。そのすぐ下にれいの少女がポツンと座っていた。

「ツナミの人だよね?」
少女は僕の事を知っていた。
「・・・そうですけど・・・」
僕は、小便のような水たまりに落ちた、不快感漂う砂だらけのビーチサンダルをグチュッと音立てながらソッと彼女の顔を見た。
真っ暗な浜辺で、豆電球にボンヤリと照らされるカキ氷売場の少女は不気味なほどに美しかった。

「カキ氷の機械の使い方・・・知ってる?」
少女は人形のように愛くるしいその顔を、クイッと斜めに傾けた。
「はぁ・・・一応・・・・」
「よかったぁ!じゃあカキ氷作って!」

僕はマリンのカキ氷売場に近寄ると、ソッとその機械を覗いた。
ウチの機械と同じ型のカキ氷機だった。

「ここ。ここに赤いボタンがあるから、この中に氷を入れてボタンを押すだけですよ・・・」
僕が素っ気なくそう告げると、少女は「じゃあ私はブルーハワイ!」と嬉しそうに叫んだ。
「えっ?僕が作るの?」
「うん。だってシオリ作れないもん」
少女は自分の事をシオリと呼んだ。

「でも・・・僕が勝手にそんな事していいのかな・・・」
僕はカキ氷売場の前で、妙に痒くなって来た半乾きの右足を、左足の脛でズリズリと掻きながら戸惑った。
「いいから、いいから。さ、こっち来て、作って」
少女は売場の中から僕に「おいで、おいで」と手を振った。そんな少女の大きな目は同人誌のアニメキャラクターのように可愛かった。

教えられた裏口からシーンと静まり返ったマリンの店内に恐る恐る入る。閉店後のマリンも、やっぱりウチの店と同様にやたらとカビ臭かった。
ボンヤリとあかりが灯るカキ氷売場に行くと、少女は僕が教えた通りにカキ氷機の中にガシャガシャと氷を入れていた。

「・・・あとはソコにカップを置いて、ボタンを押すだけですよ・・・」
そんな少女を後から見ていた僕は、少女の背中にソッとそう呟いた。
「えっ?どこにカップを置くの?」
少女はカップを手にしたまま目を丸くした。この少女は海の家でバイトしているくせにカキ氷の作り方も知らない・・・。

少女がブルーハワイ。僕はイチゴ。
僕達は、深夜の海の家の片隅で向かい合って座りながら、テーブルの上の赤と青の「つゆだくカキ氷」を見つめていた。

「いきなりこれが食べたくなっちゃったのよね・・・」
少女はそう呟きながら自分で作ったカキ氷を覗き込むと、嬉しそうに「うふふっ」と僕に微笑みかけながら「ありがとっ」とピンク色した舌をペロッと出した。
そんな少女のはちきれんばかりの巨乳は、もう少しでポロリと落ちそうだった。

僕は慌てて少女の胸の谷間から目を反らす。
「私ね、いつもこの時間になると目が覚めちゃうの・・・」
少女はカキ氷をサクサク音立てながら呟いた。

信じられなかった。こんな綺麗な少女が、あのカビ臭い奥座敷で寝泊まりしているなんて・・・・
そう思いながら、僕は「あ、僕も同じ」とさりげなく答えた。
まさか、キミの事を考えていたら悶々としてしまって眠れなかった・・・とは、ヤス爺でもあるまいしそんな恥ずかしい事は言えない。

「えっ、じゃああんたも海の家に住み込み?」
少女は真っ青な氷を口に運びながら僕を見た。
「うん。ツナミの裏で住み込みしてるんだ」
僕は真っ赤な氷を口に運びながらそう答えた。

「どこから来たの?」
少女は真っ青に染まった舌をチラつかせながら聞く。
「東京。キミは?」
僕も真っ赤に染まった舌をチラつかせながら聞いた。
「私は千葉。高校二年生。シオリっていうの。よろしくねっ」
「僕は洋介。高校三年生・・・」
しかし僕は、少女のように「よろしくねっ」とは照れてしまって言えなかった。
だから代りにニヤニヤしながらペコリと頭を下げたのだった。


その日、ツナミに帰ったのは朝方だった。
海水浴場の夜明けは異常に早く、3時半にもなると既に海岸はボンヤリと青ざめている。
そんな真っ青な海辺を1人ウキウキ気分で歩きながら帰った僕は、ムッと熱気漂うツナミの四畳半に入るなりオナニーをした。
ネタは当然、れいの少女、シオリだ。
僕は、汗でネトネトと湿った煎餅布団の上に全裸になりながら、シオリの大きな胸、シオリの真っ青に染まった舌、そしてシオリが売春しているというあの殺風景な部屋を頭に思い描きながら、シオリと全裸でイチャイチャするシーンを想像してはペニスをシゴいたのだった。

5時に寝て7時に叩き起こされた僕は、ヤス爺の不気味な演歌の鼻唄を聴きながら座敷の畳を雑巾でゴシゴシ擦った。
さすがに営業はキツかった。
こんな日に限って、いつもより異常に暑い。だから海水浴客も異様に多い。ツナミはまさしく津波のように押し寄せて来た客でごった返し、寝不足の僕は何度も何度もカキ氷をテーブルにひっくり返してはヤス爺に怒鳴られた。

いつもならそれでジメジメしていた僕だが、しかし今日は違う。
そう、営業中、ずっとシオリの顔が浮かんで離れないからだ。
(今頃、シオリもきっと眠いだろうなぁ・・・)
そう思うと、やたらめったら元気が湧いて来くるのだった。

いつものように6時に店を閉めると、僕はそのまま風呂にも入らず、布団の上にぶっ倒れた。
瞬間に鼾をかきはじめる自分を客観的に感じる事ができた。それほど今日の仕事はキツかった。

ピッピピ!ピッピピ!ピッピピ!
携帯電話のアラームで僕は飛び起きた。
時刻は深夜1時。
昨夜のあの時間と、同じ時刻だ。
僕は慌てて簡易シャワーへ飛び込むと、汗だくの身体に冷たいシャワーをぶっかけた。
念入りに股間を洗い、二度も歯を磨いた。

僕はまだ体に水滴が付いたまま深夜の浜辺に飛び出した。
目指すはもちろんマリンだ。

マリンの前まで走ると、当然のようにマリンは雨戸をガッシリと閉じシーンと静まり返っていた。
昨日のシオリは「最近、いつも夜中の1時頃に目が覚めてしまって困るの」と呟いていた。
ならば今夜も昨夜のようにカキ氷売場に行けばシオリは必ずいると思っていたのだが、そんな考えはやっぱり甘かった。

僕は裏の奥座敷へ尋ねてみようかどうしようか悩んだ。
それにしてもまだ一度しか会った事ないというのに、それはあまりにも図々しい。
ならば、客になればいいんだ。手コキの客。
僕はそう思いながらポケットの中の500円玉を握りしめるが、しかし、そんな度胸がこの僕にあるはずがなかった。

諦めた僕がしょんぼりとその場を立ち去ろうとすると、ふと、マリンの正面の雨戸がガタッと音を立てて開いた。
足を止めて僕が振り向くと、雨戸からヌッとシオリが出て来た。
手にカキ氷を持ったシオリは、そこに立ちすくんでいた僕を見つけると、「あっ、またいた」と、フッと笑ったのだった。

シオリは海の家の前に転がっていた椅子にチョコンと腰を下ろすと、僕を見ながら「食べる?ブルーハワイ?」と言い、ストーロの先に付いているスプーンで青いカキ氷を掬いながら僕に向けた。
シオリの食べかけのカキ氷・・・シオリが口の中に入れたストロー・・・・
僕はドキドキしながらシオリに近付き、必死な思いで「うん・・・」と返事をすると、シオリは僕に向けていたそのスプーンの氷をペロンと口に入れ「じゃあ自分で作って来なよ」と、また人形のような綺麗な顔でクスッと笑った。

その日から、僕とシオリは、毎晩1時になるとマリンの前で出会った。
それは別に2人が約束したわけでもなんでもなかった。1時に僕がマリンに行くと、いつもシオリがかき氷を食べている。ただそれだけのことだった。

僕はシオリと2人して、こっそりマリンの厨房を漁ったりした。
冷蔵庫から「イカ」や「はまぐり」を取り出し、煙だらけになりながら2人で焼いて食べた。
ビールも飲んだ。酒の飲めない僕は、マリンの厨房でゲロを吐き、ケラケラと笑うシオリに「だらしないねぇ」と背中を擦ってもらった。
あと、こんな事もあった。
夜中の海を2人で泳いだのだ。
あれはとってもロマンチックだった。
真っ暗闇の黒々と唸る波の中を、2人は「ジョーズが来る!」と叫びながら逃げ回ったりして楽しんだ。
結局、泳いでいた僕の足が吊ってしまい、あやうく深夜の海の中で溺れかけるという事件が起きてからは、2人は夜の海に入る事はしなくなったが、でも、あの深夜の海水浴は、とってもロマンチックな思い出として今でも僕の胸で輝いている。

しかし、そんな2人は、残念な事に恋人同士と呼べるような雰囲気ではなかった。
当然、気の弱い僕は、シオリの手を握る事すらできないから、キスなどできるわけがない。そんな行為をできない小心者の僕はシオリと会話する事が精一杯。ただ、僕が出来る事と言えば、潮風に乗って漂って来るシオリの髪のシャンプーの匂いをこっそりと嗅ぐ事だけ。それが僕にできる唯一の行為だった。

僕がツナミに帰るのは、いつも朝方だった。
朝の海は綺麗だった。青い空と真っ赤な朝焼けが重なり合い、独特なグラデーションを醸し出している。
僕はそんな紫色した朝の海を眺めながら、いつも幸せな気分でツナミに帰った。
今でも、朝焼けの海を見ると、あの時のシオリの笑顔が浮かんでくる。
本当に綺麗な空と海だった。

そんな僕は、ある晩、「もう・・・やんなっちゃう・・」と、赤く擦り剥いた膝を悲しそうに擦っているシオリの声を聞いた。
「どうしたの?そのキズ・・・」
いつものようにマリンの厨房から失敬したカキ氷を食べながら僕がマリンから出てくると、シオリはいつになく不機嫌で「あんたに関係ない事よ・・・」とツンとソッポを向いた。

いつもなら僕の事を「洋介君」と呼んでいるのに、その時は乱暴に僕の事を「あんた」と呼んだ。
僕はシオリのその口調にカチン!と来た。
その時の僕は、連日の寝不足でイライラしていたのかも知れない。
僕はついついイヤミっぽく、「客と変な事してんじゃないの・・・」と言ってしまった。

これまで僕達は、約一週間、こうして深夜にデートして来たが、しかし一度も例の「500円手コキ」については話した事が無かった。
どうもシオリは僕にその裏のバイトを知られるのが嫌らしく、バイトの話しやバイト料の話しになると、シオリは妙に焦っては話しをはぐらかせていた。
そんなシオリの雰囲気から、この話しはタブーなんだと自分に言い聞かせていた僕だったが、しかしその晩は、なぜか僕は執拗にムキになってしまった。

「それ、どーいう事よ・・・」
シオリは膝っ小僧の傷に、指で唾をピョコピョコと付けながらジロッと僕の顔を睨んだ。
「どーいう事って・・・そんなの自分が一番よく知ってるだろ・・・」
僕はシオリの目をジッと見据えながらそう言った。
一瞬、そんなシオリの目に、ジワっと涙が溢れたような気がした。

シオリが立ち上がった。
いきなり、ゴミ箱の中に食べかけのカキ氷を投げつけるかのように放り投げた。青いブルーハワイのシロップがゴミ箱に被せてあるビニール袋に飛び散った。
そしてシオリは、一度も僕に振り向く事無くマリンの中へと入って行き、ガタン!と激しい音を立てて雨戸を閉めたのだった。

上等だ500円女!
僕はそう叫んでやりたい気分だった。
ムカムカしながら、シオリと同じように食べかけのカキ氷をゴミ箱の中に投げつけた。今度は、真っ赤なイチゴのシロップが飛び散り、ゴミ箱の中を真っ赤に染めたのだった。

次の日の営業は、いつになく最悪だった。
連日の寝不足に混じり、昨夜のシオリとの事がまだ後を引いていた。
(あんな糞女、もうどうにでもなればいいんだ)
僕はそんな事を思いながらも、しかし本当は今からでもマリンに飛び込み、シオリに「ごめん!」と謝りたいそんな複雑な気分だった。

営業が終るや否や、僕はいつものように煎餅布団にぶっ倒れた。
爆睡して爆睡して爆睡すると、いつもの1時にアラームが鳴った。
僕は鳴り響くアラームを付けたまま、煎餅布団の上でシオリの顔を思い出していた。

会いたい・・・・でも、僕はシオリを傷つけてしまった・・・・

涙の浮かんだシオリの目が僕の脳裏を埋め尽くした。

ごめん・・・・ごめんねシオリ・・・・

僕は汗とヨダレに汚れた枕に顔を埋め、10年ぶりくらいに激しく泣いた。

枕の中で、腹一杯に泣くと、なんとなく気分がスッキリとした。
今なら、素直にシオリに謝れそうだ。
僕は布団から立ち上がると、裸足のまま簡易シャーワーに飛び込んだ。
冷たい水を頭からぶっかぶり、口の中でモゾモゾとシオリへの謝罪を復唱した。

シャワーを出ると、商品棚から新品の8×4を失敬し、異常なほどに身体中に8×4を吹き掛けた。
そして僕は異様なニオイを漂わせながら、いつもの深夜の浜辺をマリンに向かって走ったのだった。

しかし、いつもの場所にシオリの姿は見えなかった。
僕は、当然の仕打ちだろうと思いながらも、異常な8×4の香りに包まれながらも、その場で静かに項垂れた。
夜の海の不気味な波の音を聞きながら、僕は、いつかのあの時のように、雨戸からシオリがチョコンと出て来てくれる事を必死で祈りながらひたすら項垂れていた。

時計を見ると、もう2時を過ぎていた。
シオリはちゃんと眠れたのだろうか?・・・
あの、蒸し暑い部屋の片隅で、1人シクシクと泣いているシオリの姿がふと浮かんだ。

僕は居たたまれない気持ちになり、慌てて立ち上がった。
奥の座敷に行ってみよう。
しかし、そう思うものの、小心者の僕にはその一歩が踏み出せなかった。

なんとか、マリンの横の、奥座敷へ通じる路地までモジモジと歩いて来た。
遠くの駐車場では、地元の暴走族らしき人達が大勢しゃがみこみ、なにやら集会を開いていた。
「テメーらビビってんじゃねぇぞ!」
リーダーらしき男が裏声混じりにそう叫ぶと、しゃがんでいた大勢のお兄さん達が一斉に「オス!」と低く叫び、一瞬地響きがした。
その地響きに、なぜか猛烈に勇気を与えられた。そんな僕は、彼らに少し遅れて「オス!」と小声で叫ぶと、「ビビってんじゃネェゾ・・・」と自分にハッパをかけながら、奥座敷へ向かう通路を進んだのだった。


奥座敷と呼ばれる小屋は、豆電球の灯りがボンヤリと灯っていた。
僕はソッと磨りガラスの窓に耳を傾けてみた。
「ダメよ・・・」
いきなりシオリの声が聞こえた。妙に艶かしい声だ。
続いて男の「いいじゃんか」と言う声が聞こえて来た。
とたんに僕はムカッと嫉妬すると同時に、とたんに怖じ気付いた。

突然、暴走族のおびただしい轟音が深夜の海岸に響き渡った。
50台、いや100台はいるだろうか、一斉にエンジンを掛けた単車のその音は、まるでジャンボジェット機が離陸する時のような凄まじい音だった。
僕はその音に紛れながら、先日、この部屋を覗いた裏の物置小屋へと向かった。そして、途中、やっぱりヌルヌルと生暖かい水たまりに足を踏み入れてしまった。

暴走族の騒音で小屋の擦りガラスがガタガタと震えていた。こうなれば堂々と物置小屋の扉を開けても平気だ。僕はズケズケと物置小屋に忍び込んだ。

灯りが洩れる板壁の隙間をソッと覗き込むと、黒いTシャツを着た男が目に飛び込んで来た。
中途半端な長髪で、いかにもオタクっぽい男だった。
そんな男の隣に真っ白な肌の物体がジッと踞っていた。
それはまさしく下着姿のシオリだった。
僕の胸は嫉妬と怒りで爆発しそうなくらい激しく脈を打った。

暴走族の騒音が遠い彼方へ走り去って行くと、部屋の中の声が聞こえて来た。
「じゃあ2千円でどうだよ、2千円なら文句ないだろ」
男はなぜか不機嫌にそう言うと、シオリは踞ったまま「じゃあ前金ね」と、大きな目でジロッと男の顔を見た。
男は大きな溜息を付きながら財布を取り出すと、中から千円札を2枚引き抜き、「チッ」という舌打ちと共にソレを畳の上に投げ捨てた。

古畳の上にヒラヒラと落ちる千円札を、シオリは素早く広い取ると、ふいに押入れの襖を開け、中から白い棒のような物を取り出した。
「はい」
シオリはそう微笑みながら男にその白い棒のような物を渡す。
豆電球に照らされたその白い棒のような物は、なんと「バイブレーター」だった。

男はソレを手にすると、いきなり乱暴にシオリの身体を付き飛ばした。
「もう!」とシオリが抗議のような声を出す中、男はハァハァと鼻息を荒くしながら、前屈みになるシオリの背後からパンツをガバッと剥ぐった。

僕は、まるで自分の恋人がそうされているかのような怒りが沸々と湧いて来た。
と、同時に、初めて他人の性行為を目の前にした僕は、激しい興味と性的興奮を覚えた。

男は、シオリの丸い尻をこじ開けるようにしながら、シオリの剥き出しにされたお尻を覗き込んだ。
僕の位置からはシオリの股間は見えないが、しかし、今、シオリのそこがどんな状態になっているのかは、その部屋中に響き渡るピチャピチャといういやらしい音を聞けば何となく想像できた。

「おら・・・もっと足広げろよ・・・入らないじゃねぇか・・・」
男はシオリの肉付きの良い尻をピシャリと叩いた。
シオリの白い太ももがゆっくりと動くのが見えた。そしていきなり「あぁぁん!」というシオリの叫び声が部屋の中に響き渡った。

僕は、男の背中越しにチラチラと見える、シオリのアソコをジッと見つめた。
白いバイブは、シオリの陰毛を掻き分けながらズブズブと埋め込まれ、そして乱暴に出たり入ったりと繰り返していた。

「仕事のくせに、こんなに感じてるじゃねぇかよ・・・ほら、おまえのオマンコ、小便ちびったみてぇに濡れてるぜ・・・」
男はそんな卑猥な言葉を囁きながら、まるで憎しみを込めるかのようにシオリのアソコにバイブを激しくピストンさせた。
僕は、そのシーンが、まるでシオリが男に包丁でズブズブと刺されているように思え、恐ろしくも悲しくなった。

「どうだ・・・チンポ欲しくなっただろ?・・・え?・・・どっちだ?・・・」
男がシオリにそう呟くと、シオリはただ「あぁぁん」と声をあげるだけだった。
「だから1万出すからよ、ヤらせろよ・・・おまえもヤリたくなってきたんだろ?」
男はそう言いながらシオリの尻をピシャン!と叩き、俯くシオリに「何とか言えよ」と問い質した。

「ダメ。私、本番はヤらないもん」
シオリの声が聞こえた。
僕はシオリのその言葉に、今までの暗く恐ろしい気分が突然フッと晴れた。

「いいじゃねぇか、こんなに濡れてるんだしよ・・・な、いいだろ、2万出すからよ」
男はそう言いながら、ズボンを脱ぎ始めた。

僕はそんな男を見つめながら、いざとなったらその部屋に飛び込む決心でいた。
しかし・・・僕のペニスも、もう爆発しそうなくらいに限界だ。
とりあえず、ここで1発抜いておこうとそう思った不謹慎な僕は、その男と同じようにズボンを脱ぎ始めたのだった。

「ダメ。絶対ダメ。だから手で我慢してよ・・・」
シオリはそう言いながら、畳をスリスリと音立ててはその場に素早く座ると、手際よくブラジャーを取り外した。
シオリの剥き出しにされた尻に、そのまま挿入しようと企んでいた男は、また「ちっ!」と大きな舌打ちをしながら、座り込むシオリの顔に股間を近付けた。
「せめて・・・尺八くらいしろよな・・・」
男は不機嫌そうにそう呟きながら、シオリの目の前で勃起した小さなチンポを飛び出させた。
「イヤ。フェラは嫌いだもん」
シオリはそうソッポを向きながら、男のチンポをソッと握ったのだった。

シオリの手コキは、妙に手慣れたものだった。
ペニスの竿をギュッと握ったかと思えば、そのまま手首を回し、亀頭だけをキュッと摘む。
そして先っぽを重点的にシコシコとシゴくと、もう片方の手でブヨブヨの金玉を優しく握りしめていた。

男は、そんなシオリのテクニックにハァハァと荒い息を吐き始めた。
そしてシオリの大きなオッパイを乱暴に鷲掴みし、それを激しくユサユサと揺らした。
「おまえ、千葉の有名なヤリマンらしいじゃねぇか・・・俺ぁおまえの名前も学校も知ってんだぜ・・・」
男はシオリの乳首を潰すかのように乱暴に摘みながら、そう呟いた。
シオリはそんな乳首の激痛に顔を顰めながらも「・・・それがどーしたのよ・・・」と、素っ気なく言った。
「おまえが昼間、そこの海の家でバイトしてる姿も携帯でバッチリ撮ってんだぜ・・・写真と名前と学校名をネットにバラ捲れたくなかったら・・・一発ヤらせろよ・・・」
男はそう言いながらシオリの肩に手を回した。
「ヤダっ!」
シオリはそうハッキリ叫びながら男の手を振り解くと「勝手にバラ捲けばいいじゃない」と、大きな溜息を付いた。

男はギュッと歯を噛み締めると、小さな声で「ちっくしょう・・・」と呟いた。
そしていきなり座っていたシオリの股を大きく開かせると、そこに指を押し込み、グチャグチャに掻き回し始めた。
「変態娘・・・おらおら・・・こんなに濡らしてるじゃねぇか・・・俺のチンポ触って感じたか・・・」
男は、まるで狂ったようにシオリのアソコを弄んだ。

僕からは、そんな大股開きのシオリの股間がハッキリと見て取れた。
これほどまでに可愛いシオリなのに、しかしアソコは赤黒く爛れ、まるで口を開いたアンコウのようにグロテスクだった。

そんなシオリのアソコが、男の指によって開かれたり擦られたりとグチャグチャにされている。
シオリのグロテスクなアソコからは大量の液が溢れ、男の太い腕にしがみつくシオリは、次第にいやらしい声を出し始めた。
そんなシオリを見て、僕はもうどうしょうもなく興奮し、暗闇の物置の中、激しくペニスをシゴいていたのだった。

シオリの手の中で果てた男は、その精液を散々シオリのオッパイにぶっかけると、ぶつぶつと悪態を付きながらそそくさとズボンを履いた。
物置の壁に精液をぶっ飛ばした僕も、男に合わせて静かにズボンを履く。

「テメーの写真は2ちゃんで晒してやるからよ、覚悟してろよ」
男はそう捨て台詞を吐くと、ポケットから取り出した500円玉を、精液を拭き取っているシオリに投げつけ、「バーカ」と言いながら小屋を出て行った。

男が小屋から出たのを確認した僕は、素早く物置から飛び出した。
去って行く男の後を追い、マリンの路地を忍び足ですり抜けた。
ふいに、小屋の中から聞こえて来たシオリのススリ泣く声が僕の耳を掠めて行った。

路地を抜けると、男は駐車場に向かって歩いていた。
僕はおもいきりダッシュした。
シオリのススリ泣く声が再び僕の頭を過る。
僕は男の真後ろまでもの凄い勢いで近付くと、男の後頭部めがけておもいきり拳をふりかざした。

しかし、僕の拳に手応えは無かった。
瞬間、僕の気配に気付いた男が除けたからだ。
空振りをした僕はそのまま駐車場のコンクリートの上に豪快にスライディングした。
そんな僕を見て、男は「うわわわ!」と叫んだ。

僕は両手両足をこれでもかというくらいに擦り剥いた。皮がベロベロに捲れ、両手両足の傷口からジワっと大量の血が滲む。
僕は地面に倒れながら、「おまえの携帯、よこせ!」と男に叫んだ。
男は一瞬、そんな僕の気迫にビビったようだが、しかし、血だらけの僕が手も足も出ない状態だと見抜くと、「ハァ?」と薄ら笑いを浮かべた。

「ハァじゃねぇよ・・・おまえの持ってるその携帯・・・こっちによこせよ・・・」
僕は血まみれの手を男に向けた。

ガッ!という凄い衝撃が僕の手に走った。
男が僕の手を蹴飛ばしたのだ。
「おまえ・・・あのヤリマン女の彼氏か?・・・」
男はそう呟くと、オタク独特の不気味な細い目を光らせながら、床に転がる僕の頭をおもいきり踏みつけた。
そして足で僕の頭を踏みつけたまま、ダラーッと痰まじりの唾を僕の顔に垂らした。
なめくじのような男の唾が僕の頬にダラリと垂れた。
「あのクサマン女、サービス悪すぎ。わかる?オマエの彼女、サービス悪いよ」
男は何度もそう言いながら、ガツガツと僕の頭を踏みつけた。
「あー2500円損した。もう二度と来ねーから、アホらし」
男はそう捨て台詞を残すと、クシャクシャに倒れ込む僕をニヤニヤと見下ろしながら、「バイバーイ」と芋虫のようなメタボな五本の指をヒラヒラと振った。

(ちっくしょう!・・・)
僕はそう思いながらオタク男の去って行く足を睨むが、しかし、ダラダラと血が溢れ出した僕の体はどうにも言う事を聞いてくれない。

そんな悔しい思いで遠離って行くオタク男の後ろ姿を見つめていると、いきなり僕の背後でゴロゴロゴロ・・・っというカミナリのような音が聞こえた。
振り向くと、先程の暴走族だろうか、1台の単車が駐車場を突き抜け、僕に向かって走って来た。

単車は、倒れる僕の前で凄い爆音を残し、ピタッと止まった。
「・・・この辺に・・・タバコ落ちてなかった?・・・」
単車に跨がる金髪頭のお兄さんが僕を見下ろしそう言った。
「・・・いえ・・・ちょっとわかりません・・・」
僕がそう答えると、単車の後に乗っていたもう1人の坊主頭のお兄さんが、「あっ!あそこにあった!」と駐車場の隅を指差し、いきなり単車から飛び降りた。
スタスタとタバコに向かって走る坊主頭の暴走族。

「キミ・・・なにやってんのこんな所で・・・」
金髪の兄さんが単車に跨がったまま僕にそう聞いた。
「・・・いえ・・・ちょっと・・・・」
そう誤魔化すと、いつの間にか僕の隣にしゃがんでいた坊主頭の暴走族が、僕の擦り剥いた傷口を覗き込み、「すげぇ!はだしのゲンみてぇだ!」と叫んだ。

「・・・あいつとケンカしたの?」
単車に跨がる金髪が、遠くからこちらの様子をオロオロになりながら見ているオタク男をジッと見つめながら、僕にそう呟いた。

僕はふと閃いた。
そして、ゆっくりと起き上がった僕は金髪のお兄さんを見上げてこう言った。
「あいつ。盗撮魔なんです。この辺でHしてるカップルの写真撮ったりしてネットにバラ捲いたりしてるヤツなんです・・・」
僕がそう言うと、2人はオタク男をジッと見つめながら、同時に「ふ~ん・・・」と返事をした。
「それに・・・さっきあなた達がここでやってた集会風景とかもあの携帯で撮影してました。あいつ、その写真を警察のホームページに投稿するって言ってました」

とたんに、オタク男を見つめる2人の目付きが変わった。
眉と眉の間にはクッキリとした縦皺が浮かび上がり、金髪男はいきなりゴロロン!と単車のエンジンを掛けた。
何か嫌な予感を感じたのか、いきなりオタク男が逃げ出した。
坊主頭のお兄さんは、「早く医者、言った方がいいと思うし」と僕に囁くと、すかさず単車に飛び乗り、どこに忍ばせていたのか、いきなり黒光りした木刀を取り出した。

ブォーン!と単車が、オタク男目掛けて走り出した。
坊主男が振り上げる木刀が月の明かりに照らされ、まるでそのシーンはラストサムライのワンシーンのように僕の目に映った。

逃げまとうオタク男はすぐさま追いつかれ、坊主頭がブン!と木刀を振り下ろすや、ものの一撃で頭を叩き割られた。
頭から血を噴き出しながらガクッと膝を付く男の前に、坊主男が単車からひらりと飛び降りた。
そして男がゆっくりとひっくり返るその間に、男のポケットから携帯を素早く抜き取った。
「バキっ!」
オタク男の携帯が真っ二つに叩き折られる小気味良い音が、僕の所まで届いて来た。
粉々にされた携帯は夜の浜辺に投げ捨てられた。
僕は、疾風のように立ち去って行く単車の音を聞きながら、おもいきり大声で笑ってやったのだった。

そのまま両手両足を引きずりながら、ズルズルと海の家に向かった僕は、マリンの角を曲がった所でいきなりシオリと目が合った。
椅子の上に座っていたシオリは、足をブラブラさせながらいつものようにカキ氷のブルーハワイを食べていた。

「ゾンビみたい」
シオリは血だらけの僕を見て一言そう言うと、足音もなく立ち去る子猫のようにマリンの中へ消えて行った。

ゾンビと言われたり、はだしのゲンといわれたり・・・散々だな・・・
そう思いながら僕はシオリが消えて行ったマリンの扉を淋しそうに見つめ、またズルズルと足を引きずりながらツナミに向かって歩き出した。

「早くおいでよ・・・」
マリンの路地からシオリの声が聞こえた。ふと路地を見ると、救急箱を持ったシオリが立っていた。
「おいでって・・・どこに?」
僕はシオリに声を掛けてもらえた嬉しさと、シオリが救急箱を手にしてくれていた優しさに、おもわず涙が噴き出しそうになった。
「私の部屋に決まってるじゃん」
「・・・いいの?」
「早くしないと本物のゾンビになっちゃうよ」
シオリはクルッと背を向けて、そのままスタスタと奥の座敷へ歩き出した。
その日の朝方、僕はマリンの奥座敷で、やっとシオリと結ばれたのだった。

「あんだよそりゃあ、傷痍軍人のポスプレか?」
翌朝、包帯だらけの僕を見て、ヤス爺が大笑いした。
それを言うならポスプレじゃなくコスプレだよと教えてやろうかと思ったが、しかしこの先そう長くないヤス爺にとってはポスプレだろうがコスプレだろうがどっちでもいい事だろうと思い、教えてやらなかった。

「そんな身体で働けるのかい?今日は暑くなりそうだからきっと忙しいよ」
女将さんが、チン!するだけでできあがるオムライスやお好み焼きの冷凍食品を大型冷凍庫へ忙しそうに押し込みながら僕に聞いた。
「全然平気です!」
僕は大声で女将にそう叫ぶと、ヤス爺が「あいつはポスプレだから大丈夫よ」と女将に耳打ちしていた。

案の定、巨大津波の如く、ツナミに客は押し寄せた。
まさしく息をする間もないというのはこの事だろう、僕は死に物狂いで大量のイカを焼いた。
せっかくシオリが巻いてくれた包帯が汗でビショビショになった。イカ焼きの醤油が飛び散り、所々が煙で煤けていた。
でも僕はその包帯を取らなかった。
今夜、シオリに会うまでは、どうしてもその包帯を取りたくなかったのだ。

いつものように営業が終わると、僕は砂漠の遭難者が脱水状態で力尽きるかのように、そのままバタン!と煎餅布団に倒れ込んだ。
両腕に巻いた包帯から漂う、イカ焼きの醤油臭さに包まれながら、僕は泥沼のように眠った。

いつものように深夜1時にマリンへと向かった。
今夜の僕は今までの僕とは違う。シオリに会うのが妙に照れ臭かった。
マリンの前に行くと、シオリの姿はまだなかった。僕はとりあえず椅子に座り、シオリがいつもそうしているように椅子の上で足をブラブラさせてみた。結構楽しい。

そうこうしているといつの間にか時刻は1時30分になっていた。
シオリは異常に遅い。
僕は、まさか・・・と嫌な予感がした。
しかし、今日の朝、あの紫色の朝の海辺でシオリは僕にハッキリと約束してくれた。
もう二度とお客は取らないと・・・。
僕はあの時のシオリの言葉を信じた。
信じたまま、時が過ぎた・・・・。

シオリが巻いてくれた下手糞な包帯をジッと見つめていると、知らないうちに時刻は3時を過ぎていた。
あいつ、もしかしたら寝ちゃったのかな・・・・
いや、もしかしたら、もう客を取らないとマリンの旦那さんに言った事で旦那さん達から説得されてるのかも知れない・・・・
僕はそんな事を考えながら、頭の隅にチラホラと浮かぶ嫌な予感を無理矢理揉み消した。

何度も奥座敷へ様子を見に行こうかと思ったが、しかしそれでは、まるで僕がシオリを信用していないみたいで嫌だったから、今まで行かなかったが、しかし、3時半を過ぎるとさすがにそう言うわけにも行かなくなった。

僕は、きっとシオリは寝てしまっているのだろう・・・・と何度も口の中で唱えなが、奥座敷へ続くマリンの路地にソッと踏込んだ。
路地の砂は豪華な絨毯のようにフカフカしていた。今までそんな事を思った事はないのに、どうして急にそんな事を思うのか不思議に思った。
きっと今の僕は、嫌な予感から気を紛らわす為に関係のない事を考えようとしているのだと、自分でもそう気付いた。
わざと鼻歌も歌った。しかし唄いながら、もしシオリが部屋にいなかったらどうしようという恐怖が過る。
角を曲がると、奥座敷の磨りガラスから豆電球の灯りがボンヤリと漏れているのが見えた。
そこにシオリがいる、という安心感がとたんに芽生えた。
しかし、同時に、客がいるのではないかという新たな恐怖が芽生え始めて来た。

(そんなわけないよ・・・今朝、約束したばかりじゃないか・・・絶対違う。絶対にそう言い切れる。僕はシオリを信じている・・・)

僕はそう思いながらも、何故か奥座敷の玄関とは反対方向の裏へと足は向かっていた。

シオリの事は信じているが、しかしやっぱり玄関のドアは開けられない。
もし、もしそこに客がいたら、僕はどうすればいいんだ・・・・
そう思いながら暗闇を歩いていると、またしても小便のような水たまりに足を踏込んだ。

物置小屋のドアを開けようとした僕は、ふいに部屋の中から嫌な声が聞こえて来るのに気付いた。
心臓がジワーッと熱くなる。
(嘘だろ・・・・嘘だろシオリ・・・・)
僕はそのまま物置小屋にガクンと膝を落とす。
部屋の中から、激しい叫び声と、ユサユサユサユサという独特な音が響いてきた。
僕の胃がキューッと縮まり、なぜか猛烈にウンコがしたくなった。

「あぁぁん!イキそう!もっと!もっと激しくやって!」
薄暗い物置の中で、僕はその非情な声を聞きながら拳を力強く握った。
ポタ・・・ポタ・・・っとまるで雨漏りするかのように、僕の涙が下手糞に巻いた包帯の上に落ちる。
「中でイッてもええな・・・中で出すぞ・・・」
かなりおっさんらしき男の関西弁が聞こえて来た。
「ダメ・・・外で・・・」
「なんでや・・・3万も払うとるんや、中でもええやろう・・・」
「ダメ・・・あぁぁん!」

僕はカーッと頭に血が上った。
そのまま見ないでおこうと思っていたのに、僕は歯を食いしばりながら壁穴を覗いてしまった。

今朝、シオリと2人で抱き合っていた白い布団に、四つん這いにされたシオリと太った親父がケモノのように交わっていた。

見なければよかった・・・・・

あまりの衝撃を受けた僕は、時間を巻き戻しできればと強くそう思った。

全身から力が抜けた。
もうどうなってもいい、僕はそのまま夢遊病者のように立ち上がりフラフラと物置小屋を出た。
当然、暗闇の中、またしても小便のような水たまりに足を踏込んだ。しかし、この小便のような水たまりに足を踏み入れるのもこれが最後だ、もう二度とここには来ないつもりだ・・・・。

マリンの路地に出ると、いきなりワっと涙が溢れ出た。
ついさっきフカフカな絨毯のようだと思った砂の地面も、まるで底なし沼にハマったかのように先を進む僕の足に絡み付いて来た。

絶望。
いままで普通に使っていた言葉だったが、まさかその言葉が本当に自分に降り掛かって来るとは思ってもいなかった。
辛い。死にたい。もう何もかも嫌になった・・・・

路地を出ると、僕はマリンの前からわざと目を背け、ツナミに向かった。
あの、シオリといつもカキ氷を食べていた思い出の場所を、今はまともに見れない。見たくない。見るだけでも辛いんだ!

そう心で叫んだ瞬間、「遅い!何やってたのよ!」という声が背後から聞こえた。
それは紛れもなくシオリの声だ。
僕は、一瞬、自分の頭がおかしくなったのでは思いながら、恐る恐る後ろを振り返った。

そこには正真正銘、シオリが椅子の上でブラブラと足を振りながらカキ氷を食べていた。

「えっ?・・・・えっ?・・・」
僕は立ち止まったままそう呟き、そして醤油臭い包帯で慌てて頬の涙を拭った。

「えっ?じゃないわよ・・・洋介君、私のメール呼んでないでしょ」
シオリはそう言いながら椅子からピョンと飛び降りた。
僕はまだしつこく「えっ?えっ?」と言いながら、慌てて携帯を取り出し、メールボックスを開く。
12時ジャストにシオリからのメールが届いていた。

「ちょっと地元に帰って来るから3時半にここで待ち合わせしよって入れてたのよ・・・」
シオリはプンプンとそう言いながら僕に近寄り、ボロボロになった包帯を見つめては「あららら、こんなに汚れちゃった・・・」と僕の腕の包帯を指で弄った。

「じゃあ!あれは誰!」
僕は奥座敷を指差して叫んだ。
「あぁ、アレ、あれは『さざ波』でバイトしてる静香ちゃん。私がもう客を取らないって言ったらね、静香ちゃんが、じゃあ場所貸してって言ったの。だから貸してるの・・・っていうか、もしかして洋介君、覗いた?」
僕は素直にウンと頷いた。
「じゃあまた昨日みたいにセンズリしたんでしょう!」
シオリはプッと頬を膨らませた。
「いや、センズリはしてない!本当にしてない!」
「じゃあ何やってたのよ!」
「何って・・・ただ泣いてただけだけど・・・っていうか、昨日、僕が覗いてた事、知ってたの?」
「当たり前じゃない。物置から見えるんだから部屋からだってバッチリ丸見えだわよ。洋介君が変な顔して射精してたのも丸見え!」
シオリはキャハハハ!と笑いながら海辺に向かって走り出した。

やはり、ここでは「こいつー!」と戯けながらシオリを追い掛け、紫色に染まった朝焼けの中を二人して走り回ってTHE・ENDってのが本流なのだろうけど、だけど、僕はあえてシオリを追いかけなかった。

イカ焼き臭いセンズリ野郎では、そんな青春は似合わないから。

(500円の手コキ娘・終)

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