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吐泥(へろど)11

2013/06/13 Thu 00:01

 新幹線の窓をぼんやりと眺めていると、シャカン! という音と共にいきなり窓の外が真っ黒になった。それはまるで、不意に誰かにテレビのスイッチを消されたかのようだった。
 初めてのトンネルだった。車内には、シャカン、シャカン、シャカン、というリズミカルな音が響き、今まで何の役にも立っていなかった蛍光灯がそこで初めてその力を発揮した。
 真っ黒な窓に、反対側の座席の女が映っていた。いつの間に飲んだのか、窓際に置かれたミニボトルのウィスキーは既に半分に減っていた。
 すっかり出来上がってしまった女は、まるで早朝の歌舞伎町の歩道に投げ捨てられている泥酔者のようにぐったりと眠っていた。

(新潟で、いったい彼女に何があったというのだ……)

 そう思いながら、乱れた花柄ワンピースから伸びる太ももに目をやった。
 そのだらしなく緩んだ彼女の太ももをジロジロと見ていると、今まで悶々と思い出していた初めての寝取られの記憶とそれが、頭の中でパン生地をこねるように混じり合い、思わず私は既に硬くなっている股間をスリスリと摩ってしまっていた。
 初めて妻が寝取られた時の、あの興奮が蘇ってきた私は、迷う事なくズボンのチャックを開けた。
 ここで一発抜くというのは、実にスリリングで刺激的な事だった。いくら泥酔しているとはいえ、通路を挟んだすぐ真横の席には見ず知らずの女がいるのだ。女がいきなり目を覚まし、もしこれが見つかって騒がれでもしようものなら、その瞬間に私の人生はわずか三十年にして幕を閉じるのだ。
 しかし、こんなチャンスは二度となかった。
 乗客が三人しかいない新幹線。一人は遥か後方のドア前の席で、一人は同列の反対側の窓際。しかもそれはなかなか色っぽい女であり、まして泥酔して眠ってしまっているのだ。
 こんなチャンスをみすみす逃す男は、ゲイかインポか尾木ママくらいだ。そんな事を思いながら私は、人生を賭けてそこに勃起した肉棒を突き出したのだった。

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 親指と人差し指で摘み、そのカチカチに固まった肉の棒を上下させた。
 まるでマッサージ師に肩のツボをビンゴされた時のような快楽が太ももにジワジワと走り、思わず私は、あぁぁぁ……と小さく唸りながら両脚をピーンと伸ばした。
 女はずっと同じ状態で寝ていた。女にペニスを向けてシコシコとシゴきながら、「ほら、見てごらん……こんなに大っきくなってるよ……」などと囁いていると、そのだらしなく緩んだ股に異常な執着が湧き始め、何としてでもあの中を盗撮したいと思った。
 壁に掛けていたスーツの内ポケットからスマホを抜き取った。ひとまずペニスをズボンに戻し、窓際の席から通路側の席へと静かに移動した。
 そっと通路を覗くと、ずらりと並んだ座席が地を這う蛇のようにくねくねと蠢いていた。誰もいないことを確認し、座席の肘掛に体を傾けると、そのまま通路に身を乗り出し、スマホを握った右手を恐る恐るそこに伸ばしてみた。
 女の股には程遠かったが、とりあえず三枚ほど撮ってみた。もちろん特別アプリでシャッターの疑似音は消していたため完全に無音だ。
 さっそく画像を確認してみると、斜めに傾きながらぐったりしている女の上半身が写っていた。大きな乳肉が腕に押し潰され、それが柔らかそうにくにゃっと歪んでいた。
 ここから撮影するとなるとこれが限界だった。どれだけ身を乗り出して腕を伸ばしてみても、股間までは到底届かない距離だった。

(さすがに隣の席に移動するというのはマズイだろ……)

 そう思いながら、ふと、あのバカな中国人観光客共がよく持ち歩いている『自撮り棒』があればと思った。いつもは、あれで写真を撮りまくっている中国人カップルを見る度に殺意を覚えていたが、今はあれが喉から手が出るほどに欲しかった。
 とにかくもう一度チャレンジしてみようと思った。こんなチャンスは滅多になく、ここでそれを撮り損ねたら一生悔やむに違いないのだ。
 再び肘掛に体を傾け、通路に身を乗り出した。スマホを掴んだ手を限界まで伸ばし、脇の下の筋肉が引きつりそうになるのを必死に堪えながら、女の下半身に向けてシャッターを押しまくった。

 と、その時、突然、通路の奥から自動ドアが開くシャーッという音が響いた。「はっ!」と息を飲みながら振り返ると、そこには大きなワゴンを押した車内販売の女がいた。
 その女と目が合った。私は慌てて体勢を元に戻した。しかし、通路向こうの座席に身を乗り出していた私の姿は既に目撃されているはずであり、今更慌てても遅かった。
 あの車内販売員がここを通過すれば、当然この泥酔している女に気づくはずだ。となれば、他人の私がその座席に身を乗り出していた事に不審を抱き、さっそくそれを車掌に報告する事だろう。
 私は、ガラガラと近づいてくるワゴンの音に怯えながら、今撮ったばかりの画像を急いで消去した。屈強な鉄道警察を従えた車掌が、「お客様、念のため携帯電話を確認させていただけないでしょうか」と、わざと穏やかな口調で微笑む顔が頭に浮かび、途端に私は金玉を縮み上がらせた。

 これは非常にまずい事になった。なんとか誤魔化さなければ、と一人焦っていると、遂にそのワゴンが私と泥酔女の間にヌッと現れた。
 ショートボブの若い女が、「お弁当いかがですか……」と独り言のように呟きながらチラッと私を見た。その田舎臭い顔とオレンジ色のエプロンが何故か採れたての静岡みかんを連想させ、私は咄嗟に、この田舎娘なら誤魔化せる、と確信した。

 シートから身を起こした私は、泥酔女の座席に顔を向けていたミカン娘に「あのぅ……」と声をかけた。
「はい」と満面の笑顔で振り返ったミカン娘は意外に可愛かった。最近テレビのCMでよく見かける広瀬すずに何となく似ていた。

 「そちらの女性なんですけど……相当お酒を飲んでらっしゃるようで、さっきから随分とえずいてばかりいるんですけど……」

 わざと神妙な面持ちでそう言うと、ミカン娘はその言葉を知らないのか、「えずく?」と目を丸めながらその小さな顔を傾げた。

「ええ、さっきからね、オェ〜オェ〜ってえずいてばかりいるんですよ……心配になって何度か声をかけてるんですがね、何も反応しないんですよ……」

 そこまで言うと『えずく』の意味がわかったのか、ミカン娘は、「そうなんですか」と驚きながら、その明るい顔に不安を浮かべた。そして慌ててワゴンのタイヤにロックをかけると、泥酔女の座席にソッと屈みながら、「お客様……」と声をかけたのだった。

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 まんまとミカン娘は騙された。これで私が泥酔女の座席に身を乗り出していた事は正当化された。
 ミカン娘は何度か声をかけていたが、しかし泥酔女は「んんん……」と唸るだけで目を開けなかった。
 私は、わざとらしく「大丈夫ですかね……」などと呟き、ミカン娘のまん丸な尻越しに泥酔女の座席を覗き込んだ。ミカン娘は恐る恐る泥酔女の肩に手を置き、「お客様……」と体を揺らした。ユサユサと肩を揺さぶられる事により、泥酔女の股は益々緩んだ。そして遂に、その乱れたスカートの中から真っ赤な布が顔を出し、それを確認した私は異様なる達成感に包まれたのだった。

 それは、思いもよらぬ下品なパンティーだった。
 最初この女を見た時は、ミッション系私立女子学園の音楽教師のようなエレガントな気品を感じた。だから下着も、きっとラグジュアリーな高級補正下着とか、やたらとレースの多い海外高級ブランドのランジェリーなんかだろうと予想していたのだが、しかし、今そこからチラリと見える真っ赤な下着には気品の欠片も感じられなかった。まさに、立川駅の裏のピンサロ嬢が穿いているような、実に悪趣味で破廉恥なパンティーだった。

 しかし私は、そんな彼女に欲情していた。いや、そんな彼女だからこそ激しく欲情した。
 この女は、見た目は気品漂うゴージャスな女だが、しかし中身は、三十分四千円で本番までヤらせてくれる立川のピンサロ嬢と同じなのだ。こんな女こそが真の淫乱女なのだ。こんな女に限って、昼間は気品漂う女を演じながらも、夜ともなればケダモノ共と激しく交じり合い、想像を絶する肉便器と化すのである。

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  そう勝手に決めつけながら泥酔女を見ていた私は、激しく湧き上がる異常性欲にクラクラと目眩を感じていた。
 人は見かけによらない……。そう心の中で呟きながら、ズボンの中で熱り立っている肉棒をこっそり握り締めていると、ふと、すぐ目の前にミカン娘の丸い尻があることに気づいた。

(この見た目は清純そうな娘も……やはりあの女と同じように中身は……)

 そう思いながら私はスマホを握った。そして泥酔女に気を取られているミカン娘のスカートの下にスマホをソッと忍ばせると、「大丈夫かな……」と心配するふりを装いながら、ミカン娘のスカートの中を撮りまくってやった。
 そんな画面には彼女のイメージ通りの素朴な下着が映っていた。少々残念な反面、まだまだ日本は大丈夫だという、新橋の赤提灯で酔い痴れるおっさん臭い安心感を覚えた。
 
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 本人を目の前にしながら盗撮画像を見るというのはなかなかのスリルと興奮だった。この娘のスカートの中は今こうなっているんだと、彼女と私だけしか知らない秘密を眺めながらソッとミカン娘の横顔を見ていると、リスクを背負いながらもそれに人生を賭けている盗撮オタク達の気持ちが少しだけわかった気がした。

 そんな事をしていると、不意に、「ごめんなさい……」と、しゃがれた声で呟く泥酔女の声が聞こえた。見ると、ミカン娘は、まるで救急隊のように泥酔女の顔を覗き込みながら、「大丈夫ですか、医務室にご案内しましょうか?」と聞いていた。

「いえ、大丈夫です……ちょっと飲みすぎただけですから……」

 女はそう答えたが、しかしその意識は朦朧としているようだった。座席にぐったりと沈んだまま、乱れたスカートもそのままだった。
 そして女は、「本当に大丈夫ですから、迷惑かけてすみません……」と、面倒臭そうに呟き、まるでミカン娘を追い払うかのように再び目を閉じた。
 するとミカン娘は、「では、何かありましたらこちらのボタンを押してください」と、座席の肘掛の横にある赤いスイッチを教えた。そしてお節介にもその乱れたスカートを素早く元に戻し、せっかくの赤い布切れを隠してしまったのだった。

 ミカン娘が去って行った後も、女はしばらく「んん……んん……」と唸っていた。女がそう唸る度に、私はケダモノ共に陵辱されている彼女の姿を想像し、悶々としていた。
 しかしそんな女が突然ゆっくりと起き上がった。トイレに行こうとしているのか、まるでリハビリ患者のように座席の手摺りに掴まりながら通路に出ようとしたのだ。
 思わず私が「大丈夫ですか?」と聞くと、女は恐縮した表情で「はい、大丈夫です、すみません」と小さく頭を下げ、そのままフラフラと通路を進み始めた。

 私はソッと立ち上がり、不安定な足取りで通路を進んで行く女を見た。そんな無防備な女の背中を見ながら、女がトイレのドアを開けると同時に一緒にトイレに雪崩れ込む自分の姿を想像していた。
 ぐったりする女を便座に座らせ、「大丈夫ですか……吐きそうですか……」などと介抱するふりをしながら服を脱がすのだ。何度も何度も小便していた陰部は相当汚れているはずだ。そこを犬のようにベロベロと舐めまわし、そこが唾液で充分に潤ったら、朦朧とする女の股を大きく広げ、「全部吐いちゃった方が楽になりますよ」などと囁きながら、そこに肉棒をずんずんとピストンするのだ。

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 そんな妄想に耽りながら、もしかしたら上手くいくかもしれないぞと、本気でそう思った。もし彼女が騒ぎ出して駅員が駆け付けてきたら、「吐きそう」という彼女をトイレに連れてきて介抱してやってただけだと主張すればいい。例え女が「乱暴された」と言い張っても、昼間っから泥酔しているバカ女の話など誰も信用しないだろう。それに、きっとあの真面目なミカン娘がこの状況を説明してくれるはずである。
 そう考えていると、早く彼女の後を追わなければ間に合わなくなってしまうと焦ってみたが、しかし、元々そんな度胸が私にあるわけがなく、そんな焦りも鼻から妄想劇の演出に過ぎなかったのだった。

(つづく)

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