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眠れない夜10

2013/05/30 Thu 18:04

眠れない夜10



 真夏の太陽の光りが隣りのビルのガラスに反射し、私のデスクをギラギラと照らしていた。
 書類が山積みになったデスクの上では舞い飛ぶ埃がキラキラと輝き、一週間ぶりに出勤した私を幻想的に出迎えてくれていた。

 私は、あの晩、肛門を裂かれた。
 だから私は、会社には痔の手術をしたと嘘をつき、この一週間会社を休んでいた。

 埃だらけのデスクに恐る恐る腰を下ろそうとすると、痔の手術だと思い込んでいる部下達が、私を心配そうに見ていた。
 椅子に座った瞬間「うっ」と小さく唸ると、正面のデスクで固唾を飲みながら私を見ていた青木が、「主任、もう大丈夫なんですか?」と心配そうに聞いて来た。
 
「ああ、もう大丈夫だ。心配かけてすまんすまん」

 私は青木にそう答えながらも、その視線は入口に向けていた。
 第二営業部とプレートのぶら下がった入口付近には、新入社員のデスクが四台並んでいた。
 そのうちの一台に座っていた片桐が私をジッと見ていた。
 目が合うなり、私は片桐を呼んだ。
 ソッとデスクの横に立った片桐に、「今夜、ウチに寄っていかないか」と告げると、片桐は顔半分を歪ませながら「またですか」と気怠い息を吐いた。

「主任、これで四日連続ですよ。もう勘弁して下さいよ……」

「そう言うなよ、せっかく妻も君が来るのを楽しみにしてるんだし……」

 すると片桐は、急に私に顔を近づけ、「もう立たないっすよ……」と声を顰めた。

「そこを何とか頼むよ」

「四日蓮チャンはキツいっすよ、もう皮が剥けてヒリヒリしてるんですから……」

「若いんだから大丈夫だって」

「そーいう問題じゃないでしょ、主任が奥さんの毛なんか剃っちゃうからいけないんですよ。剃った部分がザラザラしてチンポの皮が擦り切れちゃたんですからね……」

「ははは、ごめんごめん、もう剃らないから、だから頼むよ」

「いや、ホント無理っす」

「そこをなんとか頼むよ」

「いや、マジ無理っす」

「頼む」

「無理」

「頼む」

「……無理」

「眠れないんだって!」

 いきなりそう怒鳴りながら両手でデスクをバン! と叩くと、社内の動きが一瞬にして止まった。
 社員達が一斉に私に振り返り、社内はまるで水を打ったかのようにシーンッと静まり返った。

 慌てた私は、すぐに誤魔化した。
 皆に聞こえるほどの声で、「まだ夜中になると痔が疼いてね、どうにも寝付きが悪くて困ってるんだよ」と、そう笑うと、三秒ほどして再び全員が動きだした。そして社内は、何も無かったかのようにパソコンのキーボードの音だけがカチカチと鳴り出したのだった。

 何とか誤魔化せたものの、しかし私と片桐の間には気まずい雰囲気が漂っていた。
 そんな空気を変えてくれたのは、正面のデスクに座っていた青木だった。

「なんですか主任、もしかしてコレですか?」

 青木は、麻雀牌を捲る仕草をしながらニヤニヤと笑いかけて来た。
 すると突然、片桐が「あっ、そうだ主任、青木先輩もお誘いしてみたらどうですかね」と、急に顔をパッと明るくさせた。
「いや、しかし……」と私が戸惑っていると、青木が「ダメですよ、僕、麻雀と煙草はやめたんですから」と笑った。

「違いますよ先輩、コレじゃなくてコッチですよ」

 片桐は牌を捲る仕草からグラスをグイッと飲む仕草に変えると、「主任の快気祝いにね、奥さんの手料理で一杯やろうって話しですよ。先輩も御一緒にどうですか」と青木を誘った。
 すると青木は、遠慮気味に私の顔を伺いながら、「それは結構な事だけど、しかし僕なんかがお邪魔して……」と気の弱そうな声で呟いた。

 その瞬間、不意に私の脳裏に、肛門が裂けるまで犯されたあの公衆便所の風景が蘇った。
 3P。
 是非とも妻にヤらせてみたいプレイだった。
 それに、この青木という青年も口が堅そうだった。まさか、上司の奥さんと新入社員と3Pしたなどと言いふらすようなタイプではなかった。

 私は、乾いた喉にゴクリと唾を飲みながらソッと片桐を見た。
 片桐は、意味ありげに私を見ながら小さくコクンっと頷いた。

「よし、そうしよう青木君。キミもウチの妻の手料理を食ってやってくれ」

 私はそう言いながら胸底をムラっと熱くさせた。
 ソッと心の中で(ウチの妻を喰ってやってくれ)と言い直しながら、私は二人が妻の体に群がるシーンをメラメラと思い浮かべ、そしてデスクの下で、密かに亀頭をズキズキと疼かせていたのだった。

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              ※


 午前一時の住宅街。
 静まり返った闇の中に、一直線に伸びる白線が浮かび上がっていた。
 その白線に沿って歩き出すと、素足に履いた健康サンダルがヒタヒタと音を立て、その音だけが淋しく闇に響いた。
 近所でも有名なゴミ屋敷の角を曲がった。
 路上にまで溢れたゴミの中からいきなり二匹の猫が飛び出してきたが、しかし私はもう驚かなかった。

 いつもの公園に向かいながら、私はさっきの妻の表情を思い出していた。
 それは、今から三時間ほど前、片桐と青木を連れて帰った時の玄関での妻の表情だった。

 妻は、いきなり連れて来た青木を見て戸惑っていた。が、しかし、すぐに片桐が「奥さん、こちらは僕の先輩です。信頼できる人です」と意味ありげな自己紹介をすると、一瞬、妻の顔がポッと赤くなった。
 私は、妻のその顔の火照りを見逃さなかった。
 それは明らかに何かを期待している火照りだった。

 私はいつものように妻に赤ワインを勧めた。
 妻は、どこか嬉しそうに青木に話し掛けながら、赤ワインをグイグイと飲んでいた。
 その赤ワインの中には睡眠薬は混入されてはいなかった。
 もはや私たちには睡眠薬は必要なかった。
 かといってそれは、お互いが寝取られプレイを公認しているというわけではなく、いわゆる暗黙の了解というやつだった。

 この一週間、私は片桐をウチに招いていた。
 そして三人でささやかな飲み会を開き、妻が酔い潰れてしまうと、私は一人深夜の公園へと出掛けていった。
 私が公園に行っている間、片桐と妻が部屋で何をしているのかは、私は知らない。
 それを妻や片桐に尋ねた事も一度も無い。
 しかし、そこで何が行われているのかは一目瞭然だった。
 屑篭の中にはティッシュに包まったコンドームが捨てられ、洗濯機の中には、私が見た事も無いようなTバックの派手な下着が押し込められていた。
 更に、いつの間にかクローゼットの引き出しにはバイブやローターなどが隠されており、仏壇の引き出しには、明らかにサイズの違う蝋燭までもが隠されていた。
 それらを見る限り、妻が事前にそれらを用意している事が伺え、いかにこのひとときを妻が楽しんでいるかが手に取るようにわかった。
 当然、私もそれを楽しんでいた。
 相変わらず嫉妬と絶望には激しく襲われたが、しかしそれでも私は、この奇怪なプレイを密かに楽しんでいた。
 その証拠に、会社を休んでいたこの一週間、私は真っ昼間から妻を犯していた。
 昨夜は片桐とどんなふうにヤリまくったのかなどと、一人悶々と想像しながら、妻の体を貪り食っていたのだった。



 そんな私は、まさに病的だった。
 変態性欲者という言葉に相応しい中年男だった。

 いつものコンビニで、いつものポテトサラダを買い、いつものように老店員に毒突きながらコンビニを出ると、ついさっき、酔ったふりをしてぐったりと横たわった瞬間の妻の姿を思い出し、不意に亀頭がズキンッと疼いた。

 今から十分ほど前、妻がぐったりと横たわったのを合図に、私は「煙草が切れたから、ちょっとコンビニに行って来るわ」と立ち上がった。
 それと同時に、青木が「自分が買って来ますよ」と慌てて立ち上がったが、すかさず片桐が「まあまあまあまあ」と言いながら青木の腕を掴み、強引に青木を座らせた。
「しかし……」と戸惑う青木に、私は「いいからキミたちはゆっくりと飲んでなさい」と言い残し部屋を出た。
 玄関へと行き、ガチャンっとドアの音を響かせて外に出たふりをすると、暫くその場で息を潜めていた。
 そして五分くらいして、廊下に足を忍ばせ、襖の隙間からソッと居間を覗いてみると、ぐったりと横たわる妻のスカートが無惨に捲り上げられているのが目に飛び込んで来た。

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 そんな妻の横で、片桐がニヤニヤと笑っていた。
 妻の足下で胡座をかいていた青木は、呆然としながら妻の尻を見つめ、「マジかよ……」という言葉を、少なくとも五回は呟いていた。
 片桐は、ニヤニヤと笑ったまま、「奥さん、大丈夫ですか?」と話しかけると、そのまま妻の体を抱き起こした。
 そして、ぐったりと座った妻を背後から抱きしめると、「奥さん、飲み過ぎですよ」などと囁きながら妻の上着を捲り上げ、ブラジャーの中に手を突っ込んでは胸を揉み始めた。

 すかさず青木が「何やってんだよ、やめろよ」と焦った。

「大丈夫ですって。奥さん、酒乱なんですよ。酔うとオマンコがしたくて堪らなくなるらしいんです……」

 そう笑いながら片桐は、青木に向けて妻の股を大きく開かせると、素早くストッキングのゴムに指を滑り込ませた。
 そしてそのままパンティーの中で手をモゾモゾと動かし始めると、静まり返った部屋に、突然妻の「はぁぁん」という卑猥な声が響いたのだった。

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「ほら先輩、奥さん感じてるでしょ?」

 そう言いながら片桐はパンティーの中から手を抜くと、その手を青木に突き付けながら指を二本立てた。

「見てよこれ、奥さんのマンコ、もうヌルヌルになってるでしょ」

 そうケラケラ笑い出した片桐に、青木は六回目の「マジかよ……」を呟いた。

 片桐は、ハァハァと興奮している妻の唇に舌を押し込んだ。
 ヌメヌメと濃厚なディープキスをしながら妻のストッキングとパンティーを剥ぎ取り、青木に向けて妻の膣を弄り、そこにクチャクチャと卑猥な音を立てた。

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 そんな妻の局部はツルツルしていた。
 というのは、二日前の朝、私は何を血迷ったのか、いきなり妻の陰毛を全て剃ってしまったからだった。
 なぜそんな事をしたのか自分でもわからなかった。
 しかし、妻も陰毛を剃られる事に何一つ抵抗しなかった。
 いや、寧ろ妻は、その行為が何かのプレイでもあるかのように、T字カミソリがジョリジョリと音を立てる度に悶えていた。たかだか陰毛を剃られているだけなのに、どうしてこんなに感じるのだろうと不思議に思うほど、妻は陰毛を剃られながら感じていたのだった。

 そんな妻のパイパンマンコを散々弄った片桐は、その濡れた指でズボンのベルトを外し始め、青木の目の前に巨大なペニスを突き出した。

「どうします先輩。主任は一時間ほど帰ってきませんよ……」

 そうニヤリと笑うと、青木は無言のままゴクリと唾を飲み込んだ。

「こっそりヤッちゃっても主任にはバレませんよ」

 そんな片桐の誘いに、青木は戸惑いを隠せないまま、「……絶対?」と聞いた。

「絶対」

 そう頷いた片桐は、横たわる妻の服を脱がし始めた。

「奥さんのココ、滅茶苦茶気持ちいいっすよ。ちょっとザラザラして痛いけど、でも、マジに一回入れたらハマります……これは絶対にヤッておくべきです……」

「だ、だけど……奥さんが……」

「大丈夫ですよ」と、片桐はそう笑いながら自分も上着を脱ぎ始めた。

「奥さんは淫乱なんです。毎日毎日オマンコされたくてウズウズしてるんです。勃起したチンポなら誰のだっていいんじゃないっすかね……だから、別に遠慮しなくてもいいんじゃないっすか……ね、奥さん」

 そう全裸の妻を見下ろしながら片桐が聞くと、妻は片桐からサッと顔を背けた。
 横を向いた妻は、羞恥に顔を歪めながらも、ぐったりとした両脚をゆっくりと開いた。
 そしてそのまま自分の両足首を掴むと、青木に向かって股を大きくM字に開き、「早く入れて下さい……」と、切ない声で囁いたのだった。

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 その後、妻がどうなったかは知らない。
 これ以上この残酷な光景は見られないと思った私は、下唇を激しく噛みながら部屋を抜け出し、今、こうしてこの深夜のコンビニでいつものポテトサラダを買った。

 複雑な気分に包まれた私は、深い溜め息をつきながら公園に向かって歩き出した。
 誰もいない深夜の公園には、独特な空気が漂っていた。
 それは、淋しさと狂気が入り交じった卑猥な空気だった。

(勃起したチンポなら誰のだっていいんじゃないっすかね……)

 そんな片桐の言葉が不意に蘇り、おもわず私はその場に踞ってしまった。
 残酷すぎた。
 愛する妻が、あの薄馬鹿な部下に貶されていた。
 それは肉体を犯されるよりも辛く、あまりにも残酷すぎた。

 苦悩の末に人差し指の爪を狂ったように噛んでいた私は、そのまま歩道脇の藪の中に潜り込んだ。
 
(誰のチンポだっていい……誰のチンポだっていい……)

 そうぶつぶつと呟きながら藪の中を進んだ。
 途中、歩きながらポテトサラダのパックを開け、まるでベトナムで戦っている米兵のように、手掴かみでポテトサラダを貪り食いながら暗い藪の中を進んだ。

 暫く行くと、草木の隙間から、いつもの公衆便所の灯りが見えて来た。
 背筋がゾクゾクし、亀頭がズキズキと疼いた。
 胸底から涌き上がって来る熱いモノをハァハァと吐き出しながらズボンのチャックを開けた。
 既に勃起しているペニスを薮の中で突き出し、右手の手の平にべっとりと付いていたポテトサラダをそこに塗り付けた。
 それはひんやりと冷たかったが、しかし、このヌルヌルとした滑り具合は、センズリの潤滑油としては申し分無かった。
 卑猥に佇む公衆便所を見つめながら、今頃、あの真面目な青木がどんな風に妻を犯しているのかと想像すると、ペニスをシゴく手が一段と早くなった。

 ぺちゃ、くちゃ、ぺちゃ、くちゃ、と、まるで子犬が餌を食べているような、そんな下品な音が藪の中に響いていた。

(あの公衆便所に妻を連れ込みたい……そして片桐達よりも、もっともっと下劣な獣達に妻を与えてみたい……)

 そんな妄想を繰り広げながら、既に液状化しているポテトサラダの中に射精しようとした。

 するとその時、誰かが公衆便所の前で足を止めた。
 ペニスをシゴく手を止めた私は、薮の隙間から薄暗がりに目を凝らした。

 太った男だった。
 歳は四十代、地味なスーツに四角い眼鏡を掛けた、いかにも公務員といった真面目そうな男だった。
 男は、公衆便所の前に立て掛けてある『夜間使用禁止』の看板をジッと見つめていた。
 小便をしたそうな雰囲気ではなかった。
 かといって、そこを視察に来た役人でもなさそうだった。
 正常な者なら、そんな物騒な看板がでかでかと立て掛けてある公衆便所で立ち止まったりはしない。
 まして、今は深夜だ。
 深夜の公園を一人フラフラと歩いている時点で、もはや異常者なのである。

 変態だ……
 キモ男だ……

 私は、そのメタボな醜い体をムラムラと見つめながら、素直にあの豚男に妻を与えたいと思った。
 醜い男に滅茶苦茶に犯されながら、それでも喘いでいる妻を見てみたいと思った。

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 すると、男は恐る恐る公衆便所の中を覗き始めた。
 そして、辺りをキョロキョロと見渡した後、まるで冬眠から覚めた熊のように、ノソノソと便所の中に入って行ったのだった。

 私は急いでペニスをズボンの中に押し込んだ。
 そして、あの男と同じように辺りをキョロキョロと見渡すと、カサカサと音を立てて藪の中から這い出した。

 激しい鼓動に急き立てられながら、公衆便所へと向かった。
 足を忍ばせてソッと男子便所を覗いて見ると、そこにあの男の姿は無かった。
 男子便所は静まり返っていた。
 が、しかし、明らかに奥の個室からは人の気配が感じられた。
 私は息を止めたままゆっくりと歩き出した。
 そしてその個室の前で足を止め、ゆっくりゆっくり大きく息を吸うと、個室のドアの隙間から、恐る恐る中を覗いたのだった。

 豚男は、壁に書かれた卑猥な落書きを、ひとつひとつ順番に見ていた。
 それを眺めながら、豚男は股間を握っていた。毛虫のような太い指を、地味なスーツのズボンの股間でウニウニと動かしていた。

 それを見て、この男が健全な目的でこの公衆便所に入って来たのではない事を確信した。
 クラクラと目眩を感じながらも、私は隙間を覗いたまま「こんばんは……」と声を掛けた。
 すかさず豚男は、「わっ!」と驚きながら後ろを振り返った。

「わかってまんでぇ〜」

 私は、一週間前、ここで私の肛門を引き裂いたテラちゃんの真似をしてそう呟いた。
 そんな私に豚男は、ずり下がった眼鏡をゆっくりと上げながら、「な、なんですか」と狼狽えた。

「心配いりません。この時間、ここに来る人は、みんな仲間なのです」

 私はそう言いながら個室に入り込み、豚男の股間にソッと手を伸ばした。
 豚男は、一瞬ビクっと体を震わせたが、しかし、抵抗する気配はなかった。
 私は無言でそれを揉みながら微笑み、そのままゆっくりと彼を洋式便器に座らせた。

「あんさん白ナマズでっかぁ〜 それともマッサラでっかぁ〜 わかってまんでぇ〜」

 テラちゃんの関西弁を真似ながら呟き、豚男のズボンのベルトをカチャカチャと外し始めた。

「あ、あんた、キチガイか?……」

 豚男は、脅える目で私を見ながら声を震わせた。

「キチガイちゃいまんねん……変態ですねん……」

 そう笑いながらトランクスを捲ると、テラテラと輝く真っ赤な亀頭がニョキッと顔を出した。
 そこには、デブ特有の臭いが漂っていた。
 恥垢が乾涸びた亀頭からは、ナトリの珍味そのもののニオイが漂い、ボテボテの下っ腹にウヨウヨと渦を巻く陰毛からは、まるで鈍行列車の座席のような汗臭さがムンムンと漂って来た。

(キモ男のこんな汚いペニスを妻にしゃぶらせたい!)

 そうムラっときた瞬間、おもわず私はそれにむしゃぶりついていたのだった。

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 半立ち状態のペニスを口内でヌルヌルと転がした。
 豚男は抵抗する事も無く、私の後頭部に「はぁぁぁぁぁ」と深い息を吐きつけた。
 フニャフニャのペニスを、うどんを啜るようにチュルチュルとしゃぶりながら、丸太ん棒のような太ももを優しく摩った。
 豚男は、「あぁぁぁ……」と唸りながら私の肩をスリスリと撫で、伸ばした両脚をスリスリと摺り合わせ始めた。

 次第にペニスが硬くなってきた。
 それは口内一杯に膨らみ、チュルチュルという音がヌポヌポという音に変わった。
 デブのくせに大きなペニスだった。
 優に私のペニスの倍はあった。
 そんな逞しいペニスを喉の奥までしゃぶりながら、こんなペニスを妻の穴の中にズボズボと入れてみたいと思った。
 そして、自ら腰を振りながら、「もっと、もっと」と喘ぎまくる妻が見てみたいと思った。

 私は、顔の動きをゆっくりと止めた。
 そして、唾液を糸引きながらそれを口から抜くと、強烈な酸っぱいニオイが漂う睾丸に顔を埋めた。

「私の妻とセックスしませんか……」

 ポツリとそう呟くと、豚男は「えっ?」と聞き直した。

「今からここに妻を連れてきますので、オマンコしてやってくれませんか……」

 豚男は戸惑っていた。
 そして、ソッと時計を見ながら「い、今からですか?」と聞いて来た。

「そうです。今からです」

 時刻は既に深夜二時を過ぎていた。

「もう、こんな時間ですし……明日じゃダメですか……」

「ダメです……」

「でも……」

「ダメなんです。今じゃないとダメなんです」

「……それは……どうしてですか?……なにか……理由があるんですか?……」

「はい……」

「…………」

「不眠症なんです……」

「えっ?」

 豚男が、「あなたがですか? それとも奥さんが——」と聞いて来た瞬間、私は叫んだ。

「眠れないんですよ! 何をやっても眠れないんですよ! 眠れないと辛いんです! 色んな事を妄想してしまって辛くて辛くて堪らないんです!」

 キョトンっとしている豚男に、私は更に大きな声で「だから今から妻を犯して下さい!」と叫ぶと、再び豚男のペニスにしゃぶりついた。
 そしてソレを、激しくジュプジュプとピストンさせながら、更にもう一度、ソレを咥えたまま「眠れないんです!」と叫ぶと、そのまま一気に豚男のペニスを噛み千切ってやったのだった。


             ※


 私は懲役二年六月の実刑判決を受けた。
 初犯だったが、猟奇事件として世間を騒がせたため執行猶予は貰えなかった。
 初犯者の多い黒羽刑務所に収容された。
 刑務所に入って二ヶ月後、妻から離婚届が届いた。
 最愛の妻からの別れに激しいショックを受けた私だったが、しかし我慢できた。
 それは、この刑務所の中には、キモ男の同性愛者が大勢いるからだ。
 
 そんな私の眠れない夜は、まだまだ長い…………



(眠れない夜・完)



《←目次》

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