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牛乳は5



 寝室のドアを開けると、それまで鼻をくすぐっていた甘い香水が、更に濃度を濃くして鼻に襲い掛かって来た。それは異様に興奮する香りだった。今までの女にはない、華麗で優しくて可愛い香りだった。

 まぁ、今までの女と言っても、克彦の場合、その全てが商売女だった。
 パチンコ店の裏にある怪しげなピンサロ。そこで何故かいつも指名していた、妙に幸の薄そうな静江(二十五才)は、いつも貧乏臭いシャンプーの匂いがしていた(恐らくエメロン)。ソファーに座る克彦の股間に顔を埋め、頭部を上下に動かす度にその安っぽいシャンプーの香りが漂った。その香りを嗅ぐ度に、克彦は子供の頃に祖父によく連れて行ってもらった『松風の湯』(十年前に廃業)という古臭い銭湯を思い出し、懐かしさに包まれながら射精していたものだった。

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 三年程前に嵌っていたデリヘルの佳代子(三十五才)も、独特なニオイを持っている女だった。それは、股間から発せられる異臭だった。
 佳代子の陰部自体は汚れていなかった。いつもプレイする前に彼女はそこを念入りに洗っていたため、別段そこに恥垢がこびりついているというわけではなかった。しかしそれでも彼女のそこは、常にキッチンの排水溝のような臭いが漂っていた。
 恐らくそれは彼女の膣内から滲み出る汁の臭いだったのであろう、確かに彼女は、股間だけでなく脇の下や足の裏、そして時には凄まじい口臭を発する事もあり、もはや内臓そのものが痛んでいたに違いない。
 しかし克彦は、それでも彼女を指名し続けた。いつしかその臭いが癖になり、その排水溝のような臭いがなければ興奮しなくなっていたからだった。
 だから克彦は、プレイ時には必ずシックスナインを求めた。その尋常ではない異臭に包まれながらフェラチオされる快感は、まさに朝食の納豆を食べている時の、あの異様な感覚によく似ていたのだった。

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 そんな商売女の臭いしか知らなかった克彦にとって、この華麗で優しくて可愛い香水の香りは必要以上に欲情をそそる香りだった。
 克彦はその香りの中を泳ぐように進むと、ベッドの横に置いてあった白いタンスの前で足を止めた。
 引き出しを開ける度にその香りがムンムンと溢れた。黄色いキャミソールのスベスベした肌触りを指で確かめながら、この生地があの女の大きな胸を包み込んでいるのかと思うと、既にズボンの中で硬くなっている肉の塊を握らずにはいられなかった。
 二段目の引き出しには、主に靴下やストッキングが並んでいた。その中に地味な毛糸のショートパンツが押し込まれており、それを見た時には所帯染みた彼女の一面を見た気がして妙な切なさに胸を締め付けられた。
 そしていよいよ三段目の引き出しに手を掛けた。Tシャツ類、靴下類、と来れば、次は間違いなく下着類だろう。そこを開く克彦の手は、中学生が始めてビニ本を開く時のように震えていたのだった。

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 三段目の引き出しを見下ろしながら、克彦は深い溜め息を付いた。そこには、一つ歳上の姉のタンスにはない鮮やかな色が散りばめられていた。
 そんな、一つ歳上の姉はバツイチだった。姉は今から四年前の三十歳の時、近所の結婚相談所に紹介された男とお見合いし、わずか二ヶ月で結婚した。男は浩一郎と言い、姉より十七歳年上の高校教師だった。常に眠たそうな顔をした老ロバのような男だった。
 姉は男のマンションで暮らし始めた。が、しかし、一年も経たずに離婚し、再び実家に舞い戻って来た。
 離婚の原因は『年齢差による性格の不一致』だと姉は言っていたが、本当の原因は、その言葉から『格』が抜けている事を克彦は知っていた。つまり『性の不一致』だったのだ。
 それを克彦が知ったのは、離婚後、克彦の携帯に浩一郎から送られて来たメールの画像を見たからだった。
 そのメールにはこう書いてあった。

『ごめんなさい、ごめんなさい。貴殿の姉上には本当に申し訳ない事をしたと心から反省しておりまする。この度の離婚の原因は全て私にありまする。つまるところ、私は異常性欲者なのでございまする。高校教師という鎖に縛られていた私は、その息詰まる職場から離れるや否や、精神に巻き付く心の鎖を獣の如く引き千切り、その鎖を荒縄に変えては、貴殿の姉上に同じ苦しみを与えていたのでございまする。だからこの度の離婚は全て私が悪いのでする。決して姉上を責めぬようお願い致しまする。尚、その証拠と申しましてはいささか失礼ではございますが、貴殿の姉上の身の潔白を証明する為、画像を添付しておきまする。もし、今後も貴殿の姉上が法外な慰謝料を私に請求して来るようであれば、私は潔くこの画像をネットに晒し、職場だけでなく人生もろとも全てを失くして謝罪する所存でございまする。そこの所、貴殿より姉上に充分御理解頂くようお伝え下さい。謝罪を含めたこのような不躾なメールを差し上げた事、何卒お許し下さいませませ』

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 つまりそれは脅迫メールだった。
 離婚直後、姉は一千万円の離婚慰謝料を請求する裁判を起こそうとしていたのだが、浩一郎はそれをやめさせようとしてこんなメールを送って来たのだ。
 本人ではなく弟の克彦にこんなメールを送って来る所が陰湿だった。文面にある『まする』と『ませませ』も実にさだまさしチックであり、いかにも陰気な高校教師が書きそうな薄気味悪い文面となっていた。
 こんな奴は、このメールを証拠にして警察に訴えてやるべきだと思ったが、しかし克彦は、そのメールを姉に見せる事はなかった。なぜなら、この卑猥な事実をひた隠しにしている姉を見ていると異様な性的興奮が涌き上がって来るからだった。
 だから克彦はそのメールを姉に内緒にしたまま、未だ離婚の原因は『性格の不一致』だと言い切る姉をオナニーのネタにした。あの不気味な変態教師にどのように辱められ、どのように陵辱されていたのかを想像しながら、夜な夜な脱衣カゴの中から姉の使用済み下着を盗み出し、その悲しいオリモノに精液を飛ばしていたのだった。

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 そんな姉のタンスの引き出しと、この華やかなキャバ嬢のタンスの引き出しとでは、浅草の『花やしき』と浦安の『ディズニーランド』ほどの差があった。
 興奮した克彦は、その無造作に散らばっているパンティーを一枚一枚手に取り、嗅いだり舐めたり亀頭に擦り付けたりしていた。
 しかし、姉の強烈なオリモノ臭に慣れ親しんでいた克彦には、その甘い香水の香りしか漂わない下着に物足りなさを感じていた。やはりパンティーには、その女独自の体臭や恥臭がなければ面白くないのである。
 そう思った克彦は、生活臭のないピンクのTバックをタンスの中に投げ捨て、素早く引き出しを閉めた。そして、物色した形跡を丁寧に証拠隠滅し、克彦は再び移動し始めた。その行く先は、もちろん使用済みパンティーが眠っている脱衣場に決まっていた。

 脱衣場のドアを恐る恐る開けると、薄暗い闇の中に水回り特有の冷気が漂っていた。一歩中に入ると洗濯洗剤の香りと歯磨き粉の香りが鼻を襲い、他人の脱衣場に忍び込んだという実感に激しく胸が高鳴った。
 浴室の窓の明かりが、折れ戸のアクリル板を通して、脱衣場をぼんやり照らしていた。洗面台と洗濯機。棒状に丸められたバスタオルがぎゅんぎゅんに詰め込まれた棚の下にはプラスチックのカゴが二つ並んでいた。
 そのカゴの中にお宝が眠っている事は百も承知だったが、すぐにそこには手を伸ばさず、ひとまず洗濯機に目を向けた。
 この手の愉しみというのは、目的をできるだけ後に残しておいた方がそれを手にした時の喜びは大きかった。性交時においても、いきなりペニスを挿入するのではなく、その前に陰部を弄ったり舐めたりした方が挿入時の快感は増すものであり、つまり今克彦がやろうとしているのは、セックス時の興奮を高める為の前戯のようなものなのであった。
 恐る恐る洗濯機の蓋に手を伸ばした克彦は、胸にムラムラと溜まっていた熱いものをゆっくりと吐き出した。これを開ける瞬間が堪らなく好きだった。異常者の克彦にとって、洗濯機の蓋と汚物入れの蓋を開ける瞬間というのは、正常者が彼女の下着を脱がせる瞬間に値する興奮だった。
 カパッという音と共に蓋が浮き上がった。音を立てないよう慎重に蓋を開けて行くと、ぽっかりと空いた薄暗い穴の中に、銀色の洗濯槽が冷たく輝いていたのだった。

(つづく)

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