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牛乳は4



 白い廊下の奥には、見覚えのある白い部屋が朝の光りに輝いていた。引っ越ししてかれこれ一ヶ月は過ぎようとしているのに、部屋は未だガランっとしていた。生活感が全く感じられず、ただただ甘い香水の香りだけが部屋の中をふわふわと浮遊していた。
 奥のリビングに通されると、女は部屋の隅に山積みになったままの段ボールを指差し、「まだ片付けてなくて……ほとんどそのままなんです」と恥ずかしそうに笑った。
 克彦は、『高知なす』とプリントされた段ボールに『食器類』とマジックで殴り書きされた下手糞な字を見ながら、「そうなんですか……」と頷くと、この女は思っていた以上にだらしない家畜女だと内心微笑んだ。
 山積みになった段ボールをひとつひとつ下ろしながら偽物書類を確認していると、ふいに背後から女のあくびが聞こえた。克彦がソッと振り返ると、女はあくびしたまま「ひやっ」と肩を窄め、慌てて口を閉じながら「ごめんなさい、昨日、遅かったものですから……」と恥ずかしそうに笑った。

「あっ、休んで頂いてて結構ですよ、書類の番号と荷物を照らし合わせるだけですから」

「でも……」

「いえいえ、まだちょっと時間が掛かりそうですから、どうぞ私の事は気になさらないで下さい」

「……それなら」と女はまた恥ずかしそうに笑った。見事に丸い尻をモジモジさせながら「じゃあ、隣の部屋にいますから、何かあったら呼んで下さい」と呟き、そのまま足音も立てずに隣の部屋へと向かった。その後ろ姿をソッと見ると、不意にキャバ嬢のエロいお尻がプリンっと頭に浮かんだ。

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 ドアが閉まる音が廊下に響くと、何もないリビングはとたんにシーンっと静まり返った。克彦は、寒々とした真っ白な部屋を大きく見回した。このマンションは、十六帖のリビングに八帖の寝室、そしてさっき女が消えていった六帖の洋室を足した2LDKだった。
 全く生活感のないリビングは倉庫のようだった。家具が置いてないせいか、ちょっとした物音でも大袈裟に響き、段ボールを上げ下げする度に巨大な埃の固まりが部屋の隅をふわふわと滑っていた。
 そんなリビングの隅でドカッと腰を下ろした克彦は、ポケットの中から目薬を取り出しニヤリと笑った。それは、一般に市販されている参天製薬の物だったが、しかし中身は違った。
 それは、その液体を五分間嗅がせ続ければ、どんな女でも大淫乱に変身すると言われる媚薬だった。二年前、板橋支店の大桑から二万円で売ってもらった物だった。

 もちろん非売品だった。大桑はフィリピンのマニラ支店に出張していた時に現地のマフィアから購入したと言っていた。フィリピンなのになぜ参天製薬なのかというと、その媚薬に使用されているケレバの葉は、日本では特定危険植物に認定されているため、その葉を磨り潰したケレバ汁を日本国内に持ち込む事は禁止されていたかららしい。それで大桑は、愛用していた参天製薬の目薬の容器にそれを移し替え、不正に持ち込んだのだった。
 実際に大桑は、その媚薬を使って、客の女子大生をヤってしまったと言っていた。それは、成増の女子大生が、実家から東村山のワンルームマンションに引っ越した際の犯行だったらしい。
 その女子大生は、引っ越し中、常に花粉マスクを付けていた。しかし、携帯で電話をする時だけそれを外していたらしく、そこに目をつけた大桑は、彼女が電話をしている隙に、キッチンの上にポンっと置いてあったそのマスクに媚薬を数滴垂らしたのだった。
 その媚薬は、五分間嗅がせ続けなければ効果がなかった。だからマスクに垂らすというのは最も効果的な手段だった。
 結果、引っ越しを終えた後、大桑は同僚の片山と共謀して彼女をソファーに押し倒した。
 彼女は媚薬が効いているのか全く抵抗する事もなく、既にアソコはヌルヌルに濡れていた。
 大淫乱と化した彼女は、自らの意思で大桑達の肉棒に喰らい付き、狂ったように腰を振った。そして二時間あまりも上と下の口を同時に塞がれては、見知らぬ男達の精液を膣と胃袋に散々注入されたのだった。

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 と、そんな夢のような話を聞かされた克彦は、その媚薬を、たったの二万円で譲ってもらった。
 もちろん、何もかもが大桑の作り話だった。
 目薬容器の中身は、二日酔いの朝一番の大桑の小便だ。
 そんな大桑は、片山に分け前の五千円をやるという約束で口裏を合わせてもらっていた。そして『ケレバの葉』をネットで調べられた時の為に、事前に克彦には「ケレバってのは現地マフィアの隠語だから正式名称はわからない」と誤魔化していた。
 しかし、そんな大桑の仕込みも克彦には無用だった。なんせ克彦という男は、『この蛇の抜け殻を財布に入れているだけで大富豪に!』などという、今時小学生でも騙されないようなキャッチコピーに秒殺で騙されるほどの阿呆なのである。その真偽も根拠も調べる事なく、全て鵜呑みにしてしまう克彦には、わざわざ裏工作する必要などなかったのであった。
 大桑は、この媚薬を克彦に渡す際、克彦にこんなアドバイスをしていた。

「寝ている女にこっそり嗅がすってのが一番手っ取り早いぜ。例えば電車で寝ている女にこっそり嗅がすんだよ。すると女は目を覚ますなりすっかりソノ気になってるからさ、そのまま駅の公衆便所に連れ込んじゃえば、思う存分ズボズボさ。片山なんてさ、この間、女子高生の妹の部屋に忍び込んで、寝ている妹の枕にコレを数滴垂らしたらしいぜ。で、五分後に妹を叩き起こして勃起したチンポを妹に突き付けたらしいんだけどさ、妹は全く騒がなかったってよ。騒ぐどころか自分でさっさと服を脱ぎだしたらしくてさ、片山にケツを向けながら『お兄ちゃん、早く入れて』って言ったんだと。ひひひひひ、すげぇ兄妹だよな。だからこの媚薬を使うなら、寝ている女の枕に垂らすってのが一番安全で効果的だな。まぁ、寝ている女を見つけ出すのは一苦労だけどな」

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 そんな大桑のアドバスを真に受けていた克彦は、参天製薬の目薬を握りしめながら、真っ白なリビングの隅で笑っていた。
 女が隣の部屋に消えてから五分が経過していた。女はかなり眠そうだったため、既に熟睡している事だろう。
 しかし克彦は、すぐに隣の部屋に忍び込む気はなかった。
 若くて可愛いキャバ嬢の部屋などにそうそう入れるものではない。だからせっかくのキャバ嬢の部屋を、じっくりと楽しまなければ損なのである。
 そう思いながらゆっくりと立ち上がった克彦は、ツルツルの床に靴下を滑らせながら真っ白な廊下へと進んだ。女が寝ている部屋とベッドを運んだ寝室、そしてトイレと浴室のドアが、白い廊下に四つ並んでいた。
 取りあえず寝室から楽しませてもらおうか。
 そうニヤリと微笑むと、克彦はツルツルの廊下を滑りながら進んだのだった。

(つづく)

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