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汚れし者14



 その晩、久しぶりに夫が求めてきました。
 会社から帰るなり、キッチンにいた私のお尻をいきなり鷲掴みにし、背後から私の耳をクンクンと嗅いできましたので、きっと何かに欲情したのだろうと思い、夫がお風呂に入っている間に夫の携帯を調べてみますと、案の定、つい二十分前のサイトの履歴にアダルト動画があったのでした。
 その動画は、マゾの妻が夫の見ている前で他人とセックスさせられるというSM寝取られモノで、その画像の悪さからして素人撮影の動画でした。
 そんな動画に興奮させられた夫は、その晩、またしても私に女性専用のテレホンセックスに電話をかけさせました。そして見ず知らずの男に言葉責めをされる私のお尻で激しく果てたのでした。
 それは、わずか六分のセックスでした。その間私は、見ず知らずの男に卑猥な言葉を浴びせられ、背後から夫に犯されながら、頭の中では、昨日公衆便所に放置しておいた下着はどうなっただろうかと考えてばかりいたのでした。

 セックスが終わるなり夫はすぐに寝てしまいました。
 いつもなら、この後こっそりオナニーで体の火照りを冷ますのですが、しかしその日の私はソッとベッドから抜け出し、リビングのソファーで読みかけの文庫本を読み始めたのでした。
 それは、『第三の証拠』という翻訳本でした。表紙カバーに雪化粧したヒマラヤ山脈のイラストが描かれた、有名作家の海外ミステリー小説でした。
 が、しかし、そんなカバーを捲ってみると中身は全く別の本でした。その本は、噴水広場のベンチの横のクズカゴに捨てられていたものを、昨日の見回り中に真野さんの目を盗んでこっそり持ち帰って来たものでした。『緩すぎる若妻の下半身』という、そのタイトルからしていかにも三流のポルノ小説でしたが、しかしそれは全体的にストーリーになっておらず、ページのそのほとんどが「あ〜ん、いやぁ〜ん、だめぇぇぇぇ」といった喘ぎ声で埋められているだけであり、それはポルノ小説と言うよりもAVのシナリオのような小説なのでした。

 そんなくだらない小説でしたが、それでも私はそれを読んで興奮していました。それは、決してこの内容に興奮していたのではなく、この本の持ち主を想像して興奮していたのです。
 実際に、こんなくだらない本を買った者がいるのです。よほど溜まっていたのでしょう、コンビニの成人雑誌コーナーの片隅にあるこの本を見つけるなり、そのタイトルだけに欲情し、ムラムラしながらレジに向かったのでしょう。
 そんなこの本の持ち主が、いったいどんな気持ちでこの本を買ったのかを想像すると、私は胸を締め付けられるような興奮に襲われました。彼は、緩い若妻が好きなのです。誰にでも股を開く若妻とヤリたいのです。女子高生でもOLでもなく若妻なのです。若妻の柔らかい体と、その甘く漂う乳臭い体臭と、そして使いこなした膣。それを求めて彼はこの本を買ったのです。
 興奮した私は、それが公園のくずかごに捨ててあった物であるにも関わらず、ページを一枚一枚舐めました。そしてそこに書いてある「あ〜ん、いやぁ〜ん、だめぇぇぇぇ」の台詞を小声で囁くと、ヌルヌルになったアソコに中指を挿入しながら「私がヤらせてあげる、私がヤらせてあげる」と呟いたのでした。

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 しかし私はイキませんでした。イク寸前で指を抜き、半殺し状態で太ももをヒクヒクと痙攣させておりました。
 それは、またいつかのように夜明けと共に公園に行こうと企んでいたからでした。その為に私はリビングで時間を潰しているのです。
 早朝、あの公衆便所に行くのは非常に危険でした。しかし、私のあの下着がいったいどうなっているのか確かめたくて堪らないのです。それも早朝確かめたいのです。最も危険な時間帯にそれを確かめに行くというのが、被虐願望を持つ私には堪らない興奮なのでした。

 その五時間後、コソ泥の如く足を忍ばせてマンションを抜け出すと、夜はまだ明けておらず、辺りは漆黒の闇に包まれていました。
 この闇の中、あの霊気漂う『雫の森』を抜けなければならないのかと思うと、そう思っただけで足が竦みました。
 しかし今の私は、そんな恐怖も性的快感に変えてしまうほどに興奮しています。怖い怖いと思いながらも、興奮に背中を押される私の足は意志に反して動き始め、静まり返った夜明け前の道路を地獄に向かって歩き出したのでした。

 ぼんやりと青みかかった雫の森は富士の樹海のようでした。富士の樹海には一度も行った事がありませんが、きっとこんな感じなんだろうと勝手に想像しながら、足早にそこを進みました。
 真野さんがイモリを見て腰を抜かした辺りで、沼地の中に例のポルノ小説を投げ捨ててやりました。静まり返った闇の雑木林の中でバサッという音が響くと、その後すぐに何かがガサガサガサと蠢く音が聞こえ、とたんに蛇やカエルやイモリを連想した私は、小さな悲鳴と共に慌てて走り出したのでした。

 真っ青に染まった獣道を進んで行くと、木々の隙間からグラウンドの土がちらちらと見えてきました。何者かに追われているように必死に獣道を抜け、グラウンドに出ると、だだっ広いグラウンドの奥はぼんやりと白みがかり、濃厚な霧が幻想的に漂っていたのでした。

 この霧の中に変質者が潜んでいるかも知れないと脅えながら、忍び足で進みました。公衆便所の前に辿り着く頃にはすっかり夜は明け、真っ白な世界にスズメの鳴き声だけが響いています。
 女子便所に入る手前で、私はビクンッと肩を跳ね上げ、おもわず足を止めました。女子便所の中から何か物音が聞こえたような気がしたからです。
 その場に立ち竦む私は、気が付くと人差し指の爪をカリカリと噛んでいました。それは私の子供の時からの癖でした。小学生の頃、職員室に呼び出されると、なかなかそのドアを開けれない小心者の私は、いつも職員室のドアの前でカリカリと爪を噛んでいました。

(誰か……いる……)

 薄暗い女子便所の奥を覗き込みながらそう焦っていると、ふと、立ち竦む私のすぐ左側にあるブロックの壁を、何かがスルスルスルと這って行った気配を感じました。ハッとブロック壁を見ると、壁にぽっかりと空いた排水溝の中に、一匹の黒蛇がとぐろを巻いているのが見えました。

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 黒光りした蛇は、まるでこの不浄な公衆便所を守る守護獣のようでした。冷たく光るブルーアイズで私をジッと睨みながら、今にもシャャャャャャっと威嚇してきそうな気迫を漂わせていました。
 一瞬にして両腕の手首から肩にかけて鳥肌を立てた私は、まさに蛇に睨まれた蛙の如く固まってしまっていると、またしても女子便所の中からカサカサカサっという物音が聞こえました。

 明らかに人のいる気配がしました。その継続的に聞こえて来る荒い息づかいは、用を足しているという雰囲気ではありません。
 変質者だと思いました。すぐ目の前の個室に、あの時の変態男が潜んでいると確信した私は、黒蛇の口でにゅるにゅるとピストンしている黒い舌を見つめながら、ふと、あのタンクの中に捨てられていたスズメは、この黒蛇とあの変質者が共謀して虐殺したのではないだろうかと思いました。そして私も今から、あのスズメのように、黒蛇と変質者によって内臓を抉り取られるのだと思うと、内股が自然に擦れ合うほどに陰部が疼いてきたのでした。

 怖い怖いと思いながらも、異常な興奮に襲われた私は女子便所の中へと進んで行きました。
 何者かが潜んでいるのは真ん中の個室でした。気配を消してそこを通り過ぎると、素早く一番奥の個室に忍び込みました。

 そこは、私がパンティーを放置した個室でした。
 個室に入るなりドアの裏をソッと覗き込むと、あの時と全く同じ状態で私のパンティーがぶら下がっていました。
 変質者は順番に個室を物色している為、最後の個室にはまだ来ていないのだろうかと思いました。そう思うと、今にも変質者がこの個室にやって来るような恐怖に襲われ、焦る私はドアに触れないよう慎重に手を伸ばすと、ドアの金具に引っ掛けられていたパンティーの端をソッと摘みました。
 パンティーを摘まみ上げた瞬間、その不自然にどっしりとした重みに更なる恐怖を感じました。まさかスズメの死骸が包まれているのではないかと思いながら恐る恐るパンティーを見てみると、その重みは精液でした。

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 私の使用済み下着は、既に使用済み下着となっていました。
 クロッチには白い精液が飛び散り、そこに染み付いていたはずの黄色いオリモノは跡形もなく綺麗に舐め取られていました。
 凄まじい恐怖と興奮が私の胸を締め付けました。見知らぬ男に汚れた陰部を舐め尽くされ、そのまま中出しされてしまったような無惨な感覚にとらわれ、その悲惨さが性的興奮となって私に襲い掛かって来たのです。

 クラクラと目眩を感じながら隣の個室に振り向きました。
 卑猥な落書きが書き巡らされたその壁の向こうに、私の下着を汚した犯人が潜んでいると思うと、私はその壁に空いているノゾキ穴を覗かずにはいられませんでした。

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 恐る恐る和式便器に腰を下ろすと、昨日タンクの下の壁に書いた私のメッセージに、返信らしきものがマジックで書き込まれているのが見えました。

『エッチなパンティーをありがとう。中出しして汚してゴメン。また舐めたい また中出ししたい (五郎)』

 私は、そこに書かれている文字を見て、ふと違和感を感じました。あの変態親父が、このような幼稚な丸文字を書くとは思えず、もしかしたらこの男は、あの変態親父とは別人なのではないかと思ったのです。

 それを確かめるべく、私は和式便器にしゃがんだまま前屈みになりました。そして息が漏れないよう息を殺しながら、恐る恐る壁の穴を覗き込んだのでした。

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 穴を覗くと同時に目に飛び込んで来たのは、まだ幼い少年の横顔でした。恐らく高校生だと思われるその少年は、汚物入れの中から取り出したオリモノシートにペニスの先を押し付けながら、根元をシコシコとシゴいていました。

 私は穴を覗き込んだまま愕然としていました。こんな若い子が、しかも見た目も普通の、いや、どちらかというとイケメンの男の子が、まさかこんな事をしているとは思わず、私はしゃがんでいた膝をガクガクと震わせながら驚愕してしまっていたのでした。

 少年は、ペニスを擦り付けていたオリモノシートを汚物入れの中に捨てると、今度はナプキンを摘まみ出しました。恐らくそれは、放課後このグラウンドを部活動で使用している城南高校の生徒のモノでした。野球部とサッカー部は男子生徒ばかりですので、きっと女子陸上部の生徒のモノか、若しくは野球部のマネジャーのモノでしょう。
 たっぷりと血の含んだナプキンを摘まみ上げた少年は、その血塗られた部分の匂いを嗅ぎました。そしてペニスをシゴきながらそこに舌を伸ばし、あの便所の玄関にいた黒蛇の守護獣のように舌先をチロチロと動かしました。
 不浄な血の味に欲情したのか、少年は、「はぁはぁ」と荒い息を吐きながら、いきなり服を脱ぎ始めました。そして全裸になると、たっぷりと血の含んだナプキンを体中に擦り付け、血まみれになりながらペニスをシゴいて「あぁぁぁぁぁ」と唸っていました。

 信じられない光景でした。それは、誰のモノかもわからない汚物なのです。もしかしたら醜いおばさんのモノかも知れませんし、若しくは性病を持っている女のモノかも知れないのです。
 確かに、誰のモノかもわからない私の下着のオリモノを舐めたほどですから、余程の変態だとは思いますが、しかし、今彼がチューチューと音を立てて吸っているのは下着のクロッチではなく、不浄な血をたっぷり吸い込んだナプキンなのです。

 口の周りを不浄な血で真っ赤に染めながらオナニーしているこの少年は、明らかに狂っていました。もはや痴漢や変質者を通り越した精神異常者以外の何者でもございませんでした。
 そんな少年に戦慄を覚えましたが、しかし、そう言う私も同じ穴のムジナです。ホームレスの精液を膣に塗り込んだり、ボケ老人にオナニーを見せつけたり、そして明け方にこんな場所に忍び込んでは、誰かに汚された自分の下着を見て欲情しているそんな私も、紛れもなく精神異常者なのです。

 そう思うと、恐怖心よりも性的興奮の方が圧倒的に強くなり、私は壁の穴を覗きながらパンティーを脱ぎ始めました。
 すると、ふと壁の穴の下に、少年の自筆と思われる落書きが書かれているのを発見しました。

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 それは、いつ書かれたものかはわかりませんが、『となりでオナニーしてる ノック3回 いっしょにオナニーしよう』と書かれていました。

 私は両膝にパンティーを引っかけながら、乾いた喉にゴクリと唾を飲み込みました。
 そんな私のパンティーのクロッチは、まるでハチミツを塗りたくったようにテラテラと輝いています。その異様な汚れを見ながら、私は大きく息を吸い込みました。
 これでもかというくらいに股を大きく開き、その壁の穴に向けて濡れたワレメをベロリと剥き出しました。
 そして曲げた人差し指を恐る恐る壁に近づけると、まるで何かに取り憑かれたかのように頭をボーっとさせながら、壁を三回ノックしたのでした。

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(つづく)

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