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汚れし者13

 個室のドアを一枚隔てた向こうの通路から、脅える真野さんの気配がひしひしと伝わってきました。そんな気配を感じながら、ソッとクロッチを指でズラし陰部を剥き出しにしました。和式便器にしゃがんだままパンティーに押し潰された陰毛がペタっと張り付く恥骨の奥を覗き込むと、私の陰部はもう滅茶苦茶になっていました。

 ベロリと垂れ下がった二枚の小陰唇は、いやらしい汁でテラテラと黒光りしていました。アグレッシブに剥き出されたピンクの内部には膣口がポッカリと口を開き、その中から透明の汁がトロトロと垂れているのが見えました。
 それを見ていた私は、改めてこの和式便器というものが猥褻である事を実感させられました。
 和式便器は自分の陰部が丸見えです。それだけでなく排泄物まで、いや、排泄されるその瞬間さえも、否が応でも見せつけられます。卑猥です。下品です。もはやこれは拷問に近い仕打ちなのです。
 その昔、ビートルズが初来日した際、リンゴ・スターが和式便器を見て、『ここはSMのプレイルームか?』と本気でマネージャーに聞いたらしいですが、今の自分のこのおぞましい格好を見ていると、リンゴ・スターがそう思うのも無理はないと思いました。

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 この卑猥な和式便器は、もはやマゾ女にとっては最高の羞恥器具でした。しかもここは、家庭の和式便所ではなく公衆便所です。大勢の人がここを跨ぎ、醜い陰部を堂々と曝け出しながら排泄物を放出する場所なのです。

 OL時代、渋谷の某ラブホテルで、『御自由にお使い下さい』と書かれた電動バイブが置いてあるのを見た事がありました。それは特に消毒した形跡もなく、剥き出しのままラックの中にポツンと置いてありました。
 あの頃は、こんな物いったい誰が使うんだろうと気色悪く思っていましたが、しかし今考えると、あれほど興奮させられるものはありません。不特定多数の者があの一本のバイブを使っているのです。見ず知らずの人達があの一本のバイブを皆で共有しているのです。それを思うと、今になって私の陰部は疼きだし、どうしてあの時あのバイブを持ち帰らなかったのかと後悔しております。

 そう考えると、この公衆便所の和式便器が、あの時の『貸し出しバイブ』と同じに思えてきました。共有の便器を卑猥な格好で跨ぎ、剥き出した陰部から尿や便を放出しては排泄快感を得ると言うこの行為は、あの渋谷のラブホテルで見た『貸し出しバイブ』と同じ公序良俗に反した行為にしか思えてならず、ここで無惨な格好をしている私の被虐性欲は膨れ上がるばかりでした。
 ましてそこには、そんな私の変態性欲を掻き立てるような卑猥な落書きが所狭しと書かれており、それを読む度に変態男達に耳元で囁かれているような気分にさせられたのでした。

 いつしか私は、そんな落書きを体中に書かれる妄想に耽っていました。マジックを持った数人の変態男達が、ニヤニヤと笑いながら私の裸体に落書きをするのです。そして私をこの便器のように共有し、不特定多数の男達が薄汚い精液を私の膣に吐き出して行くのです。

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 そんな妄想に浸っていると、いつしか私は指を根元まで入れていました。二本、三本と指を増やし、そのままそこを乱暴に掻き回すと、いきなりグジュグジュグジュという卑猥な音が響いてしまい、ドアの向こうにいる真野さんに聞かれないかとヒヤヒヤしました。
 しかし、そんな音なら、時折「げぇげぇ」と嗚咽してやればなんとか誤魔化せますが、喘ぎ声だけは誤魔化せませんでした。「ハァハァ」くらいならまだしも、「あん、あん」ともなると誤魔化しようがないのです。
 焦った私は、左の腕に口を押し当て、声を押し殺しました。しかしそれでも声が漏れてしまうため、おもわず私はドアにぶら下がっているブラジャーを引っ張り、慌ててそれを口に押し付けてしまったのでした。

 多少の消音効果はあるようでしたが、しかし、これだけでは完全に声を塞ぐ事は出来ませんでした。
 諦めた私はそれを口から剥ぎ取ると、そこで初めて自分がとんでもない事をしていた事に気付きました。
 誰が何の目的で公衆便所に吊るしているのかわからない不潔なブラジャーです。精液と思われる液体が飛び散り、それが黄色く変色しながら染み付いている危険なブラジャーです。それを私は口に押し当てていたのです。
 ゾッとしながらも私は、改めてそのブラジャーを目の前で開き、それを間近で観察しました。精液と思われる黄色シミは、間近で見ると、間違いなく精液でした。既にカピカピに乾いておりましたが、その消毒液のような匂いは紛れもなく精液の香りでした。
 そんな匂いに刺激された私は、迷う事なくそのカピカピのシミに舌先を伸ばし、そこをチロチロと舐めました。そしてその部分をアソコに擦り付けたいと思い、右足だけ下着から抜き取りました。
 精液が飛び散っていたのはカップの部分でした。そこには花柄の刺繍が施されており、その刺繍とレースが重なる部分に、特に精液が激しく飛び散っていました。
 その部分をワレメから剥き出す粘膜に押し付けました。刺繍部分は硬く、レースの部分はザラザラしている為、そこを擦り付けると小さな痛みを感じましたが、しかし、変態男の精液を膣に擦り付けているという行為を考えると、そんな痛みも激しい快感へと変わったのでした。

 ブラジャーを膣に擦り付けながらもう片方の手でクリトリスを弄りました。既にブラジャーのカップには私のいやらしい汁が滲み、今まで浮き出ていた乾燥精液は私の汁に消されてしまっていました。
 真野さんが「大丈夫ですか?」と心配そうに聞いてきます。私は「ありがとう。大分楽になったわ。でももう少しだけ休ませて」と答え、必死に声を押し殺しながら絶頂を急ぎました。

 すると、正面の壁の下の方に書いてあった落書きが、ふと私の目に止まりました。

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『パンティー欲しい! 前ここにあったパンティーで20回オナニーした。またここに置いて(五郎)』

 そう書かれた落書きの下には、『ありがとう! 確かにもらった!(五郎)』と返事が書かれ、それを受け取ったとされる日付が記されていました。

 それを三度も繰り返し読んだ私は、今までにない興奮を感じました。誰が履いていたのかもわからないようなパンティーで二十回もオナニーをしたという変態男。そして、そんな変態男に使用済みパンティーを与える変態女。そんな二人の異常な行為に共感を覚えた私は、唯ならぬ欲情に襲われてしまったのです。

(私のパンティーでも……オナニーして欲しい……)

 そう悶えながら膣の中を掻き回していた私は、パンティーがぶら下がっている左足からそれを抜き取りました。
 じっとりと濡れたクロッチには、黄色いオリモノが染み付いていました。ソッと匂いを嗅いでみると、いつも使用している洗濯洗剤の香りの中に、ほんのりと据えた臭いが漂っていました。

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 この不潔なシミを他人に見られ、そしてこの恥ずかしい匂いを他人に嗅がれるのかと思うと、強烈な羞恥心に胸を締め付けられました。
 だけど、この汚れたクロッチが見ず知らずの男の亀頭に擦り付けられ、そして私の膣に押し当たっていた部分に精液を飛ばされるのかと思うと、パンティーをここに放置する行為は、まさに変質者の前でレイプして下さいと股を広げるようなものであり、そんな妄想は、レイプ願望がありながらも実際にそれを実行できない小心者の私を激しく興奮させました。

 ムラムラとした目眩を感じながらも、私はさっきまでブラジャーがぶら下がっていた場所にパンティーをぶら下げました。そこを見ればすぐに黄ばんだ部分が見えるよう、わざとクロッチを裏返しにしました。
 そして自分のそれを眺めながら再びオナニーを始めました。これを見つけた変態男の気持ちになりながらクリトリスを転がし、ドアの向こうにいる真野さんにバレないよう密かに絶頂に達したのでした。

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 絶頂の最後の途切れに「うっ!」と小さく唸ると、ドアの向こうで真野さんが「お水を買ってきますから待ってて下さいね!」と慌てて公衆便所を出て行きました。
 子鹿のように走り去る真野さんのサンダルの音が、みるみる遠ざかって行きました。(もっと早くトイレから出てってくれてれば、おもいきり声が出せたのに……)と残念に思いながら、バッグの中から取り出したポケットティシュで、ヌルヌルのアソコをカサカサと拭きました。

 体液が糸を引くティッシュを便器の中に捨て、白いタンクのレバーを捻ると、茶色い水が勢い良く噴き出しました。随分と使用されていなたかったための赤錆だろうと思っていると、水が流れる便器から腐臭が漂ってきました。
 その腐った魚のような臭いに「うっ」と顔を歪めると、ふとタンクの蓋が少しだけズレている事に気付き、何気にそこを覗いてしまった私は愕然としたのでした。

 タンクの水には、スズメの死骸が三匹浮かんでいました。吸い出されて行く水の渦に巻かれながら、まるでリレーをするようにして二匹がクルクルと回っていました。
 そのうちの一匹は既に白骨化しておりましたが、しかしもう一匹は比較的新しく、焦げ茶色した毛の中から赤黒い内臓が飛び出しているのが見えました。
 それらの死骸は、明らかに虐殺とわかる形跡を残していました。足はハサミのようなもので切り取られ、頭は石か金槌のようなもので叩き潰されています。腹はナイフか包丁のようなものでザックリと切られ、大きく開いた傷口から伸びるミミズのような内臓が水の中をにょろにょろと泳いでいました。

 私は悲鳴を上げることもなく、ただただ愕然とそれを見つめていました。
 スズメは瞼をしっかりと閉じていました。まるでマイナスのネジのように閉じていたため、それが救いでした。もしスズメが目を見開いていたなら、スズメの目を見た私は間違いなく悲鳴を上げ、その場で失神していた事でしょう。

 タンクの水はみるみると減って行き、渦に巻かれる二匹の死骸は底に沈んで行きました。
 そんなタンクの底に、赤や黄色の布切れが沈んでいるのを見た私は、二度目の驚愕をしました。
 なんとそれは赤と黄色のパンティーだったのです。

 変態男は、トイレで手に入れた下着で性欲を発散した後、そのままタンクの中に下着を捨てたのでしょう。
 恐らくスズメを虐殺した者の仕業です。
 もしこれが本当に同一犯だとするとそれはかなり危険な人物です。こんな奴はいつかきっと幼女を連れ去ります。散々レイプした挙げ句に殺害し、そして幼女の死体をこのスズメや下着と同じように平気でタンクの中に押し込んでしまうのです。

 そんな危険な男に下着を提供している女がいます。使用済み下着で男を餌付けしている女が実際にいるのです。
 もはやこれは共犯です。この女もこの男と同じ変態なのです。

 そう思いながら私は、ドアの金具にぶら下げた自分の下着を見上げました。
 今まさに、私も彼らの仲間入りをしようとしていました。いや、この薄気味悪い公衆便所で絶頂に達してしまった時点で、既に私は彼らの仲間入りをしているのです。

 まるで、抜け出す事の出来ない泥沼にハマったような気分でした。
 それは、子供の頃、おじさんの家の汲取式の便所の中で、丸尾末広の不気味な漫画にのめり込んでしまった時と同じ気分でした。

(いったい私は……どうなってしまうんだろう……)

 そう思いながらガクンっと項垂れると、ふとタンクの下の壁に電話番号が書かれた落書きがあるのを発見しました。
 その字は、『パンティー欲しい! 前ここにあったパンティーで20回オナニーした。またここに置いて(五郎)』という落書きと、明らかに同じ筆跡でした。

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『パンティー下さい。パンティーのシミを舐めて、そこに精液をぶっかけたい。パンティーをくれる方、電話して下さい。非通知でかまいません。(五郎)』

 私は迷う事なくその番号を携帯に登録しました。悪戯だとわかっていながらも、異常な興奮に陥っていた私は、それを登録せずにはいられませんでした。
 しかし私の場合、携帯に電話番号を新たに登録する度に、それを夫に報告しなければなりませんでした。嫉妬深い夫は、私にその番号に電話をかけさせ、その番号と登録者が間違いないかと本人確認するのです。
 それくらい夫に束縛されていた私ですから、この番号を新規登録するのは非常に危険でした。だからこの番号は、実父の携帯番号に上書きしたのでした。

 登録を終えると、私はバックの中からマジックを取り出しました。そして便器にしゃがんだまま正面の壁の下を覗き込み、そこに変態男へのメッセージを書き綴りました。

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『今日、ここのトイレに私の下着を置きます。だれか私の下着でオナニーして下さい』

 それを書きながらも、私は再び欲情していました。
 気が狂った変態男に下着を汚されるのかと思うと、私の被虐性欲は溢れ出し、ノーパンのスカートの中に手を忍ばさずにはいられませんでした。

 そんな二度目のオナニーを始めたすぐ、外のグラウンドを走る真野さんの足音が聞こえてきました。

「お水、買ってきました!」

 そんな元気な真野さんの声と共に、私は小さな溜め息を漏らしながら濡れたワレメから指を抜きました。そして、(もしかしたらこの女は、『13日の金曜日』で最後まで生き残る女かも知れないわ……)と思うとなぜか急に可笑しくなり、そのままクスクスと笑い出すと、壁の向こう側から「あっ、笑ってる」と驚く真野さんの声が聞こえ、私は更に大きく笑い出してしまったのでした。

(つづく)

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