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汚れし者12

 山道の坂道を登り切ると、右手の雑木林の向こうに黄土色したグラウンドが広がっているのが見えました。
 それを横目に坂を下りて行くと、途中の杉の木に『すずらんグラウンド近道』と手書きで書かれた張り紙が画鋲で止めてあり、私と真野さんは更に険しい獣道へと導かれたのでした。

 カミソリのような笹薮を抜けるとサッカーゴールの裏に出ました。静まり返ったグラウンドには誰もおらず、陸上用のラインパウダーが砂埃と一緒に淋しそうに舞っていました。

「ここに何かあるんですか?」

 そう背後から聞いて来る真野さんを無視して、私はバックネットに向かって歩き出しました。
 緑のバックネットの前には、『城南二中』とマジックで書かれたヒビの入った木製バットが転がっていました。埃まみれのホームベースで足を止めた私は、ネット裏の茂みを指差しながら「あそこら辺に公衆便所があるらしいの」と呟きました。
 背伸びをしながらバックネット裏の茂みを覗き込む真野さんは、「その公衆便所に何があるんですか?……」と、怪訝そうに聞いてきました。

「トトロよ」

 私がそう答えると、真野さんは「トトロ?」と素っ頓狂な声で言いました。

「そう、あそこにトトロがいるの」

 そう笑いながら歩き出すと、唇を尖らせた真野さんもトボトボと歩き出しながら、「意味が分かりません……」と首を傾げていました。

 バックネットの裏に出ると、WCと書かれた看板が西の方向を指差していました。見ると、鬱蒼と茂る木々の中に、白いコンクリートの建物がポツンとありました。

「トトロって何の事ですか?」

 恐る恐る聞いて来る真野さんに、「行ってからのお楽しみよ」と笑いながら私は公衆便所に向かって歩き出しました。
「勿体ぶらないで教えて下さいよ……」とブツブツ言いながら私の後に付いてくる真野さんは、「あっ、わかった、駅裏の美大生がスプレーで書いたトトロの壁画でしょ」と聞いて来たり、「もしかして宮崎先生がトイレに書いた落書きだったりして」などと一人で笑い出したりして、ウザくて仕方ありませんでした。

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 しかし、そう浮かれていた真野さんも、公衆便所の前まで来るとさすがに顔を引き攣らせていました。
 木々に囲まれた公衆便所は陽当たりが悪く、饐えた糞尿の匂いが漂っていました。『ちかん注意』と書かれた区役所の張り紙には生々しいペニスの落書きがされ、そこから射精した精液が『OMANKO』と描いています。

「な、なんですか、ここ……」

 そう眉を顰める真野さんに、私は「さ、見回りしましょ」と言うと、そのままスタスタと公衆便所に向かって歩き出しました。真野さんは、そんな私の背中に「怖いんですけど……」と呟きながらも、それでも私の後を付いて来たのでした。

 まずは男子トイレに向かいました。そこに入るなり、いきなり使用済みコンドームと、残液を拭き取ったとされるティッシュが私たちを出迎えてくれました。

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 それだけで早くも怖じ気付いてしまった私と真野さんは、小窓から注ぎ込む風で個室のドアがギギギッと音を立てただけで、まさに富士急ハイランドのホラーハウスを断念した人のようにして、慌ててそこから逃げ出してしまいました。

「こんなとこ見回るのはやめませんか……」

 真野さんは私の腕をギュッと掴んだまま、今にも泣きそうな顔で私を見ました。
 確かにそこは不気味でした。思っていた以上に荒んでおり、何やら霊気のようなものも感じるほどでした。
 しかし、ここまで来て引き返すわけには行きませんでした。既に私のアソコは濡れ、クロッチさえもヌルヌルに汚してしまっており、なんとしてもこの卑猥な公衆便所でそこに指を這わせなければ気が治まらないのです。

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 だから私は、真野さんを無視して女子トイレに向かって歩き出しました。そんな私に「本気ですか……」と、足を止めて失望していた真野さんでしたが、しかし私が女子トイレに入って行くと、「ヤダな……」と呟きながらもまた歩き出したのでした。

 剥き出しの小便器がない分、女子トイレには男子トイレほどのアンモニア臭は溢れていませんでした。恐らく、ここはほとんど使用されていないのでしょう、糞尿の香りと言うよりもカビの匂いがキツく、まるで工事現場のような粉っぽい砂埃が溜まっていたのでした。

 入ってすぐに洗面所が二つ並び、その奥に個室が三つ並んでいました。二人並んだまま、恐る恐る最初の個室のドアを開けると、壁中に書き巡らされた凄まじい数の落書きに圧倒されてしまい、暫くの間二人は呆然と個室を眺めていたのでした。

 落書き以外は、特に変わった形跡はありませんでした。今時珍しい和式便器は随分と使われていないらしく、黄ばんだ便器の中には卑猥な成人雑誌が三冊捨ててありました。

「異常なさそうですから……早く出ませんか……」

 私の背中にしがみついていた真野さんが耳元でそう囁きました。真野さんの生温かい息がうなじを撫で、コショコショ声が耳を優しくくすぐりました。
 そんな真野さんの愛撫に、密かに背筋をゾクっとさせた私は、一刻も早く陰部に指を挿入したくて堪らなくなり、乾いた喉にツバを無理矢理押し込みながら次の個室へと進んだのでした。

 真ん中の個室のドアノブを握りながら、「私はこっちを調べるから真野さんはあっちを調べて」と、その奥にある個室を目で示しました。
 真野さんは早くここから出たいせいか、「わかりました」と素直に返事をすると、黙って奥に向かったのでした。

 そんな真野さんを横目にドアを開けました。和式便器がポツンとあるだけのその個室も、相変わらず落書きだらけでした。
 個室の中に入り、そんな落書きを眺めました。そのほとんどが男性が書いたとされる卑猥な落書きばかりで、実に繊細に描かれた結合部分の絵や、今にも匂ってきそうなほどに上手に描かれたペニスのイラストが、そこら中に描かれていました。

 そんな落書きの壁の中に、ふとポツンと光っている穴を発見しました。
 それは、個室の前と後ろの壁にそれぞれ空いており、一見、誰かが腹いせに蹴飛ばして破壊したような乱暴な穴に見えましたが、しかし、よく見るとそれは五寸釘のような物で丁寧に貫通されており、誰かが意図的に空けたとしか思えない穴なのでした。

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 私は前方の壁に空いている穴をソッと覗きました。前の個室の便器が見えました。しかもこの穴の位置からだと、和式便器にしゃがんだお尻は裏側までもが丸見えになってしまいます。
 これではノゾキが横行して当然だろうと思いました。どうして自治会や公園管理会社はこの穴を埋めないのだろうと不思議に思いながらも、不意に、ここでこの穴を覗いている男の姿が頭に浮かんできました。

 ノゾキ男は、おしっ○する女の尻を覗き込みながらここでシコシコとペニスをシゴいているのです。そう思うと、私の指も自然にスカートの中へと吸い込まれ、そこに触れずにはいられなくなりました。
 下着の中に指を滑り込ませた私は、そのヌルヌルになったワレメを指腹で擦りながら、私もここで変態男に覗かれながらおしっ○してみたいと素直にそう思いました。
 そんな事を考えながら陰毛を掻き分けていると、突然、隣の個室から「キャッ!」という真野さんの短い悲鳴が響き、私は慌てて下着から指を抜きました。

「どうしたの!」

 そう慌てながら個室を飛び出すと、凍り付いた真野さんが通路で立ち竦んでいました。
 真野さんは私を見るなり「見て下さい!」と声を震わせながら奥の個室の中を指差しました。
 恐る恐る個室の中を覗きましたが、しかしそこには卑猥な落書きが書き巡らされているだけで、特に変わった様子はありませんでした。

 首を傾げながら真野さんに振り返ると、真野さんは「違います……」と言いながら私を個室の奥に押し込み、そして自分も個室に入るとゆっくりとドアを閉めました。
 ギギッ……とドアが閉まった瞬間、おもわず私は「あっ!」と叫んでいました。
 なんとドアの裏側の金具にブラジャーが引っ掛けられていました。大きく広げられたそれは、まるで羽ばたくコウモリのように不気味に私たちを見下ろしていたのでした。

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 それは、使い古しのブラジャーでした。
 どうしてこんな物がこんな所に吊るされているのだろうと思うと、とたんに頭が混乱してしまいました。誰が何の為にこんな物をこんな風に展示しなければならないのか、考えれば考えるほど理解できず、その不可解な光景に、『ハンニバル』の映画を観た時のような恐怖を覚えました。

「もしかして……これがトトロなんですか?……」

 真野さんは今にも泣きそうな表情で私を見ました。
 私はそんな真野さんを無視して、呆然とブラジャーを見つめていました。

 忘れ物や廃棄物にしては不自然過ぎます。
 例えば、生理等で汚してしまったパンティーを、便所の汚物入れに捨てて行くというのなら理解できます。OL時代、そんな下品な人が会社に何人もいました。
 しかしこれはブラジャーです。それが汚れる事など余程の事でない限り考えられず、例え何かで汚れたとしても捨てるほどではないと思うのです。
 それが忘れ物だったとしても、やはりブラジャーというのは不自然です。例えばここでカップルが性行為をしていたとして、果たして女性がブラジャーを忘れて行くでしょうか? 常に胸を締め付けているブラジャーを、うっかり忘れるなんて事が有り得るのでしょうか?

 しかし、現実にそれはここに吊るされています。理由はどうであれ、今、私と真野さんの目の前にそれが展示されているのは間違いのない事実です。
 百歩譲って、これを忘れ物、あるいは廃棄物だとしましょう。かなり無理がありますが、実際にそれがここにある以上、そう思うしかありません。
 しかし、そうだとしても、これは不自然です。奇怪です。いや、もはや恐怖と言えます。
 というのは、忘れ物の持ち主はそれをそこに吊るす事は不可能だからです。廃棄物だとしても、持ち主がわざわざこんな風に吊るして捨てていくでしょうか?
 という事は、これは何者かによって吊るされたのです。
 そう思った瞬間、不意に私の頭に『レ○プ』という文字が浮かび、背筋がゾッと凍ったのでした。

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 無惨に犯した女の下着を、ニヤニヤと笑いながら壁に展示する変質者。彼にとってそれは戦利品であり、それを誰かに示す事で彼は優越感に浸れるのです。
 確かに、ブラのフックのゴムはヨレヨレに伸び、変質者が試着した形跡が残っていました。そしてよく見ると、右のカップから左のカップにかけて、まるで水鉄砲を吹き掛けて出来たような黄色いシミが飛んでいました。
 それは明らかに精液でした。優越感に浸る犯人が飛ばしたものなのか、はたまた、別の変質者がこれを見つけ、欲情して飛ばしたものなのかはわかりませんが、それが精液である事は間違いありませんでした。

 そんな妄想を繰り広げていると、レ○プ後、更に別の男達から陵辱され、次々に輪姦されていく女の無惨な姿が鮮明に浮かびあがりました。
 その殺伐とした雰囲気と、無惨な光景、そして泣き喚く女の声と男達の笑い声。それらが頭の中で入り乱れ、異様な興奮に胸を締め付けられた私は、おもわずその場にしゃがみ込んでしまいました。

「だ、大丈夫ですか!」と、慌てた真野さんが震える声で叫びました。
 私は、真っ黒に汚れた和式便器にしゃがんだまま、「ごめんなさい……ちょっと気持ち悪くなっちゃって……」と頭を抱え込みました。
 狭い個室の中、真野さんは私の背中を優しく摩りながら、「大丈夫ですか」と何度も繰り返していました。そして、その合間合間に「だからこんなとこ来ない方が良かったんですよ」と、今にも泣きそうな声で呟いていたのでした。


 そんな真野さんに、「吐きそうなの……少しの間、ここでこのまま休ませて」と告げ、公衆便所の外で待ってて欲しいと頼みました。
 真野さんは一刻も早くここから脱出したいと思っていたのでしょう、「本当に大丈夫ですか」と私を心配しながらも、そそくさと個室から出て行ってしまったのでした。

 便器にしゃがんだまま、個室のドアの鍵をかけました。
 カタンっという鍵音が響くなり、便器にしゃがんでいた股をおもいきり開き、盛り上がった恥骨に指を這わせました。
 私のアソコはびっくりするくらい濡れていました。クロッチがネトネトと糸を引くくらい下着はびしょ濡れでした。

 そんなヌルヌルとしたクロッチに指を滑らせると、まるで雲の上にいるような心地良さに包まれ、おもわず「あぁぁん……」と声を漏らしてしまいました。
 すると、すかさず個室の向こうから「大丈夫ですか!」という真野さんの声が聞こえてきました。
 真野さんは公衆便所の外に出ていなかったのです。さっさと逃げ出せばいいのに、私を心配して便所の通路で待ってくれていたのです。

(もしこれが『13日の金曜日』だったら……この女は一番最初に殺される……)

 私はそう思いながら、「大丈夫。少し吐けば楽になると思うから」と壁の向こうの真野さんに言い、再び「あぁぁぁ」とわざとらしく唸っては、喘ぎ声を誤魔化したのでした。

 壁一枚向こうに真野さんの気配を感じながら、ヌルヌルのクロッチの上からクリトリスを摩擦しました。
 不意に愛液が、ぴちゃ、ぴちゃ、と音を立て、一瞬ヒヤッと肝を冷やしましたが、しかし、逆にそれが興奮を呼び、私の指は更にスピードを速めました。

 そんな私のクロッチからは、トロトロの液が次々に溢れ出していました。
 ジュクジュクと襲い掛かる快楽の中、(トロトロ……)と呟いていた言葉が、いつしか(トトロ……)と変化していました。

 隣の個室を仕切る壁に空けられた穴から、ふとトトロが覗いているような気がしました。

(となりのトトロ……)

 そう呟いた瞬間、私は背筋をゾクゾクさせながら、その穴に向かってトロトロのクロッチを向けたのでした。

汚れ者45

(つづく)

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