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汚れし者9



 大便の匂いが漂う蛇口を喉の奥まで飲み込み、ブジュブジュと卑猥な音を立てながらしゃぶりました。時折ハンドルを回し、口内に水を噴射させては疑似射精を繰り返し、心の中で(飲んであげる)と呟きながら陰部を弄っていました。
 手洗い場の隅にある『キレイキレイ』をしゃがんだ股間に入れ、陰部に向けて何度もプッシュしました。そしてそのボトルの蓋を開け、その中でタプタプしている男の小便をゴクリと飲みながら、「もう許して下さい……」と泣きました。

 私は妄想の中で妄想をしていました。つまり、蛇口をしゃぶるという妄想の中で、男のペニスをしゃぶるという妄想をしていたのです。

 それは、夢の中で夢を見ているようなものでした。

 幼い頃の私は、夢の中で夢を見るという不気味な子供でした。怖い夢に魘されてハッと目を覚まし、ベッドの中で「夢で良かった……」と安心している自分を客観的に見ながら、もう一度現実でハッと目を覚ましたりしていました。
 そんな不思議な夢は中学生の頃まで続いていましたが、しかし、いつからか全く見なくなり、大人になった今では、夢の中で夢を見るというその感覚すら忘れてしまっていました。
 しかし、今こうして妄想の中で妄想している自分を客観的に見てみますと、子供の頃に見た『夢の中の夢』の感覚が蘇り、胸を締め付けられるような恐怖に襲われました。
 なぜかというと、高校生の頃に読んだあるホラー小説に、こんな事が書いてあったからです。

『夢の中で夢を見ると、そこから抜け出せなくなる』

 それは、夢の中で夢を見ていた少女が、その夢から抜け出せなくなってしまうという恐ろしい小説でした。

 この少女も、私と同じように夢の中で夢を見る女子高生でした。
 ある日、いつものように夢の中で夢を見ていた少女は、何度目を覚ましてもまだ夢の中にいました。いくら目を覚ましても夢がいつまでも終わってくれないのです。
 そのうち少女は夢と現実がわからなくなってしまいました。
 そんな状態で普通に暮らせるわけがございません。何をするにしても、これは夢なのか現実なのかを、いちいち確認しなければならなくなりました。
 夢と現実がわからなくなった少女は奇怪な言動を繰り返すようになりました。だから少女は精神病院に入れられてしまうのですが、しかし少女はその現実さえも夢だと思っていたのでした。
 少女は一刻も早くこの悪夢から目を覚まさなければと焦りました。そして病院の屋上から飛び降れば目が覚めてくれるだろうと思い、少女は屋上のフェンスによじ登ったのでした。
 壮絶な自殺の末、少女はやっと現実という悪夢から解放されました。
 しかし、それで結末かと思いきや、この小説はそれで終わりではありませんでした。例え少女の肉体は滅びても、少女の魂の中でその夢はまだ続いていたのです。
 少女は、これが夢なのか現実なのかわかりませんでした。自分が死んでいるのか生きているのかさえわかりませんでした。
 だから少女の霊は彷徨い歩きました。夢なのか現実なのかわからない世界を、少女の霊は延々と彷徨い続けるのでした……。

 そんな小説を不意に思い出した私は、このまま妄想の中から抜け出せなくなってしまうのではないかと急に恐ろしくなりました。

(今ならまだ間に合う……こんな事をしていたらいつかきっと……)

 そう脅えながら大便臭が漂う蛇口を見つめていた私ですが、しかし、既に私の手はしゃがんだスカートの中を弄り、ドロドロに濡れたワレメを掻き分け、そして二本の指で膣の中を掻き回していました。
 そんな膣からは尿がジワジワと滲み出し、膣を掻き回す私の手を生温かく濡らしていました。強烈な尿意に耐えきれなくなり、疼く膣から指をヌルっと抜くと、黄色い尿が凄まじい勢いで噴射しました。
 その開放感が快楽となり、おもわず「あぁぁ……」と声を漏らした私は、既にこの悪夢のような妄想から抜け出せなくなってしまっていたのでした。

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 放尿を終えてホッとした私は、ふと現実に戻り慌てて時計を見ました。
 時刻は五時二十分でした。
 あと十分しかありません。
 早くイッてしまわなければと焦った私でしたが、しかし、この体勢ではおもいきり絶頂に達せません。最高の絶頂を得るには、やはり寝転ばなければ無理なのです。
 慌てて辺りを見回し、どこか横になれる場所はないかと探しました。
 すると公衆便所が目に飛び込んできました。
 あの公衆便所の裏はジメッと湿っており、いかにも性犯罪の温床といった感じが漂っていました。あそこで全裸になりおもいきり股を広げながら絶頂に達せたらどれだけ気持ちいいだろうと思いましたが、しかし、あそこは以前、カマドウマが大量発生した場所でした。さすがの変態女も、大量のカマドウマには二の足を踏んでしまいました。

 となれば、公衆便所の中しかありませんでした。男子便所に忍び込み、男達が放尿しまくった小便器を舐めたり、いつ男が入って来るかと脅えながらそこで陰部を曝け出してイクというのも凄まじい興奮を得そうでした。

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 しかし、便所の中では逃げ場がない事に気付きました。
 ここは私たちが住んでいるマンションと目と鼻の先なのです。もし便所に入って来たのが近所の人だったら、逃げ場のない私は一巻の終わりなのです。
 そう思った私は、袋のネズミになってしまう屋内を避け、野外で寝転がれる場所はないものかと、再び辺りを見回しました。
 すると、遊歩道を挟んだ雑木林の奥に、大きな木製ベンチがポツンとあるのが見えました。

(あそこなら寝転がれる……もし誰かが来たら、気分が悪くなったから少し横になっているだけだと嘘をつく事も出来る……)

 そう思った瞬間、既に私は立ち上がっていました。時間がありません。早くしないと夫が目を覚ましてしまうのです。
 慌てた私は、雑木林の中を小走りし、大きな木製ベンチに駆け寄ったのでした。

 ベンチは朝露でしっとりと濡れていました。バッグの中からポケットティッシュを取り出し、それで素早く拭き取りました。
 丸めたティッシュを屑篭の中に投げ、改めて辺りを見回しました。
 既に朝靄は晴れて視界は通っていましたが、しかしこのベンチは雑木林の中にあるため木々が目隠ししてくれていました。
 但し、二つ並んだベンチの奥には遊歩道があり、もしそこを誰かが通ったら、私の存在はいとも簡単に見つかってしまいます。
 例えば、ここが視界が開けた場所だったなら、誰かが遊歩道を歩いて来たらそれが事前にわかり、オナニーを誤魔化す事も出来るのですが、しかし、ここは完全な死角です。相手から見られないというメリットがある分、こちらも近付いて来る相手に気付かないというデメリットがあるのです。

 せっかく見つけた場所でしたが、遊歩道からいきなり誰かがヌッと現れる事を考えると、ここは非常に危険な場所でした。
 様々な人が通る可能性を考えれば、ここは公衆便所の中よりも危険かも知れません。男子便所だったら男の人しか来ませんが、ここだと近所の奥さんが犬の散歩で通りかかる可能性もあるのです。
 それを思うと背筋が凍りました。もしその奥さんが、息子の幼稚園の友達のお母さんだったらと思うと、たちまち足が竦みました。

 しかし、そんな恐怖は、密かに私の変態性欲を掻き乱していました。そのあまりにも危険なリスクが更に欲情を掻き立て、私の本性を炙り出そうとしていました。
 私は、震える手でバッグをベンチの上に置きました。そしてそのバッグを枕にして仰向けに寝転がると、(これは夢なんだ……)と呟きながら静かに目を閉じました。

 私は夢を見ているのよ……
 私は公園なんかにいない……
 現実の私はいつものように子供達と一緒に寝ているの……
 これは夢なの……
 二度夢なの……
 子供の頃によく見た夢の中の夢を、また見ているのよ……
 だから安心して……

 そう自分に言い聞かせながらゆっくりと目を開けました。
 鬱蒼と茂る雑木林はその部分だけをぽっかりと円形にくり抜いており、私の目の前にはネズミ色の空がどこまでもどこまでも続いていました。
 いつもコンクリートの建物に囲まれて細々と暮らしているため、これほど広々とした光景を見たのは久しぶりでした。それは、娘がまだ生まれる前、よちよち歩きの息子と夫の三人で見た、あの三浦半島のキラキラと乱反射する広大な海以来の開放的な光景でした。
 そんな大パノラマなネズミ色の空に吸い込まれそうになりながら、(やっぱりこれは夢なんだ)と呟きました。
 もちろん、これが夢じゃない事くらいわかってます。私を包み込む朝露に湿った土の匂いや、狂ったように鳴き喚いているスズメの声は、明らかに現実なのです。
 しかし私は、その現実から逃避しようとしてました。今のこの状態を無理矢理にでも夢にしようとしていたのです。
 そうでなければこんな事はできません。自宅と目と鼻の先の公園で、朝から露出オナニーをするなど、正常ではできないのです。

 私は指先でスカートをたくし上げると、その木製ベンチが産婦人科の分娩台であるかのように、股をゆっくりとM字に開きました。股が開くと同時にいやらしい声が漏れ、震える指が二本、自然にワレメの中にツルンっと滑り込んで行きました。

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 私はすぐに膣の天井を刺激しました。
 時間がありません。それに、もう我慢できなかったのです。
 私はあの男に悪戯される事を妄想しながら膣の天井をグイグイと押しました。あの男にこの雑木林の中に連れ込まれ、ベンチの上で陰部を弄ばれているシーンを思い浮かべながら、その指をヌルヌルとピストンさせていました。

 妄想の中の男が言いました。
「こんなに濡らして、あんた、変態じゃないの?」
 私は妄想の中で答えます。「やめて下さい」と必死になって男の手を股間から抜こうともがきます。
「嫌なのか? これが欲しくないの?」
 男はビンビンに勃起したペニスを自分で上下にシゴきながら言いました。そして、その肉棒の先を私のワレメにヌルヌルと滑らせながら、「ほら、入れて欲しくないのか?」と言いながら、意地悪そうに笑ったのでした。

「入れて……入れて下さい……」

 私は全身をヒクヒクと痙攣させながら腰を振りました。

「ふん……変態女が……こんな事して、夫や子供が可哀想だと思わないのかねぇ……」

 男はそう笑いながら、肉棒を根元まで突き刺しました。

「あぁぁ!」

 そう声を上げた現実の私は、心の中で小さく「イク」と呟きました。
 すると、その瞬間、いきなりカサッカサッという音が聞こえてきました。なんとタイミングの悪い事か、遊歩道の北側から誰かが歩いて来る足音が聞こえて来たのです。

 私は慌てて股を閉じ、素早くベンチから体を起こしました。そして鬱蒼と茂る樹木に身を屈めながらソッと覗きました。
 十メートルほど先に、青いジャージを着た老人がいました。老人はヨタヨタしながらこちらに向かって歩いてきます。
 見覚えのあるお爺ちゃんでした。確かスーパーキヨシゲの御隠居さんです。
 キヨシゲのお爺ちゃんは逃亡癖のある痴呆症でした。先月も自宅を脱走し、隣町の大型家電量販店の駐車場で保護されたばかりでした。
 私は、また脱走して来たんだろうかと思いながら、現れたのがボケ老人だった事にひとまず安心したのでした。

 カサカサと落ち葉を鳴らしながら歩くキヨシゲのお爺ちゃんを樹木の陰から見つめながら、私はソッと股間に指を這わせました。
 耳の奥がドンドンと響くほどに、心臓の鼓動が激しくなっていました。私はドロドロになった穴の中を指で掻き回しながら、この卑猥な姿をボケ老人に見せてみたいという衝動に駆られていました。
 ボケ老人なら何もわからないだろうと思ったのです。私の事も知りませんし、例え知っていたとしてもすぐに忘れてしまうでしょう。それに、この事を誰かに話したとしても、誰もボケ老人の話など信じないのです。
 だから私は、あのボケ老人は最高のオナニーのネタになると確信しました。相手がボケ老人なら、危険な露出オナニーでも安心してできると思ったのでした。

 さっそく私はベンチに寝転がり、さっきと同じ体勢で股を開きながら陰部を弄り始めました。
 当然、開いた股は遊歩道に向けています。そこを通れば、否が応でも私の卑猥な陰部は丸見えになるのです。

(いや……来ないで……)

 そう呟きながらオナニーをしていますと、カサッ、カサッ、と枯れ葉を踏みしめる老人の足音は、すぐそこまで近付いていました。
 緑の木々の隙間に青いジャージが見えてきました。いよいよキヨシゲのお爺ちゃんがベンチの前を通り過ぎます。

(ダメ……見ないで……こっちを見ないで……)

 そう呟きながらも、目の前を横切って行く青いジャージに(こっちを見て!)と必死に念力を送りました。
 すると、そんな念力が通じたのか、その足音がいきなりピタリと止まりました。
 私はハァハァと荒い息を吐きながら顔を上げ、遊歩道をソッと見ました。
 青いジャージが止まっていました。ジッと私を見つめるキヨシゲのお爺ちゃんが、まるで一時停止されたDVDのようにピタリと止まっていたのでした。

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 私はキヨシゲのお爺ちゃんの目をジッと見つめながら、膣の天井を激しく刺激しました。
 キヨシゲのお爺ちゃんは、驚いているのか怖がっているのかわからない表情を浮かべながら私を見つめていました。果たして私が何をしているのかわかっているのだろうかと思いましたが、しかし、キヨシゲのお爺ちゃんのその視線は、私の顔と股間の陰部を交互に行ったり来たりしていましたので、恐らく私が猥褻な事をしている事には気付いているはずでした。

 そんなボケ老人の視線に身悶えながら、私は何度もイキそうになるのを堪えていました。早く帰らなければと焦りながらも、私はこのシチュエーションを楽しんでいたのです。
 しかし、キヨシゲのお爺ちゃんが私に向かって歩き出したのを見ると、さすがに恐怖を感じました。例えボケ老人でも相手は男です。いきなり襲い掛かって来られたら厄介なのです。
 私は慌てて気を入れました。カサっ、カサっ、と近付いて来る足音に脅えながら、早くイってしまおうと、もう片方の手でクリトリスを弄りました。
 膣の天井とクリトリスを同時に刺激すると、瞬く間に絶頂感が涌き上がってきました。私はすぐ目の前まで迫っているキヨシゲのお爺ちゃんに「イクよ……イクから見ててねお爺ちゃん……」と、優しい介護士のように囁きかけると、シュッと短い失禁と共に快楽の底に落ちて行ったのでした。

 ふと気が付くと、私はかなり大きな声で「あぁぁぁぁぁぁぁ!」と喘いでいました。慌てて唇を閉じ、今度は「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」と唸りながら、ピーンッと伸ばした足をピクピクと痙攣させました。
 絶頂の痺れが爪先から頭の先へと流れ、そのまま脳天から抜けて行きました。それはまるでパンパンに腫れ上がったニキビの膿を絞り出したような開放感でした。

 ハァハァと肩で息をしながら快楽の余韻に浸っていると、キヨシゲのお爺ちゃんが私の滅茶苦茶になった股間をジッと覗き込んで来ました。
 私は慌てて股を閉じ、ガバっとベンチを起き上がると、何も言わずにバッグを鷲掴みしました。
 そして後ろを振り向かないまま一目散に走り出しました。

 暫く行くと、遠くの方から「おじいちゃーん!」という声が聞こえてきました。
 きっとスーパーキヨシゲの奥さんが逃亡したお爺ちゃんを探しに来たのでしょう、もう少しイクのが遅れていたらと思うと、走る私の背筋がゾッと痺れました。

 焦った私は更に足を速めました。
 雑木林を抜け、グラウンドを横切り、ラジオ体操広場の遊歩道を走っていると、不意に時計台から六時を知らせるオルゴールメロディーが鳴り出しました。
 その瞬間、あちこちの雑木林の中から老人達がゾロゾロと現れました。一斉に広場に向かってゾロゾロと歩いて来る老人達はまさにゾンビのようでした。

(私は……見知らぬお爺ちゃんにオナニーを見せていた……)

 そう現実に戻りながら走る私のクリトリスは、まだ腫れ上がっていました。
 クリトリスが下着に擦り付けられる度に、私は悶えました。
 悶えながらマンションに向かって走ったのでした。 
 
(つづく)

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