毒林檎17
2013/05/30 Thu 17:59
「どうして俺を選んだんだ……」
膝の上で蠢く細い背中にそう聞くと、原田凉子はコキコキと腰を振りながら、「リストラ候補だったからよ」と答えた。
「リストラ?……冗談じゃない、俺の売り上げ成績は常に中位だぜ。リストラされるなら、俺よりも香川や松原の方が先だろ」
椅子の背もたれから身を乗り出してそう聞くと、不意にペニスが奥深くまでググっと潜り込み、原田凉子は「あぁぁぁん、当たる」と身悶えながら尻をブルブル震わせた。
「……あなたの場合、成績が問題じゃないの……さっきも言ったように、営業二課の小笠原由貴さんからセクハラの訴えが出てたからよ……」
原田凉子は、ペニスを根元まで銜え込んだ陰部を擦り付けるようにして腰を振り、丸い尻肉に俺の陰毛をジリジリと鳴らしながらそう言った。
「だから、どうしてあれがセクハラになるんだよ。俺とあいつは付き合ってたんだぜ。俺たちは仲の良い恋人同士だったんだ。そんな関係だったのに、どうしてセクハラになるんだよ」
「内情はわからないけど、あの人、随分とあなたを恨んでいるわ」
「それは、俺があいつを振って別の女と結婚したから逆恨みしてんだろ。付き合ってた頃はそんなんじゃなかったよ、あいつは俺の事を本気で愛していたんだ」
すると原田凉子は尻を振りながらソッと後ろを振り向き、俺の目を見ながら「ふっ」と笑った。
「じゃあ、あの写真はなに? あれはあなた達が付き合ってた頃に彼女が隠しカメラで盗撮したものよ。彼女はカメラだけじゃなく隠しビデオもセットしてたわ。本気で愛している男に、そんな事をするかしら?」
「それは……」と俺は言葉に詰まりながらも、咄嗟に「愛してるからだよ」と答えた。
「愛してるからこそ、あいつは二人が愛し合う姿を記念に撮っておきたかったんだよ」と、俺はムキになってそう言い切った。
すると、原田凉子が突然「ぷっ」と噴き出した。
そして「ウンコ食べてる写真って何の記念?」と、高い声でケラケラと笑い出し、「イキそうなんだから笑わせないでよ」と再び腰を振り始めたのだった。
ウンコ食べてる写真……。
その言葉がグサリと俺の心臓に突き刺さった。
確かに、どうしてあいつはあんな写真を撮ったんだろう。わざわざ隠しカメラやビデオをセットしてまで、あんな物を取る意味がどこにあるんだ。
そんな事をあれこれ考えていると、言いようのない不安に襲われた。もしかしたら、既にあの写真や動画はネットに流されているのではないだろうかという恐怖に襲われたのだ。
すると原田凉子が、コキコキと腰を振りながら、「あなたは彼女に、最初から嵌められてたのよ」とポツリと呟いた。
「私の経験上、あの女は常習犯ね。きっと、あなた以外の複数の男とも関係してるはずよ。そして男達のあんな写真をいっぱい隠し撮りして、それをネタに男達から恐喝してるタイプね……今まで私は、あの手の女の弁護を嫌という程して来てるから、直感でわかるの……」
原田凉子は確信的にそう頷いた。
確かに小笠原由貴は淫乱だった。会えばいつも性的な挑発をし、セックスを誘って来た。常にアソコはじっとりと濡れており、いつでもすぐに挿入できる状態だった。
それに、他に男がいたという点も心当たりがあった。常に二台の携帯を持ち歩き、何故か四つもアドレスを持っていた。安い給料のくせにいつも財布には現金が詰まっていたし、俺に隠れて煙草を吸ってたし、生理でもないのに、突然『プチシャワー・セペ』というビデで膣内洗浄するという奇怪な行動をとったりしていた。
極めつけは水曜日と金曜日は必ず実家に泊まっていた点だ。今思えば、それらのひとつひとつが怪しすぎるほどに怪しいのである。
(あいつなら……あり得る……)
俺はそう思いながらも、小笠原由貴の可愛い尻をふと思い出した。あの可愛い尻を他の男達と共有していたのかと思うと、今更ながら、あの女の糞や小便を喰ってしまった事に激しく後悔した。
「あいつは何が目的なんだ。やっぱり金か?」
そう聞くと、原田凉子は「当然よ」と頷いた。
「私は彼女に、六百万の慰謝料を請求する事を提案してやったわ。もしあなたがそれに応じない場合は、強要と強姦で刑事告訴し、同時に婚約不履行と貞操権侵害の民事訴訟を起こせばいいからと教えてあげたの。そしたら彼女、六百万って数字に舞い上がっちゃってね、すぐに私に委任状を書いたわ」
「ちょっ、ちょっと待てよ! 六百万なんて、そんな金あるわけないだろ!」
おもわずそう声を張り上げた俺に、原田凉子はチラリと振り返りながら、「だからあなたを選んだのよ」と、その横顔をニヤリと歪ませた。
そして再び腰をゆっくりと動かしながら、「今後、小笠原由貴を動かすのも止めさせるのも私次第なの。そこん所、よーく覚えておいてね」と不敵に笑うと、俺にもっと腰を動かすようにと命令したのだった。
静まり返った部屋に、椅子がギシギシと軋む音だけが響いていた。
俺は原田凉子に心臓を鷲掴みされていた。死に値する弱みを握られてしまった俺は、もはや彼女の奴隷であり、俺を生かすも殺すもこの女次第だった。
原田凉子は、「もっと激しく突いて!」と言いながら前屈みになり、両手を床の絨毯についた。
俺も同時に椅子から立ち上がると、二人の体位は、今までの背面座位から立ちバックへと変わった。
俺は、そんな尻肉にパンパンと乾いた音を立てながら、彼女の命令通りに激しく腰を振った。
「イキそうよ……イキそうなの……あぁぁぁ……クリトリスを摘んで!」
俺はコブラツイストのような体勢のまま、前屈みになった彼女の股間に腕を回し、陰毛の中に指を潜らせてはコリコリの豆を指先で転がした。
「あぁぁん! そのままもっと早くペニスを動かして! クリトリスを摘んだまま、ああああああ、もっともっとズボズボにヤって!」
命令通りにせっせと腰を振っていた俺だったが、しかし、そのあまりにも刺激の強い体位におもわず興奮してしまい、「ダメだ、これ以上動かしたら俺もイッてしまう」と、苦しそうに彼女の耳元に囁いた。
すると突然、原田凉子は「待って」と言いながらピタリと動きを止めた。そして自らヌッとペニスを抜いて体を起き上がらせると、ハァハァと肩で息をしながらベッドに腰掛け、「それじゃコンドームを付けなさい」と黒いバッグの中をガサゴソと漁り始めた。
ハァハァと肩で呼吸する俺は、いやらしい汁でネトネトに輝くペニスを突き立てたまま、そんな原田凉子をジッと見ていた。黒光りする肉棒がドクドクと脈を打つ度に、真っ赤に腫れ上がる亀頭の先から尿道球腺液が滲み出ていた。
原田凉子は、バッグの中からギザギザの切り口の突いた四角い袋を摘まみ出しながら、「あんたみたいな変態の子供ができたら大変だもんね」とポツリと呟いた。
(変態の子供……)
彼女の声が俺の脳で復唱された。
不意に一歳三ヶ月の次女と、今年幼稚園に入園したばかりの長男の顔が浮かんだ。
(あいつらは……変態の子供なのか……)
そう思った瞬間、悲しみと惨めさに胸を激しく締め付けられた。そして二人の子供が「パパァ」と笑う天使のような顔と声が鮮明に浮かぶと同時に、突然脳内で何かが「ドン!」と弾けた。
それは、クリント・イーストウッドが、非道な黒人ギャングに向けてぶっ放した時の音だった。そう、映画『ダーティーハリー』で、ドン! ドン! ドン! と豪快にぶっ放していた、あの44マグナムの銃声と同じ音だった。
「ほら、早く付けなさいよ」
そう言いながら原田凉子はベッドに寝転がった。そして俺に向かって大きく股を広げながら、「普通、あんたみたいなゴミ変態、東大卒の美人弁護士が相手なんかしてくれないわよ……」と鼻で笑い、グロテスクなワレメを指で開いた。
俺は深呼吸するように大きく息を吸い、そのまま息を止めた。
シーンっと静まり返った部屋の中で、俺の脳内だけが、ドン! ドン! ドン! と豪傑音を響かせていた。
「何してるの……早くゴムを付けて御奉仕しなさい……」
原田凉子のその声と共に、クリント・イーストウッドが「行くぜ!」とウィンクした。もちろんその声は、今は亡き山田康夫の吹き替え声であり、古いルパンのあの声だ。
俺はそのままベッドに突進した。
「ゴムは?」と目を丸める原田凉子の体に飛び乗り、「ちょっと!」と凄まじい形相で睨む原田凉子の頬をおもいきり引っ叩き、そのまま俺の44マグナムをワレメの中にねじ込んでやった。
「あんた何考えてんのよ! こんな事してどうなるかわかってるの!」
そう叫ぶその頬を更に二発ほど引っ叩き、両腕に彼女の両脚を抱え上げると、がっつりと押さえ込みながらガンガンと腰を振ってやった。
それは、強制的にMにさせられていた俺が、Sへと復活した瞬間だった。
これだ、これだ、これなんだよ、と、その快楽に身を捩らせながら、俺は狂ったように腰を振った。
同時に原田凉子も「やめなさい! 強姦罪で訴えるわよ!」と狂ったように叫んでいた。
すると、そんな俺達の叫び声が響く部屋の外を、またしてもUターンして来た右翼の街宣車が、やっぱり狂ったように軍歌を鳴らしながら走り去っていった。
そんな狂った軍歌を背景に、再びクリント・イーストウッドが俺の頭に浮かんだ。
俺の頭の中のクリント・イーストウッドは、獣と化した俺を無言でジッと見つめ、ゆっくりと親指を立ててくれたのだった。
(つづく)
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