毒林檎18
2013/05/30 Thu 17:59
ガンガンと腰を振る度に、安いベッドがギシギシと下品な音を立てていた。
今までにない激しい腰の動きだった。しかし原田凉子は、もはや快楽など欠片も見せず、ただただ黙ってジッと俺を睨んでいた。
「本当は感じてるんだろ変態女」
変態男と言われた屈辱を、そっくりそのまま返してやった。
しかし原田凉子は、その言葉に屈辱を感じるどころか、冷めた目で俺をジッと見つめながら薄ら笑いを浮かべていた。
「何が可笑しい」
そう聞くと、原田凉子は呆れたように微笑みながら、「典型的な破滅人間ね」と吐き捨てた。
俺は、細く長い脚を更に持ち上げ、まんぐり返しをするように尻を浮き上がらせながら、原田凉子の顔を覗き込んだ。
「おまえらのような非道な破壊人間より、惨めな破滅人間の方がましさ」
そう言いながら見事なM字の中心に下腹部を擦り付けると、互いの陰毛がジリジリと擦れ合い、その隙間から黒光りする肉棒が出たり入ったりしているのが垣間見えたのだった。
ゾクゾクした快感が何度も何度も背筋を走っていた。さっきの背面座位とは明らかに興奮度は異なり、やっぱり俺は攻められるよりも攻める方が好きなんだと改めて思い知らされた。
持ち上げた脚を、横にしたり斜めにしたりしながら攻めまくっていると、人形のようにぐったり横たえている原田凉子がポツリと言った。
「本当に強姦罪で訴えるわよ」
俺は「ふん」と鼻で笑った。
「訴えれるもんなら訴えてみろよ……俺がパクられたら法廷で全部話してやるからよ……社長の奥さんが連続殺人犯だって事も、それを社長が賄賂を払って揉み消してた事も、そしてあんたがそれを知っててこんな計画を立てた事も、全部暴露してやるよ……」
すると原田凉子も鼻で「ふん」と笑い返し、「何も証拠がないじゃない。証拠がなければ、警察も裁判所も相手にしてくれないわよ」と、勝ち誇ったように唇を歪めた。
「証拠なら、あんたが俺に送って来たメールがあるじゃないか。あの内容は明らかに弁護士倫理に欠けてるから、あれを日弁蓮に送りつけてやるよ。そしてあんたの懲戒請求と同時に、検事に告発するのさ。あのメールと今までの事件を照らし合わせてもらい、連続毒殺事件の全貌を明らかにしてくれと告発するんだよ……ふふふふふ……どうだい、こんな絵図は?……箕輪社長のコネと金を使えば、所轄のチンピラ警察くらい簡単に落せるだろうが、しかしこれが天下の検察庁となると、さすがの箕輪裕一郎も手も足も出せないだろ……」
すると原田凉子はクスっと鼻を鳴らしながら、「まるでどこかの三流作家が書いたサスペンス小説ね」と笑った。
そして、呆れ返るような表情で俺を見つめながら、「日弁連でも懲戒請求でも何でもしたらいいわ……ただ、あなたが恥をかかない為にも、ひとつだけいい事を教えておいてあげる……」と、鋭い目をキラリと光らせた。
「私が今まであなたに送っていたメールは、全てあなたの会社のPCから送信したものよ。しかもそのPCは、あなたのデスクにある、あの古くっさいPCからなの」
「……………」
「当然、日弁連や検察はあのメールの送信元を調べるわ。あのメールが、あなたの会社のPCから送信されたものだとわかった時点で、これは全てあなたの自作自演だと思われるでしょうね……」
原田凉子は、細い身体をゆっさゆっさと動かされながらニヤッと笑った。
俺はカッと頭に血が上った。この女はそこまで用意周到だったのかと思うと、スケベ心からまんまと引っかかってしまったマヌケな自分に腹が立った。
「自作自演のメールで懲戒請求なんか出したら、逆に名誉毀損と信用毀損で訴えてあげるわ。弁護士の信用は重いから、損害賠償は高くつくわよ」
原田凉子は、そう「うふふふっ」と笑いながら、「だから私を甘く見ないでって言ってるじゃない。ほら、早くその醜い体をどかしなさい。今なら許してあげるから」と俺の胸を押した。
細く長い指が、俺の胸を「ツンっ」と押すなり、再びダーティーハリーの「ドン!」が響いた。
「どうあがいてもあなたは私に勝てないわ。明治大卒の変態男が東大卒の弁護士に勝てるわけないじゃない。だから諦めなさい。あなたは黙って奴隷として生きればいいのよ。ほら、早くどいて」
そう言いながら再び原田凉子が胸をツンと突くと、ダーティーハリーの44マグナムが、ドン! ドン! ドン! と続けて発射された。
俺はその細い腕を素早く掴んだ。そしてそのままおもいきり引っ張り、原田凉子の細い身体をガバっと起き上がらせた。
「アーホ。俺は明治大じゃねぇよ。俺は明治よりも更にレベルの低い国士舘だバーカ」
そう憎たらしく言いながら、原田凉子の華奢な体を力強く抱きしめた。そしてそのまま赤ちゃんを抱っこするようにしてベッドから立ち上がると、原田凉子は、がっしりと抱きしめられた体を捻りながら「ちょっと! やめてよ! 下ろしなさいよ!」と叫んだのだった。
俺は原田凉子を抱え上げ、性器が結合したままの体勢で窓際に向かって歩き出した。窓際の隅には、薄汚れた二人掛けのソファーが置いてあった。そこで足を止めた俺は、原田凉子を抱きしめたままソファーに崩れ落ちた。
原田凉子の身体をソファーに押し付け、そのままがっぷりと四つに組んだ。
「やめなさい!」と耳元で叫ぶ原田凉子の顔をねじ伏せ、彼女の右頬を犬のようにベロベロと舐めると、まるで軟体動物が蠢くように腰を回転させた。
俺とソファーにサンドウィッチにされながら、身動きできない状態でガンガンと攻められる原田凉子は、冷静な表情で「覚悟してなさいよ」と呟いた。
俺は腰を振りながらソファーの下に手を回し、床に散乱する自分の衣類を手繰り寄せた。そして上着の内ポケットの中を手探りしながら、「覚悟するのはあんたのほうだ」と原田凉子を目を覗き込むと、そこから取り出したスマホを彼女の顔面に突き付けてやった。
静まり返った部屋に、俺のスマホから流れる原田凉子の声が響いた。
『やっぱり三浦さんの死体からは大量のベラコラボ・アテンサトミンが検出されたわ。一時は連続殺人だと大騒ぎされたんだけど、すぐに社長が巨額の賄賂を警察に支払い、揉み消したの……そう、加藤常務の時のようにね……』
原田凉子の顔は歪に引き攣っていた。今まで強気だった表情は消え失せ、あの氷のようなクールな目は、屠殺を悟った黒毛和牛の目のように弱々しく震えていた。
「悪いけど、さっきあっちの椅子でヤッてる時に録画させてもらったんだ。ほら、あんたの綺麗な背中が映ってるだろ。肩甲骨にあるホクロまでしっかりと映ってるからさ、今更これは私じゃないってのは通用しないよね」
俺はそう笑いながらスマホの画面を彼女に向けた。
画面には、妖艶に蠢く彼女の尻が映し出されていた。結合部分まではっきりと映っており、ドロドロに濡れた穴の中を黒光りするペニスがピストンしていた。
慌てた原田凉子は、俺の手からスマホを奪い取った。
「あっ、その動画は既に別のPCと携帯に送信しちゃってるから、削除しても無駄だからね」
原田凉子は、キッ! と俺を睨んだ。しかしスマホの中から、
『この計画で、私が最初に箕輪社長から依頼されたのは、「社員の中から殺してもいい奴を探せ」だったわ……』
という声が流れると、原田凉子はギョッとしながら画面を食い入るように見た。
そんな原田凉子の狼狽えた姿を、俺は優越感に包まれながら見ていた。「国士舘大学をなめんじゃねぇぞ」とせせら笑いながら再び腰をコキコキと振り始め、原田凉子が必死にスマホを見ている隙にと、改めて美人弁護士の見事な身体をじっくりと味わせて貰ったのだった。
俺は目を半開きにさせながらハァハァと荒い息を吐き、つきたての餅のように柔らかい乳房を揉みしだいていた。尻や太ももや腹など、体中を手の平で摩っては、そのスベスベとする肌の感触を楽しんだ。
そうしながら、発情した猿のようにコキコキと腰を振っていると、そんな俺の愛撫に全く動じていない原田凉子が、実に冷静な口調で「この動画をどうするつもり」と呟いた。
「さぁ……どうしようかね……俺の幼なじみに『週刊真実』の記者がいるからさ、取りあえずそいつに交渉してみようか……それとも、直接箕輪社長に交渉した方が早いかなぁ……ねぇ、どっちがいいと思う? 弁護士としての意見を聞かせてくれよ」
原田凉子の目は冷たい目に戻っていた。瞳孔が開き、まるで獲物を狙うオオカミの目のような迫力だった。
「いくら欲しいの」
原田凉子は、激しくペニスをピストンされているにも関わらず、冷静な口調でそう呟いた。
「んん……どうだろうね……相場がわからないから、いきなりそう言われてもねぇ……」
余裕の笑みを浮かべながらそう答えると、原田凉子は冷たい目のまま「わかったわ」と頷いた。
「商談しましょう。丁度私もあなたに買って欲しい画像と動画があるの。だからお互いに条件を出し合ってフェアに商談しましょう。いかが?」
俺は「いいねぇ」と笑いながらも、「但し」と付け加えた。
「あんたが俺に売ろうとしてるあのブツは、とっくに賞味期限が切れてるからね。あんたのアレと俺のコレでは、PHSとスマホくらいの差があるって事を忘れないでくれよ」
原田凉子は「わかってるわ」と柔らかく微笑んだ。
「あと、そのブツの持ち主。そっちも決着つけてくれないと困るぜ。あんたからそれを買った後、持ち主がリベンジポルノだなんて事も有り得るからね……」
そう笑いながらも俺は、「あの豚女を黙らせる事が条件だ。できるか?」と聞いた。
原田凉子はコクリと頷きながら、「小笠原由貴には、公証役場で誓約書を書かせるわ。今後、あの画像や動画を公にした場合は、いかなる損害賠償額を請求されてもそれに従います、ってね。それでいいでしょ?」と首を傾げた。
「いいだろう」と俺が頷くと、「もちろん、あなたにも同じ文面の誓約書を書いてもらうけどね」と、原田凉子は乱れた前髪を細い指で直した。
「さすが東大卒の弁護士だ。抜かりないね」
俺は笑った。
「あなたこそなかなかやるじゃない。宝石の営業マンにしておくには勿体ないわ」
彼女も笑った。
俺はそんな彼女の笑顔を見ながら更に笑った。この商談が上手く行けば遊んで暮らせると思うと、笑わずにはいられなかった。
しかし、そんな原田凉子の笑顔は突然消えた。いきなり顔を曇らせ、「それより……」と深刻そうに呟いたのだ。
そんな彼女の表情に不安を感じた俺は、「どうした? 何か問題があるのか?」と慌てて聞いた。すると原田凉子はソファーに押し倒されていた顔をムクリと起き上がらせ、未だペニスがヌポヌポと出入りしている結合部分をソッと覗き込んだ。
「とりあえず……中で出しちゃってもいいから、早く終わらせましょうよ。続きは商談成立の後にゆっくりとやればいいじゃない……」
原田凉子は、今までに見せた事のない可愛い笑顔でそう笑った。
俺はその笑顔を、彼女が俺を仲間として受け入れた証だと見た。
グチョグチョの穴の中に、ペニスを激しくピストンさせながら、(こいつとなら上手くやっていける)と確信した。
M字に曲げた脚をヒクヒクと痙攣させ、「あぁぁん、あぁぁん」と喘いでいる美人弁護士を見下ろしながら、(いよいよ俺も上流階級の仲間入りだ)と唇の端を歪めた。
ヌルヌルと滑る穴がペニスをコリコリと刺激していた。
それは、今までの原田凉子の穴にはない感触だった。
きっと彼女は、俺を早くイカせようと膣筋を絞めているのだろう、そんな彼女のサービスに、たちまち俺は限界に達した。
小さな穴がヒクヒクと吸い付き、俺の精液がチュルチュルと飲み込まれていった。
それはまるで、ローションを塗りたくった掃除機でペニスを吸い込まれているような、そんな吸引力だった。
その後、原田凉子との商談は、わずか三十分足らずで話がまとまった。俺の動画を原田凉子が三千万円で買い取り、俺が例の画像と動画を一千万円で買い取る事で商談は無事に成立した。
金は現金で貰う事にした。振込だと、もしもの場合、足がついてしまうからだ。
金の受け渡しは、一週間後の11月3日の文化の日と決まった。
場所はもちろん、このホテルだ。
差し引き二千万円の利益だった。
それにプラスして、今後、社長の奥さんに昏睡レイプされる度に五十万円の報酬が俺の懐に入る事になった。
俺は笑いを堪えていた。ここで笑えば原田凉子に足下を見られてしまうと思い、俺は、頬が歪むのを必死に堪えながら一人部屋を後にしたのだった。
エレベーターに乗り込むなり、俺は腹の底から笑った。
二千万円儲けた。俺が八年間死に物狂いで働いて得る額の金を、わずか半日足らずで手に入れた。
しかも、それと同時に美人セレブの奥さんと美人弁護士のオマンコまで頂いてしまったのだ。
(俺って凄くね?)
そうニヤニヤしながら、もしかしたら一生分の運を使い果たしてしまったんじゃねぇだろうな、と苦笑いする俺は、エレベーターの天井に両手を合わせながら(神様ゴメン、そしてアリガトさん)と戯けてみせた。
エレベーターが一階のロビーに着いた。
新宿Mホテルのロビーは、相も変わらず猥雑さと喧噪に満ち溢れていた。
煙草を吹かす水商売風の女、出会い系待ちの中年女、ドライバーを待つデリヘル嬢。そんな女達が所々に散らばり、強烈な香水の匂いをムンムンと撒き散らしていた。
売店には中国人の団体が群がっていた。そしてロビーの奥の応接セットでは、やっぱり暴力団風の男達が異様な空気を漂わせながら、巻き舌の声で怒鳴り合っていた。
出口へと歩き始めた俺の前には、明らかに未成年者だとわかる茶髪の少女が気怠そうに携帯を耳にあてていた。そんな彼女の前を通り過ぎた瞬間、「今、ホテルに着きましたぁ〜」という馬鹿丸出しの声と共に、梅雨時の東京湾に漂う澱んだヘドロ臭を感じた。
俺は、そんな破滅的な人々を背後にホテルを出た。
いつしか新宿公園はどっぷりと夕日に包まれていた。
朱色に染まる新宿公園の小道を進んで行くと、公衆便所の前のベンチで、サラリーマンらしき男二人が、胸ぐらをつかみ合いながら口論していた。
その公衆便所の脇では、額から血を垂らしたホームレスが、ブツブツ言いながらワンカップを飲んでいた。
そんな奴らを横目に公衆便所の前を通り過ぎようとすると、不意に男便所から出て来たおばさんと目が合った。
派手な化粧に露出の激しいワンピースを着たおばさんだったが、しかしよく見るとそいつは、女装したおっさんだった。
そいつの後から、中年のサラリーマンが慌てて飛び出して来た。そしてズボンのベルトをカチャカチャさせながらオカマ親父の背中に向かって、「お釣りは!」と怒鳴ったのだった。
俺は「ふんっ」と鼻で笑いながら夕日に染まる新宿公園を進んだ。
人生のゴミ捨て場のようなこの町で、欲望に翻弄されながらも、もがき苦しむ油虫共をせせら笑いながら進んだ。
俺は違う。
俺はあいつらとは違う。
俺は眠ったふりをしていただけで二千万円を手に入れた男だ。
毒林檎を喰うのは俺じゃない。
毒林檎を喰らうのはあいつらだ。
そう不敵に笑いながら横断歩道の前で足を止めた。
交差点を走り去る右翼の街宣車をぼんやりと見つめながら、今年の正月こそは、子供達をディズニーランドに連れて行ってやろうと思った。豪華なホテルに泊まり、好きなものを鱈腹食べさせ、嫌という程ディズニーグッズを買ってやろうと思った。
俺の頭上には、西日に照らされた都庁が卑猥に聳え立っていた。
そんな都庁は、いつ見ても胸糞悪かった。
しかし、来週の3日は違うだろう。
来週の3日、同じようにここを通る時は、きっと違う気持ちで都庁を眺められるはずだ。
そう思いながら、信号が変わった交差点を俺は都庁に向かって歩いた。
新宿公園を吹き抜ける秋の北風が、そんな俺のうなじを冷たく通り過ぎて行った。
(最終話につづく)
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