堕落のアッコちゃん(18)
2013/05/30 Thu 17:30
黒人の精液をゴクリと飲み込みながら、(これは私の本性ではない。これは私の中に巣食う病気がそう導いているんだ)と、明子は自分に言い聞かせていた。
そう必死に思い込みながら自分を見失わないよう踏ん張っていた明子だったが、しかし、喉を通過して行くナメクジのような精液の感触に、明子は動揺を隠しきれなかった。
もっと飲みたい、もっと飲ませて下さい、という言葉が、頭の中で活字となって現れた。それを必死に打ち消そうとしながらも、蛇がクリトリスをチロチロと舐める股間を覗き込み、唇の端から溢れた精液を垂らした。
ニトーっ……と糸を引いた精液は、明子の陰部を弄っている蛇の頭にピタっと落ちた。蛇はポタポタと垂れる精液を受けながら、明子の陰部にヌルヌルと滑り込んでいった。そして膣の中をゆっくりと掻き回しては、時折穴の中からヌポっと顔を出し、真っ赤な長い舌でクリトリスをチロチロと舐めたりしていた。
そんな蛇をぼんやり見ていると、突然、目の前の闇の中から、「大丈夫ですか……」という囁き声が聞こえて来た。
朦朧とした意識の中、その声ははっきりと聞こえた。この声は、今までの幻覚や幻聴とは明らかに違うと確信した瞬間、明子の意識が急速に回復し始めた。
恐る恐る視線を上げて見ると、そこには青い作務衣を着たおじさんがしゃがんでいた。おじさんは「大丈夫ですか?」と優しく囁きながら、項垂れている明子の顔を覗き込んでいた。
いつの間にか夜が明けていた。階段から青い光りが差し込み、ひたすら闇だった通路は、まるで海中のように青く染まっていた。
階段の上からはスズメの鳴き声がひっきりなしに聞こえ、遠くの空ではカラスの鳴き声が響いていた。
作務衣を着たおじさんは心配そうに明子の顔を覗き込んでいた。しゃがんだおじさんの横には、落ち葉がぎっしりと詰まったゴミ袋と竹箒が置いてあるのが見え、明子は、おじさんがこの神社の神主だと言う事に気付いた。
「酷い事をする人達がいるもんだ……」
神主は、やりきれない表情を浮かべながら明子の縄を解き始めた。
明子はとたんに安堵に包まれた。神様が、恐ろしい闇の中から私を助け出してくれたのだと思うと、脳で渦を巻いていた黒い魔物がみるみる溶けて行くような気がした。
明子はすぐにでも神主に御礼を言いたかったが、しかし、この状態で御礼を言うのはあまりにも恥ずかし過ぎた。せめて縄が解けてから御礼しようと思い、明子はそのまま気絶したふりをする事にした。
しかし、縄はなかなか解けなかった。緊縛師が縛った縄は、まるで呪縛のように明子の体に絡み付き、いくら神主が結び目を弛めようとしてもびくともしなかった。
そんな神主を、明子は薄目を開けて見ていた。ハサミを持って来れば早いのにと思いながらも、結び目と格闘している神主の指先をぼんやりと見つめていた。
すると、ふと神主のその手に、明子は不可解なものを発見した。神主のその毛深い手の甲に、白いドロドロとした液体がポツポツと付着していたのだ。
それは明らかに精液だった。そう思った瞬間、ふと明子は口内で粘ついている液体に気付いた。その苦みや粘りからして、やはりそれも精液に違いなかった。
不意に、黒人に口内射精された幻覚が蘇った。あれは幻覚ではなかったのだろうかと思いながらも、そんなはずはないと思った。こんな所に黒人の集団がいるわけがないのだ。
しかし、明子の口内で粘つく液体は紛れもなく精液だった。そして神主の手の甲に付いているのも精液に間違いなかった。
これはいったいどう言う事だろうと不思議に思っていると、ふと、陰部を弄っていた蛇の幻覚が頭に浮かび、その蛇の頭に精液がポタポタと落ちていたのを思い出した。
(まさか………)
明子の心臓の鼓動が暴れ出した。(嘘でしょ……)と絶望に暮れる明子の頭の中で、口内射精した黒人と神主が重なった。そして同じく、陰部を弄っていた蛇と神主の指が、明子の中で一致した。
再び黒い渦が明子の脳に現れた。しかし、渦を巻く魔物は一本の黒い紐となり明子の耳の穴からスルリと抜け出した。そして、まるで水墨で描かれた龍のようにうねりながら神主の耳の穴の中にスルリと潜り込んで行った。
「ここもダメだ……カチカチに結ばれてる……」
足首の結び目を解こうとしていた神主が、そう呟きながらゆっくりと顔を上げた。「かなり頑丈に結ばれてるな……」と途方に暮れる神主の目玉は、墨で塗りつぶされたかのように真っ黒になっていた。
「やっぱり……縄が湿っているここの結び目を解くのが、一番早いみたいだな……」
神主はそう独り言を呟きながら、縄が食い込むワレメの隙間に指を滑り込ませた。
ドロドロに濡れたワレメの中で縄に指を引っかけた。
それをそのままズラすと、縄はワレメからヌルっと外れ、そのまま股関節へズルッと滑っては、太ももの付け根にギュッと食い込んだ。
縄がズレたワレメは痛々しく口を開いていた。真っ赤な粘膜がベロリと剥き出しになり、そこから男達が散々吐き出した精液がとぷとぷと溢れ出した。
それを見た神主は、「なんと惨い事を……」と嘆くと、腰にぶら下げていた日本手拭いで精液を拭き取り始めたのだった。
精液は、拭き取っても拭き取っても中から溢れ出し、それでも神主は必死にワレメを手拭いで擦っていた。
しかし、上下に動く日本手拭いはクリトリスを刺激していたため、そのうち精液とはまた違う液体が穴の中から溢れ出し、薄い日本手拭いはネトネトに湿ってしまった。
「これでは埒があかん……」
神主は残念そうにそう囁くと、そのヌルヌルに湿った手拭いを床に投げ捨てた。
すると突然、誰かが階段を下りて来る足音が通路に響いた。
ソッと見ると、階段には、朝の青い光りにヨタヨタと歩くシルエットが浮かび上がっていた。
ヨタヨタと階段を下りて来たのは、茶色いジャージ姿のお爺さんだった。胸には、ゲートボール用の『七番』と書かれたゼッケンを付け、手には落ち葉が溜まったゴミ袋をぶら下げていた。
足音に気付いた神主は慌てて階段に振り向いた。そして、ヨタヨタと階段を下りて来る老人に向かって「岡田さん!」と叫んだ。
老人は、一瞬ビクンと肩を跳ね上げると、階段の途中でピタリと足を止め、「神主さんか?」と首を傾げた。
「大変だ岡田さん! すぐに救急車を呼んで下さい!」
神主がそう叫ぶと、老人は小さな目をしょぼしょぼさせながら狼狽え、「どうしましたか!」と聞き返して来た。
「わけは後で説明します! とにかく救急車をお願いします!」
老人は階段で背伸びをしながら、必死に中の様子を探ろうとしていた。しかし、再び神主に「早く!」と急かされると、持っていたゴミ袋を階段の途中に置き、ヨタヨタと階段を上がり始めた。
そんな老人の痩せこけた背中を、神主は真っ黒な目で睨んでいた。睨みながらも、明子の陰部にソッと指を這わし、ワレメの縦線に沿ってヌルヌルと指を上下させた。
しかし、階段を上る老人の足音が再び止まった。
老人は恐る恐る振り返ると、「神主!」と叫んだ。
「もしかしてまた自殺かね!」
そう叫ぶ老人の表情は悲観に暮れていた。
「違います! 事故ですよ事故! 自殺じゃありませんから騒がないようにして下さい!」
「誰かね!」
「岡田さん達の知らない人ですよ! そんな事より早く救急車を呼んで来なさい!」
遂に神主がそう怒鳴ると、老人は「うん、うん」と無言で頷きながら、慌てて階段を上がり始めた。
老人の健康サンダルがパタパタと鳴り響く足音と共に、膣の中を掻き回していた神主の指がヌポヌポとピストンし始めた。
「ふん……あいつらは、ゲートボール仲間達が次々に自殺していくもんだから恐れているんだよ……次は誰だ、今度はあいつか、そしていよいよ自分の番かと、毎日脅えながら暮らしてるんだよ……」
神主は、神主らしからぬ言葉をぶつぶつと呟きながら、もう片方の手で青い作務衣のズボンの紐を解き始めた。
「邪魔なんだよジジイ……ウザいんだよババア……毎朝毎朝毎朝毎朝ゲートボールばっかしに来やがってよ、コンコンコンコンと、朝っぱらからうるせえんだよ、とっとと自殺しちまえよ糞共……」
そう呟きながら、神主は作務衣の中から勃起したペニスを引きずり出した。勢い良く、ビン! っと飛び出したペニスは凶暴な爬虫類のように獰猛だった。根元は木の幹のように太く、真っ赤に腫れ上がった先っぽの亀頭は、威嚇するエリマキトカゲのようにクワっと傘が開いていた。
「自分で死ぬ勇気がねぇのなら、俺がぶっ殺してやろうか……あの毎朝コンコンとうるせぇゲートボールのトンカチでよ、一人ずつドタマを叩き割ってやろうか……」
ブツブツと呟きながらも、神主は、明子の陰部から溢れている男達の精液を指で掬い、それを自分のペニスにヌルヌルと塗り込んだ。
ぴた、ぴた、と湿った音を響かせながらペニスをシゴいている神主の目の中に、明子は真っ黒な魔物が渦を巻いているのを見た。
荒縄で縛られたままの明子の首に腕を回した神主は、もう片方の手でペニスの根元を握りしめながら明子の股の間に体を埋めた。
左腕に抱きしめられた明子は、神主のうなじに顔を押し付けられた。
神主の耳の裏には加齢臭が漂っていた。身動きできないままその匂いに耐えていると、硬い肉棒がヒダを掻き分けながら穴の中に侵入してくるのがわかった。
根元までペニスを突き刺した神主は、抱きしめる明子の耳元で「あぁぁぁ……」と深く唸ると、「朝イチのオマンコは気持ちいい……」と囁いた。
そのまま腰を動かし始めると、狭い穴の中を太い肉棒が出たり入ったりとピストンし始め、中に溜まっていた男達の精液が、膣の外へと、ぶちゅ、ぶちゅ、と押し出された。
神主は、階段を気にしながら腰のスピードを速めた。まるで男子中学生が、いつ親が部屋に入って来るかと脅えながらオナニーをしているように、階段をチラチラ見ながら腰を振っていた。
カクカクと腰が動く度に、明子の細い体はユサユサと揺れた。激しいセックスだったが、しかし、さっきのように感じる事は全くなかった。
むしろ明子は、冷静に神主を受け止めていた。
それは、この男は、今までの性的欲望を剥き出しにした獣達とは違うと思ったからだった。神主という理性を常に羽織い、本能という醜い快楽をひたすら隠し通さなければならない男の境遇が、優等生でありながらも変態性欲者である明子には痛いほど共感できたのだ。
(この男も……私と同じように……制止できない本能を、こうして薄汚い闇の中でこっそりジメジメと放出するしかないんだ……)
そう思うと、明子は神主のペニスをしゃぶってやりたくなった。肛門を舐め、睾丸を口に含み、そして膣の中で何度も何度も本能を放出させてやりたいと思い、急に切なくなった。
神主は激しく腰を振りながら、「どいつもこいつも……どいつもこいつも……死んじまえ……」と呟いた。そして明子の小さな乳房を鷲掴みにしながら、「中で出すぞ……孕ませてやる……」と、ヌルヌルとピストンする結合部分を覗き込んではハァハァと荒い息を吐いた。
(いいよ……アッコの中に出していいよ……)
明子は、薄目で神主を見ながら呟いた。
しかし、「うっ!」と顔を顰めた神主は、いきなりペニスをヌポッと抜いた。そして「あっ、あっ、あっ」と情けない声を出しながら、ヌルヌルのペニスをシコシコとシゴき、明子の陰部に精液を飛ばしたのだった。
びたっ、びたっ、と迸る熱い精液を小陰唇に感じながら、明子はこの男の淋しさを同時に感じ取った。
獣になりきれない人間。本能を隠し通して生きなければならない人間。そんな人間が惨めに思った。
それでも人間は、そうやって本能を隠しながら生きなければならない。それは明子もわかっていた。しかし、せめて誰にも見られていない闇の中くらい本性を曝け出せばいいのに……と思っていると、突然、地上から救急車の慌ただしいサイレンの音が聞こえて来た。
それと同時に、数人の老人達がバタバタと階段に現れ、さっきの茶色いジャージを着たお爺さんが、「救急車来たぞ!」と、階段の上から叫んだ。
見ると、既に神主は作務衣のズボンの紐を絞めていた。
階段を下りて来る救急隊員に向かって「ここです!」と手を振っていた。
そんな神主の目に、既に黒い渦はなかった。
黒い魔物は水墨画の黒龍となり、神主の頭上で黒い渦を作っていた。まるで次の獲物を探しているかのように、ぐるぐるぐるぐると回りながらゆっくりと移動し、通路を抜けて消えて行った。
「大丈夫ですか!」と叫びながら体に毛布を掛けてくれた救急隊員の声が、ふと、アントニオ猪木の「元気ですか!」に聞こえた。
そこで初めて明子の喉がヒクッと鳴り、いきなり「わっ」と涙が溢れた。
優等生明子の、堕落した長い長い一日がやっと終わったのだった。
(つづく)
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