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たまねぎの皮1

2013/05/30 Thu 15:38

たまねぎの皮1



 冷蔵庫の奥に五百ミリパックの牛乳を見つけた。賞味期限はとうの昔に切れていた。
 一応、蓋を開けてみた。牛乳はヨーグルトのようにドロと固まり、凄い臭いを発していた。小学生の頃、隣りの席の沢本和恵が、五時間目の授業中にいきなりクリームシチューのようなゲロを吐いた事があったが、それはあの時のゲロと同じ臭いだった。

 厨房の真ん中で巨大な寸胴をかき混ぜているチーフの所にそれを持って行った。当店自慢のデミグラスソースはチーフの命であり、これを作っている時の彼は馬鹿みたいに真剣だ。
 それをチーフの前に突き出し、「腐ってます」と告げると、おもいきり睨まれながら「捨てろ」と言われ、ついでに「そのくらい自分で考えろ」と面倒臭そうに言われた。

 長靴を大袈裟にカポカポ鳴らしながら、厨房の隅にあるポリバケツに向かった。ケチャップやらホワイトソースやら何だかわからない血のような液体が所々に飛び散っている青いポリバケツの中に牛乳パックを投げ捨てた。

 俺はそのポリバケツの前で、毎日毎日金色のタマネギの皮を剥いている。
 タマネギの皮むき一日千個。そんなノルマを達成すべく、俺は、朝から晩まで異臭の漂うポリバケツの前に座りながら、そのくだらないノルマの為だけに人生の貴重な時間を費やしていた。

「ここに捨てるな」

 楠木は意地悪そうな目で俺を見下ろしながら言った。
 楠木は俺の隣りでジャガイモの皮を剥いている先輩だった。毎日毎日ジャガイモの皮ばかり剥いてるせいか、その顔はなんとなくジャガイモに似ている。

「牛乳は臭くなる。別のポリに捨てて来い」

 楠木はそう言いながら、大量のジャガイモの皮をポリバケツの中にドドドっと落とした。
 俺はタマネギの皮を剥くその手を決して止めないまま、「タマネギのニオイの方がずっと強いから大丈夫ですよ」と言った。
 楠木はギッと俺を睨むと、「新入りのくせに生意気だな」と一言呟き、不貞腐れたようにして再びジャガイモの皮を剥き始めた。
 彼も又、『ジャガイモ皮むき一日八百個』というノルマを持っていたのだった。

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 中休みに入った午後の厨房は、各自がポジションに分かれて黙々と仕込みをしていた。
 カン、コン、ガタン、パシャー、ザクザクザク。様々な音が広い厨房に響き、白いコック服を着た男達がロボットのように同じ動きを繰り返していた。
 
 一週間前、俺は見習いコックとしてここに就職した。
 俺にコックの経験はなかった。それどころか今までに一度も働いた経験がなく、まして今年で三十を迎えようとしていた。
 履歴書に職歴をひとつも書けない俺だったが、しかし奇跡的に採用された。
 コック長から「取りあえず掃除を覚えろ」と言われた。柄の悪いコック達に「ニートかよ」と笑われながらも、毎日毎日掃除をしまくった。
 そして一週間後、遂に仕事らしい仕事を与えてもらった。
 それがタマネギの皮むきだった。

 楠木のジャガイモと競い合うようにしてせっせとタマネギの皮を剥いていると、突然厨房が騒がしくなった。
 それまで言葉一つ飛び交わなかった沈黙の厨房に、「ごくろうさまです」というコック達の精悍な声が響き、その合間に「ごくろうさま」というソプラノのような甲高い声が聞こえた。
 ふと見ると、三十代前半のやたらと背筋をピンッと伸ばした女が、迷路のような厨房の通路をスタスタと歩きながら、寸胴の中やらフライパンの中などを覗き込んでいた。

「あれ、誰っすか……」

 隣りの楠木に聞くと、いつの間にか楠木は立っていた。右手にジャガイモを握りしめたまま直立不動で立ち、厨房を歩き回る女をジッと目で追っていた。

「オーナーだ」

 楠木は唇を動かさないでそう呟いた。
 俺は、あんな若い女が? と驚きながら、亀のように首を伸ばして再び女を見た。
 綺麗な女だった。長い脚と白い肌、そして歩いているだけでポテポテと揺れる柔らかそうな乳。そんないやらしい身体のくせに妙に気品が漂うその女は、いつも俺が性処理にしているエロ動画のメス豚達とは別世界の生き物だった。

 ああいうセレブ女のオマンコってのは、いったいどんな具合なんだろう……
 ふとそんな事を思いながら、俺は妄想の中で女を全裸にした。

 クーラーの良く効いた豪華なホテル。真っ白なシーツの上で、俺は女の股を強引に開きながら、その美しい身体には不釣り合いなグロテスクな陰部を指で弄った。
「もうヌルヌルじゃねぇか」と薄ら笑いを浮かべながら俺はベッドに仰向けになった。
 いや、いや、と嫌がる女を強引に引き寄せ、俺の顔の上に跨がらせた。
 テラテラに光り輝く小陰唇が目の前に迫り、グニャっと歪んだワレメにはいやらしいメスの匂いが漂っていた。タプタプの乳を真下から見上げながらゆっくりとそこに舌を伸ばすと、女はハァハァと荒い息を吐きながらその部分をジッと見下ろし、「やだ……」と一言呟いた。
 舌を穴の中にヌルっと挿入すると、同時に女は「はぁん」と腰を引き、大きな乳をプルンっと揺らした。
 ヌルヌルの穴の中を舌で滅茶苦茶に掻き回し、そしてネトネトに糸を引くその舌でクリトリスを転がしてやった。
 女の股間からペチャペチャと卑猥な音が響き、女のいやらしい声が白いホテルの一室に響いた。
 あまりの快感に女は理性を失い、俺の顔面に陰部を擦り付けながら太ももを痙攣させていたのだった。

 俺の妄想は豊かだった。童貞なのに妄想が豊かなのは、毎日毎日エロ動画ばかり見ているせいだった。
 そんな妄想におもわず股間をムラムラとさせながら女を目で追っていた俺は、タマネギをギュッと握りしめながら楠木に聞いた。

「あの人、結婚してるんですか?」

 楠木は、横目でジロっと俺を見下ろしながら「独身だ」と答えた。

「やっぱ、金持ちなんでしょうね……」

「少なくともおまえの給料の千倍は持ってるだろ」

 楠木は、まるで腹話術の人形のようにジッと前を見ながら答えた。

「美人で金持ちで独身か……すげぇなぁ……」

 あんな女を自由自在に操ってみたいと思いながらそう呟いた瞬間、ふとこっちを向いた女といきなり目が合った。
 パンダのような可愛い目をしていた。しかし、俺が目を反らさないでいると、突然そのパンダのような目はキッと鋭くなり、気の強そうな眼光で俺を睨みながら、カツコツとヒールの音を鳴らしてこっちにやって来た。
 すかさず楠木が「ごくろうさまです!」と、女に頭を下げた。背筋を伸ばして直角にお辞儀する楠木は、まるで軍隊のように指までピーンと伸ばしていた。
 そんな楠木の態度に呆気に取られていると、女は俺の前で足を止め、まるでゴキブリの死骸でも見るような目で俺を見下ろしながら「誰?」と楠木に聞いた。
 一瞬俺はムカっと来た。俺に向かって「誰?」と聞くならまだしも、本人を目の前にしながら楠木にそれを聞くというのは、まるっきり俺を無視しているのと同じなのだ。

 俺は上目遣いで女を睨んでやった。
 すると、焦った楠木が「一週間前に入った見習いです」と慌てて女に言いながら俺の肩を突き、小声で「自己紹介しろ」と囁いた。

「水野っす……」

 俺は座ったまま呟いた。
 すると女は、そんな俺の太々しい態度を「ふっ」と鼻で笑い飛ばすと、真っ赤な口紅がギラギラと輝く唇を歪めながら、「例のニート君ね」と、楠木に笑った。

 女のその言葉に、厨房にいたコック達全員がゲラゲラと笑い出した。女は、コック達を笑わせた事に優越感を感じるように、ゆっくりと腕を組んだ。そして俺を見下ろしながら、再び「ふっ」と鼻で笑った。
 この野郎、と思いながら女の目をギッと睨み返した。
 そんな俺の殺気に気づいたのか、楠木が慌てて口を挟んだ。

「すみません、こいつ、まだ社会に慣れてなくて」

 女は、「あっそう」と素っ気なく呟きながら、ポリバケツの横に積み重ねられたタマネギの空箱へとゆっくり視線を移した。
 そして、俺の足下に散らばっていたタマネギの皮をヒールの先でクシャッと踏みつぶすと、「三十にもなって社会に慣れてない男には、もってこいの仕事ね……」と薄く微笑み、最後にもう一度「ふっ」と鼻で笑いながらクルリと背を向けたのだった。

 濡れたコンクリート床に女のヒールがカツコツと響き、それがゆっくりと遠ざかって行った。
 女はガス台で足を止めると、細い首をヌッと伸ばしながら寸胴の中を覗き、何やらコック長と話し始めた。

 それを見届けた楠木は、ふーっと溜め息をつくと、ひっくり返した空のビールケースの上に腰を下し、再びジャガイモの皮を剥き始めた。そしてジャガイモの皮を捲く音をサカサカと立てながら、「おまえ……クビだな……」とポツリと呟いたのだった。

「クビ? 俺が? どうしてですか?」

 俺は慌てて楠木に振り返った。

「あの人は、人の好き嫌いが激しいんだ。だから自分の気に入った者しか使わない……」

 そう呟きながら皮を剥いたツルツルのジャガイモをステンレスのボウルの中にコロンっと転がすと、楠木はチラッと横目で俺を見ながら「おまえは完璧に嫌われた……」と唇の端を歪ませた。

「で、でも、あれはあの人が……」

「でもも糞もない。この店では理由がどうであれ、一度オーナーに嫌われたら終わりなんだよ。だから諦めろ」

 俺は焦った。
 そもそも中卒ニートの俺がこんな有名店に就職できた事自体が奇跡だった。その奇跡を、こんなつまらない事で失ってしまうのかと思うと、俺は居ても立ってもいられなくなり、まるで下痢糞を必死に堪えるかのように焦りまくった。
「謝ってきます」と慌てて立ち上がると、女は既に厨房を出て行った後だった。
 立ち上がった俺を、寸胴の前に立っていたコック長が凄い目で俺を睨んでいた。
 コック長のその目は、明らかに俺を敵視している目だった。

 それからの俺はソワソワしまくっていた。いつコック長に呼び出され、「明日から来なくていいよ」と宣告されるのかと脅えていた。
 どっぷりと凹みながらモソモソとタマネギの皮を剥いていると、いつの間にか閉店時間になっていた。ふと気が付くと剥いたタマネギはたったの二百個だった。
 千個のノルマには足下にも及んでいなかった。


              ※


 店の入口には、既に『CLOSED』の看板が掲げられていたが、それでも一組のカップルが粘っていた。黒いスーツを着た男は水商売風で、東北の訛りのある女は明らかに風俗嬢だった。
 カップルは安いワインをチビチビと飲みながら結局十一時まで居座った。二人が店を出て行くと、待ってましたとばかり店内の照明がスッと落ちた。

 店が終わっても厨房はまだ動いていた。
 俺には厨房掃除という大役が残っていたが、しかしコック達が明日の仕込みを終わらすまでは掃除ができず、やる事のない俺は結局またタマネギの皮を剥き始めた。
 
 仕込みが終わるとコック達は早々と厨房を出て行った。
 楠木も、明日のジャガイモの箱をポリバケツの横に積み終えると、そそくさと帰ってしまった。
 誰もいない厨房は、突然シーンっと静まり返った。時刻は深夜一時を過ぎていた。しかし、ここからが俺の本当の仕事だった。今から俺は一人で、この広い厨房を全て掃除しなければならないのだ。

 しかし、そんな気力はとうに失せていた。どうせ俺は解雇される身なんだと思うと、床に落ちているタマネギの皮さえ拾う気にならなかった。
 溜め息混じりに「あ〜あ」と吐き捨てた俺は、シンクの横に積み重ねられていた灰皿の中から客が吸ったシケモクを一本摘まみ出し、ガス台で火を付けた。
 厨房に、禁断の煙草の香りがムワッと溢れた。ここは、何があろうと『絶対禁煙』だった。厨房で煙草を吸っている所を見つかれば、それが例え営業外であったとしても即刻解雇というルールだった。
 しかし今の俺にはどうでも良かった。どうせ解雇されるんだから別にどうって事はないと開き直り、換気扇も付けずに煙草をスパスパと吹かした。そして、客が残したワインをラッパ飲みしながら、冷蔵庫の中の生ハムを喰いまくってやった。

 生ハムだけでは物足りなくなり、銜え煙草のまま冷蔵庫の中を漁っていると、突然、ホールの方から足音が聞こえて来た。
 ホールの鍵を持っているのはオーナーだけだった。俺は慌てて生ハムを冷蔵庫の中に投げ込むと、煙草をシンクに溜まっている水の中に放り投げ、換気扇のスイッチを急いで押した。
 静まり返っていた厨房は、たちまち換気扇のグォォォォォォォォンという轟音に包まれた。
 それでもすぐには煙草のニオイは消えなかった。
 焦った俺はトチ狂い、いきなりガス台に火を付けると、そこにトマトケチャップをぶちまけた。
 ジュワァァァァァァ……という音と共に白い煙が立ち上がった。一瞬にして煙草のニオイは消えたが、しかし、焦げたケチャップのニオイは凄まじく、俺はゲホゲホと咳き込みながらその場に踞ってしまった。

 煙の向こう側で、厨房のドアがバタンっと開くのが見えた。
 そこに立っていたのは、案の定、女オーナーだった。
 女は呆然と立ちすくみながら、踞る俺に「これはいったいなんなの!」と叫んだ。

「すみません。ガス台を掃除してたらケチャップを零してしまいまして……」

 俺がそう誤魔化すと、女は慌ててハンカチで鼻を押さえた。そして、踞る俺におもいきり眉をひそめながら、「あんた、馬鹿じゃないの」と呟き、そのままガス台を避けるようにして厨房の奥へと足早に進んだ。
「すみませんでした!」
 俺はここぞとばかりに大声で叫ぶと、濡れたコンクリートの床に土下座した。そして「今度から気をつけます!」と叫びながら深々と頭を下げると、床で潰れていたパスタが俺の鼻先に触れた。
 女は裏口通路の鉄扉の前で立ち止まった。そしてサッと俺に振り返ると、ハンカチを鼻に押さえたまま露骨に顔を顰め、「あんた、もういいから帰りなさい」と、ゾッとするほどに冷たく呟いたのだった。



 女はそのまま裏口の通路に出て行った。
 ガシャンっと閉まった鉄扉の振動を聞きながら、俺は床で潰れているパスタを見つめていた。
 そんな潰れたパスタを見ていると、ふと、夏のアスファルトで潰れているミミズを思い出した。

 そのまま土の中でひっそりと暮らしていれば、あんな無惨な死に方をしなくても済むのだ。なのにどうしてミミズはわざわざアスファルトなんかに這い出して来るのだろう。
 ミミズは馬鹿なんだ。馬鹿だからのこのことアスファルトに這い出して来ては、車なんかに踏み潰されてしまうんだ。

 そう思いながらゆっくりと立ち上がった俺は、「俺もミミズと同じじゃねぇか」と吐き捨て、膝にこびりついたリゾットの米粒をひとつひとつ摘んで捨てた。

 中学を卒業してからというもの、カーテンを閉め切った暗い部屋の中でずっと2ちゃんとゲームばかりしていた。そんな糞ニートの俺が、食べログ人気ナンバーワンのイタリアレストランなんかで働こうとする事自体がそもそもの間違いなんだ。
 三十にもなって、一度もまともに女の子と話した事がない童貞親父なんかは、ミミズのように暗い土の中でシコシコとセンズリこいて一生を終わればいいんだ糞野郎。

 そう思いながらいつも楠木が座っているビールケースの上にぐったりと腰を下ろした。
 床でひらひらと舞っているタマネギの皮を長靴の爪先でパリパリと踏み潰しながら、今度こそ確実に家を追い出されるだろうと思うと、これからどうやって生活して行けばいいのか検討もつかず、無性に土の中のミミズが羨ましく思えた。

 絶望を感じながら、暫くのあいだ廃人のように床を見つめていた。
 コンクリート床に散らばる様々な食材のカスをぼんやりと眺めていると、食洗機とシンクの隙間でゴキブリの触角らしきモノがピコピコと動いているのに気づいた。
 それを横目で見つめながら、そいつを早く殺さなければと思ったが、しかし、どうせ俺はこの店を追い出される身であり、そんな俺が、今更この一匹のゴキブリを殺す意味はないと思った。
 そう思いながら、シンクの隙間を覗き込み、そこに潜んでいる真っ黒なゴキブリに「おまえ、命拾いしたな」と呟いた。
 すると、そう呟いた途端、生きている事が無性にバカバカしく思えた。ミミズもゴキブリも、人間様に生かされたり殺されたりしているのだと思うと、俺の人生もあの女オーナーに左右されているような気がしてならず、あんなヤツに殺されるくらいなら自分で死んでやると思った。

 どうせならこの厨房で死んでやろうと、首を吊れるようなロープを探した。しかし、そんな物がここにあるわけがなく、厨房の中を引っ掻き回しているうちに無性に腹が立って来た。
 いきなり俺は、シンクの下に置いてあった『秒殺コロコール』というスプレー缶を鷲掴みにすると、そのゴキブリに向かって「お前が死ね!」と怒鳴りながら十秒くらい噴射してやった。
 慌てたゴキブリは、凄まじい噴射に必死に耐えながらドタドタと走り出した。しかし、隙間に落ちていたカボチャの切り身に行く手を塞がれ、もはやそれさえも乗り越える事ができなくなってしまったミジメなゴキブリは、そのままコロンっとひっくり返ってしまったのだった。

 ひっくり返ったゴキブリの足は一瞬にして縮まった。丸まったゴキブリの死骸は、明治のアーモンドチョコレートに似ていた。
 そんな悲惨なゴキブリの死骸を見下ろしながら、俺はふと、「明日は我が身」と呟いた。
 自分で言ったその言葉が矢のように胸に突き刺さり、ゾッとした現実が全身を包み込んだ。
 もう三十なんだぞ、と自分に言い聞かせながら、持っていた『秒殺コロコール』を床に投げ捨て、カコンと転がるスプレー缶の音を背景におもわず走り出した。

(まだ間に合う! もう一度あの女に土下座しよう! そして何としてでも解雇だけは許してもらおう! あの女も鬼じゃないんだ、誠意を尽くして必死に謝罪すればきっとわかってくれるはずだ!)

 そう思いながら女が出て行った裏口の鉄扉を開けた。
 すると、通路に飛び出すなり、いきなりスキンヘッドの男と目が合った。

「えっ?」

 おもわず足を止めた俺に、スキンヘッドの男は無言で何かを投げつけてきた。
「わあっ」と頭を押さえた隙に、男は凄い勢いで逃げ出した。
 男が俺に投げつけた物は丸いガムテープだった。ガムテープは俺の肩をスレスレに通過し、背後のドアにガン! と当たった。
 俺は、いったい何が起きたのかわからないまま立ちすくみ、闇の中に遠ざかって行く男の足音を呆然と聞いていた。

 俺の足下をガムテープがコロコロと転がっていった。
 転がるガムテープの先には、信じられないモノが横たわっていた。
 そこには、女オーナーが無惨な姿で横たわっていた。
 荒縄でぐるぐる巻きにされた女オーナーは、まるで『秒殺コロコール』を噴射されたゴキブリのように、床に丸まっていた。

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「だ、大丈夫ですか!」

 慌てて近寄ろうとした俺に、女は口を塞がれたタオルの中で「来るな!」と叫んだ。
「えっ?」と俺が立ち止まると、女は口のタオルをモゴモゴさせながら「見ないで!」と叫び、ギッと俺を睨みつけた。

 そこで初めて、縛られた女の下着が脱がされている事に気づいた。薄いペラペラのピンクの下着が、床に無造作に投げ捨てられている。 
 立ち止まった俺は、カラカラに乾いた喉にゴクリとツバを飲み込みながら、もう一度「大丈夫……ですか……」と聞いた。
 荒縄でガチガチに縛られながら、体を『く』の字に曲げていた女は、真っ白な尻を丸出しにしながら「あっちに行って!」と金切り声を上げた。

 そこで我に返った俺は、慌てて「あ、はい!」と踵を返した。そして、目の前の鉄扉のノブを掴みながら厨房に逃げようとすると、今度は「ちょっと待って!」と女は叫んだ。

 俺はドアノブを握ったままゆっくりと振り返った。
 女は今にも泣きそうな目で俺を見つめていた。

 そんな女の尻からは、明らかに精液だとわかる白い液体がトロトロと滴り、それが蛍光灯に照らされながらテラテラと輝いていたのだった。

(つづく)

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