妻ようじ4
2012/12/02 Sun 00:03
俺は、ボソボソと話す男をジッと見ていた。
しかし、そんな男の顔は俺の目には映ってはおらず、ただひたすら精液で汚される妻の姿ばかりが目に浮かんでいた。
妻はこの男に精液をぶっかけられた。一撃目は首に飛んだらしいから、妻はきっとそれを洗い流す為に、部屋に戻るなり慌ててシャワーを浴びたのだろう。
そんな事を考えていると、いつしか男の話は止まっていた。
ふと男を見ると、男は正座したままジッと俺の股間を見ていた。
「……なんだよ」
俺が睨むと、男は真剣な顔で「旦那、勃起してますね」と言った。
カッと頭に血が上った。この間男にバカにされているような気がした俺は、男の顔面をおもいきり蹴り付けてやった。
「うわっ」と後ろにひっくり返った男は、「違うんです! そーいう意味で言ったんじゃないんです!」と慌てて起き上がった。
「じゃあどういう意味なんだよ!」
俺が怒鳴ると、男は「待って下さいよ、そんなに興奮しないで下さいよ……」と、情けない声でそう言いながら、ダラダラと溢れ出した鼻血を作業服の袖で拭い、そして、脅えた目を俺におろおろと向けながら「奥さんがね……言ってたんですよ……」と呟いた。
「なんて言ってたんだよ」
「ウチの旦那はインポだって奥さんがそう言ってました……でも、今、旦那さんのチンポは勃起してるでしょ……だから不思議だなぁっと思って……」
俺は慌てて足を組み、熱くなっているモノを股間に挟み込んだ。そして「別にインポなんかじゃねぇよ。ただ最近女房とヤッてなかっただけだよ」と恥ずかしそうにボソリと呟いた。
すると突然男は興奮しながら叫んだ。
「じゃあすぐにヤってやって下さい!」
「なんだよいきなり、びっくりするじゃねぇか」
「いや、私は思いますよ、あのままではあなたの奥さん、ダメになっちゃいます……」
そう深刻そうに呟く男に、俺は重たい不安に包まれながら「どういう意味だ」と聞いた。
すると男は、恐る恐る俺の顔を覗き込みながら「絶対に怒らないって約束してくれますか?……」と言ってきた。
「……わかった。約束する……だから早く言え……」
そう言いながらも俺はソレを聞きたくはなかった。これ以上、苦しみたくないと本気でそう思っていたからだ。が、しかし、ここでソレを聞いておかなければ、後でもっと苦しむだろうと思った。ソレをここで聞いておかなければ、この先ソレが何だったのかと気になり、一生苦しまなければならないと思った。
俺は覚悟を決めながら男の顔をジッと見ていた。
男は、最初のうちは言いにくそうな顔をしていたが、しかし、俺の真剣な顔を見て、自分も真剣な顔をした。
「奥さんは病気です」
「……病気?」
「はい。といっても性病とかじゃなく、心の病気です」
「…………」
「旦那さんを目の前にしてこんな事を言うのは残酷なんですが……はっきり言って奥さんは変態です。いわゆる色情魔というやつです。実は私、何度か出会い系サイトで遊んだ事があるんです。そこで奥さんのような女と何度も出会いました。彼女達はとっても危険です。興奮して来ると、アナルに入れてくれとか、縛ってくれとか、平気で言い出します。ただ、その相手が旦那さんなら別に大した問題じゃないんです。私が心配するのは、もし相手が、初めて会った見知らぬ男で、ましてそいつが変質者だったら……」
俺は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
確かに俺も、妻にその気があるとは前々から思っていた。正直言って、そんなスケベな妻とのセックスは楽しかった。だから今まで別に問題にしていなかったのだが、しかし、こうも面と向かって堂々と他人にそれを指摘されると、改めて凄まじい焦燥感に襲われた。
俺はガバっと立ち上がった。
すると男は「待って下さい!」と俺を見上げた。
「なんだよ……」
見下ろす俺の目をジッと見ながら男がゆっくりと立ち上がった。そして無言のままカチャカチャと自分の作業ズボンのベルトを外し始めた。
「……なんのつもりだ……」
狼狽える俺に向かって男はペニスを引きずり出した。ペニスは萎れていたが、しかしそれでも絶句するほどにそのペニスは大きく、そして太かった。
男はそんなペニスを自分でシコシコとシゴき始めると、倉庫の奥にあるボイラーを指差しながら言った。
「あのボイラーの前であなたの奥さんとヤリました。奥さんは電気を消してくれと言いましたから、真っ暗闇の中、コレで背後から奥さんを犯しました」
男は勃起したペニスをギュッと握りしめながらそう言った。勃起した男のペニスはペットボトルほどもあり、優に俺のペニスの三倍はあった。
「どうです。デカいでしょ私のチンポは。奥さん、このチンポで何度もイッてましたよ。奥さんは、私のコレが随分と気に入ったようでしてね、これからも内緒で会ってくれとせがんできましたよ。もう、旦那のチンポじゃ感じないってズバリ言ってました」
「…………」
「失礼ですが、旦那さんのチンポ、異常に小ちゃいらしいですね。奥さん言ってました、旦那のチンポは『つまようじ』だってね。だからこれからも私のチンポが欲しいんだと言ってました」
「てめぇ、何が言いたいんだ……」
私は屈辱に顔を歪めながらそう唸った。
「ほらまた怒った。約束が違うじゃないですか……」
男は呆れたように笑った。
俺は、ここで男に逃げられては一生悔やむと思い、涌き上がる怒りを必死に堪えた。
「わかった。もう怒らない。だからなんだ、はっきり言えよ」
「要するに……あなたの奥さんはもう私のコレなしでは生きられないという事です。もし、旦那さんがそれを阻止すれば、事態はもっと悪化するでしょう……つまり、色情魔のあなたの奥さんは、私以外の巨根を求めて、あらゆる男達の前で股を開くという事です」
俺の顔は一瞬にして青ざめた。確かにこの男の言う通り、こんなドデカいチンポを入れられてしまっては、もはや俺の『つまようじ』では妻は満足しないだろう。
俺はスーッと肩の力を落とし、穏やかな口調で男に聞いた。
「どうすればいい……教えてくれ……」
男はコクンっと頷いた。
そして、まるでどこかのセールスマンのように「レンタルして差し上げましょうか?」と、石焼き芋のようなペニスを俺に突き出しながら言った。
「……いくらだ……」
俺は、どこの馬の骨かもわからないような男達にヤられるくらいなら、もはや一発ヤってしまっているこの男の方が安全だと思い、そう尋ねた。
「一回五千円でどうですか。病気の治療だと思えば安いもんでしょう。病気が悪化して、発情した猫のようにそこらで妊娠させられて来るよりはマシですよ。まぁ、その代わりと言っちゃなんですが、その時は奥さんが求めるだけ何発でもやってあげますから」
俺はそんな男の顔を屈辱にまみれた目で睨んでいた。
しかし、背に腹はかえられない思った。
それに、俺自身、そのほうが……
俺はギッと男を睨みながら言った。
「わかった。五千円で手を打とう。但し、ひとつだけ条件がある……」
男は「へっ、なんでしょう」と、まるで戦国時代の堺の商人のように揉み手をしながら腰を屈めたのだった。
※
あれから……
三週間が過ぎた。
俺はいつものように、居間で寝転がりながら『アッコにおまかせ』を見ていた。
息子は部屋の隅で仮面ライダーのオモチャで遊んでいた。
そして妻は、「ちょっと用事に行って来るね」と言い残し、どこかに出掛けていった。
「ママはどこに行ったの?」
息子は仮面ライダーを頭上高くまでジャンプさせながらポツリと呟いた。
「用事だよ……」
鼻くそをほじりながら答えると、「用事って何?」と言いながら息子が振り向いた。
「用事だよ用事。用事だからすぐに帰って来るよ」
すると息子は、「用事……」と口の中で呟きながら仮面ライダーを着地させると、「つまようじみたい」と笑った。
息子のその言葉が俺の胸に突き刺さった。
「俺は糞だな……」と自分に呟きながら峰竜太の胡散臭い笑顔をぼんやり見ていると、ポロロロロンっとメール音が鳴った。
サッと起きた俺は卓袱台の上の携帯を手にすると、ドキドキしながら携帯を開いた。
『管理人室にて』というタイトルのメールは例の男からだった。
そこには、約束通り画像が貼られていた。
これを見てしまったら俺は……俺は……
そう呟きながら、息子に見られないように壁に背を向けた。
大きく息を吸った。
そして、息を止めたまま画像を開いた。
妻は全裸だった。
男も全裸だった。
ソファーの上で横向きに寝かされた全裸の妻の背後に、全裸の男が張り付いていた。
妻の左足を持ち上げ、股を大きく開きながら、そこに巨大な肉棒を根元まで突き刺していた。
妻のその表情は、阿呆の子供のようだった。
完全に脳が蕩けているようだった。
こんな妻の顔は今まで見た事がなかった。
そんな妻の表情に堪らなくなった俺は、一刻も早く射精したくなり、携帯を握りしめたままトイレに向かった。
「パパ? どこいくの?」
背後で息子の声が聞こえた。
「糞」
そう吐き捨てトイレの中に入ると、すぐさまジャージのズボンを下ろした。
ピーンっと突っ立ったペニスがポロンっと飛び出した。
それはまさしく『つまようじ』だった。
俺は再び「糞っ」と吐き捨てた。
(妻ようじ・完)
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