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蠢女18(人肉屋)

2012/12/02 Sun 00:01

18蠢女




 男は私にヒデオと名乗りました。年は四十八歳、独身の素人童貞だと自慢げに笑っていました。
 ヒデオはハイヒールモモコのような顔をした死体の顔の上にドスンっと腰を下ろしました。脱ぎ捨てていたエプロンのポケットの中からタバコを取り出すと、それに火をつけながら私を見ました。

「それにしてもキミは、ボクに発見されてラッキーだったね。これがヤンの手下だったら、こんなわけには行かないぜ。秒殺で解体されてニシキ屋さんに売られちまうぜ」

 そう威張りながら笑うヒデオに、私は「ニシキ屋?」と首を傾げました。

「そう、食肉加工販売のニシキ屋。歌舞伎町で一番でっかいお肉屋さん」

「…………」

「ボクたちはね、ニシキ屋さんの下請け業者なんだ。ヤンたちから材料を安く仕入れて、それを加工してニシキ屋さんに買ってもらってんだ。だからボクはヤンの組の者じゃない。あんな腐れ外道たちとは違うから安心してよ」

 私はゴクリと唾を飲みながら、ビニール袋の中に入った肉の塊をソッと見た。そして恐る恐るヒデオを見上げながら「材料ってのはこれですか?」と聞きました。

「うん。人肉。ヤンたちが殺した女の尻と太ももの肉さ」

「…………」

「人肉は高く売れるんだぜ。日本人には究極のグルメが多いからね」

「…………」

「但し、人肉にも牛と同じように等級があってさ、老人は一番低い三等。爺婆の肉は硬いからね。成人男は四等。男は臭みが強いんだ。中年になると加齢臭もキツいしね。で、キミみたいな若い女だと最高の五等になる。中年女の熟した肉も柔らかくて人気あるけど、でもやっぱり十八歳から二十五歳までの肉が最高だね。さくさくして歯ごたえがいいんだよ。まぁ、最近では子供の肉なんかも一部のマニアの間では人気だけど、でも、あれは正直お勧めしない。ガキの肉は旨味が弱いんだよ、脂が少ないからね……」

 私はその話を愕然と聞きながらも、ヤンたちの組織が若い女ばかりを狙う理由がわかった気がしました。

「これを間違えると大変な事になるんだよ。なんてったって相手は死人だからね、年齢を聞くわけにもいかないし、それに、性別がわからなくなってる死体も沢山あるからね……。この間もさ、中年女だと思って解体してたら、なんとそいつはオカマだったんだよ……あれは大変だったよ、正樹おじさんに『これは男の尻だ!』って大目玉喰らってさ、ついでにゲンコツまで喰らっちまったよ。だから見た目だけでは判断できないんだ人肉ってやつは。実際に触ってその肉質を確かめなきゃわかんない……ま、ここのヤンの倉庫だったらほとんどが若い女だからわかりやすけどさ、これが八王子のシンの倉庫や、川崎のリンの倉庫だと大変なんだよ。あっちにはいろんな死体があるからね」

「他にも、こんなところがあるんですか?」

 私は驚きながら聞きました。

「沢山あるよ。全国にある。でも、ウチが出入りできるのは、ここと八王子と川崎だけ。八王子のシンの倉庫は病死体だね。身寄りの無い死体とか解剖した死体なんかを病院や老人ホームから買い取って保管してんだ。川崎のリンの倉庫は酷い。あそこはヤクザがらみの死体が多いから、ほとんどがおっさんばっかなんだよね。しかも倉庫が山の中の産業廃棄物処理場だからさ、夜中に野犬なんかに死体を荒らされて、保存状態が悪いのなんのって、もう最悪だよ」

「そんな肉を……誰が買うんですか……」

 私が聞くと、ヒデオは「そりゃあ言えないよ」と笑いました。

「それがバレたら日本は崩壊しちゃうよ。たとえ弟子のキミにもそれだけは言えない……ってね、はははは、ボクも十年前、正樹おじさんにそう言われたんだ。実はボクもこれがどこで売られてるのか教えてもらってない。ただ……」

 ヒデオはそう言いながら深くタバコを吸い込むと、そのまま吸っていた煙草をハイヒールモモコの口の中で消しました。

「ヤンの死体に関しては政治家たちが絡んでるのは間違いないね。ヤンの携帯にはいつも○○党の議員の秘書から電話がかかって来てるからね。とにかくあいつらの中には変態が多いから、人肉喰ってても不思議は無いよ。噂では、その人が虐殺されるシーンを撮影したDVDを見ながらその人肉を喰ってるっていうからさ、まったく悪趣味だよな……」

 私の中で、不意に何かと何かが繋がった気がしました。
 反日組織、日本政府、虐殺、地下死体倉庫、人肉、政治家……。
 もし、これらが全て繋がっているとしたら……
 そう思った瞬間、無意識に私の背中がブルブルっと二度震えました。
 日本の政治家が反日組織に若い女を殺させ、その人肉を食べているのです。
 国民を守るはずの政治家が国民を食べているのです。
 しかし、そんなあり得ないような事でも、それは、私の中では十分にあり得ることでした。
 山の上の精神病院で職員たちに虐待される患者たちを大勢見て来た私には、それが納得できました。救助された自衛隊員に集団レイプされた経験のある私にとっては、政治家たちが惨殺DVDを見ながらその人肉を食べている事など、全然あり得る事なのです。
 私は、この世の中、いったい誰を信じればいいのかわからないと思い、がっくりと項垂れました。

 すると、そんな私を見たヒデオは、何を勘違いしたのか「大丈夫って。ボクが指導してあげるから出来るって」と、私の顔を覗き込みました。
 私は「はい」と頷きました。そうです。今は命が助かっただけでも感謝しなくてはならないのです。
 私はサッと顔を上げると、ヒデオの目をジッと見ながら「先輩、よろしくお願いします」と頭を下げました。
 するとヒデオは、そのオオサンショウウオのような顔に満面の笑みを浮かべ、照れくさそうに「でへへへへへへ」と笑ったのでした。
 そんなヒデオに、私は表情を曇らせながら「ただ……」と、聞きました。

「ヤンも、顔が刺青だらけの大きな男も、そしてヤンと一緒に住んでいる中国人の女も私の顔を知ってます……私がここで働いている事がヤンにバレたら……」

 するとヒデオは「顔を焼いちゃえばいいじゃん」と平然と笑いました。

「簡単だよ。バーナーでガァァァァァって炙っちゃえばいいんだよ。そんで軟膏塗っておけばさ、三日もしたら全然違う顔になれちゃうよ。だから顔を焼けばいいんだよ」

 まるで日焼けサロンで焼くかのように簡単にそう言いながら、ヒデオは「実はね」と、自分の顔を太い指でなぞりました。

「ボクも顔を焼いてるんだ。ボクはね、実は、十年前、あるカルト教団にいたんだ。そこでテロ事件を起こして全国指名手配になって、そして逃げてる所を、三年前、正樹のおじさんに拾われたんだ。だから顔を焼いちゃった。正樹のおじさんに『捕まったら死刑だぞ』って脅されてね、殺されるくらいなら顔を焼いた方がいいって思って、それで正樹のおじさんに焼いてもらった。ちょっと痛かったけど、でも今は焼いて良かったと思ってるよ。生きてさえいれば、楽しい事が沢山あるからね」

「…………」

「キミも焼いた方がいいよ。昔の自分とおさらばするんだ。顔を焼いて別人に生まれ変わって、新たな人生を歩むんだ。それとも……ヤンに見つかって殺された方がいい?」

 私はブルブルっと頬肉を揺らしながら首を振りました。

「じゃあ焼いちゃおう。明日もボクが当番の日だから、明日、バーナーを持って来てあげるよ」

「誰が焼くんですか?」

「ボクに決まってるじゃないか。こんな事、正樹おじさんなんかに頼めないよ。正樹おじさんはヤンが怖くていいなりになってるから、もし正樹おじさんにキミの存在がバレたら、すぐにヤンの所に連れて行かれちゃうよ」

 死を選ぶか。それともこの変質者に顔を焼かれるか。私は究極の二者択一に迫られながらも、結局、生きる事を望んだのでした。

「じゃあ、今日の所は、ボクはコレをとっとと始末して帰るからさ、明日までここで我慢しててよ。明日、顔を焼いたら正樹おじさんに紹介して、ちゃんとした部屋を用意してもらうから」

 ヒデオはそう言いながら立ち上がると、髪の長い女の尻に包丁を刺しました。
 尻の右側の肉を、円を描くようにしながらスーっと丸く切ると、そこからジワっと血が滲んできました。

「こいつは新鮮だから血の気が多い……こういうのは素早く切っちゃわないと次々に血が溢れて何がなんだかわかんなくなっちゃうんだ」

 そう言いながら、丸く切った右の尻肉を、素早く骨盤からザクザクと外しました。
 そしてその丸い肉をビニー袋の中に放ると、今度は左の尻に包丁を刺そうとしました。

「あ、ちょっと待って下さい!」

 私はヒデオの手を止めました。
 ヒデオは不審そうに「ん?」と私を見上げました。

「そっちのお尻、私にやらせて下さい」

 そう言うと、ヒデオは複雑な表情をしながら「これは死んでからまだ数時間しか経っていないA五等級だぜ……一番高く売れる肉なんだけど……本当に出来る?」と、恐る恐る私の顔を覗き込みました。

「頑張ります。是非ともやらせて下さい先輩」

 その『先輩』という言葉が効いたのか、ヒデオは嬉しそうに頬を緩めると、「よし、やってみろ」と、とたんに先輩ぶり、そして何の抵抗も無く私にその鋭い包丁を渡したのでした。

 私は髪の長い女の尻に包丁を刺しました。
 私は生きている人間の目玉をくり抜いた事もあるのです。死んだ女の尻の肉を削るくらいどうてことありません。
 私は、そう自分を励ましながら、見よう見まねでそこに円を描きました。そして魚を三枚下ろしにするように包丁を斜めに傾けながら、骨盤と尻肉の間をザクザクと切って行きました。

「そこ、難しいよ。慎重にね。肉の目に沿って切らなきゃ、筋が骨盤に引っかかって肉がボロボロになっちゃうから」

 私のすぐ横で、ヒデオは切り刻まれる尻肉を覗き込みながら言いました。
 そんなヒデオの横顔をソッと見ながら、今ならこいつを殺せる、っとふと思いました。このままこいつの喉元に、この長い肉切り包丁を突き刺してやれば、さすがの大男も一巻の終わりなのです。
 しかし、私はそう思いながらも、それを実行する気はありませんでした。ヤンと政治家たちの恐ろしい実態を知ってしまった私には、もはや逃げる気力はありません。どこに逃げても逃げられないのです。例え警察に逃げ込んでも、必ずヤンと政治家たちの真っ黒な手が伸びて来るのです。今更、警察など信用できるわけが無いのです。
 自分を信じて生きいくしかない。そう心に誓った私は、ヒデオに顔を焼いてもらい第二の人生を歩む決心がついていました。
 今はここでこうして死体を解体しながら生きるのです。耐えて耐えてひたすら耐えてとにかく生き延びるのです。そしてそのうち必ずチャンスが訪れます。その時こそ、新たな第二の人生を楽しむのです。

 そう思いながら尻肉を骨盤から外していると、ふと、背後に異様な視線を感じました。
「はっ」と振り向くと、いつの間にかヒデオが私の背後でしゃがみ、せっせと作業している私のTバックの尻を覗き込んでいました。

 ヒデオは私の顔を見上げるなり「ごめん。ついつい」と笑いました。そんなヒデオの小さな陰茎はツンっと上を向いていました。
 急にこの醜い変質者が可愛くて堪らなくなりました。
 私はそんなヒデオに柔らかい笑みを浮かべると、自らその場に四つん這いになり、白いTバックをスルスルと下ろしました。
 そして、そのまま、この醜い獣のような男に、生きた人肉を与えてやったのでした。

(つづく)

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