蠢女17(屍姦)
2012/12/02 Sun 00:01
あんな熊のような男を一撃で倒すなど絶対に無理だと思いました。
しかもそいつは、私よりも遥かに殺傷能力のある肉切り包丁を腰にぶら下げているのです。
たちまち怖気づいた私は、蛇が目の前を通り過ぎるのを待つカエルのように、ジッと身を潜めながら震えていました。
男は口笛を吹きながら死体の中をぐじょぐじょと進んできました。
川の中で釣りをする人が履いているような、そんな腰までもある大きな長靴を履いたその男は、そこに積み重なる死体にまるで怯む事無く、平然と死体の山を昇って行きました。
男は、さっき私が足を温めていた長い髪の女の死体を片手でヌッと持ち上げました。
「こりぁ、ひでぇなぁ……」
そう独り言を呟きながら顔を顰めた男は、その死体を入口に向けて放り投げました。
まるで雪山を滑る橇のようにして女の死体は山を滑ってきたのでした。
男は髪の長い女以外にも、もう一体、中年女の死体を山から滑らせました。
二つの死体は、事もあろうか、私のすぐ目の前で止まりました。
あいつがこっちに来る。そう身構えた私でしたが、しかし、到底敵う相手ではありません。私にはそこで死んだフリをするしか方法はなかったのでした。
再び口笛を吹きながらやって来た男は、私のすぐ目の前で足を止めると、そこで二つの死体をうつ伏せに寝かせました。
男は二つの死体の尻をパンパンと叩き、そして太ももの裏を指でグイグイと押していました。
男は中年女の尻の前にしゃがむと、腰にぶら下げていた包丁を抜き取り、それを中年女の尻にプスっと突き刺しました。
紫色の舌でカサカサの唇をペロペロと舐めながら、鼻歌の続きを歌い始めました。そして見事な包丁さばきで女の尻肉と太ももの肉を削ぎ落とし、瞬く間に女の臀部と大腿部を骨にしてしまったのでした。
男は緑色のビニールエプロンのポケットの中から大きなビニール袋を取り出し、削ぎ取った肉の塊をその中にボトボトと入れました。そして尻の肉を削られた無惨な中年女の髪を鷲掴みにすると、死体を片手で軽々と持ち上げ、それを鉄格子に向けて投げ捨てました。
男は、包丁に付着した黄色い脂肪をビニールエプロンで拭き取りながら、長い髪の女の尻の前に立ちました。そして、「新しいねぇ〜まだムチムチしてるねぇ〜」と、嬉しそうに目を細めながら笑うと、いきなりエプロンを外し、せっせと服を脱ぎ始めたのでした。
全裸になった男は、「ぷひひひひひひっ」と、なぜか照れくさそうに笑うと、「見ないでくれよ〜」と自分の陰部を両手で隠しました。
そんな男の全身は毛で覆われていました。とぐろを巻く胸毛が腹まで伸び、それが陰毛と繋がっては足の臑毛と合流していました。
まさに熊でした。体中に体毛がとぐろを巻いているその裸体は熊そのものでした。
男は女の尻の前にしゃがむと、女の尻を撫でたり摘んだりしながら自分の陰茎を摩擦し始めました。陰部も毛で覆われていました。わずか数センチ程しかない小さな陰茎は、どくろを巻く陰毛の中に埋もれてしまっていたのでした。
男は死体の尻肉を両手で開きました。そしてそこを覗き込みながら「ちっ」と舌打ちしました。
「だめだよこんな物入れちゃ……誰だよこんな事するのは……」
男はぶつぶつとそう言いながら、女の膣や肛門の中に入っていた石ころを一つずつ抜き取り始めました。
ゴルフボールほどのその石ころは、全部で十二個埋められていました。男はそれらをひとつひとつ周囲の死体に投げつけ、「変態め!、変態め!」と叫びながら怒っていたのでした。
全ての石を取り除くと、男は満足そうにそこを見つめながら勃起した陰茎を突き出しました。
まさに猟奇的な変質者でした。なんとこの男は、惨殺された死体を犯し始めたのです。
しかも男のすぐ下には、数えきれない程の死体が積み重ねられているのです。にも関わらず男は、平然とその死体の尻に腰を動かし、「あぁぁぁぁ」などと、快楽の呻きをあげているのです。
完全に狂っていると思いました。今まで、あの山の上の精神病院で様々なキチガイと出会ってきましたが、これほどの異常者はみた事がありません。
私は、そんな男に恐怖を覚えながらも、しかし一方では、こいつなら殺せるかも知れないと思いました。
この男が射精する瞬間を狙い、あのオオサンショウウオのような大きな頭に、大腿骨の鳶口を突き刺してやればいいのです。
こんなチャンスは二度とありません。やるなら今しかありません。
私は死体の中で、大腿骨の武器をソッと握り返しました。そしてそいつが射精する瞬間を見逃すまいと、ジッと男を睨んでいたのでした。
女の尻で腰を振る男は、横向きにした髪の長い女の顔を見つめ、「気持ちいいか? ほれ、ほれ」と笑っていました。
私は男の腰の動きやその息使い、そして呼吸などにも耳を澄ませながら、その腐れ外道を睨んでいました。
すると、突然男の視線が私に向きました。私は心臓が止まるかと思いましたが、しかし視線を反らす事もできず、そのまま息を止め固まったまま死んだ振りをしておりました。
「おいおい、そんな怖い顔して睨むなよ……」
男は、私を死体と勘違いしているらしく、私を見ながらそうニヤニヤと笑いました。
しかし次の瞬間、そんな男の腰の動きがいきなりピタリと止まりました。
「あれ?……こんな女、いたっけ?……」
男はこれだけの死体を全て把握しているのか、私に向かってそう首を傾げました。そして「あれぇ?」と不思議そうに言いながら、女の尻からムクリと体を起こしました。
男が両膝立ちになると、血まみれの陰茎が、人を刺したばかりの果物ナイフのようにヌッと現れました。
男はそれをピコピコとさせながら這ってきました。そして私の顔を覗き込むと、「変だなぁ……」と呟きました。
私は骨の武器を強く握りしめました。もはや絶体絶命だと思った私は、男が私に触れた瞬間、襲い掛かろうと腹を括りました。
すると男は、突然何かを思い出したかのように、「あっ、そっか!」と、グローブのような握り拳をもう片方の手の平の上でパンっと鳴らしました。
「キミだったんだね、ヤンをやっつけようとした女ってのは」
男はパッと顔を明るくさせて微笑みました。
「聞いた聞いたよ。ヤンのヤツ、歯軋りしながら怒ってたって正樹おじさんがいってたよ。ははははは、キミ、なかなかやるじゃないか、あのヤンをそんなに怒らすなんて」
男は嬉しそうに笑うと、息継ぎもせぬままそのまま喋り続けました。
「ボクもね、いつかはあの変態野郎をぶっ飛ばしてやろうと思ってたんだ。でもね、正樹おじさんがやめろって言うから我慢してたんだ。あいつは○○人のくせに威張りすぎなんだよ。○○人のくせに日本人のボクの事を奴隷みたいにこき使ってさ、ホント、嫌なヤツだよあいつは」
男は私の顔を覗き込みながら一生懸命話していました。私が死んでいると思っているのか、それとも生きていると知ってて話しているのかわかりません。
しかし、私が生きているとわかるなり、いきなり襲い掛かって来る事も考えられ、私は死んだ振りをしながら骨の武器を握りしめていたのでした。
すると、男はピタリと話を止めました。
「ねぇ。ボクの話、聞いてんの?」
男はそう言いながら、私の頬をソーセージのような人差し指でツンツンと突いてきました。
それでも私が死んだ振りをしていると、男は「もういいよ、死んだ振りなんかしなくても」と唇を尖らせました。
「ボクはね、もう四年もこの仕事をしてるんだよ。何百人もの死体と遊んで来てるんだ、キミが生きている事くらいすぐにわかるよ」
男はそう言いながら「ふっ」と優しく笑いました。
その優しい笑顔に、おもわず骨の武器を握っていた私の手が緩みました。
もしかしたら、この人なら私を助けてくれるかも知れない……。
そう思った瞬間、私は思わず「助けて下さい!」と叫んでいました。
すると男は、その不細工な顔を「でへっ」と歪ませると、慌てて自分の股間を両手で隠しながら「見ないで下さいよぅ〜」と笑ったのでした。
男は私を死体の中から引きずり出してくれました。
私は骨の武器をソッと手放すと、そのまま男の前に座わりました。
「ヤンがね、キミの死体を見つけろって騒いでるらしいよ。凄い剣幕だったってさ。でも、心配ないよ、ボクたちはあいつの事大嫌いだからさ、誰もあいつの言う事なんて聞かないよ」
「お願いします。命だけは助けて下さい!」
「……でもね、もしかしたらヤンの手下が探しに来るかも知れないよ。そうしたらキミは殺されちゃうよ。いくらボクがここでキミを見逃したとても、遅かれ早かれキミはここで死ぬ事になると思うよ……」
「ここから逃がして下さい! お願いします!」
「ここから出る? この地下から出るって言うの? ダメだよ、そんな事したらボクがヤン達に殺されちゃうよ」
「お願いします! 何でもします、あなたの言う事なら何でも聞きますから、どうかここから出して下さい!」
一瞬、男の米粒のような小さな目がギロッと光りました。
「本当に?…何でもするの?……」
私は「はい」と大きく頷きながら、ショートパンツのボタンを慌てて外しました。そしてヤンから貰った白いTバックの尻を突き出すと、「好きなようにして下さい」と、そこに四つん這いになったのでした。
しばらくの間、男はニヤニヤと笑いながら私の尻を眺めていました。そして震える手で私の尻をキュッと摘みながら「やっぱり生きてる尻はあったけぇ……」と呟きました。
いけそうでした。このままいけば、この男は私を逃がすと確信しました。
私は男を挑発するように尻を振りました。そしてTバックの紐を指でズラしながら「お願いします、お願いします」と何度も頼みました。
すると、男はしばらく考えた後、「よし」と頷きました。そして私を正面に向かせると、「じゃあ、お願いがあるんだけど……」と言いにくそうに笑いました。
「逃がしてくれるなら何でもします」
私は必死になって男の顔を覗き込みました。
「ボクの弟子になってくれるかな……」
男は照れくさそうにそう言いながら、勃起した陰茎を片手で隠しました。
「弟子?……」
私は顔を顰めながら首を傾げました。
「うん。ボクね、今、一番下っ端なんだ。そろそろボクの下にもう一人くらいいてもいいかなぁ、なんてね、丁度思ってたとこなんだ……」
「弟子ってのは……何をすればいいんでしょう……」
私は恐る恐る男の顔を覗き込みながら聞きました。
すると男は「ずずずっ」と鼻をすすりながら、「簡単だよ。こうやって死体の肉を解体するだけだよ」と、米粒のような目を歪めて笑ったのでした。
(つづく)
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