2ntブログ

青春の罰ゲーム13

2012/11/23 Fri 13:03




 古びた商店街の入口には、あの当時から既に潰れていた文具店が、未だ潰れたまま放置されていた。文具店の横の路地に入ると、当時、黒い大きな街宣車が横付けされていた右翼の事務所は閉鎖され、『売り物件』と書かれた不動産屋の看板がぶら下がっていた。

 時刻は午前零時になろうとしていた。
 彩乃との待ち合わせ場所まで、約束の時間には間に合いそうだった。

 通りの角にあった児童公園には、いつの間にか巨大な高層マンションが建っていた。無数に輝くマンションの灯りを驚きながら見上げていると、その横にあるガソリンスタンドの屋根に掲げられていた『ダンロップタイヤ』の看板の向こうに、夜空に聳える『松の湯』の煙突が見えた。
 生温かい春の夜風が雄太のロン毛をサラサラと靡かせた。ポケットからヘアバンドを取り出した雄太は、もう二度と見る事はないと思っていた煙突に向かってゆっくりと歩き出したのだった。

 電柱の街灯にぼんやりと照らされた松の湯の玄関は、背丈ほどもある雑草に埋もれていた。雑草を掻き分けると、バッタやコオロギといった類いの虫が一斉に飛び跳ね、おもわず「わあっ」と仰け反った。そんな雑草を潜り抜け、釜戸のある倉庫の前に出ると、倉庫の鉄扉には巨大な南京錠がぶら下がっていた。

 倉庫の横の細い通路を覗いてみた。ここはいつもみんなが自転車を止めていた所で、お婆ちゃんが釜炊きをしている時は、いつもこの通路を通って裏口へと向かっていた。
 そんな通路にも、やはり等身大の雑草が伸び放題になっていた。しかし、そんな雑草は、まるで獣道のように二つに分かれ、つい最近、誰かがそこを通った形跡が残っていた。そんな獣道を屈みながら進んで行くと、背丈ほどもある雑草が行く手を塞ぐように跳ね返って来ては、雄太の頬にバシバシと当たった。湿った足下では、ヘビのように大きなムカデが狂ったように蠢いていた。

 通路を抜けると、粗大ゴミが積まれたままの中庭が現れた。その奥にアキラの家のキッチンが見えた。
 月灯りに浮かぶアキラの家は、全ての窓がバリバリに割られて、あの幸せそうだった家庭の面影は微塵と消えていた。
 割れたガラスには大量の鬼蜘蛛が無数の巣を張り巡らし、そんな蜘蛛の巣越しに見えるアキラの自宅の壁には、卑猥な落書きがスプレーで書きまくられ、これでもかというくらいに荒らされていた。
 そんな荒れ果てたキッチンの壁に、『パンツ泥棒の父とレイプ魔の僕』という、まるでフランス映画のタイトルを日本語に訳したようなスプレーの落書きを見つけた。雄太は、見たくない物を見てしまったと慌てて顔を背けた。
 すると、例の小屋の前に、青い月の灯りに照らされた彩乃がポツンと立っているのが見えた。雄太と目が合うなり、彩乃は真っ白な歯を月の光に輝かせながら「来てくれたのね」と微笑んだのだった。


 彩乃は、慣れた足取りで小屋の暗闇の中を進みながら、「あっちの家は荒らされてるけど、こっちは綺麗でしょ」と笑った。
 確かにここには不届きな侵入者の形跡は欠片もなかった。が、しかし、元々ここは所々の床が抜け、そこらじゅうの壁が崩れているため、決して綺麗とは言えなかった。

 ギシギシと床を鳴らしながら進んで行くと、清涼飲料水のペットボトルが床に転がっていた。それは、つい最近新発売されたばかりの物だったため、雄太は、前を歩く彩乃の背中に「よく来てるのか?」と聞いた。
 彩乃はそれに答えなかった。逆に、ガラスの破片が飛び散る床で足を止め、「どうして銭湯の方は荒らされていないかわかる?」と質問してきた。
 雄太は、四年前と全く変わっていない部屋の中をゆっくりと見回しながら、「わかんない……銭湯には鍵が掛かってるからか?」と答えた。
 すると彩乃は「違うわよ」と振り向きながら、「あいつら、鍵なんてすぐにぶっ壊しちゃうんだから」と笑った。

 彩乃は、その笑顔のままその場にしゃがむと、押し入れの中をソッと覗いた。
 そしてそこに置いてあったアロマのローソクに百円ライターで火を付けながら、「幽霊が出るからだって」と呟いた。
 ローソクに火が灯ると、押し入れの中がふわっと黄色く染まった。
 彩乃は「2ちゃんにそう書いてあったよ」と柔らかく微笑みながら、真っ白な布団の上に静かに腰を下ろした。
 そんな彩乃はいつの間にか大人の女になっていた。ローソクの炎の灯りに照らされながら微笑む彩乃は、妖気が漂うほどに美しかった。
 雄太と彩乃は、あの時と同じように、男湯と繋がっている窓を向きながら二人並んで座った。忌々しい窓の向こう側は漆黒の闇に包まれていた。

 彩乃の全身からは、甘い香水の香りが優しく漂っていた。それがアロマキャンドルの生温かい香りと混ざり合い、その香りと蝋燭の光が、狭い押し入れの中に異様なエロスを醸し出していた。
 横座りする彩乃のミニスカートから太ももがチラチラと見え、雄太の脳をクラクラと刺激していた。
 恐らく、このままスカートの中に手を入れても、きっと彩乃は何も言わずに身を預けてくるだろう。そう思うと、他人の妻をどうにでもできるというこの状況に、雄太は更に興奮を覚えた。

 そんな興奮を誤魔化すかのように、雄太は「アキラの事、何かわかったか?」と聞いた。
 彩乃は、短いスカートの上で、赤いマニュキアをした指を無造作に動かしながら「大阪にいるみたい」と呟いた。

「大阪?」

「うん……B組に渡辺君っていたでしょ、あの子が去年の冬に大阪に遊びに行ったらしいんだけど、そのとき、偶然アキラと会ったんだって」

「大阪で何やってんだよ、あいつ」

「ミナミでホストしてるんだって。髪の毛を金髪にして、鼻にピアスを入れて、それでヒョウ柄のコートを着ながらタコ焼き屋の前でキャッチしてたって」

 彩乃はそう言うなり、アキラのその姿を想像したのかクスッと笑った。
 雄太は「ホストか……」と呟きながらも、すぐさま「千夏は?」と聞いた。

「千夏もね、夜の仕事してるらしいよ。札幌のススキノでキャバ嬢やってるって美咲が言ってた」

 彩乃はそう言いながらソッと雄太の顔を覗き込み、「どうして? 千夏にまだ未練があるの?」と聞いた。彩乃の顔が近付くと、あの時と同じ口紅の香りが雄太の鼻をくすぐった。

「いや、それはないけど……ただ、どうしてるのかなぁって思ってさ……」

 雄太はそう呟きながら小窓を見た。目が慣れたせいか、小窓の向こう側の淋しげな浴場がぼんやり見えた。浴場の天窓から注ぎ込む青い月の光は、まるでブラックライトのようであり、その不気味さは、レベルの高いホラーハウスのようだった。
 そんな荒れ果てた浴場を見ていると、突然、あの時の残酷なシーンが甦って来た。
 海の底のような青い浴場で、獣のような男達に嬲られる千夏が、「雄太君助けて」と、泣き叫ぶ姿が浮かんだ。とたんに雄太の背筋がゾッとした。慌てて、その小窓の襖を閉めようとすると、真正面から雄太の顔を覗き込んでいた彩乃が「だめ」と雄太の手を止め、優しく微笑んだ。
「どうして?」と雄太が聞くと、彩乃は雄太の顔をジッと覗き込みながら、いきなり雄太の首にふわりと両腕を回した。そして、雄太の頬に頬擦りしながら、耳元に「会いたかった……」と囁いたのだった。

 柔らかい乳肉が雄太の胸に押し付けられていた。彩乃のスベスベとした太ももが雄太の右太ももを挟み込み、その上で悩ましく腰をくねらせた。
 彩乃はハァハァと小さな呼吸を繰り返しながら、雄太の唇の隙間に舌を入れて来た。彩乃の舌は、まるで子猫がミルクを飲むようにして、雄太の口内をチロチロと動き回っていた。
 雄太が舌を絡めると、太ももを跨いでいた彩乃の腰の回転が早くなった。股間と密着している太ももに、陰部のヒダがグリグリと動いているのを感じた雄太は、おもわず両手で彩乃の尻を鷲掴みにした。手の平に治まるほどの左右の尻肉は、まるでゴムボールのようにムチムチとしていた。

 彩乃は舌と腰を同時にくねらせながら、雄太の上着を素早く脱がせた。雄太も彩乃のスカートをたくし上げ、そこにプルッと突き出したTバックの尻をスベスベと撫で回した。
 彩乃の舌が抜けるなり、雄太は彩乃の細い体を抱きしめながら聞いた。

「本当にいいのか……」

 彩乃は、そんな雄太に怪しくそう微笑むと素早くTシャツを脱ぎ捨てた。そしてブラジャーの中心に胸の谷間を作ると、「どう?……人妻のおっぱいって、なんかいやらしいでしょ……」と囁きながら、右手を雄太の股間に滑らせた。

「立ってるね……」

 彩乃は、ズボンの上から股間をスリスリと擦りながら小さく笑った。彩乃の指は男の全てを知り尽くしているかのように、コリコリと固くなっている肉棒を弄んだ。柔らかく握りながらそれを優しく上下し、更にズボンの上から尿道を探し当てては指先を底に擦り付けたりした。

(これが人妻のテクニックか……)

 そのあまりにも妖艶な指の動きに、おもわず雄太がゴクリと唾を飲み込むと、雄太の喉仏が大きく動くのを見てクスッと笑った彩乃が、「私、変わった?」と小首を傾げながらTバックをスルスルスルっと指先で下ろした。

「う、うん……すごく綺麗になった……」

「それだけ?」

 彩乃は雄太のズボンのジッパーを下ろしながらニヤニヤと雄太の目を見た。

「いや……綺麗になった分、エッチにもなった……」

 彩乃は真っ赤な唇から真っ白な歯を光らせニヤリと笑うと、威きり立った雄太のペニスを悩ましく上下させながら雄太の目の前で大きく股を開いた。

「当たり前よ……だって、毎晩、中年親父にここを弄られてるのよ……舐められて……入れられて……掻き回されて……」

 彩乃はハァハァと荒い息を吐きながら、細い指を陰毛の中で蠢かせた。
 ペロッと口を開いた陰部はテラテラと濡れ輝き、透明の雫が尻の谷間にトロトロと垂れ落ちるほどだった。
 再びゴクリと喉仏を鳴らした雄太に、彩乃は切ない声で「入れていいよ……」と囁くと、指を逆ピースさせながらワレメを大きく開いた。

 まるで犯人を取り押さえる刑事のように、雄太は彩乃の体を布団の上に押し倒した。
 ハァハァと荒い息を吐きながら彩乃を見下ろし、ビンビンに勃起したペニスを彩乃の股間におもいきり押し付けると、亀頭はヌルリと滑って太ももを突き刺した。

「焦っちゃダメよ」

 彩乃はそう笑いながら自分の太ももの下に手を回すと、コリコリに固まった肉棒をソッと指で摘み、自分の穴へと導いた。
 そのまま腰を突き出すと、ヌルッとした生温かい肉感が雄太のペニスを包み込んだ。雄太はおもわず「あぁぁぁ」と唸り声をあげながら、猿の交尾のように滅茶苦茶に腰を振りまくった。
 雄太の腰の動きに合わせて彩乃も仰け反った。そして、愛くるしいほどの可愛い声を出しながら白いシーツの上をのたうち回り、バラのような甘い香りを、カビ臭い廃墟の押し入れの中に撒き散らしたのだった。

 彩乃の小さな体を、後ろ向きにさせたり、上に乗せたり、そして横向きにしたりしてペニスを突きまくった。そうしながらも、タラタラに緩んだワレメを舐めたり、綺麗に手入れされた脇の下などを舐めまくったりしながら人妻の味を堪能した。
 彩乃は少女のように白い肌を真っ赤に火照らせながら、「もっと、もっと」とおばさんのように喘いだ。
 イキそうなのを必死に堪えながら腰を振っていた雄太は、その気を紛らわせようと、いかにも萎えそうな事をあれこれと頭に思い浮かべた。
 二日酔いで機嫌の悪い大学の教授の顔、冷蔵庫の下で触覚をピコピコさせているゴキブリ、ダチョウ倶楽部の一番影の薄い男の顔。色々と考えたが、中でも強烈に萎えたのはキュウリの漬物をパリポリと咀嚼する母親の顔であり、雄太はおもわぬ所で母に助けられた。

 しかし、そんな誤魔化しもいつまでも続かなかった。雄太はそれでも必死に射精を堪えながら、押入れの天井を見上げたり、壁から飛び出している錆びた釘など見ていた。
 と、そのとき、正常位で腰を振っていた雄太の目に、例の小窓が飛び込んで来た。ここを覗けば気が紛れるだろうと思った雄太は、さっそく彩乃の細い脚を両肩に担ぎ、グイグイと腰を押しつけながら彩乃の体ごと小窓へと接近した。

 月灯りにぼんやりと浮かぶ浴場は、深海に沈んだ宮殿のようだった。そんな小窓に顔を近づけながらコキコキと腰を振っていると、ふと、真っ青な空間の中に、豆粒ほどの赤い光がポツンと光っているのが見えた。
 雄太の肩がビクン! と跳ね上がり、それと同時に腰の動きがピタリと止まった。
 窓の向こう側に千夏がいた。青い月の光に照らされながら、真っ青に染まった千夏が、恐ろしい形相で唇をブルブルと震わせながら雄太をジッと睨んでいた。

(幽霊か……それとも……本物か……)

 雄太はショート寸前の脳で必死にそう考えながら、瞬きもせぬまま固まってしまっていた。

 そんな雄太の体の下で、彩乃がクスッと小さく笑った。
 雄太が、顎をガクガクと震わせながら目玉だけを彩乃に向けると、彩乃は雄太を見つめながらニヤリと微笑んでいた。
 彩乃のその瞳には、四年前に見た、あのギラギラした輝きが怪しく宿っていたのだった。


              ※


 真夏だというのに交差点に立つ人の半分は長袖を着ていた。スーツに長靴という、まるで田舎の銀行員のようなサラリーマン達が大都市のど真ん中をゾロゾロと歩いている。
 東京は、連日異常気象が続いていた。昨夜狂ったように暑いと思ってたら、翌朝には冬のように寒く、いきなり雨が降り出したと思ったら、あっという間に下水は溢れ出し、道路は川と化した。
 そんな集中豪雨の時間差攻撃により、雄太が店長をしているコンビニは連日浸水の被害を受けていた。しかし、それに伴い、長靴、ハンドタオル、雨合羽は飛ぶように売れていた。

 その日も、朝から店内に溜った泥水の撤去作業から始まった。
『九時から営業致します』と書かれた段ボールの張り紙を、急遽ショーウィンドゥに張り付け、鉢巻き、長靴、腕まくりで、せっせと泥を掻き出していると、夜勤明けの進藤さんが「勿体ねぇよな……」と雄太の背中に向かって呟いた。

 雄太は、入口ドアまで一気にモップを走らせた。モップのヘッドは、片道だとココア色に変色し、往復だとチョコレート色に変色した。
 雄太はモップヘッドをベチャベチャと音立てながら入口で方向転換すると、「商品は勿体ないですけど、まぁ、自然災害ですから仕方ないですよ……」と苦笑し、レジ前の床で泥だらけになっている菓子パンの袋をゴミ袋の中にポンッと投げ捨てた。

「違うよ。そんなパンの事なんかじゃねぇよ。あんたの大学の事を言ってんだよ。あと一ヶ月で卒業できるっつうのに辞めちまうなんて勿体ねぇだろ……」

 進藤さんはレジの裏のパイプ椅子に腰掛けながら煙草に火を付けた。店内での喫煙は厳禁されていたが、しかしこれだけ店内が泥だらけでは、もはやそれを注意する気力はとうに失せていた。

「でもって、こんな所で朝から泥掃除してるだろ……俺だったらいいよ、中卒でバツイチで包茎の俺なら泥掃除でもゲロ掃除でも仕方ねぇさ、でもあんたはあんな立派な大学を辞めて、しかも一流企業に就職が決まってたのも辞退したっつうじゃねぇか……ったく、ゆとり教育だがなんだ知んねぇけど、今の若けぇもんはホント何考えてんのかわかんねぇよ……」

 雄太は、そんな進藤に、ははははっと笑いながら、泥だらけのモップをバケツの中で濯いだ。そして、白くなったモップを床にベチャっと叩き付けると、再び入口ドアまでモップを走らせた。
 入口ドアの前まで来ると、いつもこの時間に缶コーヒーとメロンパンを買っていくサラリーマンが、ドア越しに「ダメ?」と聞いてきた。雄太は小刻みに頭を下げながらショーウィンドゥに張り付けていた段ボールの張り紙を指差すと、常連の男に対してもう一度丁寧に頭を下げたのだった。

 確かに、進藤が言うように、卒業までわずか一ヶ月だという時に大学を辞めたのは勿体なかった。それと同時に、せっかく内定が決まっていたIT会社を辞退したのも、あまりにも勿体なさすぎた。

 全ては、一本の動画がネットに出回った事が原因だった。
 それは、雄太と彩乃が銭湯の押し入れの中で交わっている動画だった。あの晩の出来事は、彩乃と千夏が全て仕組んだ罠であり、浴場側にいた千夏は、あの小窓から雄太の姿を一部始終録画していたのだった。

 そうとも知らず、あのときの雄太はバカみたいに興奮していた。彩乃の陰部を犬のように舐めまくり、更にはハァハァと荒い息を吐きながら肛門にまで舌を伸ばした。それを彩乃が嫌がると、「いつもこうやって旦那に舐められてるんだろ」などと、ひと昔前のエロ漫画のような恥ずかしセリフを吐きながら、目を細めて肛門をちゅーちゅーと吸いまくった。
 しかも、誰にも見られていないと思い込んでいた雄太は、このとき、実に奇妙な振る舞いまでしていた。それは、彩乃を背後から攻めている時だった。布団に顔を押し付けている彩乃をソッと確認した雄太は、なんと、そこに脱ぎ捨ててあった彩乃のパンティーの匂いを嗅いでいたのだった。しかも、その匂いをクンクンと嗅ぎながら、彩乃にバレないように志村けんの『変なおじさん』の踊りをこっそりと踊り、挙げ句の果てには、シミの付いている部分をペロリと舐めては、その度に『だっふんだ』の顔を連発していたのだった。

 百歩譲って肛門を舐めるだけならまだしも、パンツを嗅ぎながらの『変なおじさん踊り』や、パンツのシミを舐めながらの『だっふんだ顔』を晒されたのには、さすがにダメージがデカすぎた。
 もちろん雄太の顔にモザイクなどかけられてはいなかった。彩乃の顔は最初からフレームアウトされていたため全く映っていなかったが、しかし、雄太の顔はモロだった。
 そんな動画を、そこらじゅうの投稿動画サイトにアップされた。大学関係のブログなどにURLを張られ、高校時代の友人達にもURL入りのメールを送りまくられ、そして挙げ句の果てには内定が決まっていた会社のサイトのお問い合わせにも、『貴社は本当にこんな人を雇うんですか?』というタイトルでURL入りのメールを送られたのだった。
 ここまでされて、普通に大学など通えるはずがなかった。もちろん、内定の決まっていた会社にも、もう二度と行けなかった。

 大きな代償だった。悔んでも悔みきれない人生最大の失敗だった。
 あのとき、小窓から覗いていた千夏は、雄太に向かって「これがあなたの罰ゲームよ」と呟いた。「あの時、私を助けに来なかった罰なのよ」、と、憎しみのこもった声で何度も呟きながら、赤いランプの点いたビデオカメラを雄太に向けていた。
 そして彩乃は、ケラケラと笑いながら更に激しく腰を振っていた。「私はどっちでもいいの。私はただ単にスリルのあるセックスがしたかっただけなの。だから私を恨まないでね」と、愕然としている雄太の腰に絡み付いていたのだった。

 その三日後、『この動画をネットにバラ捲かれたくなかったら百万円用意しろ』という内容のメールが千夏から届いた。
 雄太は親に頼み込んで五十万円借り、残りはそこらじゅうのサラ金をかけずり回って、やっと百万円用意した。そして、その金を千夏の口座に振り込んだその二日後、この醜い動画はネット回線に乗って世界各国に飛び散った。

 完全にハメられた。雄太は、千夏と彩乃にまんまととハメられたのだった。

 八時半を過ぎるとやっと雨が上がった。未だ油断できない貪よりと厚い雲の隙間から、真っ青な空が照れくさそうに顔を出していた。
 既に店の前には数人の客が並び、早くしろと言わんばかりにショーウィンドゥから店内を見つめていた。
 そんな客達を横目に、進藤は煙草を揉み消しながら、バケツの中でせっせとモップを濯いでいる雄太に言った。

「俺みてぇに、どうあがいても地獄から抜け出せねぇ奴もいるっつうのによ……あんた、今に罰が当たるぞ……」

 雄太は、素早くモップを濯ぎ終えると、「ふーっ……」と溜め息を吐きながら、光り輝く店内の床を満足げに眺めた。

「それは心配ないですよ」

 爽やかな笑顔で雄太が呟くと、進藤は訝しげな表情で雄太を見ながら「どういう意味だよ」と言った。

「だって、もう罰が当たってますから」

 野球帽をかぶった親父が、丸めた競馬新聞でドアをバンバンっと叩きながら「まだかよ!」と言った。
「はーい! 今開けまーす!」と叫ぶ雄太は、満面の笑顔でドアに向かって走ったのだった。



 数年後、アキラは、同棲していたキャバ嬢の部屋に大量の覚醒剤を隠し持っていたとして五年の実刑を喰らった。
 千夏はススキノの風俗店で働くようになり、毎晩客に浣腸をさせているらしい。
 みんなそれぞれに罰ゲームを引きずっていた。
 が、しかし、やっぱり彩乃だけは違った。
 夫が急死した。
 子供がいなかった彩乃は、その莫大な財産を全て一人で受け継いだ。
 彩乃は、若干二十五才にして全国四十カ所にホテルを持つ巨大ホテルチェーンの女社長として君臨した。
 白金にある二億円の豪邸には、大きなプールと自家用エステがあった。
 純金のエンブレムが付いたベントレーとイケメンの運転手。
 その後部座席にふんぞり返っては、夜な夜な六本木に繰り出していた彩乃が着ている毛皮は、それ一着で日本車が二台買えた。
 マスコミからは美人実業家ともてはやされた。
 そのうちテレビのバラエティー番組にも出演するようになり、挙げ句の果てにはジャニーズの人気タレントとの熱愛報道までされた。
 彩乃は絶頂期だった。
 笑いが止まらなかった。
 しかし、そのわずか数ヶ月後、遂に彩乃にも罰ゲームが下った。
 彩乃は、ハワイに所有する別荘で惨殺死体となって発見された。
 ワイキキビーチが見渡せる庭の木に全裸で逆さまに吊り下げられていた彩乃は、体中をカッターナイフのような物で切り刻まれ、膣の中には携帯電話と石ころと、そしてなぜか綿棒が三十本も押し込められていた。
 現地の警察は変質者の犯行と見て捜査を続けている、と、朝のワイドショーで深刻そうな顔をしたレポーターが話しているのを、雄太は西日暮里の六帖一間のアパートで、トーストを齧りながら見ていた。

 雄太は何も変わらなかった。
 都会の片隅で一人淋しく罰ゲームを続けていた。
 いつまで続くのかわからない罰ゲームだった。
 いつか必ずこの罰ゲームから抜け出せると信じていた。

 しかし、最近、この何でもない生活が妙に楽しく思えてくるようになってきた。

 ある日、西日暮里駅の体臭漂う朝のホームで、彩乃によく似た可愛い女子高生を見た。
 人影に隠れながら彼女の大きな目をそっと見ていた雄太は、ふと「これでいいのだ……」と思った。
 そう諦めた瞬間、雄太の残酷な青春は静かに幕を閉じたのだった。

(青春の罰ゲーム・完)



《←目次へ》

66センチ白枠愛欲小説66センチ白枠FC2バナー166センチ白枠

変態

FX
ブログパーツ アクセスランキング