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青春の罰ゲーム6

2012/11/23 Fri 13:03





「……あ、そこに長い釘が出てるから、踏まないように気を付けてね……」

 先を歩いていた彩乃は、赤錆だらけの冷蔵庫からひょいと顔を出しながら、恐る恐る付いてくる雄太に得意気にそう言った。
 彩乃が雄太を連れて来たのは、銭湯の裏手にあるボイラー室の、その更に奥だった。そこは、いつもお婆ちゃんが薪を割ったり、そこらじゅうから拾って来た粗大ゴミを無意味に溜め込んでいる裏庭だった。
 その裏庭の隅に、小さな平屋建ての家がポツンと建っていた。それは、この銭湯が全盛期だった昭和の頃、住み込みの従業員達が寝泊まりしていた家だったが、しかし今は既に廃墟と化し、まるでお化け屋敷のように荒れ果てていたのだった。

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 彩乃は、そんな家の中に勝手に入り込むと、妙に慣れた足取りで進みながら、「どう、凄いでしょ。私の秘密基地よ」と振り返り、不安げな雄太を見て自慢げに笑った。
 畳二帖ほどの台所の床板は所々が抜けていた。土壁にはハンマーで殴ったような大きな穴が開き、そこから溢れ出た土が床に小さな砂山を作っていた。
 その穴から裏庭が見えた。裏庭の奥にはアキラの実家があり、その一階のキッチンの窓から洩れる明かりが、そこに放置されているあらゆる粗大ゴミを照らしていた。
 この小屋の明かりは、奥のアキラの家から洩れてくる明かりしかなく、茶色い照明にぼんやりと照らされた廃墟の内部は映画のセットのようだった。

 今にも抜け落ちそうな床板を恐る恐る進むと、奥の日本間に出た。縁側の窓ガラスは全て割れていた。割れたガラス戸から蔦が伸び、それが柱を伝って天井にで絡まっては、暗い天井一面に毛細血管のような模様を作っていた。
 この部屋は浴場の真裏にあるためせいか異様に蒸し暑く、まるで水族館の爬虫類コーナーのような不快な湿気が漂っていた。畳は既に腐っており、まるで湿ったスポンジの上を歩いているようだった。
 カビだらけの床の間には、『祝・756号ホームラン!』と書かれた王選手のポスターと、風俗嬢のような衣装を着たピンクレディーのポスターが並んで貼られていた。

「不気味な部屋だな……」

 そう呟きながら足を止めると、ダルマのイラストが描かれた大きなマッチ箱が床に転がっていた。無数の赤いマッチ棒が散乱し、一瞬それが飛び散った血しぶきに見え、雄太は背筋をゾクッとさせた。
 そんなマッチ棒の中には、花札の『もみじ』や麻雀牌の『イーピン』などがごろごろと混ざっており、それらを靴の先で突いた雄太は、ここで暮らしていた従業員達の侘しい体臭を嗅いだ気がした。

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 そんな部屋の押入れの中には、何故か真新しい布団が一枚だけ無造作に敷いてあった。押し入れの中に潜り込んだ彩乃は、その布団に腰を下ろし、そそくさとヒールを脱ぎながら「こっちに来なよ。ここから男湯が覗けるから」と、立ちすくんでいる雄太を見上げた。

 腐った畳の上で靴を脱ぎ、恐る恐る押し入れの中へと潜り込むと、彩乃が蝋燭に火を付けていた。
 蝋燭に灯がともると、狭く暗い押し入れの中は一瞬にして明るくなった。その蝋燭はアロマキャンドルらしく、薔薇のような甘い香りが強烈なカビ臭さをゆっくりと和らげてくれた。

 そんな押入れの壁には、不自然な小さな襖があった。彩乃がその襖をガサガサっと開けると、埃がふわっと舞うと共に、襖の向こう側からA4サイズほどのガラス窓が現れ、そこから真っ白な蛍光灯の光が洩れた。

「このガラスの向こう側は男湯だよ」

 そう微笑む彩乃の顔を、男湯から洩れる蛍光灯の強い明かりが照らし出した。真っ赤な口紅と大きな黒目がキラキラと輝き、そのあまりの美しさに、おもわず雄太は身震いしてしまった。

 彩乃が、ここは私の秘密基地よ、と言っていた通り、押し入れの中には色々な物が持ち込まれていた。
 空のペットボトルがいくつも転がり、食べかけのポテトチップスの袋が散乱していた。大量のファッション雑誌が積み重ねられ、その雑誌の上には、ティッシュやマニキュアの瓶やヘアブラシなどが所狭しと置かれていた。

「ここの事はみんなに内緒よ。もちろんアキラにも言っちゃダメ。まだ誰も知らないんだから」

 彩乃はそう嬉しそうに笑いながら、真っ黒に汚れたタオルで埃だらけのガラスを静かに拭き始めた。

「これは、『小遣い窓』って言うんだって。昔は、この窓が開いたらしくてね、お風呂に入ってる客たちがこの窓を開けて、部屋で休憩している従業員に、『湯がヌルいぞ』とか、『酒買って来い』なんて言ってたんだって。お婆ちゃんがそう教えてくれたの」

 彩乃はそう呟きながら、せっせと窓の埃を拭き取っていた。
 昔は開いたというその窓は、今では開けられないように固定され、ガラスには黒いフィルムが張られていた。しかし、浴場には煌々と明かりが灯っているため、こちら側からは、客に気付かれる事無く男湯を覗く事ができた。

 雄太は、ガラスを拭く彩乃を押し退けその窓を覗こうとした。このガラスの向こう側で、いったい千夏がどうなっているのかが心配でならなかったのだ。
 しかし、彩乃は「まだダメよ!」と雄太を突き飛ばした。

「焦っちゃダメよ。慎重に覗かないと、向こうから覗いてる事がバレちゃうから……」

 そう目を吊り上げながら再びガラスを拭き始めた彩乃に、苛立ちを隠しきれない雄太が「随分と詳しいんだな」と聞いた。
 すると突然、彩乃は「ふふふふふ」と笑い出した。「ふふふふふふふふふふふふふふふ」と長く続くその笑い声は、可笑しさから出る笑い声ではなく、まるで「ふ」という言葉を連続して呟いているような、そんな感情のこもっていない笑い声だった。

「だってね、私、よくここから男湯を覗いてるんだもん……」

 そう呟いた彩乃の目が、突然異様な輝きを見せた。真っ赤な唇をぐにゃりと歪ませ、真っ白な前歯で唇をギュッと噛み締めながら再び「ふふふふふ」と笑い始めた彩乃のその顔は、まさに白痴のようだった。
「ふふふふふふふふふふふふふふふ」という笑い声は、低音になったり高音になったりしながら延々と続いた。
 ついさっき美しいと思った彩乃の顔だったが、しかし今では、蝋燭の揺れる炎に照らされ、まるで何かに取り憑かれたかのように薄気味悪く変貌していた。
 この不気味な廃墟の雰囲気と、そんな彩乃の狂気じみた笑顔は、とたんに雄太を恐怖に陥れた。

 しばらくすると、突然彩乃の笑い声がピタリと止まった。低音と高音を繰り返していた不安定な音が消えると、静まり返った廃墟には微かなボイラーの唸りだけが響いていた。
 彩乃は真っ赤な唇を小さな舌でペロリと舐めた。そしてギラギラと輝く目で窓の向こうをジッと見つめたまま「オナニーしてるの」と、ポツリと呟いた。

「ここでね、こうして四つん這いになりながらね、汚い親父達のオチンチンを見てオナニーしてるの……」

 彩乃はそう呟くと、溜息を漏らすようにしてニヤリと笑った。いつしかその表情からはあの狂気じみた不気味さは消え、再び背筋がゾクッとするような美しさが漲っていた。
 彩乃は不意に窓に向けてハァァァ……と息を吹き掛けた。彩乃の生温い息で、ガラスが一瞬にして曇り、その曇ったガラスに、いくつもの唇の跡が浮かび上がった。
 恐らくそれは,そこを覗きながらオナニーをする彩乃の口紅の跡だろうと思った。この薄暗い廃墟で、銭湯の客の陰部を覗き見しながら一人悶々と自慰に耽る彩乃の姿を想像した雄太は、狂気を感じると共に奇妙なエロスを感じた。
 しかし、今の雄太には、そんなエロスをひしひしと感じている暇はなかった。一刻も早くその窓の向こう側を覗き、千夏が無事かどうかを確認しなければならないのだ。

「もう……いいだろ……早く見せてくれよ……」

 雄太は恐る恐るそう呟きながら、窓を覗いている彩乃の横に割り込もうとした。
 しかし彩乃は、再び雄太を突き飛ばした。

「どうしてだよ!」

 布団の上に尻餅をつきながら雄太がそう怒鳴ると、彩乃はゆっくりと雄太に顔を向けた。そんな彩乃の目からは、ついさっきまでギラギラと輝いていたエネルギッシュな目力が完全に消えていた。まるで寝起きのようにぼんやりした目で雄太をジッと見つめながら、哀れむようにしてポツリと呟いた。

「見たら……絶対に後悔するよ……」

 一瞬、廃墟独特の饐えた風が、壁にぶら下がる昭和五十四年度の古いカレンダーを揺らした。
 彩乃のその言葉に、雄太は動揺を隠せなかった。固まってしまった雄太の頭の中を、大勢の男達から無惨に陵辱される千夏の姿が次々に過った。
 寒くもないのに奥歯がガチガチと鳴り出した。雄太は唇を震わせながら、「ど、どういう事だよ……」と必死に聞いた。

「あんたがここを覗けば……あんたと千夏は終わるって事よ……」

「……………」

「そうなれば……アキラの思う壷だね……それでもいいのなら、ほら、見なさいよ……」

 彩乃はそう言いながら、四つん這いになる体を少しズラした。
 しかし、雄太の体は動かなかった。金縛りに遭ったように体が締め付けられ、あぐらをかいた両脚がガクガクと震え出しては、身動きできなくなってしまっていたのだ。
 その窓の向こう側がどうなっているのかわからなかったが、しかし、きっとそれは自分にとっては地獄に違いないと雄太は思った。
 それは、窓の向こう側をジッと見つめる彩乃の目を見てもわかった。あの、ギラギラと輝いていた目が、次第にウルウルと潤み出し、今では、まるで酔っぱらったかのようにトロンっと垂れているのだ。
 それは明らかに、窓の向こう側で凄まじい猥褻行為が繰り広げられている証拠だった。彩乃はその壮絶なシーンを見て、欲情しているのだ。

 不意に、「やめて下さい!」という叫び声が、隣りの浴場から響いて来た。
 その声は明らかに千夏の声だった。しかし、雄太はその叫び声が千夏だという事を認めなかった。今の声はきっと幻聴だ、恐怖のあまり自分が作り上げた幻聴に違いない、とそう自分に言い聞かせながら慌てて両耳を塞ぎ、口内で「うぅぅぅぅぅぅ」と唸りながら必死に千夏の叫び声を掻き消した。
 助けたい。でも、そのシーンを見てしまえば、自分はもう千夏を愛せなくなってしまうかも知れない。そしてそんなシーンを見られた千夏も、もう二度と自分の前で笑わなくなってしまうかも知れない。そうなればアキラの思う壷だ。そのシーンを見てしまえばアキラの描いた絵図にずっぽりとハマってしまうんだ……。
 雄太は、彩乃の言った言葉をそう理解しながら、ひたすら両耳を塞ぎ、廃墟の押入れの闇の中で踞りながら悶え苦しんでいた。

 そうしていると、ふと、目の前で何かが定期的な動きを繰り返している気配を感じた。その異様な気配に不気味さを感じた雄太は、顔を塞いでいた指の隙間をソッと開け、恐る恐る正面を見た。
 薄暗い闇の中で、四つん這いになる彩乃の細い腰が妖艶に蠢いているのが見えた。浴場から洩れる明かりに照らされながら、ぼんやりと浮かび上がる彩乃のその動きは、まるで3DのAVを見ているようだった。
 彩乃の右手はヘソを通って股間に伸びていた。白いTバックの中に手を入れ、そこをモゾモゾとさせながら、微かにぴちゃぴちゃという卑猥な音を立てていた。

「あいつだ……あの時のハゲ親父だ……」

 恍惚とした表情でそう呟いた彩乃は、吐息で曇ったガラスにヘビのような長い舌を伸ばし、ペロリ、ペロリ、と数回舐めた。

「あのハゲはね、あの時、私がここから覗いている事を知ってたの……だからあいつは、わざとこの窓の前に立ってシコシコする所を私に見せつけたの……」

 彩乃は、ハァハァと荒い呼吸を繰り返しながら窓の向こうを睨み、股間を弄る指を更に早めた。

「真っ黒で大っきなチンポだった……スルメの匂いが漂ってきそうなくらい汚いチンポだった……それが上下に動くの……黒い皮がグニャグニャと動いてね、その皮の中から真っ赤な亀頭が出たり入ったりしてるの……私、凄く感じちゃった……ガラスを割って、ここから犯して欲しいって本気で思うくらい感じてた……それで私は、必死になってガラスを舐めたの……そのチンポを欲しい欲しいと思いながら、ガラスに映るチンポに舌をベロベロさせたの……そしたらね、いきなり精液が飛んで来たの……ガラスに、ビチャ、ビチャって精液が飛んで来たの……何度も何度も……精液の温もりがガラスを通して私の舌に伝わって来たわ……私は必死にガラスを舐めながら何度もイッた……いやらしい声を出して泣きながらオシッコを洩らして何度もイッちゃったの……」

 彩乃はそう話しながらも、何度も腰を跳ね上げていた。シャム猫を思わせるような細く品やかな腰が、ピクン,ピクン、っといやらしく跳ね上がる度、雄太は、そのアグレッシブな動きに息を飲んだ。
 それは、千夏にはないエロスだった。千夏はセックスに対しては非常に消極的であり、ベッドの中ではほとんどマグロ状態なのだ。
 だから雄太は、そんな彩乃の姿に心を惑わされていた。一刻も早く千夏を助け出さなければという焦りの中、全てを忘れてこのままここで彩乃と交わってしまいたいという衝動に駆られていた。
 そんな雄太の心境を見透かしているかのように、彩乃は妖艶な笑みを浮かべながら雄太を怪しく見つめていた。

 が、しかし、雄太はやはり千夏が心配だった。銭湯で平気でセンズリをするようなそんなハゲの変態親父と、全裸の千夏が一緒に風呂に入っていると考えただけで、雄太は気が狂いそうな焦りに襲われた。
 怒りと恐怖と焦りに駆られた雄太は、握り拳をブルブルと震わせながら彩乃に聞いた。

「どうして、そのハゲの男は、窓の事を知ってたんだ……」

 しかし彩乃は、雄太の質問に答えようとはしなかった。意味ありげに真っ赤な唇を歪めながら、ニヤニヤと笑っているだけだった。

「向こうからは見えないはずなのに、どうしてそいつはこの窓の向こう側に彩乃がいる事がわかったんだよ! おかしいだろ! どうしてだよ!」

 雄太が感情的にそう怒鳴ると、彩乃はニヤニヤと笑ったまま四つん這いの体をゆっくり移動させ、雄太の顔を真正面から覗き込んだ。Tバックの中では、未だ彩乃の指が怪しく蠢いている。

「アキラのお婆ちゃんが言ってたわ。昔の銭湯にはね、四助って呼ばれる男の子がいたんだって。三助ってのは客の背中を洗う男の人の事を言うんだけど、その四助ってのは……」

 雄太の顔に彩乃の小さな顔が迫っていた。ハァハァと吐き出される彩乃の息が、シャツの首元から覗いている雄太の鎖骨に吹き掛かっていた。ホットミルクの湯気のように生温かい彩乃の息は、甘い口紅の香りが漂っていた。

「……この銭湯にも四助がいたんだって。その子はとっても可愛い男の子だったらしくてね……いつもこの窓から客のチンポをしゃぶらされていたんだって……」

 彩乃の息づかいが更に荒くなった。Tバックの中からは、くちゃ、くちゃ、っという湿った音が響き、贅肉ひとつない若鮎のような腹がハァハァと上下に揺れ、そして小さな尻がクネクネと動いていた。

「ふふふふ……お婆ちゃんって、私の事嫌ってるでしょ……だからお婆ちゃんは、いつも私の事を四助って言うの……私ね……ここでこうしてオナニーしながらいつも思う事があるの……その男の子、いったいどんな気持ちでこの窓から客のチンポを銜えていたんだろうなってね……しゃぶりながら自分のチンポもシゴいていたんだろうか、口の中に放出された精液は飲んじゃったんだろうかってね……そんな事を悶々と考えながら四助になった気分でここでオナニーしていると、頭がおかしくなるくらいに感じちゃって……もう誰でもいいから入れて欲しくなっちゃうの……」

 彩乃はそこまで言うと、いきなりTバックの中から手を抜き取った。そしてその指を雄太に向け、「ほら見て、こんなに濡れちゃってるよ」と、中指と人差し指の間に透明の糸を引きながら、美しい瞳でニヤリと微笑んだのだった。

(つづく)

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