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限りなく公序良俗に6






 この時の私は、今までにはない残酷な興奮状態に包まれていた。
 夫の目を盗んで他人と交わる淫乱妻。そんな安物AVのタイトルのようなこの状況が、私の精神状態を変えてしまっていた。
 私には元々Sっ気など毛頭なかった。
 本来の私の性癖というのは、女子社員の机の下をこっそり覗いたり、満員電車で女子高生の背後から髪の匂いをそっと嗅いだりする程度の、どちらかというと草食系の変態といった感じだった。
 女を縛ったり、鞭で叩いたり、強姦するような、そんな肉食系の性癖は全く持ち合わせていなかったのだ。
 しかし私は今、突然サディストな性癖に目覚めてしまったようだ。
 旦那を目の前にして、平気で見ず知らずの男にヤらせてしまうような不貞な妻を滅茶苦茶にしてやりたいという、そんなドロドロとした感情が、自分の意思に反して次々に湧いて出て来たのだ。
 横向きにした女の尻に腰を振っていた私は、露天風呂で項垂れている旦那の痩せた肩と、自分の下着を銜えたまま乱れている女の姿を交互に見つめた。
 情けない旦那だ、と吐き捨て、酷いクソ妻だ、と女を睨んだ。
 もし自分の妻がこんな事をしたらと思うと、それだけで怒りが沸き上がり、ムラムラとしたその残酷な感情はそのまま女に向けられた。
 ふと、このまま女の首を絞めて殺してしまおうかとさえ思ったほどだった。

 女の口から唾液にまみれた下着を抜き取った。
 それを女の目の前で開き、黄色いシミを女に見せつけながら、「さっき、あんたのこのシミの匂い嗅いでやったよ。そしてここにチンポを擦り付けてやったよ」と笑ってやった。
 いきなり口調が変わった私を、女は脅えた目でそっと見上げながら「もう、夫の所に戻ってもいいですか」と呟いた。

「ふざけるんじゃねぇよ。俺はまだイッてねぇじゃないか。あんたら、勝手に俺を誘っておきながら都合のいい事ばかり言ってんじゃねぇよ」

 私はそう女の顔を睨みつけた。
 明らかに女の表情は恐怖に歪んでいた。そんな女の表情が、今まで私の中で眠っていた残酷な変態性を更にくすぐった。
 私は女を床板に押し付けた。べたりとうつ伏せにされた女の尻の谷間にペニスを乱暴に押し込んだ。
 背後からズブズブと犯した。女の頬や尻や背中をペシペシと叩きながら「メス豚女」と呟くと、女は声を立てずに泣き出した。
 女の髪を引っ張り、女の顔を床から持ち上げた。
 その床に女の下着を広げ、そして黄色いシミを女に示しながら、これを舐めろと命令してやった。
 女は嫌悪の表情を浮かべながらも、舐めたら戻してくれますか、と声を震わせながら聞いた。
 私は、綺麗に舐め尽くしたら旦那の所に戻してやるよと約束し、その一番汚れている部分を女の目の前に広げた。
 女は、まるで子猫がミルクを飲むようにして、自分のオリモノを舐め始めた。
 そんな女の顔を背後から覗き込んでいた私は、この変態行為に異様な興奮を覚えながらも、高く突き出させた女の尻に激しく腰を振っていたのだった。

 さすがにここまで来ると、もはや私も限界だった。
 見ず知らずの人妻にペニスをしゃぶらせ、おまけに旦那がすぐ目の前にいる状況で妻をこっそり陵辱するなど、それまで女子更衣室からOLのストッキングを盗んでオナニーしていた程度の私が、そうそう耐えられるはずがなかった。
 私は、フィニッシュを決めようと思いながらも、しかしどこに射精すべきかと考えた。
 いくら肉食系の変態に転向したといっても、さすがに人妻に中出しするのはまずいだろうと気が引けた。そこまで外道には成りきれなかった。
 しかし、自分の下着のシミを必死に舐めながら喘いでいるこの豚女を見下ろしていると、こんなヤツには中出ししてもいいだろうとも思った。
 さて、どうするべきか?
 そう思いながらふと顔を上げると、露天風呂の入口のすぐ横の壁に、先程まで電球の周りを飛びまくっていた蛾が張り付いているのが見えた。
 ジッと身を潜めながら、異様に長い触覚をピコピコと動かしている蛾を何気に見つめていた私は、次の瞬間、心臓が飛び跳ね、そしてそのまま全身が凍りついた。
 なんと、蛾が張り付いた壁のすぐ下には、月灯りで青く光った男の鋭い目がギラリと輝いていたのである。

 しまった……
 愕然とする私の腰の動きが止まった。
 男の狂気に満ちた目には殺意が漲り、私は間違いなく殺されると思った。
 男のその狂犬のような目に睨まれていると、先程まであれだけ沸き上がっていた肉食系の欲望など瞬時に消え失せてしまった。
 逃げなければと思った。逃げなければ殺されると背筋が凍った。
 しかし私の体は動かなかった。まるで一時停止を押された画面のように、私は瞬きさえできなくなってしまっていた。
 しばらくすると、男は、私を睨んだままゆっくりと立ち上がった。
 立ち上がった男の顔のすぐ横に、長い触覚を揺らした蛾が張り付いていた。男は私をジッと睨んだまま、壁に張り付いていた蛾をいきなり手の平でバンっと叩き潰した。
 その音に女がハッと顔を上げた。今まで自分の下着をペロペロと舐めながら尻を犯されていた女の体が一瞬にして硬直した。
 男は狂気に満ちた目をギロリと女に向けた。その眼光は鋭く、まるで怒り狂った不動明王のように燃え滾っている。
 私は女が殺されると思った。嫉妬に狂った変態男がトチ狂い、女のその細い首を両手でガッと締め付けるといった、そんな火曜サスペンス的な安っぽいシーンが鮮明に頭に浮かんだ。
 まずいと思った私は、シドロモドロになりながらも、「あのですね、これは、その、いわゆる……」と、考えのまとまっていない言葉を取りあえず発した。
 すると男の目が再び私を捕らえた。
 しかし、顔を上げた男のその表情は、今さっきとは打って変わり、まるでベソをかいたピエロのように弱々しく歪んでいた。

「続けて下さい……」

 男は顎を震わせながら、今にも泣き出しそうな口調で私にそう言った。
 トポトポと湯の音が鳴り続く露天風呂から、冷たい秋の夜風が流れ込んで来た。
 私は戸惑いながら「しかし……」と呟いた。
 すると男は、四つん這いになる女の横に静かに踞り、女と背中を並べながら背後の私にソッと振り向いた。

「今更、しかしもへったくれもないでしょう……ここまで妻を滅茶苦茶にしておきながら……」

 男はベソをかいたピエロの顔のままそう吐き捨てると、自分の下着を握り締めながら泣いている女の髪を優しく撫でた。
 それを見つめながら女の尻を鷲掴みにしていた私の指が小刻みに震えた。

(こいつは狂っている……妻が陵辱されている姿をまともに見せられ、頭が狂ってしまったんだ……)

 男は女の顔を覗き込みながら「キミはまた僕を裏切ったね……加藤の時と一緒だね……やっぱりキミはダメ人間なんだよ……」と呟き、突然ケラケラと笑い出した。
 男のその不敵に笑う顔を見つめながら、私は(いや、違う)と首を振った。
 そう、この男は今突然狂ったのではなく、最初から狂っていたのだ。
 愕然としている私を、男はチラッと横目で見ながら再び起き上がった。

「ここまでしたんですから、最後まで責任を取ってもらいますよ……」

 男はそう呟きながら、私の脱衣カゴの中から浴衣の紐をスルリと抜き取った。
 そして四つん這いになる女の手首を慣れた手つきで素早く後手に縛ると、いきなり女の尻をおもいきり引っ叩いた。
 乾いた音が静まり返った脱衣小屋に響いた。
 男は目を血走らせながら女の尻を叩きまくり、「早く腰を動かして!」と私に叫んだ。
 私は調教された競走馬のように慌てて腰を動かし始めた。
 女が腰を捩らせながら悲鳴をあげた。
 男は狂ったように女の尻をペシペシと叩きながら、「どうして私を裏切ったんだ! どうして私を裏切った!」と女の耳元に叫んだ。
 そして、わっと泣き出したと思うと、突然ニヤニヤ笑いながら溢れる鼻水をズルズルっと啜り、更に女の尻を叩きまくった。
 女の尻は真っ赤に充血していた。
 そんな女の尻には、潰れた蛾が無惨に張り付いていたのだった。

(七話に続く)

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