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SHIBUYA 後編

2012/11/17 Sat 04:25

しぶや2



「乳、見せてみぃ……」

男の野太い声が後部座席から聞こえて来た。
男との約束は尺八だけのはずだった。
胸を見せたり、触らせたりするのは約束が違った。

しかし、僕はあえて抗議をしなかった。
その時の僕には、まるで魔物に取り憑かれたかのように別の人格が宿っていたのだ。

もはや僕は僕ではなかった。
腹に子供を宿す大切な彼女が、僕の借金の形で闇金の男に陵辱されようとしていても、彼女を助ける気は更々なく、むしろそのシーンを密かに期待しているという、まさに外道と化していたのだった。

「イヤです……」

優菜はジッと俯きながら小さく首を横に振った。

「おまえの尺八はド下手なんじゃ。このまんまやとイクまでに二時間も三時間も掛かってまうやんけ。おまえもこんな事は早う終わらせたいやろ? そやったら早よ脱げや。その乳見せてワシを興奮させてとっとと終わらせいや」

男にそう言われた優菜は、僕が座っている助手席をソッと見た。
優菜は、消えたナビの画面に自分が反射している事を知らなかった。そのシーンが僕に見られている事を優菜は気付いていなかったのだ。

助手席のシートに踞りながら、ナビに反射する後部座席をこっそり覗き見していた僕は、乳を見せろと強要する男に優菜がどう出るかを、固唾を飲んで見守っていた。

しばらく助手席のシートを見つめていた優菜だったが、男に肩を突かれると、黙ったまま上着のボタンに指を掛けた。

(脱ぐのか優菜……脱いでしまうのか……)

絶望に叩き落とされながらも、僕は勃起したペニスをズボンの上からギュッと握っていた。

カサカサと優菜が服を脱ぐ音が聞こえて来た。
車のすぐ横を、小学生の女の子達がパタパタと運動靴の音を鳴らして横切って行く。

「ほぉ……なかなかええ乳しとるやないけぇ……」

男は嬉しそうに笑いながら、ツンっと突き出した優菜の大きな胸を両手で掴んだ。
胸を揉まれた優菜は、いやらしく笑う男の顔をジッと見つめた。そして、男の股間でいきり立っているペニスに静かに手を伸ばすと、それをがっしりと握り、ゆっくりと上下に動かし始めたのだった。

優菜のその自主的な行為は、男を早くイカせようとしているのか、それとも本能から握ったものなのか、と、僕は悩んだ。
フェラシーンを見る前の僕なら、迷う事なくそれは優菜の作戦だと思ったに違いない。
しかし今の僕は、素直にそうとは思えなかった。もしかしたら優菜は、既にこの男に感じ始めているのではないだろうかという不信感を心の隅に抱いていた。
胸を揉まれながら密かにペニスをシゴいている優菜の姿が、中国の歴史絵巻に出てくる裏切り者の悪女に見えた。
強烈な嫉妬と怒りに襲われた僕は、おもわずズボンの中からペニスを捻り出していたのだった。

ビルとビルの隙間から溢れる太陽の光が、フロントガラスを通して僕の貧弱なペニスを照らしていた。
僕の尿道からは既に我慢汁が大量に溢れ、赤い亀頭をテラテラと輝かせていた。そんな僕のペニスは、男のペニスには足下にも及ばないほどに小さすぎた。

「そのまましゃぶれや……」

男は優菜の細い肩を引き寄せながら囁いた。
そうしながら男は、優菜の唇に蛇のような長い舌をヌルッと押し込んだ。
信じられない事に、優菜は男の舌を何の抵抗も無く受け入れた。

実に卑猥で下品で残酷なディープキスだった。
そんな衝撃的な光景を目にしながらも、僕は必死に自分のペニスをシゴいていた。

男はキスをしながら優菜の小さな体を移動させた。
自分の左側に優菜を座らせると、ようやく優菜の唇から舌を抜き取った。
男は興奮しているのか、ハァハァと荒い息を吐きながら優菜の頭部に掌を乱暴に押さえ付けると、ビンビンに勃起しているペニスに優菜の顔を押し付けた。

優菜がしゃぶりついた。
じゅぶ、じゅぶ、と卑猥な音を立てながら、自らの意思で顔を上下に動かしていた。

そんな優菜のスカートの中に男の手が忍び込んだ。
一瞬、優菜の腰が引けた。
男の指から逃れようとしているのか、優菜は腰を振りながら小さな抵抗をしていた。

「動くな、大人しゅうしとれや」

そう唸る男は、スカートから突き出た優菜の丸い尻をペシンっと叩いた。
乾いた音が車内に響くと、ペニスを銜えた優菜の口から「んんん……」という声が洩れた。

その声を聞いた瞬間、僕の脳裏に、ふと、「私ってマゾなのかなぁ」っとポツリと呟いた、あの時の優菜の顔が浮かんできたのだった。




あれは、ちょうど去年の今頃の事だった。
ディズニーランドに遊びに行った帰り道、僕達は浦安の古ぼけたラブホテルに立ち寄った。

昭和を感じさせる薄汚い部屋のインテリアは赤と黒で統一され、部屋の奥には、ジャラジャラと鎖がぶら下がる十字架の張り付け台や、背中が三角形に尖った木馬などが置いてあった。
あきらかにSMの部屋だったが、もともとSMなどには全く興味のなかった僕達は、そんなグッズを気にする事なく部屋に入ったのだった。

風呂の湯を溜めている間、僕達はぼんやりとビデオを見ていた。
僕はベッドに寝転がり、優菜はソファーに座っていた。
そのホテルで放映されているビデオは全てSMモノだった。
縄で縛られた女が泣き叫び、鞭で叩かれる女が悲鳴をあげ、そしてロウソクを垂らされながらセックスされる女が喘いでいた。

「こいつらの精神は完全に狂ってるね……」

そんな事を呟きながらポテトチップスを齧っていると、ふと、ソファーでビデオを見ていた優菜の様子がおかしい事に気付いた。

「どうした? 気分でも悪いの?」

そう言いながらベッドを飛び降りた僕が優菜に近付くと、優菜は頬を真っ赤に染めながらいきなり俯いた。

「なんだよ……SM見て気持ち悪くなったのか?……」

僕はそう笑いながら優菜の横にドスンっと腰を下ろし、何気にミニスカートの中にソッと手を忍び込ませた。

「やだ……やめて……」

優菜は僕の手首を押さえつけた。
僕は驚きながら「どうしたの?」っと聞いた。

「……だって……まだお風呂入ってないし……」

そう言いながら必死に僕の手をスカートから追い出そうとする優菜の仕草は明らかに怪しかった。

不審に思った僕は、そんな優菜の手を振り解き、強引にパンティーの中に指を入れた。
すると、優菜のワレメはびっくりするほどに濡れていた。
まだ何にもしていないのに、優菜のソコはハチミツの瓶をひっくり返したかのようにヌルヌルに濡れていたのだ。

「どうしてだよ」

性器を弄りながら聞くと、優菜は困惑した表情で「わかんないの」と呟いた。

「あのビデオを見てたら、なんだか変な気分になってきちゃったの……」

そう僕の腕に飛び込んで来た優菜の体は、インフルエンザに感染した小学生のように熱を帯びていた。

そのままソファーに優菜を押し倒し、パンティーを毟り取った。
なにひとつ愛撫をする事なく、いきなりペニスを捻り込んだ。
ヌルヌルに濡れたワレメにペニスがヌポッと滑り込んだ瞬間、今までに聞いた事のない声で優菜が叫んだ。

「もっとして! もっと、もっとぐちゃぐちゃにして!」

優菜はそう叫びながら自ら腰を振り始めた。
そんな優菜の異変に、僕は恐ろしさを感じながらも欲情していた。
すぐさま僕のペニスから精液が飛び出した。
初めて見た優菜のその乱れように激しく興奮した僕は、ものの五分も保たなかったのだった。

その後、二人は一緒に風呂に入った。
洗い場にしゃがみながら中出しされた精液を膣の中から押し出していた優菜が、恥ずかしそうにポツリと呟いた。

「私ってマゾなのかなぁ………」




そんな浦安の出来事をふと思い出した僕は、男に生尻をペタペタと叩かれながらペニスをしゃぶっている優菜に不安を感じた。

(これは明らかにSMっぽい……このまま行けば、Mっけのある優菜は本番を許してしまうかもしれない……)

背筋に冷たいモノがゾゾゾっと走った。
妊娠三ヶ月。そのお腹の中に、あの獣のような男の肉棒が出たり入ったりするのを想像した僕は、気が狂いそうなくらいの焦燥感に駆られた。

(本番だけは絶対ダメだ! お腹の中の優也が殺されてしまう!)

しかし、そう焦れば焦るほど、僕の性的興奮は高まるばかりだった。
妊娠した膣に、ズボズボと他人棒が突き刺さるシーンを思い浮かべると、僕はペニスをシゴかずにはいられないほどに興奮してしまったのだ。

すると、突然後部座席から男の声が響いた。

「おいおいおい、なんじゃいこりゃあ……オメコがびしゃびしゃに濡れとるやないけぇ」

そんな男の声に、踞っていた僕は慌てて顔を上げた。
消えたナビの画面には、男のペニスをしゃぶらせられながら股間を弄られる優菜の姿が残酷に映っていた。

「チンポ、入れて欲しいのか?」

男は優菜の陰部に卑猥な音を立てながら、優菜の耳元にソッと囁いた。
優菜はペニスを銜えたまま必死で首を横に振っていた。

「じゃあ、なんでこない濡れとんねん……オメコして欲しいさかいこない濡れとんのとちゃうんかい……」

男の声と、そして優菜の股間から聞こえて来る残酷なその音が、僕の脳味噌を一気に破壊した。

突然僕は大声を出して泣き出した。
まるで甲子園の土を掻き集める高校球児のように、僕は顔をグシャグシャにさせながらオイオイと泣き出した。

そんな僕の泣き声に男が笑い出した。
僕が座っている助手席の後をドンドンと蹴りながら、「笑かすなボケ! イカんやろ!」と、ゲラゲラと大声で笑っていた。
しかし、そんな僕の泣き声とは別の泣き声が後から聞こえて来た。
ペニスを銜える優菜が、「うーうー」と泣いていたのだ。

「なんやねんおまえら、二人して泣いとんのか? ええで、ワシ、そんなん好きやねん。泣き叫ぶ彼氏の前で泣き叫ぶ女をレイプするなんて最高やんけ」

男は下品な笑い声をあげながら、優菜をソフアーの上に押し倒した。
ドタン、バタンっと激しい音の末に、「イヤ!」と叫ぶ優菜の声が響いた。

「もうやめて下さい!」

僕は踞ったまま叫んだ。
痙攣した喉が引き攣り、涙と鼻水と咳が一気に吹き出した。

「じゃかぁしぃ! 見てみぃドアホ! おまえの女のオメコはワシのチンポをしっかりと銜え込んで離さんやんけぇボケェ!」

男の怒鳴り声と共に、ドス、ドス、ドス、ドス、っと後部座席が激しく揺れた。
悲鳴混じりの優菜の喘ぎ声が車内に谺し、「ええ、オメコ持っとるやんけ姉ちゃん」という男の唸り声が聞こえた。
そんな残酷な声に、僕は両手で耳を塞ぎながら、檻の中の猿のように泣き叫んでいるしかなかったのだった……






……ふと気が付くと、目の前には青空が広がっていた。
いつの間にかサンルーフを見上げていた僕は、そう言えば東京の空を見るのは久しぶりだなと思いながら、なぜか口内に広がる鉄サビの味を舌で確かめていた。

一瞬、目前が真っ暗になった記憶が微かに残っていた。
左アゴに衝撃を受けた瞬間、脳にガツンっと鈍い音が響き、そのまま目の前が真っ暗になったのを何となく覚えている。

時計の針は二十分を指していた。僕は十五分ほど気を失っていたようだった。

ゆっくりと顔を元に戻すと、ジーンズの太ももの上にポタポタポタっと鼻血が垂れた。
後部座席ではギシギシとシートが軋む音が続いており、はぁん、はぁん、はぁん、っという優菜の声と、ふー、ふー、ふー、っと息を吐く男の呼吸が、僕の意識をじわりじわりと回復させていった。

「ほら、もっと腰振れや」

そう囁く男の声が耳に飛び込んで来た時、そうだ僕は男に殴られたんだと、そこではっきりと気が付いた。

上半身をゆっくり反転させ後部座席を見た。
シートの上では優菜が犬のように四つん這いにさせられていた。
男は優菜の細い腰を両手で抱え、尻に向かってコキコキと腰を振っていた。

そんな優菜の尻は真っ赤に充血し、男の手の平の跡がくっきりと残っていた。

「ほれ、もっと叫んでみぃ……さっきみたいに潮吹いたらんかい……ほれ……」

男は、タプタプと揺れる優菜の胸を背後から掴みながら、「ほれ、ほれ」と腰を振り、時折、優菜の尻をペシペシと叩いた。
尻を叩かれる度に「はぁん!」と仰け反る優菜は、もはや別人のようだった。

そんな優菜を呆然としながら見ていると、男が僕に気付いた。
男は僕の顔を見てニヤリと不敵に笑った。
「この女、なかなかの変態やでぇ……」と言いながら、優菜の尻肉を片方押し広げ、肉棒が出たり入ったりする結合部分を僕に見せつけた。
肉棒が出入りするその穴の奥には、僕の赤ちゃんが眠っていた。

シートに顔を押し付けていた優菜がハッ! としながら僕を見た。
そこで初めて優菜は僕に見られている事に気付いたらしい。
優菜は髪を振り乱しながら大きな声で叫んだ。

「いや! 見ないで!」

男がニヤニヤと笑いながら言った。

「見せたったらええやん。パチンコばっかして働かんこいつが悪いんや。借りた銭を返さんこいつが悪いんや」

男はそう笑いながら更に腰の動きを速めた。
男が腰をコキコキと突き上げる度に、優菜の「イヤ、イヤ、」という声が悲しく響いた。

そんな優菜は感じているようだった。
四つん這いに膝を立てたシートには、ぐっしょりと湿ったシミが大きく広がっていた。恐らくそれは、優菜が潮を吹いた形跡に違いない。

『私ってマゾなのかなぁ………』

そんな優菜の声が再び甦った。
そして、殴られた僕が気絶していた十五分の間に、この狭い空間の中で繰り広げられた変態行為を、僕は勝手に妄想した。

「あぁぁぁぁ、イキそうや」

男はそう唸りながら優菜を仰向けに寝かせた。
優菜の細い両脚を腕に抱え、卑猥に輝く優菜のワレメを押し広げながら巨大な肉棒をズコズコとピストンさせた。

「ヤダ! 見ないで! ヤダ! ヤダ!」

優菜はうわ言のようにそう叫びながら、小さな顔を左右にイヤイヤとさせていた。

「好きな男に見られてる思うと、余計感じるもんやろ? ん? 違うか?」

男はそうヘラヘラと笑うと、悶え狂う優菜をがっつりと押さえ込みながらガンガンと腰を振った。

泣き出した優菜は顔をクシャクシャにさせながら僕を見つめていた。
悲鳴に近い声で「ごめんね! ごめんね!」と何度も叫んでいた。

男はそんな優菜の顔をニヤニヤと笑いながら見つめ、そのまま優菜の体を乱暴に抱き起こすと、ソファーに凭れながら対面座位の体勢になった。

「ほら、腰振れ、腰。好きな男におまえの淫乱っぷりをちゃんと見て貰いぃ」

男がそう言いながら優菜の尻をペシペシと叩くと、僕に背中を向けた優菜は、少女のようにわんわんと泣きながらコアラのように男の体にしがみつき、自らの力でゆっくりと腰を動かし始めた。

瞬間に目の前が真っ暗になった。
ドッと汗が噴き出し、たちまち全身の力が抜けた。
朦朧とする意識の中で、優菜の丸くて可愛い尻が上下に動いていた。

「特別サービスや、ほれ、ズッポリと見えるやろ」

男はそう下品に笑いながら優菜の小さな尻肉に両手をあてると、そのまま左右に広げながら結合部分を僕に見せつけた。
ベロッと捲れた膣に太い肉棒が突き刺さっていた。
ぐちょ、ぐちょ、とピストンする度にドロドロした濃厚な汁が無数に糸を引き、それは白濁のヘドロとなって男の金玉へと垂れ落ちて行った。

あの中に僕達の子供が眠っているんだ、と思うと、自然に涙が溢れ出した。
僕は人形のように身動きしないまま優菜の揺れる尻を見つめ、ひたすら涙をダラダラと流していた。

男は散々優菜に腰を振らせると、そのまま体勢を反転させた。
シートに背中を押し付けられた優菜は、僕と目が合うなりサッと目を反らした。

「さっき、縛って欲しい言うとったやろ……へへへへ、これで縛ったるわ……」

男は僕に尻を向けながらそう笑うと、シートに凭れた優菜の体にシートベルトを伸ばした。
真っ白な肌に黒いシートベルトが斜めに走った。
男はシートベルトをカチッと嵌め込むと、更に隣の座席のシートベルトをシュルシュルと伸ばし、優菜の細い手首にグルグルと巻き始めた。

シートベルトで両手首を拘束された優菜の腕を、窓の上にあるアシストグリップに括り付けた。
全裸の優菜は、両手を天井に吊り下げられた状態で、座席にシートベルトで固定された。

両脚を座席の上に持ち上げられ、股をM字に開かされていた。
テラテラと濡れ輝く陰部が、渋谷のビルの隙間から漏れる光に照らされていた。

「どや、これでええやろ……好きな男の目の前で縛られて犯されるなんて、変態マゾ女には堪らんやろ……」

男はそう笑いながらM字に開かされた優菜の股間に体を埋めると、そのまま尻肉を凸凹させながら腰を振り始めた。
すぐに優菜が反応した。天釣りされた両手をグイグイと引きながら激しく喘ぎ始めた。

「気持ちええか?……気持ちええんやろ?……気持ちええなら気持ちええって言わんかい……」

フハ、フハ、と息を吐きながら男が呟くと、優菜は男のうなじに顔を押し込みながら、「気持ちいい! 気持ちいい! もっとして!」と叫んだ。
そんな優菜の声に刺激されたのか、男の腰が急に早くなり、絡み合ったシートベルトをギシギシと軋ませた。

「ええか、ええか、あぁぁー、堪らん、イクでぇ、もうイクでぇ、中で出すでぇ、中で出してもええねんな」

男は大型犬のようにハァハァと荒い息を吐きながら、喘ぎまくる優菜の口に舌を押し込んだ。

「んむむむむっ………」

男の唸り声と共に、優菜の声が僕の頭の中で響いた。

(私ってマゾなのかなぁ………)

それは、あの時、浦安の古びたあのラブホテルの浴室で、優菜が恥ずかしそうに囁いた言葉だった。

「優菜はマゾなんかじゃないよ……全然マゾなんかじゃない……マゾなのは、きっと僕のほうさ……」

僕はそう答えながら勃起したペニスを握ると、中出しされている優菜を見つめながらシコシコとシゴき始めた。

ものの三こすりで僕は射精した。
助手席のシートに精液を飛び散ちらしていると、歩道を歩く女子高生の集団が呆然としながら僕を見つめていた。

精液が滴るペニスを剥き出しにしたまま、僕は運転席に飛び込んだ。
エンジンを掛けっぱなしにしていたため、ギアをDに下ろしアクセルを踏むだけで良かった。

グワンっと車が走り出すと、後部座席から「こらぁ! 勝手になにさらしとんねん!」という男の怒声が聞こえて来た。
僕はそんな男を無視しながらアクセルをおもいきり踏みしめ、グングンとスピードを上げていった。

「こらぁ!」と男が僕の肩を掴んだ。
僕は「ウギャァァァァァァァァ」と奇声をあげながら、ノーブレーキで井ノ頭通りの交差点を急左折した。
男の体は吹っ飛び、左側のドアに体当たりした。
横断歩道を渡ろうとしていた人の群れが一斉に仰天し、蜘蛛の子を散らすかのように逃げまとった。

一方通行の細い路地を全速力で走った。
幸い、前方に車は走っておらず、道路の脇に宅急便のトラックが停車しているだけだった。
ビービビビビビッ! とけたたましいクラクションを鳴らしながらひたすらアクセルを踏んだ。
メーターは百二十キロを指していた。人を轢けば確実に即死だ。

「なにしとんじゃワレ!」

ムクリと起き上がった男は、運転席と助手席の間からヌッと顔を出し、再び僕の肩を掴みながら叫んだ。
細い路地の向こうに『角海老』と書かれた老舗風俗チェーン店の大きな看板が見えた。
確かその看板の真下の三叉路に、宇田川の交番があったはずだと思った僕は、更にアクセルを踏みながら自分の体にシートベルトをカチッ嵌めた。

「止めんかい、こらぁぁぁぁ!」

男が僕の髪の毛を引っ張った。
必死に堪えながらメーターを見ると時速は百四十キロだった。
三叉路が見えて来た。
その三叉路の真ん中にネズミ色の交番があった。

更にアクセルを踏むと、あっ、と思った瞬間に車は歩道に乗り上げていた。
ガッ! という激しい衝撃音と共に青い道路標識が吹っ飛んだ。
歩道に並んでいた自転車をバタバタバタっと跳ね飛ばし、交番の中で呆然と立ちすくむ制服警官の姿が、まるで『早送り』しているように迫って来た。

一瞬にして交番の前にあったコンクリートの花壇が目に飛び込んだ。
ドカァァァァン! という凄まじい音と共に、僕の顔の前で何かがボン!っと破裂した。

今までに受けた事のない強烈な衝撃だった。
まるで富士急ハイランドの絶叫マシーンから振り落とされたような、そんな凄まじい衝撃だった。

エアバッグと座席にぎっちりと挟まれた僕は身動きできず、息をするのがやっとだった。
車は見事に横転していた。
粉々に割れた運転席の窓から道路の白線が見えた。

焦げたガソリンの匂いと埃にまみれながら、僕は最後の力を振り絞って優菜の名を叫んだ。
そんな僕の叫び声を聞きつけた誰かが、「まだ生きてるぞ!」と車の外で叫んだ。
僕はもう一度「優菜!」と叫んだ。
すると、後部座席から「ごめんね……」という優菜の小さな声が微かに聞こえたのだった。

僕はシートベルトとエアバッグのおかげで助かった。
優菜も、グルグル巻きに固定されたシートベルトのおかげで助かった。
通行人も交番のおまわりさんも誰も死ななかった。

しかし、男は死んだ。
交番前のコンクリート花壇に激突した瞬間、男はフロントガラスから飛び出した。
そして交番の奥に掲げてある『本日の交通死亡事故件数』という看板に頭から突っ込み、脳味噌を飛び散らして死んだ。
即死だった。




その後、僕は渋谷警察署に二十日間勾留された。
しかし、闇金のヤクザに彼女をレイプされていたという緊迫した状況を信じてくれた検事さんは、僕を不起訴処分にしてくれた。

男が消えたおかげで借金も消えた。
しかし、残念な事に、優菜の妊娠は流れてしまった。

それからの僕は、人が変わったように働いた。
優菜と二人して一生懸命働き、もう一度『優也』を夢見て必死に金を溜めた。

生活に余裕ができた僕達は、中古のエルグランドを買った。

そんな僕達は、今、渋谷の街をエルグランドでドライブしている。
グルグルグルグルと渋谷の街を回りまくっている。
運転手は僕で、優菜は後部座席に座っていた。
もちろん優菜は全裸だ。
真っ赤な縄で亀甲縛りされた優菜は、シートの上で股をM字に開き、性器には巨大なバイブをウネウネと唸らせていた。

僕は円山町のラブホテル街の路地に車を停めた。

前方からトボトボと歩いて来たサラリーマン風のおじさんに窓からソッと声を掛けた。

「どうです。真性のマゾ女ですよ。遊んで行きませんか……」

そう、僕達は今、一生懸命働いている。


(SHIBUYA・完)



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