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SHIBUYA 前編

2012/11/17 Sat 04:25

しぶや1



「松沢くん」

人混みの渋谷の歩道でいきなり名前を呼ばれた。
振り返ると、歩道の脇に止めたワンボックスカーの中から、人相の悪い男が僕を見ながらニヤニヤと笑っていた。
虫歯でガタガタに欠けた黒い前歯が目に飛び込んで来た。
背筋がゾッと寒くなった。
今、僕が最も会いたくない人物だった。

「誰?」

優菜が不安そうに僕を見た。

「うん……ちょっとした知り合い……」

そう曖昧に答えると、男は急に真面目な顔になり、おいでおいでと手を振りながら僕を呼んだ。

「すぐ来るから、ちょっと待ってて……」

不安そうな優菜を歩道に残し、僕は男が手招く車へと向かった。
男は助手席のロックを開けると、そこに乗れと運転席から合図した。
僕は素直に従った。従わなければならなかった。

「どうして電話せんのや……昨日からずっと待っとったんやで」

僕が助手席のドアを閉めると、男は煙草に火を付けながらそう言った。

「……すみません……色々とバタバタしてて電話できませんでした……」

「なんや、色々って」

男は煙草を銜えたまま煙を静かに吐いた。
窓を閉め切った車内に男が吐き出した煙が充満する。

「……はぁ……」

「まぁええわ。で、銭は出来てるんやろうな……」

男は横目でジロリと僕を睨みながら聞いた。

「……すみません……それが、その……まだ……」

「まだってなんや。約束の期限は昨日やろ。どうなってんねん」

男は一口吸っただけの煙草を灰皿に押し付けると、ガサガサと乱暴に揉み消した。
そんな男の左手は小指と薬指が半分に欠けていた。

「銭のできるアテはあんのんかい」

男の声がいきなり低くなった。
そんなアテなどあるわけなかった。あればこんな危ない闇金なんかから金を借りるわけがない。
既に僕は、親からも友達からも、町の消費者金融全てからも見放なされていた。
もう、逆立ちしたって何したって百円の金も出て来ないのだ。

黙ったまま項垂れている僕に、男は指をパキパキと鳴らしながら「ないんやな」と確認した。
僕は項垂れたままコクンっと頷くと、「すみません……」と呟いた。

「ほな、あの女、売ろか」

男は、歩道の隅で心配そうにこちらを見ている優菜を指差しながら言った。
とたんに僕の体の毛穴という毛穴から一斉に汗が吹き出した。

「そ、それだけは勘弁してください」

「なんでや」

男はガタガタに欠けた前歯をチッ、チッ、とさせながら僕の顔を覗き込んだ。

「来月、彼女と結婚するんです。それに、彼女の腹には僕の子供がいるんです」

焦ってそう言うと、男のチッ、チッは更に激しくなり、虫歯臭い息が僕の鼻をツキーンっと刺激した。

「人様から借りた銭を返さんとガキなんか作りやがって……おまえ、ワシ舐めとんのか? ホンマに殺すぞ?」

この男なら本当に殺しかねないと思った。
先月も、利息が払えなかった僕は、ガラス製の大きな灰皿で頭を叩き割られ四針縫った。
その前の月も、利息が三日遅れただけで夜の東京湾に突き落とされ、そしてその前の月も、やはり利息が遅れた僕は、三日間飲まず喰わずで倉庫のような地下室に監禁された。あの時は本気で死ぬかと思ったくらいだ。

「必ずお金作りますから、あと二日だけ待って下さい」

「どうやって作るんや。二日で二百万、耳揃えれるんかい」

「お袋の定期を借ります。もし貸して貰えなかった盗んできます。だから彼女だけは勘弁して下さい」

男は大きな溜息を付いた。
ゆっくりとシートに凭れ、煙草を一本抜き取ると、それを唇の端で銜えながら、歩道の端で携帯を見ている優菜をジッと見た。

「よしゃ。ほな二日間だけ待ってやる」

煙草に火を付けながら、いきなり男がそう呟いた。
僕は深々と頭を下げながら「ありがとうございます!」と心から叫んだ。
が、しかし、男の言葉にはまだ続きがあった。

「その代わり、あの女にワシのチンポを尺八させぇ。それで今日の所は勘弁してやる」

「えっ!」

「なにが、えっ!じゃ。円山町のホテトルで本番させられるよりはええやろ。もっと感謝せぇ感謝を」

「しかし……」

僕は便意を催すほどに焦っていた。
もしここでそれを断れば、本当に優菜はこのまま円山町の組事務所に連れて行かれるだろう。
この男の凶暴性と残酷性を、僕は嫌と言うほど知っているのだ。
愛する彼女に他人のペニスを舐めさせるなんて死ぬほど嫌だった。
嫌に決まっているが、しかし、それを断ればもっと酷い事になるのは火を見るより明らかだ。

僕は素直に諦めた。
男の目をジッと睨みながら、「絶対にフェラだけにして下さいね」と念を押した。
男はニヤリと不敵に笑うと、「わかっとるわい。はよ連れて来いや」と言いながら、熊のようにノソノソと後部座席に移動したのだった。


              


「冗談でしょ?」

優菜は小動物のように首を斜めに傾げながら目を丸くした。

「いや、本当だ……もう、どうにもならないんだ助けてくれ……」

僕は今にも土下座しそうな勢いで頭を下げた。

しばらくの間、呆然としながら僕を見つめていた優菜だったが、スッと小さく息を吸い込むと、チラッとワンボックスカーを見た。
後部座席の窓に、ニヤニヤと笑いながら手を振っている男の顔が見えた。その顔は、ガッツ石松を大きな鍋で五時間コトコト煮込んだような、そんな滅茶苦茶な顔だった。

「凄すぎる……」

優菜は絶句すると、背筋をゾクッとさせながら僕を見た。

「舐めるだけでいいんだ。ペロッと舐めるだけであいつは満足するんだ。すぐに終わらせるから、頼む、この通り……」

歩道の真ん中で、両手をあわせながら優菜に必死に拝んでいる僕を、B系ファッションのガキ共がヘラヘラと笑いながら通り過ぎて行った。

「……本当に舐めるだけなの……」

優菜は淋しそうな目で僕を見つめながら呟いた。

「本当だ。それ以上は絶対に何もさせない。もしそれ以上を求めて来たら、僕が命を掛けて優菜を守る」

「……………」

優菜はゆっくりと視線を落とした。
そして自分の足下を見ながら、「本当に守ってくれる?」と、消え入るような声で聞いた。

「約束するよ。優菜の為にも、産まれて来る優也の為にも、絶対に守ってみせるよ」

優也という名前を聞いて、優菜がクスッと笑った。
優菜の『優』と、僕の達也という名前の『也』を取って『優也』。
その名前は、優菜に子供ができたと知った日に、二人で徹夜して考えた子供の名前だった。

「まだ男の子だって決まってないよぅ」

優菜は、少女が甘えるような目をして微笑んだ。

「男だよ。男に決まってるさ」

そう微笑みながら、優菜のまだぺしゃんこの腹に優しく手をあてた瞬間、背後のワンボックスカーが、急かせるようにしてクラクションを激しく鳴らしたのだった。



ワンボックスカーの後部ドアをガラガラガラっと開けると、趣味の悪いワインレッドのワイシャツを着た男がニヤニヤと笑っていた。

「ご苦労、ご苦労……おまえは一時間くらいその辺ブラブラしとけや」

そう言いながら男が優菜の細い手首を乱暴に掴んだ。
優菜が「あっ」と抵抗しようとした瞬間、優菜の細い体は、まるで掃除機に吸い込まれるようにして、ワンボックスカーの奥へと消えた。

僕は慌てて助手席に飛び乗った。

「何やワレ! あっち行っとれや!」

男が、餌を取られたブルドッグのように獰猛に吠えた。

「いやです。ここにいます。早く済ませて下さい」

何が何でもここにいなきゃと必死に踏ん張った僕は、助手席の上でアルマジロのように踞った。
殴られても蹴られてもここにいなきゃ、優菜が何をされるかわからないのだ。

シートに踞りながら震えている僕を、男はシートの上からジッと覗き込みながら、「自分の女が他人に尺八するとこ見たいなんて、おまえ、変態ちゃうか……」と呆れたように呟いた。
そしてそのままドスンと後部座席に腰を下ろすと、「まぁ、好きなようにせぇ」と吐き捨てたのだった。



ワンボックスカーの後部座席には真っ黒なフィルムが貼られているため、外から中は絶対に見えなかった。
幸せそうなカップル達が、次々にワンボックスカーの横を通り過ぎて行った。
そこを通り過ぎて行く人々は、まさか渋谷のど真ん中で、しかも交通量の激しい路上で、白昼堂々こんな惨劇がおこなわれているとは誰も思っていないであろう。

「姉ちゃん、歳はなんぼや……」

背後から男の声が聞こえて来た。
僕は耳を塞ぎながら、ギュッと目を閉じていた。
しかし、残酷にも耳を塞ぐ指の隙間から、「二十四です」という優菜の声が聞こえた。
そんな優菜の声は酷く脅えていた。
はっきりと聞き取れたその声に、優菜はまだペニスを口に含んでいないと少し安心した。

しかし、しばらくすると、それが逆に僕を不安にさせた。
優菜が車に乗ってから、かれこれ十五分が経過しようとしているのに、二人はいったい何をしているんだろうと怖くなったのだ。

全身にびっしょりと汗を掻きながら震える僕は、恐る恐るバックミラーを覗き込んだ。
座席の真ん中に、ワインレッドのワイシャツを開けた男が両手両脚を大きく広げながら堂々と座っていた。
男のその足下に優菜の頭部が見えた
優菜のほんのりと茶髪に染めた髪がユサユサと小刻みに動いている。

僕はゴクリと唾を飲み、亀のように首を伸ばしながらバックミラーの下部を覗き込んだ。
男の足下にしゃがんだ優菜が、黒々とした獰猛な肉棒を握っていた。今にも泣き出しそうな顔で脅えながら、男の肉棒をシコシコと上下にしごいていた。

背筋がゾッとした。
愛する彼女が他人のペニスを愛撫しているシーンは、残酷を通り過ぎて夢のようだった。
そんな僕を、男はバックミラー越しに睨みながら「何見とんのや」とせせら笑った。

男のその声で、行為を僕に見られていると知った優菜が、慌てて男のペニスから手を離した。
優菜のその仕草には、まるで浮気を発見された時のような後ろめたさが感じられた。
不意に僕の中で優菜に対する不信感が広がった。

舐めるだけならと自分で言っておきながら、隠れてコソコソと手コキをしていた優菜。
そんな優菜は、男のペニスがあまりにも立派だった為、その気になってしまったのではないだろうか……。
そう思った瞬間、僕の感情は絶望から嫉妬へと移り変わった。

「そろそろええやろ……」

男はそう笑いながら優菜の頭部に手をあて、優菜の顔をペニスに近づけようとした。
優菜がバックミラーをチラッと見た。
僕と目が合った。
とたんに、開きかけていた優菜の唇がキュッと閉じ、優菜はペニスからソッと顔を背けた。

「おい」

男がバックミラー越しに僕を睨みながら唸った。

「おまえが見とると姉ちゃんやりにくそうやんけ。やっぱり、おまえどっか行っとれ」

男は助手席のシートをドンっと蹴りながら怒鳴った。

「……わかりました、もう見ません……」

僕はバックミラーの角度を変えた。
下に向けられたバックミラーには、ダッシュボードの上に置かれた男のパーラメントだけが忌々しく映っていた。

渋谷の歩道には大勢の人達が溢れていた。
若い男の子達がお店のショーウィンドゥに飾られたスノーボードを指差しながら騒ぎ、若いカップルが楽しそうな笑顔を浮かべながら、僕が座っている助手席のすぐ横を通り過ぎて行った。
みんなみんな幸せそうだった。
しばらくすると、ぴちゃ、ぴちゃ、っと湿った音が微かに聞こえて来た。
歩道を歩く幸せそうな人々とは正反対に、僕はとっても不幸だった。

優菜がどんな風に男のペニスを舐めているのか、手に取るように想像できた。
きっと、いつも僕にしているように、亀頭をチロチロと舐め、竿に唾液をタラタラと垂らし、そして喉の奥底までジュブ、ジュブとしゃぶっているのだろう。
そんな想像が、湿った音と共に次々に溢れて来た。これはある意味、バックミラーで覗き見しているよりも残酷な事かもしれなかった。

もう耐えられなかった。
ぴちゃ、ぴちゃ、という音と共に男の唸り声が聞こえ始めると、もはや我慢の限界だった。

とにかく、その卑猥な音だけでも消し去りたかった僕は、勝手にCDを流そうと思った。
シケモクが山のように積まれた灰皿の上にCDがあった。なんのCDが入っているのかはわからないが、一刻も早く卑猥な音を消し去りたくて、急いで再生ボタンを探した。

と、その時、再生ボタンを探す僕の指先で何かが動いた。
電源が消されたナビの真っ黒な画面に、何かが反射して蠢いていた。
それをまともに目にしてしまった僕は、瞬間にフリーズしてしまったのだった。

見るな。見ちゃダメだ。
そう自分に言い聞かせながらも、僕の目はナビに反射する優菜の姿に釘付けになっていた。

大の字になってソファーにふん反りかえる男の股間で、優菜の小さな顔が上下に動いていた。
口を大きく開けた優菜は、男の肉棒の根元を指で固定しながら、しっかりとペニスを銜え込んでいた。

優菜の顔が上下する度に、ぬぽっ、ぬぽっ、という音が聞こえて来た。
きっと、この画面を見なければそんな音には気が付かなかっただろうと思うと、見てしまった事に激しい後悔の念を感じた。

自分の彼女が他の男にフェラをするシーンを客観的に見て、僕の胸の中で怒りと悲しみと嫉妬と絶望が入り乱れた。

優菜は今までにもああやって色んな男のペニスを舐めて来たんだろうか?

優菜は洗ってもいない他人のペニスを、どうしてあんな風に平気で舐めれるんだ?

優菜はもしかしたら僕に内緒で、ああやって誰かのペニスをいつも舐めているのではないだろうか?

優菜は嫌がっていたはずじゃないか、なのにどうしてそこまで必要以上にいやらしく舐めているんだ。

……………。

そんな考えが次々に頭に浮かんで来た。
気が付くと、僕のペニスは痛いくらいに勃起していた。
不思議な事に、優菜を見つめる僕は、今までにない性的興奮に包まれていたのだった。

(つづく)

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