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裏切り妻(後編)

2012/04/14 Sat 01:21

    裏切り妻2



—4—

 結局、妻はリビングの床の上で二回もイッた。
 そんな妻の痴態を、庭から覗く私とリビングの奥のソファーに座る男が共有しながら眺めていた。

 男が何か呟いた。妻は床に寝転がったまま「うん」と返事をすると、ゆっくりと体を起こしその場に立ち上がった。
 慌てて窓の下にサッと身を伏せた私は、縁の下から漂って来るカビ臭い湿気を顔に感じながら頭上を見上げた。
 下から見上げた妻の豊満な乳は見事な釣り鐘型だった。妻はテラリと輝く濡れた指をティッシュで拭き取りながら「お湯溜める?」と男に聞いた。
 どうやらこの男は、図々しくも風呂に入りたいと言い出したようだった。
「湯なんかいらないよ。風呂でオシッコするとこ見せてくれればいいよ」
 男はソファーを立ち上がりながらそう笑った。
 妻も釣られてニヤッと笑った。そんな妻は今までに見た事もない派手な化粧をしていた。

 二人が浴室へ消えて行くのを確認すると、私は急いで玄関へと走り合鍵でドアを開けた。
 玄関に漂ういつもの芳香剤の香りが、今夜は妙によそよそしい新鮮さを感じさせ、まるで今から他人の家に侵入するような気分にさせた。
 案の定、玄関に男の靴はなかった。恐らく男の靴は家のどこかに隠しているのだろう。そう思うと、この計画的な犯行は絶対に許せないと下唇を強く噛み締めた。

 火曜日。私が夜番で家に帰って来ないのを見計らっては、毎週火曜日の夜に忍び込む間男と、それを招き入れる裏切り妻。
 殺そう。素直にそう思った私は、この二人が最高潮に達した瞬間、最悪の奈落の底へと真っ逆さまに突き落としてやろうと考えた。そして、天国から一転して地獄へ落ちる血まみれの二人を、水戸黄門のように高笑いしながら見届けてやるんだとそう思った私は、メラメラと復讐心に燃えながら自分の靴を下駄箱の中にそっと押し込んだのだった。

 玄関からキッチンへ向かった。浴室から聞こえて来るボイラーの音が強烈な嫉妬を沸き上がらせ、激しく胸を締めつけた。そう苦しみながらも、私はシステムキッチンの棚を静かに開けると、そこから文化包丁を引き抜いた。

 リビングには生温かい人間臭がモワッと漂っていた。消音されたテレビからは深夜のお笑いトーク番組が垂れ流しされていた。
 テレビの前のガラステーブルの上に、缶ビールとポテトチップスと天津甘栗の殻が散らばっていた。妻が甘栗の皮を剥き、それを男が食いながら二人仲良くテレビを見ていたのかと思うと、ムカムカと野蛮な血が逆流し、お門違いにも、今画面に映っているやしきたかじんを文化包丁で切り刻んでやりたい衝動に駆られた。

 そんなガラステーブルの上にキザな金色のライターと煙草の箱が重なるように置いてあるのが見えた。私は見覚えのあるそのカルティエのライターを手にした。その下に置いてあった煙草はラークマイルドだった。
 会社から直接ここに来たのだろう、ソファーの上には男のスーツが乱雑に脱ぎ捨てられていた。つい先程まで会社で目にしていたネクタイの柄が、まるで悪夢のオープニングのように私の脳裏で渦巻き始めた。

 そんなソファーに腰を下ろした。この家に越して来ると同時に購入したイタリア製の三人掛けソファーだった。定価四十万円はかなり痛かったが、しかし「子供の代まで使えるから」と美佐が強く要望するため、渋々十二回払いの月賦で購入した。
 そんなソファーにまさか間男が脱ぎ捨てた服が散らばるなど、あの時ローン用紙に名前を書き込んでいた私は夢にも思っていなかった。
 間男のスーツを指で摘み上げた。年期の入ったくたびれたスーツだった。そんなスーツの下に、いつも妻が室内着にしているTシャツと短パンが脱ぎ捨ててあった。そしてその下には、今まで夫である私が一度も見た事の無いような下品な下着が押し潰されていたのだった。

 それは、いわゆるTバックという下着だった。私の青春時代、ボディコンを着た長い髪の女たちがよく履いていた、あの尻出しパンツである。
 しかしここにあるTバックは、性器を隠す部分以外は全てレースという実に卑猥なデザインだった。これではまるで『大人のおもちゃ』に売っている悩殺パンティーのようであり、あの時のボディコンを着た女たちが履いていたオシャレなソレとは少し違っていた。
(美佐がこんないやらしい下着を持っていたとは……)
 激しいショックを受けながらソレをソッと手に取ると、怒りで唇を震わせながら恐る恐る開いて見た。

 性器を隠す部分にはヌルヌルとした白濁汁が、まるでヨーグルトを塗り付けたように付着していた。それは、明らかに性的興奮によって分泌されたヌルヌル汁だった。
 私とのセックスで美佐がアソコをここまで濡らしていたという記憶は新婚当時以外一度もなかった。濡れるには濡れるが、しかしそれはかろうじて挿入できる程度の潤滑油であり、ここまで豪快にヌルヌルするなど、ここ最近では見た事が無かった。
 夫である自分以外の男が妻を濡らすという行為に激しい嫉妬を感じた。
 濡れる妻が悪いのか、濡らす男が悪いのか。いや、濡れさせられない夫が一番悪いのだ……。
 そんな下着の汚れを見つめていると、再び激しい鬱が私に襲い掛かってきた。この場でわっ!と泣き崩れ、そのまま死んだように眠ってしまいたい。そう弱気になる私には、既に戦闘意欲も殺意も消え去ってしまっていたのだった。


—5—


 リビングのフローリングを湿った足でドタドタと歩く音が聞こえてきた。
「あぁ、暑い暑い、ビールくれ」
 男はそう言うと、再びソファーに腰を下ろしたようだった。
 男のドタドタした足音の後に、妻のピタピタという濡れた足音が聞こえて来た。
「まだそんなに冷えてないけどいい?」
 冷蔵庫を開けながらそう聞く今の妻は、私の妻ではなく男の妻のようだった。
 そんな残酷な会話を、私は玄関前の廊下にしゃがみながら聞いていた。
 ペキッ!と缶ビールの蓋を開ける音がリビングに響いた。私はリビングのガラスドアに耳を傾けながら、クピクピとビールを飲む男の喉音を聞いていた。
 二階の寝室には絶対に行かせない……。
 そう階段を睨む私はカバンの中に押し込んだ包丁を握りしめた。そこで犬のように最後のオマンコをするのであれば、二人の感情が最高潮に達するまで気長に待ってやるつもりだったが、しかし、もし寝室に行こうとするなら、この玄関で決着を付けてやるつもりだった。あんな男に私のベッドを使われるのは死んでも嫌だった。
 すると男は、ソファーにふんぞり返ったまま妻を呼び寄せた。「立たせてくれよ」と笑う男はどうやらここで事を済ませようとしているようだった。
「さっきのフェラが濃厚すぎたんだよ。全部吸い取られちゃっみたいだ。今夜はもう立たねぇかも知れないぜ」
 男は焦らすかのようにそうヘラヘラ笑いながら、ソファーの皮をグググッと鳴らした。不意に、浴室で男のペニスを口一杯に頬張る妻の姿が浮かび上がり、私は包丁を握る手を震わせながら唇を噛んだ。

 急に言葉が途切れた。ソファーの上でモゾモゾと動く気配だけが感じられた。恐らく、妻は男のペニスを口で愛撫しながら勃起させようとしているのだろう、私はそんな気配を感じながらどうか男のペニスが立たないようにと心の底から祈っていた。
 しかし、無情にもすぐに妻の笑い声が聞こえて来た。
「もうビンビンだよ」
 そう笑いながら呟く妻の声は、まるで幼い少女のようだった。
「じゃあさぁ、いつもの網タイツ履いてくれよ」
 男はニヤニヤ声で嬉しそうにそう言った。えぇ〜またぁ〜と、呆れて笑う妻に、そんなに頻繁に網タイツを履いてヤっているのか、という新たな怒りが沸々と湧いて来た。

 ソファーからピョンっと飛び降りた妻は、嬉しそうにリビングの隅でゴソゴソし始めた。恐らく既に準備していた網タイツを着用しているのであろう、その悪質な計画性に大量の冷汗が背筋を流れた。
「ついでにTシャツかなんか着てくれ」
「えっ?網タイツの上に着るの?」
「そう。今夜のシチュエーションはさぁ、酒屋さんと台所でヤッちゃう奥さんっていう『浮気ごっこ』で行こうぜ」
 そう笑う男に、それ『ごっこ』じゃねぇだろ! と、心の中で叫ぶ。
「このキャミソールじゃダメ?」
「いいじゃん、いいじゃん、ノーブラノーパンにキャミと網タイツ。ひひひひひ、ついでにハイヒールなんかも履いてくれたら最高なんだけどなぁ」
 私は慌てて玄関を見た。下駄箱の下の奥の方に、先日、友人の結婚式の時に履いて行ったハイヒールがポツンと置いてあるのが見えた。
 急いで立ち上がると、そのまま靴下を廊下のフローリングに滑らせながら奥のキッチンへと移動した。物音を立てないように素早く冷蔵庫と壁の隙間に身体を押し込み息を潜めたその瞬間、リビングのドアが開く音が聞こえた。

 間一髪だった。案の定、妻は男の命令のまま玄関にハイヒールを取りに来たのだ。
 廊下を素足で歩くペタペタという足音が玄関に響いた。冷蔵庫からそっと顔を出した私はゆっくりと左を向く。
 床に両膝を付いた妻が玄関の上から下駄箱の下を覗き込んでいた。それは、見事に尻の部分だけがパックリと開いた卑猥な網タイツだった。
 四つん這いになりながら下駄箱の下を覗き込んでいる妻の尻は私に向いていた。見慣れた妻のワレメが廊下の照明に照らされていた。そしてそこが異様にテラテラと輝いているのが無性に悲しかった。


—6—


「奥さん……なかなか綺麗なオッパイしてますねぇ……」
 酒屋を演じる男のそのバカげた声が、冷蔵庫と壁の隙間に挟まっている私の神経を逆撫でした。こんな幼稚な変態男は今すぐにでも息の根を止めるべきではないだろうかとイライラしながらふと思った。
 そう思いながら冷蔵庫からそっと顔を出した私はゆっくりと目玉を右に移動させる。
 冷蔵庫のすぐ横に二人はいた。システムキッチンの床に四つん這いにさせられた妻は、床にあぐらをかいた男に豊満な乳を揉みしだかれていた。
「どうしたの奥さん、今日はいつもより感じてるようだね……」
 男はそう囁きながら、その手を妻の腰に滑らせては突き出した尻をいやらしく撫でた。
「あぁぁん……」
 妻がくすぐったそうに腰を捻った。男はその尻を両手でスリスリと撫で回しながら「ほら……もうこんなに濡れてますよ……」と、尻の中心でだらりと口を開いていたワレメに舌を伸ばした。
 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ、っという湿った音と共に、妻のうんうんと唸る喘ぎ声がキッチンに響いた。
「最近、旦那さんにかまってもらってないの?……」
 男はハァハァと荒い息を吐きながら聞いた。因みに、私と妻は昨夜セックスしたばかりだった。
 すると妻は床のキッチンマットに頬を押し付けながらポツリと呟いた。
「旦那のおチンチンが小さいの……物足りないの……だから、早く……お願い……」
 後頭部を棍棒で叩かれたような衝撃が走った。私のペニスが小さい? 冗談じゃない、私のペニスは日本人の平均サイズを二センチ上回った十四センチだ。まあ、確かに大きくはないが、しかし平均を上回っている以上、小さいという事はないはずだ。
 そう思っていると、いきなり男がヌッと立ち上がった。そして床の妻にペニスを突き出しながら「こんなので良かったら、どうぞご自由にお使い下さい」と微笑んだ。
 そんな男のペニスは、日本人の平均サイズを遥かに上回っていた。長さ、太さ、そして亀頭のカリ首の張りまで、優に私のペニスの倍はあった。
 そんな極太ペニスに妻がむしゃぶりついた。
 初めて客観的に見る妻のフェラチオ。そのショックと、男のペニスが私の倍もあったというショックが重なり合い、冷蔵庫の隙間に隠れる私は完全に萎縮してしまったのだった。

 ペニスをシゴキながら亀頭に舌を這わせる妻。捲り上げられたままのキャミソールからはムチムチの乳が突き出し、それがたぷたぷと波打ちながら揺れていた。
 実際、そんな光景を目の当りにした私からは、二人を殺すなどと言う気迫は既に消え失せてしまっていた。その反対に、今の私はこの光景に呑み込まれてしまい、完全にビビってしまっていたのだ。
 逃げ出したい……
 そう思いながらギュッと下唇を噛む私は、こんなもの見なければ良かったと心の底からそう思った。

 妻は餌を欲しがる鯉のように口を大きく開けると、頭上の男の目をジッと見つめながら舌を突き出した。そして舌の上に男の巨大な亀頭をそっと這わすと、それをそのまま一気に呑み込んでしまった。
 じゅぶっ、じゅぶっ、じゅぶっ、じゅぶっ、と、妻の唾液と男の肉棒が絡み合う複雑な音が響き渡った。
 男は「はぁぁぁ……」と深い溜息を吐きながらポニーテールに縛った妻の頭を両手で押え、「奥さん……コレを入れて欲しいですか……」としゃがれた声で聞いた。
 チュポッと口からペニスを吐き出した妻は、男の股間に顔を埋め、下から金玉をチロチロと舐めながら「入れて……」と囁いた。そんな妻が男のペニスを銜えながらも自分で自分の股間を弄っていたのを私は見逃してはいなかった。
 妻の囁きと同時に、男は妻を床に突き倒した。男もかなり欲情しているのか、さっきの冷静さはどこかに消え失せ、今はまるで深夜の暴走族を道路に羽交い締めにする『警察24時』の交通警ら隊のように、妻を乱暴に押さえ込んだ。
「尻出せ尻、おもいきり突き出せ」
 そう唸りながら妻のくびれた腰に手を回す男は、もう片方の手で妻の尻をピシャンっと叩いた。
 男のペニスが、まるで生き物のように妻の尻の谷間を這い回る。そして狙いを定めたのか、蠢いていた男の腰がピタリと止まると、男はそのまま一気に腰を突き立てた。
 ぐしょぐしょに濡れていたワレメの中に、男の紀州梅のような亀頭がヌルンっと吸い込まれた。
「あぁぁぁん!」
 オオカミの遠吠えのように四つん這いのまま天井を見上げた妻は、びっくりするような大きな声で叫んだ。
 男はやっくりと腰を動かし始め、「気持ちいいか……気持ちいいか……」と何度も呟きながら、その巨大な肉棒を根元まで出し入れした。
 妻は床のキッチンマットにしがみついていた。必死に堪えるように顔をクシャクシャにさせながら、同時にキッチンマットもクシャクシャにしていた。
 こんなに悶える妻を見るのは初めてだった。そんな乱れる妻を見ていると、言いようのない恐怖が私を包み込んだ。
 この女は妻ではない。この女は淫売だ、変態だ、精神異常者だ。ゾクゾクしながらそう思う私の股間は、いつの間にか痛いくらいに勃起していた。自然に熱い息がハァハァと洩れ、いつしか男の腰を見つめながら、もっと激しくもっと滅茶苦茶に動かしてくれ、などと願っている始末だった。

 いきなり妻の身体が仰向けにひっくり返された。
 紅潮する妻の白い肌がキッチンの照明に照らされ、じっとりと浮かび上がる汗がキラキラと輝いていた。
 そんな妻に猛然とキスをする男。二人の舌が絡み合うと同時に両脚を高く持ち上げられた妻の股間で男の下半身がコキコキと動き始めた。
 うぐぅ! うぐぅぅぅ! と、キスをしたまま男の口内で喘ぐ妻。
 クラクラと目眩を感じる私は、ポケットにそっと手を忍ばせ中から携帯を静かに取り出した。
「おら、おら、どうだ、気持ちいいか」
 男はまるで職人のように絶妙に腰を振りながら、妻のワレメの中にヌトヌトとペニスをピストンさせた。
「凄い,凄い、もっと、もっと奥まで突いて」
 三流AV女優のようなベタな喘ぎ声を上げる妻は、ジッと目を綴じながらピストンする肉棒の感触を味わっているようだった。

「こうか? こうか? どうだ、もっとか?」
 妻の足首を両手で掴みながら腰を振る男。そんな男は、ダイエットコーラのペットボトルほどもあろうかと思われる巨大ペニスが、妻の穴の中を行ったり来たりする結合部分を満足そうに見下ろしていた。
「あぁぁん……当たる……奥に当たる……」
 そう囁きながら快楽を噛み締める妻。そんな卑猥な言葉を結婚してからこの二年、一度だって妻の口から聞いた事のなかった私は、どっぷりと自信を無くす反面、もっともっと乱れる妻を見てみたいという異常な性欲に襲われていたのだった。


—7—

 外に出ると新鮮な朝の空気が疲れきった相葉を優しく包み込んだ。
 午前四時を少し過ぎていた。辺りはぼんやりと紫色に輝いていた。慎重に門扉を閉めると、相葉はいつも出勤する時のように大通りに向かって坂道を上り始めた。見慣れた住宅街はまだシーンと寝静まっていた。
 大通りが近付くにつれ、辺りは徐々に騒がしくなって来た。ポロッポーとどこかで鳩が鳴き、深い霧の中を新聞配達のオートバイが、止まっては走り走っては止まってと忙しなく繰り返していた。
 大通りに出るとそのままいつものバス停へと向かった。まだバスの来る時間ではなかったが、一番バスに乗れば、皆が出勤して来る前にこっそり会社に戻れるだろうとそう思った。
 コンビニで缶コーヒーと朝刊を買った。いつもの店員がいつもよりも早い相葉を不思議そうに見ていた。
 バス停に着くと、いつもは見向きもしないベンチに腰を下ろした。缶コーヒーを開け、それをクピピっと一口飲みながら新聞を開いた。
 三面記事を隅から隅まで目を通す。夜番をサボっている間に顧客が大きな事故を起こしていないか、必死になって小さな活字を目で追う。
 ふと気が付くと、ベンチの後に数人のサラリーマンが寝ぼけ眼で立っていた。いつの間にか時刻は五時を回っていた。一口しか飲んでいない缶コーヒーはいつしか冷えきってしまっていた。
 フーッと溜息をつきながら新聞を閉じた。そして背後に人の気配を感じながら、ポケットから携帯を取り出す。
 開いた相葉の携帯画面に、さっき盗み撮りした妻と男との結合シーンが浮かび上がった。そんな画像を見つめながら相葉は満足そうにニヤニヤと微笑んだ。

 これは、ある意味大きな革命だった。妻と男が激しく絡み合うシーンを目撃してしまった相葉は、何か自分の人生においての大きな転機を迎えたような気がしてならなかった。
 確かに、他人に妻を寝取られるというのは、これ以上にはない残酷な仕打ちだが、しかし、そんな仕打ちがどういうわけが相葉には異様な快楽を与えてくれたのだ。

(これは、ハマる……)

 そう頷きながら携帯画面を覗き込む相葉は、今、楽しくて仕方なかった。嬉しくて仕方なかった。そして早く来週の火曜日が来ないかと待ち遠しくて堪らなかった。

(今夜……さっそく妻を抱こう。他人のチンポでグダグダにされた妻の膣を、おもいきり舐め回し、そして入れまくろう)

 ひひひひひひっといきなり笑い出すと、背後から相葉の携帯を恐る恐る覗き込んでいたサラリーマンが、ギョッとした形相で慌ててその場から離れた。
 そう。今の相葉は『ソウ』の最高潮に達していたのだ。
 強烈な『ウツ』の後に来る『ソウ』は、覚醒剤やMDMAなど比べ物にならない程の多幸感をもたらしてくれる。妻の裏切りという最悪な状況により引き起こされた強烈な『ウツ』は、その後、凄まじい多幸感を相葉に与えてくれる結果となったのだ。
 ふふふふふふ……と笑いながら大通りを見つめていると、遠くの方から一番バスがやって来るのが見え、おもわず相葉はバスを見ながらワハハハハハハハと大声を出して笑い出した。
 相葉の背後に並んでいたサラリーマンたちが、気味悪がって一歩下がる。そんなサラリーマンたちに振り向きながら、うひひひひひひっと笑い出す相葉の目は明らかに明後日の方向に飛んでいた。

「♪早くぅ、早くぅ、早く火曜日来ないかなぁ〜♪」

 そうデタラメな歌を唄いながらベンチを立ち上がると、膝の上に置いてあった毎日新聞の朝刊がバサッと地面に落ちた。
 そんな毎日新聞の明日の朝刊の三面記事の隅っこに、まさか自分が載るなどとは、さすがの相葉もこの時はまだ気付いていない。

 目の前に停車したバスが、プシュー!……という音を立てながらドアを開いた。
 子供のようにはしゃぎながらバスに飛び乗った相葉は、「一番乗りぃ!」と叫びながら最前列の席に座り、恐る恐る相葉の前を通り過ぎて行く乗客たちを、座席に尻をピョンピョンさせながら眺めていた。

「お客さん……」

 そんな相葉に、バスの運転手が露骨に嫌な顔をしながら振り向いた。運転手は鋭い目でジロッと相葉を威嚇すると、そのままゆっくりと前を向きバスのギアをガクンっと入れた。
 バスがゆっくりと走り出した。ドドドドっという凄まじいエンジン音が相葉の尻を激しく揺らした。
 バスに揺られる相葉は、多幸感に包まれたままバッグの中に手を入れた。
 震える相葉の指先に、文化包丁の冷たい感触がひんやりと伝わった。
 バスのフロントガラスに吹き掛かる運転手の鮮血が脳裏に浮かんだ。
 ニヤリと笑った相葉は、「早く火曜日来ないかなぁ……」とポツリと呟きながら、銀色に輝く文化包丁をソッと取り出したのだった。

(裏切り妻・完)



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