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哀奴 まどか7

2012/01/15 Sun 02:07

終 章「旅 立」

アァッ、アァッ・・・アアァァッッ・・アアアァァァッッッ・・・

・・これで何度目になるのでしょうか。
また私はめくるめく絶頂を通り過ぎて、果てしのない苦痛の中に、転がり落ちようとしているのです。

本来なら、甘美な快感をもたらしてくれるあの淫靡な器具が、私の敏感な器官を苛み続けているのです。
これほど長い時間、永遠かとも思われる時間を責め続けられると、これは苦痛・・本当に苦痛でしかないのです。

その苦痛の中で、私の肉体はまるで機械のように、一定の周期で反応してしまい、大波の頂点に突き上げられ、そして再び谷底に叩き落とされるのです。


私は今、自分のベッドに縛り付けられているのです。

私の両手は一纏めにして綿のロープで縛られ、そのロープはベッドの頭の方に固定されています。
そして足首は、それぞれ別のロープでベッドの左右の脚に、引き絞られているのです。
私はベッドの上で仰向けに、「人」の字の形にされて、身動きも許されぬ状態で寝かされているのです。

私の身体には淫靡な器具が、外れることのないようにテープで貼り付けられています。
両の乳首と、それよりもっと敏感な突起には、あのピンクのパールロータが、そして最も罪深い欲望の源には、私の購入したバイブレータが深々と差し込まれ、テープで押さえ付けられているのです。

こうして一つの抵抗も許されぬまま責め苛まれて、もうどれ程の時間が経ったのでしょうか。
私はその耐え難い苦痛と、苦痛の合間に時折訪れる快楽の絶頂に、身を焼かれ続けていたのです。


今日は、あの日からちょうど1年目に当たるのです。

そうです。
インターネットで、私の被虐への憧れを満たしてくれるHPを、初めて検索し探し出したあの日から、ちょうど1年経つのです。

あの日から、私は何と遠くまで来てしまったのでしょう。
もう、あの日より前のことは、想い出すこともないのです。
あの日より前に、帰ることもないのです。
これは私の往くべきところ、私の安らぎの場所なのです。

あの日から、私は暫く一人で歩いていたのです。
まるで、生まれたての赤ちゃんが手探りをするように、手に触れるものを一つ一つ掴んで確かめるように・・初めての世界を、少しずつ見回しながら、一歩、また一歩と進んで行ったのです。

そしてそれから3ヶ月、私は素晴らしいご主人様に巡り会うことができました。
その日から二人で手を取り、二人で探しては見つける秘密の扉。
その扉を開く度に、そこに開ける美しい花園。
それまで存在することすら知らなかった、あの甘美な世界。・・・それは本当に楽しい、二人の探索の旅でした。

私たちは、最初は恐る恐ると、次第に大胆になって、貪欲に次から次へと新しい扉を探し、その中に浸って行ったのです。

ご主人様・・・私は、私は本当に幸せだったのです。


でも、何時からだったのでしょう。
私が、私だけが先に進んでいて、気が付いた時にはご主人様とはぐれていたのです。
私は突然、また一人だけで歩いていることに気が付いたのです。

振り返ると、ご主人様はもう遠く離れ、私の方を見ながらも少しずつ、少しずつ後戻りをされていたのです。
あぁ、もっとしっかりと手を繋いでいなければ、ならなかったのでしょうか。
それとも、私があまりに急ぎすぎたのでしょうか。
もっとゆっくりと歩かなければ、いけなかったのでしょうか。

私には、もう元の世界に帰る場所はないのです。
でもご主人様は、元の世界に、父母も、親戚も、そして大勢の学校の友達も住む、あの世界に戻って行かれたのです。


私は今朝、ご主人様に最後のお願い、最後の我が儘を聞いて頂きました。
私の泣きながらのオネダリに、ご主人様はやっと頷いて下さり・・・・私をベッドに固定して、私の身体にあの器具を取り付けると、外出されたのです。
そして私は、一人家に取り残されて、もう何時間も苦痛と快楽の世界を往き来しているのです。

これが私の世界、私のこれから生きて行く世界なのです。


いつしか私は眠っていたのでしょうか、それともあまりの苦痛と快楽に気を失っていたのでしょうか・・・
ふと気が付いて目を開けると、妹が私のベッドの端に腰を掛けていました。
私の身体からは、私を責めていた器具が取り払われ、普通にパジャマを着せられていたのです。

妹は、私が目を開けたのに気付くと、静かに話し始めました。

「お姉チャン・・・どうだった?・・・もう満足できた?・・・

今日一日、考えていたの・・・やっぱりわたしはダメ・・・どうしても・・・
わたし、怖いの・・・普通の生活を、捨てられないのよ・・・

友達とお茶を飲んだり・・オシャベリしている時・・・
みんなHな本や・・あんな雑誌を読んでるから・・いろいろ話すのよ・・・
だけど、わたし・・そんな時、叫びたくなるわ・・・
そんなのウソよっ・・あなた達は、何も知らないのよって・・・

でも・・やっぱり知らない方がいいの・・・知らないのが本当なのよ・・・

わたしも・・もっと大人になったら・・変わるかもしれないけど・・・
でも、今はやっぱり・・これ以上、知らない方がいいと思うの・・・

あのね、お姉チャンのこと・・恨んでないし・・・好きよ・・とっても・・・
一緒にいたい・・・わたしだって、ずっと一緒にいたいの・・・
でも、ついていけない・・もう、続けられないのよ・・・」

妹はそこまで言うと、ハンカチで目を押さえながら寝室から出ていったのです。
あぁ・・私は一人・・本当に一人になったのです。


私は、疲れ果てた身体と、重い気持ちを引きずって窓際に行き、カーテンを開けたのです。
もう夕方になっていました。
窓を開けると、息苦しく澱んでいた部屋の中を、新鮮な甘い風が通り抜けてゆきました。

私は涙を流すこともできませんでした。
私の目には何も映っていませんでした。
夏の夕暮れに鳴く、あのセミの声さえ聞こえていなかったのです。
私の胸は鉛を詰められたように、それほど重く沈んでいたのです。

それでも暫くジッとしていると、窓を通り過ぎる風が、そんな私の心を融かしてくれるようでした。
何も感じられず、何も考えられなかった私に、優しく静かに囁き掛けてくれたのです。
そして少しずつ、少しずつ私の心は癒やされていたのです。

その風に吹かれている時に、私は突然気が付いたのです。

私は、やっぱり自分勝手だったのです。
私一人が、苦しんでいるのではなかったのです。
ご主人様も、苦しんでいたのです。
私よりも一層辛い思いを、耐えていたのです。

それを・・・それなのに、私は無理に愛して貰おうとして・・・
私一人が、一人だけが不幸を味わっていると、思い込んでいたなんて・・・

あぁ、ご主人様・・・申し訳ありませんでした。
ご主人様の、あなたの気持ちを思うと、私は今・・・何かしてあげたい、精一杯のお返しをしてあげたい・・・そんな気持ちで、胸が張り裂けそうです。

でも、ご主人様・・
きっとあなたは、自分の道を、自分の幸せを見つけて行かれるのですよね。
私は、もしあなたが必要な時はお手伝いします。
そうでない時は、静かにあなたのことを、見ていることにします。

あなたを、ご主人様を、これ以上苦しめたくないのです。
幸せになって欲しいのです。

そして、私も、私だって幸せを見つけてみせます。

そうです。
もう、私は一人でも大丈夫です。
一人で生きて行くしかないのです。

でも、きっとどこかに、私と歩いてくれる人がいる・・・
私と手を繋ぎ、私を導いてくれる人がいる・・・
必ず会える・・いや、必ず見つける・・必ず見つけて貰える・・・

だから、それまで一人で歩いてゆきます。
私は信じて行くだけなのです。
あなたのためにも・・・


そう決心すると、私は少し気が楽になり・・・いつもの足取りで、妹の部屋に歩き始めたのでした。



私は、もう一度旅に出るのです・・・きっと会えますよね・・・ご主人様・・・

          - 完 -

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この作品の作者、イネの十四郎様の美しくも卑猥な小説サイト。
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