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愛と復讐のブルセラ1

2009/04/03 Fri 18:17

愛と復讐の1




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埃っぽい店内は中古衣類品を扱う店らしく全体的にカビ臭かった。
壁一面にはビニール袋に包まれたセーラー服やスクール水着が重々しく吊り下げられている。その周辺には『激安特価!』、『入手困難超レア物!』といった手書きPOPがベタベタと張り巡らさられ、まるでドンキーの一角のようだ。

「ごめん下さい…」
レジの裏にある扉に向かって声を掛けた。
誰もいないのか、店には有線放送から流れる氷川きよしのズンドコ節だけが鳴り響いていた。

「…いらっしゃい…」
しばらくして、やる気のない声と共にガリガリに痩せ細った熟女店員がノソッと姿を現した。
激痩せ熟女店員は面倒臭そうにレジの前に立つと、私の顔を見る事もなく天井をぼんやりと眺める。
そして、店内に流れるズンドコ節の「ズン♪ズンズン♪ズンドコ♪」のフレーズの後に、必ず「コンコンコン!」と指でレジの脇を叩くのであった。

(…こりゃあ完全に死んでるな…)

私はカラーボックスの棚に積み重ねられた『中古ルーズソックス』を手に取りながら、密かに店内を観察していたのであった。


               2


その店から依頼の電話が鳴ったのは、昨日の丁度今頃、私が勤務先のホテルを出て帰路につこうとしていた時だった。
携帯の着信画面には「office」と表示されていた。それは私が個人的に経営している風俗コンサルタント会社から転送されてきたものである。

「はい、オフィスGです」
私は地下駐車場に停めていた車に乗り込みながら携帯電話をとった。
「…あのぅ…そちらで風俗関係の経営サポートをしてくれるって聞いたんだが…」
その声は弱々しくいかにも経営困難な経営者にありがちな負け組オーラを発していた。
「はい。承っておりますよ。何か御相談でしょうか?」
私は車のエンジンを掛けながら答える。
「…実はね…商売のほうがなかなかうまくいかなくてね…何かいいアイデアねえもんかな…」
男は今にも金を貸してくれと言わんばかりの切羽詰まった声を搾り出した。
「失礼ですが、どちら様からの御紹介でしょうか?」
私の会社はHPや広告を一切出していない。もちろんタウンページにも掲載していない。この電話番号を知る者は限りなく私に身近な者だけである。
「…あぁ、こないだウチの店の常連さんからねアンタの事を聞いたんだが…」
「その方は何と言う方でしょうか?」
「いや、本名は知らねぇんだけども、俺達はハマちゃんって呼んでんだけどな…」
ハマちゃん?…浜田、浜崎、浜岡、浜島…私の知り合いで浜の付くものは多い。
「失礼ですが、そちらの業種はなんでしょう?」
「あぁ、ウチはブルセラやってんだけどもね…」

ブルセラのハマちゃんと聞いてすぐに検討が付いた。
使用済みパンティーマニアで口臭フェチの浜田大五郎だ。彼は全国の変態たちで作る『NPO使用済下着愛好家連合組合』の会員であり、私はそこの副理事長を務めている。この組合は全国に300人規模の会員を持ち業界ではトップクラスの組合であった。ちなみにNPOとは「舐めるパンツでオナニー」の略であり、国のソレとは何ら関係ない。

私はハマちゃんからの紹介ということもあり、その小沼と名乗る男からの依頼を引き受ける事にしたのだった。

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小沼の店では相変わらずズンドコ節が鳴り響き、店に客が入ってくる兆しは一向に見られなかった。
私は客を装いながら、店内の雰囲気、商品の品定め、そして店員の接客態度などをチェックする。これは私が依頼を受けた店に最初に行なう作戦で、いわゆる「覆面調査」というやつだ。
客を装い来店し、客の立場になって、その店のマイナス部分やプラス部分を探り出すといういささか陰湿な手口ではあるが、これがなかなか店診断にはとても役立つのだ。

私は真空パックされた『写真付使用済みパンティー』を1つ手に取ると、レジで「き・よ・しぃー!」とリズムを取る激痩せ熟女店員に近付いた。

激痩せ熟女は何も言わずその商品を受けとると、慣れた手つきでピッピッとレジを押し始めた。

「…いえ、違うんです、ソレ…」
私は激痩せ熟女のレジを打つ手を止めさせた。
「?……」
激痩せ熟女は停止したまま「は?」という表情で私を睨む。
「…ちょっと商品のことを聞きたいのですが…」
「……」
激痩せ熟女はレジを打つのを止めると、真空パックの商品をドサッとレジ台の上に置いて「ふぅ~」っと呆れたように溜息をついた。かなり神経質そうなババァで、サービス業には最も相応しくない人種だ。

「…こ、こ、この日付は…い、い、1ケ月前になってますよね…」
私はわざとババァをイライラさせるかのようにバカヲタクのフリをする。
激痩せ熟女は殺意のこもった視線で「それがなにか?」光線を発して来た。
「…こ、こ、この写真の、せ、せ、制服…こ、こ、これは日下部女学院の制服ですが、こ、こ、この制服は、きょ、きょ、去年から廃止され、い、い、今はブレザーのはずですが…」
私の口調にかなり苛立っているのか、ズンドコ節のき・よ・しぃ!の部分でババァはトントントンをやらなかった。

「…それがどうしたのさ…」
激痩せ熟女は投げやりに答えた。
「…こ、これは、あ、あ、明らかに、せ、製造年月日の、ぎ、ぎ、偽造だと、お、お、思います…」
激痩せ熟女が「はぁ…」と大きな溜息を付いた。
「なにが偽造だよ、赤福じゃあるまいし。嫌なら買わなくて結構だよ、とっとと出て行きな」

「し、しかし、あ、あそこにぶら下がっている制服の写真も、あ、あれはAV女優の南ひよ子じゃないですか!こ、こ、この店は、さ、詐欺だ!」

私が叫ぶと、奥からカッパハゲの親父がヌルッと顔を出した。
分厚い眼鏡から私をジロッと一瞥すると、激痩せ熟女に「まさこチャン、どうしたの?」と聞いた。

「…あぁ、オーナー…なんか知んないけどね、この人ウチの店にイチャモン付けてくるんだよね…」
激痩せ熟女は今までにはない猫なで声を出しながら被害者的態度でカッパハゲを見つめた。

「あん?…アンタ、ウチの店になんか文句あんの?」
カッパハゲは薄汚れたサンダルをピシャッピシャッと鳴らしながらレジにやって来た。物凄く太い鼻毛がとてもよく目立っている。

「オーナーさんですか?」
「あぁ、そうだが…なんか文句あっか?」
「小沼様ですよね?」
「……アンタ誰だ?」
「申し遅れました、私くしオフィスGから参りました、社長の愚人と申します」

私が名刺を差し出すと、カッパハゲはしばらく停止したままだった。
そして大きく「ズズッ!」っと鼻をすすったカッパオーナーは「な~んだいアンタかい~、ホレ、こんなとこつっ立ってねぇでアッチの事務室入って休んでくれ、おい!まさこチャン!お茶出してくんねぇか!お客さんだよお客さん!」と急に笑顔になり、再びサンダルを鳴らしながら奥へと進んで行った。

店内には相変わらずズンドコ節が流れている。当初、有線放送だと思っていたが、このリピートで鳴り続けるズンドコ節はどうやらまさこチャンの趣味のようだった。

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昭和の無人駅のような殺風景な事務室で、私は「ブルセラショップ・エレガント」の帳面を見ていた。
それは実に笑える帳面だった。ここ数年、仕入れもしていなければ売上げもほとんどない。税務署が見たらとたんに同情するようなそんな帳面だった。

「失礼な事をお聞きしますが…現在のこの売上げで、どーやって家賃や人件費をお支払いになっているのでしょうか?…」
私はまさこチャンが入れてくれた糞マズイ茶を社交辞令にズズッとすすりながら聞いた。

「だって、このビルは俺の持ちビルだもん。競売に掛けられてっけどこんなオンボロ誰も買ゃあしねぇよ、だから家賃なんかいらねぇ。それにまさこチャンも俺のコレだしな、給料なんてコレで清算してっから」
カッパハゲは小指を立てながら腰を卑猥にコキコキと動かすと、大きな目玉をひんむき「わっははははは!」と大声で笑った。

「ところで、小沼社長はどうしてブルセラを開業しようと考えたのでしょう?何かそれなりのルートでもあったのでしょうか?」
このあまりにも下品な親父がブルセラという感性を必要とする商売を始めたきっかけを私は知りたかった。

「…まぁ…アレだな…話せば長いんだけどもよ…」
カッパハゲはゆっくりと笑いを止めながら、急にしんみりとした表情になると、ポツリポツリとその経過を話し始めた。

カッパハゲ(以下カッパゲ)の内容はこうだ。
小沼道郎62歳。家族構成は、痴呆症気味の女房60歳と引き蘢りの長男31歳、そして薄汚いチワワ4匹。このビルの4階で共に暮らす3人家族。
1980年代。当時、設計士を目指していたカッパゲだったが何を血迷ったのか突然設計事務所を退職すると、先祖代々守り続けてきた土地を担保に金を借り、それまで父親が経営していた「歌声喫茶」を閉鎖し「ノーパン喫茶」に転向させた(ちなみに、まさこチャンはこのノーパン喫茶でバイトをしている時にカッパゲと恋に落ちる)。当時大ブームだったノーパン喫茶は瞬く間に大盛況となり、勢いに乗ったカッパゲは、よせばいいのに隣りで母親が経営していた「帽子店」をぶっ潰すとそこに「インベーダーゲーム喫茶」を開店。これも笑いが止まらぬくらいの大盛況となり、これを機にカッパゲの大暴走が始まる。
夜中に突然「俺は風俗界の矢沢永吉だぁぁぁぁ!」と叫んだカッパゲは、翌朝、ビル2階の美容院を強制的に立ち退かせると、そのフロアー全部を使っての「ディスコ」を計画。
全財産を注ぎ込んでのディスコ計画は壮大なもので、武道館並の音響設備と照明設備、オール鏡張りの店内には防音設備の整ったVIPルームと七色に輝く噴水まで備え付けるという趣味の悪さで、なんと総工費4千万円のディスコを計画。しかもオープン初日にはジョントラボルタの来店講演までも企画し、プロダクションに多額の契約金を支払った。
しかしそのディスコが開店すると同時に無情にもブームは廃り、ディスコのミラーボールがまだ真新しいままディスコは閉店。連鎖してインベーダーゲームのブームも去ると、不幸にも全国規模のノーパン喫茶一斉摘発が開始され、唯一の収入源だったノーパン喫茶もものの見事にぶっ潰れてしまい、風俗界の矢沢永吉は、瞬く間にジョニー大倉へと落ちて行ったのであった。
しかしカッパゲはそんな事で終わるようなヤワな男ではなかった。
1990年代にアダルトビデオが大流行すると、そのブームに乗ったカッパゲはさっそく廃墟となっていたノーパン喫茶とインベーダー喫茶店を取り壊し、そこにアダルトビデオショップを開店。これが驚く程大盛況となり、瞬く間に返り咲いたカッパゲは「俺は風俗界のロッキーだぁぁぁぁぁ!」と、毎朝、意味もなく生卵を5、6個丸呑みしてはロッキーのテーマと共にアダルトビデオを売りまくった。その儲けた金で「ローンズ小沼」というサラ金会社を設立したのも、B.B.クィーンズの「おどるポンポコリン」が流行した丁度その頃だった。
そんなこんなで90年代の半ばに差掛かった頃、ある時カッパゲは、サラ金業界でビッグボスと異名をとる大沼耕造と知り合った。ビッグボス大沼は小沼という名のカッパゲに親しみを感じたのかそこから二人は急接近。二人はバブルの波に乗って荒稼ぎをしまくるといつしか業界では名の売れたコンビとなり、夜の赤坂料亭では「鬼の大沼~仏の小沼~押しと引きとで荒稼ぎ~」と詠われるほどになったものだった。
しかし人生はそうは甘くはない。そう、バブルの崩壊である。
今までのような「ブームが廃る」といった甘いものではなく、今回は「崩壊」である。
まともにバブルを喰らった大沼はものの見事に崩れ落ちたちまち自己破産。大沼に銭を融資していたカッパゲは管財人に取り押さえられる前に何でもいいから回収しようと、大沼が経営していたブルセラショップの商品を根こそぎかっ浚ってきたのだった。
しかしカッパゲもバブル崩壊の瓦礫でハゲ頭を叩き潰され、アダルトビデオショップ店は閉鎖、ビル建物は差し押さえとなり、無惨にもバブルのロッキーはリングに叩きのめされたのであった。

「…っつーわけでな、そん時に大沼さんから回収した中古のパンツや制服なんかを今ここで売ってるってわけなんよ…」

「長っ!」っと思わず突っ込みそうになった私だったが、しかし彼の話しを「おどるポンポコリン」までしかまともに聞いていなかった私だった。

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「まず…当社とのコンサル契約となりますと、売上げの40%を支払って頂くことになりますが、それでもよろしいでしょうか?」
「高っ!…昔のサラ金の利息じゃないんだからさぁ…もう少し安くなんないのぉ…」
激痩せ熟女のまさこチャンが突然口を挟んだ。闇金と言わずサラ金というところが熟女らしくていい。きっと彼女は振り込め詐欺もオレオレ詐欺とよび、回転寿司もクルクル寿司と呼ぶだろう。

「確かに売り上げ40パーはキツい数字でしょうが、しかし、このままの営業では60パーを得るどころかマイナスとなっていくばかりだと思います。それならば40パーを支払ってでも…」
私は冷たくなった茶を音を立てずに飲み干した。

「…アンタ…なんぞいいアイデアでも浮かんできてまんのかいな?」
カッパゲはデタラメな関西弁でそう言いながら私の目を覗き込んだ。

「…カッパ…いや小沼社長。その昔、このブルセラというブームの火付け役となったのが、何を隠そうこの私なんですよ…ふふふふふ…」
「…あ…あんたが…か…か…開拓者か…」
「そう、私がブルセラのパイオニアなのです。…そんな私ならブルセラ第二期ブームを巻き起こすのも可能だとは思いませんか風俗界のヤザワさん…」

カッパゲは膝の上の握り拳を更に強く握り込んだ。

「…あきらめた顔のまま…老いぼれてしまうのかい…汗もかかないで…」
私はわざと矢沢永吉の『鎖を引きちぎれ』のワンフレーズを口ずさんだ。

とたんにカッパゲが私の目を力強く睨む。今は老いぼれているが、さすがに群雄割拠の時代にサラ金屋として生きて抜いて来ただけはある、カッパゲのその目力は凄いパワーだ。

「ゴールドラッシュ…魂のシャベルで…金を掘り起こせ…」
私は彼の目をジッと見つめながら続きを歌った。カッパゲの目にメラメラと炎が宿るのが手に取るようにわかる。

次の瞬間、突然カッパゲが「うぉぉぉぉぉぉぉ!」と雄叫びをあげながら立ち上がった。いきなりテーブルクロスを乱暴に抜き取るとソレを両肩に掛け、サンダル履きの汚い足をテーブルの上にドカッ!っと乗せた。そしてソファー横に立てかけてあったゴルフクラブを握りしめ、それをマイクスタンド代りに吠えた!
「ひとやま当てたら~オマエもスーパースター~そうさ今がゴールドラッシュ!」

私はすかさずアタッシュケースの中から「契約書」を取り出すと、それをカッパゲの前に広げながら「永ちゃ~ん!サインしてぇ~!」と叫ぶ。

超ご機嫌なカッパゲは、そのまま矢沢永吉ヒットメドレーを口ずさみながら、40パーの契約という無謀な契約書にも関わらずいとも簡単にサインをした。

これだからヤザワファンと阪神ファンは大好きだ。

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店内の改装も終わりかけた頃、店にやって来たカッパゲオーナーとまさこチャンが二人して大声をあげた。
「なんだいこりゃあ?」
二人は生活水準に合わないバブリーな恰好をして口をポカンと開けていた。

さっそく私は、この二人のこのド派手な恰好から、二人の今日のテーマを「林檎殺人事件」と決めてやった。

「どうかしましたか?」
ひと昔前の郷ひろみと樹木希林のような二人に歩み寄る私。

「どうしたもこうしたも…なんだいこの店は、まるで事務所じゃねぇかよ」
カッパゲは持っていたステッキをソファーに倒すと、自分もソファーに腰掛けながら真っ白なシルクハット脱ぐ。髪のない頭は毛穴から汗がプツプツと滲み出ていた。
「なんかホテルのロビーみたいな店だわ…」
まさこチャンも、時代錯誤なシルバーフォックスの毛皮のコートを脱ぎながらソファーに座り呆れ顔をした。この毛皮のコートは恐らくバブル時代にカッパゲに買って貰った物であろうが、それにしてもなんとも高級品の似合わない品粗なオンナである。

「そうです。この店の雰囲気はホテルをイメージして作りました」
私はフロアーのソファーに腰掛けながらゆっくりと足を組んだ。

「でもここはブルセラだろ?なんでこんな店にしちまったのか…どこに商品があんだ?…」
カッパゲは不思議そうな表情のまま店内を見渡したのだった。

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確かにこの店にはブルセラ店の雰囲気がどこにもない。
知らない人が入ったら、外資系ホテルのロビーと勘違いするであろう、そんなゴージャスでインテリジェンスな空間だった。
店内はひたすら白にこだわり、床・天井・壁・外の看板に至るまで全て真っ白にした。
自動ドアで店内に入ると、まず入口に大きな受付カウンターがある。それはまるでホテルのフロントのように堂々としたカウンターだ。
その横のフロアーには白皮のソファーが並べてある。もちろん有名デザイナーのソファーだ。
その更に奥には廊下を挟み合計6室の個室がずらりと並んでいる。
大理石張りの廊下を進み、その個室ドアを開けると中には真っ赤な革張りのソファーがハロゲンライトでライトアップされていた。

「受付を終えたお客様はこちらの個室に御案内されます」
私は趣味の悪い林檎殺人事件の二人を個室に案内し説明をした。
「こりゃまた真っ赤っかで趣味の悪い椅子だなぁ…」
カッパゲはソファーに座りながら汚い物にでも触れるかのように、赤い革張りをグイグイと押した。

キミのそのチンチクリンのレザージャケットに黒シャツ白ネクタイのほうがどんだけ趣味が悪い事か。それとも何かい、キミは「あぶない刑事」にでもなってるつもりかい?キミは舘ひろしか?ならば私が柴田恭平になればいいのか?じゃあこの鶏ガラスープのような品粗なオンナは浅野温子って事でいいのか?えっ?この身の程知らずの成金カッパが!!っとカッパゲの両目玉にVサインの指でも突き刺してやろうかと思ったが、次回から仁義なき戦いの川谷拓三にでもなられた日には私が渡瀬恒彦にならなくてはならないのでやめた。

「お客様はそのソファーでゆったりとコーヒーでも飲みながら、こちらのテーブルに用意された商品を品定めして頂くわけです」
「商品なんかねぇじゃねぇか…」
「商品はこれから集めるのです」
「これからって…オープンは明日だべ?間に合うのかよオープンに」

「実は…今回のリニューアルに関しましては、店内装だけでなく営業方法も大きく変えようと思っております。この店は、今までにない新しいタイプのブルセラなのです」
私はソファーの正面に置いてある真っ赤に焼き付け塗装したステンレス張りのデスクに腰を下ろした。
そしてデスクの上に置いてあるフロントコールを押すとホットコーヒーを三つ注文した。

「まず、お客様はこの個室でコンシェルジュと呼ばれる専門家に商品の相談をいたします。例えば、三丁目の山田さん家の奥さんの使用済みパンティーが欲しいなど、コンシェルジュはお客様から具体的な説明を受けるわけです」

「…っつー事はなにかい?ここのブルセラは相手の女を指定できるっつー事か?」
「そうです」
「…そんな事できっこねぇべ…」
カッパゲは呆れたように首を振りながら、まさこチャンに「なっ」と同調させようとした。
しかしまさこチャンは「…でも…アタシさ、昔、銀座に行った時、こんな店に入った事あったよ。確かあの店は欲しいブランド品を注文するとさ、海外から直接買い取ってくれるっていう店でね、アタシあん時ヴェルサーチのハンドバッグを探してもらってさ、イタリアから取り寄せてもらったんだ、うん」と、カッパゲの「なっ」を裏切った。

「だけんどもオメーそれはハンドバッグだべ、こっちはパンツだぞパンツ。それも自分が履いてたパンツを見ず知らずの他人に売るんだべ、そう簡単に売ってくれっかのぉ…」
カッパゲは裏切られた腹いせなのかオーバーリアクションで鼻糞をほじくった。

「確かに難しいかもしれません。しかし、もしそれが手に入ればこれはかなり高額な値段で取り引きされる事は間違いありません」
「でも売ってくれなきゃ話しになんねぇべ」
「もちろんです。その為に、商品買い付けにはプロのバイヤーを用意しております。彼らの腕前は確かなものです」

タイミング良く、そこに杉原涼子がコーヒーを運んで来た。

「丁度良かった、紹介します、こちらバイヤーとして当店で働いてもらうことになった杉浦涼子です。こちらはこの店のオーナーの小沼さんだ」

涼子は「杉浦です」と軽く会釈するとサッとカッパゲに握手を求めた。
カッパゲが涼子の差し出された手に戸惑う。

「…ははは…オーナー、杉浦君はずっとニューヨークで暮らしておりましたから…」
戸惑うカッパゲをホローしようと私が笑いで誤摩化す。
カッパゲは「おおぉぉ…そうかね…」と動揺しながらも恐る恐る手を差し出した。
「よろしくお願いします」
握手をしながら涼子が微笑んだ。
カッパゲは完全に涼子の美貌とパワーに圧倒されたようだ。農協の団体が始めて歌舞伎町のキャバクラに行って豪華絢爛なキャバ嬢に度肝を抜かれたようなそんな顔をしている。

「でもさぁ、たとえそんな凄腕がいたとしてもさぁ、肝心の客はいるの?この不景気の御時世にそんなバカ高いパンツを買う野郎がそんなにいるのかねぇ…」
涼子と握手をするカッパゲを、嫉妬深げに見つめながらまさこチャンが皮肉った。

「おります。顧客は全て会員制。その会員は高額所得者、若しくは高額所得の親を持つジュニアといった、特種な金持ちばかりを、既に200人程集めております」
私はデスクの上に置いてあるPCのキーボードを叩くと、ここ数ヶ月で集めた顧客会員リストをカッパゲに見せつけた。

「……角紅商事っていゃあ一流企業じゃねぇか……そこの専務さんがパンツ買うのかよ……うぁ!…トオタ自動車の営業部長ってオメー…こりゃあホントか?…」
さすが元金融業だけはありカッパゲは次々に出てくる上場企業の社名を全て知っていた。

「もちろん本当です。これは我々の秘密ルートである某趣味の会を通じて集めたほんの一部の会員様ですが、この他にも医師や弁護士、政治家から裁判官といった階級の方々も会員に登録なされています」
カッパゲは息を飲むようにPCの画面を見つめ、まさこチャンは杉原涼子に「アタシが銀座に通ってた時はさぁ…」と、ライバル心を剥き出しにして無駄な抵抗を続けていた。

『趣味の会』とは、先に説明した『NPO使用済下着愛好家連合組合』や『全日本フェチの会』、又は『妄想ストーカー同好会』や『住居不法侵入を想像する会』といった各種変態倶楽部である。
この各種変態倶楽部には、使用済み下着愛好家やフェティシズム、妄想家にストーカーといった大馬鹿変態野郎共が数千人集まっているが、その中でも超VIPばかりを狙って『貴方が欲しい中古衣類。相手が誰であろうと必ず手に入れて来ます』のキャッチコピーで会員を募集したところ、思った以上の反響で瞬く間に200人の会員が集まった。

彼ら上流階級の変態というのは、なまじっか社会的地位があるゆえにその変態性欲を発散できない悲しい人種である。ま、お忍びで高級ソープや高級コールガールを買うのが関の山で、本当にエロスを感じている近所の奥さんやコンビニの前でウンコ座りしている女子高生のようなド素人は高根の花なのだ。
昨今、大手企業の重役がセクハラで訴えられたり裁判官が痴漢で捕まったりという、せっかく苦労して手に入れた地位を棒に振る「割に合わない事件」が多発しているが、これは、彼らの溜まり溜まった変態性欲が爆発した証拠である。今の世の中、小学校の教師にロリコンが多いのが事実であり産婦人科の医師は綺麗な奥さんのマンコを弄りながら勃起しているのが現実だ。法衣を纏った裁判官も物干し竿からパンティーを盗んだ被告人の気持ちは痛い程わかっているはずなのである。

しかし悲しい事に彼らはアウトローにはなれなかった。どれだけ性欲が爆発しそうになろうとも、その人種の80%、いや90%は己の地位と名誉の為にその性欲をグッと堪えて来た。
そこに我々はビジネスチャンスを狙ったのだ。そう、そこには銭の匂いがプンプンとするのである。

「昔っから医者や政治家なんかにゃSM好きな奴が多いなんて噂はよく聞くが…こりゃあ想像以上だな…こんな立派な大学の教授様がオンナの汚ねぇパンツの匂いを嗅ぎてぇなんて…世の中狂ってるよ…」
カッパゲは大きな溜息を洩らすとソファーに深く腰を下ろした。

「彼らは今の立場にいる限りその性欲を満足させる事はできません。せいぜい深夜にこっそりとアダルトサイトを覗きながらシコシコするのが関の山なのです」

私はアタッシュケースから資料を取り出すとそれをカッパゲに手渡した。
「それは、昨年『ワンクリック詐欺』で荒稼ぎした某グループの売上表です。見て頂いておわかりのように、多額の金を支払っている被害者のそのほとんどが、いわゆる上流階級の人間達です。彼らは危ないとわかっていても沸き上がる性欲を押さえ切れず『小学生のワレメ汁』や『中学生の汚物入れ』といったロリサイトをついついクリックしてしまい多額の金額を請求されています。そしてそれが例えワンクリック詐欺だとわかっていても、彼らはそれが公にならないようにそれを素直に支払うのです。…私の知り合いの医師は年間約200万円もの被害に遭いながらも今だワンクリック詐欺に騙され続けていますが…それが現状なのです」

売上表を覗き込みながら、0の数を「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん…」と数えていたまさこチャン。後ろから涼子がボソリと「20億です」と教えてやると、まさこチャンは「20億!」と驚きの声をあげた。

「…こいつらを…騙すのか?」
カッパゲが鋭い目つきで私を見上げた。運と度胸だけでバブルを泳いで来た男だ、おそらく地上げの時にはいの一番に放火を思い付いたであろう金の為なら何でもする銭ゲバタイプの男である。カッパゲのその鋭い目には犯罪者独特のどんよりとした光が輝いていた。

「冗談じゃありません。なぜこれほどまでの上客を騙さなければならないのですか。彼らは性欲を満たせるのであれば100万や200万など何の惜しみもなく支払う『おいしい客』なんです。そんな客が200人も集まっているのです、上手くやればヤザワを超してミックジャガーも夢じゃありませんよ…」

カッパゲは尖った視線をゆっくりと下に向けると冷めたコーヒーをひとくちグビリと飲んだ。
「…わかった。後は全てアンタに任せるよ」
カッパゲは立ち上がるとまさこチャンに持たせていたショルダーバッグの中から500万円入りの封筒を取り出し、「約束の契約金だ…」とそれを私の目の前に置いた。

「ただし…」
カッパゲが私を正面から見据えた。
「…俺ぁ洋楽はあんまり好かねぇ…できればミックよりも北島のサブちゃんになりてぇなぁ…」
カッパゲはそう言い残すと爽やかな笑顔と共に颯爽と部屋を後にした。
本人は至ってカッコいいつもりだろうが、しかし彼のズボンの裾は随分と短く左右の靴下の長さが違うのが一目瞭然だった。

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店名をズバリ「シークレットサービス」とした。まわりくどい店名よりこのほうがわかりやすくていいと、依頼人のカッパゲを紹介してくれた通称ブルセラのハマちゃんが命名してくれたものだった。

オープン初日からフロントの電話は鳴りっぱなしだ。

そのほとんどが「上戸彩の使用済下着が欲しいのだが、いくら積めば手に入るかね…」といった問い合せばかりで、中には「美智子妃殿下の陰毛はいくら?」や「○○組々長の姐さんのマンカスがほしい」といった悪質な悪戯も多かったが、しかしそんな明らかに悪戯とわかる問い合せに対しても「一度、御来店いただきまして御相談に応じさせて頂きます」と誠実な対応に徹した。

オープンして数時間が過ぎたある時、あきらかに変装しているとわかる初老の男性が受付に現れた。
初老の男性は、受付の男性スタッフに「手に入れて欲しい物があるのだが…」とボソボソと呟いた。
私はすぐにお客様を個室に御案内する。いくら変装していても内面から滲み出てくる品格は隠し切れない。これはかなりの上客だと私は睨んだ。

男性にソファーを勧めると私はスーツの内ポケットから名刺を取り出した。
「当店のコンシェルジュを務めております如月です。秘密は厳守いたしますのでどうぞ御安心してなんなりとお申し付け下さい」
私はホテルのお客をもてなすように落ち着き払ったさりげない演出で対応する。

「実は…近所に住む中学生の少女なんだが…」

オープン初日でロリータモノとはいささか面を喰らった。
ロリ物は金にはなるがしかし非常にキケンである。まさにハイリスクハイリターンなのだ。

「失礼ですが、会員様でいらっしゃいますか?」
まずは身元確認が先決だ。身元がしっかりしていなければ下手な事も喋れない。初日から警察の内偵ということも考えられるのだ、慎重に事を進めなければならない。

「…あぁ…」
男は頷きながら分厚い財布から当店の会員カードを取り出した。

私は会員カードに記された番号をPCに打ち込む。
すぐに彼のデーターが表示された。
『上田和弘・62歳・元○○県副知事・現○○県国際教育文化交流推進協会々長』
身元はお墨付きだ。

「上田様ですね。御確認が取れましたので、こちらの会員カードをお返しします。それでは上田様、さっそくですがお相手の詳しい情報を御説明いただけますか」
「…いやね…ウチの近所に住んでいる野上さんトコの長女で理沙ちゃんと言う中学生がいるんだが…彼女はテニス部に入っていてね、いつも帰りは遅いんだよ…うん…その部活動の時に履いている…その…アレが欲しくてね…」
男は笑ったり真剣な顔をしたりと忙しい表情で説明を始めた。
「アレとはパンティーの事でしょうか?それとも制服?」
お客様が恥ずかしがらないようにとわざと淡々とした口調で冷静にメモを取る。
「…パンティー…だな、うん」
男は恥ずかしそうに呟いた。

「わかりました。御希望は部活動後のパンティーという事ですね…もし、部活動後の物が手に入らなかった場合には通常時のパンティーでもよろしいでしょうか?」
「…いや…やっぱり部活後のアレじゃないと…あの娘はね、とっても汗っかきなんだよ…部活している時もダラダラと汗をかいてるからね…やっぱりあの若い汗がいっぱい染み込んだパン…じゃないとダメだな…うん」
男はいつも部活中のテニスルックの理沙ちゃんを覗き見しているのであろう。かなりの理沙マニアのようだった。

「先に申し上げておきますが、相手が小中学生の場合、そのリスクも含めまして料金は相場の倍を上回ると思います。今回、お客様は御予算をいかほどに考えていらっしゃるのでしょうか?」
男の目に一瞬力強い輝きが漲った。
「金は常識の範囲内ならいくらかかってもいい…ただ、彼女を傷つけるような方法や非合法な手段でソレを手に入れるのはヤメて欲しい…」
さすがは元副県知事だけはある、自分が犯罪に関与してはならぬという恐ろしい眼力で私を見つめた。

「それは御安心下さい。当社は窃盗や暴行、脅迫といった非合法な手段は一切行なっておりません。地道に相手を説得しまして、相手に納得のいく金額を支払いまして、正規の方法で商品を買い付けて参ります。どうか御安心下さい」

男は安心したかのように薄らと笑顔を浮かべると、一時預かり金として10万円を収め、ゆっくりとした足取りで悠々と店を後にしたのだった。

私はさっそく調査員を現地に走らせ、野上理沙のデーターを収集するように命じたのだった。

               9

オープンして3日目。私を含めスタッフ達は休む暇もなくお客様の対応に追われていた。

私は有休を使いホテルを休んでいた。丁度、ホテルもシーズンオフということが重なり、私は長期の有休が取れることになったのだ。

「如月コンシェルジュ、4号室に下島様が御見えになっております」
フロントからインカムで連絡が入る。私は今やっとコンシェルジュ室のソファーに腰を下ろしたところだった。
「了解。今すぐ行くからコーヒーでも出して待たせておいてくれ」
私はインカムをソファーに放り投げると、自分もそこにゴロリと横になり大きく背伸びをした。

(下島か…白バイの警察官のくせに、この変態野郎が…)
私は最後にもう一回ググッと大きく背伸びをすると、ゆっくりとソファーを立ち上がった。これで今日の休憩時間は終わりである。

私は気怠い身体に鞭打ちながら、コンシェルジュ室の奥に有るロッカーに向かった。
そのロッカーはいわゆる商品管理庫である。この中に丁寧に保管されているブツは、興味のない人にとればただの洗濯物の山だが、しかしマニアにとったら土地建物を売っぱらってでも手に入れたい超レアモノばかりである。その為、このロッカーには厳重に鍵が掛けられ、そこらの闇金屋の金庫などよりも頑丈に作られていた。

私はロッカーを開け、真空パックされている数々の商品の中から『下島』というインデックスが張ってある商品を取り出した。
真空パックされた中身は、看護婦の白衣とソックス、そして黒くて小さなTバックだった。

(あの白バイ野郎、このTバック見たら驚くだろうな…)

私は、数日前に訪れた下島のあの切実な表情を思い出していた。

「アカネちゃんは自分が高校生の時の初恋の人なんです!」
下島は個室に入るなり軍隊のような「気を付けー!」の姿勢でそう叫んだ。

立花茜・24歳・愛蘭病院看護婦・独身。
下島の依頼は、彼女のナース服と白いソックス、そして使用済みの汚れた下着であった。

「ナースの場合、入手は至って簡単ですし、料金もそれほどは掛からないと思いますよ。ナースの給料は安いですからね…ちょっと現ナマをチラつかせれば直ぐにOKですよ。なんなら、下着だけでなくとも本番のほうも話しを付けてきましょうか?」

私のその言葉に白バイ野郎下島は激怒した。
「アカネちゃんはそんなオンナじゃない!彼女は今時珍しい純粋な処女なんだ!これ以上彼女を侮辱すると貴様タイホするぞ!」

しかし、現実は白バイ野郎の期待を大きく裏切った。
担当していたバイヤーによると、バイヤーの「パンティーを売って欲しいのですが」の言葉にアカネちゃんは「いくらくれるの?」と即答だったらしい。しかも、パンティーを脱ぎ金を受け取ったアカネちゃんは、「口でしてあげるからもう1万円色を付けてよ」と分厚い唇を舐めながらバイヤーを挑発したという。
純粋な処女どころかありゃデリでバイトでもしてんじゃねぇですか、とバイヤーは笑っていたのだった。

個室では、下島が軍曹のような厳つい顔をして私が来るのを待ちわびていた。
私の顔を見るなり「どうだった?」とソファーを立ち上がる下島。
「残念な事に…純粋なアカネちゃんはTバックを履いておりました…」などとはとても言えない。言えばとたんにあのハルクのようなゴツい握り拳が私の頬に食い込むだろう。

「大丈夫です。御要望の商品は手に入りました」
「よし!」とガッツポーズを取る下島に笑顔で接しながら、私はデスクの上に真空パックされた彼女の衣類を広げた。

「こちらが立花茜さんのナース服、ソックス、パンティーの三点です。そしてこちらが一応、間違いなく彼女の物であるという証拠の写真です。念の為、御覧下さい」
立花茜が履いていたパンティーをバイヤーに売り渡すシーンを写した写真を下島に見せる。
「…アカネちゃん、嫌がってなかったか?…」
食い入るように写真を見つめながら下島が呟いた。
「いえ、ついでに尺八はいかがですかと言っておりました」とは言えず「いえ、アカネさんの事をとても愛している人から依頼を受けましてと事情を説明しましたら、彼女は『わかりました』と素直に協力してくれたらしいですよ。彼女、随分と優しい方なんですね」とヨイショしてやった。

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下島はかなり満足そうだった。
アカネちゃんに支払った総額3万円と手数料の3万円で合計6万円を彼に提示し、預かっていた一時金の10万円から差し引いた4万円を返すと、上機嫌の下島は「チップだからとっといてくれよ」と気前良く笑った。

私は素直にそのチップを頂き、それをこっそりとポケットにしまう。もちろんこのチップは店には申告しない。これは私が下島をヨイショして得たサービス料として頂いておく。

下島から受けとった3万円の手数料の中から1万円をバイヤーに支払わなければならなかった。そして残り2万円から私の取り分である40%を引く。店はたったこれだけの作業で12,000円の利益が生まれたのだ。いつ誰が買うとも知れぬ賞味期限切れの使用済みパンティーを売っていた以前のブルセラと比べれば、この12,000円はかなり大きい。
私が今回の取り引きで得た合計はチップ込みで48,000円。たった数十分の接客と簡単な段取りだけで48,000円の利益はおいしい。
しかも、パンティーを売ったアカネちゃんも、あんなウンスジだらけの糞パンティーとゴミ同然のナース服に臭いソックスを3万円という大金で買って貰えて大喜びだ。
しかもしかも、依頼者の下島はというと、これまた天にも昇る大喜びで、4万円のチップまで置いて行く始末。
関わった全員が幸せになり、そして利益を生む。
「これが私のビジネススタイルだ」
と、デスクでキーボードを叩いていた涼子に囁くと、下島から貰ったチップの半額2万円をさりげなく涼子に手渡した。
「ありがとうございます」とビジネス調に答える涼子は、唇の端をニコッとさせただけでその二万円を受け取ると、またキーボードに顔を戻した。

なんともクールな女である。しかし、そのクールさが彼女の魅力をより輝かせていた。
いつかきっとその傲慢なアナルに人差し指を根元まで突っ込み、ウンチの付いたその指を嫌というほど嗅がせてやりたいものだと、つくづく思ったのであった。

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そんなクールな涼子がシークレットサービスで働くようになったのは、私の変態仲間である『サキエ女王様』からの紹介だった。
サキエ女王様は、私が通うハプニングバーで専属のSMの女王様として働くサディストである。

私が新しい店を立ち上げるという話題でハプバが盛り上がっていた時、突然サキエから相談を持ちかけられた。
「ウチの友達で涼子いうコがいんねんけどな、そのコ、ずっとニューヨークにおってんねんけど、アッチの証券会社が倒産したとかで日本に帰って来よってん。でもな、日本も今は不景気やろ、まったく仕事がない言うて困ってんのやわ…愚ちゃんトコの新しい店でバイトで使うて貰えへんやろか…」

ニューヨーク帰りのキャリアウーマン。私のチンポは既にマンハッタンである。
さっそく翌日には涼子を面接していた。

「この店がどんな店なのかはサキエさんから聞いてますよね?」
ドルチェ&ガッバーナの黒スーツに身を包んだ杉原涼子は、ニューヨークで働いていたキャリアウーマンらしく顔色をひとつかえず「女性の使用済みショーツを売るお店ですよね」と淡々と返して来た。
マゾっ気はない私だが、しかし彼女のその冷たいクールな目は、私の変態嗜好の1ページに「マゾ」と書き加えてくれそうな、そんな魅力的な女だった。

本来ならば、机の下でコソーリとペニスを露出し、彼女に見つめられながらシコシコとするところだが、しかしなんたってニューヨーク帰りのキャリアウーマンである、そんな事がバレればとたんにセクハラで告訴されかねないのである。
私はチンポを触りたいのを我慢しつつ話しを続けた。

「それで、私の仕事とは具体的にどういった内容なのでしょうか」
涼子はテーブルの上のシステム手帳に何やら書き込もうとしている。それはニューヨーク時代の癖なのだろうが、しかし、ここではそれを直すべきであろう、彼女のそのいかにも「仕事できます」的なシステム手帳に「花柄パンティーウンスジ付1枚」や「陰毛+唾液+歯糞」などと書かせるには少々忍びない。

「とりあえず…私の秘書ということで…どうかな?」
実際、彼女にやってもらうような仕事はここにはなかった。受付やコンシェルジュは全て男性スタッフである。こんな綺麗な女を相手に「オリモノがたっぷりと付いたパンティーが欲しいんです」などと、ここの内気な客達が言えるわけないのだ。

「…それはサキエの紹介だからですか?」
少し考えていた涼子は突然鋭い目で私を睨みながら言った。
「…いや…サキエさんとかそう言うんじゃなくて…」

「私では役不足なのでしょうか?」
彼女はゆっくりとペンを置き静かにシステム手帳を閉じた。
「…いや…困ったな…そう言う意味ではなくて…取りあえず仕事を覚えるまでというか…」

「ここの仕事はそんなに難しいのでしょうか?」
私を誰だと思っているの?私は日本経済を操るニューヨークで働いていたキャリアウーマンよ、と言わんばかりのその態度は、明らかに私を小馬鹿にしている。
「…いや…その…難しいというか…でもちゃんと給料は払うから、うん、正社員と同じ給料を出すから、そこんところは心配しなくても―」
「私は働かなくても給料を貰えるのですか?WHY?」
「いや……」
「サキエに何と言われたのか知りませんが、同情して私を雇うというのならこの話しはなかった事にして下さい。もしこのお店が私を本当に必要とするなら、私はそれなりの給料をいただきます。どうする?」

どうする?と言われても…と言葉に戸惑いながらも私のペニスはグングンと勃起していた。
今までにない興奮である。そのまま彼女のハイヒールの踵で亀頭を押し潰されてもいいとさえ思った。
ここで彼女を手放すのは私の人生において最大の失敗となりうるであろう。私の女々しい性格だと一生悔やむに違いない。
私は気持ちを切り替えた。これでもホテルマンとして第一線で戦うジャパニーズビジネスマンだ、ニューヨーク帰りのじゃじゃ馬娘に舐められてたまるか!

「わかりました。では、貴女にはバイヤーとして働いていただきましょう。クライアントの要望する商品をターゲットとの商談の末、少しでも安く買い付けてきてもらいます。もちろんそれはコンプライアンスを重視し慎重に行なっていただきます。もし、貴女のミスで刑事事件に発展するようなことがあればそれは全て貴女の責任です。弁護士だけは当社から派遣いたしますが後は当社は一切の責任を負いません。給料は独立採算制。貴女が安く買い付けてこればそれだけ貴女の利益は増えます。女性の貴女には精神的に少々苦痛な点もあるかも知れませんが、利益追求のみを考えればこれほど魅力の有るビジネスはないでしょう。いかがですか、女性の貴女に自信はございますか?どうする?」

私は一気に喋ると思い切りソファーにふんぞり返った。田原俊彦のように格好良く足を組み替えたかったが、しかし勃起しているのでそこまでは無理だった。

「…わかりました。この商品のバイヤー経験はありませんが、私なりに考えてきっと良い成果を出します」

涼子は、あのとっても怖い目から、一瞬にして穏やかな優しい目に変身させると、突然私の目の前に手を差し出して来た。

なんだなんだ!握手しようというのか?…ははぁ~ん…いわゆるニューヨークスタイルって奴か…こんなことなら握手する手にチンポ汁付けとくんだったよ…ま、商談成立ってことだな……確かその後、互いに抱き合って背中をポンポンと叩いたりしてそして左頬と右頬に軽くキスするんだっけ?…いや違うよそれはイタリアンマフィアの『別れのキス』じゃねぇか、それじゃあその後に私はマシンガンで蜂の巣にされちまうよ…

そんな事を考えながらも、私は恐る恐る彼女の手を握った。
彼女は力強く、ギュッと私の手を握って来た。思わず射精しそうになる。

「がんばります。これからよろしくお願いしますボス」
涼子は歯並びの良い白い歯を真っ赤な唇から覗かせながらニサリと笑ったのだった。


その後の涼子の成績は言うまでもない。ターゲットが女という事も幸いしてか、彼女はどんなに入手困難な商品でも見事に手に入れて来た。他の百戦錬磨のバイヤー達を瞬く間に追い越し、彼女の成績はダントツトップになったのだった。

(つづく)

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