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夢見る少女2

2012/01/20 Fri 00:06

    夢見る少女2


 ボディチェック。
 その言葉は、お父さんが毎回録画している『警察24時』でよく耳にする言葉だった。
 アイドルのオーディションで、なぜボディチェックが必要なんだろう。そう私が戸惑っていると、嶋田は黒いカバンの中から何やら書類らしき用紙を取り出し、同時にボールペンの尻をカチッと押した。
「今のアイドルはね、歌やルックスだけじゃダメなんだよ……」
 そう呟きながらその書類をテーブルの上にバサッと広げた。
 その書類には、バスト・ウェスト・ヒップのサイズを書き込む項目の他に、『黒目の大きさ』や『髪質』、そして『乳輪』、『陰毛』、『ニオイ』といったびっくりするような項目までもが並んでいた。
 絶句しながらその書類を見つめていた私が、恐る恐る「そんな所まで……」と呟くと、嶋田はニヤニヤ笑いながら「下戸ちゃんは乳輪がひまわりみたいにデカすぎたんだよね……」とゆっくりと煙草の煙を吐き、私の顔を見ながら「誰にも言っちゃダメだよ」といやらしく笑ったのだった。
 ショックだった。憧れの下戸彩の乳輪がひまわりだという事もショックだったが、しかしそれよりも、アイドル達はみんなここまで調べられていたのかという事の方が大きなショックだった。
 私はそんなショックを受けながらも、書類に指を差す。
「この、陰毛と言うのは……」
「ああ、陰毛ね。これは、もしキミが将来、ヘアーヌード写真集なんかを出版したりする場合の事を考えてね……キミの売り込みの時にはとっても役に立つデーターなんだよ」

「……役に立つって……どう役に立つんですか?……」

 私が恐る恐る聞くと、嶋田はニヤニヤしながら、「それは言えないよぅ、それは企業秘密よぅ」と笑って誤魔化した。

「でも私、ヘアーヌード写真集なんて……」

「だからそれは、『もしも』って事だよ。まぁ芸能界なんて何が起きるかわかんない世界だからね。デビュー前から『もしも』の事を考えておかないと、キミ、損しちゃうよ」

 嶋田はそう笑いながらクローゼットの中にある冷蔵庫へとスタスタと向かった。私はその隙にその書類をじっくりと読む。

「なんていったけな……ほら、最近よくアイスクリームのCMに出てるオッパイの大きな子。確か、井ノ上なんとかって名前だったよな……」

 私は書類を目で追いながら「井ノ上ゆう子ですか?」と聞いた。
「そうそうソレソレそのコ、ゆう子だゆう子だ」
 嶋田はそう言いながら冷蔵庫の中からビールとオレンジジュースを取り出した。
「あの子はさぁ、僕の知り合いの事務所でオーディション受けたんだけど、なんと、彼女の陰毛のレベルはAだったんだよね」
 嶋田は再び窓際の応接セットに向かいながら、どこか自慢げに話しを続けた。
「レベルAって言ったら凄いんだぜ。確か、当時の宮沢えりでレベルCだったかな? 今の黒本ヌイサと蒼江優がレベルBだからね、それでも陰毛がレベルBならヘアーヌードのギャラは軽く『3億円』を超えちゃうんだぜ。もしレベルAのあの子がヘアーヌードになるってなったら、間違いなくコレは行くよ、きっと」
 嶋田はそう言いながら5本の指を立てた。
 私は嶋田からオレンジジュースを受け取りながら、「ご、5億円……ってことですか……」と目を丸めて聞いた。嶋田はカシュっ! と缶ビールの蓋を開けながら椅子に座り、重々しくもコクンと頷いたのだった。

 嶋田はクピクピと音を鳴らしながらビールを飲み始めた。弛んだ二重アゴがタポタポと揺れ、まるで巨大なガマガエルが唸っているようだった。
 息継ぎすることなく一気にビールを飲み干してしまった嶋田は、まるで風船の空気が抜けるかのような、ゲフぅぅぅぅと大きなゲップをすると、そのまま話しを続けた。

「だからね、オーディションの時の、このボディチェックっていうのはとっても重要なんだよね。このボディチェックひとつでキミ達タレントの値段が決まっちゃうようなもんだからね……」

「値段……」

「そっ。値段。つまりギャラ。給料ね。このボディチェックで最悪点を取ると、テレビの話しが全然来ないんだよ。ほら、局のヤツラってのはキミ達のデーターしか見てないわけだからね。テレビからお声が掛からないと、結果、事務所の給料も激安になっちゃう。そうなると、まぁ、パチンコ屋の開店イベントかスーパー銭湯の歌謡ショーが関の山のB級タレントになっちゃうんだよね……」

 私は手に持ったオレンジジュースに口を付けるのも忘れ、乾いた喉にゴクリと唾を押し込んだ。
「そんな、とってもとっても大事なボディチェックをこれからするんだけど……まぁ、そんなに固くならないで、リラックスしていきましょう」
 私を散々脅しておきながら、嶋田はそうニヤニヤと笑った。私はソコで初めて自分の手に冷たいオレンジジュースがある事に気付き、瓶の口をソッと唇に押し付けた。

「って事で、さっそくボディチェックを始めるから、取りあえずパンツ1枚になってもらおうかな」

 嶋田のその言葉に、私はおもわずオレンジジュースを噴き出しそうになった。

「パ、パンツ1枚って、服を脱ぐんですか!」

 驚く私のその声に、嶋田は「えっ?」と首を傾げた。
 そして、私の顔を不思議そうに見つめながら「もしかして嫌なの?」と更に深く首を傾げた。
「……い、いやじゃないけど……でも、ちょっと恥ずかしいです……」
「恥ずかしい? 今、もしかして恥ずかしいって言った?」
「……は、はい……」
 嶋田は私の返事を聞くなり、何やら「うんうん、そっかそっか」などと呟きながらペンを手に取り、テーブルに広げてある書類を覗き込んだ。

「……恥ずかしいって事は、つまり、消極的って事だよね……残念だなぁ、キミほどのアイドルの素質を持ってる子がマイナス思考だなんてね……いや、これはとっても残念だ……」

 嶋田はそうブツブツと呟きながら、書類に書かれている『性格』という項目にペンを走らせようとした。
「そこになんて書くんですか?」
 私は、書類に何か書き込もうとする嶋田の手を止めながら慌てて聞いた。
「えっ? もちろん、『消極的』って書くんだよ」
 嶋田は茶色く濁った目玉でジロリと私を見上げた。
「それ……書いたらどうなります?……」
「うん……恐らくデビューは無理だろうね。恥ずかしがり屋のアイドルなんて、いつも怒ってる不機嫌なお笑い芸人みたいなもんだからね……まぁ、百歩譲ってデビューできたとしても、恐らく、『がんもどき』とか『特産納豆』とかの地方CMで、ブサイクな子役と『おいしいね』なんて笑ってるのが関の山だろうね……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい。脱ぎます。私脱ぎますから」
 私は嶋田のペンを止めさせると、慌ててそう返事をしたのだった。

 今までアイドルだけを目指して頑張って来たのに、こんな所でつまずくわけにはいかなかった。なんとしても『がんもどき』の地方CMだけは避けなくてはならないのだ。

「……じゃあ、パッパッと早く脱いじゃってね。この後、もう一人オーディションを受ける子がいるから」

 嶋田はそう言いながら小さな溜息をつくと、持っていたボールペンをコトッとテーブルに置いた。
 私は急いで上着を脱ぎながら、この後オーディションを受ける子というのは、例の子豚のような女の子だろうかと考えた。
 彼女にだけは負けたくない。あんな子豚のような田舎娘に負けたら、私は2度と立ち直れないかも知れない。
 そう思いながらブラジャーをプチッと外すと、いつの間にか嶋田は私の横にしゃがんでいた。
 嶋田の濁った目玉は、今まさに外そうとしているブラジャーをジッと見つめていた。私は一瞬戸惑った。しかし、ここで戸惑っていたらあの子豚娘に負けてしまう。そう自分に言い聞かせた私は、恥ずかしさをグッと堪えながらブラジャーをパラリと外したのだった。
 私は椅子に座ったままスカートのフックを外した。嶋田はフルフルと微妙に揺れる私の胸をジッと見つめながら、何やら書類に書き込んでいる。
 私はスカートを足首から抜き取る時、ソッと書類を覗き込んだ。
「ダメダメ。これは、例え本人にも見せてはいけないって業界で決まってんだから」
 嶋田はそう首を振りながら書類を素早く伏せた。
「それは誰が見るんですか?」
 私は脱いだスカートを静かに畳みながら聞いた。
「これはね、キミがデビューした時には、秘密のプロフィールになるんだ。だから、テレビ局のプロデューサーやCMスポンサー、それに秋木さんや、うんくといった音楽プロデューサーなんかも見るんだよ」
「えっ! あの『グンナイ娘。』のうんくさんも!」
 おもわず私は、座ったまま椅子の上をピョンっと飛び跳ねてしまった。
 すると嶋田は、私のプルプルと揺れる胸を見ながら、「貧乳だなぁ……Bカップ? それともAカップ?」と、再び書類にペンを立てた。
「……そ、それは……でも、こうすると……ギリギリBカップに……」
 私は両手で小さな胸の膨らみを中央へ寄せながら、必死にそう笑う。
「ふふふふ、無理しなくてもいいよ」
「無理なんてしてません。ほら、こうすればそれなりにプヨプヨになるんです」
 すると嶋田は「いいんだよ。アイドルってのは貧乳の方がレベル高いんだから」とケラケラと笑いだした。
 私はすかさず肉を寄せていた手を離し、「はい。正真正銘のAカップです」とピンクの乳首を突き出して見せてやると、嶋田は更に声を張り上げてはケラケラと笑い出したのだった。

 胸の項目に『Aカップ』と書いた嶋田は、今度は私の乳首を間近で覗き込んだ。嶋田のギトギトとした頭皮が私の目の前に迫って来た。私はそこから漂って来るオヤジ臭に咽せそうになりながら、下唇をギュッと噛んではひたすら耐えた。
「色も形も綺麗だね……」
 嶋田は独り言のように呟いた。
 とたんに私は嬉しくなった。
 私は今までに3人の男の子とエッチをして来た。その男の子達は、エッチする度に私の裸を見ては『綺麗だ』とか『最高だ』と褒めてくれた。それはそれで嬉しかったが、しかし、この時ほど『綺麗だ』と言われて嬉しかった事はない。
 そんな私が「本当ですかぁ~」とルンルン気分で嶋田に聞くと、嶋田はそんな私を無視するかのように「ちょっと失礼……」と低く呟くと、そのまま私の乳首を太い人差し指でコロンっと転がした。

 私の背中にゾクっとした寒気が走った。おもわず私はブルブルッと背筋を震わせる。
 いきなり触るなんて信じられない……と、呆然としていると、嶋田はもう一度乳首を指で転がし、「なかなか感度は良さそうだねぇ」と呟いた。
 呆然とする感情から解放された瞬間、嶋田に対する怒りが猛然と湧いて来た。これはセクハラといった生易しい物ではなく、もはやチカンに等しいのだ。
 しかしそんな私は、「ヤメて下さい」の一言が言えなかった。それを口にした瞬間、私のアイドルとしての夢が、脆くも砕け散って行くような気がしたからだ。
 だから私は我慢した。こんな事くらいで夢を諦めてなるものかと、奥歯を食いしばってそれに耐えた。
 すると嶋田は、なにやらブツブツ言いながら、今度は乳首を親指と人差し指でムニュッと摘み始めた。その小刻みにムニュムニュされる指に合わせ、私の背筋に猛烈な寒気が走り去って行く。
「痛い?」
 嶋田は私の目を見ずに聞いて来た。私は震える声で「大丈夫です」と答える。すると嶋田は、「正直に答えて欲しいんだけどね……」と呟きながら、私の目をジッと見つめた。
「なんですか……」
「キミは処女かな?」
 そう聞く嶋田の濁った目を見つめながら、私は答えに迷った。イエスと嘘を付いた方がいいのか、それともノーと正直に言った方が良いのか、どっちが有利な答えなのかと、私は人生最大の岐路に立たされた。
 嶋田はそんな私を真剣な表情でジッと見つめている。私の答えを待つ嶋田のその表情は、まるでクイズミリオネアの司会者のようだ。
 そんな重たい沈黙がしばらく続いた。ホテルの窓から聞こえる救急車の音が静まり返った部屋に微かに響いていた。
 するといきなり嶋田が「ぷっ」と噴き出した。そして嶋田はクスクスと笑いながら「そこまで考えるって事は、処女じゃないって事だよね」と、またしても「ぷっ」と噴き出したのだった。

「いいよいいよそんな事嘘つかなくても。処女だろうが非処女だろうがそんな事関係ないから」
 嶋田はそう笑いながら再び私の乳首をムニュムニュとし始めた。私はホっとする反面、じゃあ聞くなよ! という怒りがムカッと沸き上がった。
「……ただね……アイドルになったら男関係はNGだよ……もしキミに今彼氏がいるんだったら、すぐに別れた方がいいよ……アイドルにとって男の影ってのは致命傷になりかねないからね……」
 嶋田はそう言いながら、もう片方の乳首を指先でコリコリと転がしていた。
 初めて触られた右側の乳首は敏感になっていた。そんな敏感な乳首を転がされた瞬間、初めて私の中で、今までの寒気とは違う何か妙な感情がムラッと湧いた。
 嶋田は黙ったまま、両手を使いながら私の両乳首を弄っていた。私はそんな嶋田のコロコロと動く指を見つめながら、ソッと熱い息を吐き出し、そしてヤダヤダヤダっと何度も心の中で叫んだ。
 もしかしたら私は、この醜い肥満親父に感じさせられているのかも知れないと思うと、泣きたくなるくらいにプライドが傷つけられた。
 しかし今更「もうヤメて下さい」などと言えるはずがなかった。もう少しの我慢だ。もう少しだけ我慢すればアイドルへのパスポートが手に入るんだ。私は何度も何度もそう心の中で呟きながら、そのムラムラと湧いて出てくる感情を必死に押し殺したのだった。

 乳首のチェックが終わると、次に私はベッドの上に寝かされた。
「両手をね、こうやって万歳するようにしてくれるかな」
 嶋田はそう言いながら、テレビの前で両手を万歳して見せた。
 私は言われるままに万歳をしながらも「これは何のチェックですか?」と聞いた。
「うん。今度はね、キミの体臭をチェックさせてもらうから」
 嶋田はそう言いながらも、何やらモゾモゾとズボンを脱ぎ始めた。
「いやね、スーツのままでベッドに上がるとシワになっちゃうんだよね……だからちょっと失礼して、僕も服を脱がさせて貰うから……」
 窓際に立つ嶋田はスーツを脱ぎ、脱いだソレを応接セットの上にバサバサと投げ捨てた。

 嶋田は、親父特有のYGのランニングシャツと、チェック柄のトランクス姿になった。解放されたメタボ腹は、萎みかけの水風船のようにタポタポと揺れていた。ランニングシャツから伸びる二の腕は、まさにブヨブヨの白豚のように脂肪で膨れ上がり、おまけにその肌には爺さんのようなシミがポツポツと無数に広がっていた。

 醜い……
 私はそう思いながらも、近付いて来る嶋田からソッと目を反らした。
 嶋田がベッドの上に乗ると、マットはギシギシギシッと悲鳴をあげた。そんなマットは嶋田の体重で大きく傾いた。たちまち私の小さな体は、そんなマットの凹みにズルッとハマってしまった。
「はははは、ごめんごめん」
 嶋田がそう言いながら、凹みにハマった私の身体を押し出そうとした。その時、嶋田の汗ばんだ手が私の太ももにネチャっと触れた。
 気持ち悪い! と思った私は、慌ててその凹みから自力で脱出した。ベッドの上であぐらをかく嶋田は、そんな私を見下ろしながらふふふふふっと不気味に微笑んだのだった。

        ※

 万歳をさせられた私の腋の下に、クンクンと鼻を鳴らす嶋田の大きな顔が近付いて来た。
 そんな所、嗅がないで下さい! と叫びたい心境だったが、しかし、そう叫べば、きっと嶋田は「消極的だね」と言い出すに違いない。だから私は黙ったまま耐えるしかなかった。
 嶋田は私の腋の下を犬のように嗅ぎ回った。そうやって嗅がれるのも嫌だったが、しかし、それよりもニオイが心配だった。
 確かに私は、ここに来る前、家でシャワーを浴びて来ている。しかし、それはかれこれ十時間以上前の話しだ。前の晩、興奮し過ぎて眠れなかった私は朝の4時にベッドを飛び起き、それから1時間後の5時にシャワーを浴びていたのだ。
 しかも、私は7時には家を飛び出していた。テンションが異常に高くなっていた私は、嶋田と待ち合わせするまでの間、蒸し暑い新宿の街を8時間近く歩き回っていたのだ。
 そんな私の腋の下は、きっと汗の匂いがムンムンと充満しているに違いなかった。そんなニオイをチェックされたら、たちまち私はアイドル失格だろう。
 そう焦った私は「あのぅ……」っと、腋の下を嗅ぎ回る嶋田を見つめながら声を掛けた。
「なに?」
 顔をあげた嶋田の鼻の頭は、汗でびっしょりと濡れていた。私はその汗が自分の汗ではありませんようにと祈りながら、嶋田に言った。

「私……ちゃんと今朝シャワーを浴びて来たんですけど……でも、ここに来る前に新宿を歩き回ってたし、それに、今すごく緊張してるし……」

 私は、書類に『不潔』と書かれないかと脅えながらそう説明した。
 すると嶋田は濁った目でジッと私を見つめながら、「緊張してるからどうしたの?」と首を傾げた。
「はい。だから、その……いっぱい汗かいちゃったから……」
「汗かいちゃったから、どうしたの?」
 嶋田は意地悪そうな目をしながら更に聞いて来た。
「だから……その……ニオイが……」
 顔を真っ赤にしながらそう呟くと、嶋田は「そうだね。結構なニオイが出てるよキミの腋」と、淡々と呟いた。
 おもわず私はギュッと顔を顰めた。とたんに喉がヒクヒクと痙攣し始め、今にも「わあっ」と泣き出してしまいそうに感情が込み上げて来た。
 そんな私に追い打ちをかけるかのように、嶋田は私のジトッと湿った腋を人差し指で擦りながら、「キミくらいの年齢のコは、新陳代謝が活発だから、臭くなって当然だよ」と呟き、その擦った指をペロッと舐めた。
 それを見た私は遂に「やだぁ!」と叫んでしまった。
 ズバリ『臭い』と言われた事と、その臭いと言われた腋の下を擦った指を舐められた事で、私の頭は混乱してしまった。
 すると嶋田は、真顔のまま「嫌なの?」と首を傾げて来た。そしてウルウルと涙を流す私を見つめながら「嫌なら、これでオーディションを終わりますか? 次のコも待ってる事だし」と、まるで私をあざけ笑うような表情でそう言った。
 私はギュッと下唇を噛んだ。その『次のコ』という言葉に私は激しい焦りを感じたのだ。
「どうする? ヤメる? ヤメるなら次のコを呼ぶよ」
 そう言いながらムクリと起き上がろうとする嶋田を、私は泣きながら「待って下さい!」と叫んだ。
 嶋田はベッドに胡座をかいたまま、呆れるようにフーッと溜め息をつくと「どうするの?」と、私の顔を覗き込んだ。
「ヤリます。続けて下さい。お願いします」
 私は必死に喉のヒクヒクを堪えながらそう言った。
 すると嶋田は再び大きな溜息を付いた。そして険しい表情で私を見つめると、「今度だけですよ。次、『やだぁ』とか言ったら、即刻中止するからね」と低い声で呟いた。
「ありがとうございます……」
 グスングスンと泣きながらそう嶋田にお礼を言うと、嶋田はブヨブヨに垂れた自分の胸をガサガサと掻きながら、「じゃあ、時間がないから早く終わらせちゃおう。次のコも待ってる頃だし」と、再び『次のコ』を強調させながら面倒臭そうに言った。

 そんな嶋田が次にチェックすると言い出したのは陰毛だった。
 胡座をかいた足をユサユサと貧乏揺すりする嶋田は、露骨に不機嫌そうな表情をしながら「じゃあパンツを脱いで」と私に言った。
 私は死にたいくらいに恥ずかしくなった。しかし、今更、それだけはイヤです、などと言えるわけがない。
 私はベッドに寝転がったまま、恐る恐るパンティーに指を伸ばした。少しずつ少しずつパンティーをずり下げて行く。
 すると嶋田が、突然「あのねぇ!」と叫んだ。
 ビクッ! と手を止めてしまった私を嶋田は睨みながら、「時間がないって言ってるでしょ、キミ、本当にアイドルになる気あるの?」と怒鳴った。
「はい! あります!」
 私は顔を涙でグシュグシュにしながら叫んだ。
「じゃあ早いとこパンツを脱いで貰えるかなぁ」
 嶋田はそう言いながら私のパンティーを指でつまんだ。
 おもわず私が「あっ!」と叫んだ瞬間、私の下腹部に栗毛色の陰毛がワサワサと飛び出したのだった。

(3へ続く)

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