愛と青春のポルノ映画館4
2012/04/01 Sun 01:01
《本編》
土曜の9時。
ケンジが待ち合わせの郵便局前のコンビニに行くと、すでにミカはコンビニの店内でぼんやりと立ち読みをして待っていた。
ショーウィンドウからケンジを見つけたミカは、大きな瞳で微笑みながら嬉しそうに手を振り、立ち読みしていた雑誌を慌ててラックに押し戻すと、そのまま笑顔でコンビニから飛び出して来た。
それは、普通の高校生カップルがデートの待ち合わせをしていた風景となんら変わりなかった。
「あの映画館、かなり危ない所だぞ……」
雨上がりの歩道を歩きながらケンジは隣りのミカにポツリとそう言った。
「えっ?ケンジ君、映画館行って来たの?」
ミカは茶色い髪を街灯に輝かせながら、驚いたようにケンジを見た。
「うん……どんな所か見ておこうと思って偵察に行ってみたんだけど……」
そう答えるケンジの脳裏に、スクリーンの光りに照らされながらケンジの精液を美味そうにゴクリと飲み込んだ中年男の表情がふいに浮かんだ。
「危ないってどんな風に危ないの?」
ミカは不安を隠し切れない表情でケンジの顔を覗き込んだ。
「うん……」
ケンジはそう頷きながらそんなミカに振り返る。とたんにミカの大きな胸がケンジの目に飛び込んできた。それを見ながら、もうすぐこのオッパイがムチャクチャにされるんだとそう思うと、ケンジの亀頭にズキン!という衝撃が走った。
「とにかく、変なオヤジがウヨウヨしてる……」
ケンジはミカのオッパイからソッと目を反らしながらそう答えた。
「変なオヤジって?……」
ミカは顔を引き攣らせながら恐る恐る聞く。
「変態だよ。あそこは変態がウヨウヨと集まってるんだ……」
ケンジのその言葉にミカは絶句した。
そのまま二人は無言で交差点を渡った。
横断歩道の水溜まりには信号待ちの車のライトがギラギラと反射していた。そんな水溜まりをひとつひとつ避けながら横断歩道を渡っていると、視覚障害者の歩行誘導音がピヨピヨピヨっと二人を急かせた。
そんな横断歩道を渡ると、まるでゴーストタウンのような古い商店街のアーケードに入った。この長いアーケードを渡った先に悪名高きポルノ映画館が待ち受けている。
静まり返ったアーケードにはミカのサンダルの音だけがコンコンと響いていた。
そんな音を響かせながら歩くミカがポツリと呟く。
「先輩がね……あの映画館ならラブホよりも安全だって言ってたんだけど……」
ミカは不安な表情をしながらアーケードのツルツルする床を見つめる。
「確かに映画館なら密室のラブホよりは安全かも知れないけど……」
ケンジがそう答えると、ミカは自分に言い聞かすように「私もそう思う」と頷いた。
「それにね、先輩が言ってたんだけど、ラブホだと1人の客に最低でも40分とか掛かっちゃうんだって。でもね、映画館だと1人10分くらいで終わっちゃうらしいよ。だから映画館だとお客を何人も相手に出来るから、その分いっぱい稼げるんだって」
ミカは、まるで今からファーストフード店へバイトに行くかのようなノリでそう話した。
そんなミカの話しを聞きながらケンジは思う。
確かに映画館ならラブホのように時間が掛からず短時間で多くの客をこなす事が出来るだろうが、しかしそれにはその分のリスクを伴う。
その一番のリスクは何よりも風呂だ。
当然、映画館にはラブホのようなシャワー室はない。という事は、ミカは客の汚れたペニスを触ったり舐めたり、そしてアソコに入れなければならないのだ。
ケンジはそう思いながら顔を顰め、そしてあの映画館で蠢いていた親父達の姿を思い出した。
薄汚れたジャージや泥だらけの作業服。髪は漂流者のようにボサボサで肌はホームレスのようにどす黒い。
まるで長期入院患者のような饐えた匂いを身体中からプンプンさせながら、湿疹だらけの頬を汚れた爪でガリガリと掻きむしっていた。
そんな親父達の洗っていないチンポ。
その匂いと汚れを想像しただけで、ケンジは背筋にゾーっと寒気が走った。
そんなケンジの寒気と同時にアーケードの中を突風が突き抜けた。古びたシャッターが一斉にグラグラと音を立てて揺れる。
「……先輩もね、あの映画館でバイトして、一ヶ月で100万稼いだっていってたよ」
そう言いながらミカは無邪気に微笑んだ。
(確かにこれだけ可愛いミカなら100万でも簡単に稼げるだろう、しかし、100万稼ぐとなれば、いったい何本の汚れたペニスを舐めたり触ったり入れたりしなければならないのだ……)
ミカの笑顔を横目で見つめながらケンジはそう思った。
しかし、今ソレを彼女に話した所で、彼女がその行為を中止するとは思えない。だからケンジは、あえてそのリスクをミカに伝えなかった。今彼女にそれを伝える事はあまりにも残酷過ぎるからだ。
静まり返ったアーケードを奥へ奥へと進んでいると、アーケードが途切れたすぐ向こうの路地に、ぼんやりとピンク色に輝く映画館の灯りが見えて来た。
ケンジはそんな卑猥な灯りを見つめながら、もう一度ミカに聞いた。
「本当に……いいんだな?」
そんなケンジの言葉に、ミカは無言でコクンと頷いた。
そしてアーケードが途切れ、卑猥なピンクの灯りが目の前に広がってきた時、ミカは少し淋しそうな表情で「だってしょうがないもん……」と小さく呟いたのだった。
劇場のドアを開けると、いきなりセーラー服の女が後背位でガンガンと攻められているシーンがスクリーンに映し出されていた。
場内には人影がポツリポツリとあるだけで、前回ケンジが視察に来た時よりも客の数は少なかった。
ケンジは1番後にある「立ち見場」というスペースでミカと二人並んだまま立ち尽くしていた。
前回、この立ち見場には怪しい親父達がウヨウヨと蠢いていたが、しかし今夜はまだ時間が早いせいか2、3人の親父達がぼんやりとしているだけだった。
そんな立ち見場から場内の客席を見回すケンジは、ミカが客を取るにはどの席が一番良いかと悩んでいた。
(前列すぎるとスクリーンで明る過ぎる……真ん中だと目立ちすぎる……しかし後列過ぎるとこの立ち見場のスケベ親父達から覗かれる……)
そんな事を考えながら場内を見回していると、いきなり隣に立っていたミカがケンジの手をギュッと握って来た。
「えっ?」と照れながら振り向くケンジ。
するとミカは今にも泣きそうな表情でケンジを見上げ、その厚ぼったいセクシーな唇をゆっくりと動かしながら「ち、か、ん」と小声で呟いた。
すぐさまケンジは、ミカの真後ろで不自然に立ちすくんでいる男を覗き込んだ。
その中年男は労務者風の太った男だった。ケンジと目が合うなり、素知らぬフリをしてミカの体からソッと離れ、そのまま立ち見場の隅の暗闇へと潜って行く。
ここは危険だと思ったケンジは、ミカの手を握ったままとりあえず座席の通路をスクリーんに向かって歩き出した。
通路を進む間、場内にいる変態共が一斉にミカを見ているような気がしてケンジは怖くて堪らなかった。
とりあえずケンジは、真ん中の列の左隅の席にソッと腰を下ろした。
そこは左側の非常口から近く、なにかあったら逃げやすいと思ったからだ。
席に付くなりケンジはミカに聞いた。
「あいつ、吉岡に何したの?……」
ミカはスクリーンの反射を受けながら、大きな目を更に大きく開くと、「あのね……」と説明を始めた。
「いきなり後から私のスカートの中に指を入れたの。そして指の先で私のお尻をツンツンって突いてね、私の耳元で『トイレに行こうよ』って言ったの……」
ミカはそう説明しながらブルブルっと身震いをした。
ケンジはそんなミカの極ミニのスカートをチラッと見つめながら、こんな服着てこんな場所にいたら当然だろうなぁ……と、あの中年男の痴漢の正当性を認めた。
しかし、それにしてもちょっと腹が立った。ミカの隣りには自分がいるわけで、にも関わらず痴漢した挙げ句にトイレに誘うなんて、なんという大胆不敵なヤツなんだと、ケンジはその中年男に怒りを感じた。
そんな怒りをヒシヒシと感じながらスクリーンに映る性交シーンを見つめていると、ふいにミカが「ねぇ……」っとケンジの腕を肘で突いた。
「早く、お客を連れて来てよ……」
ミカはそうねだると、長いツケまつげをパチパチとふたつ瞬かせた。
「うん……でも、あんまり人がいないよなぁ……」
ケンジはそう言いながらソッと後ろを振り向いた。先日、ウヨウヨと親父達が蠢いていた立ち見場には、ポツンポツンと疎らに人が立っているだけなのだ。
「さっきの痴漢した人は?」
ミカがそんなケンジの顔を覗き込んだ。一瞬、ミカの化粧の香りがケンジの鼻孔を襲い、不意にケンジはその香りにムラッと欲情する。
「あんなの危ないよ……」
ケンジは、今からこの場所でミカが変態親父達に汚される姿を想像しながらも、ポツリとそう呟いた。
「でも、他にいないじゃない……あの人ならすぐに話しが付きそうじゃない?」
ミカはそう言いながら、さっきの男を捜し出そうと立ち見場に振り返ってはキョロキョロと見回し、そしてそいつを発見したのか「いた!」と小さく叫ぶと、慌てて体を前に向けた。
「本当にあのおっさんでいいのか?」
暗闇の中、ケンジはそう言いながらもう一度、ミカの顔を見た。
「うん。アレでいい。早く話し付けて来て……」
ミカは、女子高生が騎乗位で腰を振っているスクリーンをジッと見つめたまま、ミニスカートからちょこんと顔を出している小さな膝でケンジの太ももをツンツンと突いては急かせた。
「マジに話し付けて来るぞ……本当にいいんだな?」
ケンジが心配そうにミカの顔を覗き込み念を押す。
ミカは瞬きひとつせぬままスクリーンをジッと見つめ、そのままコクンと頷いた。
「……どうなっても知らねぇからな……」
独り言のようにそう呟きながらケンジは座席からスっと立ち上がったのだった。
その労務者風の男は、いきなり目の前に現れたケンジに威嚇するかのような鋭い視線を打つけて来た。
「あのぅ……」
低姿勢でケンジがそう話し掛けると、労務者風の男は警戒するようにケンジを睨みつけたまま「なんだよ」とぶっきらぼうに答えた。
「さっき、僕が連れてたあの女の子なんですけど……」
ケンジのその言葉に、この労務者風の男は痴漢した事を責められるとでも思ったのか、「何もしてねぇよ」と喧嘩腰に食って掛かって来た。
ケンジは、慌てて「違います、違います。そんな事言いに来たんじゃありません」と前置きすると、用心深そうに辺りをキョロキョロと見回してから、男にソッと呟いた。
「二万円で遊びませんか?」
労務者風の男はケンジのその言葉に一瞬キュッと眉間にシワを寄せると、そのまま無精髭だらけの唇を尖らせながら、ゆっくりと座席に座るミカの方に目をやった。
「二万は高けぇよ……」
労務者風の男はそう言いながら、無精髭を爪先でプツプツと引き抜きながら薄ら笑いを浮かべた。
「でも現役の女子高生ですよ」
ケンジは、事前にミカから教えられていたセリフをマニュアル通りに口走った。
このマニュアルはミカが先輩から教わったものらしい。
「女子高生か……」
労務者風の男は更に激しく無精髭を引き抜きながら呟いた。
「はい。高校二年生の十六才です。このバイト、今日が初めてなんです……」
ケンジはマニュアル通りにそう答えながら、すぐ近くにいるサラリーマン風の親父がジッとこっちを見ているのに気付いた。そんな男の視線に、不意にあの男はもしかしたら警察かも知れない、などと被害妄想に駆られ、一刻も早くその場から立ち去りたかった。
「初めてならよ、オープン記念で半額にしろよ……」
労務者風の男はポケットの中から裸のままのお札を取り出すと、その中から一万円札をサッと引き抜き、それをケンジに突き付けながらそう言った。
その金のやり取りがサラリーマン風の男に見られてはマズいと思い、慌ててその一万円を労務者風の男からひったくるとそれをポケットに押し込んだ。
ミカから「一万円以上ならいくらでもいいから」、と、事前に言われていたケンジは、サラリーマン風の男の視線を気にするあまり、一番安値で商談成立させてしまったのだった。
労務者風の男を連れ、ミカが座っている座席へと向かう。
途中、労務者風の男が「おい」とケンジを呼び止める。
「はい」とケンジが振り向くと、「おまえ、もういいからあっちに行ってろよ」と前を歩くケンジを追い抜こうとした。
「いえ、僕は後の座席で待機してますので……」
慌ててケンジがそう言うと、労務者風の男は「はぁ?」と立ち止まりながらケンジの顔を睨みつけた。
その時、その男の口から下水道のような口臭がモワッと漂い、そのあまりの臭さにケンジは口に手をあてては鼻を塞ぎながら「仕事ですから」とキッパリとそう言った。
そんなケンジに「ちっ」と舌打ちすると、労務者風の男はまた歩き出した。そしてミカが座っている座席の列に入り込みながら、同時に後の列を進むケンジに向かって「覗くんじゃねぇぞガキ」と念を押したのであった。
(続く)
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