昭和少年破廉恥物語3
2011/10/09 Sun 23:38
これはインターネットなどない、ずっとずっと昔の時代の話しである。
ウォークマンという携帯型ステレオカセットが話題を呼び、テレビCMでは大橋巨泉が『なんちゅうか本中華』などととぼけた事をほざいていた時代である。
そんなアナログな時代、私達のような子供には女性器というものを見る術は無く、女性器というのは東京都のマークと同じなんだと、男の子達の誰もがそう信じていた、そんな純粋な時代なのだ。
しかし私は、そんな時代、いち早く女性器というモノを見る機会に恵まれた。
ミニスカートの中に手を入れたおねぇちゃんは、微妙に尻をモゾモゾと動かすと、少しだけ腰を浮かせた。
そしてその真っ白な脚にスルスルとピンクのパンティーを滑らすと、それを足の先からスポッと抜き取り、そのまま手の中で丸めてはポケットの中に押し込んだ。
不意におねぇちゃんは私の顔を見て微笑んだ。
そしてそう微笑んだまま、畳をカサカサと音立てながら両膝を立て、ゆっくりと体育座りの状態になった。
寝転んだままの私の目に、まるで白桃のような丸い尻のワレメが飛び込んで来た。
「絶対に誰にも内緒だからね」
おねぇちゃんはニヤニヤ笑いながらそう言うと、そのまま体育座りの足をゆっくりと開いたのだった。
真っ白な肌に、ゴワゴワとした陰毛が、まるで霊界の草木のように不気味に轟いていた。
その黒々とした陰毛の奥には、なにやらグロテスクな形をした唇のような物がテラテラと濡れ輝いていた。
(この中にチンコを入れると子供が出来るのか……)
私はムクリと起き上がると、感動に満ちた表情でそこを覗き込んだ。
そんな私の頬に、おねぇちゃんの柔らかい太ももの内側が触れた。
「あんまり近くで見ないで……恥ずかしいよぅ……」
おねぇちゃんは妙に甘えた口調でそう呟いた。
そんなおねぇちゃんのグロテスクなワレメの中からは、透明の汁がトロトロと溢れ、それが肛門を伝って垂れ落ちては、畳に丸いシミを作っていた。
「この汁は何? おしっこ?」
私は畳の丸いシミを指差しながら聞いた。
「違うよぅ、濡れてるんだよぅ」
おねぇちゃんはクスクスと笑いながらそう言った。
「濡れる? どうして濡れるの?……」
「そんなのわかんないよぅ。男は立って女は濡れるって、昔からそう決まってんの」
おねぇちゃんは、そんな事どーでもいいじゃないっと言った感じで投げやりにそう言うと、不意に陰毛を指で掻き分け、ワレメにソッと指を這わせた。
そしてそのワレメを二本の指で左右に開くと、その奥にあるピンク色の肉をヒクヒクと動かしながら「ほら」と笑った。
なにが「ほら」なのかわからなかったが、しかし、私はその神秘的な色、艶、そして形にたちまち心を奪われた。
おもわず「すげぇ」と唸りながら、おねぇちゃんの股の中に顔を押し込むと、超至近距離からその神秘を見つめた。
「あんまり近付いたらヤダ……恥ずかしいよぅ……」
おねぇちゃんは必死に私の頭を股から追い出そうとした。
私は追い出されぬよう、畳に両手両足を張付けながら踏ん張った。
「もうおしまい」
そう言いながら、おねぇちゃんは立てていた両膝をペタンと畳に落とした。その瞬間、なにやらチーズのような異臭がフッと私の鼻を一瞬過って行ったのだった。
おねぇちゃん、足をペタンと伸ばして陰部を隠すと、まるで交尾を途中で中止された猛牛のように興奮している私を見つめ、「うふふっ」と意味ありげに微笑んだ。
「もっと見たい?」
そう首を傾げるおねぇちゃんに、「見たい見たい」と二度返事をすると、おねぇちゃんは「じゃあその前に、ちゃんと『ピュッ』をして見せてよ」といやらしい表情で微笑んだ。
いつしか豪雨は去っていた。
耳をつんざくカミナリも去り、窓の外からは微かに風鈴の音色が聞こえて来た。
私はそんな風鈴の音色を聞きながら、先程おねぇちゃんに教えて貰った「正しいオナニー」をした。
ズルムケとなったチンコは、既に痛みこそ消えていたが、しかし、見るからに痛々しく、それを上下に動かす度に、生傷に触れるような恐怖を感じた。
シコシコシコ。
さすがにそんな音はしないが、しかしまさしくそんな表現がピッタリな動きだった。
おねぇちゃんは、そんな私のシコシコシーンを見つめながら、しきりに「まだ?」と聞いて来た。
その「まだ?」というのは、いわゆる射精はまだかと聞いているのだろうが、しかしその時の私にはその「まだ?」の意味がはっきり理解しきれていなかった。
ただひたすらシコシコとしている私に、おねぇちゃんは早く「ぴゅっ」をさせようと、色々と仕掛けて来た。
「ほら」と笑いながらミニスカートを繰り上げたり、「見て」と言いながらTシャツを捲り、その巨大な乳肉をプルプルと振った。
しかし、極度な緊張状態にあった私は、どれだけ破廉恥な刺激を与えられようとも一向に気配は変わらず、その「イク」という前兆すら訪れないまま、尻肉の谷間を汗でぐっしょりと濡らしていた。
そんな私を見て、おねぇちゃんは「どうしたらいいのよぅ……」と困った顔をした。
そして仰向けに寝転がる私の耳元にソッと顔を近づけながら、「何して欲しい?」と聞いて来た。
私はすかさず「オッパイが見たい」と答えた。
するとおねぇちゃんは、一瞬「ふっ」と微笑むと、まるでキャンディーズのランちゃんがストリップの真似事をするカトちゃんに向かって言うように「エッチぃ」とニヤリと笑ったのだった。
Tシャツとブラジャーを脱ぎ捨てたおねぇちゃんは、恥ずかしそうに両手でオッパイを隠していた。
ミニスカート一枚の姿でそんなポーズをしているおねぇちゃんは、まさに『BOMB』のグラビアで微笑むアイドル歌手のように可愛かった。
おねぇちゃんは「見たい?」と首を傾げて私を焦らした。
私が、バカの一つ覚えのように「見たい見たい」と二度返事すると、おねぇちゃんは「うふふっ」と嬉しそうに笑いながらその手をどけた。
腕から解放された乳肉は、まるで飛び跳ねるバーバパパのようにボヨヨンっとバウンドした。
たちまち「すげぇ」と目を丸くする私に、おねぇちゃんも、これまたバカの一つ覚えのように「ほら」と言いながら、その豊満な乳肉を私の頬に押し付けて来た。
私はそんな柔らかい乳肉に包まれながら、必死でシコシコとチンコをシゴいた。
おねぇちゃんはそんな私の顔を覗き込みながら「どう? ぴゅっしそう?」と聞いて来た。
しかし、そう聞かれる度に私は焦りを覚え、「ぴゅっ」どころか、尻汗ばかりをジトジトと畳に染み込ませた。
そんな私に痺れを切らせたおねぇちゃんは、「もう、おねぇちゃんがやったげる」と唇を尖らせながら、私のチンコをムニュッと握ったのだった。
私のぎこちないシコシコとは違い、おねぇちゃんのシコシコは妙に年期が入っていた。
私はおねぇちゃんの指の動きに「ハァハァ」と荒い息を吐きながらも、不意におねぇちゃんはあのツッパリ兄ちゃんにもこんな事をしてたんだろうかと妄想した。
「どう?……気持ちイイ?」
おねぇちゃんは私の顔にオッパイをダランと垂らした状態で、シコシコと手首を捻った。
おねぇちゃんの手首が動く度に私の顔に垂れている乳肉がほどよく揺れ、不意にそれをガブリ! と噛み千切ってしまいたい衝動に私は駆られた。
おねぇちゃんは、そんな私の口元にオッパイの先を移動させると、「舐めてもいいよ」と囁いた。
私は迷う事無くその乳首にしゃぶりついた。
そんな乳首は固くなっていた。表面がカサカサして少し皮が剥けているようだった。
ジュブジュブといやらしい音を立ててしゃぶりついていると、おねぇちゃんは甘えた声で「もっと優しく舐めてぇ」と囁いた。
そんなおねぇちゃんの囁きが私の耳を刺激した。
いきなり下半身にズシッと重い感覚が広がった。それはなんとも表現しにくい感覚で、しいていうなら、便器に座った瞬間に猛烈な腹痛に襲われるような、そんな『安心の中の不安』のような感覚だった。
「おねぇちゃん……なんか……変……」
乳首を唇に含んだままそう告げると、おねぇちゃんはすかさず「イキそうなの?」と聞いて来た。
「わかんない……わかんないけどチンチンがムズムズする……」
必死にそう答えながら、私が小さな体をクネクネと唸らせると、おねぇちゃんは「いいわよ、ぴゅっ! と出しなさい」と言いながら、チンコをシゴく手首のスピードを微妙に早めた。
「あっ、あっ、なんか、ダメ、おねぇちゃん!」
私は乳肉に挟まれた顔を左右に振りながら必死に叫んだ。
「出ちゃうの? 出ちゃうの?」
チンコをシコシコとシゴきながらそう囁くおねぇちゃんの声を聞きながら、私は無意識に「はっ!」というスタッカートな息を吐いた。
体がビクン! と引き攣った。その瞬間、私のチンコから「シュプっ!」という音が聞こえ、同時におねぇちゃんが「あぁん」といやらしい声を上げた。
それはまるで、夢の中で、高いビルから飛び降りた瞬間のような感覚だった。
「見て、いっぱい出てるよ……」
おねぇちゃんは、手首をシコシコと動かしながら、私に生温かい息を吹きかけた。
朦朧としながら顔をあげると、小さなチンコの先から白い液がぴゅっぴゅっと飛び散るのが見えた。
「凄いよ……まだ出てくる……」
おねぇちゃんは「ぴゅっ」を続けるチンコを熱い眼差しで見つめながら、指に精液を滴らせたままシコシコとシゴいた。
ジワジワと這い上がって来た強烈な快感が、私の脳味噌をトロトロに溶かして行ったのだった。
今までにない開放感に包まれながら,私がぐったりとその身を畳に沈めようとした時、いきなりおねぇちゃんが動いた。
「あぁぁん……いっぱい出たよぅ……」
おねぇちゃんは甘ったるい口調でそう囁きながら、寝転がる私の身体を這い上がった。
そして、私の精液が飛び散った腹の上に顔を近づけると、なんとその汚れたチンコをベロリと口に滑り込ませた。
ブジュっ,ブジュっ,ブジュっ、という、まるで泥の中を歩くような音が響いた。
私は強烈にくすぐったく、「あはっ! きゃはっ!」などと奇声をあげながらのたうち回った。
しかし、おねぇちゃんの体が私の体の上にドカッと乗っており、私は蠢く事は出来てもそこから脱出する事はできなかった。
そんな強烈なくすぐったさに襲われながら蠢いていると、不意に目の前におねぇちゃんの陰部がパックリと開いているのを発見した。
それはいわゆるシックスナインという体位なのだが、当然、その時の私にはそんな知識はない。
私はくすぐったさを必死に耐えながらも、これはチャンスだとばかりにゆっくりと顔を起こすと、目の前で開いているソレをじっくりと観察してやった。
すると、なんとも凄まじい光景が私の目に飛び込んで来た。
なんと、そのヌルヌルと濡れた陰部におねぇちゃんの指が蠢いていたのだ。
その指はワレメに添ってヌチャヌチャと動いたかと思えば、その先にある豆粒のような突起物をクリクリと指先で転がしていた。
そして、いやらしく尻を蠢かせながらも、そのパックリと開いた穴の中にヌポヌポと指を挿入させていた。
(す、すげぇ……女のオナニーだ……)
私はくすぐったさも忘れ、必死になってソレを見つめた。
射精したペニスを銜えながらオナニーする女など、エロ本の中でも見た事が無かったのだ。
そんな卑猥な光景を見つめていると、みるみると私のチンコが固くなり、再びあの快感が甦って来た。
すると、それに気付いたおねぇちゃんは口の中からチンコをヌポッと抜き、「ねぇ、また『ぴゅっ』できそう?」と聞いて来た。
私は股間を覗いていた事がバレてはいけないと、慌てて顔を伏せながら「たぶん」と答えた。
するとおねぇちゃんはハァハァと荒い息を吐きながら、私のヘソをチロチロと舐め、再びジュプジュプと音を立てながらチンコを舐め始めた。
私はそんなおねぇちゃんの様子を伺いながらソッと顔をあげた。
ゴワゴワとした凶暴な陰毛がガンダムに出てくる悪役ロボットのように見えた。
よく見ると、そんな陰毛の中にはちらほらとトイレットペーパーのカスのような白いモノが見えた。
当時はまだ、ウォシュレットが普及していないそんな時代だったのだ。
おねぇちゃんは私のチンコを銜えたまま、「うぐぅ! うぐぅ!」と苦しそうに呻き始めた。
おねぇちゃんの指は、まるでソコを掻き回しているかのように乱暴に蠢いていた。
そんなおねぇちゃんの真っ白な指にはドロドロの白い液が絡み付き、そこから濃厚なチーズのようなニオイが時折漂って来た。
私はその突起物が女性の一番感じる部分だという事を知らなかった。
しかしおねぇちゃんの一連の指の動きを見ていれば、その突起物がイニシアチブを握っている事がなんとなくわかった。
私は、そんな突起物にソッと指を伸ばした。
そしておねぇちゃんの指が、穴の中をグリグリと掻き回しているのを見計らい、そのボタンをプチッと押して見た。
「はぁぁん!」
いきなりおねぇちゃんが遠吠えを上げた。
驚いた私は、おもわず「ごめんなさい!」と叫びながら手を引くと、おねぇちやんは「ヤダ! もっとグリグリして!」と、まるで玩具を取り上げられた幼児のように叫んだ。
私はいそいで突起物に指を押し付けた。そして、おねぇちゃんが言うように、そこをグリグリとしてやった。
おねぇちゃんは両膝を立て始め、まるで便器に跨がってウンコをするかのような姿勢になると、私の目の前でその穴を思いきり開いては、そこにヌポヌポと指をピストンさせた。
私は濃厚なチーズ臭に時折咽せながらも、その神秘の突起物をひたすらグリグリと捏ねくり回した。
「あぁぁん、あぁぁん、イク、イキそう!」
おねぇちゃんは私の顔にしゃがんだまま、そう叫び始めた。
そうなれば、やはりこの穴からも「ぴゅっ!」と白い液が飛び出すのだろうかと脅えながらも、私は必死で突起物をグリグリした。
すると突然、おねぇちゃんは今までとは声帯の違う「あぁぁぁん!」という甲高い悲鳴を上げた。
「イッちゃう! イッちゃう! あぁぁん、カズオォォ!」
おねぇちゃんは男の名前を叫びながら、私の下半身に激しくしがみついて来た。
腰がカクカクと痙攣し、突起物を捉えていた私の指も、ヌルッと横にズレてしまった。
幸い、「ぴゅっ」はなかったものの、しかし、おねぇちゃんはそのヌルヌルになった陰部を私の顔に押し付けて来た。
たちまち私の顔面はヌルヌルになり、そして強烈なチーズ臭が私の顔面を埋め尽くした。
私はそんな可愛いチーズ臭に包まれながら、おねぇちゃんの口の中で再び「ぴゅっ」をしたのであった。
おねぇちゃんは、私の口とチンコをクリネックスティッシュで綺麗に拭いてくれた。そして自分のアソコにティッシュを押し付けながら、恥ずかしそうに「ごめんね」と笑った。
私はそこで初めて強烈な恥ずかしさに包まれた。
それまでの高揚感と多幸感はすっかり消え失せ、代りに異常な嫌悪感と羞恥心が幼い私を襲った。
おねぇちゃんは丸めたティッシュをゴミ箱に捨てると、気怠そうに煙草に火を付けた。
そして私にチラッと視線を向けると,「吸う?」と聞いた。
私が静かに首を振ると、「おねぇちゃんがリョウちゃんの頃にはもう吸ってたよ」と笑った。
そしてそんな笑顔を私に向けたまま「おねぇちゃんが初めてセックスしたのもその頃だよ」と、白痴のような表情で「うふふふっ」と笑ったのだった。
私は、そんなおねぇちゃんの笑顔を不潔だと思った。
あれは射精後の嫌悪感というヤツだったのだろうか、私はおねぇちゃんのその仕草ひとつひとつが不潔に思え、そして無性にイライラした。
おねぇちゃんは、私が急に不機嫌になった事に気付くと、それまでの笑顔を引き攣らせながら「どうしたの?……」私の顔を覗き込んだ。
私はそんなおねぇちゃんの顔さえも見たくないと思い、「帰ります……」と呟きながら立ち上がった。
そのまま階段へスタスタと向かうと、戸惑うおねぇちゃんが「ねぇ」と私を呼び止めた。
私は階段に転がっていたロボダッチをジッと見つめたまま足を止めた。
「今度、『銀河鉄道999』の映画、連れてってあげよっか」
おねぇちゃんはそう言いながら八重歯を出して笑った。
私は足下のロボダッチをおもいきり階下へ蹴飛ばした。そして、無言のまま転がるロボダッチと一緒に階段を駆け下りたのだった。
その後、私はしばらくの間、上村の家には行けなかった。
上村とはいつものように学校で会っていたが、しかし、おねえちゃんと顔を合わす事に何か凄く気まずい思いがしたため、上村の家に行く事を避けていたのだ。
しかし、ある土曜日の放課後。
「銭湯の帰りにウチに寄りなよ。一緒に『全員集合』見ようよ」
上村はルービックキューブをカチカチと回しながらさりげなくそう言った。
すかさず私は「うん……」と曖昧な返事をし、ロッカーの上に転がっていた誰かのスーパーカー消しゴムを指で転がしながら必死に言い訳を考えた。
昨日はお母さんが病気だからと嘘をつき、その前は腹が痛いと嘘をついた。今回は何と嘘をつこうか……。
考えた挙げ句、仙台の親戚が来てるからと嘘をつこうと顔を上げた瞬間、上村がポツリと言った。
「大丈夫よ。もう、おねぇちゃんいないから」
上村は、私がおねぇちゃんを避けていた事に感づいていたのか、安心しろっといった表情を浮かべながら静かに笑った。
私は動揺した。
私がおねぇちゃんに会いたくなかったのは、単純に気恥ずかしさからであり、決しておねぇちゃんが嫌いだからというわけではない。いや、むしろ私はおねぇちゃんの事が好きで好きで堪らず、ここ毎晩のようにおねぇちゃんの事を思い出しながら手淫に耽っていたほどなのだ。
私はそんな動揺を悟られぬよう、わざとらしくスーパーカー消しゴムをジッと見つめながらポツリと聞いた。
「どうして」
すると上村はルービックキューブの回転を速めながら、「あのパンチ男が連れてった」と淋しそうに呟いた。
不意に廊下から「先生さよならぁ」という女子の声が響き、黒板の上のスピーカーから古ぼけた下校のメロディーが淋しく流れ出した。
「……あのパンチ男、嫌がるおねぇちゃんをまた殴ったんだ……おねぇちゃんは最後まで行きたくないって泣いてたんだけどね……」
私は一瞬耳を疑った。
おねぇちゃんはあのパンチパーマのカズオという男が好きだったはずなのである。
あの時も、私に「フラれちゃったの」と淋しそうな顔を見せてたし、それに、『ぴゅっ』をしてた時も、確かにおねぇちゃんはヤツの名前を叫んだはずだ。
なのに『行きたくない』ってのはどういう事なんだ……
私はおもわずスーパーカー消しゴムをブチッと引き千切りながら理解に苦しんだ。
すると、上村はそんな私にチラッと視線を向けながらボソボソッと呟き始めた。
「おねぇちゃんはゲンゲ坂で働いてたんだ……ウチの母ちゃんとは昔のパート仲間だったらしくてさぁ、それでウチに下宿してたんだけど……夜になるとゲンゲ坂に働きに行ってたんだ……」
上村はそう呟きながら再びルービックキューブを回し始めた。
「おねぇちゃん、ゲンゲ坂のお店から借金してたんだって。でも、その借金はおねぇちゃんのじゃなくて、あのパンチ男の借金だったんだ……だからおねぇちゃん、その店で働いて……」
上村はルービックキューブを回す手を速めた。それは、ただただ滅茶苦茶に回しているだけだった。
「おねぇちゃん、また別の店で働かされるんだってさ……今度はちゃんとお風呂がついてる店なんだぞって、パンチ男が威張ってたよ……おねぇちゃん、行きたくないって泣いてた……でも……でも……やっぱりあのパンチ男の事が好きだからって……一緒に出てっちゃった……」
静まり返った教室に上村が狂ったように回し続けるルービックキューブの音だけが病的に響いていた。
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三丁目の銭湯を出ると、湯上がりの頬を下町の生温かい風が優しく撫でた。
チェリオのオレンジをラッパ飲みしながら、私は上村の家に向かった。
路地の角にある時計屋の薄汚れた時計が7時50分を指していた。私はそんな時計を横目で見ながら、まだクイズダービーだから大丈夫、と自分に言い聞かせ、薄暗い路地をのんびりと進んだ。
スプレーの落書きだらけのブロック塀を進んで行くと、朽ち果てた垣根の隙間から野良猫がジッと私を見つめていた。
路地を抜けるとドブ臭い小道に出た。大きな用水路の手前に小さな坂があり、その小さな坂を皆はゲンゲ坂と呼んでいた。
夜のゲンゲ坂は、昼とは全く異なる色を発していた。
片側にズラリと並ぶスナックの赤や黄色の看板が、目の前のドブ臭い用水路の水面にキラキラと反射しては奇妙な美しさを醸し出していた。
「お兄さん、見てくだけ見てきなよ」
忙しなく団扇を扇ぐヤリ手婆が、店前のパイプ椅子に座ったまま作業服のおっさんに声を掛けた。
作業服のおっさんは面倒臭そうに足を止めると、下品な笑みを浮かべながら店の中をソッと覗いた。
どこからともなく小林幸子の『おもいで酒』が聞こえて来たかと思うと、別の方から布施明の『君は薔薇より美しい』が聞こえて来た。
私は飲みかけのチェリオを用水路の中に捨てた。ボコッという重たい音と共に、水に浮かんでいた赤や黄色の光りが不気味に揺れた。
「何やってんだよ坊主、そんなとこに小便すんじゃないよ」
その声に振り向くと、テラテラと光るシミーズを着た女が煙草を銜えたまま私を睨んでいた。
その女が、不意におねぇちゃんに見えた。
「してないよ」
私がそう呟くと、女は「じゃあ何でこんなとこにいんだよ……」と言いながら私の前にソッとしゃがみ、そのまま用水路の中に煙草を投げ捨てた。
「別に……」
そう答えながら目線を下げると、女のサンダルからはみ出す、真っ赤な爪が目に飛び込んで来た。
ペディキュアをされたその爪は全然綺麗じゃなく、むしろ妙な淋しさを感じさせた。
「誰か知り合いがココで働いてるのかい」
赤い爪の女はそう言いながら私を見上げた。
「…………」
「お母ちゃんかい?」
赤い爪の女は私を哀れむように見つめた。
私は首を振りながら、おもわずこう答えた。
「……おねぇちゃん……」
すると赤い爪の女は「おねぇちゃんか……」と、溜め息混じりに呟くと、「じゃあアタシが呼んで来たげるよ。名前は何て言うんだい」と微笑んだ。
私は、そこで初めておねぇちゃんの名前を知らなかった事に気付いた。
「いいよ……」
私はそう言いながらゆっくりと歩き出した。
「どうして?」
赤い爪の女の声が背後から聞こえた。
「もう、ここにはいないから……」
私はポツリと呟くとそのまま路地を走り出した。
赤や黄色やピンク色のネオンがぼんやりと灯る薄暗い路地。
そんな路地を走る私が、酔っぱらったサラリーマンの集団を追い抜くと、不意にドアが開けっぱなしの店内からテレビの音が聞こえた。
『8時だよ!』
そんないかりや長介の声は、私の足を更に速めたのであった。
(昭和少年破廉恥物語・完)
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