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吐泥(へろど)27

2013/06/13 Thu 00:01

 監獄のように狭いその部屋には、日本海特有のじっとりとした湿気がジメジメと漂っていた。白い壁はタバコのヤニでクリーム色に染まり、テレビの裏やベッドの下には、相も変わらず猫の毛玉のような埃の塊が溜まっていた。
 重たい遮光カーテンを開けると、一瞬、ツーンっとしたカビ臭が鼻を襲った。どうせ冬の間、結露を放置したままなのだろうと呆気にとられながらサッシを開けようとすると、案の定、そのサッシレールには黒カビがポツポツと広がり、窓枠のゴムパッキンは、干からびたミミズのようにヨレヨレになっていた。
 そんなサッシをガサガサと音立てながら開くと、ガスのように重たい潮風がモワッと部屋に入り込んできた。すぐ目の前には海が広がっていた。
 漆黒の闇の中で不規則な波の音が響いていた。国道沿いに並ぶオレンジの水銀灯に照らされた海はコールタールのように黒くうねり、そんな不気味な海を一人ぼんやりと見つめていると、不意に背後の浴室からボイラーの音が聞こえてきた。

 今から五分前、妻はこの部屋に入るなり、いきなり服を脱ぎ始めた。入口ドアを入ってすぐの通路でワンピースを脱ぎ捨て、そのまま私に振り向きもせず無言でバスルームに入っていった。
 そんな妻の慌てた様子に、ふと私は、妻はその不浄な部分を私に見られる前に、証拠隠滅してしまおうと思ったのではないかと勘ぐった。
 確かに、あの行為後、タクシーの車内には気まずい空気が漂っていた。誰も一言も口を開こうとはせず、ひたすら沈黙のままタクシーは走り続けた。ホテルに到着し、チェックインしている間もそうだった。妻は、まるで他人のように私を無視し、ロビーの隅の観葉植物の陰でジッと項垂れていた。エレベーターに乗っても私とは目を合わせようともせず、二人は無言のまま部屋に辿り着いたのだった。
 そして部屋に入るなり、妻は慌てて浴室に駆け込むわけだが、それは、必死に何かを隠そうとしている様子であり、明らかに不審な行動だった。恐らく妻は、陰部にネトネトと粘り着いている運転手の精液を、一刻も早く洗い流したかっただけだと思うが、しかし、服を脱いでいる時の妻には、浮気妻特有の背徳感がメラメラと漂っていたため、妄想癖のある私は、必要以上に勘ぐらずにはいられなかったのだった。

 浴室からボイラーの音が聞こえてきた事で、妻がシャワーを使い始めたと認識した。黒カビだらけのサッシを閉め、カビ臭い遮光カーテンを閉め、そのまま床のカーペットをサカサカと音立てながらクローゼットへと向かった。
 浴室から聞こえてくるシャワーの音に耳を澄ましながら、半開きのクローゼットをソッと覗いた。鉄パイプにぶら下がるハンガーの下に、妻の衣類が一塊になってドサっと置いてあった。黒いワンピースを摘み上げると、その中に包まっていたピンクのパンティーが、床の上にパサッと落ちた。

(いくらマンコを洗って証拠隠滅しようとしても、こんな物的証拠を残していては意味がないですよ奥さん……)

 私はそうニヤニヤ笑いながらパンティーを摘み上げた。そして推理小説の最後のページを開くかのように、恐る恐るパンティーを広げたのだった。

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 ぐっしょりと湿ったクロッチの中心に、一円玉ほどのゼリー状の液体があった。それはクロッチには染み込まず、まるで水晶のような形のままポツンっと溜まっていた。
 原型が崩れていない所から見て、これは妻がパンティーを脱ごうとした瞬間、緩んだ膣からトロっと垂れたものであると推測できた。それが妻の愛液なのか、はたまた運転手の精液なのかは定かではないが、しかし、その液体球に目を凝らしてみると、透明の液体の中に乳液のような白い濁りが渦を巻いているのが見え、となるとこの液体球は、妻の性器にぶっかけられた運転手の精液が、妻の陰部から滲み出た愛液の中に混じったものであると考えられた。
 カッと頭に血が上った。激しい嫉妬が異常な興奮を呼び起こし、ハァハァと息を漏らしながら、(妻の陰部に滴る他人男の精液)と、そう何度も頭の中で呟いていた。
 ふと気がつくと、私はそこに舌を伸ばしていた。だらりと伸ばした舌を小刻みに震わせながら、それを舐め取ろうとしていた。
 私は慌てて舌を引いた。この一粒の液体球は非常に貴重なものであり、勢いだけで一気に舐め取ってしまうのには、あまりにも勿体ないと思ったのだ。
 だから私は、取り敢えずそこに鼻を近づけた。犬のように鼻をクンクンとさせながら、その不浄な液体球の匂いを嗅いだ。そんなクロッチには、元々そこに染み付いていた妻の小便臭がダラダラと漂い、それに混じって、何やら消毒液のような異臭が微かに匂った。その異臭は妻のものではなかった。それは明らかに精液の匂いであり、センズリ後の丸めたティッシュの匂いによく似ていた。
 そんな淫らな匂いを嗅ぎながら、ズボンの中からペニスを引っ張り出した。そのギンギンに硬くなった肉棒を上下にシゴきながら、この液体を尿道にヌルヌルと擦りつけようか、それとも、チロチロと舐めながらその味をじっくり味わうべきかと悩んでいた。
 尿道に擦り付けるのは肉体的快楽で、味わうのは精神的快楽だった。異常興奮した今の私は一触即発だった。だからここで肉体的快楽を得るのは暴発する恐れがあったため、危険だと思った私は精神的快楽を選んで再びそこに舌を伸ばした。
 震える舌先がネトネトの液体球に触れた。まだそれはほんのりと生暖かかったため、舌先を上下に動かしていると、まるで妻のワレメを舐めているような錯覚にとらわれた。
 舌をゆっくりと戻そうとすると、舌先とクロッチの間に透明の糸が引いた。それがプツンっと千切れるなり、ペチャペチャと舌を鳴らしながらそれを味わった。汗のような、小便のような、そんなしょっぱい味だった。精液のような苦味はなかったが、しかし口内に残るその風味は、まさに栗の花そのものの嫌な香りだった。
 やはりこれは、妻の汁と運転手の汁が混じったものであると確信した。そう思えば思うほどに興奮が増し、あの運転手と二人して妻をガンガンと犯しまくっている妄想が次々に湧き出てきた。

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 脳をクラクラとさせながらペニスをシゴいていると、興奮のあまり私は、口内に溜まっていたその精液を、思わずゴクリと飲み込んでいた。もちろん精液を飲んだのは初めてだった。しかもそれは、愛する妻を性玩具のように弄んだ、本来、憎むべき相手である男の精液だった。
 それを飲み込んだ瞬間、強烈な屈辱感に襲われた。私は顔を歪めながら、ふと、あの時の妻も、やはり今の私と同じような屈辱に耐えていたのだろうかと思い、胸を激しく締め付けられた。
 不意に、脳裏にあの展望台での出来事が蘇ってきた。薄気味悪い店員の、あの恥垢だらけの汚れたペニスをしゃぶっている時の妻の姿が鮮明に浮かんできた。それと同時に、タクシー運転手に性器を弄られていた時の、あの羞恥に満ちた妻の横顔も浮かんできた。そして、大股開きで性器を舐められている時の妻の痛々しい喘ぎ声や、剥き出された性器に精液をぶっかけられている生々しい光景までもが、次々に脳裏に蘇ってきたのだった。
 そんな無残な記憶は更なる屈辱を私に与えた。屈辱に屈辱を重ねられ、己の惨めさと情けなさに胸を締め付けられた。
 が、しかし、私は異常者だった。普通の者なら、これほどの屈辱には耐え切れないだろうが、しかし私は違っていた。屈伏させられ、恥を受ければ受けるほどに快楽を得るという寝取られマゾヒストな私には、妻が他人男に陵辱されるというその屈辱は、性的興奮以外の何ものでもなかったのだ。
 そう考えると妻も同じだった。妻もマゾヒストだった。あの見ず知らずの小汚い男たちに性玩具にされながらも、密かに妻は悦びを感じていた。しかもその醜態を、旦那の私に見られる事で更に快楽を得ていたのだ。
 やはり私達夫婦は異常だった。お互いに羞恥や屈辱をエロスに変えてしまう変態だった。
 そう思うと、そんな妻が急に切なく思えた。私のような変質者と結婚したせいで、ドロドロのヘドロの中に引きずり込まれてしまった妻が切なくて切なくて堪らなくなった。
 しかし、私にとっては、そんな切なさもまた興奮材料の一つだった。切なさに胸を締め付けられた私は、すかさずペニスにパンティーを被せた。汚れたクロッチが尿道に当たるよう調節しながら、パンティーに包んだペニスをゴシゴシとシゴき始めたのだった。

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 はっと気が付き顔を上げると、私のすぐ目の前に黒々とした陰毛がふわふわと浮いていた。いつの間にドアを開けたのか、モワモワと湯気が立ち上る浴室に妻が立っていた。
 私はすぐにでも妻の股間に顔を埋め、その洗いたての小陰唇にベロベロと舌を這わせたかった。が、しかし、私は一瞬にしてそれを躊躇った。なぜなら、そんな私を見下ろしている妻のその表情はゾッとするほどに冷たく、まるで親の仇を見るような目をしていたからだった。
 咄嗟に私はマズイと思った。せっかくここまで妻を調教してきたというのに、あと一歩というところで、淫らな魔物をシャワーで洗い流されてしまったのだ。
 焦った私は、慌てて妻の尻に両手を伸ばした。両手で尻肉を支えながら、水滴が滴る下半身を静かに引き寄せ、安物のボディーソープの香りが漂う陰毛に唇を埋めた。
 ムホムホと唸りながら唇に陰毛をジャリジャリさせていると、不意に頭上から「もういや……」という妻の声が聞こえてきた。陰毛に顔を埋めながら「えっ?」と視線だけを上に向けると、いきなり妻は腰を引き、尻を押さえていた私の手からすり抜けて行ってしまったのだった。
 その体勢のまま呆然と固まっている私を無視し、妻はさっさと新しい下着に履き替えた。白い紐パンに包まれた尻をプリプリさせながら、ベッドの上に置いてあった浴衣を広げた。

「怒ってるのか?……」

 恐る恐るそう聞くと、妻は私を無視しながら、糊でバリバリになった浴衣をメシメシと羽織った。そしてあたかも私に、(もう終わりよ)と告げるかのようにその帯を頑丈に締めると、「怒ってない……疲れただけ……」と呟き、そそくさとベッドの中に潜り込んでしまったのだった。

 私はゆっくりと起き上がった。未だペニスを包んだままのパンティーをソッと剝ぎ、それをクローゼットの棚にポンッと投げ捨てると、身動き一つしないまま布団に包まっている妻の背中を見つめながら、ベッド横にあるドレッサー兼用のテーブルに腰掛けた。

(せっかくあそこまで妻をその気にさせたのに……)

 そう歯軋りする私は、妻にシャワーというインターバルを与えてしまった事を悔やんでいた。やはり、あのままあの運転手をホテルに連れ込み、サウナに潜入できる深夜0時まで引っ張るべきだったと、激しい後悔の念に駆られていた。
 しかし、ここで諦めたら全てが終わってしまう。そう思った私は、今からでもまだ遅くないと自分に言い聞かせ、その糸口を必死に探った。
 布団に包まる妻の背中を見つめながら、妻の体はまだ火照っているはずだと自分に暗示をかけた。他人男にあれだけ卑猥に弄ばれながらも、たったの三擦りで終わってしまったセックスで満足出来るはずがない。いや、逆にその三擦りのセックスによって興奮は更に高まり、それが今、どす黒い欲求不満となって妻の陰部をジクジクと疼かせているに違いないと、私は強引にそう思い込んでいた。

 ソッとタバコを唇に挟みながらサイドボードのデジタル時計を見た。緑色の数字が、2、0、5、5、と浮かんでいた。サウナ潜入まで、あと三時間とちょっとしかなかった。とりあえずサウナへ行き、今夜妻をサウナに潜入させる事を、あのネズミ男に伝えておかなければならなかった。
 しかし、この状態で妻をここに置いていくのは危険だった。このまま放置しておけば、妻は本当に寝てしまう可能性があった。寝るというのはシャワーを浴びるよりも気分をリセットさせてしまうものだった。だからここで妻を寝させてしまえば、これまで積み重ねてきた妻の変態性欲は完全に消去されてしまい、そんな寝起きの妻を男性サウナに連れ込む事など、絶対に不可能となるのだった。

 とにかく、今の妻に少しでも残っているヘドロを保持させなくてはならなかった。ヘドロと言うのは、そこに少しでも残ってさえいれば、悪性腫瘍の如く増殖して行くものだった。だからその少量のヘドロを殺してしまわないよう保持しておけば、妻を男性サウナに連れ込める可能性は大いにあるのだ。
 そんなヘドロを保持させるには、妻を一睡も寝かさないようにさせなければならなかった。しかもその間、それなりの性的刺激を与え続けておかなければならなかった。

(どうやって妻に刺激を与えておくか……)

 私は百円ライターを指の中で転がしながら考えた。少なくとも私がサウナに行ってネズミ男と打ち合わせをしている間だけでも、なんとかして妻のヘドロを生かしておかなければならないのだ。
 そう考えていると、ふと、テレビボードの隅に立て掛けてあった、『有料アダルトチャンネル』という広告が目に飛び込んできた。私は吸いかけていたタバコを再び箱の中に戻した。そしてサイドボードに手を伸ばし、テレビのリモコンを手繰り寄せると、テレビのスイッチを押した。
 3チャンネルに入れると、いきなりバコバコとセックスしている映像が飛び出した。驚いた私は、親に内緒でこっそり深夜放送を見ようとしている昭和の少年のように、慌てて消音スイッチを押した。
 しかしそれはサンプル映像だったらしく、三十秒ほどで消えてしまった。一瞬暗くなった画面には早速メニューが映し出された。様々なジャンルに分かれていたが、リアル感を妻に与えようと思い『素人投稿モノ』を選んだ。
 そこから更にジャンルが絞られていた。痴女、人妻、オナニー、野外露出、援交、巨乳、SM、というお決まりのジャンルの中から『乱交』を選び、これから妻が男性サウナで繰り広げようとしているプレイに最も近いタイトルを探し求めた。
 すると、公序良俗に反したタイトルがズラリと並んでいる中、『成人映画館の肉便器妻』という、今まさに私が求めているタイトルを発見した。
 それは、四十分モノで五百八十円もした。恐らく、ネットのエロ動画サイトなら無料で見られる程度の作品だろうが、しかし、今の私には十倍の五千八百円を支払っても惜しくなかった。
 購入ボタンを押すと、いきなり映画館の闇の中でポツンと座っている女が画面に現れた。周囲は薄暗く、顔にはアイマスクがかけられていたため、女の顔立ちや年齢はわからなかったが、しかし、その垢抜けない髪型や地味な服装には、本物の変態人妻らしさが漂っていた。
 目隠しされた女は、ジッと俯きながらスクリーンに反射する光に照らされていた。暫くすると、前後左右の闇から、見るからに下級層な男たちが一人二人と忍び寄り、女はあっという間に取り囲まれてしまった。
 闇の中から次々に無数の手が現れた。その手は、一匹のシマウマに群がるハイエナのように荒々しく、目隠しをされた中年女は、たちまち髪を振り乱して悶え始めた。
 女の履き古した下着が妙にリアルだった。カメラを意識しながら恐る恐る触っている男たちも本物っぽかった。画像は悪かった。しかし、その分モザイクは薄く、濡れた陰部の艶までもがはっきりとわかった。

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 これだからインディーズ系のエロビデオは良かった。人物や背景やストーリーなど一切無視し、いきなりおっぱじめる所が、回りくどくなくて好きだった。
 これならいける。そう確信した私は消音ボタンをもう一度押した。ハァハァと悶える女の卑猥な呼吸と、男たちの下卑た笑い声が静まり返っていた部屋に響いた。それでも妻の体は身動き一つしなかったが、しかし、布団に包まりながら耳を澄まし、ジッと息を潜めている様子はひしひしと伝わってきた。
 そんな妻を見下ろしながら、バッグの中からローターを取り出すと、同時にドレッサーの前に置いてあったティッシュを一枚抜き取った。そのティッシュの端を小指の爪ほどに千切り、それをローターのスイッチの隙間にソッと差し込んだ。こうしておけば、妻がローターを使ったかどうかがわかるのだ。
 それを持って、妻が寝ている側のベッドの隙間に向かった。そして妻の顔の前でゆっくりとしゃがむと、そのトラップが仕込まれたローターを、これ見よがしに妻の枕元に置いた。
 布団の中で胎児のように丸まっていた妻は、一瞬チラッとそれを見たが、しかし、何も興味を示さないまま再び目を閉じた。
 そんな妻の耳元に、「ここの地下にサウナがあるらしいから、ちょっと行ってくるよ」と囁いた。妻は布団に包まったまま無言でコクンっと頷いた。
 静かに立ち上がり、足音を立てずにドアへと進んだ。クローゼットの前でソッと振り返ると、白い布団に包まる妻の膨らみが、ふと繭に包まるカイコに見えた。

 画面の中の中年女は、いつの間にか全裸にされていた。ひっくり返ったカエルのように股を開かされ、その剥き出した股間には、労務者風の薄汚い男がすっぽんのように吸い付いていた。
 ベロベロと動き回る男の舌に、中年女が「あぁーあぁー」と痛々しい声を上げ始めた。すると、それを見下ろしていた男たちが一斉にジャンケンを始めた。
 そんな残酷なビデオを垂れ流しにしたまま部屋を出た。通路を歩く私のペニスは痛いくらいに勃起していた。我慢できなくなった私は、エレベーターに乗り込むなり、ズボンの中からペニスを引きずり出した。そして、映画館で全裸にされながら、見知らぬ男に陰部を舐められている妻の姿を妄想しては、我慢汁が溢れるペニスを上下にシゴいたのだった。

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(つづく)

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