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吐泥(へろど)7

2013/06/13 Thu 00:01

 スマホのアラーム音にびっくり仰天した。
 緊急地震速報の受信音によく似たアラーム音には一向に慣れることができなかった。だから私の心臓は、毎朝目覚めと共に激しく鼓動していた。だったらアラーム音を変えればいいじゃない、と妻は言ったが、しかし、音を変えたら今度は起きられないのではないかという不安に駆られ、結局この二年間、毎朝私はそのアラーム音に仰天し続けている。

 バサッと起き上がると、急いでサイドテーブルの上のスマホを鷲掴みし、その忌々しいアラームを止めた。テレビのスイッチを入れ、再びベッドにドスンッと崩れ落ちると、眠い、寝たい、眠い、寝たい、と頭の中で繰り返しながら、必要以上にフカフカなホテルの枕に頭部を埋めた。
 テレビから『めざましジャンケン』が聞こえてきた。
 私の朝の楽しみは、『めざまし』のカトパンを見ながら朝立ちした陰部を弄る事だった。全裸で四つん這いになったカトパンが、三宅アナにクタクタと指マンされながらシャーシャーと潮を吹き、そうされながらも、あのポッテリとした唇で軽部アナの巨大な包茎ペニスにしゃぶりついては悶えているといった、そんな妄想と共にカトパンを楽しんでいた。
 しかし、そんなカトパンが突然『めざまし』から姿を消した。
 だから私は、さっそくNHKの『おかさんといっしょ』に乗り換え、たくみお姉さんの見事な美脚にシコシコとよからぬ妄想を抱いていたのだが、しかし不運にも、そのたくみお姉さんも、この春『おかさんといっしょ』を卒業してしまい、朝の私の楽しみは尽く潰されてしまったのだった。

 漁業組合には十時に伺う事になっていた。まだ三時間近くも時間があった。
 煙草で黄ばんだ天井を見つめながら微睡んでいると、寝惚けた脳に昨夜の記憶がぼんやりと浮かんできた。
 あれは夢だったのだろうか?
 そう思いながら記憶を辿っていくと、次第にサウナ室の汗臭さやナイター中継の篭った音、専務のペニスをしゃぶる熊の姿や、私の精液を口で受け止めるナマズの顔などが鮮明に蘇ってきた。
 快感と不快感が交互に襲ってきた。あの状況で、妻になりきって射精したのは今までにない快楽だったが、しかし元々男に興味がないせいか、あの男たちのスネ毛や吹き出物だらけの尻を思い出す度に怒りと吐き気を覚えた。
 そんな複雑な心境で勃起したペニスを弄っていると、ふと、もしあのまま、妻になりきった私が本当に彼らをこの部屋に招いていたらどうなっていただろうかと、そのおぞましい光景をリアルに想像してしまった。
 するとその想像は、いつしか妻があの醜い男たちに無残に嬲られているシーンへと変わった。四つん這いにされた妻が、開脚前屈の男に巨大な肉棒をズボズボとピストンされていた。そして同時にナマズ男の肉棒を咥えさせられながらウグウグと唸っていた。
 そんな妻の陰部はドロドロに濡れていた。妻の汁によってその結合部分がブチャブチャといやらしい音を奏でいた。
 妻は後ろめたそうな目で私をジッと見ていた。それはあの時と同じ目だった。そんな目で私を見つめながら、妻は密かに何度も絶頂に達していたのだった。

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 気がつくと、私は発情した男子学生のようにペニスをしごきまくっていた。そう気づいた時には既にイキそうになっており、このまま掛け布団の裏側に発射してしまおうかどうしようかと悩みながら、その手の動きと快感を微調整していたのだった。

 しばらく考えた後、私はある決心をした。今からもう一度あのサウナへ行きそこで射精しよう、と。
 一触即発の肉棒からパッと手を離し、その手でスマホを掴んだ。サウナの営業時間を調べようと思い、グーグルで『新潟 サウナキング』と検索すると、『温泉情報ガルバー』というサイトがトップに表示された。そこには施設情報とアクセスと口コミが書かれていた。
 サウナキングは二十四時間営業だった。入浴料は千八百円で、零時を過ぎると深夜料金となり二千五百円に跳ね上がっていた。口コミは一件だけだった。タイトルには「キモい!」と書かれ、コメントには「最悪です」とだけ書かれていた。当然、星はひとつだった。
 この口コミを書いた人は、きっと至って正常な人だったんだろうなと思いながらスマホを閉じようとすると、ズラリと並んだ検索結果の中に『ハッテン場』という文字を見つけ、不意に指が止まった。
 それは、『ミーコとケンヤの全国露出旅』というブログだった。露出趣味のあるカップルが全国を露出しながら旅するという実に馬鹿げた内容で、その中の『まさかのハッテン場に潜入!』という記事にサウナキングのことが書かれていた。
 記事には、『さすがは信越最大のハッテン場です、男性専用サウナなのに女性の私でも普通に入場させてくれました』と書いてあり、その女が見知らぬ一般の客と性器の洗い合いをしている画像がアップされていた。

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 その画像に強烈な衝撃を受けた私は、もしそれが本当に可能であるのなら、昨夜私が抱いていた変態願望も夢ではないと鼻息を荒くした。
 それを確かめようと、私は早々とベッドから飛び起きた。プラスチック棒のルームキーを鷲掴みにし、乱れた浴衣を整えながら部屋のドアを開けると、静まり返った朝の廊下にスタスタとスリッパの音を鳴らしたのだった。

 エレベーターを降りると、早朝だというのにボイラーの音が響いていた。こんな時間にも客がいるのだろうかと思いながら恐る恐る自動ドアを開けると、赤い絨毯の通路に掃除機を持ったおばさんが立っていた。
 カウンターに昨夜の親父の姿はなかった。掃除のおばさんが、「ホテルのお客さんだね」と確認しながら面倒臭そうにカウンターにやってきた。  
 あの親父になら、本当にこのサウナであのブログのような出来事が可能なのかどうか確認できそうだったが、しかし、さすがにこのおばさんにはそれを確認することはできないと思った。
 私は小さく舌打ちしながらルームキーをカウンターの上に置いた。五十を過ぎたおばさんはそれを素早くカウンター裏の木箱に落とすと、馬のような出っ歯を剥き出しにしながら、「浴場は八時から掃除に入るからサウナはストップだよ」と呟いた。

 浴場には数人の先客がいた。昨夜は先客達のいやらしい視線を痛いほどに感じたが、しかし今朝は私をそんな目で見る者は一人もいなかった。
 見るからにノーマルな人達ばかりだった。恐らく彼らは、ここがどんな所なのか何も知らないホテルの宿泊客だろう。
 そんな先客を横目に、私は昨夜と同じ洗い場に腰を下ろした。白いボディーソープを手の平にピュッピュッとプッシュすると、不意に、あの男の精液を手の平に吐き出していた妻の姿を思い出した。
 途端にムラムラと欲情した私は、手の平に溜まったボディーソープを身体中に塗りたくった。既にビンビンに反り立っていたペニスにも、それをゆっくりと塗り込んだ。
 背後の洗い場では二人の男が体を洗っていた。その男たちを鏡で観察しながら腰を浮かし、股の裏に手の平を滑り込ませた。
 男性サウナの洗い場で変態男たちに尻を嬲られている妻。
 そんな設定で妻になりきった私は、背後の男たちに向けてソッと尻肉を開いた。剥き出された肛門に指腹をヌルヌルと滑らせながら、「やめて下さい」と妻の声真似をして呟いてみると、男たちのヌルヌルした指の動きにジッと耐えている妻の姿がリアルに浮かんできた。
 
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 そんな妄想にクラクラと目眩を感じながらペニスをシゴきまくった。ボディーソープがくちゃくちゃといやらしい音を立て、背後の男たちに気付かれるのではないかとヒヤヒヤしながらシゴきまくっていた。
 妄想の中では、変態男たちが代わる代わる妻に精液をかけていた。顔、胸、背中、尻。その屈辱的な液体を全身に吹きかけられながらも、それでも妻はジッと耐えていた。
 しかし私は知っていた。妻は密かにそんな陵辱に悦びを感じている事を。
 あの時もそうだった。あのラブホテルの赤いソファーの上で、見ず知らずの単独男にユッサユッサと体を揺さぶられていた時もそうだった。
 あの時妻は、それを黙って観察していた私に、「もうイヤ」と呟いた。しかし私がトイレに行くふりをして、こっそりクローゼットの隅から覗いていると、妻は自らの意思でキスを迫り、その見ず知らずの薄汚い中年男の舌に激しく舌を絡めながら、自ら腰を振りまくっていた。

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 妻はそんな女なのだ。元々は性には疎い純粋な女だったが、しかし夫の私が異常性欲者だったため、知らず識らずのうちにそこまで開発されてしまっていたのだ。
 そんな妻の内面に隠された変態性欲を思い出しながら、更に激しくペニスをシゴいていると不意に真正面にある扉がギィッと開いた。
 扉の向こうから出てきたのはさっきの掃除のおばさんだった。勃起したペニスをシゴいている私の姿をいきなり真正面から見せつけられたおばさんは、たちまちデッキブラシを片手に持ったままその場に固まってしまった。
 それでも私は行為を続けた。わざとおばさんに見せつけるようにしながら、大きく股を開いてシゴいて見せた。
 ソッとおばさんの顔を見てみると、おばさんはギュっと顔を顰めながら、まるで生ゴミに湧いたウジ虫を見るような目で私を見ていた。
 そんなおばさんの冷たい視線が更に私の異常性欲を刺激した。堪らず私はおばさんに向かって「出ます……見ててください……」と呟くと、尿道から勢いよく噴き出した真っ白な精液を、目の前に置いてあったアロエのボディーソープのペットボトルにぶっかけたのだった。

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 浴場を出ると、腰にバスタオルを巻いたまま休憩室へと向かった。寝ているうちに溜まった精液を吐き出した私の足取りは妙に軽かった。
『とくダネ』が垂れ流しにされている無人の休憩室で無料のミネラルウォーターを一気に飲み干した。その紙コップを屑篭に捨てると同時に、腰に巻いたバスタオルを脱衣カゴに投げ捨て、そのままロッカー室へと向かった。
 浴衣を羽織って暗幕カーテンを開けると、フロントには昨夜のネズミ男の姿があった。
 ネズミ男は、カウンターに寄りかかりながら『スッキリ』を見ていた。私に気付くと、テレビをジッと見たまま「こいつは悪い奴だよ」と独り言のように呟きながら、私のルームキーを木箱から取り出した。
 そんなテレビに映っていたのはトトロのような顔をした太った中年男だった。画面のテロップには『知的障害のある女性ばかりを狙った犯行』と表示されていた。
 話のきっかけを作るチャンスだと思った私は、「何やったんですかコイツ」と言いながらテレビを覗くと、ネズミ男はなぜか自慢げに、「障害者をヤっちゃったらしいよ」と答えた。

「そんな女とヤって楽しいんですかね……」

 私はそう呟きながらルームキーを摘んだ。

「楽しいんだろうね。世の中には変な趣味な奴がいっぱいいますからね」

 そう苦笑いするネズミ男を、「ところで……」と横目で見つつ、私は玄関に並べてあったホテルのスリッパを履きながら、「このサウナって女性でも入れるんですか?」と単刀直入に聞いてみた。
 ネズミ男は、「え?」と私の顔を見た。
 私は手に持っていたスマホを見せつけながら、「いえね、さっきこのサウナの営業時間を調べたくてネットを見てたら、女性がこのサウナに入ってるブログを見つけましてね……」と、唇の端をいやらしく歪ませた。
 一瞬、ネズミ男の目が鋭くなった。私はカウンターに身を乗り出した。そしてネズミ男の耳元に、「私もそっちの趣味があるんです。ですから——」と声を潜めると、ネズミ男は微かに右眉を吊り上げながら「知らないねぇ……」と小さく頷いた。
 それでも私は、更に「いや、ですから、このブログに……」と言いながら、さっきのブログを開こうとすると、ネズミ男は私を無視するかのように再びテレビに目をやった。そしてその蛭子能収のような顔をした犯人を見つめながら、「こいつは本物の悪党だよ……」と呟いたのだった。

(つづく)

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