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ストレス5

2013/05/30 Thu 18:10

ストレス5




 今年で四十五才を迎える昭夫は、これまでに二度の離婚を経験していた。一度目は三十才の時に離婚し、二度目は三十八才で離婚していた。

 一度目の結婚の時は、昭夫は、名古屋と東京を行ったり来たりする長距離トラックの運転手をしていた。昭夫が家に帰れるのは週に二、三度しかなかった。
 一度目の離婚の原因はDVだった。人一倍猜疑心の強い昭夫がDVに走ったのは、自分が留守にしている間に妻が浮気をしているのではないかという不安に常に駆られていたからだった。
 そんな猜疑心は、ある時、久しぶりに自宅に帰って来た昭夫が妻を抱いた際、妻が今までに無い異様な乱れかたをした事から始まった。その時の妻の乱れようは尋常ではなく、まるでAV女優のようだったのだ。
 すぐさま昭夫は妻を疑った。今まで貞淑だった妻がいきなり豹変したのは、きっとどこかの間男にセックスを教え込まれたからに違いないと思い込んだ。
 実際、その時の妻は、間男に教育されたわけでもなければ、浮気をしていたわけでもなかった。ただ単に、久しぶりの肉棒に理性を失ってしまっただけの事だった。
 しかし、猜疑心が人一倍強い昭夫にはそれが通用しなかった。きっと妻は誰かに調教されているに違いないという妄想に駆られ、激しい嫉妬心に狂わされた。
 それからというもの昭夫は、妻を抱く度に、「その男にこうされたのか? どうされたんだ、言ってみろ」と詰問するようになった。妻を乱暴に犯しながら髪を引っ張り、そしてその顔に唾を吐きかけた。泣き叫ぶ妻をタオルで縛り、容赦なく頬を引っ叩き、失禁するまで首を絞めた。
 そんな暴行の結果、妻は逃げ出した。一度目の結婚は、たったの数年で離婚となったのだった。

 二度目の離婚も、やはり原因はDVだった。そのパターンは一度目と全く同じで、長距離の仕事を終えて自宅に帰る度に昭夫は妻に浮気を疑い、暴行を加えていたのだった。
 しかしそれは、同じ暴行であっても一度目の妻の時とは趣旨が違っていた。一度目の妻の時は、裏切られたという腹いせに暴行を加えていただけだったが、しかし、二度目の妻の暴行には、その浮気相手を白状させるという目的と、二度と同じ過ちを犯さないようにさせるという懲罰的な意味合いが含まれていた。
 そんな暴行は次第にエスカレートし、もはや拷問となっていた。そんな拷問は、いつもラブホテルの一室で行なわれていた。二度目の妻との間には子供がいた為、近所のラブホテルを使っていたのだ。
 そのラブホテルにはSMの部屋があり、そこであらゆる器具を使って拷問した。嫌がる妻を縄で縛り、天井に設置された滑車でガラガラと吊り上げた。
 今まで緊縛などした事がなかったため、ソレ系のAVを参考にしながら、見よう見まねでやっていたが、しかし、いつも仕事で積荷の梱包作業をしているため元々ロープの扱いには慣れており、その緊縛はそれなりに様になっていた。
 天井にぶら下げられた妻は、全身にミシミシと食い込む縄に悲鳴を上げていた。そんな妻の尻を、蝿叩きのような鞭で叩きながら昭夫は恫喝した。

「俺がいない間に誰とヤった。高校時代に付き合っていたあの不良か、それともスナックでバイトしてた時の常連親父か。いったい誰なんだ、素直に白状しろこのヤリマン糞女!」

 昭夫は勝手にそう妄想しながらも、同時にそれをリアルに想像しては勝手に欲情していた。自分の所有物である妻が、自分の知らない所で他人に自由にされている悲惨な光景を思い浮かべると、凄まじい嫉妬と共に歪んだ性欲がむらむらと沸き上がってくるのだ。
 だから昭夫は、そんな拷問の最中は常に勃起していた。浮気を否定しながら号泣する妻をベッドに寝かせ、頬が真っ赤に腫れ上がるまで叩きながらヤる残虐なセックスに、昭夫は完全に陶酔していたのだった。

「ヤったんだろ、他の男にこうしてズブズブされたんだろ、どっちなんだ、ヤったんだろ、気持ち良かったんだろ、正直に言え、ヤったんだろ、ヤったんだろ」

 そうブツブツと呟きながら、号泣する妻を叩き、その股間にコキコキと腰を振りまくる。そして昭夫は現実と妄想を行ったり来たりしながら凄まじい快楽に包まれ、嫉妬に狂いながら果てるのであった。
 一度射精してしまえば、そんな妄想は昭夫の頭からスッキリと消え去ってくれた。しかし、それで昭夫はスッキリできても、妻にして見たら堪ったものではなかった。ソレ系の性癖が全くなかった妻には、そんな昭夫の狂った妄想や痛いだけのSM行為は、梅雨時期にキッチンの三角コーナーに集る小蝿ほどに鬱陶しく、そして嫌悪だった。
 だから妻は子供を連れて逃げ出した。このままではこの男の性欲の餌食とされ人生が滅茶苦茶にされてしまうと思った妻は、昭夫がトラックを走らせている隙に荷物をまとめ、判をついた離婚届と、「さよなら」とひとこと書いた置き手紙を残して逃げ出したのだった。

 翌日、積荷のマスクメロンをこっそり荷抜きした昭夫は、それを手土産に帰って来た。もぬけの殻となった自宅を見て愕然とした。そして置き手紙を見て怒りが彷彿した。

(男と逃げやがった……)

 嫉妬に狂った昭夫は、三日三晩飯も食わずに家に籠った。心当たりのある男たちに電話を掛けまくり、手当り次第に「殺すぞ」と叫びまくり、そして疲れてくると、そのままフローリングの上にゴロリと横になっては、妻が他人の男に犯されている姿を悶々と想像しながらオナニーを繰り返した。
 そんなどん底を蠢いていたある時、運転手仲間の加藤が、寿がきやの『みそ煮込みうどん』を段ボールごと持って尋ねて来た。
 昭夫は加藤に事の顛末を語った。妻に性的拷問を加えていた事実は避け、妻が男と逃げたという妄想だけを語った。
 加藤は、「俺たちの業界ではよくある事だよ」と慰めてくれた。そして、突然煙草の箱の中から小さなパケに入った覚醒剤を取り出し、「ま、これで気分転換しろよ」と、それをコタツの上に投げたのだった。
 長距離トラックの運転手で覚醒剤を打っているヤツは少なくなかった。昭夫も若い頃は覚醒剤をやっており、覚醒剤に頼りながら名古屋〜東京間をしゃかりきになってぶっ飛ばしていたくちだった。
 昭夫は、地獄に仏とばかりに覚醒剤に飛びついた。久々のシャブは脳味噌を心地良く溶かし、嫌な事も全て幸福に変えてくれたのだった。
 その日から加藤は、定期的に昭夫の家に訪れるようになった。その度にパケに入った覚醒剤を売りつけて行くため、もはや昭夫の魂はあっちの世界で浮遊していた。
 バルコニーに放置された生ゴミに集る蝿が妖精に見えた。便器にこびり付く糞が前衛的なアートのように目に映り、カァカァと泣き叫ぶカラスの声が「がんばれ、がんばれ」とエールを送ってくれているように聞こえた。それは、まさにリアルなジブリの世界だった。料金所のおっさんがトトロに見え、東名を走るトラックは猫バスの如くおもしろいようにぶっ飛ばす事ができた。
 しかし、半年もそれを続けていると、いつしかそんなジブリの世界もネタが切れ、楽園のように楽しかった幻覚が貪よりと暗いものに変化した。料金所のおっさんはムンクの叫びに変わり、東名を走っている間は常にパトカーに追われている恐怖を感じていた。
 ジリジリと現実に引き戻された昭夫は緊迫していた。常に目玉がギラギラと輝いていた。もはや覚醒剤で現実逃避はできなくなり、その反動は今まで以上の苦しみを与えて来た。
 再び嫉妬と怒りに襲われた。俺がこうなったのも全てあいつが浮気したからだと、今更になって元妻を恨み、ついでに安倍首相も恨んだ。
 そんなある時、深夜の名神高速を走っていると、突然、電源を切っていたはずの無線機からモールス信号が聞こえて来た。もちろんそれは幻聴だった。昭夫にモールス信号など解読できなかったが、しかしその時の昭夫にはそれが、「今すぐ妻を殺せ」と聞こえたのだった。
 ハンドルを握る昭夫の頭に、一昨年癌で死んだ親父と微かに覚えている祖父の顔が浮かんだ。きっとこれは御先祖様が霊界から送って来ているメッセージだと本気で思った。
 対向車線を流れるヘッドライトを見つめながら、一刻も早く妻を殺さなければ家系が途切れてしまうと焦った。これは、長男である自分がケジメを付けなければならない事だと激しい使命感に駆られた。
 急遽、養老サービスエリアに滑り込んだ。妻を殺さなければ、妻を殺さなければ、と呟きながら積荷のホウレン草を次々に駐車場に投げ捨て始めた。
 すると、それを見ていたガソリンスタンドの従業員が、「あんた何やってんだ」と注意した。いきなり昭夫は「おまえか!」と激高した。そして、慌てて運転席に乗り込むと、「妻を返せ!」と叫びながらトラックでその従業員を追い回し、ひき殺そうとした。奇しくもその日は、広域重要指定113号事件の勝田清考がそこで発砲した日と同じだった。三十三年前のこの日、連続殺人犯の勝田清考は、その同じガソリンスタンドの店員に拳銃を発射し、重傷を負わせていたのだった。

 意味不明な奇声を上げながら養老サービスエリアを出ると、昭夫はそのまま妻の実家のある西春町へと向かった。高速を下り、途中のホームセンターで二千六百円の出刃包丁を買い、そのホームセンターの駐車場でいつもより倍の量の覚醒剤を打った。強烈な朝日が運転席を照らしていた。握りしめていた出刃包丁がギラギラと輝き、まるでドラゴンボールの孫悟空が『かめはめ波』を発する時のような光りに見えた。その光りにブルブルッと身震いした昭夫は、自分は超人的なパワーを得たと思い込んだのだった。
 コメダ珈琲の看板を右折して細い路地に入った。路地の端には登校中の小学生の黄色い帽子がズラリと並んでいたが、かまわず七十キロでぶっ飛ばした。見覚えのある妻の実家を見つけると、そのままブロック塀に突っ込んだ。
 出刃包丁を片手に、「ぶっ殺してやる」と叫びながら運転席から飛び降りた。ぐしゃぐしゃに壊れた玄関から実家に突入し、「和恵はどこだ!」っと叫びながら廊下を進んで行くと、階段の下でパジャマ姿の元義父が腰を抜かしていた。元義父は昭夫を見上げたまま「ああ」っと小声で顎を震わせた。元義父のその目には、今まで散々昭夫を見下して来た威圧感はなく、恐怖だけが浮かんでいた。その目を見た瞬間、(勝った)と思った昭夫は、元義父の顔めがけて包丁を振り下ろし、額をざっくりと割った。
 吹き出した鮮血を全身に浴びながら奥へ進むと、ピンクのネグリジェを着た元義母が台所の前で愕然と立ちすくんでいた。ガス台の上では黄金色の鍋がグツグツと音を立てていた。沸騰した湯の中では煮干しが泳ぎ、乱切りのジャガイモがゴロゴロと転がり回っていた。「死にたくなかったら娘の居場所を教えろ」と血まみれの包丁を突き付けると、元義母も、やはり元義父と同じように「ああ」と小声で唸り、そのまま床にべたりと尻餅をついた。和恵はどこにいるんだと怒鳴りながら太ももを蹴飛ばすと、元義母は、声にならない悲鳴をあげながら背後の冷蔵庫にしがみついた。
 そんな元義母は失禁していた。六十を過ぎたババアだったが、昭夫はそのピンクのネグリジェの奥からジワジワと床に広がる尿に、異常な興奮を覚えた。

(この糞ババアの失禁中のマンコにチンコを入れてみたい)

 咄嗟にそう思った昭夫は慌ててズボンを脱いだ。ペニスは狂ったように勃起していた。それは、あのホームセンターの駐車場でパワーを貰ってから、ずっと立ちっぱなしだった。
 半狂乱となった元義母を床に押し付け、尿でびしょびしょに濡れたパンツを引き千切った。大きな尻が床にドテッと落ちると、ブヨブヨの下腹部がボヨンっと波打ち、哀れさと醜さが倍増した。
 暴れまくる太ももを押さえつけ、強引に股間に潜り込んだ。無我夢中で腰を振りながら、尿でベタベタに濡れた剛毛にペニスを打ち付けていると、何度目かで亀頭が穴にヌルっと滑り込んだ。
 愛液で濡れていない穴は強烈なシマリだった。そんな穴に肉棒をメリメリとピストンさせながら廊下を見ると、額を割られた元義父がフラフラしながら玄関を出て行くのが見えた。
 床に仰け反る元義母は、人間とは思えぬような唸り声を上げながら必死にもがいていた。頭上から鍋がグツグツと沸騰する音が聞こえて来た。もし、こうして自分がここに来ていなければ、今頃この老夫婦は、平和面してこのジャガイモのみそ汁を啜っていたのだろうと思うと、この二人の人生は俺が支配しているのだという狂気の歓びが涌き上がり、更に腰のスピードが早くなった。
 パトカーが到着するまでの間、二度も中出ししてやった。しかしシャブがキキメの昭夫のペニスは衰える事を知らず、警察署に連行されても、尚、勃起したままだった。

 懲役七年の実刑を喰らった。求刑は十年だったが、国選の弁護士がたまたま共産系のイケイケ弁護士であり、被告は犯行時に覚醒剤の副作用で錯乱状態にあり被害者に対して殺意は無かったと強く主張してくれたおかげで三年負かった。又、元義母が昭夫に乱暴された事を公にしたくないと訴えなかった事も幸いしていた。

 七年の刑を務め終えた昭夫は四十五歳になっていた。この日、三好の名古屋刑務所を出所すると、身元引き受け人になってくれた加藤が刑務所の前まで迎えに来てくれていた。
 そのまま加藤の地元へ行き、風来坊で手羽先を喰いながら、二人だけのささやかな出所祝いをした。
 加藤は、久しぶりに飲んだビールで顔を真っ赤にさせた昭夫を車に乗せると、郊外にあるビジネスホテルに向かった。途中のコンビニで缶ビールをしこたま買い、つまみには飛騨牛のビーフジャーキーとポテトチップスを買った。そしてホテルに着き、部屋に入ってみると、既にそこには若い女がポツンとベッドに腰掛けていた。

「ゴムなんか付けんでもええでね。俺のツレがやっとるデリヘルの子だで、遠慮せんと七年のムショの垢をゆっくりと落としたりゃ」

 加藤はそう笑いながら部屋を出て行った。
 女は、明らかに未成年とわかる茶髪の少女だった。昭夫が恐る恐るベッドに座ると、少女は無言で服を脱ぎ始め、全裸になるなり大きく股を開いてベッドに横たわった。
 久々に見る女体だった。七年ぶりに触れる女の肌は生クリームのように柔らかく、抱きしめると赤ちゃんのように小さく感じた。
 陰毛がちょろちょろと生える性器にむしゃぶりついた。久しぶりに嗅いだ淫臭は、足の親指の端に詰まっている青い垢のように臭く、そこに溢れる淫汁は、腐った魚のように生臭かった。
 こいつはシャブ中だな、っとすぐに直感した。ならば遠慮はいらないと、昭夫は少女の茶髪を鷲掴みし、少女の小さな口に乱暴にペニスを押し込んだ。
 ぺちゃ、ぺちゃ、ぺちゃ、っと子猫がミルクを飲んでいるような音が部屋に響いた。おまえいくつだ、と昭夫が聞くと、少女は唾液で濡れた唇を手の甲で拭き取りながら、「十六」っとそっけなく答えた。
 それを聞いた昭夫の興奮は異様なくらいに高まった。が、しかし、興奮し過ぎているせいか、どれだけ刺激されようとも昭夫のペニスはウンともスンともいわなかった。こんなはずはない、と、焦った昭夫は、少女を浴衣の紐で縛ったり、ファンタオレンジのペットボトルでオナニーさせたりと色々試してみたが、しかし、それでも昭夫のペニスはピクリともしなかった。
 どっぷりと凹んでしまった昭夫は、少女を部屋から追い出した。そして、ヤケ酒にと缶ビールを飲みまくり、ビーフジャーキーとポテトチップスを喰いまくり、そして七年間我慢していた煙草を、ケツの穴から煙が出るほどに吸いまくっていると、不意に加藤が部屋に戻って来た。
 女から聞いたわ、と、同情の笑みを浮かべる加藤は、そのままソッとベッドに腰を下ろすと、「長期喰らってたヤツにはよくある事らしいで、そう気にすんなて。そのうち元に戻るて」と昭夫の痩せこけた肩をポンポンと二度叩いた。
「ああ……」と昭夫ががっくり項垂れると、加藤は「元気出しゃあ」と笑いながら突然ズボンのポケットをモソモソと弄り始め、中からシャブの入ったパケと注射器を取り出した。

「取りあえず、今夜の所はこれでリハビリしときゃあ。ギンギンになったら明日またあの女を呼んだるで」

 加藤はそれを昭夫の手に握らせると、そのまま部屋を出ようとした。

「あ、加藤」

 昭夫が呼び止めると、ドアノブを握ろうとしていた加藤が「ん?」と振り返った。

「……色々とありがとう……」

 昭夫は照れくさそうに笑いながらペコリと頭を下げた。

「何を水臭い事言うとるんやて、あん時、アキちゃんが俺からシャブを買っとった事をサツにチンコロしんかったで、俺もこうして娑婆におれるんやないの。あん時の恩返しだで、気にせんといて」

 加藤は鼻でふっと笑いながら部屋を出て行った。
 シャブと注射器を握り締めた昭夫は、そのドアが完全に閉まるのを今か今かと待ちわびていた。喉が焼け付くように渇き、冷汗が一気に額に滲み出た。ドアがカチャッと閉まるのが恐ろしく長く感じた。

(つづく)

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