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路地裏の妻3

2013/05/30 Thu 18:08

路地裏の妻3



 絶望でした。
 今までに感じた事のない激しい絶望でした。
 しかし、ここで私一人がその絶望を我慢すれば、夫と子供が幸せになれるのです。
 たったの四万円で家族三人が幸せになれるのです。
 それは一時の幸せでしかありません。一瞬で消えてしまうような小さな幸せかもしれません。だけど、そのお金さえ手に入れば、少なくとも来月一杯は電気が使えるのです。これから二ヶ月間は、もう、いつ電気と水道が止められるかとビクビク脅えながら暮らさなくてもいいのです。

(絶望の後には必ず希望がやって来る)

 しゃがんだ股間を覗かれていた私は、ふと、そんな言葉を思い出しました。
 それは、私が子供の頃、自己破産して路頭に迷っていた父に、近所のお寺のお坊さんが掛けてくれた言葉でした。
 二十年ぶりに思い出した言葉でした。私はその言葉を何度も何度も心の中で呟きながら、股間の下で息を潜めている魔物に脅えていたのでした。

「恥ずかしいですか?」

 地面のアスファルトから、そんな男の声が聞こえてきました。
 黙ったままコクンっと頷くと、男はニヤッと笑ったまま視線を陰部に戻し、「白い滓がいっぱい付いてますよ」と言いました。

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 一瞬にして私の顔は熱くなりました。肩幅まで開いていた膝が、屈辱と羞恥でブルブルと震えてきました。

「もう……いいですか……」

 震える声でそう聞くと、男はアスファルトに頬を押し付けながら笑い出し、「今からですよ」と、そこに指を伸ばしてきました。

「見るだけって約束です!」

 そう慌てて膝を閉じると、男はアスファルトに頬を付けたまま横目でジロッと私を見上げ、「じゃあ自分でオマンコを開いて見せて下さいよ。閉じたままでは何も見えませんよ」と不機嫌そうに言いました。

 これだけでも恥ずかしくて死にそうなのです。それなのに、更に自分の指で性器を開くなどできるわけがありません。
 私は恐る恐る「無理です……」と呟きました。
 すると男は、小さな溜め息と共に「じゃあしょうがない」と呟きました。

「マンコの表面と陰毛だけなら一万円しか払えませんよ。三万円返してもらう事になりますけど、いいんですね?」

 男はそう言いながら、更に大きな溜め息をつきました。男のその溜め息が、剥き出しにされた膣を生温かく撫でました。
 絶望でした。弱みに付け込まれた私は、もはや泣き出しそうでした。
 ここで男の要求を素直に受け入れれば、男は更につけあがり、どんどん絶望の沼に飲み込まれて行くのは火を見るよりも明らかなのです。

 しゃがんだ膝を震わせたまま踞っていると、またしても(絶望の後には必ず希望がやって来る)という言葉が浮かんできました。
 このまま絶望の沼に飲み込まれて行くか、それともその沼から這い出すか、必死にその言葉を念じながら考えました。
 そして、「どうするんですか?」と男に催促された私は、お坊さんのその言葉を信じる事にしたのでした。

 私は黙ったまま再び膝を緩めました。そして肩幅まで股を開くと、恐る恐る股間に右手を伸ばしました。
 男はそれを見てニヤニヤと笑っていました。そして私の指がその湿った箇所に触れようとすると、「あっ、ちょっと待って」と、いきなり私の手を止めたのでした。

「この状態でマンコを開らかれても同じですよ。これじゃあ間近で見れませんよ」

 男はそう言いながら、いきなり私の肩をトンっと突き飛ばしました。
「えっ?」と思った瞬間、しゃがんでいた私はそのまま後ろにドテッと尻餅をついてしまいました。

「この状態でパックリと開いて下さい。これだったら匂いを嗅ぐ事もできますから」

 それは、いわゆる体育座りというものでした。しゃがんでいた時よりも陰部の剥き出し感は薄れましたが、しかし、アスファルトに腹這いになりながら覗き込んでいる男の顔との距離感は大幅に縮み、今にも男の長いマツゲが黒ずんだ小陰唇に触れそうでした。
 男は、陰毛越しに私を見上げながら、「その可愛い顔には似合わない下品な匂いがムンムンしてますよ」と笑いました。
 そんな挑発的な言葉に再び心が折れそうになりながらも、私は(絶望の後には必ず希望がやって来る)と必死に唱えながら両手を太ももの裏へと回しました。
 両サイドのびらびらが指先に触れ、ネトっとした湿りを感じました。その湿りは、お弁当屋さんの厨房で数時間あまり蒸され続けていた汗とおしっこの残り汁でした。そんな不潔な部分を、今、見知らぬ男に間近で嗅がれているのだと思うと、凄まじい羞恥心が襲い掛かってきました。
 しかし男は、「早く開いて下さい」と急かしてきます。その凄まじい羞恥心に追い討ちをかけるように、容赦なく急かしてきました。
 私は震える指をびらびらに押し当てました。そして顔を顰めながら、そのヌルヌルとした襞を左右に開くと、「んんん……」という情けない声が自然に喉から漏れました。

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 黒ずんだ陰部の中心で、ピンク色の粘膜がヌラッと輝いていました。雑木林を通り抜ける風が股間をすり抜け、敏感な粘膜をくすぐりました。
 男は体ごと前に乗り出し、そこに更に顔を近づけてきました。そして顔を少し斜めにさせ、剥き出しにされたピンクの粘膜に鼻頭を突き付けながらスッスッと二度鼻を鳴らすと、「これだよ、これがパート帰りの人妻の匂いなんだよ」と、嬉しそうに独り言を呟いたのでした。
 男は満足そうにそこを嗅ぎまくりました。開いた部分だけでなく、陰毛や肛門、そして膝にぶら下がっている下着のクロッチにまで鼻を伸ばし、そこに染み付いている汚れを嗅いでいました。
 この男は明らかに変態でした。見知らぬ女の汚れた陰部を嗅ぎ、恍惚とした表情で悶えているのです。
 そんな男に異様な恐怖を感じた私は、「いつまで……こうしてればいいんですか……」と、恐る恐る聞きました。すると男は、「ああ、ごめんごめん」と太ももの間から私を見上げました。そして意味ありげにニヤリと笑いながら「すぐ射精しちゃうから待っててね」と呟き、ズボンをスルッと下ろしたのでした。

 異様に反り返った真っ黒なペニスが飛び出しました。それはまるで威嚇する爬虫類のように獰猛でした。亀頭の先からは、テラテラと輝く透明の汁をダラダラと垂らし、小刻みにヒクヒクと痙攣しているのでした。

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 それをまともに見てしまった私は、とたんに激しい頭痛と吐き気に襲われました。
 見てはいけないと思い、慌てて目を閉じると、一瞬にして額と首と背筋に冷や汗が滲み出しました。
 閉じた瞼の裏では、夜の鳴門海峡のうず潮のよう黒い渦がぐるぐると巻いていました。私は、闇で蠢く不気味な渦巻きを目で追いながら、そこに吸い込まれないようにと必死にもがいていました。
 次第にクラクラと目が回り、自然に頭部がユラユラと揺れ始めました。

 それはまさしく、既に完治したはずの『性嫌悪障害』の時と同じ症状でした。
 凶暴な男性器を目にした事で、あの忌々しい記憶が再び蘇って来たのでした。

 その忌々しい記憶。
 それは、私を『性嫌悪障害』という不具者に追い込んだ出来事でした……

(つづく)

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