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汚れし者26



 あの夜、私の夫や東さんの夫達に散々輪姦された真野さんは、そのシーンを携帯で撮影され、「もし警察に通報したら、これをネットにバラまくからな」と脅されました。
 そのまま解放された真野さんでしたが、しかし、それから二日後、突然真野さんが酒屋の裏の空き地に現れました。そして自らの意思でライトバンに乗り込み、そこに住む変質者のホームレスに濡れた陰部を曝け出したのでした。
 それからというもの、真野さんはすっかり寝取られ場の常連となってしまい、夜な夜なあらゆる変態達に、その清純派な肉体を無料提供していたのでした。
 しかし、最近ではその刺激にも飽きてしまい、今では東さんと一緒に、公園横の高架橋の下にあるホームレスの巣窟、通称『青テン』に出入りしていると聞きました。
 そこであの清純なジブリママは、全裸でホームレス達のブルーシート小屋に潜り込み、野良犬のように寝ているホームレス達の汚れたペニスをいきなり生でしゃぶるのです。そして、火がついたホームレス達が獣のように襲い掛かり、滅茶苦茶に輪姦されてしまうという非常に危険なプレイを、東さんと共に楽しんでいたのでした。

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 このように、このすずらんママ友会は、もはや取り返しのつかないほどに汚れきっていました。
 いくら水野さんが『乱れた性行為撲滅!』などとアジった所で、これほどまでに汚れてしまった集団には馬の耳に念仏なのです。
 それでも皆は、そんな水野さんのアジテーションに煽動させられたフリをしていました。それは、下手に逆らうと水野さんが自治会長になった暁に仲間はずれにされてしまうからです。
 これが、すずらんママ友会の実態でした。
 水野さん以外は、ほぼ全員が汚れ者なのです。

「それでは、明日の午後三時に南台公民館にて、花火大会見回り強化集会を開きますので、皆さん遅刻しないようお願いしま〜す!」

 この日の集会をそう締めくくったのは栗原さんでした。
 しかし、そんな栗原さんも汚れていました。水野さんの側近でありながらも、その内面はドロドロに汚れていたのです。
 栗原さんは、橋本さんの後援会に入会したのを機に水野さんから誘われ、それまで働いていた電子部品工場を退職し、水野さんの旦那さんが経営する不動産会社に事務員として働くようになりました。
 しかし、働いて間もなく、水野さんの旦那さんからセクハラを受けるようになりました。
 それは酷いセクハラだったらしいです。事務所に誰もいなくなると、突然旦那さんはペニスを出し、勃起したそれを栗原さんに見せて来るらしいのです。
 そんなセクハラを水野さんに言う事も出来ず、栗原さんはひたすら無視し続けました。
 しかしある時、旦那さんから「今履いている下着を一万円で売ってくれ」と頼まれました。驚いた栗原さんは当然それを断りました。
 しかし、何度断っても旦那さんは諦めませんでした。
 異常なほどにしつこい為、これ以上断り続ければ旦那さんと険悪な仲になってしまうと思った栗原さんは、そうなる事で水野さんとの仲もおかしくなってしまうと恐れました。
 そこで栗原さんは、「絶対に奥さんには内緒にして下さい」と念を押した上で、今履いているその下着を仕方なく渡したのでした。
 旦那さんは、さっそく栗原さんが見ている前でオナニーを始め、その下着の汚れた部分に精液をぶっかけました。
 それが毎日続きました。
 そしてセクハラは更にエスカレートしていくのです。
「奥さんには内緒にして下さい」という栗原さんのその言葉が裏目に出てしまったのです。旦那さんは、栗原さんが奥さんには内緒にして欲しいと言った事で安心し、セクハラをエスカレートさせてきたのです。
 その結果、いつしか栗原さんは旦那さんの性奴隷にされていました。
 そして栗原さんは、旦那さんとのこの関係がいつ水野さんにバレるかと、ビクビクしながら脅える日々を送っているのでした。

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 その情報も、やはり東さんから教えてもらったものでした。
 なぜ東さんが、天敵である水野さんグループの副リーダーの秘密情報を知っているかというと、なんと水野さんの旦那さんも、あの酒屋裏の寝取られ場に通う常連だったからでした。
 旦那さんは、主に輪姦に参加していました。もちろん水野さんは、旦那さんがそこの常連だという事を知りません。
 東さんは、水野さんの旦那とは何回もプレイをしたと言っていました。今までに何度も中出しされ、そして嫌というほど彼の精液を飲んできたとも言っていました。
 そしてそのプレイ中に、この栗原さんの情報を入手したのだと得意げに話していました。

 そんな栗原さんの「それでは解散して下さ〜い」という号令と共に、それまでそこにピーンと張りつめていた空気が一気に弛緩しました。
 十六人のママたちが一斉に動き始めました。そそくさと帰路に就く者、仲の良いママ友とお喋りし始める者、そして、噴水の水溜りでハンカチを濡らし、子供が熱中症にならないようにと子供の首の後ろを冷やす者など、皆がそれぞれ好きな事を始めると、そんなざわめきの中を、白いワイシャツの背中が汗でびったりと張り付いた学生が広場を横切っていきました。
 その横顔に見覚えがありました。私は、ベビーカーに乗る娘の額に濡れたハンカチをあてながら、その少年を目で追っていました。
 すると、木陰で休んでいたママ友のグループから、「あら、光太郎君!」という声が聞こえてきました。
 そう声を掛けたのは水野さんでした。
 水野さんの声が広場に響くなり、周囲にいたママ友たちの視線が一斉に少年に集まりました。
 すると少年はギクっと肩を跳ね上げながら足を止め、恐る恐る振り返りました。
 少年のその焦った顔を見た瞬間、私の脳裏に糞尿の香りがパッと蘇りました。
 そう、彼は、まさにあのグラウンドのネット裏の公衆便所の覗き穴から見た、あの時のセンズリ少年だったのでした。

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「これから塾ですか?」

 水野さんが満面の笑みを浮かべながら、気持ちが悪いほどの余所行き声でそう聞きました。
 少年が黙ったままコクンっと頷くと、栗原さんが「夏休みなのに塾なんて大変ですね……」と呟きました。
 すると、栗原さんのその言葉に、水野さんの表情がキッと厳しくなりました。

「当然です。光太郎君は東大を目指してるんですよ。夏休みなんて関係ありません」

 そう栗原さんをジロッと睨んだ水野さんが、素早く表情を和らげながら「ね、光太郎君」と、目を細めて微笑むと、少年は慌てて小さく頭を下げ、そのまま逃げるように走り出してしまったのでした。

「誰ですかあの子」

 木陰のグループの中の一人が水野さんに聞きました。
 すると水野さんは、走り去る少年の後ろ姿を菩薩のように優しく見守りながら、ゆっくりと呟きました。

「あの子は、自治会長の橋本さんの息子さんよ。新栄高校では常にトップの成績で、東大合格間違い無しと言われてる凄い子よ……」

 静まり返った広場に、ママたちの溜め息が漏れました。

「新栄高校って、あの超エリート高校でしょ?」

「さすが橋本さんの息子さんよね……」

「東大合格間違い無しなんて羨ましいわ……」

 そうママたちが賛美する中、唯一私だけは違う目で、遠ざかる少年の背中を追っていました。
 私はあの少年の生温かい精液を飲んだ事があります。少年に陰部を剥き出しオナニーを見せた事もあります。あの少年はいつもあの薄暗い公衆便所に潜んでいるのです。糞尿の匂いに包まれながら、あの守護獣の蛇と一緒に獲物が来るのを待っているのです。
 あの時のあの少年が、東大合格間違い無しのエリート高校生であり、しかも自治会長の御自慢の息子だった事を知った私は、彼こそは汚れ者のエリートだと思いました。そして、もう一度あの公衆便所に行かなければと思いました。

 そう思いながら少年の後ろ姿を見送っていると、不意に背後から「飯島さん」と声を掛けられました。
 振り向くと、そこには水野さんが清々しい笑顔で私を見つめていました。

「最近、介護ボランティアを始めたそうね」

 そう言いながら水野さんはゆっくりと私に近付いてきました。

「いえ、介護ボランティアなんて、そんな立派なものじゃありません……」

 そう慌てて首を振ると、水野さんの後ろから付いて来た栗原さんが、「あら、スーパーキヨシゲの奥さんが、飯島さんはお爺ちゃんの面倒をとってもよく見てくれるって、すっごく喜んでましたよ〜」と、ニヤニヤ笑いながら言いました。

「いえ……そんな……」

 そう戸惑う私に、水野さんは「素晴らしい事ですわ」と微笑みながら私の目の前でソッと足を止めました。

「今ね、ママ友会で地域の老人の無料在宅介護ができないかを考えてるの。ほら、橋本さんも区議会議員選挙のマニフェストに『特養老人ホーム増設』を掲げてるでしょ、だからそのお手伝いになればと思ってね」

「…………」

「それで飯島さんにお願いがあるんだけど」

 私は恐る恐る「……何でしょう……」と聞きました。

「すずらんママ友会老人介護班の班長になって欲しいの」

「えっ?」と驚くと同時に、水野さんの後ろから栗原さんが顔を出し、「凄いじゃない飯島さん! 班長なんてなかなかなれないわよ」と、妙に胡散臭い大袈裟な表情を浮かべました。

「でも……私に班長なんて……」

 サッと視線を落すと、すかさず栗原さんが私の顔を覗き込み、「大丈夫わよ。スーパーキヨシゲのあの厄介なお爺ちゃんの世話ができるんだもん、飯島さんならできるって」と、そう私の肩をポンポンと叩きました。
 すると水野さんが、ニコニコと笑いながら「そうよ」と私の真正面まで来ました。

「心配しなくても、飯島さん一人にこんな大変な仕事を押し付けないわ。八幡さんも介護ボランティアをしてらっしゃるらしいから、あなたの補佐役として八幡さんにも副班長をお願いしようと思ってるの」

 そう笑いながら水野さんは、「それならいいでしょ?」と小さく首を傾げました。
 しかし、水野さんのその笑みは口だけが歪み、目は笑っていませんでした。それはまるで東京タワーにある古い蝋人形のように不気味で、何かとんでもない策略を企む独裁者の笑みのようでした。

 水野さんが言う八幡さんというのは、南台すずらん商店街にある八幡囲碁倶楽部に嫁いだ二十六才の若奥さんでした。すずらん公園にはほとんど顔を出さない奥さんでしたが、しかし三歳の娘さんがすずらん幼稚園に通っているせいか、その流れで一応すずらんママ友会には所属していました。
 とても清楚で淑やかな若奥さんでしたが、しかし、東さんの情報では、そんな彼女もやっぱり汚れていたのです……

 彼女は、囲碁倶楽部の元会員だった山内のお爺さんの在宅介護を無償でしていました。山内さんは軽度の認知障害でしたが、しかし身寄りのない一人暮らしだったため、囲碁倶楽部の元会員だったという縁から八幡さんがお世話していました。
 そんな献身的な八幡さんでしたが、しかし東さんの情報によると、八幡さんの入浴介助というのはお爺ちゃんと一緒にお風呂に入るらしく、全裸となって泡だらけで抱き合いながらお爺ちゃんの体の隅々まで洗うらしいのです。

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 そんなお爺ちゃんのペニスはまだ勃起するらしく、だから亀頭の汚れは舌で丁寧に舐め洗い、仕上げは膣の中でヌルヌルと擦りながら洗うのだと東さんに話していたらしいです。
 そして挙げ句の果てには、「ボケ老人は何でも言うことを聞くからペットのように可愛いわ」と、小悪魔のような笑みを浮かべていたらしく、さすがの東さんも「あんな淫乱女は見た事がない」と呆れていました。

 そんな八幡さんの裏の顔も知らず、水野さんは八幡さんを絶賛していました。無償で在宅介護しているという偽善の顔だけを誉め称え、その裏にある邪悪な顔には気付いていないのです。

 この人達は、私がスーパーキヨシゲのお爺さんをクンニ専用の性奴隷にしている事も、八幡さんが認知障害のお爺ちゃんを性人形にしている事も知らないまま、私たちを老人介護の責任者にしようとしていました。
 所詮、この人達は自分の出世の事だけしか考えていないのです。それが本当に必要なのか、それが本当に効果的なのかも考えぬまま、公園浄化や老人介護などという、出世に役立つ社会的ブランドを手に入れたいだけなのです。

 そんな水野さんの野心的な目をソッと見上げながら、私はふと思いました。
 この人たちこそ汚れている、と。

 行き場を失くしたホームレス。
 夜蟲の如く夜な夜な公園に集まる変質者。
 東大合格間違い無しと言われながらも女子トイレに潜んでオナニーに耽る変態高校生。
 見ず知らずの男に一万円で股を開く主婦。
 見ず知らずの男に妻を輪姦させる夫。
 そして、見ず知らずの男たちに中出しされる妻たち。

 そんな単純な汚れ者たちとは比べ物にならないくらい、水野さんは汚れていると思いました。
 そうです、この人たちこそが汚物なのです。
 この人達の脳は、公衆便所の汚物入れに押し込められた不浄な生理用品に等しいくらい汚れているのです。

 自分の出世だけしか考えていないそんな水野さんを、私はつくづくそう思ったのでした。

(つづく)

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