毒林檎4
2013/05/30 Thu 17:59
俺はわざと「グググガァァァァァ……」と、豪快な鼾をやらかしてやった。ネットに、『睡眠薬で眠っている人は異常に鼾が大きい』と書いてあったため、その通りにやってみたのだ。
部屋には、そんな俺の嘘鼾だけがひたすら響いていた。
原田凉子と女は、俺が深い眠りに落ちていくのを黙って見守っていた。
しばらくすると、「完全に眠ったようですね」という原田凉子の声が聞こえて来た。
「本当に……大丈夫なんでしょうか?……」
不安そうな女の声が聞こえた。女の声は思ったよりはっきりしており、やはりさっきのアレは演技だったのかと思うと、それを指導した原田凉子が妙に憎らしく思った。
「大丈夫です。あの睡眠薬は、ほぼ麻酔薬に近い威力を持っていますから、ほら……こうして揺さぶっても、こうして頬を摘んでも絶対に目を覚ましません」
原田凉子は俺の体をゆすり、そして俺の頬をおもいきり摘んだ。
おもわず「痛てぇな!」と叫びそうになるくらいムカついたが、しかし、ここで計画を台無しにしてしまうのはあまりにも勿体なかった。
「ほら、触ってみて下さい。全く反応しませんから」
原田凉子はいきなり女の手首を掴むと、俺の股間に女の手を押しつけてきた。
さすがにこれには焦った。女の小さな手の平は、丁度亀頭に押し付けられており、俺は瞬時に快楽を得てしまったのだ。
「ね、大丈夫でしょ?……ほら、こうしても、絶対に目を覚ましませんから……」
そう言いながら原田凉子は、素早く女の手をどけると突然俺のペニスを摘んだ。まるでハツカネズミを捕まえるかのようにムギュっと乱暴に摘みながら、手首を上下に動かし始めた。
カサカサカサとズボンが擦れる音が響いた。原田凉子は「当分は絶対に目を覚ましませんから安心して下さい」と冷静に説明しながらも、人差し指の伸びた爪で、密かに亀頭の敏感な部分をカリカリと掻いていた。
そんな原田凉子を、俺は薄目を開けて見ていた。原田凉子はいつものポーカーフェイスで女に説明しながらも、その小さな手を上下に動かし、亀頭、竿、金玉、と、満遍なく擦っていた。
(まずい、まずい、まずい……待て、やめろ……)
俺は必死にそう頭の中で繰り返していた。
すると突然、原田凉子はその手を止め、再び女の手首を掴んだ。そして「ほら、触ってみて下さい」と言いながら、女の手を俺の股間に押し付けた。
突然女は「あっ」と言った。そして俺のペニスをギュッと握りながら、「か、硬くなってます……」と声を震わせた。
そう驚く女に、すかさず原田凉子が得意げに言った。
「当然です。いくら寝ててもそこを刺激すれば勃起はします。ですから今のこの状況は、富田さんにとって最高のシチュエーションだと思いますよ」
原田凉子は、女を偽名の『下川』とは呼ばず、『富田』と本名で呼びながらそう言うと、「ただし……」と言葉を続けた。
「勃起もしますから当然射精もします。しかも、相手は眠っていますから射精の前兆はわからず、いつ射精するか予測不能なのです。ですから必ずコンドームは使用して下さい。もし、コンドームを使用せずに膣内射精されたとしても、私も石橋さんも一切の責任は負いません。例えそれが、途中でコンドームが外れてしまったという場合であっても同じです。性交中の問題は全て自己責任となりますので、十分に注意して下さい」
そんな原田凉子の言葉に「はい……」と小さく頷きながらも、女は硬い肉棒を離さなかった。まるで俺のペニスのサイズや硬さを確認するかのように、指で押したり握ったりしていた。
そんな女を冷たく見下ろしながら、原田凉子はバッグの中をガサゴソと物色し始めた。
「……ただし、何らかの理由で石橋さんが目を覚まし、もし富田さんに乱暴するような事があれば、それは当方が責任を取らせて頂きます」
そう言いながら原田凉子は、バッグの中からライターのような物を取り出した。
「これはコードレスチャイムです。これを渡しておきますので、もし石橋さんが目を覚ますような事があれば直ちにこのチャイムを押して下さい。私は、行為が終わるまで隣の部屋で待機しておりますのでチャイムが鳴ればすぐにこの部屋に駆けつけます。その際、もし石橋さんが富田さんに乱暴しているような状況であれば、即刻それなりの処置をさせて頂きますので御安心下さい」
女は恐る恐るそのチャイムを受け取りながら、「もし……これを押せない状況だったらどうすればいいですか……」と、弱々しく聞いた。
「その場合は、『助けて!』と叫んで下さい。その声が聞こえた時点ですぐに警察に通報しますから」
原田凉子はそう言ってニヤリと唇を歪めた。
俺はそんな原田凉子の氷のような瞳を薄目で見ながら、こいつは、わざと俺を牽制しているなと思った。
しかし俺は、原田凉子が、こうして改めて牽制してくるのも無理はないと思った。事実、既に俺は、この契約を破棄してでも、一刻も早くこの女をベッドに押し倒したくてウズウズしているのだ。
そもそも、これほどの美女にあれやこれやとされながら、それでも眠ったフリを続けろというこの計画に無理があるのだ。これほどの美女にペニスを弄られながらも、それでも眠ったフリを続けなければならないなんて、並大抵の忍耐力では無理だ。それに耐えられるだけの報酬か、若しくは罰がない限り、普通の男では到底無理なのだ。
だから原田凉子は、こうして女に説明するふりをしながらも、実は俺に、改めて契約破棄の場合に受ける罰を知らしめようとしたのだ。きっと、俺のペニスの反応があまりにも早かったため、俺が計画を無視して暴走するのを恐れて牽制したに違いなかった。
原田凉子は、薄目を開けている俺の目をチラッと見ながら、「でも、余程の事がない限り絶対に目を覚ましませんから、そのチャイムを使う必要はありませんけどね……」と呟いた。そして、ヤリ手弁護士ならではの、人を挑発する表情で「ふっ」と鼻で笑った。
瞬間俺は、そんな原田凉子に対して熱い闘志が湧いた。が、しかし、強姦で逮捕されるのは真っ平ご免だった。それに、確かに俺は、今すぐにでもこの女を押し倒してヤってしまいたかったが、しかしその一方では、密かにこのシチュエーションに異様なエロシチズムを感じてしまっているのだ。
だから俺は大丈夫だった。
この任務を最後まで遂行する自信はあった。
それを原田凉子に伝えようと、女に見つからないように小さく頷くと、再び原田凉子が「ふっ」と鼻で笑った。
しかしその時の原田凉子の表情は、憎たらしいヤリ手弁護士の挑発した笑みは消え、可愛いらしい女の優しい笑みが浮かんでいたのだった。
そんなやり取りがあった後、不意に細い手首のカルティエの時計をチラッと見た原田凉子は、「制限時間は1時間しかございませんので」と言いながら、俺のズボンのベルトに手をかけようとした。
すると、すかさず女が「あっ、結構です」と、原田凉子の手を止めた。
「でも、眠っている男性を全裸にするのは結構な重労働ですよ?」
原田凉子は心配そうに女の顔を覗き込んだ。
「はい……でも……脱がせる所から始めたいんです……」
女は、ポッと顔を真っ赤にさせながら、今にも消え入りそうな声で恥ずかしそうにそう言った。
「わかりました。では、隣の部屋にいますので、何かあったら御連絡下さい」
そう小さく笑いながら、原田凉子がドアに向かって踵を返した。
女は、そんな原田凉子の凛々しい背中に「宜しくお願いします」と頭を下げながらも、ドアまで見送りしようと立ち上がろうとした。
するとその時、偶然にも足をM字に曲げた女のスカートの中が見えた。
それは一瞬の出来事だった。
ほんの数秒しか見る事ができなかった。
しかし、俺はそれを見逃さなかった。
ストッキングの中で輝くシャンパンゴールドのパンティーの、その真ん中でじっとりと湿っている丸いシミを、俺はしっかりとこの目で見ていたのだった。
(つづく)
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