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疑念(前編)

2013/05/30 Thu 15:38

疑念1



 和馬は観光バスの運転手だった。
 東北地方からの集団就職組であり、平屋の社宅に住んでいた。
 和馬の生活は単純だった。朝から晩までバスを走らせ、仕事が終わると薄汚い平屋の煎餅布団に包まりながら、一人安酒をちびりちびりと舐めていた。しかし、そんなしがない和馬の生活に、突然希望の光りが差し込んだ。それは、西沢恭子がバスガイドとして和馬のバスに同乗する事になったからだった。

 西沢恭子は、和馬より五つ年下の二十一歳だった。バスガイドにしては地味な女だったが、しかし、華やかさこそないが、とても落ち着いた静かな女であり、糞がつくほど真面目な和馬とは妙に気があった。
「大久保さんって、仕事が休みの時はいつも何をしてるんですか?」
 ある時、海老名サービスエリアで休憩していると、突然西沢恭子がそう聞いて来た。
 いつも休みの日には酒ばかり飲んでいる和馬だったが、この真面目なお嬢さんにそんな事を言えばたちまち軽蔑されてしまうと思い、咄嗟に「本を読んでます」と嘘をついた。
 すると西沢恭子は、突然大きな目をキラキラと輝かせながら、「私も今、村上春樹にはまってるんです」と微笑んだ。そんな彼女の笑顔を見た瞬間、「大久保さんはどんな本を読んでるんですか?」と聞かれる恐怖に襲われた和馬は、さりげなく「村上春樹はおもしろいですよね」とさらりと流し、慌てて話題を業務内容に変えたのだった。
 実際、和馬は本など読んだ事がなかった。最近読んだ活字と言えば、コンビニで買った『スーパー写真塾』の投稿文くらいで、村上春樹と角川春樹の違いさえわからないくらい本には疎かった。
 そんな調子で西沢恭子とはひとつふたつと言葉を交わすようになった。喫茶店でコーヒーを飲んだり、ファミレスで食事をしたり、時には二人っきりで映画を観に行ったりするようにもなった。そしてある日突然、和馬は、結婚するなら西沢恭子しかいないと思うようになったのだった。
 幸い、西沢恭子も和馬に対しては満更でもないらしく、手製の弁当を作って来たり、時には、独身だから大変でしょと言っては、社宅の掃除をしに来てくれたりしていた。
 そんな曖昧な交際が一年ほど続いたある日、遂に和馬は西沢恭子にプロポーズをした。西沢恭子は照れながらもコクンっと頷いてくれ、そしてそのまま自然な形で二人は抱き合っていたのだった。
 真面目な和馬は、それが目的だったのかと思われるのは嫌だったが、若い和馬はもはや我慢できなくなっていた。
 しかし、いざ恭子を布団に押し倒してはみたが、和馬は何をしていいのかわからなくなった。
 和馬は一度も女と交際した事がなかった。もちろん性行為の経験はなく、キスさえもした事がなかった。だから布団に押し倒したものの、とたんに頭の中が真っ白になってしまったのだった。
 和馬は、西沢恭子のうなじに顔を埋めたまま狼狽えていた。そのままの状態で十分が過ぎ、そして二十分が過ぎると、和馬はあまりの息苦しさに全身を引き攣らせ、まるでバケツの水を頭からぶっかけられたかのように汗びっしょりになっていた。
 すると、三十分経った頃、そんな状況は一変した。なんと西沢恭子が、和馬の腕に抱かれたまま服を脱ぎ始めたのだ。
 和馬は目を疑った。あれほど地味で大人しかった恭子が、白い下着さえも腰をモゾモゾさせながら脱いでいるのである。
 しかし、もっと驚いたのは、そのあまりにも美し過ぎる裸体だった。初めて見た生の女の裸だったから余計そう思ったのかも知れないが、しかし、その猫の腹のように柔らかく赤ちゃんの尻のように大きな乳は、少なからずも今まで和馬が見て来た週間大衆のグラビア女優の誰よりも美しかった。
 裸の西沢恭子は、いつもの地味な西沢恭子とは思えないほどに美しく、そして借りて来た猫のように大人しかった西沢恭子とは思えないほどに積極的だった。
 女をまだ知らなかった和馬は、勢いだけで恭子の体にむしゃぶりついたものの、しかし、すぐに恭子に軽くあしらわれてしまい、まさにまな板の上の鯉のように動けなくなってしまった。
 恭子は、そんな和馬に柔らかい笑みを浮かべながら、まるで病人を労るようにして和馬を仰向けに寝かせた。
 和馬のすぐ目の前には茶色い裸電球がぶら下がっていた。緊張しながらそれを黙って見つめていると、恭子の生温い舌が和馬の肉棒を優しく包み込み、そのままヌルっと口内に飲み込んでしまった。
 信じられなかった。あの、地味で真面目で内気な西沢恭子が、まさかこんな事をするとは思ってもいなかった。その衝撃からか、それまで熱り立っていた和馬の肉棒はへなへなと萎えてしまったのだった。
 しかし、それでも恭子はそれを続けた。顔を上下に動かし、まるでうどんを啜っているかのように萎えたペニスをジュルジュルとしゃぶりまくった。
 感動と興奮に包まれながら、目の前の茶色い裸電球をジッと見つめていた和馬だったが、ふと見ると、顔を上下に振っている西沢恭子の乳がたぷたぷと揺れていた。ツンっと先が尖った乳はまるで作り物のように美しく、それが、上下する顔の動きに連動して妖艶に揺れていたのだ。
 それを目にした直後から和馬のペニスが反応し始めた。恭子は硬くなった肉棒を喉の奥まで飲み込み、執拗にいやらしい音を立てた。
 興奮する和馬は正座する恭子の尻を無我夢中で撫で回した。静まり返った社宅に、和馬のハァハァという荒い息づかいと、ぷちゅ、ぷちゅ、という恭子の唾液の音が響いていた。
 目眩を感じるほどに興奮していた和馬は、震える指を恭子の尻の谷間に這わせた。じっとりと湿った肛門を通り過ぎ、その奥に潜んでいる陰部に指を伸ばした。
 恭子のそこは、びっくりするくらいに濡れていた。指を動かす度にヌルヌルとした汁が指に絡み付き、ねちゃ、ねちゃ、と卑猥な音を奏でた。
 恭子は敏感な部分を指で弄られながら、子猫が喜ぶかのようにして尻をクネクネと動かしていた。ペニスを銜えたまま「んん……」と唸り、右手で肉棒の根元を上下に擦った。そして左手で睾丸を包み込み、粘土を捏ねるかのようにして睾丸を揉み始めたのだった。
 それはまるで淫売のようだった。和馬は淫売すら買った事のない童貞だったが、しかし、さすがにこれは生娘のする行為ではない事くらいわかった。この人は初めてではないと確信した。そして、いつもはあんなに消極的で、言動も服装も地味過ぎるほどの恭子なのに、いつの間にこんないやらしいテクニックを覚えたのだと思うと、今までに感じた事のない嫉妬が内臓の底からムラムラと沸き出してきたのだった。
 嫉妬に駆られた和馬の指は、まるでナイフで突き刺すようにして恭子の穴の中を乱暴にズボズボと刺しまくった。そんな激しい指の動きには、嫉妬と憎しみ、そして裏切られたという悲しみがこもっていた。
 しかし、そんな怒りはすぐに切なさへと変わった。それは和馬が恭子を愛しているからだった。愛しているが故に、いくらこのような残酷な現実を見せつけられたとしても、和馬は恭子を心から憎む事ができなかったのだ。
 過去という、もはやどうにもならない出来事は、和馬を絶望に追いやった。あんなに真面目で純粋な恭子が、どこかの汚い男にこんな淫らな事を教えられ、淫売のように調教されて来たのかと思うと激しく胸を締め付けられた。
 しかし、そんな胸の痛みは、またしても違う方向へと変異しつつあった。ヌルヌルに濡れる恭子の穴を弄りながら、いったい何人の男達がこの穴の温もりを感じていたのだろうとその光景を想像していると、不思議な性的興奮が足の爪先からゾクゾクと這い上がって来た。
 不思議な性的興奮に精神を冒されてしまった和馬は、いきなり恭子の尻を強引に引き寄せた。そして素早くムクリと上半身を起こすと、正座したまま前屈みになっていた恭子の陰部にしゃぶりついた。
 例えこの穴が幾人もの男達にどれだけ汚されていようと構わないと思った。縦線のワレメに沿って舌を上下させた。ヌルヌルの液が次から次へと溢れ出し、畳に顔を伏せた恭子が子犬のようにきゃんきゃんと泣き出した。
 そこを愛撫すればするほど、汚されまくったその穴が愛おしく感じてきた。和馬は今までにない不思議な感覚に囚われながら、ツーンっとイカ臭の漂うヒダの裏まで舌を這わせ、そして肛門のシワの一本一本まで丁寧に嘗め尽くした。
 すると、今まで畳にしがみつきながら淫らな声を上げていた恭子が、ハァハァと荒い息を吐きながらゆっくりと起き上がった。そして口の周りを唾液といやらしい汁でテラテラに輝かせている和馬をジッと見下ろすと、そのまま和馬の体を畳の上に押し倒し、和馬の腰の上に乗って来た。
 和馬の体を跨ぎながら、自ら肉棒を穴の中に入れようとしている恭子の顔は真っ赤に火照っていた。そこには、いつも乗客に明るく振る舞っている『陽』はなく、地獄絵図に描かれた鬼のような、残酷な『陰』が漂っていたのだった。

 そんな初夜を迎えた後、一ヶ月も経たないうちに二人は結婚した。
 結婚式はしなかった。新婚旅行にも行かず、二人は薄汚れた社宅でひっそりと暮らし始めた。
 実に質素な新婚生活だった。
 が、しかし、夜は違った。
 性経験豊かな西沢恭子は未熟な和馬に様々な快楽を教えた。もはや和馬は恭子の性玩具のようになり、その変態行為に骨の髄までどっぷりと浸かってしまっていたのだった。
 ある時は、わざわざ夜の公園へと出向き、樹木が夜風でざわざわと揺れる闇のベンチで互いの陰部を舐め合った。ベンチで大股を開いて座る恭子の陰部を和馬が先に舐め、恭子が二回イクと今度は和馬がベンチに横たわり、闇夜にじゅぷじゅぷと音を立ててしゃぶられた。
 またある時は、夜中の二時に近所のコンビニの前にある四葉橋の下へと潜り込み、ヘドロ臭いドブ川がチロチロと流れる闇の中で性交した。雑草だらけの足下には野良猫が食い荒らしたとされる鳩の死骸が無惨な姿で横たわっており、一瞬、鳥インフルエンザという恐怖が頭を過ったが、しかしそれでも恭子をその土手に四つん這いにさせ野良犬のように交尾した。
 そんな野外での性交は、ほとんどが恭子のリクエストだった。昼間は控えめな主婦を演じているくせに、夜になると過激な事を言い出すのだ。公園のベンチや公衆便所の男子トイレ、橋の下や小学校の校庭や神社の境内など、そんな場所ばかりを選んでは和馬を連れ出すのだった。
 やたらと野外セックスを求めて来る恭子だったが、しかし、和馬にはその趣味は全くなかった。確かに、いつ人に見られるかというスリルはそれなりの興奮を与えてくれたが、しかし、実際に人に見られた事を考えると恐怖が先立ってしまい、快楽どころの騒ぎではなかったのだった。
 しかし恭子は違った。あるとき和馬は、そんな恭子には露出癖があるのではないかと疑った。
 というのは、先日、深夜のパチンコ店の巨大駐車場の隅で、闇に紛れて性交していた事があったのだが、その時、帰宅しようとしていたパチンコ店の店員に見つかってしまった事があった。しかし恭子は、店員がジッと見ているにもかかわらず、金網のフェンスにしがみつきながら「もっと、もっと」と大きな尻を振ってきた。挙げ句の果てには、その店員が見ている目前で失禁しながら絶頂するという異常な姿を見せたため、それから和馬は恭子が露出狂なのではないかとそう疑い始めたのだった。
 しかし、そう思っていても、気の弱い和馬にはそれを恭子に聞く度胸はなかった。
 その後も二人の野外プレイは続き、益々エスカレートしていくばかりだった。もはや二人は、誰もいない深夜の闇の中でコソコソするのではなく、今では堂々と昼間の街に出没するようになった。電車で痴漢ごっこをしたり、巨大スーパーのラックの陰に隠れてフェラチオしたり、わざと公園のホームレスに性交を覗かせるといった露出狂の末期状態にまで到達してしまっていたのだった。

(つづく)

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