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妻ようじ1

2012/12/02 Sun 00:03

妻ようじ1



「ちょっと用事に行って来るね」と出てったっきり、妻はなかなか帰って来なかった。
 すぐ戻って来るからと出て行った妻は、室内着のTシャツにデニムのミニスカート、そしていつもゴミ出しの時に使っているサンダルを履いていた。

 今年三歳になる息子を連れて行ったから、どうせそこらを散歩しているのだろう。
 そう思いつつ、ベランダから差し込む日曜午後の日差しに照らされながら、『アッコにおまかせ』をぼんやりと眺めていると、やっと妻が帰って来た。

「一時間もどこ行ってたんだよ」と振り返ると、息子は嬉しそうにアイスキャンディーを舐めていた。

「倉庫に荷物を取りに行ってたんだけど、帰りのエレベーターで大川の奥さんと一緒になっちゃって、大川さんちにお邪魔してたの」

 そう言う妻の隣りで、息子が青いアイスキャンディーを俺に自慢げに見せつけながら、「ガリガリ君だよー」と笑った。

「大川さんってB号棟の大川さんか?」

「そうよ」と言いながら、妻はそそくさと服を脱ぎ始めた。

「なんでB号棟なんかに行ったんだ?」

「だって、ウチが借りてる倉庫はB号棟にある共同倉庫じゃない」

 妻はそう言いながらジャージのズボンをスルスルっと脱ぐと、「早くA号棟の個人倉庫を借りたいわ」と嫌みっぽく呟いた。

 妻のその嫌みに気づいた俺は、すかさず話題を変えた。

「っていうか、なんで服脱いでるの?」

 が、しかし、それはやぶ蛇だった。

「シャワー浴びてくるわ。だってあの共同倉庫、すっごい埃だらけなのよ。もう嫌んなっちゃう。髪の毛が蜘蛛の巣だらけよ。ねぇ、早くこんな団地出ましょうよ。マイホームとまでは言わないからさ、せめてマンションに引っ越しましょうよ」

 そう言いながら妻はTシャツを脱いだ。真っ白な大きな胸が、使い古したブラジャーの中でタポタポと揺れていた。

 その話にはもううんざりだった。ここ最近、妻はずっとその話ばかりしていた。それが原因で常に俺と妻は言い争いをしていた。
 昨夜もそうだった。風呂上がりの妻が、「ステンレスのバスタブとタイルの壁なんてフラワー商店街にある『昭和レトロ館』で展示されてる『高度成長期のおうち』と一緒じゃない」と文句を言い出した。それで俺と口論になった。だから土曜の夜の週に一度の『交わり』が有耶無耶になってしまったのだった。
 これで三週間、妻との『交わり』はなかった。その間、俺はどうしても我慢ができなくなり、一度だけ金谷町の韓国エステで抜いてもらった。簡易的な手こきだったが、それでも今までずっしりと重かった下半身が軽くなった。
 妻もそれなりに処理しているのだろうと思った。この間、何気にクローゼットの中のアレを見てみると、以前見た時と位置が違っていたから、きっとそれで処理しているんだろうと思った。

 そんな妻の「マンションに引っ越しましょうよ」の一言で、せっかくの日曜日がどっぷりと暗くなってしまった。
 また妻の愚痴が始まらないうちにと、俺は慌てて立ち上がった。
 そして、そんな妻の視線を避けながら、アイスキャンディーの棒をいつまでも卑しく舐めている息子に「キャッチボールでもしに行くか」と言うと、息子は青く染まった舌ベラを突き出しながら「やったぁ!」と飛び跳ねたのだった。

 玄関を出ると、妻がシャワーを捻ったのだろう、ボイラーが「ボッ」と点火する音が廊下に響いた。
 確かにこの団地は古かった。結婚三年目の、まだ三十の妻には、少々残酷な住処かも知れない。
 しかし我が家には余裕がなかった。今の俺の給料ではこの古い団地でも精一杯なのだ。

 そんな暗い気持ちで廊下を進んで行くと、エレベーターの前で電球の交換をしている男と出会った。男は埃だらけのTシャツに薄汚い作業ズボンを履いていた。見るからに低所得者だった。
 そんな男をソッと見上げる俺は、日曜日でもこうして働いている人がいるんだな、と、自分に言い聞かせながらエレベーターを待った。すると、突然息子が、その男に向かって「おじちゃんさっきはありがとう」と言った。

「えっ?」

 俺は息子を見た。そして脚立に乗っている男を見上げた。

「ああ、いやいや、はははは」

 男はぎこちない笑顔で息子に笑いかけると、そのまま俺を無視して電球をくるくると回し始めた。

 エレベーターが来た。息子と乗り込み、ドアが閉まるなり俺は聞いた。

「あのおじさん知ってるのか?」

 そう聞くと、息子は「うん」と大きく頷いた。

「さっきあのおじちゃんがガリガリ君を買ってくれたの」

 俺は複雑な心境に包まれながら「なんで?」と聞いた。

「わかんない。けど、三松屋で買ってくれたよ」

 三松屋というのは、A号棟とB号棟の間にある公園の角の駄菓子屋だった。
 俺は嫌な予感がした。男のソワソワしていた態度が、俺をソワソワさせた。
 エレベーターを出ると公園に向かった。「キャッチボールは?」と聞く息子を無理矢理ベンチに座らせ、俺はもう一度、「どうしてあのおじさんにアイスを買ってもらったんだ?」と尋ねたのだった。

 息子の拙い証言を私なりに想像するとこうだった。
 まず、部屋を出ると、妻は息子の手を引いてB号棟へと向かった。そしてそのまま大川さんの部屋に行くと、「お母さん、倉庫に行って来るから、おばちゃんの部屋でいい子にしててね」と言い、妻はそのまま息子を置いて一人で倉庫に向かった。
 息子は大川のおばちゃんの部屋でリンゴを貰い、それを齧りながら『アッコにおまかせ』を見ていた。
 しかし、なかなか妻が帰って来ないため息子がぐずり始めた。
 大泣きした息子に困った大川のおばさんが妻の携帯に電話をした。
「ママ、早く来てよ!」と息子が叫ぶと、それから数分後に妻は慌てて大川さんの部屋に息子を迎えに来たのだった。
 妻と息子がB号棟を出ると、公園の隅のベンチで煙草を吸っていたさっきの男が妻を見て笑った。そして息子にも笑いかけ、「おじちゃんがアイスを買ってあげよう」と言いながら、すぐ目の前の三松屋でガリガリ君を買ってくれた。
 そしてそのまま妻と息子は俺がいる部屋に帰って来たのだった。

 息子の証言からするとこんな感じだった。
 もちろん、息子はここまで詳しい事は知らないため、細かい所は俺が捏造しているが、事実もほぼこんな感じであろう。

 そう考えると、不自然な点があまりにも多すぎた。
 最初から息子を大川さんの部屋に連れて行くというのはあきらかに変だった。あの時は俺も『アッコにおまかせ』を部屋で見ていたのだから、わざわざ息子を大川さんの部屋に連れて行ってそこで『アッコにおまかせ』を見せる必要はない。俺に息子を預けて行けばいいのだ。
 そして、戻って来てすぐに妻がシャワーを浴びた事もおかしい。というのは、妻は今朝もシャワーを浴びたばかりだからだ。
 本人は倉庫で埃だらけになったからと言っていたが、しかし妻は、倉庫から戻って来たくせに手ぶらだった。埃だらけになりながら倉庫に行ったというのに、妻は荷物など何も持っていなかったのだ。
 極めつけに不自然なのが、妻は俺に大川さんとエレベーターで偶然出会ったと言った事だ。なぜ妻は、そんな嘘をわざわざつかなければならなかったのだろう。
 謎は深まるばかりだった。

 そのうち不信感が募り、もしかしたら……という、まるで安いAVのような妄想を頭に描いてしまった。妻はあの男と倉庫で交わり、そしてその匂いを消そうとしてシャワーを浴びたのかも知れない。
 そう思うと、俺は、居ても立ってもいられなくなった。それを今すぐ確かめるべきだと自分に呟き、俺は、公園のコンクリート壁に一人でボールを打つけていた息子の手を引いてエレベーターに向かった。
「パパ、キャッチボールは?」と、驚く息子を引きずりながらエレベーターに飛び乗った。
 エレベーターで息子がグズグズと泣き出した。
 うるさい、と言いながらエレベーターを降りると、俺は息子を片手で抱きかかえ、一目散に廊下を進んだのだった。

 部屋に着くと、妻は新しいTシャツとデニムのミニスカートという姿でテレビを見ていた。風呂上がりのさっぱりした顔でいつものダイエットコーラを飲んでいる。
「あら? 早かったのね」と妻が言った。その瞬間、わーっと泣き出した息子が妻に駆け出し、妻の体に抱きつくと「パパが悪いの」と必死に訴えた。
「どうしたの?」と驚いて聞く妻に、俺は「こいつはどー転んでもイチローにはなれない」と不貞腐れ、ダイニングテーブルに腰を下ろしたのだった。

 妻はそんな私に首を傾げながらも、泣きじゃくる息子を素早く背中におぶろうとした。しゃがんだ妻のミニスカートに、ムチムチの生太ももがピタリとくっついているのが見え、あの男にあの太ももを開かれたのだろうかと思うと胸底がゾクっした。
 妻は「お昼寝しましょうね」と息子をあやしながら背中におぶった。そして背中の息子を上下に揺らしながら歩き出すと、その弾力性のある尻と大きな乳がたぷんたぷんと跳ね、再び俺の頭に、あの男に乳肉をたぷたぷと揺らされる妻の姿が浮かんだ。
 猜疑心と嫉妬心と怒りに包まれる俺がテーブルの上で握り拳を震わせていると、妻は、勝手にアレンジした子守唄を口ずさみながらベランダへと消えて行ったのだった。

 妻の姿が見えなくなると、俺は急いで浴室へと向かった。もし本当に安物AVのような事があったなら、妻の下着はそれなりに汚れているはずだからだ。
 脱衣場のドアを開けると、そこには湯気とボディーソープの香りがムンムンと溢れていた。ドアをソッと閉め、すぐさま脱衣カゴの中を漁った。
 が、しかし、昨夜の下着があるだけで、今朝のシャワーの時に履き替えていた黒い下着は見当たらなかった。妻が下着を履き替えたという形跡はなく、という事は、男に汚された下着が気持ち悪くてシャワーを浴びたという可能性は少なくなった。
 俺は、ひとまず安心しながらも何気なく湯気で曇った洗面台の鏡を指でキュキュと擦った。
(やっぱり考え過ぎか……最近、溜まってるもんな……)
 曇った鏡にぼんやりと映る自分にそう呟いた時、ふと、隣り置いてあった洗濯機が気になった。もしかしたら洗濯機の中に入れているという可能性もあるのだ。
 まさか、と思いながらもガポッと洗濯機の蓋を開けた。すると、空っぽの銀色の洗濯槽の中に、丸まった黒い下着だけが一枚ポツンと投げ捨てられているのが目に飛び込んで来た。
 おもわず顔がカッと赤くなった。
 どうしてこの一枚だけ洗濯機の中なんだ、と激しく脱力しながら、洗濯槽の中からそれを摘まみ出し、震える手でソッと開いたのだった。

妻の1_convert_20140405155849

 それは、尋常じゃない汚れ方だった。
 クロッチと呼ばれる部分には、明らかに性的分泌物とわかる汁がべっとりと付着しており、そこにはまるで深夜映画館のゴミ箱の中のような卑猥感が漂っていた。
 嘘だろっ、と、ドロドロの汁の匂いを嗅いでみた。そこにあの独特な精液の匂いはなく、取りあえずホッとひと安心してはみたが、しかし、そんな安心はすぐに消えた。
 どうしてこんなに濡れているんだという焦りと共に、例のあの男のソワソワした顔が浮かび、恐怖に近い不安に襲われた。

(下着をこんなに汚して、あいつはあの男といったい何をしてたんだ!)

 俺は握り拳を震わせながらソレをポケットに入れた。今から妻を問い詰め、その際に「これはなんだ!」と、これを証拠として突きつけてやろうと思ったのだ。
 脱衣場を出ると、息子をおぶった妻がベランダの窓越しに私を見ながら不安げな顔をしていた。
 その表情は、明らかに何かを隠している表情だった。
 確か、半年程前にも妻はそんな表情を俺に見せた事があった。
 それは、たまたま俺がクローゼットの妻の引き出しを開けた時の事だった。俺は偶然にも妻の下着の中に埋もれているピンクローターを発見してしまったのだ。
「何だこれは……」と、呆然とする俺の目を、妻は黙ってジッと見つめていた。その時の妻の表情と、今、ベランダの向こう側から俺をジッと見ているその不安げな表情は、まさしくあの時と同じだった。

妻の2

(つづく)

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