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地味な中年女・前編

2012/12/02 Sun 00:00

地味な中年女1



 午後十時。香坂一樹は、そろそろ終わりにしようかと、事務椅子をギシギシ鳴らしながら大きく背伸びをした。ここ一ヶ月、ずっと残業続きだった。今年二十六歳になる香坂一樹はまだ独身だった。

 背伸びしたその手で飲みかけの缶コーヒーを掴みオフィスを見渡した。五十坪近くある広いワンホールにズラリとデスクが並んでいた。節電のため、香坂のデスクがある一部しか照明は灯っておらず、静まり返った周囲のその薄暗さは、先日見たばかりの韓国ホラー映画を思い出させた。

 すっかり温くなった缶コーヒーを飲み干し、ふと、「結婚してぇなぁ」と独り言を呟きながらタバコに火をつけた。結婚さえしてれば、こんな残業なんかしていないのにと溜め息混じりにタバコの煙を吐き出すと、突然、誰もいないはずのオフィスにピリリリリリリっという携帯電話の着信音が鳴り響いた。

「わあっ!」と、椅子から飛び起きた香坂は、慌てて周りを伺った。急いでタバコを缶コーヒーの中に捨てた。去年からオフィスは完全禁煙と決まっており、誰かに見られたら一万円の罰金を取られてしまうのだ。

「誰かいるんですか!」と恐る恐る叫びながら、着信音が聞こえる方へと歩き出した。しかし、着信音は鳴り続けるが、誰も返事をしない。

 事務所荒らしだったらぶっ飛ばしてやる、と、勇気を奮い起こしながら、「誰だよ!」と怒鳴っては、わざとガニ股で歩き回った。すると、デスクの上でチカチカと着信ランプを光らせながらピリピリ鳴ってる携帯電話を発見した。そのデスクは、経理を担当している大江のデスクだった。

 大江和美は、香坂より七歳年上の三十三歳、未だ独身女だった。プライベートではほとんど口を聞いた事はなかったが、時々残業が一緒になる事があり、そんな時にも、「疲れましたね」と、挨拶程度の会話をするだけだった。

 香坂の中で、大江という女は『地味な中年女』というイメージが強かった。長い黒髪に縁なし眼鏡。忘新年会は毎回欠席し、飲み会なんて絶対に出て来なかった。

 誰とも会話せず、常にオフィスの隅で黙ってカチカチとキーボードを打っていた。昼食は、いつも一人で屋上の隅っこに踞り、手作り弁当を黙々と食べていた。昼休みになると、やっぱり一人で十八階の休憩ルームへ行き、自販機のコーヒーを飲みながら東京の街を黙って見ていた。

 しかし、だからと言って決してブスではなかった。スタイルも悪くなかった。あのお高く止まった縁なし眼鏡をコンタクトに変え、笑顔で明るく振る舞っていれば、そこそこの美人だろうとみんな言ってた。

『存在感の無い地味な中年女』

 香坂の中の大江和美とは、そんなイメージなのであった。

 香坂は、そんな大江の携帯を見つめていた。出るべきか出ないべきかと悩みながら、とりあえず携帯を手にすると、携帯のディスプレイには『公衆電話』と表示されていた。

 恐らく、携帯を探す大江が公衆電話から自分の携帯に電話を掛けているんだろうと思った。やはりこれは伝えてやるべきだろ、と、そう呟きながら、香坂は大江の携帯に出たのだった。

「あっ! もしもし!」

 案の定、大江の声が受話器から響いた。日頃大人しい大江が、珍しくも相当慌てているようだった。

「あのぅ、香坂と申しますが、この携帯は、」と話し始めたその途中で、「あっ、香坂君!」と、大江が叫んだ。

「ああ、はい、香坂です。大江先輩ですか? 携帯、会社のデスクの上に忘れてますよ」

 そう伝えると、大江は安堵の溜め息と共に「やっぱり会社か……」と呟いた。

「ごめんね。電車の中で落としたかと思って慌ててたの……」

「ああ、そうでしたか。それは良かったですね。で、どうしますか? 今から取りに来ます?」

 そう答えた香坂は、これが事務課の瑞希や、受付の真鍋といった若いOLだったら、迷う事なく今から家まで届けると言っていただろう。しかし香坂は大江には興味がなかった。いくら独身だとはいえ、あの地味で根暗な中年女には、さすがに触手は伸びなかったのだった。

「うん……でも、もう遅いから……悪いんだけど、私のデスクの一番上の引き出しに入れておいてくれるかな……」

「わかりました。それじゃ、一番上の引き出しに入れておきます」

 早々と電話を切ろうとすると、大江は言葉を続けた。

「香坂君、こんな時間まで残業?」

「え? ああ、まぁ、はい……」

 あたりめぇだろ、残業以外にこんな時間に会社で何するってんだよ、と心で呟きながら、面倒臭そうに唇を歪めた。

「大変ね」

「ええ。でも、まぁ、家に帰っても一人ですから、会社にいるのも家にいるのも一緒みたいなもんですよ」

 はははははっ、と無理に笑いながら、香坂は電話を切るタイミングを狙った。大江との電話は、今の自分にとっては全く意味のないものだと思いながら、立ったまま貧乏揺すりをしている。

「そう……じゃあ、頑張ってね」

 大江がそう呟いた瞬間、香坂は「はい、はい、では、よろしく〜」と、まるで嫌な取引先との電話を切るようにして、早々と電話を切ってしまったのだった。

(うっぜぇ……)

 そう呟きながら、大江の携帯をデスクの一番上の引き出しに投げ捨てると、気怠い溜め息をつきながら自分のデスクに戻った。すると、デスクの椅子に腰を下ろした瞬間、今度は香坂の携帯が鳴り出した。電話は同僚の松永からだった。
 
 「まだ残業してんのかよ!」と、ツッコミを入れる松永の声は呂律が曲がっていなかった。新婚の松永は、家で妻と飲んでいるらしく、妻の実家から送って来た旨いホタテがあるから帰りに家に寄ってけよ、と香坂を誘った。いや、今日はもう疲れたからこのまま帰るよ、と、香坂はそれを辞退した。同僚の新婚家庭に行く事ほど腹が立つ事はないのだ。

「そんな事言わずによぅ」と、松永がしつこく誘って来た。酔うとしつこくなる松永の性格を知っていた香坂は、すぐさま話題を変えた。

「そういえばさ、今さっき大江先輩と電話で話してたんだ」

「大江? ああ、あの経理のメガネ女か?」

「そうそう。その人。会社に携帯を忘れててさ、自分で自分の携帯に掛けて来たんだよ」

「ふ〜ん……経理のメガネね……」

 松永は意味ありげにそう呟くと、いきなり、「で、今からヤルのか?」などととんでもない事を言い出した。

「アホか」と香坂が流すと、松永は急に声を潜めた。

「あの女、ああ見えても、結構なスキモノらしいぜ……オマンコする相手がいないから毎晩オナってるって村井が言ってたよ」

「村井が?……どうしてあいつがそんな事知ってんだよ」

「見たんだってさ。あのメガネ女のデスクの一番下の引き出しに、でっけぇバイブが隠してあるのを」

「なんだよそれ、三流のカンノウ小説みてぇじゃん」

 香坂がははははっと笑うと、松永は真面目な口調で、「本当らしいぜ」と言った。

「あの女、ついこの間までよく残業してただろ。どうやらあれは、残業後にそのバイブを使ってオナる為らしくてさぁ……」

 香坂は、あまりの幼稚臭さにバカバカしくなり、呆れた口調で「会社でか?」と聞いた。

「そう、会社で。村井が調べた所によるとさ、あの女、残業中にオナニーばかりしてるんだってさ。夏になると、会社の屋上に行ったりして露出とかもしてるらしいぜ」

 遂に香坂はケラケラと笑い出した。

「どうして村井がそんな事調べてんだよ。あいつAVの見すぎなんだよ。しかも九十年代の古いAVばっか」

 更に香坂がケラケラと笑いだすと、その笑い声に釣られたのか松永もケラケラと笑い出し、「だよな」と呟いたのだった。

 香坂は溜め息と共に携帯をパタンと閉じた。再び事務椅子の上で大きな背伸びをしながら、煙草を吸おうかどうしようか考えていた。

 しかし、そんな香坂の頭には、大江の姿が浮かんでいた。松永の話がデタラメだという事はわかっていたが、しかし、この状況でそんな話を聞かされると、例え嘘だとわかっていても股間がムズムズとしてくるものだった。

 香坂はソッと大江のデスクを見た。(香坂君、こんな時間まで残業?)という大江の湿った声と、松永の(残業中にバイブ使ってオナってるらしいぜ)という声が交互に蘇った。

「本当かね……」と、半信半疑に笑いながらデスクの上の書類を片付け始めた。帰りは吉牛にしようかそれとも松屋にしようかと考えながら書類ケースのファスナーをギギギッと締めた。

 しかし、いくら必死に別の事を考えようとしても、香坂の頭の中には、この薄暗いオフィスで一人悶々とオナニーをしている中年女の姿が浮かんで来た。

 それは、発情した中年女の湿った息づかいが聞こえてきそうな、そんなあまりにも生々しい妄想だった。


              


 ふと気が付くと、香坂は大江のデスクの前に立っていた。きっと村井が松永をからかってるんだよ、と思いながらも、大江のデスクの一番下の引き出しに手を伸ばしたが、しかし、当然の如くその引き出しには鍵がかかっていた。

 この会社では、基本的にデスクの一番下の引き出しには私物を入れてもいいという事になっており、皆、そこには私物の貴重品などを入れたりしていた。だから、決してバイブが隠されているから鍵がかけられているとは言い切れなかった。

 そのまま立ち去ろうした香坂だったが、しかし、ふと、さっき大江の携帯を一番上の引き出しに入れた際、そこに銀色の鍵を見た気がした。香坂は何やら無性に胸を急かされた。慌てて一番上の引き出しを開けると、さっき投げ捨てた携帯電話の下に、銀色の鍵がチラッと見えた。ほら見ろ、と自分に言い聞かせながら、その鍵を一番下の引き出しの鍵穴に差し込むと、鍵は何の障害もなくスムーズに回り、引き出しはスルスルと音もなく開いたのだった。
 
 引き出しを開けるなり、食べかけの『おっとっと』と、同じく食べかけの『きのこの山』が目に飛び込んで来た。その下には先月号のファッション雑誌と、携帯の充電器と、箱詰めのホッカイロが綺麗に並んでいた。

「バイブなんてねぇじゃねぇか」と、吐き捨てた。「そんな三流エロ雑誌みたいな事がそうそうあるわけねぇんだよ」と呟いた。

 そして、引き出しを乱暴に閉めようとすると、ふと、ホッカイロの箱の奥に白いポーチのような物が押し込められているのに気づいた。

 迷う事なくそれを取り出した。ジッパーを開け中を覗いてみると、パサパサするナプキンの間にピンクローターが押し込んであるのを発見した。

「あった……」

 香坂はおもわず絶句した。それは松永が言っていたバイブではなかったが、しかし、オナニーに使う道具には違いない。

「何考えてんだよあの中年女は……」

 そう呟いた香坂は、ドキドキしながらその丸いフォルムを指でいやらしく撫でた。硬いプラスチックの感触を指に感じながら、これがあの地味な中年女の陰部を這い回っていたのかと思うと、思わずフーッと深い息を吐き出した。

 恐る恐る匂いを嗅いでみた。行為後にちゃんと拭き取っているのか、何の臭いも感じなかった。そこは無臭だったが、しかし、その部分の匂いを嗅いだというその行為自体に異様な興奮を覚えた香坂は、ツルツルするプラスチックを唇に押し当てながら、ズボンの上から勃起するペニスを握りしめたのだった。

 香坂は、ピンクローターを手にするのが初めてだった。AVでは何度も見た事があったが、実物を触るのは初めてだった。

 スイッチを入れると、まるで昆虫が飛んでいるような音がヴィィィィィィィィっと鳴り出した。その激しいバイブレーションに素直に驚いた香坂は、こんなものをアソコにくっ付けたら痛いだろ? と不思議に思いながら、その震えるローターの先をズボンの上から亀頭に押し当ててみた。

「あああっ」

 おもわずそう叫んだ香坂は、そのあまりのくすぐったさに慌てて腰を引いた。女達はこんな危ない物をクリトリスに当てていたのかと、本気で驚いた。

 しかし、そのくすぐったさを、香坂の体は再び欲しがった。もう一度ズボンに押しつけ、慌てて腰を引いた。それでもまたズボンに押し付け、そしてまた慌てて腰を引いた。まるで海老が跳ねているようだった。それを何度も何度も繰り返していた香坂は、いつしか大江のデスクから遠ざかっていたのだった。

 そのくすぐったさが逆に癖になってきた。何度もそれを繰り返しているうちに、気が付くとそれが快感に変わっていたのだ。

 素直にソレを生の亀頭に押し付けたいと思った。香坂は、自分のデスクでゆっくり楽しもうと、大江のデスクの一番下の引き出しを閉めた。そして開いたままだった一番上の引き出しも閉めようとした時、大江の携帯電話が目に飛び込んで来た。

(せっかくだから、大江先輩をネタにオナニーしたいな……)

 そう思った香坂は、そのまま大江のデスクの椅子に腰を下ろした。時刻は既に十一時を回っていた。こんな時間にオフィスにやって来る者は誰もいないだろうと安心しながら、香坂は大江の携帯を開いたのだった。

 その携帯の中に、大江が映っている画像があればと思い、大江の携帯を弄り始めた。大江がどのようにしてこのローターを使い、そしてこのデスクでどのようにして感じていたのかをリアルに想像する為にも、大江の画像は是非とも欲しかった。

 ピクチャを開き、フォルダーを開いた。ディスプレイにパタパタパタと画像が現れた。ラーメン、青空、アルタ前の横断歩道を歩くとんねるずの石橋、誰かの赤ちゃん。そんなどうでもいい画像が次々に現れた。それらをスクロールしながら、大江自身の画像はないかと目を凝らしていると、何やら怪しい画像を発見した。

(なんだこりゃ?)

 そう思いながら、その何が映っているのかわからない小さな画像をクリックし、拡大してみた。

 一瞬、香坂の心臓がビタンっと跳ね上がった。まるで殺人の瞬間を目にした時のように、香坂は愕然としていた。

 背景の金網は、間違いなくこのビルの屋上のフェンスだった。そして、そのフェンスの前で全裸となり、尻肉を両手で押し開きながら陰部を露出しているのは、まさしく大江本人だった。
 
(夏になるとさ、会社の屋上に行ったりして露出とかもしてるらしいぜ……)

 そんな松永の声が蘇った。やっぱり松永が言ってた事は本当だったんだ……と、呆然としながら、香坂は静かにズボンを脱ぎ始めたのだった。

 ズボンとトランクスを同時に脱ぎ、大江の椅子の上にあるひまわり柄の座布団に生尻で座った。びんびんと勃起しているペニスは、既にその先からタラタラと光るモノを垂らしていた。

 人差し指で、その汁を亀頭全体に塗り込みながら、画像の陰部だけを拡大してみた。綺麗に陰毛が剃られていた。
 窄んだ肛門も、濡れ輝くワレメも、ツルツルしていた。しかし、さすがに変態の三十路女だけあり、そこは相当使いこなされているようだった。ベロリと垂れ下がる小陰唇はどす黒く、奥に見えるクリトリスは枝豆のように大きかった。

(セックスのやり過ぎか……それともオナニーのやり過ぎか……)

 そう呟きながら、ペニスを力強くシゴいた。心地良い快感が下半身にジーンと走り、おもわずピーンッと伸びた足の爪先が、デスクの奥に置いてあった電熱ヒーターを蹴飛ばした。

 一気にシコシコシコっと高速でシゴき、慌ててパッと手を離した。今にも精液を噴き出しそうなペニスはピクンピクンっと波打ち、無数の血管とパンパンに腫上がったカリ首が、凶暴に浮かび上がっていたのだった。

 もしかしたら画像がまだあるかも知れない。そう思った香坂は、このインターバルの間に新たな画像を見つけ出そうと、再び大江の携帯画面をスクロールした。すると、ほんの少しスクロールしただけですぐにそれっぽい画像が見つかった。

 香坂はニヤリと微笑みながら、その画像をクリックしたのだった。

 それは、強烈な写真だった。両手を後ろで縛り、尻から巨大なバイブを突っ込んでいた。

 やはりそれも大江の顔は映っていなかったが、しかし、その後ろ姿は大江に間違いなかった。バイブと穴の結合部分を拡大し、その部分にハァハァと荒い息を吹きかけながらペニスをシゴいた。こいつは変態だ、本物のド変態だ、と呟きながら、いつもこのデスクでカチカチとキーボードを叩いている大江の姿を思い浮かべた。

 と、そこで、ある事に気づいた。この縄は、いったい誰が縛ったんだろうか、と。こんなモノを自分で縛れるはずがなかった。それに、例え自分で縛ったとしても、それならいったい誰がこの写真を撮ったのかという事になる。

(やっぱり大江さんには、それなりの男がいるのか……)

 少し残念な気がした。このまま大江のマンションに携帯を届けに行き、そこで大江をレイプしてしまうのもおもしろいかも知れないと、密かに考えていた香坂は、大江に男がいるとわかった時点でそれを諦めざるを得なかった。

(あんなに真面目で地味な大江さんを、ここまで狂わす男というのは、いったいどんな変態男なんだろう……)

 そう思いながら更に画像をスクロールして行くと、一番最後にまたしても怪しげな写真を発見した。

 香坂は迷う事なくそれを開いた。

 そして、そこに映し出された凄まじい光景に、今度こそ本当に愕然としてしまったのだった。

(つづく)

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