淫らな汚部屋
2013/08/23 Fri 21:48
《あらすじ》
24才のOLは、なんでもヤリっぱなしの女だった。
部屋はゴミ屋敷のように汚れ、不特定多数の男達に中出しされながらも放置されたままのアソコは、まるでヘドロにまみれたヌルヌルの排水溝のように汚れていた。
「くだらない……」
そう呟いたユカリは、お気に入りのミュウミュウのトートバッグを忌々しくベッドの上に投げ捨てた。はぁ〜っと溜息をつきながらペットボトルが散乱する座卓の上に腰を下ろし、テレビをつけようとしたがリモコンが見当たらなかった。
今日の男は最悪だった。そう思いながら床にドスンッと尻餅をつくと、ついさっき中出しされた精液が今になってヌルッと溢れた。
とたんにさっきの男の体臭が鼻に甦った。男の汗ばんだ脇は常に筑前煮のようなニオイが漂っていた。そのニオイは鮮明に思い出す事ができるのに、男の顔は思い出せなかった。
パイプベッドの下を探した。ベッドの下には約五年分の『女性セブン』が乱雑に押し込まれ、テレビのリモコンが紛れ込む余地はどこにもなかった。
そこらじゅう探してみたがテレビのリモコンは見つからなかった。
ユカリが住むこのマンションは、八畳一間のワンルームなのによくモノが紛失した。特に携帯やリモコンの部類はよく消えた。それらはいつも、探すと見つからないくせに、探すのを諦めるといきなりひょっこり出てきたりした。
この不思議な現象は、きっとこの部屋に隠れている妖精が悪戯をしているに違いないと本人は真面目にそう思っているが、しかしユカリの部屋に隠れているのは、妖精どころかゴキブリと蜘蛛とカメムシばかりで、それらのモノが紛失するのは、ただ単にその部屋がゴミ屋敷レベルに散らかっているからに過ぎなかった。
ユカリは、なんでも出しっぱなしの散らかしっぱなしという『ヤリっぱなし女』だった。脳の一部分が壊れているのではないかと思うくらい病的にだらしなく、トイレの水は気が付いた時にしか流さないくらいだった。
そんなユカリも気が付けば二十四才になっていた。東京に出て来て六年が過ぎていた。
千葉の船橋から東京に出て来たのは、地元の女子校を卒業後すぐの事だった。伯母の勧めで上野の美容専門学校に入学したが半年で辞め、そのままアルバイトを点々としながらだらだらと東京を彷徨っていた。
様々なバイトを経た後、たまたま今の会社に辿り着いた。社員6人の小さな会社だった。
貿易関係の会社らしいが、毎日窓拭きばかりさせられている雑用事務のユカリには会社の実情はわからなかった。
そんな会社で働いて二年。このワンルームマンションに住み着いて二年。
この二年間、ユカリはこの部屋を一度も掃除した事が無かった。
そもそもここに掃除道具は無く、未だ部屋の隅には引っ越しセンターの段ボールがそのままの状態で放置されているほどだった。
多くの男がこの部屋にやってきた。が、しかし、誰一人としてこの散らかった部屋に文句をつけた者はいなかった。
ここにやって来る男達は部屋などどうでも良かったのだ。食べかけの腐った弁当が放置されていようが、雑誌とペットボトルと脱ぎ捨てた衣類が散乱していようが、足の踏み場がなかろうが、そんな事は関係なかった。
ここにやってくる男達は、ユカリの穴の中に欲望を放出さえできればそれでよかったのだった。
散乱するDVDの上に足を投げ出し、強烈に足を締め付けていたニーソックスを引き千切るように脱いだ。
このニーソックスはネット通販で買った。足を細く見せる魔法のソックス、というキャッチコピーに騙され、ついつい五足もまとめ買いしてしまったが、しかし最近になって、それはただ単にサイズが小さいのだという事に気が付いた。
二時間以上も締め付けられていた太ももや脹ら脛がみるみると膨らんできた。まるで圧縮袋から取り出された布団のようだ。
ユカリはバリバリのルーズソックス世代だった。だからこの足を締め付けるニーソックスはいつまでも馴れず、あのルーズソックスのだぶだぶとした履き心地が懐かしくて堪らなかった。
ぶよぶよに浮腫んだ足を投げ出したまま、山のように吸い殻が積まれた灰皿の中からマイルドセブンを探し出し、その次元大介レベルに潰れたシケモクを唇に挟んだ。
ユカリの部屋の灰皿にはありとあらゆる銘柄のシケモクが溜っていた。それはこの部屋に足繁く通っている男達の吸い殻であり、その銘柄の違いの多さからして、いかにこの部屋に様々な男達が通っているかを物語っていた。
ユカリはへし曲ったマイルドセブンを吹かしながらフリフリのミニスカートを脱いだ。腹を引っ込めながらフックを外した。これも異様にサイズが小さかった。弛んだ下っ腹にはミミズが這ったような醜い痕がくっきりと浮かんでいた。
テーブルの上に置いてある飲みかけの牛乳パックは賞味期限が一ヶ月以上も過ぎていた。菱形に口を開いたパックの中に煙草を落とすと、パックの底でジュッと小気味良い音が鳴った。
サイズの小さいミュウミュウのTシャツを悪戦苦闘しながら脱いだ。Tシャツが顔からスポッと抜けると、スプレーで固めていた髪の毛がパンクロッカーのように逆立った。
脱いだTシャツをベッドの上に投げた。ミュウミュウのバックとTシャツだけはことのほか大切にしていたため、そこら辺に放置する事はなかった。大切な物は全てベッドの上に置くようにしていた。
ユカリが大切にしているそのミュウミュウのバッグというのは、去年の忘年会の帰り道、六本木の交差点で信号待ちをしている時に黒人に薦められた物だった。
黒人は、これはココだけの話し、香港グループの盗品だから安いのデスこれは誰にも内緒なのデス、と、生肉のような匂いのする息でユカリの耳元に囁いた。
それでもそのバッグは八万八千円もした。ユカリは悩んだ挙げ句、ついさっき会社で貰ったばかりのボーナス袋の中から五万円を取り出した。
「五万円じゃだめですか?……」
しなを作りながらそう黒人に微笑むと、黒人は「OK、OK」と目を輝かせながら五万円をポケットに押し込み、ユカリの肩を抱いた。
そのまま暗い路地まで連れて行かれ、ビルとビルの隙間の奥でミュウミュウのバックを受け取った。人一人がやっと入れるほどのその細い隙間には、エアコンの室外機の音がグオオオオオンっと響いていた。
ニヤニヤと笑う黒人は、暗闇の中に真っ白な歯だけを浮かばせながらユカリのパンティーを下ろした。ビルのコンクリートの壁に両手を付かされ、背後から左足を持ち上げられた。
黒い獣がグイグイと肉ヒダを押し開きながら入って来た。
黒人は唸り声をあげながら腰を振った。黒い獣がユカリの中を狂ったようにピストンしていた。
ユカリは、足下に散乱する使用済みコンドームと、粉々に砕けた注射器を黙って見つめていたのだった。
そうやって手に入れたミュウミュウのバックだった。初めて有名ブランドを手に入れたユカリは、これでやっと東京の女になれた気がした。
ミュウミュウのバックを手に入れた丁度同じ頃、今度はミュウミュウのTシャツを発見した。
それは、中川新町のボーリング場の跡地に新しくできた巨大パチンコ店の景品コーナーに並んでいた。
ユカリはどうしてもそれが欲しかった。お揃いのミュウミュウのバックとTシャツで青山通りをブラブラと歩いてみたかった。
ユカリは店員に、そのTシャツを売って欲しいと頼んだ。しかし店員は、玉と交換じゃないと無理です、と冷たく笑った。
いっその事、玉を買ってしまおうかと考えたが、しかしそれだと凄い金額になってしまう。
なんとか売ってもらえないかと、再度店員に交渉していると、それを横で聞いていた中年の男がいきなり口を挟んできた。
「そのTシャツ、オレの玉で交換してやるよ」
男は、玉がギッシリと詰まったドル箱を三つも抱えていた。
「そのかわり、ちゃんと買い取ってくれよ、そんな派手なTシャツはウチの母ちゃんじゃ似合わねぇからよ」
男はそうケラケラと笑いながら、三つのドル箱をカウンターの上にガシッと置いたのだった。
パチンコ店の休憩所で待っていると、男が景品のTシャツをぶらぶらさせながらやって来た。ユカリがTシャツのお金を払おうとすると、男は「とりあえず一杯付き合えや」と言いながら、スタスタとパチンコ店を出て行った。
そのままユカリはパチンコ店の裏にある大衆居酒屋の座敷で酒を飲まされた。一時間も過ぎた頃、ユカリは意識を朦朧とさせながら、「Tシャツは、いくらなら譲って頂けるんですか」と、恐る恐る男に聞いた。
すると男は酒臭い息をハァハァと吐きながらテーブルの下に手を回し、ユカリの太ももを触って来た。そしてナメクジのように汗ばんだ指をスカートの中へとじわじわ進ませながら、「ホテルに付き合ってくれたら、こんなもんただでやるよ」と笑ったのだった。
異様なほどに鏡が張られた部屋で、ユカリは見知らぬ中年の親父に身体中を舐められた。洗っていない汚れた性器までも、男はぺちゃぺちゃと下品な音を立てながら隅々まで舐めまくった。
身体中が男の唾液で酒臭くなった。そんな身体で、今度は男の身体を舐めさせられた。男の性器には白い垢が溜っていた。それさえもユカリは舐めさせられ、そして精液を飲まされた。
男はラブホのフロントに電話を掛け、赤いロープを購入すると、それでユカリの身体を縛った。
ユカリが痛い痛いと言うと尚も興奮し、ユカリはロープで縛られたまま殴られるようにして犯された。
しかし、男は散々ユカリの中に放出するといきなり態度を変えた。ホテルに行ったらTシャツはただでやると言っていたのに、帰り間際になって一万円払えと言って来た。
そのときユカリは三千円しか持っていなかった。これだけしか持ってませんと三千円を男に差し出すと、男は「残りは明日でいいから」と言いながらその三千円をユカリの手から毟り取ったのだった。
その翌日、残りの七千円を持ってパチンコ店に行くと、またしてもホテルに連れて行かれた。今度は、男とは別に二人の男が付いて来た。
ユカリは三人の男に同時に嬲られた。昨日と同様、ロープで縛られ、精液を飲まされ、そしてその一部始終をハンディカムのビデオで撮影されたのだった。
ユカリは、このように自分の肉体を犠牲にしながらミュウミュウのバックとTシャツを手に入れたのだが、しかし、勿論、そのバッグとTシャツはニセモノだった。
Tシャツのタグは『miumiu』の『i』が大文字の『l』になっていた。バッグは大阪で作られたパチモンで、アメ横に行けば五千円で叩き売られているような粗悪品だった。
しかしユカリはそれらがニセモノだという事には全く気付いていなかった。
元々ユカリはブランド品などには興味はなく、特にそれが欲しかったと言うわけでもなかった。
ミュウミュウなどというブランド名も、たまたまテレビのワイドショーでタレントが自慢げにバッグを見せびらかしていたのを見て知っただけであり、それまではミュウミュウなど全く知らなかった。
だからそれがニセモノかどうかなどユカリにはわからない事であり、例えそれがニセモノだとわかったとしても、ユカリにとっては別にどうでもいい事だった。
ニーソックスを剥ぎ取り、ミニスカートを脱ぎ捨て、そしてミュウミュウのTシャツをベッドの上に投げ捨てたユカリはパンティー一枚の姿となった。
随分と履き古したそのパンティーは、かれこれ一週間近く履きっぱなしだった。真っ赤なサテン生地の両サイドに二本の細い紐が走っており、その紐と紐の間から横っ腹の贅肉が醜くはみ出している。
床に脱ぎ捨ててあったジャージの上にゴロリと寝転がった。ジャージの下に何かがあり、それが背中をゴリゴリと押さえつけた。あまりの痛さにチッと舌打ちしながらそれを取り出すとテレビのリモコンだった。
ベッドの上に両足を乗せたままテレビを見た。足を高く上げると下半身の血液の循環が良くなり、脚の浮腫みが取れるとネットで知ってからは、部屋では常にこの体勢を心掛けていた。
この時間はどのチャンネルもニュースしかやっていなかった。ストーカーに刺し殺された銀座のホステスのニュースをぼんやり見ながら放屁した。一度でいいから殺されるほどにストーカーされてみたいものだと思いながら、もう一度放屁した。
突然、異様な空腹感を覚えた。辺りを見回すと、一度しか使った事の無い腹筋マシーンの下でポテトチップスの袋が口を開いているのが見えた。
それを足の指で摘みながらズズズッと引き寄せると、中から親指ほどのゴキブリが飛び出し、右往左往しながら散乱する衣類の下に潜り込んでいった。
ポテトチップスの袋の中には、粉々になったカスが溜っているだけだった。それでも袋口を尖らせ、一気にザザザッと口の中に流し込んだ。塩と油の味しかしなかった。
時刻は十一時を過ぎていた。湿気ったポテトチップスのカスをくしゃくしゃと咀嚼しながら、風呂に入るべきかどうするかを悩んでいた。
奥歯に詰まったポテトチップスを指でほじり、その指先に付いたカスをまた食べながら、ふと、中出しされたまま眠ってしまうと、翌朝、アソコが異様に痒くなる事を思い出した。
今から数ヶ月ほど前、朝、目を覚ますなり気が狂いそうになるくらいアソコが痒くなった事があった。
丁度その前の晩、二刀流のオカマにホテルへ連れて行かれ、膣と肛門を満遍なく攻められていたため、もしや恐ろしい病気をうつされたのではないかと慌てて産婦人科に飛び込んだ。
状況を説明し診察台の上で股を開いた。するとサンタクロースのような老医師は、ユカリの陰部を見るなり「子供を作る気がないのなら、膣内射精後は必ず洗浄しなさい」と怒り出し、オカマの精液でバリバリになった陰毛に消毒液をぶっかけたのだった。
そんな苦い経験を思い出したユカリは、やっぱり風呂に入った方が良さそうだと上半身をムクリと起こしながらも、それでもやっぱり風呂に入りたくないと異様に痒い頭皮を爪でガリガリと掻きむしっていると、ふいに携帯が鳴り出した。
電話は水道局の男からだった。
電話に出るなり男は、「今、近くのスナックで飲んでるんだぜ」と、なぜか自慢げに笑った。電話の向こうではチャゲ&飛鳥の『Yah Yah Yah』を歌うカラオケの音が狂ったように鳴り響いている。
男は、回りの友達に「うっせぇんだよおまえら、女んちに電話してんだからちょっと黙ってろよ!」と戯けて怒鳴ると、わざとらしく声を潜めながら「オレに会いたいんだろ」と勝手な事を言った。
その男とは五日前に知り合ったばかりだった。
五日前の日曜日の朝、トイレの排水管が詰まっている事に気付いたユカリは慌てて水道局に電話をした。しばらくすると四十代後半の太々しい男がやって来た。それがこの男だった。
男は、「こんなの水道屋の仕事で俺達の仕事じゃねえんだよな……」と、ブツブツと愚痴をこぼしながらも、持参してきたゴム手袋を両手にはめると、便器の中に押し込んだラバーカップをガボガボとやりだした。
すぐに排水管がゴボゴボと動きだし、便器には茶色い汚水が溢れた。
男は、「くせぇくせぇ」と悪態をつきながらも、その汚水の中から排水管を詰まらせていたモノを摘まみ上げた。
男のゴム手袋に摘まれていたのは、無数のコンドームが絡まり合った『塊』だった。
男にそれを見せつけられた瞬間、ユカリの頭に上司の鈴木部長の顔が浮かんだ。その前の日の晩、ユカリの部屋に鈴木部長が来ていたからだ。
あの日、会社が終わって帰宅しようとしていると、いきなり鈴木部長に呼び止められ、「経費の事で話しがあるから」と足止めを喰らった。
三十分ほど鈴木部長と帳簿を見ていた。しかし帳簿に特に問題は無く、鈴木部長はパタンっと帳簿を閉じながら、「失敬。私の勘違いだったよ」と笑って誤魔化すと、いきなりスナックへ誘われた。
鈴木部長に連れていかれ小さなスナックは土曜の夜だというのに客は一人もいなかった。鈴木部長はそのスナックの常連らしいが、ホステス達は誰も鈴木部長を相手にしていなかった。
そこで延々と会社の愚痴を聞かされながら濃厚なウィスキーを嫌と言うほど飲まされた。ユカリは酒が弱かったが、部長には逆らえなかった。
泥酔してしまったユカリは鈴木部長に肩を担がれスナックを出た。
意識を朦朧とさせながらも、鈴木部長の耳の裏から漂って来る加齢臭だけはしっかりと覚えていた。
部屋まで送って行くからキミの家はどこだ、と、鈴木部長に聞かれたのはタクシーの中だった。ふと気が付くと、知らないうちにタクシーに乗っていた。
マンションに着くと、鈴木部長がユカリのバッグの中から、勝手に部屋の鍵を出そうとした。
慌てたユカリが「もうここで結構ですから」と言った瞬間、喉の奥から安物のウィスキーとモロキュウの破片がゴボっと逆流した。
「うっ!」っと慌てて唇を窄めたが、しかし、ユカリの窄めた唇はいとも簡単に欠壊し、大量の吐瀉物が勢いよく噴き出したのだった。
鈴木部長はカンカンに怒っていた。そんな鈴木部長の機嫌の悪い声を薄れゆく意識の中でぼんやりと聞いていたユカリだったが、しかし、何かがおかしい事に気付いた。
なんだろう、と思いながら目を開けると、ユカリのすぐ目の前に鈴木部長の薄くなった頭が迫っていた。
鈴木部長は、乱暴に開けられたブラウスの中に顔を突っ込みながら、ユカリの乳首にむしゃぶりついていた。べちょべちょとユカリの乳首を舐めながらも、去年新社長になったばかりの春日井社長の悪口を、憎しみを込めて話し続けていた。
お尻が痛かった。尾てい骨が妙にグリグリしていた。そこで初めて自分がキッチンの横の通路に寝かされている事に気付いた。
スカートを履いたままで股を大きく開かれ、その股の間で鈴木部長が臭い息をハァハァと吐きながら腰をコキコキと振っていた。
鈴木部長が上下に動く度に酸っぱい吐瀉物のニオイが漂った。部長は、ずん,ずん、っとペニスを突き刺しながら「殺してやる、殺してやる」と何度も呟き、ユカリの尻肉を鷲掴みにしていた。
その殺す相手が自分なのか、それとも春日井社長なのかはわからなかったが、ユカリは、とたんに鈴木部長のその病的な雰囲気が恐ろしくなり、そのまま泥酔したふりを続けたのだった。
トイレに詰まっていたそのコンドームは、昨夜の鈴木部長が捨てていった物に違いなかった。そう言えば、タクシーで送ってもらっているとき、途中、鈴木部長が駅前のコンビニに寄ったのをなんとなく覚えている。きっとあれはコンドームを買っていたのだろう。
ユカリはそう思いながら、汚物まみれのコンドームの塊を見つめていた。泥酔した部下を陵辱し、その証拠を隠滅しようと、夜中のトイレでこっそりコンドームを流している鈴木部長の姿を想像し、なんともいえない淋しさに包まれた。
水道局の男は、歪に絡まったコンドームの塊を一枚一枚指で剥がしながら、「こりゃあ詰まって当然だ」と目を丸めた。
ユカリは黙っていた。トイレの前にポツンっと立ちすくみながら俯いていた。
男はそれを、これみよがしに便器の縁に張り付けた。そしてピンクのコンドーム三枚を並べ、「お宅、確か独身だったよね……」といやらしく笑った。
男は、羞恥心に駆られるユカリの顔を満足そうに見つめながらビニール手袋を外した。そして便器の前に静かにしゃがむと、「これ、彼氏のコンドーム?……」と聞きながら、いきなりユカリの脹ら脛を撫でた。
「やめて下さい……」
蚊の鳴くような小さな声でユカリが呟くと、男はユカリのアキレス腱を指で摘み、「お宅の彼氏、こんなとこにゴム捨てるの?」と笑った。
それでもユカリは抵抗しないで黙っていた。そんなユカリに男はイケると思ったのか、いきなり便所の床に両手を付くと、ニヤニヤと笑いながらユカリのスカートの中を覗き込んだ。
「うわぁ……アソコが濡れてるよ……パンツにシミが付いてるわ……」
男はユカリの足下で嬉しそうに呟いた。
確かにユカリのパンツにはシミが浮き出ていたが、しかしそれはアソコが濡れているからではなく、一週間以上履きっぱなしで汚れていたからだった。
ユカリが何も抵抗しない事を、勝手に『合意』と受け取った男は、「オレね、最初からな〜んか怪しいなぁ〜と思ってたんだよね」などと嬉しそうに呟きながらユカリの下着を素早く脱がせた。
ユカリはそれでも抵抗しなかった。黙ったまま薄汚い作業服の水道局員の丸くなった背中を見下ろしていた。
立ちすくんだままのユカリの下半身に抱きついた男は、両手で尻を揉みながらモサモサの陰毛の中に顔を埋めると、「オレとヤリたかったんだろ、最初からオレにこうされたかったんだろ……だからフェロモンをプンプンさせてたんだろ」などと、実にナルシストな妄想を呟きながら陰毛の中にジョリジョリと舌を走らせた。
男はトイレでユカリを犯した。便器に両手を付かせ背後から突きまくった。イク寸前にヌポッとペニスを抜いた男は、突き出した尻に精液をビュッ、ビュッ、っと飛ばした。男はハァハァと荒い息を吐きながらヌルヌルのペニスをシコシコとシゴき、そして一言、ユカリの背中に向かって「メス豚め……」と呟いたのだった。
男は翌日もやって来た。玄関のドアを開けるなり、「今夜は飲もう」と笑った男は、ビールとスナック菓子が大量に詰まったコンビニの袋をぶら下げながら、勝手に部屋の中にズカズカと上がって来た。
男は、「オレのおごりだ」と自慢げに笑いながら、コンビニの袋からビールと安っぽいおつまみを取り出した。そんな袋の底に、赤いビニールのガムテープが二つ転がっていた。
男は、図々しくベッドに寝転がりながら、「遠慮せずにもっとグイグイ飲めよ」と缶ビールを勧め、次第に酔っぱらってきたユカリがぐったりすると、さっそく赤いガムテープを袋から取り出した。
「一度でいいから、コレをやってみたかったんだよね」
男は目をギラギラさせながらそう微笑むと、全裸にしたユカリの身体に赤いガムテープを巻き付けた。
両手両足を拘束されたユカリは歪な体勢で寝転がされ、そのままズコズコとペニスを入れられた。
犯されながら携帯で写真を撮りまくられた。顔や尻に精液をぶっかけられるシーンを携帯で撮影された。
そして男は、散々ユカリの身体を弄んだ挙げ句、「もう疲れたわ……」と、まるでそれがユカリのせいのように吐き捨てると、ガムテープで縛られたユカリを放置したまま、そそくさと部屋を出て行ったのだった。
水道局の男はそんな男だった。バカで図々しくて自分勝手な男だった。
そんな水道局の男が、電話口で勝手に喋っていた。わざと回りにいる者達に聞こえるような大きな声で、「じゃあ今から行ってやるよ」とほざき、挙げ句には「明日は仕事だっつうのに、チッ、しょうがねぇヤツだなぁ」などと、舌打ちしながら勝手な事を言っていた。
電話は一方的に切れた。ユカリは携帯を放り投げると再び寝転がり、長い欠伸と共に大きな背伸びをした。
水道局の男が今から来るという事は、またしてもアソコが汚されると言う事だった。だから今風呂に入るのは意味がないと思った。
これで今夜も風呂に入らなくてもいいという口実ができたユカリは幾分か気が楽になった。
長い欠伸を終えるとまたしても放屁した。ぷっぷっぷっぷっと、キレの悪い屁が断続的に続いた。その屁の音がドコモの携帯で電話をかけたときの最初のコール音に聞こえ、おもわず「クスッ」と鼻で笑った瞬間、不意に尿意を覚えた。
トイレに行くのが面倒臭かった。
しかし、おしっこを我慢したままセックスすると、その最中に洩らしてしまう恐れがあった。
ふと、そのおしっこを、『潮吹き』だと勘違いしては、またしても威張り散らす水道局の男の顔が浮かんだ。
あの男の得意顔には、ほとほと嫌気をさしていた。セックスの最中、驚くほどにヘタクソなセックスのくせに、「イキたくなったら勝手にイッてもいいぞ」などと得意満面で囁くほどの男なのだ。
あの憎たらしい得意顔を思い出したユカリは、やっぱりトイレに行った方が良さそうだとゆっくりと起き上がった。すると、すぐ目の前に置いてあった、『志水屋』の出前桶が目に飛び込んで来た。それは、三日前、天ぷらうどんを出前してもらった時の物だった。
ザザザッと出前桶の蓋を開けた。カツオだしの香りがプ〜ンっと漂ってきた。
丼の中にはクシャクシャのサランラップと、へし折られた割り箸が無造作に押し込まれていた。
それを指で摘み上げると、丼の底にはうどんの汁が残っていた。
うどんの汁はおしっこの色によく似ていた。パンティーを脱いだユカリは、迷う事無く床に置いた丼を跨ぎ、そこにしゃがんだ。
シュッという音と共に黄金色の小便が噴き出した。残っていたうどんの汁がドボドボドボっと音を立て、小便とうどんの汁が雫となって辺りに飛び散った。
口を開いたままの膣には、ドロドロの液体が糸を引いていた。それが、しゃがんでいた股の間から丼の中にトポンっと落ちると、ドロドロの液体は茶色い水の中で白い塊を作った。
「マジかよ……」
突然背後からそんな言葉が聞こえた。振り返ると、そこには水道局の男が呆然と立ちすくんでいた。
ユカリは男を無視して放尿を続けた。小便は止めどなく続き、膣から伸びる精液も、途切れる事無く糸を引いていた。
背後から、カチャカチャカチャっとベルトをはず音が聞こえて来た。ドスンっという音と共に、床に両膝を付いた男がユカリのしゃがんだ尻を両手で支えた。
長い肉棒がヌルッと穴の中に滑り込んで来た。一瞬小便は止まったが、男が腰を振り始めると再び小便は噴き出した。しかし、下半身が揺れているため小便は方向を失い、丼の横に置いてあった『ザ・テレビジョン』を直撃した。小便が吹き掛かるテレビジョンの表紙は『マツケンサンバ』の衣装を着た松平健だった。かなり古い。
「あぁぁぁ、すげぇよ……もうヌルヌルじゃねぇか……」
水道局の男はそう唸りながら腰を速め、背後からユカリの乳を揉みしだいた。ハァハァと荒い息を吐きながら、亀頭がコリコリして気持ちがいいよ、などと震える声で唸っている。
床に顔を押し付けていたユカリは、テレビ台の下でジッと身を潜めているゴキブリを見つめていた。
男達は、こんな事をしていったい何が楽しいんだろうと思うと、ふと(くだらない……)っという言葉がポツリと溢れた。
淫らな汚部屋に、ユカリの尻肉と男の太ももがパンパンと乾いた音が響いていた。
おっとせいのように喘ぐ男が「中で出しちゃうぞ」と、妙に甘えた気持ちの悪い声で呟いた。
ユカリはテレビ台の下に素早く手を伸ばし、ゴキブリを拳の中にサッと捕まえた。
そして男の精液が膣内に迸るのを感じながら、そのままペシッと握り潰したのだった。
(淫らな汚部屋・完)