手コキ姫・後編
2012/03/30 Fri 12:30
—5—
洋司が女のアソコという物を初めて見たのは、高校に入ってからだった。
それは二年生の中間テストの前日だった。深夜二時に突然茂野からメールが届き、『たまには息抜きしろよ(笑)』というコメントと共にアドレスが添付されていた。
何の疑いも持たず素直にアドレスを開いた。案の定アダルトサイトだった。しかもそれは完全無修正のエロ動画ばかりを集めたサイトで、いきなりトップ画面から、黒ナマズのような巨大なペニスが、ぐにょぐにょとした黒い穴の中を行ったり来たりしている動画が自動再生されていた。
それが、洋司が生まれて初めて見た女性器や性交シーンだった。
互いの性器が行ったり来たりとピストンするシーンを見つめているとクラクラと目眩を感じた。自然に股間へと手が行き、ギンギンに固くなったペニスをズボンから捻り出すと、動画の動きに合わせてシコシコとシゴき始めた。
結局、朝まで動画を見続けた。その間、三回も精液を飛ばしてしまった。当然、翌日の中間テストのコンディションは最悪で、その日の数学のテストは今までに取った事のない過去最低の七十点を記録してしまったのだった。
それからというもの、二度とエロ動画などというものを見なくなった。エロ動画には大いに興味はあったが、しかしそれを見る事によって自分の将来が台無しになってしまうような気がして、それ以来、一度もサイトを開く事は無かった……
が、しかし、今、洋司の目の前には、紛れもなく女のアソコが卑猥な姿を晒していた。
傷ひとつない真っ白な太ももの谷間に、白魚のように美しい指が這い回り、その指がパンティーを横にズラしては、歪なワレメをネチョッと開いているのだ。
犬のように四つん這いになった洋司は、アゴを地面に押し付けながら、しゃがんだ女のスカートの中を一心不乱に覗き込んでいた。
女はそんな洋司をジッと見下ろしながら、「もう、いい?」と恥ずかしそうに呟いている。
「も、もう少しお願いします……」
「お風呂入ってないから汚れてるでしょ……恥ずかしいよぅ……」
「そんな事ないっす……す、すげぇ綺麗です……」
そう答えるものの、しかし本当は酷く汚れていた。ネチョッと開いたピンク色の内部にはヨーグルトのような白濁の液体が渦巻き、茶色く黒ずんだ左右のビラビラには恥垢らしき白いカスがちらほらと付着していた。
本来ならば目を背けたくなるような汚れた部位ではあるが、しかし、この部位があのフジテレビのアナウンサーのような綺麗なお姉さんの部位だと思うと、そんな汚れも不思議と切なく思えてならなかった。
そんな陰部に洋司は更に顔を近づけた。
竹やぶから注ぎ込む生温かい夜風に混じり、奇妙な生臭さがプンっと鼻に付いた。その生臭さは、寂れた商店街にある小さな魚屋の店先を通りかかった時に漂って来る魚介類の刺激臭によく似ていた。
本来ならば慌てて顔を背ける所だが、しかし、その香りが、いつも妹が愛読している『JJ』という雑誌のモデルのような綺麗なお姉さんから発している香りだと思うと、そんな不快臭も不思議とエロい香りに変わって来るのだった。
そんな怪しい汚れと匂いに刺激された洋司は、もはや何が何だかわからないくらいに興奮していた。
(この人のウンコだったら食べてもいい!)
唐突にそう思った洋司は、一瞬にして壊れた。今まで、モーニング娘すら知らない地味な青春を送って来た洋司にとってその刺激は、脳を著しく破壊するほどの威力を充分持ち合わせていたのだ。
「お、お姉さん、ぼ、僕……」
そう吃りながらウミガメのように首を伸ばすと、目の前のワレメに洋司の鼻先が食い込んだ。
「ダメっ!」
女は細い両手で洋司の頭を押し返すと、そのままスクッと立ち上がった。
突然、洋司の目の前から切ないワレメが消えた。狼狽えた洋司は「あわわわわっ」と呻きながらも、目の前に立っている女の小さな尻に、慌ててしがみついた。
「お、お願いします! ペロッとだけでいいですから、一回だけでいいですから舐めさせて下さい!」
洋司はそう叫びながら、女の返答を聞かずして女のスカートを捲り上げた。
「やだっ!」
女の小さな手が尻の谷間を隠そうとした。そんな手を洋司は払い除けると、ハフハフと荒い息を吐きながらプクッと突き出た尻の谷間に顔を押し付けた。
抵抗する女の細い太ももを腕で押さえつけ、もう片方の手で尻肉の谷間を開いた。チョコレート色の肛門が月夜に照らされ、剃った尻毛のポツポツまでもが洋司の目に飛び込んで来た。
そんな可愛い肛門から微かなウンチ臭が漂って来た。無我夢中で、固く窄めた舌を陰部に押し付けると、ピリっと酸味の利いた塩っぱさが洋司の舌にジワっと広がったのだった。
—6—
「今度、こーいう事したら、本当に帰るからね……」
そう呟きながらそそくさとスカートを直す女は、頬をプクッと膨らませながら洋司をキッと睨んだ。
「すみません……つい、興奮してしまいまして……」
呆然と立ちすくむ洋司は、まるで廊下に立たせれた昭和の小学生のようにぐったりと項垂れていた。
いくら興奮していたと言えど、いきなり他人様の陰部を舐めるなどという、よくよく考えれば誠に持って失礼な事をしでかしてしまった自分のバカさ加減に、洋司は自分自身をぶん殴りたいほどの嫌悪感に包まれていた。
しかし、そんなぐったりと落ち込む洋司に、ふいに女はクスッと笑い掛けた。そして意味ありげにニヤニヤと微笑みながら洋司の顔を覗き込むと、「キミ、なかなか素直だね」と、戯け口調で囁いては洋司の刈り上げ頭を優しく撫でた。
そう囁く女の生温かい息が項垂れる洋司の頬を優しく撫でた。そんな女の息は、清潔感溢れる無臭だった。
「それじゃあ、時間がないから始めよっか……」
女はそう言いながら、再び洋司の足下にゆっくりとしゃがんだ。
しゃがむなり洋司のペニスをギュッと握る。先程とは打って変わり、今のペニスはカチカチに固くなっていた。
上下に動き出した女の手は、ただ単調に動いているのではなく、ペニスを斜めに向けてシゴいてみたり、先っぽだけをシゴいてみたり、はたまた早くなったり遅くなったりと、色々なバージョンで動いてみせた。
これはまさしく『テクニック』というヤツだと洋司は身震いした。日頃自分でシコシコしている時よりも百倍は快楽を得ていると本気でそう思った。
「気持ちいい?」
女は上目遣いで洋司を見つめ、わざとらしく目をウルウルとさせながら囁いた。
「き、気持ちいいです……」
そう呟く洋司は、このまま女と見つめ合っていれば瞬く間にイってしまうと思い、慌てて視線を夜空に向けた。
しかし、女はそんな洋司を見逃しはしなかった。
女は、早く射精させてしまえばその分労働時間が得すると思っているのか、それとも、素直なサービス精神からそうしているのか、ペニスを握るもう片方の手で自らの胸を弄り、金玉にハァハァと熱い息を吹き掛け始めてきた。
凄まじい快感が洋司の脳味噌を溶かした。自然に膝がスリスリと擦り合い、まるで小便を我慢している女子のように情けない内股になってしまった。
あぁ、ヤベ、イキそうだ……と、思う気持ちを打ち消すかのように、慌てて4ケタの掛け算を始め、まるで計算機の如くそれを次々にこなして行く。
そうすれば一瞬は昂りを抑える事はできるが、しかし女も負けてはいない。女は突然「うぅぅん〜」と悩ましい声を唸り出すと、なんと、その子猫のような小さな舌先で金玉をチロチロと舐めだしたのだ。
洋司の攻防はいとも簡単に打ち破られてしまった。慌てて5ケタの割り算を始めた所で、もはや高揚する気持ちを抑える事はできなかった。
「あぁぁぁ……」
遂に洋司は低い声を洩らしてしまった。すかさずその声に反応した女は、シコシコとシゴくペニスの先に唇を近づけると、喉をヒクヒクさせながら「お口に出して……」と優しく囁いた。そして洋司の目をウルウルと見つめながらその小さな口をゆっくりと開いたのだった。
洋司の脳味噌が凄い早さでグルグルと回り始めた。初めて見た女の陰部。そして初めて嗅いだ陰部の匂いと、酸味の強い陰部の味。それらが強烈にフラッシュバックし、激しく上下に動くペニスの摩擦とリンクした。
「あぁぁ、出そうです……」
洋司は今にも泣き出しそうな情けない表情で呟いた。
「いいよ、いっぱい出して、私のお口を私のオマンコだと思っていっぱい出して」
いきなり、フジテレビのアナウンサーのような清楚な女の口から『オマンコ』などという卑猥な用語を聞かされた洋司は、再び脳を破壊された。
凄まじい快感が尿道を通り過ぎて行った。「はうっ!」というスタッカートな唸り声をあげ、大量の精液を女に目掛けて噴射した。それは、大きく開いた女の口ではなく、敢えて、わざと、女の鼻や目を目掛けて噴射してやったのだった。
いきなり顔にぶっかけられた女は、慌てて「うっ!」と目を閉じた。
女のその被虐的な表情を見た瞬間、突然、洋司の中の凶暴性がムラッと燃え上がった。
「なにがオマンコだこの野郎……」
突然、巻き舌でそう吐き捨てた洋司は、いきなり女の髪を乱暴に鷲掴みした。
「えっ?」と目を丸くして驚く女の口内に、強引にペニスを突き刺すと、そのまま問答無用で女の口の中にペニスを動かした。
「ヤリマンヤリマンヤリマンの糞女め……低学歴で低所得のゴミ女め……キサマのような社会不要者はこの場で殴り殺してやろうか……」
壊れた洋司は、女の口にペニスをピストンさせながら、まるで呪詛するかのようにブツブツと呟いた。
女はそんな洋司に恐怖を感じたのか、精液で汚れた顔のまま素直に洋司のペニスを、じゅぶ、じゅぶ、とイヤらしい音を立てながら喉奥までしゃぶり始めた。
初めてのフェラチオだった。
しかし、イッたばかりの亀頭は異常に敏感で、せっかくのフェラ初体験を強烈にくすぐったいものにしてしまった。
そんなくすぐったさの中、洋司はふと冷静さを取り戻した。そして背筋をゾッとさせながら、改めて精液だらけの女の顔をまじまじと見下ろした。
とたんに恐怖に襲われた。同時に激しい罪悪感が洋司を包み込む。
(この女はもう二度と僕と会ってはくれないだろうな……)
そう思うと、なんだか無性に悲しくなって来たのだった。
—7—
塾の玄関を一歩出ると、大通りを走り抜ける車の騒音と、そこに漂う濃厚な排気ガスが一気に襲い掛かって来た。ヌルッと生温かい都会の夜風に、ゆっくりと背を押されるように歩き出すと、背後から聞こえて来た茂野の声が洋司を呼び止めた。
振り向くと、塾の玄関から大勢の受験生達が堰を切ったようにドッと溢れ出すのが見えた。そんなシーンが、ふと、カマキリの幼虫が卵から孵化するシーンに見えた洋司は、一刻も早くこの場を立ち去りたいという衝動に駆られたのだった。
早足で歩き始めた洋司の隣りに、「模擬試験、どうだった?」と呟きながら並ぶ茂野。
歩道に散らばる他塾の生徒募集のちらしを踏みしめながら、「全くダメだったよ……」と洋司が呟くと、ポケットに手を突っ込んだ茂野は「俺は、今回は結構イケてると思う」と自慢げに笑った。
洋司はそれに答えぬまま歩道を見つめながらひたすら歩いた。
ついさっき、塾の先生から『東大なんて絶対無理』と駄目押しされた洋司の模擬試験は、実に無残なものだった。テスト用紙を睨みながら、これもダメ、これもわからない、と問題を飛ばし飛ばししていたら、結局、ほとんどできなかった。恐らく、今回の模擬試験は過去最悪の結果が出る事だろう。
(それもこれも、全ておまえのせいだ……)
そう思いながら、隣りで鼻歌を唄う茂野を横目で見た。
(……きっと全てこいつが仕組んだ罠だったんだ。中間テストの前日にエロ動画のアドレスを教えて来たのも、模擬試験を前にしたこの大事な時に手コキ姫の情報を僕に流したのも、それもこれも一人でも東大志望のライバルを消す為の、緻密で卑怯な作戦だったんだ……)
おもいきり叫び出したいくらいに悔しかった。今までテレビも漫画もゲームもオナニーも全て我慢してきた僕の過酷な青春時代をおまえは台無しにしてくれたんだ! と、茂野の胸ぐらを掴みながら叫んでやりたいと本気でそう思った。
沸々と沸き上がる怒りに、荒い鼻息をフーフーと吐きながら歩いていると、不意に茂野が歩調を弱めた。
「俺、今日は新開塾に行こうと思ってんだけど、洋ちゃんはどこ行くの?」
茂野はそう言いながら、新開塾へ繋がる歩道の角で足を止めた。東大を目指す洋司や茂野は、二十四時間体勢で数校の塾の掛け持ちをしていたのだ。
洋司はソッと腕時計を見た。時刻は十一時半。そろそろ例のショータイムが始まる時間だと、ずれたメガネを直しながらふと思った。
茂野はそんな洋司に小さな溜息を漏らすと、一分一秒でも時間が惜しいといった感じで、「じゃあ、取りあえず先に行くね」と笑顔と共に歩道の角を曲り始めた。
「あっ、ちょっとシゲちゃん」
洋司は無意識に茂野を呼び止めた。「ん?」と振り返る茂野に歩み寄りながら、ポケットから携帯を取り出す。
携帯を開き、ピピピッと操作し、ニヤニヤと笑いながらその画面を茂野に向けた。
茂野は「なにこれ?」と呟きながら顔を斜めに傾け、ジッと画面を見つめた。
それは、河川敷の横にある『太陽の森公園』という巨大公園で、夜な夜な妻とのセックスを他人に見せつけている変態夫婦の画像だった。
一ヶ月前、牧野神社で手コキ姫を知ってしまった洋司は、それからというもの変態行為に明け暮れていた。あの日、あんな事を手コキ姫にしてしまったため、案の定、手コキ姫は二度と牧野神社に姿を現す事は無かった。手コキ姫が恋しくて堪らない洋司は、手コキ姫が出没しそうな怪しい場所を毎晩のように彷徨い歩いた。
そんな怪しい場所では、信じられないような行為が夜な夜な卑猥に繰り広げられていた。
深夜の河川敷を全裸で走り回る女や、児童公園のトイレで巨大なバイブを肛門に入れて悶える中年親父。ホームレスを相手にオナニーを見せつける老婆や、まるでラグビーをしているように、大勢で公園の広場を走り回りながら集団レイプしている大人たち。
そんな、今まで見た事も聞いた事も無いような世界が、今まで勉強ばかりに明け暮れていた洋司の知らない所で夜な夜な繰り広げられていたのだ。
そんな光景をひとつひとつ目撃していた洋司の世界感がたちまち変わった。
変態行為を繰り広げている大人たちは、皆、本当に楽しそうだった。全員がまさに人生をエンジョイしているといった嬉しそうな表情をしていた。少なくとも、卵から孵化するカマキリの幼虫のようなあいつらよりは、人生を上手に楽しんでいると思った。
そんな彼らは、恐らくロクな大学には行っていないだろう。もしかしたら高卒、いや、中卒のやつも大勢いるのではないか。間違ってもこいつらは東大なんて夢にも考えていなかった奴らなんだきっと、と、激しくそう思うと、今まで洋司の頭の中でぎっしりと固まっていた何かが、突然バチン! と音をたてて弾けてしまったのだった。
洋司の知らないその世界は極楽そのものだった。ありとあらゆる変態達が素直にその性癖を曝け出してはゴクリと呑み込む。まさにそこは愛と欲望が渦巻く極楽レストランなのである。
「この写真の奥さん……米倉涼子にそっくりなんだ……」
そう囁きながら洋司は茂野の横顔をソッと覗き込んだ。
「……これ、サイトからパクったの?……」
茂野は平然とした表情で「ふぅ〜ん」と頷きながらそう聞いた。
「違うよ。この夫婦は変態でさぁ、毎晩『太陽の森公園』でセックスしてる所をみんなに見せてるんだよ……」
洋司の言葉に、一瞬茂野は「えっ?」と驚きながら、今度は興味深くまじまじと画像を凝視した。
「僕さぁ、この間、この奥さんにセックスさせてもらったんだ……ふふふふ……二回とも中出ししちゃった」
茂野はギョッとしながら洋司を見つめると「性病とか大丈夫なの?」と声を裏返しながら呟いた。
「性病なんて絶対に大丈夫だよ。だってこの夫婦、二人とも聖路加病院の医師なんだもん。……ふふふふっ……旦那さんは早稲田で、奥さんは東大出だってさ」
洋司はデタラメを言った。確かこの夫婦は生活保護を受けながらパチンコに狂う無職夫婦で、奥さんは米倉涼子どころか東野幸治にそっくりだった。
しかし、そんなデタラメでも茂野の目はキラリと光った。その光りを見た洋司は、やっぱり茂野の頭にも、何かわからない物がぎっしりと詰まっては石のように固くなっているのだろうと思った。
そんな頭の中の忌々しい塊を、茂野の頭からも消去してやろう、と、そう思った洋司は携帯をパタンと閉じながら呟いた。
「たまには息抜きでもしてみる?」
再び茂野の目がキラリと光った。
そんな茂野の目の輝きを見つめながら、また一人、東大志願の脱落者が増えたな、と思うと、なんだかとってもスッキリした気分に包まれた。
「さぁ、行こっ」
洋司が笑うと、茂野は恥ずかしそうな笑みを浮かべながら洋司の顔を見上げた。
東大なんて苦労して入った所で、一度電車で女子高生の尻を触ればそれまでさ。たった一度の過ちで全てが水の泡になるなんて、なんとくだらない世界なんだ。
そんな世界なんて糞っくらえだ。
でも、もう何も心配しなくていいよ。そんなつまらない世界よりも、僕がとってもハッピーな世界へキミを連れて行ってあげる。
さぁ、行こう。僕達の極楽レストランへ。
(手コキ姫・完)