タコ部屋の自慰(後編)
2011/08/19 Fri 10:35
押入れの襖を閉めるといきなり真っ暗になった。しかし、襖の所々が破れているため、その破れた穴から部屋の灯りがそそぎ込み、そこに押し込められる薄汚れた布団の花柄がぼんやりと映し出されていた。
そんなカビ臭い押し入れの中で息を潜めていると、松沢の部屋のドアが静かに開かれる音が聞こえた。
破れた襖の隙間からは部屋を見渡す事が出来た。
玄関で黙ったまま立ち尽くしているのは、やはり社長の奥さんだった。奥さんは、中国人達が使用している奥の部屋を覗き込むと、そのままカチッとドアの鍵を閉めた。
そんな鍵音を聞きながら、松沢はこの状況は何か変だと思い始めた。いくら寮とはいえ、誰もいない他人の部屋に勝手に忍び込み、そして鍵を閉めるなど、どう考えても尋常ではないのだ。
息を殺しながらその光景を見つめる松沢は、(何を企んでいるんだあの女は……)と、怪しい奥さんのその雰囲気に唯ならぬ気配を感じていたのだった。
ジャージ姿の奥さんは健康サンダルを静かに脱ぎ、恐る恐る部屋に上がり込んだ。畳んだままの木下の布団に背を凭れかけるようにして腰を下ろす。そんな奥さんの手には小さな手提げ袋が握られていた。
そんな不審な奥さんを襖の破れから見つめていた松沢は、奥さんがいったい何をしようとしているか全く検討もつかなかった。
しばらくぼんやりと座っていた奥さんだったが、しかし突然、何かを思い出したかのように松沢の布団の枕元に乱雑する雑誌を手に取った。
一冊見ては次の雑誌を手にし、それをパラパラと見てはまた別の雑誌を手にした。そんな奥さんを見て、何をしているんだ? と、松沢は押し入れの中で首を傾げた。それは、わざわざ部屋の鍵を閉めてまでする事ではなく、その光景はどう見ても変なのだ。
そんな奥さんが再び違う雑誌を手にした。しかし、今度の雑誌は、ソレまでの雑誌とは違い何やらじっくりと読んでいる。
そこで初めて松沢は「あっ」と気付いた。なんと、今奥さんが真剣に読んでいる雑誌は、昨日フィリピン人労働者から貰ったエロ本なのである。
松沢はそんな奥さんを見つめながらゆっくりと何度も頷いた。そして、いつもいつも俺のエロ本をこっそり盗み見していた犯人はこいつだったんだな、と小刻みに頷きながら、おもわずニヤリと微笑んだのであった。
しばらくの間、エロ本をじっくりと読んでいた奥さんだったが、しかし、雑誌を最後まで読み終えると、あるページを開いたまま雑誌を床に広げた。
松沢は亀のように首を伸ばしながら、開かれたそのページを覗き込んだ。そしてその開かれたページに映る写真を目にし、心臓が魚のように飛び跳ねた。
それは、荒縄で縛られた女が全身に真っ赤な蝋燭を垂らされ、そして男に性器を弄られているというSM写真だった。
奥さんはそんな卑猥なページを床に開き、そしてそれをジッと見つめたまま、ジャージの上から巨乳を弄り始めた。ジャージがガサガサと擦れる音に混じり、奥さんの荒い鼻息が聞こえ、松沢の股間を熱く刺激した。
奥さんは素早くジャージのジッパーを下ろした。なんと、ジャージの中は裸だった。大きな乳房に色素の薄い乳倫がタポタポと泳いでいた。奥さんはそんな大きな乳を鷲掴みにすると、「あぁぁ」っと野太い声を上げ、そのまま乳房を鷲掴みにする指で乳首をコロコロと転がした。
そんな乳房を鷲掴みする奥さんの手が、ゆっくりとジャージのズボンの中へと滑り落ちて行く。初めて女のオナニーをドキュメントで目撃してしまった松沢は、異常興奮しながらも、奥さんと同様、ズボンの股間へと静かに手を忍ばせた。
ズボンの中のペニスはビンビンに勃起していた。ゆっくりとズボンのボタンを外し、強烈に勃起するペニスを外気に触れさせた。亀頭の先からダラダラと我慢汁が溢れ、それはもはや中出し射精後のペニスのようにネトネトに濡れ輝いていた。
性器を剥き出しにした松沢の後を追うようにして、奥さんもジャージのズボンをスルスルと下ろし始めた。太ももがブヨブヨと波を打っていた。大きな尻がジャージのズボンからツルンっと零れ落ち、その肉付きの良い尻を覆う白いパンティーが曝け出された。松沢は、そんな奥さんの白いパンティーは、窓際にぶら下がっているレースのカーテンの柄によく似ていると不意にそう思った。
パンティー一枚の姿になった奥さんは、その肉付きの良すぎる醜い裸体を震わせながら、その場で大きく股を開いた。そして、広げた雑誌を見つめながらパンティーの中に手を忍び込ませた。
一瞬、「くちゅ」っという音が聞こえた気がした松沢は、その音が自分の性器から漏れた音なのか、それとも奥さんの性器から漏れた音なのかと心配になった。しかし、奥さんはそんな音を気にする事無く、パンティーの中の手をリズミカルにグリグリと動かす。しばらくすると、奥さんの股間から「くちゅ、くちゅ」という粘着性のある音が響き出すと、そこで初めてその音が奥さんのものであると知った松沢は、安心すると同時に更に欲情を強めた。
そんないやらしい奥さんの股間に釘付けされながら、松沢はペニスを静かにシゴいた。パンティーの中を這い回っている奥さんの指は、今、いったいどんな風に動いているのだろうかとアレコレと想像し、亀頭の裏を人差し指で激しく擦った。
すると、不意に奥さんの下着の股間部分にジンワリとシミが広がっているのが見えた。そんなシミを見つめながら、凄いぞ、これは凄いぞ、と何度も心の中で叫ぶ松沢は、急いでポケットの中から紫のパンティーを取り出し、そのシミ部分をクンクンと嗅ぎ出すと(きっとアソコもこれと同じニオイがするんだ……)と、その激臭に身を捩らせたのだった。
「はぁん、はぁん」といやらしく喘ぎまくる奥さんは、乳首をグリグリと指で摘み、パンティーの中でグチャグチャといやらしい音を立てながら、ゆっくりとその場で四つん這いになった。腹の脂肪と巨乳がダラリと垂れ、なんとも醜い光景だった。
奥さんは四つん這いになりながら、犬のようにノソノソと歩き出し、松沢の敷きっぱなしの布団の上で静かに止まった。そしていきなり布団の枕元に置いてあった松沢のボストンバッグのジッパーを乱暴に開けると、その中を漁り始めた。
(あの野郎……勝手に人のボストンバッグを何してやがんだ……)
どうせ金目の物は入ってないから大丈夫だろうと安心しながらも、奥さんのその不審な行動をジッと見つめていた松沢だったが、しかし奥さんがボストンバッグの中から摘まみ上げたそのモノを見て、おもわず驚愕してしまった。
それはなんと松沢の使用済みブリーフだった。しかもそれは、一週間履き続けた後に先日やっと履き替えたという強烈に汚れたブリーフで、そのブリーフの股間の部分には、小便の黄色いシミとセンズリによって付着したパリパリの精液のカスが魑魅魍魎と蠢いているという激臭な物だった。
そんな汚れたブリーフをジロジロと見ていた奥さんは、なんとその黄色く広がる股間のシミに鼻を近づけ、クンクンと匂いを嗅ぎ始めた。
(やめろ……やめてくれ……)
強烈な羞恥心に包まれながらも、松沢も負けずに奥さんの激臭パンティーのシミを嗅いだ。
奥さんはブリーフの匂いを嗅ぎながら、「あぁぁん、ダメ」などと呻き、そして四つん這いのままパンティーをスルスルと下ろし始めた。
「ヤダぁ、ダメよ、社長にバレちゃうわ……」
そう喘ぐ奥さんは、松沢の布団の上に仰向けになって寝転がると、松沢のブリーフを鼻に押し付けながら、大きく股を開いた。
松沢のすぐ目の前で、奥さんのヌルヌルに濡れたワレメがグニャリと口を開いた。それは思っていた以上に綺麗なオマンコで、ほんのりとドス黒いビラビラに囲まれたその中心には、ピンク色に輝く小さな穴がタラタラと光り輝いていた。
奥さんは、そんなワレメにヌルヌルと指を這わせながら、ブリーフのシミに舌を伸ばしてはソレをペロペロと舐め始めた。
目の前で自分のブリーフを舐められる松沢は、まるでフェラチオされているような感覚に陥った。奥さんの赤い舌がブリーフを這い回る度に、その舌がペニスに絡み付いているような錯覚に陥った松沢は、奥さんのその舌の動きに合わせて人差し指を動かし、我慢汁でヌルヌルになった亀頭を刺激していたのだった。
そんな奥さんの喘ぎ声が激しくなって来た。誰もいないタコ部屋に忍び込み、その男臭い密室で全裸となってこっそりオナニーする奥さん。その光景はなんとも官能的であり、反面、本能を剥き出した野性的でもあった。
(あのヌルヌルになった穴の中にコレを入れたい……)
松沢は何度も何度もそう思いながら勃起するペニスをシゴいた。奥さんはブスで三十路でスタイルも悪いが、しかし、セックスをする分に置いては十分な女だと思った。面倒臭い前戯もなしに、そのままいきなりヌルッとペニスを挿入させ、コキコキと激しく腰を動かしてはそのままあのヌルヌルの穴の中に中出ししてしまいたい。そんな欲望に駆られながら、松沢は押入れの襖から覗きながらペニスをシゴいていた。
そうしていると、奥さんは松沢の布団の上でのたうち回りながらも、持って来た小さな手提げ袋に手を伸ばした。そして、「あぁぁん、ダメぇん」などと一人でヨガりながら、その手提げ袋の中からイボ付きのバイブを取り出した。
それはまさに完全犯罪とも呼べるべく用意周到さだった。ポッカリと口の開いた手提げ袋の中には、そのイボ付きバイブ以外にも、生々しい色形をしたディルドやピンクローター、それに皮手錠や赤いロープといったSMグッズが入っているのが見えた。
奥さんはそんなバイブにいきなりしゃぶり付いた。バイブを銜えながら「んんん……」と唸り、そして口内にゆっくりとそれを上下させてはびしょびしょに濡れたオマンコを指で激しく擦った。
そんな奥さんの卑猥な姿を見て松沢は妄想した。このまま襖をガサッと開け、素早く奥さんの枕元にしゃがんでは奥さんの目の前にペニスを付き出せば……きっと奥さんは無我夢中でコレにしゃぶりつくだろう。
そんなシーンを妄想しながら、本当にそうしてみようか? と、ふと本気でそう考える。が、しかし、以前木下が言っていた言葉をふいに思い出した。前妻と肉体関係を持ち、挙げ句に駆け落ちしてしまったタコ部屋の人夫を千葉の現場で偶然見かけた事があったが、その人夫の右目はタコヤキ鉄板のように綺麗に目玉がくり抜かれていたよ……と。
そんな木下の言葉を思い出した松沢はゾクっと身震いした。社長の怖さを十分に知り尽くしている松沢には、それをするだけの度胸など到底ない。
そう考えると、この押入れのノゾキというのは、気の小さな松沢にとっては最高の穴場だった。このカビ臭い押し入れの中から奥さんの卑猥なシーンを覗き、そして自慰をする。スリリングでありながらも安全で、しかも何よりも無料という所が有り難い。
このままでいい。ここは最高のノゾキ部屋だ。と松沢は思った。だから明日からはもっと悩殺的なエロ本を仕入れておいてやろう。そうだ、奥さんはSMが好みらしいからソレ系のエロ本をバス停の前の古本屋から大量に買って来よう。あと、俺のブリーフも強烈な奴を用意しておかなきゃな。うん。股間部分に大量の精液をネトネトに付着させたヤツとか、あと、使用済みコンドームの中にたっぷりと原液を溜めたのをゴミ箱の中にわざとらしく捨てておくってのもいいかも知れないぞ……。
そんな事を考えながら、明日からのオナニーライフにワクワクと胸を躍らせていると、ふいに奥さんが「あぁぁん」と声を上げた。
口内からバイブを抜き取った奥さんは、その唾液でテラテラと輝くバイブをゆっくりと股間に滑らせて行った。
そして太ももをM字に開き、グロテスクなワレメを大きく開かせるとソコにバイブの先をクネクネと這い回らせた。
「あぁぁん、ダメ、入れちゃダメ、あの人に叱られる」
きっと奥さんは浮気を妄想しているのだろう、そんな言葉を吐きながら、バイブをメリメリとワレメに食い込ませて行く。
「ダメぇ! ヤメて! いや! あぁぁぁ!」
そう叫ぶ間に、バイブは根元までスッポリと押し込まれていた。そしてそれをリズミカルにスポスポと出し入れさせながら、「ふん! ふん!」と大きな鼻息を吐き、腰を小刻みに震わす。
「あぁぁん、固いわぁ! 凄い! 大っきいわぁ!」
そう叫ぶ奥さんの股間からは、ぷちゅ、くちゃ、ぽちょ、ぷちゅ、といういやらしい音が響いていた。松沢は、ワレメのビラビラが巨大なバイブをズッポリと包み込むのを真剣に見つめながら、(旦那がインポな女にとって、このバイブというヤツはまさに救世主なんだろうな……)と、バイブで喘ぎまくる奥さんに感情移入した。
バイブを握る奥さんの手の動きが早くなるにつれ、松沢のペニスをシゴく手も早くなった。ヌポヌポとピストンされるバイブを自分のペニスだと思いながら、そのリズムに合わせてペニスをシゴく。今までにない快感が、松沢の生殖器と脳にビンビンと響く。
「あぁぁ! ダメ! イキそう! あぁぁんイっちゃう!」
そんな叫び声と共に奥さんの大根足がピーンっと伸びた。そんなシーンを見つめながら、松沢も発射準備に入る。
「あぁぁ! あぁぁ! 一緒に! 一緒に!」
松沢は奥さんの叫びに頷きながら、ペニスをシゴきよりハードにした。
「中で出して! 中にいっぱい出してぇ!」
松沢は慌てて紫のパンティーをペニスに被せた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶叫に近い叫びを聞きながら、松沢は紫のパンティーの中にドクドクと精液を放出した。
あぁ……奥さん……あぁ……奥さんのオマンコの中にいっぱい出たよ……ほら、見てごらん……
そう心で呟きながら、ペニスに被せていた紫のパンティーをゆっくりと開いた。奥さんの分泌物と自分の精液が残酷に混じり合っていた。溜った精液がパンティーの隙間からトロッと溢れ出し、松沢の指を生温かく濡らす。
奥さんは松沢の布団の上でハァハァと大きく身体を揺らしていた。
そして再び手提げ袋に手を伸ばすと、中から黒い皮手錠を取り出し、「今度は縛ってバックから入れてぇ」と独り言を呟きながら自分の手にそれを装着し始めた。
そんな光景を盗み見している松沢は、焦ってイってしまった事に激しく後悔した。今から、もっともっと変態オナニーが見れたのに、と悔みながら、精液の滴るペニスをそっと見つめると、なんとペニスは未だ衰える事を知らずビンビンに勃起していた。
まだイケるか? と問いながらペニスをシゴいてみた。亀頭部分にくすぐったさを感じながらも、しかしそれなりに快感は伝わって来た。
よし。イケそうだぞ。とネトネトのペニスをガッシリ握りながら、押し入れの中で静かに作業服を脱ぎ全裸となった。
(裸のほうが雰囲気が出るぜ……)
そう笑いながら再び襖の向こうに目をやった。
両手に皮手錠を嵌めた奥さんが四つん這いになっていた。大きな尻の真ん中にバイブがすっぽりと突き刺さり、それがヴィンヴィンヴィンヴィンと官能的に身をくねらせていた。
そんな奥さんの卑猥なオナニーを押し入れの中から見つめる松沢は、ふと、今日が自分の三十六才の誕生日だという事に気付いた。が、しかしすぐに「だからどうした」という気分に包まれ、そのまま精液だらけのペニスをクチャクチャとシゴき始めた。
「あぁぁん! ダメぇん! あの人に見つかっちゃうわ! ヤメてぇん!」
奥さんはバイブを激しくピストンさせながら絶叫する。
と、その時、いきなり寮のドアが「ガゴゴゴン!」と凄まじい音を立てた。そして同時に「開けろ!コラぁ!」という怒声が響く。
その怒声は明らかに社長の声だった。奥さんの絶叫に近い喘ぎ声を聞いた社長は、奥さんが浮気をしていると勘違いしたのか、鍵の閉まったドアをガンガンと蹴り上げ、遂にそのドアを蹴破ってしまった。
玄関でハァハァと肩を揺らしながら仁王立ちになる社長は、全裸で布団に横たわる奥さんを見るなり「キサマぁ……よくも浮気しやがったな……」と、怒り狂った土佐犬のような顔で睨んだ。
「ち、違うのよアンタ!」
奥さんは股をM字に開いたままの姿勢で、必死に事情を説明しようとしている。が、しかし、この状況では何をどう説明した所で、素直に信用して貰えるわけはない。
そんな状況を押入れの襖の穴から覗いていた松沢は、(こりゃあ奥さん、疑われても仕方ないべ……)と、ニヤニヤ笑いながらそんな奥さんを同情する。
「男はどこだ!」
そう怒鳴りながら社長は土足のまま寮に入って来た。
「あんた、違うのよ、これは私が勝手に……」
そう言いながら縋り付く奥さんを「うるせぇ!」と突き放し、社長は部屋中をキョロキョロと見回した。
その時、押し入れの中から覗いていた松沢は、そんな社長と一瞬目が合った気がした。
(こ、これは……マズいぞ……)
松沢がそう思った瞬間、社長は作業ズボンから銀色に光るスパナを取り出し、「押入れに隠れてんのかぁ!」と怒鳴りながら押入れに向かってドスドスと向かって来た。
「あわ、あわ、あわ……」
松沢は狼狽えた。松沢は全裸で、しかもそのチンポには奥さんの紫のパンツが巻き付いたままなのだ。
ガラガラガラ!と、もの凄い勢いで襖が開けられた。
スパナを握りしめた社長が逆光で照らされていた。
「松沢……覚悟しろよ……」
そう唸る社長が握るスパナをゆっくりと振り上げた。
その瞬間、再び松沢の脳裏に、そう言えば今日は俺の三十六才の誕生日だったんだ、と、淋しい嘆きがふと過ったのであった。
(タコ部屋の自慰・終)
そんなカビ臭い押し入れの中で息を潜めていると、松沢の部屋のドアが静かに開かれる音が聞こえた。
破れた襖の隙間からは部屋を見渡す事が出来た。
玄関で黙ったまま立ち尽くしているのは、やはり社長の奥さんだった。奥さんは、中国人達が使用している奥の部屋を覗き込むと、そのままカチッとドアの鍵を閉めた。
そんな鍵音を聞きながら、松沢はこの状況は何か変だと思い始めた。いくら寮とはいえ、誰もいない他人の部屋に勝手に忍び込み、そして鍵を閉めるなど、どう考えても尋常ではないのだ。
息を殺しながらその光景を見つめる松沢は、(何を企んでいるんだあの女は……)と、怪しい奥さんのその雰囲気に唯ならぬ気配を感じていたのだった。
ジャージ姿の奥さんは健康サンダルを静かに脱ぎ、恐る恐る部屋に上がり込んだ。畳んだままの木下の布団に背を凭れかけるようにして腰を下ろす。そんな奥さんの手には小さな手提げ袋が握られていた。
そんな不審な奥さんを襖の破れから見つめていた松沢は、奥さんがいったい何をしようとしているか全く検討もつかなかった。
しばらくぼんやりと座っていた奥さんだったが、しかし突然、何かを思い出したかのように松沢の布団の枕元に乱雑する雑誌を手に取った。
一冊見ては次の雑誌を手にし、それをパラパラと見てはまた別の雑誌を手にした。そんな奥さんを見て、何をしているんだ? と、松沢は押し入れの中で首を傾げた。それは、わざわざ部屋の鍵を閉めてまでする事ではなく、その光景はどう見ても変なのだ。
そんな奥さんが再び違う雑誌を手にした。しかし、今度の雑誌は、ソレまでの雑誌とは違い何やらじっくりと読んでいる。
そこで初めて松沢は「あっ」と気付いた。なんと、今奥さんが真剣に読んでいる雑誌は、昨日フィリピン人労働者から貰ったエロ本なのである。
松沢はそんな奥さんを見つめながらゆっくりと何度も頷いた。そして、いつもいつも俺のエロ本をこっそり盗み見していた犯人はこいつだったんだな、と小刻みに頷きながら、おもわずニヤリと微笑んだのであった。
しばらくの間、エロ本をじっくりと読んでいた奥さんだったが、しかし、雑誌を最後まで読み終えると、あるページを開いたまま雑誌を床に広げた。
松沢は亀のように首を伸ばしながら、開かれたそのページを覗き込んだ。そしてその開かれたページに映る写真を目にし、心臓が魚のように飛び跳ねた。
それは、荒縄で縛られた女が全身に真っ赤な蝋燭を垂らされ、そして男に性器を弄られているというSM写真だった。
奥さんはそんな卑猥なページを床に開き、そしてそれをジッと見つめたまま、ジャージの上から巨乳を弄り始めた。ジャージがガサガサと擦れる音に混じり、奥さんの荒い鼻息が聞こえ、松沢の股間を熱く刺激した。
奥さんは素早くジャージのジッパーを下ろした。なんと、ジャージの中は裸だった。大きな乳房に色素の薄い乳倫がタポタポと泳いでいた。奥さんはそんな大きな乳を鷲掴みにすると、「あぁぁ」っと野太い声を上げ、そのまま乳房を鷲掴みにする指で乳首をコロコロと転がした。
そんな乳房を鷲掴みする奥さんの手が、ゆっくりとジャージのズボンの中へと滑り落ちて行く。初めて女のオナニーをドキュメントで目撃してしまった松沢は、異常興奮しながらも、奥さんと同様、ズボンの股間へと静かに手を忍ばせた。
ズボンの中のペニスはビンビンに勃起していた。ゆっくりとズボンのボタンを外し、強烈に勃起するペニスを外気に触れさせた。亀頭の先からダラダラと我慢汁が溢れ、それはもはや中出し射精後のペニスのようにネトネトに濡れ輝いていた。
性器を剥き出しにした松沢の後を追うようにして、奥さんもジャージのズボンをスルスルと下ろし始めた。太ももがブヨブヨと波を打っていた。大きな尻がジャージのズボンからツルンっと零れ落ち、その肉付きの良い尻を覆う白いパンティーが曝け出された。松沢は、そんな奥さんの白いパンティーは、窓際にぶら下がっているレースのカーテンの柄によく似ていると不意にそう思った。
パンティー一枚の姿になった奥さんは、その肉付きの良すぎる醜い裸体を震わせながら、その場で大きく股を開いた。そして、広げた雑誌を見つめながらパンティーの中に手を忍び込ませた。
一瞬、「くちゅ」っという音が聞こえた気がした松沢は、その音が自分の性器から漏れた音なのか、それとも奥さんの性器から漏れた音なのかと心配になった。しかし、奥さんはそんな音を気にする事無く、パンティーの中の手をリズミカルにグリグリと動かす。しばらくすると、奥さんの股間から「くちゅ、くちゅ」という粘着性のある音が響き出すと、そこで初めてその音が奥さんのものであると知った松沢は、安心すると同時に更に欲情を強めた。
そんないやらしい奥さんの股間に釘付けされながら、松沢はペニスを静かにシゴいた。パンティーの中を這い回っている奥さんの指は、今、いったいどんな風に動いているのだろうかとアレコレと想像し、亀頭の裏を人差し指で激しく擦った。
すると、不意に奥さんの下着の股間部分にジンワリとシミが広がっているのが見えた。そんなシミを見つめながら、凄いぞ、これは凄いぞ、と何度も心の中で叫ぶ松沢は、急いでポケットの中から紫のパンティーを取り出し、そのシミ部分をクンクンと嗅ぎ出すと(きっとアソコもこれと同じニオイがするんだ……)と、その激臭に身を捩らせたのだった。
「はぁん、はぁん」といやらしく喘ぎまくる奥さんは、乳首をグリグリと指で摘み、パンティーの中でグチャグチャといやらしい音を立てながら、ゆっくりとその場で四つん這いになった。腹の脂肪と巨乳がダラリと垂れ、なんとも醜い光景だった。
奥さんは四つん這いになりながら、犬のようにノソノソと歩き出し、松沢の敷きっぱなしの布団の上で静かに止まった。そしていきなり布団の枕元に置いてあった松沢のボストンバッグのジッパーを乱暴に開けると、その中を漁り始めた。
(あの野郎……勝手に人のボストンバッグを何してやがんだ……)
どうせ金目の物は入ってないから大丈夫だろうと安心しながらも、奥さんのその不審な行動をジッと見つめていた松沢だったが、しかし奥さんがボストンバッグの中から摘まみ上げたそのモノを見て、おもわず驚愕してしまった。
それはなんと松沢の使用済みブリーフだった。しかもそれは、一週間履き続けた後に先日やっと履き替えたという強烈に汚れたブリーフで、そのブリーフの股間の部分には、小便の黄色いシミとセンズリによって付着したパリパリの精液のカスが魑魅魍魎と蠢いているという激臭な物だった。
そんな汚れたブリーフをジロジロと見ていた奥さんは、なんとその黄色く広がる股間のシミに鼻を近づけ、クンクンと匂いを嗅ぎ始めた。
(やめろ……やめてくれ……)
強烈な羞恥心に包まれながらも、松沢も負けずに奥さんの激臭パンティーのシミを嗅いだ。
奥さんはブリーフの匂いを嗅ぎながら、「あぁぁん、ダメ」などと呻き、そして四つん這いのままパンティーをスルスルと下ろし始めた。
「ヤダぁ、ダメよ、社長にバレちゃうわ……」
そう喘ぐ奥さんは、松沢の布団の上に仰向けになって寝転がると、松沢のブリーフを鼻に押し付けながら、大きく股を開いた。
松沢のすぐ目の前で、奥さんのヌルヌルに濡れたワレメがグニャリと口を開いた。それは思っていた以上に綺麗なオマンコで、ほんのりとドス黒いビラビラに囲まれたその中心には、ピンク色に輝く小さな穴がタラタラと光り輝いていた。
奥さんは、そんなワレメにヌルヌルと指を這わせながら、ブリーフのシミに舌を伸ばしてはソレをペロペロと舐め始めた。
目の前で自分のブリーフを舐められる松沢は、まるでフェラチオされているような感覚に陥った。奥さんの赤い舌がブリーフを這い回る度に、その舌がペニスに絡み付いているような錯覚に陥った松沢は、奥さんのその舌の動きに合わせて人差し指を動かし、我慢汁でヌルヌルになった亀頭を刺激していたのだった。
そんな奥さんの喘ぎ声が激しくなって来た。誰もいないタコ部屋に忍び込み、その男臭い密室で全裸となってこっそりオナニーする奥さん。その光景はなんとも官能的であり、反面、本能を剥き出した野性的でもあった。
(あのヌルヌルになった穴の中にコレを入れたい……)
松沢は何度も何度もそう思いながら勃起するペニスをシゴいた。奥さんはブスで三十路でスタイルも悪いが、しかし、セックスをする分に置いては十分な女だと思った。面倒臭い前戯もなしに、そのままいきなりヌルッとペニスを挿入させ、コキコキと激しく腰を動かしてはそのままあのヌルヌルの穴の中に中出ししてしまいたい。そんな欲望に駆られながら、松沢は押入れの襖から覗きながらペニスをシゴいていた。
そうしていると、奥さんは松沢の布団の上でのたうち回りながらも、持って来た小さな手提げ袋に手を伸ばした。そして、「あぁぁん、ダメぇん」などと一人でヨガりながら、その手提げ袋の中からイボ付きのバイブを取り出した。
それはまさに完全犯罪とも呼べるべく用意周到さだった。ポッカリと口の開いた手提げ袋の中には、そのイボ付きバイブ以外にも、生々しい色形をしたディルドやピンクローター、それに皮手錠や赤いロープといったSMグッズが入っているのが見えた。
奥さんはそんなバイブにいきなりしゃぶり付いた。バイブを銜えながら「んんん……」と唸り、そして口内にゆっくりとそれを上下させてはびしょびしょに濡れたオマンコを指で激しく擦った。
そんな奥さんの卑猥な姿を見て松沢は妄想した。このまま襖をガサッと開け、素早く奥さんの枕元にしゃがんでは奥さんの目の前にペニスを付き出せば……きっと奥さんは無我夢中でコレにしゃぶりつくだろう。
そんなシーンを妄想しながら、本当にそうしてみようか? と、ふと本気でそう考える。が、しかし、以前木下が言っていた言葉をふいに思い出した。前妻と肉体関係を持ち、挙げ句に駆け落ちしてしまったタコ部屋の人夫を千葉の現場で偶然見かけた事があったが、その人夫の右目はタコヤキ鉄板のように綺麗に目玉がくり抜かれていたよ……と。
そんな木下の言葉を思い出した松沢はゾクっと身震いした。社長の怖さを十分に知り尽くしている松沢には、それをするだけの度胸など到底ない。
そう考えると、この押入れのノゾキというのは、気の小さな松沢にとっては最高の穴場だった。このカビ臭い押し入れの中から奥さんの卑猥なシーンを覗き、そして自慰をする。スリリングでありながらも安全で、しかも何よりも無料という所が有り難い。
このままでいい。ここは最高のノゾキ部屋だ。と松沢は思った。だから明日からはもっと悩殺的なエロ本を仕入れておいてやろう。そうだ、奥さんはSMが好みらしいからソレ系のエロ本をバス停の前の古本屋から大量に買って来よう。あと、俺のブリーフも強烈な奴を用意しておかなきゃな。うん。股間部分に大量の精液をネトネトに付着させたヤツとか、あと、使用済みコンドームの中にたっぷりと原液を溜めたのをゴミ箱の中にわざとらしく捨てておくってのもいいかも知れないぞ……。
そんな事を考えながら、明日からのオナニーライフにワクワクと胸を躍らせていると、ふいに奥さんが「あぁぁん」と声を上げた。
口内からバイブを抜き取った奥さんは、その唾液でテラテラと輝くバイブをゆっくりと股間に滑らせて行った。
そして太ももをM字に開き、グロテスクなワレメを大きく開かせるとソコにバイブの先をクネクネと這い回らせた。
「あぁぁん、ダメ、入れちゃダメ、あの人に叱られる」
きっと奥さんは浮気を妄想しているのだろう、そんな言葉を吐きながら、バイブをメリメリとワレメに食い込ませて行く。
「ダメぇ! ヤメて! いや! あぁぁぁ!」
そう叫ぶ間に、バイブは根元までスッポリと押し込まれていた。そしてそれをリズミカルにスポスポと出し入れさせながら、「ふん! ふん!」と大きな鼻息を吐き、腰を小刻みに震わす。
「あぁぁん、固いわぁ! 凄い! 大っきいわぁ!」
そう叫ぶ奥さんの股間からは、ぷちゅ、くちゃ、ぽちょ、ぷちゅ、といういやらしい音が響いていた。松沢は、ワレメのビラビラが巨大なバイブをズッポリと包み込むのを真剣に見つめながら、(旦那がインポな女にとって、このバイブというヤツはまさに救世主なんだろうな……)と、バイブで喘ぎまくる奥さんに感情移入した。
バイブを握る奥さんの手の動きが早くなるにつれ、松沢のペニスをシゴく手も早くなった。ヌポヌポとピストンされるバイブを自分のペニスだと思いながら、そのリズムに合わせてペニスをシゴく。今までにない快感が、松沢の生殖器と脳にビンビンと響く。
「あぁぁ! ダメ! イキそう! あぁぁんイっちゃう!」
そんな叫び声と共に奥さんの大根足がピーンっと伸びた。そんなシーンを見つめながら、松沢も発射準備に入る。
「あぁぁ! あぁぁ! 一緒に! 一緒に!」
松沢は奥さんの叫びに頷きながら、ペニスをシゴきよりハードにした。
「中で出して! 中にいっぱい出してぇ!」
松沢は慌てて紫のパンティーをペニスに被せた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶叫に近い叫びを聞きながら、松沢は紫のパンティーの中にドクドクと精液を放出した。
あぁ……奥さん……あぁ……奥さんのオマンコの中にいっぱい出たよ……ほら、見てごらん……
そう心で呟きながら、ペニスに被せていた紫のパンティーをゆっくりと開いた。奥さんの分泌物と自分の精液が残酷に混じり合っていた。溜った精液がパンティーの隙間からトロッと溢れ出し、松沢の指を生温かく濡らす。
奥さんは松沢の布団の上でハァハァと大きく身体を揺らしていた。
そして再び手提げ袋に手を伸ばすと、中から黒い皮手錠を取り出し、「今度は縛ってバックから入れてぇ」と独り言を呟きながら自分の手にそれを装着し始めた。
そんな光景を盗み見している松沢は、焦ってイってしまった事に激しく後悔した。今から、もっともっと変態オナニーが見れたのに、と悔みながら、精液の滴るペニスをそっと見つめると、なんとペニスは未だ衰える事を知らずビンビンに勃起していた。
まだイケるか? と問いながらペニスをシゴいてみた。亀頭部分にくすぐったさを感じながらも、しかしそれなりに快感は伝わって来た。
よし。イケそうだぞ。とネトネトのペニスをガッシリ握りながら、押し入れの中で静かに作業服を脱ぎ全裸となった。
(裸のほうが雰囲気が出るぜ……)
そう笑いながら再び襖の向こうに目をやった。
両手に皮手錠を嵌めた奥さんが四つん這いになっていた。大きな尻の真ん中にバイブがすっぽりと突き刺さり、それがヴィンヴィンヴィンヴィンと官能的に身をくねらせていた。
そんな奥さんの卑猥なオナニーを押し入れの中から見つめる松沢は、ふと、今日が自分の三十六才の誕生日だという事に気付いた。が、しかしすぐに「だからどうした」という気分に包まれ、そのまま精液だらけのペニスをクチャクチャとシゴき始めた。
「あぁぁん! ダメぇん! あの人に見つかっちゃうわ! ヤメてぇん!」
奥さんはバイブを激しくピストンさせながら絶叫する。
と、その時、いきなり寮のドアが「ガゴゴゴン!」と凄まじい音を立てた。そして同時に「開けろ!コラぁ!」という怒声が響く。
その怒声は明らかに社長の声だった。奥さんの絶叫に近い喘ぎ声を聞いた社長は、奥さんが浮気をしていると勘違いしたのか、鍵の閉まったドアをガンガンと蹴り上げ、遂にそのドアを蹴破ってしまった。
玄関でハァハァと肩を揺らしながら仁王立ちになる社長は、全裸で布団に横たわる奥さんを見るなり「キサマぁ……よくも浮気しやがったな……」と、怒り狂った土佐犬のような顔で睨んだ。
「ち、違うのよアンタ!」
奥さんは股をM字に開いたままの姿勢で、必死に事情を説明しようとしている。が、しかし、この状況では何をどう説明した所で、素直に信用して貰えるわけはない。
そんな状況を押入れの襖の穴から覗いていた松沢は、(こりゃあ奥さん、疑われても仕方ないべ……)と、ニヤニヤ笑いながらそんな奥さんを同情する。
「男はどこだ!」
そう怒鳴りながら社長は土足のまま寮に入って来た。
「あんた、違うのよ、これは私が勝手に……」
そう言いながら縋り付く奥さんを「うるせぇ!」と突き放し、社長は部屋中をキョロキョロと見回した。
その時、押し入れの中から覗いていた松沢は、そんな社長と一瞬目が合った気がした。
(こ、これは……マズいぞ……)
松沢がそう思った瞬間、社長は作業ズボンから銀色に光るスパナを取り出し、「押入れに隠れてんのかぁ!」と怒鳴りながら押入れに向かってドスドスと向かって来た。
「あわ、あわ、あわ……」
松沢は狼狽えた。松沢は全裸で、しかもそのチンポには奥さんの紫のパンツが巻き付いたままなのだ。
ガラガラガラ!と、もの凄い勢いで襖が開けられた。
スパナを握りしめた社長が逆光で照らされていた。
「松沢……覚悟しろよ……」
そう唸る社長が握るスパナをゆっくりと振り上げた。
その瞬間、再び松沢の脳裏に、そう言えば今日は俺の三十六才の誕生日だったんだ、と、淋しい嘆きがふと過ったのであった。
(タコ部屋の自慰・終)